【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で更新が続けられております。
 誤字報告も感謝です。感謝の極みです。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
 出て来る時はヌルッと、ほぼ別人になって登場します。悪しからず。

 リンジュ到着です。



幼刀・鈩

 住み慣れた王都を発ち、翼ある鹿の背に乗って大空を往く冬の旅。

 下を見れば森や畑や街道。上を向けば白い雲。青の濃い冬空には、柔らかな陽光が差していた。

 

 道中、ヘラジカドライブは実に快適だった。

 何たって走るのは地面ではなく空なのだ。坂道もトンネルも草原も走らなくていいし、信号止めや道路工事や渋滞だって存在しない。

 走行? いや飛行風はラザニアが何とかしてくれる訳で、俺やルクスリリア達の髪型に変化はなかった。

 

 それに、空の移動は道程じゃなく距離である。山や森や湖を迂回しなくていいのだ。地上でゴトゴト移動してる馬車にちょっと申し訳なくなるくらいのショートカットは、優越感というか特別感というかが凄かった。

 旅の風情は無いかもしれないが、これはこれで面白い。ラザニアも機嫌良さそうに走ってくれている。

 

「ステンバーイ、ステンバーイ……ゴゥッ!」

墜ちよ(・・・)……!」

「ビューティフォー……」

 

 たまに襲ってくる空の魔物もラザニアが殺してくし、デカい奴はエリーゼが流鏑馬めいて撃ち落とす。

 中には空飛ぶ巨大オクトパスがいたりもしたが、もう完全に的だった。エリーゼ砲とタコ墨ブレスの拮抗は一秒も持たず竜の勝利で幕を下ろしたものである。

 なお、迷宮外の魔物は倒しても何もドロップしないし、経験値も渋い模様。控えめに言ってクソだが、道中見かけたら殺しといてってギルドに言われたんだよな。義務とか命令じゃあないが。

 

「せめてあのタコが食える奴だったらなー。殺し切る前に味見なんかしたかったが」

「魔物は食べられないわよ」

「そうなの?」

「はい。魔物は狩猟しても死骸が消えてしまうので、肉を穫れないんです。生きてる魔物を食した記録はありますが、どんな魔物の肉でも食べた人は例外なく発狂して死んでしまうらしいです」

「ひえっ……怖いなー、とづまりすとこ」

「淫魔王国じゃタコはペットって感じッスね。食用のは見た事ないッス。吐く液も白いんで、初めてラリスのタコ見た時はビックリしたッス」

「ボクの村ではたまに滝壺蛸を食べていました。春になると滝を登りに来るので、それを狩るんです」

「タコねぇ、食べたいとは思えないわ……」

「日本には“たこ焼き”っていう酒に合う料理があるんだよな」

「あら、気になるわね……」

 

 なんて話してたら、あっと言う間にスタンプポイント都市に到着。

 オーライオーライの指示に従い滑走路に着陸し、さっさと街入ってギルドにスタンプ押してもらう。

 スタンプ確認は最短でも一時間以上はかかるので、その間に諸々を済ませておくのも忘れない。

 で、全て終わったら再出発。仲間は集まってないが次の街である。RTAみたいだ。

 

「あの雲、絶対中にラピュタあるな……」

聖輪郷(せいりんきょう)じゃない、初めてみたわ」

「せいりんきょう?」

「天使族の住処よ。雲の中にある砦に引きこもってて、他種族を見下ろしているの。怖いのね、ラリス王家や竜族達が」

「へー」

「穿った見方ッスねー」

「あれがジュスティーヌ様の……」

「あまり近づかない事ね。厄介事に巻き込まれるわ」

「あー、空域的な? うっかり入らないように気を付けないとな。少し離れよう」

「賢明ね。あと、天使族に話が通じるとは思わない事ね。竜族より弱いくせに、竜族よりも高慢で、自分の情緒を尊重されるべき正しい世界のルールだと思い込んでいる。自称、“世界の監視者”の集まりよ」

「なんかあったんスか?」

「客観的事実よ。歴史が証明しているわ」

「はい、まぁ……そうですね。ボクもジュスティーヌ様は素晴らしい方だと思いますが、他の天使族は……あまり良い描き方をされている書籍を見た事がありません」

「でも王都にいる天使族は普通の人って感じだけど。むしろ良い人寄り?」

「ああいうの、聖輪郷では“堕天使”って言うらしいわ。空の鳥籠にいる者は、地に憧れる同族を堕落した異端者と見なして排斥するのよ。とても、愚かしいわ……」

「それはまた……」

「うぅ、ちょっと怖いです……」

「まぁお陰で聖水風呂に入れるから良いじゃないッスか」

「そうね。天使族が作る果実酒は美味しいし」

「嫌ってる訳じゃないのか」

「嫌いになるほど興味が無いもの」

 

 という会話などしつつ、とんでもない速度――感覚的に時速100kmは間違いなく超えている――で次々スタンプラリーを埋めていく。

 とはいえ、夜の飛行は怖いので夕方前に街に入ってご宿泊。体力面では大丈夫なのだが、まぁそんな急ぐもんでもないし。

 

「あの人、リンジュの人かな?」

「商人の護衛ね」

 

 面白いもんで、リンジュに近づいていくと街には刀の使い手が増えていった。

 刀はいいねぇ、文化の極みだよ。何たってエルフが持っても獣人が持っても様になるんだもの。刀は誰が持っても格好良いのだ。

 さて、軽い観光などしつつ、リンジュに向かい再出発。

 

「ヴィンスでも思ったけど、いざ他の街行くと王都が如何に凄いか分かるよな」

「そりゃそうッスよ。アレクシストは世界一の国の首都なんスから。同じ国でも王都とそれ以外は別物ッス。もはや異世界ッス!」

「ボクもそうだと思います。王都には世界各地から色んな食べ物が集まってきますし、色々なものを組み合わせて新しい料理が生まれたりして、本当に凄いです」

「他の街の飯もまぁまぁイケるけど、やっぱ王都のが美味いよなぁ」

「野菜や果実は王都より地方の方が上だと思うのだけれど」

「はい。今朝食べた金の林檎、とても美味しかったです!」

「アレな、美味かったよなぁ」

「一個30万ルァレの黄金林檎をパクパク食べられるなんて、昔じゃ考えらんねぇッスわ」

「帰りは買い占めましょう」

 

 で、あっと言う間にリンジュの関所に到着。

 ラザニアから降りて、如何にも武士って感じの門番さんにスタンプラリーの紙を渡す。続いて冒険者証を提示して、しばらく後に通行OKが出た。

 通るのは俺と奴隷三人と守護獣なので、まぁまぁ高い通行料金を払う事になった。

 

「あの兵士、ご主人の事ジロジロ見てたッスね」

「リンジュでも黒髪黒目は珍しいのかな」

「それは知らないけれど、銀細工は警戒されるものよ。仕方のない事だわ」

「ボク達も警戒されていました……」

「そりゃ、奴隷がこんな装備着てりゃそうなるッスよ」

 

 関所を通り、リンジュに入っても空の旅は続く。

 平地や森の多いラリスに比べ、リンジュは小さい山が多い印象だ。高低差のある街道は馬車ではさぞキツい事だろう。

 

 下を見ると、山の間に小さな村や街が見える。山の上には砦なんかもあった。

 物見やぐらの兵士が旗を振っている。俺はラザニアにスピードダウンを命じ、さっきの手形を掲げて応じた。問題無しの旗が振られる。

 ゆるい気もするが、これでいい。異世界人は視力も高いのだ。

 

「次は何処行くんスか?」

「このまま首都に直行でいいってさ」

 

 スタンプラリーはおしまい。関所で貰った通行手形があるので、ラザニアは急行から特急にランクアップだ。

 とはいえだ。こうも山が多いとどっち行けばいいか分からなくなる。東に行くと目印が見つかるらしいが。

 

「あれじゃないッスか?」

「あ、ホントだ」

「ほえ~、アレが雲貫山……」

「リンジュの竜族はあそこの頂上に住んでいるのよ」

 

 ちょっと高めの山を越えると、遠くにクソデカマウンテンが見えた。

 パッと見、富士山に見える。テッペン周辺は白くなっていて、綺麗なおにぎり形だ。

 あれが首都行きの目印だ。俺達は富士山モドキに全速前進した。

 やがて、地上にこれまで見てきたリンジュの街とは規模の違う都を発見する事ができた。

 

「あれがリンジュの……」

 

 リンジュ共和国、首都カムイバラ。

 上から見ると、リンジュの首都は将棋盤のように整理された造りをしていた。

 それでいて、都の真ん中の山にはとても大きなお城がひとつ。高層ビルめいた五つの塔が、城を中心に五つ聳え立っている。

 まるで、カムイバラそのものが呪術儀式の場という印象を受けた。攻撃というより、守護系統の。

 

「お疲れー」

 

 門前の滑走路で降りて、積みロリを降ろしつつ改めて入口を見る。

 首都の周りには川が流れていて、門と都の間にはデッカい橋が架けられている。橋は単品で観光名所になりそうなくらい立派だった。

 門も橋も木製だが、そこに脆さや頼りなさは感じられず、むしろ下手な石材より頑丈そうだった。

 

「ラリス王国のイシグロ・リキタカさんですね。はい、手形も問題ありません。どうぞ、お通りください」

 

 十文字槍を持った門番に通行手形等を見せ、何事もなく通される。

 ラザニアを戻して橋を渡る。何となく河川を見下ろしながら渡っていいので橋の端を歩く。橋の真ん中ではクソデカ馬車やクソデカ牛車が往来していて、それだけで活気があるのが分かる。

 木製の進撃めいたクソデカ壁。その門を通れば、カムイバラ入りだ。

 

「おぉ……」

 

 リンジュの首都、カムイバラ。

 ファンタジー作品にありがちな“東の国”。

 そこは、万人がイメージするであろう「和」であった。

 

 几帳面に舗装された石畳に、瓦屋根の木造建築。

 大きな道の端には等間隔に桜っぽい木が植えられていて、冬なのに満開だ。しかもちょっと光っている。

 住民も古今東西の和のエレクトリカルパレードって感じで、着流しを着てる魔族や着物とコートとブーツというお正月JDファッションの人もいる。

 例によって種族も様々で、ラリスで見た事ない種族の人が沢山いた。アレは狸人? 熊人? 鼬人かな? 同じ種族に見えても、細かいトコ違ってたりする。レア種族の集まりって印象だ。

 髪型は、そんなに和っぽくないか。ちょんまげはいない。結ってる女性もいないな。もはや見慣れたものだが、例によってリンジュの人等も髪色がカラフルだ。

 そして、びっくりするくらい皆さん刀を佩いていらっしゃる。ラリスの剣ポジがそのまま刀になった感じだ。

 

「すごいな……」

 

 まるで、おかげ横丁と京都の観光名所と映画村を合体させて洋ゲーナイズドした後に日本人のオタクが監修してライトノベルテイストに仕上げたみたいな街である。

 和風ファンタジー異世界に来たみたいだぜ、テンション上がるなぁ。

 

「エリーゼ、あれなに? あの桜っぽい奴」

「ええ、鈴桜ね。リンジュの清浄樹よ。夜はもっと光るらしいわ、リンジュ国旗にも描かれている木よ」

「あれは何スか?」

「鈴カステラね。リンジュの名菓よ」

「あれは何でしょう?」

「まんじゅうね。中身は……色々あるみたいだけれど」

「「「エリーゼ、あれは?」」」

「あのねぇ……私は知っているだけで見た事はないのよ。何でもは知らないわ」

 

 リンジュにはラリスとは一味違う活気があった。

 王都アレクシストがカオスだとしたら、首都カムイバラはロウって印象だ。けれども法や規律でガチガチになってるという雰囲気はなく、人の流れが穏やかだ。

 飲食店の前には長椅子があり、そこでは銀細工の女子二人がお団子をあ~んさせ合って食べていた。かと思えば鋼鉄札の猫人忍者が屋根の上を疾走していて、鉄札の鴉人が空中で絵を描いていた。

 うん、王都よりは秩序があるな。

 

「おう! 銀細工の兄ちゃん! ちょっと寄ってきなよ!」

 

 あと、人の距離が近い。

 声をかけられた屋台に近づくと、河童っぽいおっちゃんがいた。

 

「アンタぁラリス人だろ? ならカムイバラ名物の焼き芋食ってかねぇと損だぜ! な? 金あんだろ? 買ってけ買ってけ!」

「焼き芋……じゃあ、四人分貰えますか」

「あいよ! 奴隷の分も買ってやるなんて良い主人だね! しょうがねぇなぁ五人分くれてやるよコラ!」

 

 そう言って紙にくるんだホクホクの焼き芋を渡してきた。お値段は妥当か。ぼったくられてる感はない。

 焼き芋は前世日本で見た焼き芋そのものだった。ハフハフする三人が可愛かった、まる。

 

「ザッケンナコラー!」

「スッゾオラー!」

 

 芋片手に歩いていると、広場の方で喧嘩勃発。まぁ王都じゃチャメシ・インシデントだったが、リンジュでもそうなのか。

 しかし、喧嘩といっても王都のソレとは雰囲気が違う。喧嘩前に罵り合ってる冒険者二人は武器を置いて、お行儀よくメンチビームなど撃ち合っていた。住民も住民で二人を囲って即席のリングを形成していた。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 それから、よーいドンで殴り合い。刃物を取り出す事もなく、二人は実に爽やかに殴り蹴りの暴行を加え合っていた。

 喧嘩というより、試合である。王都だったら今頃剣持ち出してる。

 

「ザッケンナコラグワーッ!」

 

 やがて冒険者の一人が倒れると、周囲の住民が勝者を称え、敗者に回復魔法をかけてやっていた。

 なんかスポーティである。血が出ない喧嘩とか久しぶりに見た。

 

「おうそこの! お前よそ者か! 何見てんだコラァ!」

 

 観戦していると、リングにいた勝者が俺を指差して喧嘩を売ってきた。周囲の住民も俺を見てくる。あ、これ知ってる。「舐められたら終わり」の奴だ。

 

「喧嘩売られてます?」

「分かんねぇか? ラリスもんに舐められんのは御免なんでな! もちろん買ってくれるよなぁ!?」

 

 相手は銀細工か。種族は人間。武器は槍だったな。鎧は着たままで、さっきの見るに格闘技の経験はなさそう。

 まあ、やれるっちゃあ、やれるでしょうね。

 

「承りました」

 

 俺は腰の無銘を外し、エリーゼに預けた。

 それからモーセのように割れた道を通り、即席リングで腕組み仁王立ち。

 

「へっ、根性はあるみてぇだな。ラリスの銀の力、この“赤涙”のヨタロウに見せてみろや……!」

「ええ。ただし、その頃にはアンタは八つ裂きになっているだろうけどな」

 

 思い切って啖呵を切ると、会場のバイブスは最高潮になった。

 チンピラ丸出しで指をポキポキするヨタロウ氏に対し、俺はジョブチェンジして昔習ったフルコン空手を構えた。

 

「やっちゃえご主人!」

「男を見せて頂戴」

「お、お怪我はしないでくださいね……!」

 

 それから、よーいドンで試合が始まった。

 で……。

 

「勝負有りッッッ……!」

 

 勝った。特に語るべき事はない。

 俺は大の字で倒れるヨタロウ氏に手を差し延べた。

 

「やるじゃねぇか、ラリスもん……」

「ええ、そちらこそ」

 

 そのまま、手と手を握って引き起こす。パンパンマンになった彼は汗臭い笑みを浮かべていた。

 俺の方はノーダメージなのは試合的にどうなんだと思ったが、それはともかく。

 闇に飲まれよ(おつかれさまでした)




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