【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚 作:いらえ丸
誤字報告もありがとうございます。嬉しいレしい……。
キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。
これで何度目になるか分かりませんが、出て来る時は作者がぐっちゃぐちゃのメッタメタに叩いて砕いて固めてから出すので、ほぼ別キャラになる事をご了承ください。
また、レギュレーション違反のキャラは確定で採用しません、悪しからず。とはいえ、採用如何に関わらず案を貰えると作者は問答無用で喜ぶので、今後も遠慮せず送ってやって下さい。
今回、アンケあります。
よろしくお願いします。
昼食中のワサビパニックなどありつつ、エネルギーをチャージした――余裕で腹八分目ですらないが満足感はあるのだ――ところで、蕎麦屋を出た俺達はカムイバラの簡易地図を広げて次どこに行くかを話し合った。
シュロメさんに教えてもらった観光スポットはまだ一つも回れていない。今日どれか行ってみようとも思ってたが、如何せん彼女のジモミントークは豊富に過ぎて結局どこ行くか決められないのよな。
「まぁグルッと回って、夕方頃に上玉館戻れるようにしようか」
「そうッスね」
結果、まぁ名所めぐりはまた今度って事になった。
別に急ぐ旅という訳でもないし、俺的にはぶっちゃけラリスもリンジュも街をブラブラするだけで楽しくて満足できるのだ。何たって異世界ですから。
「なんだか長閑ですね」
「ああ、冒険者の戦力は軒並み迷宮に回してるのかもな」
「まっ、喧嘩に巻き込まれる心配しないで済むのは気が楽ッス」
「気を付けなさい、ルクスリリア。リンジュでは黒剣の威光は通用しないわよ。長閑なのは確かだけれど、痴れ者なんて何処にでもいるのだから」
「その時は反撃していいからな。遠慮せず思いっきりやるんだぞ」
「はい! エリーゼはボクが守ります!」
「私だって戦えるのだけれど……」
「エリーゼが本気出すと街が焼け野原になっちゃうッスよ。大人しくしてろッス」
王都同様、リンジュの首都も少し歩けば街の表情がガラリと変わる。
上玉館周辺が温泉街だとしたら、転移神殿近くは京都の祇園って感じだ。自然、浴衣スタイルで歩いてる人はおらず、冒険者証を下げている人は皆さんソレっぽい防具を付けていた。
鎌倉武士みたいな重装鬼人や、着流しに草履スタイルの浪人風エルフ。弓道女子っぽい馬人に、空手家、山伏、公家っぽい装備の人もいた。そして忍者とニンジャとNINJAたち。ちなみに、忍者ズは集まってベイゴマしてた。楽しそうでなにより。
うん、リンジュの服買って良かったと心底思うね。さっきまでは如何にもカジュアルファンタジーのパーティって感じだったけど、今は侍と花魁と和服幼女とくノ一だもんね。擬態でござる。
「お? ここ本屋か」
買い食いなどしつつ歩いていると、リンジュで初めて本屋を発見した。
旅先の本屋巡りは旅の醍醐味のひとつである。中に入ると、そこはラリスより本が整理整頓されていた。木と紙の匂いが香しい。
「わぁ~、すごい……」
「いいわね。古典も色々あるじゃないの」
「欲しいのあったら買っていいよ」
入店するや否や、テンションを上げた本好き二人は早速店を物色し始めた。エリーゼもグーラも古典コーナーに夢中だ。
「リリィも欲しいのあったら言ってな」
「ん~、まぁあったら言うッス」
異世界ではあっても、ここはラリスとは違う国だ。が、幸い使われている文字は同じだし、異世界語翻訳もしっかり起動してるので、此処にどんな本が置いてあるかは普通に分かる。
何となく陳列棚を眺めていると、ちょっと気になるタイトルを発見した。
「ん? リンジュ建国記?」
手に取ってみると、それはリンジュの歴史を解説してくれる系のやつだった。
他の客を見る。立ち読みは一応OKか。少し読んでみると、学者向けの歴史書というより、大衆向けの物語であるらしかった。
「へぇ」
本によると、どうやらリンジュという国は世界各地にいる外れ者が集まって興された国であるらしい。
牛人でも鬼人でもない牛鬼人。魔族っぽい獣人である化狸や猫又。戦いが嫌いな巨人系魔族の
マイノリティ種族だった彼等がそれぞれの群れを離れ、ラリス王国の支援を受けて築かれたのがリンジュ共和国だ。最初は小さな共同体だったのが、今では世界有数の大国になったと。
で、ここのトップは各種族で一番つえー奴が交代制で務めるらしい。初代の長は狐人だったそうな。彼が残した特殊な魔術体系はリンジュを中心に独自の発展を遂げているとか何とかで、実に面白い……。
「おっと……」
つい読みふけってしまった。見れば、店主の眼光が鋭くなっている。
流石にこのまま戻すのは気が引ける。俺はリンジュ建国記を購入する事にした。
「ヴィーカ様のお話が沢山置いてありました! 早く読みたいです!」
「不思議ね、リンジュで銀竜剣豪が人気なんて」
「今のうちにサインの練習でもする?」
「
「アタシも一冊買ってもらっちゃったッス!」
結局、グーラとエリーゼは大量の本を持ってきて、俺はそれを全部買った。これには目つきの鋭かった店主もニッコリで、退店時には「ありがとうございました」というお言葉を頂いた。
で、珍しくルクスリリアも本を所望してきた。
「これなに?」
「なにって、チンイラ・ゴンザレス先生の画集ッスよ!」
開けてみる。うん、エロ本だ。
それも全ページがフルカラーのイラスト。写実的な絵というより、割とアニメチックなやつだった。
「え? これ、一人の女性に沢山の……!?」
「この絵、何処かで見た事……」
何だろう。90年代のエロゲ? そんな印象の絵である。知らんけど。
「いや~、まさかリンジュでチンイラ先生の絵がお目にかかれるとは思ってなかったッス! 感動ッス!」
「思い出した……。道理で見た事ある絵だと思ったわ……」
「知っているのかエリーゼ。いや知ってるのかよ、エリーゼ」
「えぇ、宝物庫にあったわ……。確か、性風俗画専門の淫魔の画家だったと思うけれど……」
「流石エリーゼ、やっぱ好きなんスねぇ! しかもこれ! 中でもレアな乱交オンリー本ッスよ! チンイラ先生の精緻もといエッチな筆さばきは世界一ッス! ヒューッ! 見ろよこのカリの影! 尊敬しかねぇッス!」
「そんなにレアなの?」
「直筆ッスよ直筆! 淫魔王国に流したら確実に1億ルァレはするッスよ!」
「へ、へぇ……」
しばらく、ルクスリリアは件のエロ本に夢中だった。さながら、夏コミで買ったエロ同人で即トリップするオタクの如く。
「芸術って奥が深いんですね」
「実際、そういうのもあるのよ。ラリス王国では、家に裸婦画を飾るのなんて普通だし」
春画はともかく、ルクスリリア達のエッチなイラストなら欲しい気がせんでもない。
けど、彼女等の裸を画家にスケッチさせるのは、ちょっと抵抗が……。
「デッサンプレイか……」
「なに?」
けど、俺がやる分には悪くないなと思った。
ドヤ顔でモデルになるルクスリリア。モナリザポーズのエリーゼ。もじもじして顔を赤くするグーラ。
なるほど、完璧なプレイっすね。俺の美術の成績が2だという点に目をつぶればよぉ。
「ほら、興奮してないで行くよ」
「あぁん、もうちょっと~!」
それはさておき、観光の続きだ。
風景を見ながら歩く。転移神殿から離れて歓楽街に入った途端、これまた雰囲気が変化した。
「此処は、何だか王都っぽい雰囲気ね」
「不思議な匂いです。お香でしょうか? でも食べ物の匂いも濃いですね……」
「ご主人ご主人! あちこちでスケベな魔力が渦巻いてるッス! とんだドスケベ通りッスよ此処ぁ!」
「いやスケベっつーか、カオス?」
カムイバラ東区歓楽街。にわか知識で例えるなら、歌舞伎町と吉原をミックスさせた感じだろうか。パッと見でも賭場に飲み屋に如何にもエッチなお茶屋さん。それらがごちゃごちゃと配置され、混沌とした空間を形成していた。
行き交う人も実にカオスで、ギャンブルやってそうなアゴの尖ったやけ酒おじさんやキラキラ系の陽キャ獣人グループ。銀細工を下げた百合カップルに、踊り狂う陰陽師ダンサーズなんかもいた。
「おっ、あそこは?」
そんな混沌の中に、一際目立つ建物を発見した。
建物自体はそんなに大きくないのだが、敷地はかなり広そうである。なかなか繁盛しているらしく、立派な入口には人混みの流れが出来ていた。
門の横には、力強いフォントで「活鬼闘技場」と書かれた立て看板があった。
「あー、ここが闘技場か。どう? そのドスケベ通りで最も賑わってそうだけど」
「いや、普通にスケベな事考えながら入ってく人いるッスよ。ほらあの人……」
「闘技場に?」
ここはシュロメさんのおすすめスポットのひとつだ。曰く、ここの支配人とは友達とか何とかで。
一応、ラリスにも闘技場なるものは存在する。あれはまんまコロッセオだったが、どうやらリンジュの闘技場は屋内にあるらしい。
「せっかく闘技場に来たんだから、闘技場に行こうぜ」
入ってみると、中は大きめの銭湯のフロントといった雰囲気で、受付の前に行列が出来ていた。そこでチケットを買うようだ。
あと、フロントの壁には各大会の優勝者らしき絵が飾られていた。なかなか迫力のある絵で、エリーゼが感心していた。これ見てるだけでも時間潰せるな。
「一番いい席を頼みます」
「畏まりました。お連れの奴隷は如何致しましょう」
「隣、四人分で」
せっかくなので一番いい席のチケットを購入する。結構なお値段だが、まぁいい。
会場は地下にあるらしく、人の流れに従って階段を降りる。観客席に入ると、そこはまさに地下闘技場って印象の場所だった。煌々と焚かれた魔導照明が中央のバトルエリアを照らしている。
いや、地下闘技場といってもバキっぽくはない。強いていうなら、ちょっとミニマムになった幽遊白書とか烈火の炎的なアレだ。バトルエリアは相撲の土俵程の広さで、その四方を観客が囲んでいる構造だ。
「ここがVIP席か。お、メニューまで置いてある。何か頼む?」
札に書かれた席に着く。椅子の前にはテーブルもある。場所は土俵の一番近くではなく、中段らへんの位置だった。
食べ物飲み物の注文もできるらしいので、適当に人数分の飲み物とパーティメニューを購入した。
「皆さん! お待たせいたしましたァ!」
注文したものが届いたところでちょうど始まったらしく、北側の入場口から一人の大男が姿を現した。
ワァアアアアア! 男の登場に、割れんばかりの大歓声が木霊する。「ラ! イ! ドウ! ラ! イ! ドウ!」という、恐らく男の名前だろうコール。凄まじい音量に、グーラは耳をぺたんとしていた。
「お集まり頂き、誠にありがとうございます! これより、本日の闘技大会を開催いたします!」
コールを受ける男は大柄な鬼人だった。首にはリンジュ式の金細工が下げられていて、肉体といい歩き方といいその体には如何にもな強者感が充実していた。
高位の武家を思わせる衣装を身に纏い、ライドウ氏はプロレスラーのようにリングの中央にやってきた。
「本日の演目は、鋼鉄札の冒険者達による徒手格闘大会でございます! 武器なし、防具なし、力と技の真っ向勝負です! おっと、申し遅れました! 私、当施設の支配人、“剛傑”のライドウでございます! 初めての方はどうぞ、この角だけでも覚えて帰ってください!」
てっきり選手かと思ったが、どうやら彼は闘技場の支配人であるらしい。シュロメさんが言っていた友人だ。
彼は会場全体に届く声量で演目の説明を続けた。今日は素手専門のトーナメントをやるようで、北側にある掲示板に出場選手の名前とトーナメント表が描かれていた。
「では早速はじめましょう! 第一回戦、闘士入場ですッ!」
選手入場である。謎の楽器が演奏され、ライトアップされた選手がスモークと共にエントリーした。
片方は牛人スモウレスラーで、片方はボクサー風のイケメンエルフだった。どっちも上半身裸で、それぞれ廻しとパンツだけのスタイルだ。観客の声援を聞くに、力士風は男性人気が、ボクサーは女性人気があるっぽい。
双方入場口で見得を切った後、威風堂々とドヒョウリングで相対した。
「お賭けになられますか?」
さて試合かなと思ったら、従業員に賭博を誘われた。あ、そんなん説明にもあったね。割とクリーンな賭博ではあるっぽい。
分からないが、俺は適当にイケメンボクサーくんに賭けておいた。何となくだが、スモトリが勝てるビジョンが見えないのだ。すっくん&けっくんを知ってると、尚の事。
「どっちが勝つッスかね?」
「どっちも弱そうよ」
「そういう事言わないの」
「はい。ご主人様なら二人同時に相手をしても勝てるかと」
「そういう話じゃないの、……えっ!?」
そろそろかなと見ていると、突然バトルエリア全体に謎の魔法陣が展開され、半透明の床を形成。それから、選手二人をリフトアップしていった。
観客は騒ぐばかりで、驚いてはいない。え、驚いてるの俺だけ?
「あ、アレなに?」
「リンジュの結界術よ。ああやって応用する事もできるのね……」
「結界? へぇ……」
半透明の床は観客全員に見えやすい高度まで到達すると、そこで停止した。浮上の過程で結界範囲を広げていたらしく、はじめは土俵サイズだったのが今では土俵の八倍程になっていた。エリアの拡大に応じて、選手同士の間合いも遠くなっている。
まるで、リアルでスマブラの終点を再現したみたいである。道理で一番いい席=最前席じゃない訳だ。VIP席からだと、かなりダイナミックに見える。
「それでは皆さん、ご一緒に! よぉぉぉぉい……! はじめェ!」
ぐぉ~ん! 銅鑼っぽい例の音。試合が始まると、二人は同時に駆け出し、両者の掌底と拳が激突した。衝突の余波が結界を揺らす。
流石は異世界格闘というべきか、双方三次元な高速機動で戦っている。ステップ踏みながらのローやジャブはなく、近づいて離れて突っ込んで翻弄しての連続だ。総合格闘技の試合というより、忍殺世界のニンジャのイクサを見ているようだった。
「あ、勝った」
ボクサーの右フックが直撃し、スモトリは水平方向に吹っ飛んだ。
落ちるんじゃねと思ったが、即座に発動した半透明の結界がスモトリをカバー。彼は半透明の壁に大の字になって気絶した。
「勝負あり!」
カンカンカンと鐘が鳴り、第一試合が終了した。すると、終点結界はリフトダウンしていき、その過程で両者の距離は初期位置に戻されていった。
「う~ん」
今の試合を見て、改めて思う。やっぱり、こっちであっちの格闘技は殆ど通用しない。
地球ではウェイトと速さはそのまま強さになった。だが、異世界ではウェイトは要素の一つに過ぎず、真に重要なのはステータスとそれを使いこなす技術なのである。
加えて、この世界だと強攻撃っぽい技を食らうなりガードするなりすると盛大にノックバックするので、前世道場で習った空手のセオリーの多くが使えなくなる。
立ち回りでも決め技でも、能動スキルが対人格闘の要点になってきそうだ。武闘家ジョブでの戦闘力はちょこちょこ上げているつもりだが、やはり基礎的な格闘技術も身に付けるべきか。イスラさん曰くカムイバラにはそういう道場は沢山あるらしいので、落ち着いたら探してみるのもいいだろう。
「白虎女の方が魔力が高いわ。あっちが勝つわよ」
「はい、ボクもそう思います。相手の男性は動きが悪いです」
「ですってご主人、あっちに賭けるッスよ!」
次の選手が入場すると、グーラとエリーゼが勝敗予想を始めていた。
俺は二人が予想した方に賭けてみた。踊り子風の白虎族の女性だ。彼女が手を振ると、観客席から野太い声援。人気者らしい。
「おっ、勝った」
ボクサーくんに続き、またも賭けに勝った。少額しかやってないが、これが意外と嬉しい。
そうやって試合はどんどん進んでいき、周囲の観客同様俺もテンションを上げていった。大声で応援すると喉が渇くもので、飲み物を追加注文した。
「ナイスゥ! よく避けた! 油断するなよー!」
「攻めろ攻めろッス! 拳だけ注意してりゃ勝てる相手ッスよ!」
「白虎の方、よく動けていますね。無駄に動いてるように見えて、攻撃は必要最低限で終わらせています」
「けれど魔力の消耗が激しいわ。息を入れるタイミングがあればいいのだけれど」
盛り上がりが最高潮になったところで、いよいよ決勝戦である。
その間、俺は魔力担当とフィジカル担当の二人に乗っかってセコく儲けていた。
「さぁやって参りました決勝戦! 白虎族の闘士ミアカ対! 森人族の闘士ホンゴウの試合でございます!」
決勝戦は最初のイケメンエルフボクサーくんと踊り子風の白虎女性の戦いだった。
俺は常にどちらかに賭けていたので、この二人が戦うとどっちに賭けていいか分からない。
「これは男が勝つでしょう。女は魔力を殆ど使ってしまっているわ。循環も下手そうだし、これは無理ね」
「魔力は消耗していますが、白虎の方が勝つと思います。足も元気そうです」
で、ここにきて解説役の意見が割れてしまった。
「どっちが勝つと思う?」
「ん? あぁ、白虎女じゃないッスか?」
「その心は?」
「特にねぇッス」
とはいえ、絶対勝ちたいとかの気持ちはないので、俺はルクスリリアの勘に賭ける事にした。
しばらくして、終点リフトアップからの試合開始、拳主体で立ち回るボクサーエルフくんと、舞うように動く踊り子白虎。どちらもスピードタイプなようで、お互いクリーンヒットこそないが中々見ごたえのある試合だった。
「あぁっ! 何でそんなのに当たるのよ!」
結局、一瞬の隙を突かれ、踊り子の回し蹴りがボクサーの顔面に直撃。エルフは派手に吹っ飛んで結界に激突した。
試合終了、白虎女性の勝ちだ。
「何故負けるのよ……! あのままじっくり攻めていたら勝てたでしょう……!?」
「試合の長さによるものではないでしょうか。これまでの戦い、白虎の方の試合は短かったですが、森人の方は長く戦っていたので」
大会が終了し、ヒーローインタビューみたいなのが始まる。
従業員にこれまでの札を渡し、俺は配当を貰った。全部の試合で賭けに勝ったが、まぁ飲み代くらいの儲けだな。
見ると、リングの上では白虎族の踊り子がウイニングライブをやっていた。中身の変わった男達の熱い視線がセクシーな優勝者に注がれる。
「みんなー! ウチに会いたかったら!“萌虎のしっぽ”に来てな! たぁ~っぷりご奉仕したるからなー! 場所は……」
ライブの後、なにやらお店の宣伝を始めた踊り子白虎。どうやら、彼女は遊女だったらしい。
店の宣伝の為に冒険者やりつつ格闘大会に出場するのか、凄いな……。
うん、何気に楽しかった。機会が在ったらまた来よう。
外に出ると、カムイバラの空はすっかり暗くなっていた。
けれど、歓楽街は夜でも明るかった。あちこちで色鮮やかな灯りが焚かれ、キラキラと輝いている。昼と夜でも雰囲気が変わるんだな。
「どけどけ! 道開けろ! 遊女様の御出ましだ!」
「おい、始まるぜ! 前行かねぇと!」
「待っていたぜェ! この
で、何か騒がしいなと思っていると、歓楽街を歩いていた人たちが通りの端に移動して、真ん中に新たな道を作った。
何が始まるんです? と見ていると、別の通りから女性の集団が歩いてきた。
現れたのは、派手な着物を着た女性達だった。
彼女等は一様に胸や足を強調した派手な衣装を着て、周囲の男達に煽情的な流し目やウィンク攻撃を放射していた。
あれは、花魁道中? いや、どっちかというと遊園地のパレードが近いか。
どうやらグループごとに分かれているらしく、一列になって歩いてる訳ではないっぽい。
集団の先頭、一等派手な遊女の後ろでは、様々な楽器を持った音楽隊が演奏しながら歩いている。集団の真ん中には店名が書かれた幟を持った女性もいた。
「あ、これか」
そこで、俺の脳裏にヒットする情報があった。
ラリスを発つ前にウィードさんから聞いた、リンジュ娼館のスゲェとこだ。店単体じゃなく、街全体で楽しませようっていう。
「うぉおおお! メイメイちゃーん! こっち見てー!」
「ブヒィイイイイイ! 今日も可愛いよサクノちゃぁああああん!」
「アーティちゃん!
確かに、基本クローズドな王都の娼館界隈とは雰囲気が全然違う。
リンジュの遊女? 娼婦? はアイドル的な扱いを受けているようで、パレードを眺める男達は推しの遊女に熱い声援を贈っていた。
一団ごとの先頭で歩いてるのが、そのお店のナンバーワンだろうか。しゃなりしゃなりと歩く様は堂に入ってるように見えた。店舗ごとに演奏される曲が違うのも面白い。
娼館とか遊郭とかには興味はないが、確かにこれはテンションが上がる。
「どうッスかご主人? 行きたくなっちゃったッスか?」
「いや全然」
うん、まぁ、ピクりともこないかな。
パレードとしての見ごたえはあるが、俺にコマーシャル効果はないようである。
実際、リンジュでもラリスと同じくムチムチボインの遊女が人気であるらしく、センターは常に巨乳の女性だった。しゃなりしゃなり、たぷんたぷんである。
綺麗だけど、もういいかな。そう思い目を逸らした……次の瞬間である。
「んッ……!?」
脳に、電流が走る。
心臓が跳ね、血沸き肉踊り、俺の右手が震えていた。
いったい、何だ? チート由来の危険信号じゃない。くっ、右腕が疼く……!
これは昨夜と同じ……ロリセンサー!?
まるで、魂が見逃すなと警告しているかのように、俺の感覚器官の全てが遊女パレードに集中していた。
喧騒の奥、キラキラの隅、影の中に、何かがある。そこに、何か大切なものがあるのだ。
見逃すな、聞き逃すな。五感で探し、股間で感じろ。何処だ、何処にいる……!
その瞬間、俺は運命に出会った。
パレードの中、演奏隊の一人。歩きながら、三味線に似た楽器を演奏する
桜色の長髪。煌びやかな着物を身に纏って、
そして、頭にはキツネのような大きな耳があった。歩く度、獣の尾が揺れていた。
俺は、彼女に目を奪われていた。否、目だけでなく、心まで、魂まで、その女性に首ったけであった。
しかし、おかしいぞ。
「ご主人?」
俺はロリコンだ。ロリコンのはずだ。
なのに、おかしい、こんな事ってあり得るのか?
あの女性はムッチムチの巨乳美女だ。
見た目年齢は20代後半ほどで、胸にも尻にも余計な贅肉が付いている。淫靡、妖艶、ボンッキュッボン。何もかも、ロリ性とは真逆の要素で構成されているのだ。
にも関わらず、俺の目は、俺の股間は、ギンッギンのビンッビンに反応していた。
一団の隅、旋律を奏でる彼女の手つき。薄く笑んだ唇。歩く度、フリフリと揺れる巨大な乳と尻。
ロリコンの俺が、大人のお姉さんに夢中になっていた。
「あっ……」
その時、彼女と目が合った。
吸い込まれそうな千歳緑の瞳。表情は変わらず、固まったような微笑を浮かべている。
目が離せなかった。彼女の瞳が、あまりに美しくて、あまりにも綺麗で……。
故に、直感した。
あの娘は、ロリだ。
彼女の目を通して、俺の体内にある幼狐因子が反応した。
あの髪、この香り、そしてこの幼気。間違いない。全てが符号する。五感と魂で確信した。
「ケモミミロリババア……」
視線の交錯は、一瞬だった。
だが、それだけで分かった事がある。
彼女はロリだ。間違いない。私がそう判断した。
そしてもう一つ、確信した事がある。
「あの娘、迷子なんだ……」
何が、どうして、さっぱり事情は分からないが……、
彼女は、誰かに、助けを求めている目をしていた。
寂しそうな、哀しい瞳。
千歳緑の奥底で、あの娘は独り、泣いているのだ。
〇
草木も眠る丑三つ時、歓楽街のとある店舗の裏口から、みすぼらしい童女が出てきた。
狐人の童女だった。冬だというのに布一枚の着物だけを着て、露出している手足は折れてしまいそうな程に細かった。
狐童女は寒そうに身体を丸め、闇夜の裏道を歩いた。その足取りは不安定で、今にも倒れそうだった。
跛行の理由は明白だ。心身ともに。疲労困憊なのだ。
やがて大きな屋敷に辿り着くと、狐童女は裏口の戸に手を当てて魔力を捻り出した。
鍵が開く。屋敷に入った狐童女は音を立てないよう細心の注意を払い、冷たい廊下を歩いた。
目的地に着くと、ゆっくりと戸を開け、閉める。
そこは物置部屋であった。乱雑に置かれた棚の隙間に、古い座布団が一枚敷かれていた。そこが狐童女に許された寝床だった。
狐童女は倒れ込むようにして座布団に座り込むと、俯いたまま動かなくなった。
暫しの後、童女はよろよろと立ち上がって、物置の隅にある姿見の前に立った。
鏡には、目の下に隈のある疲れ切った狐人が映っていた。
まるで死人か、病人か。そう自嘲する気力さえ、今の狐童女には存在しなかった。
明日も早い。気を失う前に、終わらせなければならない。
狐童女は現実から目を背けるように瞑目すると、なけなしの魔力を振り絞った。
乾いた唇が震える。蚊の鳴くような魔法詠唱。魔力を捻り出し、それは発動する。ボンっと、狐童女の身体を真っ白な煙が覆った。
煙が晴れると、そこには一人の狐人美女がいた。
輝かんばかりの桜色の髪に、男好きする豊満な身体。豪奢で美しい着物に、派手で目を引く金の簪。まさに、世の男が妄想する狐人美女そのものだった。
美女は鏡に手を伸ばした。焦がれるように、あるいは縋るように。
しかし、鏡に触れる途中で、限界が訪れた。
虚構が解ける。現実に戻る。弱々しい煙が、美女の姿を覆い隠した。
煙が晴れた後、鏡に映ったのは、今にも死んでしまいそうな狐童女の姿。
今宵の再会は、これでおしまい。
「母上……」
小さな唇が言葉を紡ぐ。
その声は、静まり返った夜でさえ耳を凝らさねば聞き取れない程に小さかった。
しかし、それが狐童女の精一杯の叫びであった。
「一体、いつになったら巡り合えるというのじゃ……」
諦観に沈んだ瞳からは、涙一つとして流れてこない。
彼女は、何もかも乾いていた。
リンジュの月は、彼女を照らす事はない。
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作者のやる気に繋がります。
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だから、旅館で髪の毛を食べる必要があったんですね。
アンケは明日の朝に終了します。