【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

95 / 322
 感想・評価など、ありがとうございます。モチベに繋がります。
 誤字報告もありがとうございます。感謝です。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。

 アンケのご協力、ありがとうございました。
 以降の参考にさせて頂きます。


炉力の成果

 ゲルトラウデ師匠は、竜族として生まれ、翼竜(ワイバーン)族として生きる事を強いられた。希少な混血竜族である。

 竜族の場合、混血は純血より弱い傾向にある。事実、ゲルトラウデさんは生まれつき魔力に鈍感であり、魔術師としての才に恵まれなかった。

 かといって戦士として素晴らしい才を持っていたかというとそういう訳でもなく、あまつさえ鱗も翼も竜族基準で貧弱であったという。

 

 そんな彼女ではあるが、曲がりなりにも竜族である。翼竜族の母の期待を受け、幼少の頃から戦士としての教育を受けていた。

 しかし、銀竜一族に伝わる武術とは魔力感知を前提とした戦闘技能であり、魔力に鈍感なゲルトラウデさんには習得困難な代物だったのである。

 

 鱗も翼も貧弱で、魔法は使えず剣もへなちょこ。申し訳程度の権能も、大して有用ではなかった。

 要するに、ゲルトラウデさんは落ちこぼれだったのだ。

 

 幼竜の時分、ゲルトラウデさんには憧れがあった。誰あろう、大英雄ヴィーカさんである。

 だが、いくら努力しても彼の影さえ踏めはしない。一端の戦士にさえ、なれはしなかった。

 足掻くように剣を振るう様を、周囲の者は呆れて見ていたという。

 

 諦めが心を覆っていく。

 このまま、何にも成れず長い竜生を送るのか。

 日を追う度に、ゲルトラウデさんの心根は削れていった。

 

 幸い、銀竜の血を引く彼女は見目麗しかった為、内の血で同族を増やす要員としての価値は認められていた。

 ゲルトラウデとしては、それでも良かった。元より銀竜一族の生まれである。何にも成れぬのであれば、せめて実家に貢献する気構えだったのだ。

 幼い夢に折り合いをつける。努めてそう言い聞かせた。そうなるならば、剣への執着もなくなるのではないか。

 

 そんなある日、彼女は運命的な出会いをした。

 たまたま屋敷に逗留していた、銀竜剣豪ヴィーカその人である。何の気まぐれか、彼は剣の鍛錬を行っていたゲルトラウデさんの前に現れ、すぐ隣で剣を振ってみせたのだ。

 何て事のない、ただ一刀。その絶技は、これまで追いかけていたものではなかった。魔力も鱗も翼もない、弱者が振るう無の剣だった。

 

「分かったか? なら、惑わず往け」

 

 そう言って、銀竜剣豪は去っていった。

 あまりにも大きな影だけを残して。

 

 何故、目の前で剣を振って見せたのか。

 その言葉に如何な思惑があったか。本当に、ただの気まぐれであったのか。何も分からない。

 けれど、ゲルトラウデさんにとって、彼が残した光景は天啓に他ならなかったのだ。

 

 伝承に曰く、銀竜剣豪は鱗を纏えない竜族であったという。

 そんな彼が見出した剣術こそ、一族に伝わるヴィーカ流剣術であり、それをアレンジした銀竜剣術なのだ。

 鱗を纏わぬ竜の牙が、混血とはいえ鱗有る竜に合う訳がなかったのである。

 

 以降、ゲルトラウデさんは寝食を忘れて武術の鍛錬にのめり込み、己の往くべき道を探るようになった。

 銀竜剣術を見つめ直し、時に他種族の戦闘術を学習する。剣だけではない、時に槍や槌といった武器にも手を出した。

 そうして練り上げられ、長い時をかけて研磨されたそれは、あの日見た英雄の剣を再現していた。

 

 ついに完成したそれは、気高き竜の爪ではなかった。まして、憧れた銀竜の牙などではなかった。

 魔力に頼らず、鱗も翼も要する事なく、ただ戦場にて敵を屠るに肝要な戦闘論理。その道筋。

 

 名を“唯心無月流(ゆいしんむげつりゅう)”。

 然る後、銀竜剣豪の許しを得、遠き地にて門戸を開く流派であった。

 

 なお、人気はない模様。

 

 

 

 

 

 

 前世地球において、結局のところ喧嘩の強さとは重さと速さの合計値である。あとリーチも入れておこうか。

 ボクシングひとつ取っても、身長体重が勝る相手にはそうそう勝てはしない。どれだけ強かったとしても、フェザー級のリカルド・マルチネスじゃあ鷹村さんには敵わないのである。

 

 素手同士でそうなのだ。いわゆる実戦においては何をか言わんや。

 身長体重才能努力全てが同じ人同士の場合、素手じゃ剣に勝てないし、剣じゃ槍には敵わない。身も蓋もない事を言うと槍じゃ拳銃には勝てないし、拳銃じゃ戦車に勝てないのである。

 

 畢竟、地球人は物理法則に縛られる。故にこれを効率よく運用する為の技術が生まれたのである。

 だが、それは地球人のお話だ。

 

 リーチの重要さは地球と同様だが、そこまで重要視されていない。重さや速さに関しても同じく。

 何故なら、異世界人にはそれら要素を容易に凌駕し得る“ステータス”の存在があるからだ。

 俺は手押し相撲でグーラに負けるし、ルクスリリアはイリハに膝カックンされてもカックンしない。これらはそれぞれの“膂力”と“頑強”のステータスが参照されて起こる事象である。

 

 リーチに関しても魔法なりスキルなりで補えるし、間合いにしたって武道の感覚は役に立たない。そもそも、ルクスリリアなんか空を飛んじゃうのである。自然、地球における所謂“実戦的な格闘技”は軒並み無用の長物と化すのである。

 残念ながら、空手にもボクシングにも空飛ぶ相手への対抗技などない。覇王翔吼拳が使えるなら話が変わってくるだろうが、それこそ異世界の話になってくる。

 

 そうなると、当然として両者の武術は同名の別物となる。

 語弊を恐れずに言うと、地球における打撃技とはつまり、相手方向への運動エネルギーを如何に効率よく伝達するかという技術であったが、異世界の打撃技は如何にステータス通りの威力を発揮させられるかという技術である。

 物理法則の運用技術というより、ステータスの運用技術。異世界の道場とは、ステータスを活かす技を教える場なのである。

 

 剣鬼流など最たるもので、あれは通常攻撃の熟練度を上げ、膂力・技量で以て押しつぶそうという思想……なんだと思う。

 澄刃流の場合、技量ステータスによる通常攻撃と通常防御の運用法を習う感じだろうか。攻撃部位やモーション値も重要視していそうな。

 他の道場も似たようなもので、見学時には皆さんアレコレと持論を語っていたが、要するに何かしらのステータスを運用する前提で物を言っているように思われた。恐らく、それこそが異世界での最適解なのだ。

 

 さて、話は銀竜道場である。ゲルトラウデさんが開発した唯心無月流とは、どんな流派か。

 無いものは無いと認め、有るものを積極的に伸ばす。力にも技にも頼らない、竜も人も同じ地平を往く流派。

 凄くざっくりした言い方をすると、無月流はヒロアカ武術だ。

 

 ひと目で分かるのだが、異世界人は皆さん個性的である。

 翼があって飛べる人がいれば、不死身に近い再生能力を持つ人もいる。キックは強いのにパンチは弱い馬人がいれば、そもそも物理攻撃に耐性のある種族だって居るのである。

 そうなると翼人には翼人に合った戦い方があるし、馬人には馬人に合った戦い方があるだろう。事実、グーラが使う獣人剣術は敏捷に優れた獣人戦士にアジャストされた武術である。

 

 地球人視点、総人口の殆どが超人の異世界。これはある意味で個性社会と言えるのではないだろうか。

 同じ飛行能力持ちでも、エンデヴァーとホークスでは飛び方が違い、戦い方も異なる。だからこそ彼らは個性訓練で独自の戦闘技術を身に付けている訳だ。

 無月流は、そんな彼等にも使える武術なのである。

 

 個性を伸ばす流派。故に、無月流はその前段階からスタートする。

 個性を活かす前に、戦いに適合できる下地を作るのだ。

 浅く広く、どんな種族でもどんな戦場でも戦えるように、徹底的に基礎を叩き込む。それから無月流で習った技術を発展させ、各々に適合させる。これを実戦にて行うのだ。

 

「そもそも、ヴィーカ様は天稟をお持ちの方だ。ぶっちゃけ、天才の剣は凡人には扱えない。まして、多くの種族にとって竜族の真似事など意味がない。逆もまた然りで、無月流は竜族には不向きだ。弱くなってしまうからな」

 

 故に、俺達が習うのは基礎の補強であり、ステゴロの矯正ではなく強化であった。

 基礎を固め、個性を活かす。その為に、始めに行うのは個性の確認だ。

 

「では、弟子よ。まず貴殿の技を見せてもらおうか」

「はい。よろしくお願いします」

 

 そんな訳で、入門初日。

 すっかり綺麗になった道場で、師匠に対し俺は迷宮で鍛えた喧嘩殺法をぶつけまくった。

 やってみせ、言って聞かせて練習試合。危機察知にモーションアシストにジョブチェンジを利用した戦法の切り替え。沢山ある手札をくるくる回して攻めまくった。

 対し、師匠の防御は堅牢で、あと一歩押し切れなかった。翼も権能もない人相手に、である。

 

「はぁ、はぁ……全然通じないな」

「いや通じている。練度と出力の違いだ。方針も方法も間違っていないが、活かし切れているとも言えないな。長じれば、いずれ私を超える事も出来るだろう」

 

 俺だけでなく、ルクスリリア達の戦い方も見てもらった。

 ルクスリリアはモーションがないと鎌を振れない。エリーゼはエイムアシストがないと魔法を当てられない。当然だが、イリハはアシスト無しじゃ刀を使えないのだ。まともに武器を振れるのはグーラだけである。

 当然、俺以外の皆もゲルトラウデさんの防御を崩す事はできなかった。

 

「疑似的な未来予知、戦法の多彩さ、武技の模倣……。ふむ、だいたいわかった」

 

 一通り見せたところで、俺達の指導方針は決定した。

 無月流は個性を活かす武術。淫魔には淫魔の、人間には人間に合った鍛錬法を教えてくれるのである。

 

「まずルクスリリア。貴殿には無月流長柄術、その参ノ型を教える。貴殿は並外れて飛行が上手いからな。これを活かさない手はない」

「うッス!」

 

 ルクスリリアの鍛錬。それは長柄術――要するに、ポールウエポン用の技の鍛錬だった。

 中でも参ノ型は翼人向けの型であり、大鎌使いのルクスリリアにも応用が利く。その型は三次元的な動きが特徴で、自由自在に動ける彼女とは好相性だ。

 

「次にグーラ。貴殿には無月流剣術・肆ノ型を教える。貴殿は既に獣人剣術を修めているようだが、獣人剣術では大剣は想定されていない。故に、貴殿には肆ノ型を通して大剣という武器そのものの理解に努めてもらう。上手く合わせろ。貴殿にはそれが出来る」

「はい!」

 

 グーラは無月流剣術のパワー重視の型を教えてもらえる事になった。

 これは両手剣用の型であり、片手持ちを基本とする獣人剣術とは根底が異なる。師曰く、グーラの武器と獣人剣術は噛み合っていないようなので、これの融合を目標にすべきだという。

 

「イリハ、貴殿は無月流剣術の弐ノ型だ。貴殿は陰陽術を使うようなのでな、魔法を使う剣士としての戦い方を伝授しよう。氣の流れとやらを応用すれば、未来予知と剣術で三重の防御になるはずだ」

「のじゃ!」

 

 イリハは刀を使った技量重視の型を教えてもらう事に。

 どうやら、その型は技量重視の中でも防御に寄っているようだった。無月流剣術は剣にも刀にも対応しているようなのでご安心。見た感じ、スターウォーズのオビ=ワンの動きに似てる気がしないでもない事もない気がする。

 

「エリーゼ様、貴女には源流であるヴィーカ流剣術の一部を伝授したく思います。これは魔力を感知できるエリーゼ様にこそ相応しい」

「ええ。けれど、私は剣術の才もないと言われていたのよ」

「ええ、確かに力任せの銀竜剣術は合わぬでしょう。しかし源流ならば……。私も決して得意という訳ではありませんが、エリーゼ様ならば十全に扱えるかと」

 

 エリーゼは祖父が使っていたというヴィーカ流剣術の一部を教えてもらえる事に。

 ヴィーカさんの剣は魔力感知を前提とした型が多く、中には飛行ありきの型や二刀限定の型もある。エリーゼはコレの翼なし一刀流の型をマスターするのが目標だ。指揮系ジョブのお陰でステはバランスよく成長してるし、今なら剣術もいけるはずだ。

 

「イシグロ、貴殿には無月流の多くを教えようと思う。どうやら、チートとやらのお陰で覚えが良いらしいのでな。エリーゼ様の主人であるなら、全てを己の糧としてみせよ」

「はい!」

 

 そして、俺は無月流の色んな型を教えてくれる事になった。

 まず、無月流剣術壱ノ型。これは無月流剣術の最もベーシックな型で、鱗も翼も再生能力もない人向けのバランスプレーンスタイルだ。

 あとは槌と槍と徒手格闘も教えてもらった。

 

 中でも面白かったのは無月流格闘術で、これもまたプレーンの型だ。

 教えられた格闘技は貫手や手刀や掌底など、凡そ前世フルコン空手では習わなかったものばかりだった。

 空手をやっていた影響か、無意識に突きや蹴りに傾倒していた俺にとって、異世界格闘技はとても興味深かった。これは違う型も習いたいな。

 

「そういや、淫魔の軍隊格闘術には投げとかその辺あるんだよな」

「ッスね。厳密に言うと、淫魔の群れで強い雄を性圧(・・)する為の技術ッスけど」

「ひえっ……!」

「恐ろしいですね、淫魔王国軍……。淫魔にとって、捕虜はそのまま戦力拡充に繋がる訳ですから」

「いや、精を絞ると言うても、そうポンポン子供を作れる訳なかろう」

「作れるッスよ。それに淫魔は一年で大人になるんで」

「えぇ……? もしかして、淫魔って強い種族なのかのぅ?」

「てか、軍が強いって感じッスね」

「実際、全盛期の淫魔王国軍はとても強かったそうよ」

「まぁ女しかいない鬣犬人兵に一方的に狩られちゃった訳ッスけど。淫魔戦史で習ったッス」

「うむ、良くも悪くも男特効の種族で、吸精を目的とした格闘術だった訳だな。このように、特化し過ぎた戦闘技術は脆いのだ」

 

 などという話を挟みつつ、来る日も来る日もひたすら基礎練習を続けた。

 剣にメイスに素手に槍。槍はあんまり使わないのだが、一応だ。最近忘れかけていたが、深域武装の槍持ってるし、俺。

 

「ただいま~。あ、イシグロさんこんにちは~。お疲れ様で~す」

「どうも。アンゼルマさんこそお疲れ様です」

「アンゼルマもどうだ?」

「そだね~。最近はイシグロさんのお陰で余裕あるし、久しぶりに練習しよっかな」

 

 たまに娘の門弟も混じって、健やかな汗をかく。

 部活とかジムとかじゃない。俺達はガチで武術を習っていた。

 

 

 

 さて、ここで入門後の我が一党の一日を見ていこう。

 

「着剣!」

「んぅ~♡ 採れたて新鮮~♡」

「朝から元気じゃの~」

 

 朝、猛った剣の手入れを終えたら、借家の武道場で予習復習。基礎的な素振りと、教えてもらった型の反復練習だ。

 諸々の準備が終わったら道場へ移動。無月流のトレーニングは瞑想から始まる。

 

「むむむ……!」

「ルクスリリア、集中を乱すな。乱れたと思ったらそれを自覚し、是正せよ」

「う、うッス……!」

 

 目をつぶって胡坐かいて、ゆっくり呼吸する瞑想。この瞑想だが、前世スポーツ関連だとよく聞くトレーニング法である。しかし、異世界じゃこれは全然浸透していないらしい。

 熟練度が上がる訳でも、攻撃力が上がる訳でもないこの退屈な修行は、元が強壮な異世界人には苦痛で仕方がないようで、新しく入ってきた門弟の殆どはこの瞑想で脱落するようだ。

 ちなみにコレ、グーラとイリハはすぐ順応できたのだが、ルクスリリアとエリーゼにとっては苦行であるらしかった。イリハの場合、陰陽術の基礎練習でやったとか何とかで。エリーゼが苦手なのは意外だった。

 まぁ俺も得意じゃないのだが。ロリの呼吸音で陰茎が苛立つ。

 

「はぁ……はぁ……腕が重いのじゃ~……!」

「うむ、イリハはそれくらいでいいだろう。力の割にはよくやれている。小休止だ」

「おっ、じゃあアタシもそろそろ……」

「ルクスリリアは続行だ」

「ひえー!」

 

 閑話休題。瞑想が終わると各々武器の素振りをする。

 剣道とか空手と違い。大きな掛け声はなかった。さりとて無言という訳ではなく、呼吸や発声のタイミングはある程度決まっていた。

 

「はじめ!」

 

 素振りが終わると、師範の前で教えてもらった型稽古。

 これには俺のモーションアシストが大いに役に立った。アシストのお陰で師範の動きはトレスできるし、身体に馴染ませるのも早い。

 定期的に見本を見せてもらえるので、その都度新たな発見があるのだから凄いものである。

 

「イリハ、力を籠め過ぎるな。握りはもっと緩くていい」

「わかったのじゃ……!」

「ルクスリリア、目の向きがおかしい。どこを見るかは教えただろう」

「うッス!」

「エリーゼ様、もう少し魔力を抑えてください。戦いにおいて、それは隙になります」

「ええ、分かってはいるのだけれど……」

「グーラ」

「はい!」

「……言う事はない。そのまま続けろ」

「はい!」

 

 モーションアシストの有無を切り替えて、無月流の基礎を固めに固めていく。

 無論、型稽古だけじゃ強くなれないが、型稽古なしじゃ弱いままなのである。素振りに続き地味な修行だが、俺達は黙々と鍛錬を続けていた。

 

「イリハ、習った技を応用して私の攻撃を受け流してみろ」

「や、やってみるのじゃ!」

「では、往くぞ」

 

 また、無月流には門弟同士の練習試合なるものはなかった。

 代わりに在るのが師範との個人訓練であり、模擬戦だ。戦う度、毎回武器を変える師範との模擬戦は結構ガチであり、痛くなければ覚えませんの体現であった。

 これまた、模擬戦にはエリーゼの回復魔法が大いに役立った。なにせこれまでは高額な薬を使うか治療院に行くのが常だったらしいのだ。当然、治療費は全て門弟持ち。

 

 ちなみに、なんで門弟同士でやらないのか聞いてみると。

 

「変な癖がつくだろう。刀同士の斬り合いに慣れていては、突進してくる魔物に対処できまい?」

 

 というお返事。ごもっともである。

 まぁ個人でやる分には構わないらしいので、道場が休みの日は皆で鍛錬場行って連携訓練と模擬戦をする訳だが。

 

 他にも細々とした練習法こそあるが、それらは対人でも対魔物でも応用できるものに限られていた。

 分かり易い必殺技こそ習わなかったが、具体的な立ち回り方を学べていると思う。他には戦う際の心構えと戦闘思考の方法論など、凡そマッスルな異世界人が好まなさそうな教えを受けていた。

 

 千変万化の戦技に、個々人に合わせた手厚い指導。

 唯心無月流、習って良かったと思う。

 

 で、一日の流れに戻ろう。

 とにもかくにも地味な練習を繰り返し、夕方になると師匠にバイバイして借家に戻る。

 帰宅後、皆は休憩タイムだ。イリハは夕食の準備をしてくれて、他三人は各々暇を潰す。そんな中、俺は武道場でその日の復習をする。

 素振りにしろ、型稽古にしろ、適当にやるのではなく集中して行う。足先から指にかけて、モーションひとつひとつの構造を解析するのだ。

 

「着剣! 着剣!」

「んほぉー♡ この為に生きてるッス~♡」

「夜も元気じゃの~」

「はぁ♡ 素敵ですご主人様♡」

「ええ、美しい戦士の指ね♡ もっとかき回して頂戴♡」

 

 夕食の後はお風呂からのパーティタイムである。

 ルクスリリアに燃料補給したり、エリーゼに吸引されたり、グーラによしよししたり、イリハと氣を交換したり。

 まぁまぁハードな一日だが、房中術によって一晩眠れば快調である。

 

「おやすみ、皆」

「こら、眠る前にもしなさい……ちゅ♡」

「わしもしてほしいのじゃ♡ んっ……♡」

「ボクもお願いします♡ ん、ちゅぅ……♡」

「アタシも♡ あむっ、じゅるるるぅ♡ ちゅぱ、れろ♡ んじゅるるるる~♡」

「あぁ、今そんなキスをしては……」

「遅かったようね」

「早すぎる、溜まってたのじゃ……!」

 

 そんな感じで、俺達は道場通いの生活を送っていた。

 イリハのジョブはまだ生えていないが、仮に思った通り行かずとも無月流は無駄にならないと思う。

 

 

 

 ところで、こんなに優良な銀竜道場だが、俺達以外に門弟がいないようである。

 道場のボロ具合からしても、長い間閑古鳥が鳴いているように見える。

 その理由の大半は、偏に無月流のつまらなさにあったようだ。

 

 いつも元気で活き活き修行してる剣鬼道場。師範のカリスマで成り立ってる澄刃道場。

 他の道場にしたって、木刀での打ち合いや練習試合などで門弟達のモチベを保ってくれるようトレーニングメニューを組んでくれるのだ。

 

 しかし、無月流は一貫して単調な基礎練習とその応用に終始している。

 バスケで例えるならドリブルオンリー。サッカーで言うならリフティングオンリー。ボクシングで例えるならシャドウオンリー。これで強くなれるのかよ、ミット打ちとかスパーリングとかさせてくれよという気持ちである。

 不人気な訳だ。

 

 が、そんな道場は俺にとっては丁度良かった。

 俺の場合、戦いの順序が逆なのだ。基礎練をせず何度も実戦を繰り返してきたからこそ、こういった地味練が実戦にてどのように発揮されるかを理解できる。

 壱ノ型だけでも、この足運びは砂場でも氷の上でも使えるぞとか。この攻撃はリスク無しで牽制できるぞとか。この踏み込みは攻めにも守りにも使えるなとか。先が見えているから、理解できる。喧嘩慣れしてるヤンキーが格闘技習ってるようなモンである。

 ある意味、無月流の弱点だな。なまじゲルトラウデさんが強いから、押し付けがましい流派になってしまっているのだ。スラダン序盤のゴリと花道が近いか。実際、俺なんかチートがあるからやれてるみたいなトコあるし、迷宮前だったら百パー途中で飽きてたと思う。

 

 

 

〇 

 

 

 

 そんなこんな、入門から約一ヵ月の時が過ぎた。

 

「ふむ、これがチートというやつか」

 

 と、師匠が感心するように、俺達はみるみるうちに無月流を習得していった。

 今やアシストオフにしてもそれらしい動きができるようになったのである。

 ひとつひとつの動作に惑いがなく、足先から指一本の微細な挙動に至るまでしっかり把握できる。武道経験者と未経験者の身のこなしが違うように、今の俺は自然に無月流を体現できているように思う。

 

「あとはこれを続け、貴殿が実戦を重ねていけばいい。その果てに、貴殿の道が見えるだろう」

「はい、ありがとうございます!」

 

 一ヵ月、あまりにも短い鍛錬時間だ。

 本来ならば長い時間をかけて体得すべき技術を、チートで以て短縮学習。これに関し、後ろめたい気持ちが全くない訳ではなかった。

 加えて、俺はまだ自分を一流だとは思っていない。出来たのはガワだけで、未だ中身を積み重ねてはいないのだ。目指すべき一万時間など、遥か遠き理想郷なのである。

 

「免許皆伝はできんが、これで一段落だな。皆もよく頑張った。もう教える事は……」

「それなんですが……」

「ん?」

「道場ですが、もう少し通わせて頂く事はできませんか? まだイリハの目標が達成されていませんし」

「それは、うちとしてはありがたいが。貴殿こそ良いのか? うちの鍛錬はつまらんだろう」

 

 そんな訳で、俺達は引き続き無月流のトレーニングを継続する運びとなった。

 俺やルクスリリアはチートのお陰で目標を達成しているが、イリハの方はまだなのだ。

 もう少し、まだやろうと思う。

 

 そんなある日の事である。

 

「あ、生えてる……」

 

 道場での休憩時、ふと眺めてみたイリハのステータスに、“侍”ジョブが解放されていた。

 以前から表記自体はあったのだ。しかし、文字の色が薄くてタップしてもジョブチェンジできなかったのである。

 何が理由なのかは分からないが、イリハは道場通いによって侍を解放できていた。

 

「侍? わしがかの?」

「イリハ、ちょっとジョブ変えるぞ」

「ん? ん~、なんか刀が手に馴染むような、そうでないような……」

「ふむ……。イリハ、少し振ってみるとよい」

「わかったのじゃ。ふん!」

「「おぉ……!」」

 

 実験は成功だ。侍ジョブに就いた事により、イリハは剣士時代より刀を上手く扱えるようになった。

 しかし、このジョブ解放は結局どういう理屈なんだろうか。免許皆伝とかそういう条件ではなさそうだし、レベルやステータスが上がった様子はない。

 刀を振っていた時間とか、その辺が関係してるんだろうか。俺の場合はレベルアップによる解放だったから、これとは別だと思うしなぁ……。

 

「それで、イリハは魔法剣士にはなれるのかしら?」

「おっと、そうだったそうだった。んー、新しく“退魔士”ってのが生えてるな。これか?」

「たいましッスか? 何スかそれ」

 

 見てみると、イリハのジョブ一覧には侍の他にも新たに“退魔士”なる謎の中位ジョブが追加されていた。

 件の退魔士をタップしてみると、予想通りこれは刀を使う魔法剣士だったようだ。使用可能武器は刀と杖だけか。なんかこういうジョブってお札とか弓とか使うイメージなんだけどな。

 それにしても、陰陽術を使う侍が退魔士という名前なのは何故だろう。なら、陰陽術を使う忍者は退魔忍になるんだろうか。陰茎属性が三千倍弱点になるのかもしれない。

 

「イリハ、次は退魔士ってのに変えてみるぞ」

「うむ!」

 

 という訳で、試しに刀兼魔法触媒である綾景之太刀を渡す。

 豪華な刀を引き抜き、退魔士にジョブチェンジしたイリハは師匠に習った型を披露してみせた。退魔士でもちゃんと刀を使えるな。

 

「おぉ!?」

 

 それから、型の合間に綾景を触媒として陰陽術を行使できたようである。

 刀として綾景を使うには剣士でなくてはならないが、触媒として綾景を使うには魔術師でなくてはならない。その両方が出来たという事は、上手くいったという事である。

 

「おぉ! わし、なんか達人っぽいのじゃ!」

 

 実際、色鮮やかな陰陽術を使って剣舞をする様は如何にも達人チックであった。

 あとは実戦を重ねてステータスを上げればいい。第一目標、達成である。

 

「やったッスね! イリハ!」

「おめでとうございます! これで迷宮に潜れますね!」

「やるじゃないイリハ」

「むふ~! わしは褒められて伸びるのじゃ!」

「おめでとう。とはいえ本格的なハクスラは装備揃えた後だけど」

「嬉しそうッスねご主人」

「そりゃあね」

 

 そりゃもう嬉しいさという気持ちである。

 これまでイマイチ実感はなかったが、こうしてイリハの努力が報われたのだ。それが我が事のように嬉しい。

 

 あとは防具を整え、連携を訓練し、迷宮に潜ってレベリングすればいい。

 ハクスラが再開できるのだ。ルクスリリアが言ってた通り、戦力拡充ができる訳である。しかも最初から中位職なのは嬉しい。初期レベルからステータスがドンドン上げられるな。

 なにより、イリハが自分の身を守れるようになったのが素晴らしい。皆を守ると誓った俺も、腕は二本で頭は一つなのである。

 

「ただいま~っと。ん? なになにどしたの? イリハちゃん強くなった感じ?」

「うむ! 師匠もありがとうなのじゃ!」

「ああ。だが、ある意味ここからが大事だぞ。素振りも型も一生続けるのだからな」

「そ、そうじゃった……!」

 

 わいわいがやがやと、道場が盛り上がっている。イリハを囲んでジョブチェンジおめでとうの雰囲気だ。

 思えば、イリハにはお世話になりっぱなしである。本人の申し出とはいえ、毎日朝夕のご飯を作ってもらってる訳だしな。俺視点、ブラック化してないか不安である。

 

「今日はお祝いにパーッと食いに行こう。イリハ、なに食べたい?」

「ん? 外食かぁ……。特にこれといったものは……」

「何でもいいよ。師匠たちもどうですか?」

「いいんですか!? ぜひぜひ! お腹いっぱい食べたいです!」

「よ、よいのか? では……」

 

 その後、道場の皆でご飯を食べに行った。

 実にアットホームな道場である。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、しこたま食った帰り道。

 俺は満腹の腹を摩って夜のカムイバラを歩いていた。

 

「ふぅ~、食った食った」

 

 最近はトレーニング三昧でストイックな生活をしていた分、久々の酒が身体に染みる心地だった。

 酔っぱらってこそいないが、足取りは常よりもふわふわしている。念の為という名目で、お手々繋いで幸せウォークである。

 

「ふふっ……迷宮に行くのが待ち遠しいわ」

「防具が先ですよ。ところで、魔法剣士用の防具はどういった物になるのでしょう?」

「防具のぅ。わし、鎧とか着れるかのぅ」

「鎧ッスか? 確か、鎧って魔力の通りが悪いとかで魔術師向きじゃないって聞いたんスけど」

「では革でしょうか。いえ、カムイバラは頑強な糸がありますし、そちらの方がいいかもしれませんね」

「肝腎なのはデザインよ」

「でざいん?」

「防具工匠に希望を伝えるの。一緒に考えましょう?」

「その分値段も凄いんスけどね。イリハぶっ飛ぶッスよ」

「ど、どれくらいじゃ……?」

 

 などと話しつつ、借家の近くまで来ると、家の前に謎の人影を発見した。

 こんな時間に何用だろうか。面倒事の予感がする。俺は握っていたグーラの手を解くと、腰の橘を意識しながら歩みを進めた。

 無言のうちに、一党はイリハを守る陣形を取った。王都よりはマシな治安とはいえ、辻斬り御免の可能性を否定できないのが異世界だ。

 

「む!?」

 

 すると俺達の接近に気がついたようで、人影は身体をこっちに向けてきた。その顔は謎の風呂敷で隠れていた。

 暗いから分かりづらかったが、影はべらぼうにデカいタッパの持ち主だった。加えて腕も足も丸太のように太く、高位武家めいた服は威厳たっぷりで……。

 

「どうも! お久しぶりです、イシグロ殿! 今晩は月がよく見えますな!」

「あ、こんばんは」

 

 頭隠して声忍ばず。“剛傑”のライドウさんが、夜分遅くに現れた。




 感想投げてくれると喜びます。



 現在、本作に登場するキャラクターを募集しています。
 ご興味のある方は是非、気軽にご応募ください。
 作者のやる気に繋がります。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=296177&uid=59551

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=297167&uid=59551



 こっちも投げてくれると喜びます。

 旧ツイッターはじめました。よければフォローしてやってください。

https://twitter.com/iraemaru



 今回の話、書いてるうちになんだかもうよく分からなくなってました。
 ありがとうございました。



◆異世界人のジョブ・武器あれこれ◆

・異世界人が現ジョブの使用可能武器以外の武器を持った場合、自動的にその武器を扱えるジョブに切り替わる。
・刀を使う侍が剣を持った場合、剣を持った瞬間に剣士になる感じ。こうなると剣の適性値は剣士相応になるので、侍時代よりも弱くなってしまう。刀に持ちかえると侍に戻る。
・多数の武器を扱うゲルトラウデの場合、最も能力が発揮できるのは剣であり、剣を持つと剣士系最上位職になる。槍を持つと戦士までランクダウンするので、当然弱くなる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。