【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で書けているといっても過言ではありません。
 誤字報告も感謝です。ありがとうございます。

 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 ロリコン解放戦線の一員となり搾精封鎖機構と戦っていましたが、つい先日燃えがらに火を点ける事ができました。別の可能性も楽しみです。今作の逆脚は全部カッコよくて素敵ですね、ご友人。
 企業マスコット二次創作もっと流行れ。大豊娘娘もっと増えろ。要件はそれだけだ、じゃあな。



炉神 が 目覚める 日

 真紅の月が浮かぶ空。数多の武具が棄てられた戦場跡に、重なり響く蹄鉄音。

 土煙を上げて、手に手に武器を持った騎馬隊が地平線から駆けてきた。それはまさに、敵陣に突貫せんとする騎馬隊の如く。

 

 騎馬隊とは言ったが、そいつらは馬に乗った武者ではない。馬の首のあたりから人の胴体が出ている、所謂ケンタウロスだ。

 また、馬の部分にも人の部分にも生物らしさはなかった。眼球は黄色く、肌は腐敗し、筋骨隆々の馬体にはグロテスクな傷がむき出しになっていた。

 例えるなら、アンデッド・ケンタウロス。加えていうとそれの和風鎧武者スタイル。その集団が、交戦圏内に入った俺達を捕捉して突撃してきたのだ。

 

「じゃ、よろしくエリーゼ」

「任せなさいな。ほら、消し飛べ(・・・・)……!」

 

 魔力を籠め、解き放つ。魔法陣から発射された純粋魔力光線は、七日間で世界を滅ぼしそうな軌道で着弾し、爆発。轟音と爆風が荒地を震撼させ、騎馬隊の多くを焼き払ってのけた。

 集まってる奴にはドカンと一発。エリーゼの魔導極砲がよく刺さるのである。エリーゼは凄く気持ちよさそうな顔になっていた。竜族ってそういうトコあるよね。

 

「えーっと? 武器は太刀だけで弓はなし、と。今回は斬れそうなタイプか。ならこっちでいくか」

 

 アーチャースキルの“遠視”でボスの姿を確認し、アイテムボックスから一振りの刀を取り出して、装備した。

 俺の愛刀である橘&湊とは全然違う拵えのコレは、どう見ても実戦用の刀ではなかった。儀礼用というか、見栄え重視というかそんな感じ。平安貴族が持ってそう。

 だが、貧弱そうなこいつはボスドロップの深域武装である。此処を初踏破した時に手に入れたもので、ルクスリリアの鎌とモブノの槍で、三つ目の深域武装という事になる。

 

「皆、練習通りに!」

「はいッス! 駆けよラザニア!」

「かしこまりました!」

「ええ」

 

 まず機動力のあるルクスリリアがボスケンタのケツを追いかけ回し、ちょっかいをかけ続ける。逃げるケンタをヘラジカに乗ったメスガキが追い回すというシュールな構図である。

 その間に、エリーゼと俺で残るザコを殲滅。グーラは俺達の護衛兼トドメ役だ。取り巻きが消えたら後はどうにでもなる。突撃と退避を繰り返すだけのボスなんて大して怖くない。

 

「ヘイヘーイ! 主ちゃんビビッてるー!」

「あんま深追いはするなよっと。対象指定、魔力過剰充填……“炎の礫”!」

 

 ルクスリリアがボスの気を引いてくれてるうちに、深域武装を触媒に魔法を放つ。

 エイムアシストされた火の玉ストレートは見事にヒットし、弱点属性のザコケンタは文字通りケツに火がついて転倒した。

 

「はい!」

 

 倒れたザコはグーラが断頭してトドメ。地面もろともぶった斬ったぶちぬき丸が、血と土を撒き上げる。

 なんつー乱暴な使い方……フロムのボスでももう少し武器に気ぃ遣うよ。でも大丈夫。そう、ぶちぬき丸ならね。

 

「ほぉら、死になさい(・・・・・)

 

 破城槌、飛ぶ斬撃、直線的な魔力槍。エリーゼの魔法がザコを次々と蹴散らしていく。

 やっぱ、ザコを殲滅してる時が一番楽しそうなんだよなエリーゼ。まぁ気持ちは分からんでもない。なんだかんだ弾垂れ流すの気持ちいいからな。

 

「ご主人! そっち行ったッス!」

「りょ!」

 

 そんな事をしてると、怒ったボスケンタが大きく迂回して突っ込んできた。

 地響き鳴らして迫る重装ケンタウロス。こいつの攻撃はガー不だ。当たるとヤバい。なので受け流すしかないんだが……。

 

「オラァッ!」

 

 ギィン! 通り過ぎ際の斬撃をジャストで受け流し、返す刀でカウンターを入れる。鎧の隙間にモロヒット!

 が、ダメージはそんな入ってない。クリティカルが出てないのだ。ボスは何の痛痒も感じてない様子で、俺の後ろにいたロリ二人に追加攻撃した。

 

「ぐぅ!」

 

 エリーゼへの攻撃はグーラがぶちぬき丸で無理やり受け流す。大剣の構造上、反撃はできないが、壁役は全うできた。

 突撃失敗と見るや通り過ぎて逃げるケンタウロス。そのケツを追っかけ回すヘラジカとロリ。ルクスリリアの小さい魔法がケツに入ってるのだが、気にしてないようだ。

 でもまあ、これで終わりだ。

 

「リリィ! 飛べ!」

「行くわよ。外しはしないわ(・・・・・・・)

 

 はい魔法ドーン! 脚部破壊でボス転倒! そこを皆でタコ殴り! っと。

 さながらP5の総攻撃である。寄ってたかってボッコボコ。手足をバタつかせて抵抗するケンタくんだが、修復される前に部位破壊して逃がさない。

 

「ふん!」

 

 最後に俺の斬撃でトドメ。ケンタウロスは粒子となって消えていった。経験値が多いのは、やっぱエリーゼか。

 ケンタウロスからドロップしたのは、例によって謎の蹄鉄だった。相変わらず使い道が分からんアイテムだ。

 

「ふぅ~。はい、皆お疲れー」

 

 言いつつ、俺は派手な刀に“清潔”をかけ、しっかり鞘に納めてアイテムボックスに仕舞った。この深域武装は鞘とセットなのである。

 

「権能は使わなかったわね」

「一手使う程のリターン無いと思うんだよな。弱い武器じゃないけど、俺には合わんわ」

 

 性能を確認し、実戦でも使ってみた。結果、この刀はコレクション行きである。

 深域武装はピンキリだが、それと同じく合う合わない問題だったりもある。その点、俺とはご縁がなかったという事で。

 

「さて、帰ろうか」

 

 ともかく蹄鉄拾ってダンジョンクリアである。

 俺達は帰還クリスタルで転移神殿に戻った。

 

 

 

 神殿に戻ると、迷う事なく受付へ。

 最初に会ったムキムキ爺さん職員に全てのドロップアイテムを渡し、換金してもらう。

 

「緑の一番な。ほら、あそこで待ってるぞ」

 

 で、換金の待ち時間は他の職員に連れられ、俺がさっきまで潜っていた迷宮についての情報を根掘り葉掘りされる事に。

 というのも、件の新規迷宮を踏破した後、俺達は連日同じ迷宮に潜っているのだ。さっきのケンタくんのダンジョンである。

 

 墓馬迷宮。そう名付けられた新ダンジョンは、未だに情報が金に換わる。

 殆どのダンジョンで共通なのだが、傾向こそ同じでも出現ボスは毎回違う。墓馬迷宮のボスは全てがアンデッド・ケンタウロスなのだが、細かいトコで違いが出るのだ。

 実際、初踏破の時はホネホネ・ケンタウロス隊だったし、二回目はゴースト・ケンタウロス軍団だったし、三回目なんかキョンシー・ケンタウロスだった。

 で、さっき俺達が倒したのはミイラ・ケンタウロス。ミイラと見て試しに撃ってみた炎魔法が通る通る。こういうボスやザコエネミーの情報一つでお金が貰えるし、ドロップ品も新規アイテムなので高価買取キャンペーン実施中なのだ。墓馬迷宮は中位ダンジョン程度の難易度だが、今限定で下手な上位ダンジョンよりもうま味がある。

 ちなみに、例の深域武装はホネホネくんが落としたものだ。帰還クリスタルの前で性能確かめてたから帰りが遅くなったんだよな。

 

「ありがとうございました」

 

 情報代を貰い、受付に行ってみると、まだ換金中だった。未だ見慣れないアイテムは鑑定に時間がかかる模様。

 仕方ないので、俺達はその辺に座って換金が終わるのを待つ事にした。

 

「やっほーイシグロさん! ここで会うんは初めてやな!」

 

 するとそこに、見覚えのある女性が声をかけてきた。

 白と黒の髪に、丸い虎耳。踊り子衣装のミアカさんだ。

 

「どうも、ミアカさん。先日はお世話になりました」

「ええよええよ。それより、なんや景気良さそうやん? ウチの店で使ってかん?」

「入用ですので」

「そか。なるほどな~?」

 

 言って、ミアカさんは俺の後ろにいる三人に目を向けた。

 それから謎のにんまりスマイルになると、急接近して耳元に口を寄せてきた。

 

「で、ナンボふっかけられたん?」

 

 何の事かくらいは分かる。イリハの事だろう。情報は抜けてないと思うのだが、まぁ状況証拠的にか。

 

「ぼちぼちですね」

「なはは! イシグロさん的にはって話かいな! ほんじゃウチは馬に蹴られる前に退散するわー!」

 

 快活に笑ったミアカさんは、別れ際に「ほなバイナラ」と手を振って去っていった。

 

「ご主人ご主人」

「なに?」

「あの人、ご主人に気があるっぽいッスよ」

「分かりませんが、不思議な匂いがしました」

「そうなの?」

「あら、嫉妬してあげるべきかしら?」

「皆でご飯食べに行くとかはダメなのかな」

「流石ご主人ッス! ある意味で男の中の男ッスよ!」

 

 なんて話していると、すれ違う冒険者から挨拶を受ける。

 

「ようイシグロ。今日の主はどんな感じだったんだ?」

「どうも、ヨタロウさん。変わらず半人半馬の死霊系でしたよ。腐敗してたんで、前と違って炎がよく通りました。アレなら槍も効くと思います」

「ほ~ん、あんがとよ。いい感じに情報が集まってきたな。俺もそろそろ潜るかな~っと」

「ドーモでござるよ、イシグロ殿」

「ベイゴマ大会やるのだ。イシグロも参加するのだ」

「オレのオレンジ・オーレオールが火を噴くじゃん」

「ベイゴマは初めてなんですが、では試しに」

 

 で、気が付けばルクスリリア達も一緒に皆でベイゴマで遊んだ。

 意外にもグーラは力が強すぎて失敗しまくって、ルクスリリアが結構上手かった。なおエリーゼは大暴投を連発した。

 

「おい、緑の一番! こっちだ!」

「はい。ありがとうございました。では、自分はこれで」

 

 呼ばれたのでベイゴマ大会を離れる。お金を貰い、俺達は神殿を出た。

 日本でも異世界でも、冬は夜になるのが早い。辺りはすでに薄暗かった。電灯のない異世界でも、等間隔に植えられた街路の桜がぼんやり光って道を照らしてくれていた。もう少しすれば、他のお店が雪洞魔道具を点けてくれるだろう。

 

「じゃあ、イリハのところ行こうか」

 

 そのまま真っすぐ帰る事はせず、俺達はイリハのいる東区の南部に向かった。

 豊狸屋に着くと、営業時間内である事を確認してから扉を開ける。

 相変わらず受付は無人だったが、チリンチリンと鈴が鳴ると二階から重い足音が聞こえてきた。

 

「どうもどうも、イシグロ様!」

 

 そうして現れたのは、最近見慣れてしまった狸人店主のゴロキチだ。

 彼は俺の金策が上手くいきそうなのが分かると、初対面の時よりも露骨に媚びてくるようになったのだ。

 

「イリハの様子を見たいのですが」

「ええ、こちらに」

 

 今日ここに来たのは、イリハの状態確認の為だ。

 俺は俺で、店主を信用していなかった。前金を渡したのだ。ちゃんと安全に暮らせているかを定期的にチェックしているのである。

 一応、衣食住は改善してるようだった。服もしっかり寒さカットしてる奴だし、食事も良い物を食べさせていると。安全の為に部屋に留まってもらってるが、それは辛抱してもらっていた。

 

「様子はどうですか?」

「ええ、ええ! 毎日滋養強壮に良い食事を摂らせておりますので、何卒ご安心を!」

 

 イリハの部屋は豊狸屋の二階にあり、その前には如何にもお侍って感じの鬼人男がいた。

 彼はイリハを警護している用心棒だ。冒険者位階は銀細工。けっこう恨み買ってそうなゴロキチの事である、彼と店主は馴染みの間柄に見えた。

 正直、俺としては店主の馴染みの護衛は信用できない気もするのだが、そこを突っつく事は流石にできない。そも、護衛自体がむしろ過剰とも思えるのだが、ゴロキチ的には付けとかないと不安らしい。

 

「イシグロです。入っても構いませんか?」

 

 ノックし、了解を得る。

 ドアを開けると、豪華な絨毯の真ん中でイリハが三つ指をついていた。

 

「お待ちしておりました。イシグロ様」

 

 そうして上げられた顔には、以前と違って生気が在った。

 肌艶も良く、痩せぎすだった身体にはうっすら肉が戻っている。桜色の髪は灯りを反射して輝いていた。

 けれど、千歳緑の瞳は未だ不安に揺れていた。当然だろうと思う。現状を抜け出せるかもという希望と、希望の後の絶望を杞憂しない訳もなし。

 

「頭を上げてください。イリハさん」

「はい。それでは、お茶を用意させて頂きます」

 

 何度か会ってるので、ある程度お互いの性格は分かっている。俺達は部屋にあるテーブルセットに腰を下ろした。

 

「イリハ。お土産買ってきたッスよ~」

「それと、アナタの知り合いから文を預かっているわ」

「あ、獣拳記もう読まれたんですね!」

「ありがとうございます、皆様……」

 

 それからイリハは三人と話をはじめた。

 今後イリハがどうなるかはともかく、自立の目途が付くまで彼女は俺が預かる事になる。ならばルクスリリア達と親交を深めておくべきだろう。

 俺は姦しいロリ達の会話をオカズにお茶を楽しんだ。

 

「イリハさん」

 

 ある程度お話をしたところで、俺はお茶を置いて真剣な声色を作った。

 イリハと目を合わせる。千歳緑の大きな瞳は、じっと俺を見つめていた。

 

「身請けの準備が整いました。明日の朝、お迎えに上がる予定です」

 

 彼女の不安を和らげるように、できるだけ落ち着いた声音で伝えた。

 此処に来た理由は彼女の状態の確認なのだが、今日の一番の理由はこれだ。金策完了を伝える為である。

 すると、イリハは一瞬だけ表情を緩め、次いで口元を手で隠し僅かに目を伏せた。 

 

「た、大変光栄にございます。申し訳ありません、その……言葉が見つからなくって……」

 

 そうして、イリハは数度瞬きをしてから、目尻に溜った涙を拭った。

 うれし涙、とは少し違うのだろう。大きくて沢山の複雑な感情が溢れている事くらい、人の機微に鈍い俺にだって分かった。

 

「す、すみません……。エリーゼ様の御情けを、頂いてもよろしいでしょうか……?」

「もちろん、エリーゼ」

「ええ。ほら、泣き止みなさい(・・・・・・・)……」

 

 それから、日課の状態異常回復魔法をかけると、イリハはスッと気持ちを落ち着けた後、またも目を伏せた。

 

「本当に、本当に何とお礼を言えば良いか……。私めのような下賤の者を身請けして頂けるなど、感謝の極みにございます……」

「いえ、むしろ自分の方こそ、イリハさんを身請けする事が出来て大変嬉しく思っています」

「イシグロ様は、本当に……」

 

 それから、また少し話した後、俺達はイリハの部屋を出た。

 彼女は扉が閉まり切るまで、ずっと首を垂れていた。

 

「まこと、お人好しで危ういのう。お主も」

 

 扉が閉まると、外で待機していた鬼人に声をかけられた。

 彼は腕組姿勢で壁に背を預けながら、くつくつと笑っていた。

 

「そのつもりはありませんが」

「騙されてもいい、というクチであろうな……。まったく、あの仔狐程度に小生を付けるなど、勿体ないとは思わんか。まぁお陰で楽ができる訳だが」

「くれぐれもお願いしますね」

「わかっておる、わかっておる。例えお主相手であっても、半刻は凌いでみせようさ」

 

 彼の言う通り戦ったら俺が勝つとは思うが、確かにこの廊下でやるなら骨が折れそうな相手である。

 何となくどこぞの農民剣豪みたいな雰囲気あるし、その辺は安心できるかな。

 

「では、最後にこちらに署名をお願いします。はい、確かに……」

 

 それから狸人と最終調整をして、契約はほぼ完了である。今は奴隷証の作成待ちで、それは明日の朝に届くとの事だ。

 加えて、市役所的なとこに手続きをしなければならないのだとも。俺としては今すぐお迎えしたいところだが、国の制度なら仕方ない。

 というか、如何にも悪徳商人って感じで実際悪い奴なんだろうが、そういう公的な手続きはしっかりやるタイプなんだな。意外と言えば意外だが、不思議と納得はできる。

 

「ぐふふ、お待ちしておりますよ。イシグロ様」

「はい。明日の朝に」

 

 狸人のニコニコスマイルを背に、俺達は上玉館に向かった。

 さて、帰ったら女将さんに言って宴の準備をしなくっちゃあな。

 歓迎しよう、盛大にな。

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺達は正装をして豊狸屋に向かった。イリハを迎えに行く為だ。

 上玉館の女将さんには話を通してある。今日の夕飯は聞き取り調査で判明したイリハの好物をしこたま用意してもらっているのだ。

 

「よし……!」

 

 何度経験しても、いざ購入となると緊張する。

 俺は覚悟を決め、豊狸屋の豪華なドアノブに手を掛けた。

 

「アレ?」

 

 ガチャガチャと、押しても引いても扉が開く事はなかった。鍵がかかっているのだ。

 太陽を確認する。正確な時間は分からないが、営業時間内のはずである。

 

「すみませ~ん」

 

 ドアノッカーを使っても、反応がなかった。

 いっそ不自然なほど、静かだった。

 

 閑静な街に、冷たい風が吹く。

 嫌な予感がした。

 

「……グーラ、音は?」

「分かりません。結界で覆われているので」

「魔力も見えないわ。結界があるもの」

「ご主人、武装するッスよ」

「あぁ……」

 

 状況の変化に気づいてか、三人も迷宮探索の時と同じ表情に切り替わった。

 俺はコンソールを弄り、皆の服を迷宮用に切り替えた。それからアイテムボックスから武器を取り出し、配る。俺は無銘、ルクスリリアは細剣。グーラが短剣で、エリーゼはいつもの王笏だ。

 もし勘違いだったら、あとで弁償すればいい。完全武装を整えた俺は扉に掌を当てがい、能動スキルを使った。

 

「すぅ……ハッ!」

 

 武闘家スキル、“剛掌底”である。ズガン! という快音の割に、ドアには傷ひとつない。結界だ。

 

「任せて頂戴」

 

 位置を交代すると、エリーゼの王笏に漆黒の雷が生成され、それは刃の形と成った。“斬滅の魔導剣”、魔力消費と攻撃範囲を犠牲にした超火力魔法である。

 

砕けろ(・・・)……!」

 

 まるで鍵穴に鍵を差し込むように、エリーゼは王笏を突き刺した。

 瞬間、激しい発光と共に、ガラスが割れるような音が響く。結界が割れ、鍵穴に大きな穴が開いた。

 

「面倒事が起きる前に済ませよう。今はイリハが優先だ。陣形は屋内用、行くぞ!」

 

 各々武器を構え、文字通りドアをけ破って侵入。

 大きな音を立てたというのに、誰も出てこない。相変わらず無人の受付に不気味な静寂が下りている。

 慎重に、且つ迅速に歩みを進める。真っ先に向かったのはイリハの部屋だ。

 

「イリハ……!」

 

 罠を警戒しつつ開けてみると、そこには誰もいなかった。素人目だが、争った痕跡はないように見える。掃除したてって感じの綺麗な部屋だ。

 机の上には小さな風呂敷が一つ。広げてみると、中には小さな鏡と櫛。これはイリハの荷物か、手がかりではない。

 

「クソがよ……!」

 

 焦りが募る。怒りが沈殿する。冷静さを維持すべく食いしばった歯がギリッと音を立てた。

 そのまま捜索を続け、手当たり次第にドアを蹴破って回った。そして、一番奥の部屋に着く。ゴロキチの書斎というか、社長室みたいなところだ。

 俺は怒りのあまりドアを蹴り壊してしまった。もしかしたらという疑念のせいか、思ったより強い力が出た。

 

「ゴロキチ……!」

 

 すると、中には床で倒れている狸人店主の姿があった。

 逃げてない? こいつが犯人じゃないって事か? 脈を測る。死んでは、いないな。

 身体を叩いても起きない。気絶というか、寝ている感じか。顔色はかなり悪い。毒に冒されているのか……?

 

「エリーゼ、回復頼む」

 

 エリーゼの魔法で回復させると、ゴロキチはうんうん唸ってから目を覚ました。

 それから上体を起こし、俺と目が合った。ゴロキチは驚愕に目を丸くしていた。

 

「こっ、これはこれはイシグロ様、よくぞおいでくださいまし……」

「そういうのは後で。イリハが見当たりません。どこに行ったんですか?」

 

 みしりと、無銘を握る手が強くなる。

 脅しの意図がなかった訳ではないが、俺の問いを聞くとゴロキチは顔を真っ青にして立ち上がった。

 

「なんっ、ですって……!?」

 

 図体の割に俊敏な動きで机の上を確認し、かと思えば引き出しや本棚を漁り、這いつくばって床を確認していた。

 

「無い! 無い! 無い! 無いィッ!?」

 

 紙が散乱する。焦りのあまり余計に部屋を荒していた。

 彼の身体から、ドッと汗が噴き出るのが分かった。

 

「ま、まさか……!」

 

 そのまま走って部屋を出ると、イリハの部屋の中に入っていった。

 俺達も続くと、そこではゴロキチは全身を震わせていた。感情が爆発する兆候である。

 そして、顔を真っ赤にして、叫んだ。

 

「あんの野郎! 裏切りやがったなぁああああああ!」

 

 イリハをお迎えする朝は、一転波乱の幕開けとなった。

 

 戦いの予感がする。




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