【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 誤字報告もありがとうございます。本当に助かっています。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケートのご協力、ありがとうございました。
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暗夜行炉 其之弐

「なるほど、牛鬼王様が師範をしてらっしゃるんですね」

「はい。ですが、師は多忙の身ゆえ、最近はあまり道場にも顔を出せず……。まぁあの方の威光で儲けさせてもろとるんですけど」

 

 あれから話を修正して道場見学したい旨を話すと、一行は武道場の方へ向かう事となった。

 その間、ウラナキさんから剣鬼道場についての話を聞く事ができた。

 

 曰く、剣鬼流は牛鬼族に伝わる兵法を元にした流派らしく、源流から色々とスポイルして今に至っているらしい。

 で、これを現リンジュ議会総代の牛鬼王様がカムイバラで広めたらしく、お陰で現在は門弟の数も増えまくってとても好景気であると。空前の剣鬼ブームな訳だ。

 とても興味深い話なのだが、 件の道場に足を進める度。厚き門弟達の雄叫びが近づいてくるのが何とも言えない。

 

「ミアカさんも剣鬼流を?」

「いいえ。小っちゃい頃はやっとりましたけど、いつやったかコロっと辞めてもうて。今はなんや舞踊や遊女や冒険者やゆーて好き勝手やっとります」

「そうでしたか。てっきりミアカさんの技もこちらで学んだのかと」

 

 歴史の話の後は、少し気になっていた事を訊いてみる。

 一度しか見ていないが、ミアカさんはカポエラっぽい格闘技を使っていたのだ。ああいう格闘技はこの道場でも教えられてるのかと思ったが、そうでもないらしい。

 

「一応、当身の練習とかもするんですよ。剣術が主ですけど、他に才がある子は傘下のトコに行かせたりもするんで」

「なるほど」

 

 メジャー道場だけあり、新しく入ってくる門弟の中には剣以外の才能を持つ奴が入ってくる事もあるのか。そういう人の為にも剣以外の練習も行ってて、他の才ありとなったら専門の道場に送るんだな。よく出来ている。

 

「具体的に、剣術の他には何を教わる事ができますか?」

「んー、槍とか薙刀とか。鉞に、棍棒に……。弓は門外漢やけど、まぁ一通りは。さっきも言いましたけど、主にやっとるんは剣術なんです。あー、剣ゆうても盾持ちの方はやっとらんのですけど」

 

 そうこうしていると道場に到着。掛け声がうるさくて、若干ウラナキさんの声が聞き取りづらい。

 靴のまま開けっ放しの入り口に入ると、そこはシグルイ的な屋内道場というより、なんだか弓道場っぽい雰囲気の場所だった。

 一段上がった床張りスペースの外、広い砂場では沢山の門弟達が練習をしていた。統率されている感じはないが、皆元気いっぱいだ。

 ていうか、元気いっぱい過ぎて普通に喧しい。アンプもスピーカーもないのに、ライブ会場めいた爆音が鳴り響いている。

 

「師範代! おはようございます!」 

「「「おはようございます!」」」

「おはようさん! 続けて続けてー!」

 

 ライブの最中じゃあ話し声も大きくなる。大きな声で挨拶してきた門弟に手を振って返すと、ウラナキさんは庭の方へ掌を向けた。

 

「今は基礎練習の最中です! 段位によってやる練習が違うんですー!」

 

 庭では侍っぽい服を着た男女が各々武器を振っていた。多くは木刀で素振りをしていて、木刀の型を確認しているグループや、足運びの練習をしているグループなんかもあった。

 まぁ、それはいいのだ。それは……。

 

「きぃええええええええ!」

「ぬぉぉぉおおああああああ!」

「死ね! 死ね! 死ねぇ!」

 

 バギィッ! ドゴォ! ドガガガガガガ!

 庭の壁沿いでは、木刀や木剣や木槍を持った門弟達が石灯籠めいたゴーレムに向かい滅多やたらと武器を打ち付けまくっていた。

 猿叫とは少し違うが、凄まじい気迫と声量を伴い攻撃しまくる様は圧巻である。彼等くらい鎧袖一触できる確信こそあるが、何故か気圧されてしまった。

 

「あの、奥の方でやっているのは!?」

「アレは岩像打ちゆうて、うちの流派の業を身に付ける為の練習です! 一に気合、二に気合、三四も五も六も気合で得物を振って! 剣鬼の技を学ぶ土台を作るんです!!」

「な、なるほど……」

 

 うん、剣鬼流の門弟さんはチェストが得意なフレンズなんだねってのは分かった。

 実際、剣鬼流の使い手であるイスラさんの一撃は重くて速くて痛かった。技単体で見たら優秀なんだろう、多分。

 

「アレやって強くなれるんスかね?」

「さぁ? 私が習った剣術ではやらなかったわ」

「繰り返す事で武器を振るう動きを身に染みこませているのだと思います。それに、魔物相手に気合で負けていては勝てる戦いも勝てなくなるので、咆哮の練習も有用かと」

「うぅ! 耳が痛いのじゃ~!」

 

 見ると、うちの子等は各々感想を漏らしていた。

 ルクスリリアの気持ちには共感できるし、グーラの言ってる事も理解できる。俺の希望とはズレている気もするが、これはこれで実戦的ではあるのだろう。知らんけど。

 

「よろしければ、イシグロさんも体験してみてください!」

「はい! 是非!」

 

 男は度胸、何でもやってみるもんさ。

 という訳で、木刀を貸してもらってチャレンジ開始。俺は木刀を正眼に構え、岩ゴーレムに相対した。

 

「イシグロさん、振り方なんてどうでもよろしい! 気合、気合ですよ!」

「う、うっす!」

 

 見様見真似だが、郷に入りては精神で頑張ろう。

 俺は思い切り息を吸って、迷宮の主に相対するよう腹に力を入れた。

 

「い、行くぞオラァアアアアアア!」

 

 思い切り振りかぶって、袈裟に打ち込む。ビリッと全身に反動が来た。逆袈裟に打ち込む。反動が来て、全身が跳ね返されそうになる。

 これ、多分ゴーレムに物理反射属性ついてるぞ。ダメージは反射されていないようだが、衝撃の何割かが跳ね返っている。さっきから攻撃ヒットの感触が変だ。だが構わず攻撃。ひたすらに続ける。気分は薩摩ホグ〇ーツ生だ。

 

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

「いいですよイシグロさん! 剣に気合を!」

「イィィヤァアアアアアッ!」

「斬れてます! 斬れてますよ! 背中に剣鬼が宿ってます!」

「死ねオラァアアアアアッ!」

 

 大声上げて武器を振りまくる。バシィーッ! バシィーッ! 木刀から伝わる反動。崩れそうになる体幹を抑えつけ、手から滑り落ちないよう柄を握る力が強くなる。

 過去、これほどまでに硬い魔物がいただろうか。いやいない。巨像ゴーレムでも攻撃当てたらダメージは入っていたのだ。耐性でも吸収でもなく反射。そんな石灯篭ゴーレム相手に、何と不毛な作業だろうか。どれだけやっても、倒せる訳がないというのに。倒しても何のドロップもないというのに。

 だが、これでいい。何故なら、今俺はチェストしているからだ。

 

「チィィイエストォオオオオオオッ!」

 

 渾身の袈裟斬りを見舞う。バギィーッ! という謎の快音が響き、衝撃波が生じて砂が舞い上がる。

 やがて、岩ゴーレムの眼から光が消えた。見ていた門弟達が「おぉ」と野太い声を漏らした。

 何か終わったっぽいので木刀を下ろすと、全身からモクモクと蒸気が漏れていた。忍空かよ。

 にしても疲れた。芝三千メートル全力疾走しても疲れないであろう俺の銀細工ボディでもかなりキツい。確かにキツいが、これは中々……。

 

「いいなコレ……」

 

 やってみて分かったが、気分爽快である。

 大声を出したせいか爆音環境に居続けた影響か、さっきから耳の奥がグワングワンしているが、このやり遂げた感は中々に爽快である。

 このゴーレム、売ってくれないかな。言い値で買うゾ。

 

「凄いですイシグロさん! 初めてで鍛錬岩像を沈黙させるとは!」

「はは……どうも」

 

 木刀を返すと、ウラナキさんからお褒めの言葉を頂いた。チートがあるとはいえ、全力出すのは気分がええ。

 ウラナキさん以外の門弟達からも「お美事でございまする!」的な賛辞を頂く。その声色はフレンドリーだが、眼が笑ってない。元地球人でもわかる、こいつら戦意に満ちてやがるのだ。カカロットかな?

 

「さぁ皆さんもどうぞ! やってみてください!」

「いいんですか!?」

「ええ! イシグロさんはその為に来たんでしょう!?」

「それでは有難く!」

 

 了承を得たので、ルクスリリア達もチャレンジ。各々木の武器を持って、岩ゴーレムに向かい合う。

 ちなみに、グーラだけは虎眼流かじきサイズの木剣を貸してもらった。

 

「はじめ!」

 

 ウラナキさんの合図。ルクスリリア達は一斉に武器を振った。

 

「やーっ!」

 

 ルクスリリアは流石の元軍人ぶりで、上手に木剣を振っている。

 武器は木剣だが使い方は副武装の細剣と同じで、凄まじい速度の連撃だ。反動も上手くいなしているが、多分そういうのを練習する奴じゃないと思う。

 

「ふっ! はぁっ!」

 

 エリーゼはキビキビと綺麗な太刀筋で木剣を振っていた。

 何か特定の型をなぞっている感じだ。これは幼少期に習っていたという剣術だろうか。

 

「やぁあああああ! ……あれ?」

 

 バギィ! グーラは思い切り剣を振るって、一撃でゴーレムを沈黙させてしまった

 これには見ていた人たちも唖然。こんなんじゃ練習にならないよ。

 

「やー! やー! やぁー!」

 

 ぺち、ぽこっ、ぱふん。

 木刀を握ったイリハは顔を真っ赤にして打ち込んでいた。

 が、ヒットの度に体勢を崩してしまっている。反射に負けているのだ。

 

「やー! あ、ぐぇ!?」

 

 やがて反射された木刀が手からすっぽ抜け、宙を舞って落ちて頭にヒット。結果、イリハは目をグルグルにして倒れてしまった。

 

「きゅぅ~」

「大丈夫かイリハ!」

 

 すぐさま患部に治癒魔法をかける。大した傷ではないが、当たり所が悪かったようでグロッキーになっていた。

 

「何というか、ちぐはぐですね! 何の剣術も習っていないという割には握りも型もしっかりしているのに、心と体が全くなっていません! 不思議です!」

 

 実際、グーラ以外は俺も皆もチートありきだからな。達人からはそう見えるのか。

 いやにしても、剣鬼流はともかく岩像打ちはイリハには合ってない気がする。やるならもう少しレベルアップしてからでは……?

 

「もし、入門した場合は何から始めるんでしょうか?」

「そうですね! 素振りの後は、とにかく徹底的に岩ゴーレムを打ちまくります! 剣鬼流の修行はその後です!」

 

 まぁそれはそうか。どんな武術も一朝一夕で修められる訳もない。基礎を習いに来たのだ。基礎を疎かにする事はできない。

 けど、やっぱ何というかこう絶妙にズレてるんだよな。俺が習いたいものとも、イリハに習わせたいものとも。

 

「いぃええええええ!」

「やああああああ!」

「ぐああああああああ!」

 

 あと、この音量だ。相変わらず大声を出しまくる門下生たち。

 元気もノリもいい彼等だが、グーラとイリハが辛そうで、エリーゼも若干ゃ不機嫌になっている。

 

 というか、習ったとして、これで侍ジョブとか生えてくるのだろうか。

 もし生えてくるとしたら、“ぼっけもん”とか“薩摩隼人”とかその辺になりそうな……。

 

「きぇええええええ!」

「チィイイイエエエエアアアアア!」

「ンナラァアアアアアアア!」

 

 悪ぃ、やっぱ五月蠅ぇわ……。

 

 

 

 

 

 

 あの後、俺達はウラナキさんの厚意で剣鬼流の試合風景を見せてもらった。

 練習試合とはいえ門弟同士の打ち合いには鬼気迫るものがあり、実際迫力満点であった。

 

 試合を見た感じ、どうやら剣鬼流は攻撃重視の剣術であるらしく、明確にアタッカー向けの技を教えているっぽい。

 とにかく通常技を鍛えまくって全技を必殺技に昇華しようとしてるっていうか、そんな感じ。教えやすく、覚えやすく、極め難いような印象を受けた。

 

 分かりやすいのはいい事だ。が、イリハには向いてないっぽいので、やっぱり一旦保留。

 ならばと傘下道場の案内をされたのだが、そこにもいい感じの道場はなかった。武器種は変わっても、戦闘哲学は同じらしいので。

 それじゃあバイバイ、である。ありがとうございました。

 

「イリハには合わなかったかもしれませんね」

「耳の中がず~んってしてるのじゃ……」

 

 そんな訳で、次である。

 大手の次も大手を見に行こう。

 

 剣鬼道場と双璧を成す、カムイバラの二大道場といえば、パンフに曰くイケメンエルフが頭を張ってるという“澄刃道場”である。

 ちょうど本部が東区にあるというので、道中景色など楽しみつつ件の道場に向かう事に。

 

「ここか」

 

 それなりに歩いて到着。さすが二大道場の片割れだけあって、敷地が広く門も立派だ。

 門前に来ても五月蠅くないのに驚いてしまった。随分と静かである。いや、これは比較対象が悪いな。

 

 門を潜ってすぐの屋敷、来客用の魔導インターホンを押す。

 しばらくすると、屋敷の中から人が近づいてくる気配がした。

 

「ようこそおいでくださいました。当方、澄刃流道場の本屋敷でございます。ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

 出迎えてくれたのはドワーフの女性だった。異世界人の中では身長が低めで、全体的に肉付きがいい体型をしている。

 彼女の腰には大小二振りの刀があった。雰囲気からして、銀細工下位程度には強そうである。

 

「ご丁寧にどうも。私、イシグロ・リキタカと申します。“カムイバラ道場めぐり”を読んで来たんですけど、今日って道場見学は可能ですか?」

「イシ……? あ、いえ、何でもございません。見学でしたら可能です。こちらへ……」

 

 ドワーフさんに案内され、道場に向かい外廊下を歩く。

 道中、目に入る庭は綺麗に整えられていて、和というか禅というかでとても美しかった。

 

「こちらになります。履き物を脱いでお上がりください」

 

 やがて大きな縁側のある道場に着くと、靴を脱いでから入った。

 道場内では等間隔に並んだ門弟達が揃って素振りをしているところだった。

 振りかぶって、振り下ろす。振りかぶって、振り下ろす。軍の行進のような、一糸乱れぬ動きだった。皆、声ひとつ上げておらず、辺りは静謐な空気が流れている。

 規則正しい動き。中でも目についたのは、素振りをしている門弟たちが木刀ではなく竹刀を使っているところだった。

 

「当方、段位制となっており、現在は初段の練習中です。前で見本を披露しているのが高弟で、最前列は初段の門弟となっています。奥で座っているのが師範代です」

 

 静謐な空気を崩さぬよう大人しくしている俺達に、ドワーフさんは小声で説明してくれた。

 やがて正座をしている師範代のところに着くと、ドワーフ女性は俺に掌を向けて云った。

 

「こちら、見学にいらしたイシグロ様です。“道場めぐり”を読んだとの事で」

「ご紹介に預かりました。イシグロ・リキタカです」

「うむ、イシグロ殿か。見学は結構だが、あまり場を乱さぬように」

 

 師範代は如何にも頑固一徹といった雰囲気の獅子人女性だった。彼女もドワーフさんと同じく腰に大小の刀を佩いている。

 獅子人女性は俺を一瞥した後、座ったまま門弟たちに目を向け直した。一瞬、ドワーフさんの眉根が寄ったのが見えた。

 

「イシグロ様はこちらに」

「はい」

 

 道場の端に案内され、皆してちょこんと正座。グーラとイリハは平気そうだが、ルクスリリアとエリーゼはちょっと辛そうな顔をしていた。

 ドワーフさんは師範代席に移動すると、獅子人女性とは距離を離して正座した。

 

「あの二人、仲悪そうッスね……」

「しっ、静かに……」

 

 まぁそんな気がしないでもないが、そういうのはスルー安定である。

 

 暫く後、素振りが終わった門弟達は各々ペアを組んで竹刀をぶつけ始めた。

 あくまでもリズミカルに、あくまでも静謐に。迷宮探索歴半年の俺の眼には分かる。これは交互に攻撃と防御を繰り返し、攻めやすいところを攻め、守りやすいところを守る訓練をしているのだ。

 沢山いる門弟達は各々違う動きをしているのに、そこには澄刃流という一つの秩序があり、真剣に鍛錬に打ち込んでいるようだった。

 

 おぉ、なんんかいいぞ。剣鬼流と違い、この流派を学んだら、オーセンティック・サムライになれちまいそうな雰囲気がある。

 練習も体系化されているっぽいし、教育カリキュラムも充実してそうだ。なにより静かである。

 

「いいねぇ……」

「はい」

「そうかしら?」

「氣が乱れておるのじゃが……」

「んー、なんか違和感あるッスねぇ……」

 

 ルクスリリアの呟きに、俺は驚いて彼女の方を見た。

 え? マジ? こういう時のルクスリリアの勘は良く当たる印象なんだけど……。

 主に性関連で。

 

「前のトコに比べて、なんか男少なくないスか?」

「あ、確かに……」

「それに……」

 

 と、ルクスリリアが何かを言いかけた、次の瞬間である。

 

「やぁ皆。やってるかな?」

 

 春風のような柔らかな声。陽光に煌めく若草色の髪。

 ほわぁ~っと、稽古をしていた門弟達が呆けたように竹刀を下ろす。誰かが「師範……」と呟いた。

 そうして現れたのは、白鞘の刀を佩いたイケメンエルフだった。

 

「久しぶり。長い間留守にしてゴメンね」

 

 凄まじきイケメンだった。現代日本に参上したならば、間違いなく大量の夢女子を量産するだろう顔面偏差値の高さを感じる。

 しかしここは力を貴ぶヴァイオレンス寄りファンタジー異世界。彼の着流しから見える胸板は城壁のように分厚く、広い肩は小さな馬車を載せているかの如く盛り上がっている。おまけにタッパもデカく、長い手足は丸太のように太い。

 如何にもエルフエルフした武器工匠のアダムスに対し、澄刃流師範は細身なエルフイメージからはかけ離れたゴリマッチョエルフだった。

 

「「「はい♡ 師範♡」」」

 

 ん? 流れ変わったな。

 さっきまで静謐な剣術道場だったのが、一気にキラキラ系の大学サークルな雰囲気になったぞ。

 若い門弟達はトロけた顔でマッチョエルフを見つめていた。

 

「段位昇格おめでとう。よく頑張ったね」

「はいぃ~♡」

 

 黄色い声に熱い視線。イケメンマッチョエルフ師範は、道場に上がると門弟達に気さくなボディタッチをしていった。

 頭なでなで。褒められた人間族の女性は腰砕けになっていた。なんだ? 新手の撫でポ使いか?

 

「二人とも、よくやっているね」

「当然だ♡」

「当然です♡」

 

 ひとしきり門弟達とコミュったエルフは、いつの間にか起立していたドワーフ&獅子人の師範代にお褒めの言葉を贈っていた。

 淫魔じゃなくても分かる。声をかけられた二人は完全にメスの顔になっていた。いやだって、目にハート幻視できるもんアレ。

 

「おや? 貴方は……」

 

 ふと目が合うと、マッチョエルフが近づいてきた。俺も立ち上がる。彼の背後では二人の師範代が据わった眼でこっちを見てきた。

 俺は過去の失敗を鑑みて、ある程度の距離間になった瞬間に先制して森人礼の構えを取った。

 

「お初にお目にかかります。縁持ちましてラリス王国は一の都、西方にて切った張ったの迷宮探索を生業としています。同じく西区に住まいを構えます。私、姓はイシグロ、名はリキタカでございます。身も心も粗忽者故、以後ざっくばらんにお頼み申します」

 

 言い切った後、更に深く腰を落とす。これは以前エリーゼに教えてもらった対森人流の挨拶の口上だ。

 このアイサツ・ジツにはいくつかバリエーションがあるのだが、今回は目上の人に行う省略パターンを選択した。勿論、俺の後ろにいるルクスリリア達も似たようなポーズを取っている。昨日、皆で練習したのだ。

 

「え……」

 

 やったぜ上手く言えた……と思っていたが、返答がこない。場もしんとしている。

 聞き耳を立てていると、何やら門弟達から声にならないざわざわが聞こえてくるような。しかも、あんま好意的ではない感じの。

 

「え、あっ……ごほん。どうぞ、お顔を上げてください」

 

 顔を上げると、マッチョエルフも同じような構えを取ってみせた。俺、その構えは習ってないぞ。

 

「私、生まれも育ちも鈴の影、しがない森の者にございます。名をデイビットと申します。どうぞ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 デイビット氏の口上が終わると、道場内に俺の時とは別種のざわつきが広がった。色にするとピンクとか黄色とか赤とかの、凄く好意的なやつ。

 許しを得て姿勢を戻すと、今度はラリス風の握手を求めてきた。

 

「お噂はかねがね、イシグロさんに来てもらえるとは光栄です。見学との事ですが、我が流派に興味を持って頂けたようで嬉しいです」

「こちらこそ、師範にお会いできた事、光栄に思います」

 

 がっしりと握手。彼は満面のニコニコスマイルを向けてきた。俺にニコポは通じないぜ。

 すると、デイビットさんは握った手をニギニギしてきた。彼の親指がねっとり絡みついてくる。たまに変な握手してくる人いるけど、彼もその類いだろうか。

 

「どうぞ。思う存分見ていってください。フィーラン、イシグロさん達にも座布団を」

「あ、はい……!」

 

 促されるまま、見やすいところに案内される。

 座布団を取りに行ったドワーフ女性と、それを冷たい目で見送る獅子人女性。デイビットさんはいっそう眩しい笑顔になって門弟達の指導に戻っていった。

 

 それから、俺達は柔らかい座布団の上で澄刃流のトレーニング風景を見学する事となった。

 見学して分かったのだが、澄刃流は攻守のバランスに優れたテクニック重視の流派なんだと思う。

 剣鬼流のような荒々しい力強さはなく、かといってヒョロヒョロと情けない印象もない。対人でも魔物相手でも、冴えた剣筋は鎧も鱗も構わず切り裂かんという圧を感じる。

 

 練習方法もしっかり体系化されているようで、見せてもらった型稽古は前世剣道で見たモノとは大分違っていた。

 全ての型が魔物の肉を削ぐために。全ての技が間合いの者を断つために。それは気合を前提とする剣鬼とは別種の実戦主義の剣技に見えた。

 

 悪くないんじゃないか? 俺視点、けっこう習いたい意欲が湧いてきますね。

 デイビットさんの話によると、剣術以外にも歩法や呼吸法も習うみたいだし、俺とイリハ以外にも学びがあると思う。

 

「どうでしょう、イシグロさん。軽く一手、僕とやってみませんか?」

 

 ある程度見学させてもらったところで、デイビットさんから練習試合のお誘いがきた。戦士の目というやつだろうか、彼の瞳はやけに熱かった。

 俺としても否はなかった。門弟達の前ってのは緊張するが、殺し合いじゃない対人戦はナンボ経験してもええですからね。

 俺が了承すべく立ち上がろうとした、その時である。

 

「師範、止めた方がよろしいかと」

 

 話を遮ったのは獅子人女性だった。彼女は不機嫌そうに尻尾を揺らしていた。

 

「それは、どうして?」

 

 デイビットさんは困惑していた。俺だって困惑している。

 獅子人女は俺に冷たい一瞥をくれると、再度デイビットさんの方を見た。

 

「目を見てわかりました。こいつは師範の技を盗みにきただけで、澄刃流を習いにきた訳ではありません。今は大事な時期です。よそ者に技を見せるなど……」

 

 言いつつ、獅子人は何故かドワーフ師範代を睨みつけた。

 後ろでは門弟の半分くらいが同意を示すように頷いている。

 

「いや、イシグロさんは……」

「動機を問わないのが澄刃流であったと記憶しています。そもそも、師自らお誘いしているのに、それに異を唱えるのは如何なものかと。師にもイシグロ様にも失礼でしょう。それに、イシグロ様はラリスの方です。後の不利益になるとは考えられません」

 

 口を開きかけたデイビット氏が意識に入っていないのか、ドワーフ女はゾッとするほど冷たい声音で言い返した。

 これにも、後ろの門弟の半分くらいが同意を示すように頷いている。

 

「ちょっと二人とも……」

 

 仲裁しようとするデイビットさんだが、そのうち二人は昔気質のヤンキーのようにメンチビームを撃ち合っていた。

 こうなると俺達はポカーンである、俺なんか半ば立ち上がった状態で止まってるからね。前世の身体のままだったら腰いわしてたよ。

 

「時期が悪いというのだ。今や師範の身体は師範だけのものではない。道場の看板を背負っているのだぞ。下品な牛鬼共の事だ、どんな謀を巡らせるか分かったものではない」

「そうやって師の自由を妨げるのですか。そもそも、澄刃流は師の求道の為の流派です。門下の貴女が師に逆らうなど、恥を知りなさい」

「二人ともイシグロさんが見ているから……」

「そうやって首を垂れるだけが師範代の仕事か。往く道の露払いさえできぬような代行など、存在する必要はないと思うがな」

「貴女こそ、自身の振る舞いが我が道場に相応しいのか鑑みてごらんなさい。一門の品位を下げる者こそ、代行として不適格ではないでしょうか」

「いや、あのね? 今はそういうのいいからさ……」

 

 おいおい、なんかヒートアップしてきたぞ。

 雰囲気がいいと思っていた道場だが、実際はデイビットさん個人のカリスマありきで纏まっていただけなのか。しかも男女のドロドロときた。いや怖いね。

 

「ひょえ~、女同士の喧嘩は怖いのじゃ~」

「だな。どうする? 帰る?」

「帰りましょう。このままでは、いつご主人様に危害が加えられるか分かりません」

「そうね。はっきり言って不愉快よ、あの女……」

「アタシは好きッスよ、見てて面白いし。ま、帰るのは賛成ッスけど」

 

 小声で伺ったところ、俺達はもう帰る事にした。

 この様子だと、通うのも難しそうだなー。

 

「あのー、お忙しいようなので、そろそろお暇させて頂きますね」

「え? あ、はい。またいらしてください」

 

 盛り上がってる道場内。シュシュと伝え、シュワッと退避。俺はそそくさと道場を後にした。

 

 澄刃流、惜しい所を失くした。

 習う流派としては好みなのだが、道場の人間関係がかなりアウトだ。

 

「ご主人ご主人」

「なに?」

 

 門を出てしばらく後、ルクスリリアに袖を引っ張られた。

 

「師範とドワーフと獅子人。あいつら、最近ヤッたばっかッスよ」

「え、マジ?」

 

 つまり、三角関係か。あるいはハーレムか。いやハーレムって雰囲気はなかったな。浮気か?

 だとしたら尚の事ドロドロ度アップだ。そのうち、デイビットさんは生首になって船に乗せられるかもしれない。

 

「そういうのまで分かるんじゃな、淫魔というのは」

「ッス。あと、あそこにいた奴、全員師範の事狙ってるッスよ。もう半分くらい兄弟姉妹ッスね」

「姉妹? えっ、兄弟もか?」

「ッス。間違いねーッス」

「あっ、ふ~ん……」

「兄弟? 姉妹? どういう事ですか? 森人以外の方も沢山いらっしゃいましたが……」

「別に珍しい話ではないけれど、森人だと希少ね……。まぁグーラは知らなくていい事よ」

「ついでにあの師範、ご主人の事も狙ってたッスよ」

「申し訳ないがロリ以外の森人はNG」

 

 淫魔の目、凄く便利である。

 知りたくなかった事も聞かされたけど。

 

 デイビットさん、爽やかそうな師範だが、下半身の方はかなりふしだらなようで。

 いや、下関係は俺のがヤバいか。うん、これ以上深く考えないようにしよう。

 

「……昼飯いこっか」

 

 いい時間になったところで、何処かで軽く済ませる事にした。

 道場選び、なかなか難しい。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、見つからないなぁ……」

 

 昼食後、三か所ほど道場を巡ってみたが、どれもあんまりよろしくなかった。

 一カ所目は師範がクソザコで却下。二ヵ所目は壺買わされそうになったから却下。三カ所目はルクスリリア達を馬鹿にしてきたから殴りかけてしまって却下。冷静になるのがあと数コンマ秒遅かったら当たってた。

 

「これ、前々から食べたかったんじゃよな~。んむ~! 美味しいのじゃ!」

「はい! とても美味しいです!」

「うぇ~、でもこのお茶苦くないッスか?」

「団子と一緒に頂くのよ」

 

 で、現在は団子屋の長椅子でおやつタイム。

 俺はパンフを眺めて次どこ行くか考え中である。

 

 二大道場はどっちも合わなさそうだったので、残るは中小の道場である。

 そうなると、パンフにはどんな道場なのか概要さえ載ってないんだよなぁ。ホントに小さいのだと名前と住所くらいしか……。

 

「あら?」

「ん? どしたエリーゼ」

 

 パンフを覗きこんできたエリーゼが声を上げた。

 スッと、エリーゼはパンフの中のとある文字列を指差した。そこには「銀竜道場」と書いてあった。

 銀竜? 銀竜って、ヴィーカさんとその一族の事だよな。エリーゼのおじいちゃんで、伝説の英雄。

 

「銀竜道場? 聞いた事ないのぅ」

「もしかしてヴィーカ様がやってるんスかね?」

「いいえ、お祖父様は弟子を取らないわ……」

「しかし、銀竜と書いてあります。これはエリーゼが修めているというヴィーカ流剣術の事ではないでしょうか?」

「修めている訳ではないわ。けど、そうでしょうね……」

「う~ん」

 

 いずれにせよ、厄ネタな気がする。

 有名人のヴィーカさんご本人がやってるとは考え難い。そうでなくとも、銀竜剣豪に縁のある者が居る可能性が高い気がする。

 そんな所に元とはいえ銀竜一族のエリーゼをお出しする訳にはいかない。確実に面倒な事になる。

 

「気になるわ。行ってみましょう」

「えっ? いやいや、絶対面倒な事になるぞ……?」

「竜族の武術はヴィーカ流だけよ。他は大体これの偽物……。もし、銀竜の名を掲げて適当な武術を伝えているのなら、決して許されるべき事ではないわ」

 

 珍しく、エリーゼの瞳は誇りに燃えていた。

 竜族や一族に対しては俯瞰した態度を取っているエリーゼだが、祖父に対しては並々ならぬ感情を抱えているようである。

 

「そうか。なら行こう」

「いいんスか?」

「いざとなったらすぐリンジュを出よう」

 

 ならば、俺は彼女の意思を尊重する。

 危ないのは確かだが、それこそ彼女達を守る為に鍛えているのである。

 守るとは大事な人を籠に入れる事ではなく、その心をこそ安らかに保つ事なのだ。

 

「そう、ありがとう。アナタ……」

 

 そうしてパンフにある住所に向かうと、そこには倉庫のような道場があった。

 一応、小さいけど看板がある。場所に間違いはないが、狭いし古いし結構ボロい。

 別の意味で大丈夫か? ってなる道場だ。

 

「一応、警戒しといてくれ」

「お任せください。イリハはボクの後ろに」

「わ、わかったのじゃ……!」

 

 魔導インターホンは……ない。しゃらんしゃらんと朽ちかけてる鈴を鳴らすと、扉の向こうから足音が近づいてくるのが分かった。

 

「はーい。どちら様?」

 

 建てつけの悪い戸が開く。すると、中から左右一対の角のある少女が出てきた。

 髪色は燃えるような赤毛で、前髪の一部が銀色である。角の形は鬼でも淫魔でもない、竜の角だ。

 

「あの、“道場めぐり”を読んで来ました。銀竜道場はここで合っていますか?」

「えっ! お客さん、入門希望の方ですか!?」

「え、いや……」

 

 入門希望ではない。俺は慌てて訂正しようとしたが、少女は聞く耳を持たずに半身を屋内に向けて口を開いた。

 

「おかーさーん! 入門したいって人来たよぉー!」

 

 ガタ! ドタタタタ! ガッシャーン!

 道場の中から、謎の足音と破砕音。そして、何とも威圧的な魔力がゆっくり近づいてきた。

 

「お母さんお母さん! この人! 冊子見たんだってさ!」

「うむ……」

 

 そうして現れたのは、鋭い眼をした女性だった。

 キリッとした顔つきに、左右一対の角。長く美しい赤髪をしていて、前髪の一部が銀色だ。

 なんというか、女騎士っぽい女性だと思った。

 

「人間族、貴様か……」

 

 タッパのデカい仮称女騎士は、自分より身長の低い俺を見下ろした。

 その声音は重く、ごく自然に威圧されているような気さえする。

 

「ん……んぅ!?」

 

 そんな彼女は、エリーゼを見た瞬間に目を見開いた。

 パカッと口が開き、一歩後退。言っちゃアレだが、かなりのアホ面である。

 

「あ、貴女様は……!」

 

 二歩、三歩後退し、身体を震わせている。

 

「えーっと……?」

「え……」

 

 警戒感が高まる。やはり厄ネタか。

 いつでも迎撃できるように、俺は手ぶりでグーラに指示をした。

 

「エッ……!」

 

 女騎士はクラウチングスタートの姿勢になった。

 突進がくる、備えろ。

 

「エリーゼ様ぁーッ!」

 

 ズサァー。

 と思ったら、彼女は勢いよくスライディング膝立ち姿勢になり、俺の背後にいるエリーゼに傅いた。

 これには一同唖然である。エリーゼも目を丸くして、グーラとルクスリリアも中途半端な構えで武器を握っていた。

 

「エリーゼ様! お久しぶりでございます! よくぞご無事で! 幻魔竜共の襲撃を受けたと聞き、居てもたってもいられずフラム城へと向かったのですがそこに貴女様の影はなく! 嗚呼、しかし無事で良かった!」

 

 叫びつつ、女騎士はギャグ漫画のような量の涙を流していた。

 その後も何事か言っているのだが、涙と鼻水が詰まって全く以て聞き取れない。

 

「知り合い?」

「少し待って頂戴……」

 

 エリーゼは角をトントンしながら唸る。

 やがて、元のモデル立ちになって、云った。

 

「誰よ貴女」

「はっ……!?」

 

 女騎士は石像になった。




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 この異世界、ホモもバイも珍しくありませんが、同性がいけるエルフは珍しいです。
 その点、デイビットは細身で性に淡泊なエルフの中で性欲激強ゴリマッチョバイエルフというクッソ希少な特質を持っています。
 みんな大好きエロフですね。前、感想欄に「エロフ出して♡」ってあったから出しました。
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