【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。意欲に繋がっております。
 誤字報告も感謝です。いつもありがとうございます。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
 結果、イリハの尻尾は9本(出し入れ可能)となりました。
 普段は1本で、出そうと思えばって感じですね。

 迷いましたが、長くなったので分割する事にしました。
 よろしくお願いします。


黒いロリコンは桜色の幼狐を見つける(前)

 ケモロリちゃんは迷子だった。

 第六感による確信。その衝撃から立ち直ったのは、全ての花魁パレードが通り過ぎた後の事だった。

 

「さっきの狐人、見た……?」

 

 パレードが終わり、歓楽街に人の流れが戻る。

 早速、俺は皆に先ほど見たケモミミロリババアについて訊いてみた。

 伝わるかどうか分からなかったが、どうやら皆も彼女に注目していたようで、俺の問いには「あー、あの人ね」みたいな顔になっていた。

 

「とても綺麗な魔力循環だったから、よく覚えているわ。演奏の方も素敵だったわね」

 

 魔力が視えるエリーゼからすると、仮称ロリっ狐の魔力循環は芸術的な程に流麗だったという。

 魔力感覚よわよわ勢の俺視点、何がどう綺麗なのかは分からないが、エリーゼが言うなら間違いないだろう。

 

「でも確かに……言われて見ると、不自然なほど完璧に調律されていたわね。お父様でも、アレは真似できないでしょう……」

 

 不自然な程に整った魔力。

 エリーゼは、そこに違和感があるらしかった。

 

「あの方はとても綺麗な歩き方をしていましたね。楽器を弾きながら凄いなぁって見とれていました」

 

 グーラからすると、ロリっ狐の歩き方は極めて洗練されていたように見えたらしい。

 確かによく訓練されてるなとは思ったが、俺には周りと変わらないように見えた。しかし、グーラからするとロリっ狐の歩法は頭一つ抜けていたという。

 

「どんな人でも、歩き方にはブレやズレがあります。ですが、彼女にはそれがありませんでした。とても綺麗で、完璧過ぎたように思います。まるで、自分の身体を糸か何かで操っているかのように……」

 

 完璧すぎる身体動作。

 グーラは、そこに違和感があるらしかった。

 

「なるほどなぁ」

 

 まぁ、ここまでくると大体の見当はつく。

 俺の勘を前提に、二人の所見をまとめると、恐らくロリっ狐は変化の術とか変身術とかで大人の姿になっているのだろうと思う。

 その変化の術的な奴の応用で、完璧な魔力循環と完璧な歩き方ができてるんじゃないかなって。これも勘だけど。

 変化……狐とか狸ってそういうイメージあるじゃん。平成の合戦的な感じで。狐だって頑張ってるんだよ、多分。

 

「なるほどぉ……アタシもおかしいと思ったんスよね!」

「ルクスリリアも違和感を?」

「ッス! あの狐人、処女だったッスもん! あのクッソでけぇ胸で処女とか考えらんねぇッス! アレなら男食いまくれるッスよ! むむむ、恐るべし変化の術……!」

「あ、うん……」

 

 それとこれとは関係ない気が……しないでもないような。どうなんだろうね、ノーコメントで。

 ともかく、俺の第六感と三人の違和感を統合し、俺は件のロリっ狐(仮)をロリっ狐(確)として見なし、後日捜索する事に決めた。

 

 ロリっ狐は、迷子だと思う。これは俺の勘であり、実際の彼女の事情は分からない。

 だが、もし彼女が助けを求めているのなら、助けたいと思う。

 飢えてない俺は健全だ。決してやましい気持ちはない。正真正銘、性ではない正のロリコン魂が燃えていた。

 本当だ。

 

 なに、手がかりは近くにある。

 なんたって、彼女が上玉館にいるの知ってるからね。

 女将に訊けば一発よ。

 

 

 

 

 

 

 できませんでした。

 

 結果から言うと、宿屋ではロリっ狐の情報を得る事はできなかった。

 昨夜、ロリっ狐の事を宿屋の女将に訊いてみたら、怯えた顔で「従業員の情報については答えられない」と返された。そりゃそうだ。

 いや別に特にやましい事はないんでハハハと誤魔化したが、手がかりがパーになった。

 

 そんな訳で、俺は王道の遠回りをする事に決めたのである。

 

 

 

 時は過ぎ、翌朝。

 皆を宿屋に残し、俺は一人で昨夜通った歓楽街にやって来た。

 

 夜のギラギラ感はどこへやら、灯りを消した朝の歓楽街には祭りの後を思わせる雰囲気があった。

 また、それこそ祭りの残骸のような酔っ払い爆睡おじさんや朝帰りパリピみたいなのがいたりして、各々誰も何も気にしていない。

 良い意味で他者に無関心な空間は、前も今も社会の外れ者を自認する俺としては居心地が良かった。

 

 さて、グーグル先生もいない異世界。名前も顔も知らない人をどう探すか。

 ここはゲームっぽくはあってもゲームではない。住民の頭上にイベントマークなんか付いてないし、俺の各種チートにサブクエをサーチしてくれる機能もない。

 つまり、足だ。俺は道行く人の中で、声をかけてもよさそうな人を探していた。

 

「おっ、お前……イシグロか!」

 

 そんなこんな適当に歩いていると、急に後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには一昨日カムイバラの西区でストリートファイトをしたヨタロウさんがいた。

 さっきまで吞んでいたのか彼の顔は赤く、足元が覚束ない様子だった。

 

「どうも、ヨタロウさん」

「なんだイシグロ、お前もこういうトコ来るんだな! なっ、どこで遊んでたんだよ? 行った店の話聞かせろって!」

 

 軽く挨拶すると、彼は馴れ馴れしく肩を組んできた。

 なんだろう、リンジュだと一度戦った相手とは強敵と書いて友と呼ぶ関係になるのだろうか。心の距離の詰め方がエグい。

 

「違いますよ。ちょっと人探しを」

 

 酒臭い息を逃れるように組み技を外す。ヨタロウさんはたたらを踏んで姿勢を戻した。

 

「っと……人探し? なんだ、気になる遊女でもいたのか?」

「ん? まぁ、そうなんですかね」

「おう! んなら、この夜遊び大好きヨタロウ様に任せな! 特徴言ってくれりゃ、その遊女が何処にいるか教えてやるよ!」

「遊女? なんでしょうかね。昨日、ここ歩いてた人なんですけど……」

 

 仮称ロリっ狐が遊女かどうかは知らないが、俺は遊女情報に自信ニキらしいヨタロウさんに昨夜出会った狐人美女についての話をした。

 すると彼は後ろ髪をボリボリ掻いて唸った。

 

「あー、その遊女な。いや見た事ぁあるぜ? が、遊んだ事もないし名前も知らんのよな」

「そうなんですか?」

「ああ、界隈じゃあ幻の遊女とか何とかって噂もある。大方、遊郭所属じゃない三弦弾きってトコだと思うが」

 

 どうやら、夜遊び大好きヨタロウペディアには載っていなかったようである。いや載ってたらそれはそれで複雑だが。

 

「その人を探してるんです。遊びたいとか、そういうのじゃなくて」

「ふぅ~ん? なら、やっぱ遊女に訊くのが一番だと思うぜ」

「遊女ですか?」

「おう」

 

 言うと、彼は歓楽街の裏道を顎でしゃくってみせた。

 

「ちょうど今くらいになるとな、仕事上がりの遊女が裏道歩いてたりするんだ。ちっとばかし行儀の悪い行いだが、道端の人に声かけるのと変わらねぇ。お話代取られるかもしれねぇが、お前さんなら大丈夫だろ」

「なるほど」

 

 つまり、件のロリっ狐について訊くなら、オフの遊女に訊けばいいと。

 店に行って訊くのはダメなのかと思ったが、幻の遊女とか言われてるあたり成功はしなさそうである。

 

「ありがとうございました。勉強になります」

「いいって事よ! 俺とお前の仲じゃねぇか!」

 

 言って、彼は去っていった。

 一度殴り合っただけの仲だが、随分と距離の近い人だ。銀細工だが、悪い人って感じはない。

 いや、もしかしたらとんでもない悪癖を持ってるのかもしれないけど、俺に害がないなら別にいいや。

 

「さて」

 

 ともかく、幸先は良い。

 俺は彼の助言に従い、次なる手がかりを求めて歓楽街の裏道に入っていった。

 

 裏道は建物の影で覆われていて、空は明るいのに薄暗かった。

 けれどもダークでアングラな雰囲気はなく、喧騒の裏の心地よい静けさに満ちていた。また、歓楽街の裏道に浮浪者の姿はなく、清掃も行き届いているようで治安も良さそうだった。

 

 しばらく歩いていると、ちょっと空けたところで見覚えのある後ろ姿を発見した。

 丸い獣耳。白黒の髪色。そして、踊り子風の衣装。一瞬惑ったが、ええいままよと声をかける事にした。

 

「すみません。昨日闘技場にいたミアカさんでしょうか?」

「お?」

 

 昨日の闘技大会優勝者、白虎族のミアカさんだ。

 彼女は朝稽古の最中だったのか武術の演武っぽい事をしていて、今ちょうど終わったところだった。

 

「なんや、ウチのファンか? すまんなぁ、オフん時はサービスでけへんねや。次の出勤は明後日やで、そん時店来てくれたらええでな!」

「いえ、ちょっとそれとは違くて」

「ひょ?」

 

 闘技場大会のヒーローインタビューで、彼女は“萌虎のしっぽ”という店の遊女であると言っていた。ヨタロウさんの言う通り、遊女なら変化ロリっ狐について何か知っているかもしれない。

 稽古の邪魔をしちゃいけないとは思いつつ、俺は彼女に件の演奏者について訊いてみた。

 

「はいはい三つの緒(みつのお)の! 知っとるっちゅーか、普通に顔見知りやで!」

「ホントですか? 何処にいるとか、お教え頂けませんか?」

「え? あーすまんな。あの娘、遊女ちゃうでどこ行っても遊べへんよ」

 

 ダメ元だったが、ミアカさんは彼女を知っているようだった。

 曰く、ロリっ狐ちゃんは色んな店の色んな仕事を手伝っているらしく、どこのお店に所属しているとかではないとの事。

 時にパレードの演奏役、時に宴会の配膳役、時にお店の清掃とその仕事内容は多岐にわたるようだった。

 ちなみに、ミアカさんのいる“萌虎のしっぽ”では、ロリっ狐は遊女達に按摩的な事をしていたとか。

 

「ウチも押してもらった事あるけど、ありゃ凄いで! 肩も腰もすんごい良ぉなったわ! できるんなら通いたいくらいや!」

「それは遊女以外も受けられるものですか?」

「ん? あー、それは知らん。ていうか……」

 

 ミアカさんはポリポリと頬を掻いて周囲を伺った後、人気が無い事を確認してから大阪のおばちゃんめいた仕草でひそひそ話をしてきた。

 

「あんな、イシグロさん何したいんか知らんけどな……。あの娘、表出る時は魔法で変身しよるねん。それにあの娘は借金奴隷や。()うたところでお互いええ事ない思うよ」

「そうですか」

 

 むしろ、それが聞きたかった。

 ロリっ狐ぽんぽこ説が当たっていた訳である。俺のロリセンサーも伊達じゃないな。

 それはそれとして、借金奴隷か。旅館に加えて歓楽街と、手広く働いてるのは返済の為か。

 

「なんや自分、あの娘気に入ったんか」

「ええ」

「会った事もないのに?」

「はい」

「ほーん、そか。まぁよう分からんけど……ふぅ~ん?」

 

 言うなり、ミアカさんは縮地めいた歩法で急接近してくると、胸が当たるか当たらないかの距離で俺の目をじぃ~っと見つめてきた。

 迎撃しようかとも思ったが、攻撃ではなかったので立ったままでいた。それからスンスンと匂いを嗅ぐと、ミアカさんは一歩離れた。

 

「悪い事考えとるって感じちゃうな」

「そのつもりです」

「そんなイシグロさんになら……ええわ、教えたる」

 

 するりと。首に抱き着かれ、胸板に胸が当たる。耳元に唇が寄せられ、太ももを太ももで挟まれた。

 極至近距離である。俺はいつでも反撃できるように、掌底を入れられる構えを取った。

 

「あの娘の名前はイリハちゃん。狐人なんやけど、ちょっと変わったお狐さんや。まだ探す気やったら、ウチの名前使(つこ)てもええよ」

 

 耳元で囁かれる。それは俺視点、万金に値する情報だった。

 名前はイリハで、少し特殊な狐人。借金奴隷で、色んなところで働いている。

 なるほど分かった。素人調査にしては素晴らしい結果である。 

 

「ま、頑張りや~」

 

 そう言って、パッと離れたミアカさんは裏口に入っていった。懐には、ミアカさんのサイン入り名刺が入っていた。

 

「あっ、遊びたいんやったら指名してや~! 今度こそその気(・・・)にさせたるでな!」

 

 と思ったら、彼女は扉から顔だけ出して笑いかけてきた。

 なるほど、ミアカさんが人気遊女な理由が分かった気分である。それはそれとして通う気にはなれないが。

 

「イリハか……」

 

 その後、俺は東区を練り歩いてイリハという狐人の情報を探して回った。

 ロリっ狐ことイリハちゃんについては、驚くほど簡単に集める事ができた。

 というのも、一部の獣人にはミアカさんの名刺がよく効いたのである。理由は分からないが。

 

 集めた情報によると、ミアカさんの言ってた通りに彼女は東区を中心に色んなところで色んな仕事を請け負ってるらしかった。

 花魁パレードの時のように、表に出る時は大人モードで、裏方仕事の時は子供モードで。

 

「あの娘、休んでるところ見たことないのよねぇ。ほら、歳は知らないけど、見てくれが幼狐だからさ……ちょっとねぇ」

 

 探しているうち、何となく彼女の状況も把握する事ができた。

 朝から晩まで、イリハは毎日どこかで働いてるというのだ。いつも疲れた顔をしていて、飯もまともに食べていないのかガリガリに痩せているという。

 この世界の奴隷は皆そんなものといえばそうなのだが、それでも見るからに子供っていう本来の姿を知ってる人からすると、イリハの境遇には思うところがあるらしかった。

 

「ふぅん……」

 

 朝から調査をして、今は夜。

 時間はかかったが、彼女の居場所は特定できた。

 俺は地図を持って、ルクスリリア達のいる宿屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

「……と、そんな訳なんだ」

 

 宿屋に戻って、俺は皆に今日あった事を話した。

 部屋には注文したと思しき茶菓子が沢山置いてあって、昨日買った本が積み上がっていた。

 留守番中、彼女等は温泉やボードゲーム等も楽しんでたらしく、机には将棋に似た盤なんかもあった。

 

「俺は、イリハを身請けしたいと思っている」

 

 そんな部屋で、俺は意思を表明した。借金奴隷だというイリハの借金を肩代わりし、彼女を迎え入れたいという意思だ。

 俺と彼女等は主人と奴隷だが、それだけの関係ではない。なくなった。こういう時は、ちゃんとお互いの気持ちを言うべきだと思っている。

 

「顔見た訳でもないのにッスか?」

「ああ」

「借金奴隷……よく分からないんですけど、身請けってできるものなのでしょうか?」

「俺が借金を返済しないといけないから少し割高になるけど、リンジュでもその辺は大丈夫」

「アナタの好きにすればいい……という返答を求めている訳ではなさそうね」

「そう、皆の気持ちを聞きたいんだ」

 

 会って一年も経っていないが、流石に毎日一緒にいるだけあって、俺の言いたい事は伝わっているようである。

 これは命令とか決定事項の通達とかじゃない。もし、彼女等がNOと言うのであれば、俺は皆の意見を尊重するつもりだ。

 多数決ではなく、一人でも嫌ならそうすべきじゃないだろう。イリハを救う意思は貫かせてもらうが、手元に置くのは諦める。そういう話だ。

 

「アタシは賛成ッス! これ結構前に言ったッスけど、戦力拡充は急務ッス。ご主人が野良の一党を作らない限り、アタシ等ずっと四人で迷宮探索するんスから。ここらで新入りが加わるのはアリだと思うッス!」

 

 意外とリアリストなルクスリリアは、一党の戦力面を鑑みて賛成の意を示した。

 とはいえ、現状イリハを冒険者にするかどうかは決まっていないので、まだ何とも言えない。

 ルクスリリア達の意見を優先するのは当然として、身請けできた場合はイリハの意見も優先すべきだと思っている。もし彼女が荒事を拒否した場合、彼女を迷宮に連れて行くつもりはない。

 そもそも、今回俺がしたいのはイリハの救済だ。あくまでロリ魂の紳士に従うのであって、股間の紳士の暴走によるものではないのである。本当だ、嘘じゃない。

 

「私も賛成よ。こうなった時のアナタは、とても勇敢で素敵だもの」

「はい、ボクも賛成です。その……もし、その方が苦しんでいるのなら、ご主人様に助けて貰いたいです」

 

 エリーゼとグーラも、それぞれの気持ちを言った上で賛成してくれた。

 なら、もう迷う事はないな。

 

「そうか。じゃあ、明日、皆で行こう」

 

 やはり、ホウレンソウは大事だ。これからも何か大きな事を決める時は報告して連絡して相談をしよう。

 意見の一致をみたところで、俺達は明日に備えて早めに寝る事にした。

 

 イリハの居場所と、彼女の主人については分かっている。

 場所は東区南部、店の名前は“豊狸屋”。金貸し、貿易、奴隷売買。金になるなら何でもやる。例え道に外れた商いでも、法の下なら迷わず行う。

 極めて黒に近い灰色の店。そういうところに、イリハはいる。まともではない、皆が口を揃えてそう言った。

 

 身請(まも)らねばならぬ。

 例え、どんな奴が相手でも、守護(まも)らねば。

 

 場合によっては、手段を択ぶつもりはない。




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