【一巻発売中】たのしい異世界ハクスラ生活、あるいは超紳士的英雄譚   作:いらえ丸

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 感想・評価など、ありがとうございます。お陰で頑張れてると言っても過言ではありません。
 誤字報告ありがとうございます。今の今までず~っと勘違いしてたところを修正しました。本当にありがとうございます。作者はこういう奴です。笑ってゆるして。
 キャラ・ボスのご応募もありがとうございます。やる気に繋がります。

 今回も例によってちょっとしたアンケがあります。
 分岐ではなく、あくまで調査ですね。


打・幼・極

 清廉なる森の奥。

 滝の音。川のせせらぎ。木々の匂いに春の風。されどこの場に生命はなく、鳥も魚も存在しない。

 まやかしの森。古の天才が作りたもうたこの空間は、カムイバラが擁する武技の鍛錬場である。

 

 静寂に満ちた森の中で、この日もまた二人の剣士が互いの技を高め合っていた。

 桜髪の狐人幼女と、一対の角を生やした半竜少女だ。二人とも、両の手に刀を握っていた。

 

 瞬間、両者の間隔が消し飛んだ。風を纏って退く狐に、大地を蹴って追いすがる竜。背中の火翼が翻り、氣を纏った刃が振るわれる。始祖の瞳が瞬く間に、深域の刃が虚空を薙いだ。

 一閃、二閃、両者の間で火花が散る。剣の型をなぞる合間に、狐は陰陽術式を編み上げた。三閃、爆風を伴った斬撃に、半竜の娘は堪らず体勢を崩しかけた。

 

 狐と竜が距離を取る。陰陽の剣士は刃を介して術を唱えた。唇が動き、道の小石を蹴る動作。そうして放たれたのは、楔形の鉄塊だった。

 余裕綽々、迫る楔を竜が見た。当たると痛いが死にはしない。実戦ならば直線で駆け寄り、最短軌道で刃を振るう。けれどもこれは鍛錬試合。技で魅せるが道理である。

 無駄のない足運び。身体を傾ける。楔に刃を向け、鎬で以て楔を逸らす。力に頼らぬ絶対防御。無月流剣術・弍ノ型。初歩にして奥義であった。

 

「えっ!? 今の当たったじゃろ!」

「慣れたらどんな姿勢からでも出来るんだよねコレ! 便利だからイリハちゃんも修めてねっと!」

「ひょえー! 近づくでないわ!【金行・鉄簾】!」

 

 そんな感じで、イリハとアンゼルマさんは鍛錬場でバトル漫画もかくやという模擬戦をしていた。

 無月流の基礎鍛練に門弟同士の模擬戦はない。けれど今日は特別で、イリハが実戦で陰陽術を使う為の訓練をしているのだ。監督としてゲルトラウデ師匠もついている。

 ちなみに、竜母娘の鍛錬場使用料は俺が払った。その金額にアンゼルマさんはエネル顔になって驚いていた。

 

「イリハー! いちいち頭切り替えてちゃこんがらがるッスよー!」

「魔力の練りが甘いわ。しっかり固めてから放ちなさい」

「どんどん遅れていってますよ! 迷ってはいけません!」

 

 現在はイリハを中心として訓練中。色んなシチュで剣術と陰陽術の共存を模索しているのだ。

 教えてもらった無月流剣術・弍ノ型と陰陽術の組み合わせは相性がいい。元々魔法剣士でも扱える型なので当然だが、陰陽術の使用は考慮されていないのだ。応用こそできるが、実戦には適宜修正が必要なのである。

 

「決まったのじゃ!【木行・茨牢】!」

「あらよっと! タイミングはいいけど、にまにま笑ってたらバレちゃうよ!」

 

 火力こそ低いが、全距離で使い道のある陰陽術。仙氣眼&危機察知チート&無月流による刀の自衛力。それらを補助する深域武装の綾景之太刀。

 実戦はまだだが、イリハは大分強くなった。これならある程度安心して迷宮に潜れると思う。

 

 イリハだけじゃない。もともとステータスの高かった皆も無月流によってしっかり強化されたのだ。

 

「じゃあアタシ等もやるッスか。来い、ラザニア!」

 

 無月流を習った事により、ルクスリリアは初期から上手かった空中機動に磨きをかける事ができた。

 師匠曰く、ルクスリリアは空間を把握する能力が秀でているらしいので、長柄術の鍛錬によってそれを活かせるようにしたという。

 具体的に言うと、これまで適当やってた慣性制御を型に組み込んで、よりコンパクトかつスピーディに動けるようになったのだ。まるで獣が尻尾で姿勢を制御するように、今のルクスリリアは大鎌を身体の一部として扱える。

 

「本気で来なさいな。全て弾いてあげるわ」

 

 基本後衛のエリーゼも、ヴィーカ流剣術を教わった事で近接での立ち回りが上手になった。

 師匠曰く、魔力が視えるエリーゼには相手の能動スキルの前兆を見抜く事ができるらしいのだ。これまでは何となくやっていたソレを、型を習った事で前後の立ち回りをスムーズにこなせるようになった。危機察知と合わせて近接自衛力アップである。

 

「二人とも、がんばってください」

 

 グーラに関しては、もう純粋に強くなったとしか言えない。

 これまでは獣人剣術の理に則ってアクロバティックに動いて隙を消していたのだが、無月流剣術を習ってからはダイナミックさはそのままにアクションの繋ぎがスムーズになって更に捉えづらくなったのである。緩急つけて動けるようにもなったので、間合いもタイミングも読みづらくなっている。明確に対人戦闘力が向上したと言えるか。

 その上、なんか勝手に炎雷の制御まで上手くなってて、無月流と獣人剣術の歩法に雷エンチャを絡めた謎移動技なんかまで編み出しちゃっている。瞑想の成果だろうか。安定してスーパーサイヤロリにもなれるし、最近は炎雷かめはめ波まで出せるようになった。グーラの進化が止まらない……。

 

「ふむ、そうか。あのライドウが直々に……」

「はい」

 

 皆が訓練している中、俺とゲルトラウデ師匠は腕組み見守り姿勢でお話していた。

 話題は先日俺に来た大会お誘いの事であり、それへの返答を師匠に報告しているのだ。

 

「貴殿はどの部門に出るつもりなのだ?」

「全種総合部門に出ようと思っています」

 

 結論から言うと、俺はライドウさんのお誘いを受ける事にした。

 家族会議をして、そうする事に決めたのである。

 

 当時の事を思い出す。俺達は居間で話し合いを開始したのだ。

 まず最初、ルクスリリアの意見はこのようなものだった。

 

「ご主人は目立ちたくないとか言ってるッスけど、ぶっちゃけもう目立ってるからカンケー無くないッスか? このまま中途半端な噂作られるより、いっそ目立ちまくってファン増やした方が得だと思うッス」

 

 言われてみると、そうかもしれない。実際民衆の前で猫又女を殺している訳だし、中途半端な態度でいてはあらぬ疑いをかけられるかもしれない。

 次、グーラの意見。

 

「皆の言ってる事はよく分かりませんが、桜闘会には強い人が沢山いらっしゃるんですよね? なら、今後の為にも一度戦っておいた方がいいと思います。良い経験になると思うので」

 

 グーラは政治云々というより、純粋に俺の対人経験値の為に大会参加に票を入れた。これまた、そういう見方もあるかという気持ちだ。

 次、イリハの意見。

 

「枝の現状は分からぬが、議会や組合の支援は受けておいた方がいいと思うのじゃ。少なくとも、わしらだけで枝の対処をするのは難しいし、ライドウ殿個人の心証を良くするだけでも十分じゃと思う」

 

 リンジュ民のイリハが言うには、ライドウは東区歓楽街の顔みたいな存在であり、彼の友達になるだけでも一定の庇護を受けられるという。

 そして、エリーゼの意見はこうだ。

 

「銀竜の私を従える時点で、どのみち相応の注目は受けるものと思いなさい。それに、強者には強者の責任が伴うものよ」

 

 確かに、銀竜と知って彼女を購入したのは俺だ。同じように、何の覚悟もなくイリハを迎えた訳ではない。

 立ち向かう事が責任というなら、俺の感情は二の次にするのが道理だろう。

 

「そもそも、私は細枝の狐から逃げる生活なんて御免被るわ。王国に逃げて、ギルドに助けてもらうと言っても、それじゃあ上がラリスになるだけでリンジュの状況と変わらないじゃない。真に自由になりたいなら、強者として君臨し、飼い慣らされない姿勢を見せるべきよ。こと、力ある愚者に対してはね」

 

 短期的に考えがちな俺と違い、エリーゼは長い目で見て意見してくれた。

 そして、エリーゼは最後に一言こう付け足した。

 

「なにより、私はアナタが戦って勝利する姿が見たいわ」

 

 いや、こんな事言われたらプロレスラーの如く堂々エントリーしちゃいますわ。見ていますか、愛する人よ。

 という訳で、異世界オリンピックには家族全員一致でエントリーする流れになったのである。

 

「全種総合か。確かに、貴殿にはお誂え向きと言えよう」

「そう思います。せっかくなら、剣以外も使いたいですし」

 

 で、俺が参加を予定している全種総合部門だが、これは武器種と強さを制限してないカオス部門だ。

 格闘技で言うバーリトゥード。端的に言うとスマッシュブラザーズ。弓でも槍でも素手でもOK。素人銀細工なんでも良いよ来いよな部門であり、タイマンだったりタッグマッチだったりバトロワだったりするお祭りルールである。過去には雪合戦なんかもあったとか。

 ちなみにこの部門、人気こそ高いが毎回グダグダになるらしい。というのも、特定武器種に特化しがちな異世界人の性で、達人は得意分野部門に行くのである。そうすると総合に行くのは運否天賦のお祭り野郎ってなる訳だ。それでも決勝らへんは銀細工持ちばかりになるらしいが。

 あと、変わり者が集まる事でも有名だとか。話によると、各部門に参加できなかった人が総合に思い出参加してくるんだと。

 

「俺が活躍できれば、無月流の宣伝にもなると思います。師匠への恩返しの為にも、精一杯頑張るつもりです」

「そうか。しかし、私も一度出た事はあるが、特に門弟が増えた訳でもなかったな……」

「そうなんですか?」

 

 優勝経験があるらしいゲルトラウデさんだが、それでも門弟数アップには繋がらなかったようだ。

 優勝年に発行されたパンフのインタビューも澄刃流が独占し、以降も銀竜道場の記事が書かれる事はなかったとか。

 

「えー! イシグロさん桜闘会出るのー!?」

「きゅぅ~」

 

 そうこうしていると、対戦を終了したアンゼルマさんが戻ってきた。彼女はダウンしているイリハを小脇に抱えていた。

 俺は杖を取り出して、運ばれてきたイリハを治療した。エリーゼのようなチートヒールはできないが、それでもこの程度なら完治させられる。

 

「あ! てか、うち門弟二人になったから私無月流代表で出られるじゃん! お母さんお母さん! 私も出ていいかな!」

「それは構わんが、お前最近サボり気味だろう? 優勝しろとは言わんが、選抜通るか?」

「今から頑張るってー!」

 

 どうやら、アンゼルマさんは無月流代表で剣術大会に出たいらしい。招待組の俺に資格云々は分からないが、彼女はふんすとやる気アピールをしていた。

 ちなみに、アンゼルマさんの剣術の腕は俺以上だ。が、ステータスがそんなでもないので、勝負すれば普通に勝てる。だいたい鋼鉄札上位くらいには強いかな?

 

「今回、師匠は出られないんですか?」

「私はいい。ああいうのは合わん」

 

 フンと腕組みする様は怖気ている訳ではなさそうだった。俺と同じで、目立つ事自体が嫌な人なんだろう。

 

「イリハー、戻ってくるッスよー!」

「い、今行くのじゃ! 主様、回復ありがとなのじゃ!」

「ああ」

 

 回復を終えたイリハが皆と合流し、次なる訓練を開始。グーラVSリリィ&エリーゼ&イリハだ。グーラはイリハに攻撃当てたら勝ちで、三人チームは制限時間内までイリハを守護れたら勝ち。守り守られの訓練だ。

 彼女達には一定以上の自衛力こそあるが、それでも三人集まった上で件のジャルカタール氏一人に苦戦していたのだ。俺が大会に出ている間、彼女達は自分で自分の身を守る必要がある。ちょっぴり心配だ。

 

「失礼、師匠。いきなりで申し訳ないんですけど、大会中の彼女達の護衛をお願いできませんか? 依頼料はお支払いしますので」

 

 師匠が大会に出ないなら、丁度いいかもしれない。俺は師匠に皆のボディガードをお願いする事にした。

 事実として、師匠は俺より強いのだ。例え以前戦った悪党が来ても彼女達を守り切ってくれるだろう。

 

「うむ。構わんぞ。あと弟子から依頼料は取ら……」

「えーホントー! イシグロさんありがとねー!」

「むぅ……」

 

 依頼料を断ろうとした師匠だったが、しっかり者のアンゼルマさんにインターセプトされてしまった。

 俺もこういうのはちゃんとしておきたい。現役冒険者という訳でもない分、支払い義務こそないが相応の報酬はあって然るべきだと思うのだ。

 

「とはいえ、エリーゼ様もお強くなられた。皆もそうそう後れは取るまいよ」

「それでもです」

 

 師匠の見立てに間違いはないと思うが、それはそれ。

 心配性を発動したままでは、俺は試合に挑めない。俺のメンタルの為にも護衛はいてほしいのである。

 

「と、いう訳で、当日は師匠に護衛頼んどいたから。小遣いも渡すし、自由にしてていいよ」

 

 その事を皆に説明すると、当のイリハは不服げに唇を尖らせていた。

 

「むむっ、有難い事なのは確かじゃが。主様よ、わしは無月流剣術を習っているのじゃぞ。主様のチートで不意打ちにも対処できるし、護衛というのは大袈裟なんじゃないかのぅ」

 

 などと自信過剰な供述をしていますが、イリハには誘拐された前歴があるのだ。たとえ今の彼女であっても、あの鬼人には敵わないだろう。

 なので、肉体でお話だ。

 

「グーラ」

「はい」

「のじゃ?」

 

 同じ事を考えていたらしく、グーラは俺の意図をくみ取ってイリハの手首を掴み上げてみせた。

 それほど力を籠めていないにも拘わらず、イリハは褐色幼女の片腕に完全に制圧されていた。しかも掴んでんのは左手だ、利き腕じゃないんだぜ。

 

「え? なんじゃいきなり? う、動けん……!」

「振りほどけませんよね?」

「むぅううう……!?」

「貴女はまだ迷宮に潜った事がないでしょう? こういう事なのよ」

「イキッた発言は一発でもアタシに当てられるようになってからにしてほしいッス」

 

 頑張って拘束を抜けようとするイリハだったが、グーラの身体はピクリともしていない。

 イリハは武術を習った事で強さの下地を作れたが、如何せんステータスがショボい。文字通り、小手先の技術では銀細工相当の戦士には全く歯が立たないのである。

 

「準備が整ったら迷宮行こうな」

「迷宮に潜っても鍛錬は続けるのだぞ」

「み、道程は遠いのじゃー!」

 

 イリハの防具については既に発注済みだ。完成はもう少し先なので、それが出来たら一回は迷宮潜っときたい。

 それまではひたすらにトレーニングだな。

 

「あれ? 締め切りっていつだったっけ?」

「前と同じなら、そろそろ終わるはずだ」

「わ! 急がないと……!」

 

 案内書に曰く、件の桜闘会は春に開催されるらしい。

 大会は約二週間くらい行われるが、俺が出場しようと思っている総合戦は大会の後半に始まる予定だ。

 今現在は冬の真ん中過ぎあたりなので、あと一ヵ月と少しで開催だ。

 俺もアンゼルマさんも、相当ギリギリである。ギリギリ間に合うあたり、だいぶ大らかだな。

 

 ていうか、あと少しで俺は異世界一周年か。

 長かったような、あっと言う間だったような。

 一年経って、心底思う。

 

 異世界来て良かった。

 

 

 

 

 

 

 桜闘会に参加したい旨の手紙をライドウさんに送りつけた後、大会に向けて鍛錬に励んでいると、ギルドを通してお返事が届いた。

 手紙には参加ありがとうの言葉と、約束していた深域武装のお披露目についてが書かれていた。

 日時は三日後、場所は東区ギルドの鍛錬場。恐らく、これはうち来いよそっち行くわで揉めないようにする為の配慮でもあるのだと思う。

 

「はははっ! では、共に鍛錬と参りましょうか!」

 

 そんな訳で、俺達は完全武装のライドウさんと一緒に鍛錬場に入って行った。

 普段着でも目立つというのに、戦闘服の彼は常より目立っていた。まるで他冒険者達に見せつけているようである。いつもとは別種の注目を浴びている感じ。

 

「ここなら盗難の心配はありませんな! では早速!」

 

 いつもの鍛錬場に転移すると、ライドウさんは自身のアイテムボックスから野外で使う用と思しき大きな机を取り出した。

 出した机は一つじゃない。俺達は手分けして出てくる机を並べていった。まるでキャンプ飯の準備でもしているようだ。

 それから、ライドウさんは大小の上等そうな箱を出し、一つ一つ机に載せていった。これが深域武装なのだろう。

 

「にー、しー、ろー、はー……あれ? 多くないですか?」

「うむ! 友人達に呼びかけたら思いの外集まりましてな!」

 

 机の上には大小様々な綺麗な木箱。景品候補は九つと聞いていたが、実際には二十以上の深域武装が置かれていた。

 深域武装はレアアイテムなはずだが、随分と気前の良い友人である。

 

「どうぞ開けてみてください!」

「はい。では失礼して……」

 

 とはいえだ、レア武器なんてナンボあってもええ精神である。大きな机に美しい木箱。中身がレアならこうも並ぶと壮観至極。

 俺は内心ワクワクしながら、その中の一つを開封した。パカッとな。

 

「おぉ……!」

 

 長方形の箱の中には、紫水晶でできているかのような美しい剣が入っていた。

 一見して、実用品とは思えぬ剣であった。剣幅は狭く、そして細長い。かといって刺突剣という雰囲気はない。武器種としては通常の剣扱いになるだろうか。

 とてもではないが、職人の手になる代物とは思えない異様な雰囲気を放っていた。もっと俗っぽい言い方をすると、ファンタジー世界の悪役令嬢が持ってそうな魔剣って印象。

 

「見るだけでは分からないでしょう! どうぞ使ってみてください!」

「いいんですか?」

「ええ!」

 

 お許しを得たので、手に取って性能を確認してみる。

 見てみると、深域武装だけあり全体的に基礎性能が高く、例によって“自動修復”の補助効果が付いていた。攻撃属性は物理に加えて氷と炎の切り替えが可能とな。

 他にも有用そうな補助効果のオンパレード。儀礼剣っぽい見た目の割に随分と堅実な構成だ。

 で、気になる深域権能は……確定会心!?

 

「それは“ワクネンの十字剣”という代物でしてな! 炎と氷の二つの属性を兼ね備えております! 権能を発動すれば、次の一撃でより強大な攻撃を放つ事ができますぞ!」

 

 剣の性能に見惚れていると、ライドウさんからの解説が入った。

 軽く振ってみる。使い慣れている無銘とは重心の位置が違うが、これはこれで悪くない。魔力を流してみると、剣身が青く染まってキラキラした冷気を放散しはじめた。

 件の権能を発動してみると、剣全体がうっすら光りだした。この状態で攻撃当てると会心出ちゃうんですか? なんやそれ、チートやろそんなん。いや待て、これに特化した装備構成にしたら、一体どんくらいの火力になっちまうんだ?

 

「見事な剣捌きですな!」

 

 夢中になって遊んでいると、ライドウさんからお褒めの言葉。

 なんか恥ずかしくなって、俺は無月流の型を終了した。

 

「師匠に教わりまして」

「ふむ、イシグロ殿の師匠ですか。名を伺っても?」

「銀竜道場の、無月流のゲルトラウデ師匠です」

「おぉ! ゲルトラウデ殿ですか!」

 

 紫水晶の剣、素晴らしい武器だ。一応【清潔】をかけてから木箱に戻した。見た目も性能も素敵な武器である。これが景品ならガチで狙ってみる価値ありますね。

 

「彼女とは一度お手合わせしたいものです! 以前に出場なさってからはお会いする機会がなく!」

「師匠は今回も控えるそうですが、代わりに娘さんが出場されます。審査には合格したそうですよ」

「それは楽しみですな!」

 

 世間話などしつつ、その後もウッキウキで武器を試していく。

 暇させるのもアレなので、了承を得てからルクスリリア達にも試させてみる。

 みたのだが……。

 

「えっと、これは……何ですか?」

「“カメハの皿”ですな。頭に被ると水の中で呼吸ができるようになります」

「“水中呼吸”のアイテムを使えばよくないですか……?」

「仰る通りですな!」

 

 最初の剣以外、なんか微妙なやつばっかだった。

 なんかフリーレンの微妙魔法シリーズでも見てる気分である。景品としての深域武装は人気がないらしいが、確かに頑張って優勝してこんなカスレア出されたらキレるわな。選ぶにしたって、本当に優秀なやつは保管するだろうし。

 あと、ライドウさんの知り合いが気前よく出してきた理由も分かった。ぶっちゃけこれ在庫処分だろ。

 

「おぉ、草特効の鎌……! ひと振りで周囲の雑草を刈り取る性能してるのか。実に面白い……」

 

 まあ、これはこれでフリーマーケット漁ってるみたいで楽しいのだが。

 皆も最初にあったレア武器へのワクワク感を無くし、もうヘンテコ玩具の試遊会の雰囲気である。

 

「これは、何かしら……? 泡が出てきたのだけれど……」

「“ミスティリアの杵”と言って、魔力を消費して泡を生み出す権能を有しています! 泡一つ一つに【清潔】の効果があるようで、当たると綺麗になるんですよ!」

「素直に【清潔】で良いんじゃないかしら……?」

 

 エリーゼは木製のハンマーを振って泡を出していた。バブルこうせんである。

 見た目はファンシーで可愛らしいのだが、迷宮探索での使い道はなさそうだ。

 

「ご主人ご主人! これ凄ぇッスよ! うぉおおおおお!」

 

 ふと見ると、何故かテンションを上げていたルクスリリアは俺の目の前で棍棒をシコシコしだした。

 しばらく扱いていると、棍棒の先端からドビュルルルル~♡ と謎の白い液体が発射された。

 

「“ジエユアンの棍棒”です。先端から粘性のある液体を放出するという権能を有しています! 白の液には魔物を引き付ける効果があるようですな!」

「へえ。あれ? 魔物集め用の道具って他にもあったような……」

「白以外にも色んな液体が出るそうですよ! これはイワヌマという家からの寄贈品で、半ば無理矢理押し付けてきたのです。お陰で私の倉庫が圧迫されてしまいましたな! ははは!」

 

 こんなの武器じゃないわ。ただのジョークグッズよ。

 使い道がないというか、普通に使いたくない武器まで出る始末。

 

「う、美しい簪なのじゃ……」

「後ろ向いて。付けてあげよう」

「こうかの……?」

 

 綺麗な簪に見惚れていたイリハに、それをセットしてやる。とても似合っていた。

 ところで、このアクセサリにはどんな効果があるのだろうか? どうせクソアイテムだろうと思って、調べる前に付けちゃった。

 

「うむ、それは“ジブチの簪”と言いまして……」

「お、権能ってこう使うんかの……ぶほ!」

「グワーッ! くっさ! なんじゃこれくっさ!」

 

 瞬間、イリハの簪から得も言われぬ悪臭が放射された。

 なんだこれ、牛乳塗れの犬を拭いた雑巾みたいな臭いがする……!

 

「……権能により、魔物避けの臭いを発します。うむうむ、とても臭いですね! これまたイワヌマ家からの寄贈品で、押し付けられました!」

「くっさ! ご主人くっさ! 早く何とかするッスよ!」

 

 これは最早カスレアでもジョークグッズでもない、地雷アイテムだ。

 俺はイリハの頭から簪を取り上げると、得意の【清潔】を連発してお互いに付着した悪臭を消し去った。

 狐人らしく嗅覚に優れたイリハは、例によって目をグルグルにしてダウンしてしまった。しばらく休ませよう。

 

「深域武装って色んなものがあるんですね……」

「ええ。古い家ですと、存外持つだけ持っている場合が多いようです! 扱いに困っているとかで!」

 

 ダンジョンドロップのレア武装とは言うが、何でも有難がられる訳でもないんだな。

 それで言うと、俺が引いたのは三つとも良品だったのかもしれない。モブノの槍は何故かあんま使ってないけど。如何せん性能高くて売るに売れないんだよな。

 

「これは……」

 

 カスレアにも負けず、ジョークグッズにも負けず、俺達は引き続き深域武装を試遊していった。

 そんな中、グーラは気になる深域武装を発見したようだった。

 

「むっ、それは私が昔引き当てた深域武装でしてな! 名を“レダの短剣”と言います!」

 

 取り出したそれは、とても小さい短剣の柄頭に輪っかがくっついているようなデザインで、あるいは鎖のない手枷に短剣のキーホルダーが付いているようにも見える変わった形の深域武装だった。

 持ち主曰く、これは腕に輪っかを嵌めて使うらしいので、せっかくだからとグーラに装備させてみた。

 

「見て分かる通り、こいつは難物でしてな! 色々と使い方を模索してみたのですが、なかなか使い手が見つからず倉庫の肥やしになっていたものになります! 使用には独特な魔力操作が必要で、大雑把な私などには到底扱える訳もなく!」

「なるほど」

「魔力、魔力……こうでしょうか」

 

 今のグーラは左手首に手枷を嵌めている状態だ。言われた通り魔力を流したようで、短剣と手枷の間からシュルーッと鎖が伸びてきた。なんかヨーヨーみたいである。

 パッと見、手錠の片側が短剣になってるみたいである。あるいは手錠ヨーヨーか。グーラは使い勝手を確かめるように、魔力を操作して鎖を伸び縮みさせていた。

 

「随分と小さいですね」

「これでも短剣なんだな」

 

 伸ばして、戻して、回して、上に投げて。一通り鎖ヨーヨーをした後、空中で短剣をキャッチしたグーラは「ふむ」と頷いた。

 確かに、この短剣は同カテゴリ内でも最小クラスに小さい。柄ひとつ取ってもグーラの手でギリギリ持てるくらいで、刃の方も彫刻刀めいてミニマムだ。

 ライドウさんは駄目武器認定してるっぽいが、当のグーラは未だ真剣そうな眼で短剣を見ていた。

 

「ちょっと失礼」

 

 俺も俺で可能性を感じる。何故か? ゲーマーの勘だ。

 性能を確認する為、短剣に触れてみた。

 

 

 

◆レダの短剣◆

 

 

・物理攻撃力:500

 

・異層権能:次元連結

 

・補助効果1:魔力収奪(大)

・補助効果2:魔力回復(小)

・補助効果3:形状変化(伸縮)

・補助効果4:形状変化(廓大)

・補助効果5:刺突補正無効

・補助効果6:斬撃補正無効

・補助効果7:物理攻撃力無効

・補助効果8:自動修復

 

 

 

 ん? 形状変化が二つもついているぞ。それと、無効と名の付く補助効果が三つもある。

 権能である“次元連結”というのも気になる。他のカスレアとは少し毛色が違うな。

 

「先ほどグーラ殿がしてみせたように、魔力を流すと鎖を伸び縮みさせたり、ある程度操ったりできます! 権能を使うと、刃の先端を何かに接着させる事ができますな!」

 

 鎖を伸ばしたり、先端をくっ付ける?

 おまけに魔力操作ができるって事は、もしや?

 

「ん~、こうでしょうか?」

 

 グーラは手を動かすことなく、魔力を流して鎖を操作してみせた。

 うねうねと、まるで蛇のように動く鎖付短剣。俺程度の魔力感覚でも、手首のあたりからグーラの魔力が流れているのが分かる。

 

「機能も権能も、何となく使えそうな気がするでしょう? ですが、この刃はどれだけ切りつけても何も傷つける事ができないのです! それどころか魚一つ捌けません! はははっ!」

 

 遠慮せずどうぞと言われ、グーラは遠くの木に短剣を射出した。

 弾丸めいて発射された短剣は、ダーツのように幹に突き刺さった。が、よくよく見ると刃は先端にくっついているだけで、一ミリも刺さっていない。これが権能の“次元連結”で、各種無効系の効果か。

 権能を解除すると、短剣は何事もなかったように地面に落ちた。そのままシュルシュルと戻ってきた短剣は、掃除機のコンセントめいて元の位置に収まった。

 

「性質上、忍者が使う鈎縄の代用として使えると思っていたのですが、難儀な事に十全に扱うには投擲技術と魔力操作の併用が必要でしてな! そこまでして使う意義があるかというと全く以てそんな事はなく! これもまた、鈎縄でいいではないかという意見に落ち着いてしまいました!」

 

 持ち主はこう言っているが、見た感じグーラは普通に使っている。

 これは俺のチートが反映されているお陰で魔力操作に集中できるからなのか。

 ともかく、ちょっと思いついた事があった。

 

「グーラ、もっかい同じ事やってみて。そんで繋げたまま引き寄せてみて」

「はい。こうでしょうか」

 

 さっきと同じように鎖を伸ばし短剣を射出。ストンと木に接着したところで、付けたまま引っ張ってもらう。

 すると、ベギベギベギ! と木が引っこ抜かれ、そのままこっちに迫ってきた。

 え? グーラが移動するんじゃないの? と思ったが、そうだったここ異世界だったわ。

 

「おっと」

 

 ドン! グーラは迫る木を手のひらでストップさせた。片手ダンプならぬ片手大木だ。

 うん、だいたい分かった。やっぱ、これアレだ。蜘蛛男的なやつだ。

 グーラと鎖付き短剣。可能性の獣である。

 

「おぉ、大力の方が使うとそんな事ができるのですな!」

「色々と調べたい事がありますね」

「楽しそうッスね、ご主人」

「さっきから視て(・・)いるけれど、あの鎖を使うには独特な魔力操作が必要なようね。私は言うまでもなく、イリハにも難しいんじゃないかしら」

「氣も流れ込んでおるのぅ。うむ、わしじゃと一回飛ばすだけで頭痛くなりそうじゃ」

 

 俺とライドウさんが感心していると、皆もグーラに注目していた。

 

「ん~?」

 

 当のグーラはというと、ヨーヨーを弄りながら何か考え事をしているような表情。

 

「どうした? グーラ」

「あ、すみませんご主人様。試してみたい事があるので、ぶちぬき丸をお出しして頂けませんか?」

「いいけど。はい」

「ありがとうございます」

 

 お願いされたのでアイテムボックスから出したぶちぬき丸を手渡すと、グーラはおもむろに短剣の先端をぶちぬき丸の柄頭に連結した。

 鎖付き短剣が鎖付き大剣になった訳だ。そして、チェインぶちぬき丸を持ったグーラは、鉄塊の如き剣を大きく振りかぶって……。

 

「ふん!」

 

 思いっきりぶん投げた。

 見ると、グーラの左手首にある鎖が伸びまくって。おまけに太くなっている。やがて、ズドンと轟音を立てて鎖付き大剣が大樹に深々と突き刺さった。かと思ったら、哀れ大樹君はゆっくりと倒れていったではないか。

 ジャラジャラと音を立て、太くなった鎖を回収する。凄まじい勢いで戻ってくるぶちぬき丸を、グーラは危なげなくキャッチした。

 

「「おぉ!」」

 

 男二人、野太い歓声が上がる。女子二人は「うわぁ……」みたいな顔になっていて、エリーゼは「へぇ?」みたいな顔で竜族微笑。

 凄いなやるじゃん! と思って近づこうとしたら……。

 

「えーっと、こう?」

 

 ブン、ブン、ブンブンブンブン……!

 まるで鎖分銅でも扱うように、グーラは鎖付きぶちぬき丸を回転させ始めた。

 するとどうだろう。異世界物理法則の作用か、生み出される回転エネルギーによってとんでもない強風が発生。ち、近づけねぇ……!

 

「ちょちょちょ! グーラ待っ……!」

「あ、これもできますね」

 

 瞬間、回転する大剣の刃に真っ赤な炎が宿り、グーラの手により火炎の竜巻が生まれた。

 新手のファイヤーパフォーマンスかな? なんてモンじゃあ断じてない。もっと恐ろしいモノの片鱗を感じざるを得ないぜ。

 

「できる? できるかも……よし!」

「グーラ?」

 

 何かを試したいらしいグーラは、炎嵐を持ったまま雷を纏って駆け出した。狙いは鍛錬場の森。

 回転する炎剣。疾駆する迅雷。燃え盛る竜巻を手に、炎雷の獣が緑の木々を蹂躙する。グーラが通った後には、無残に斬られて焼け焦げた大自然の残骸だけが残った。それはさながら走る災害であった。

 

「なんと凄まじい! 尖兵戦であればどれほど活躍するでしょうか!」

 

 そんな災害を見て、なにやらライドウさんは感動していた。

 無暗に暴れているように見えるグーラだが、彼女は至って冷静に検証しているようだった。大虐殺ヘリコプターだけでなく、投げて戻すスタイルや鞭のように使うスタイル等の動きを実験していたのだ。教えてもいないのに進撃めいた立体機動とかしてるし……。

 

「っと、グーラ! ステイステイ!」

 

 流石にそろそろだ、試遊の時間は終わりである。俺は荒ぶる火神に鎮まるよう声を上げた。

 すると、燃え盛る森の中からグーラが戻ってきた。右手で剣を持ち、左手から鎖を垂らし、顔には満面の笑みを浮かべて。

 

「ご主人様、これとっても楽しいです!」

「そうか、それはよかった」

 

 手枷を外し、短剣を返してくれたグーラだが、よっぽどこの武器が気に入ったのか随分と名残惜しそうな顔をしていた。

 

「鬼人に金棒なのじゃ……」

「虎人に翼ッスよ……」

「お祖父様に名剣を渡すようなものね。素晴らしい力だわ……」

 

 皆は畏怖している。グーラは気に入っていた。俺も俺で、一連の彼女の動きには浪漫を感じていた。

 これはもう、決まりだろう。俺はレダの短剣に【清潔】をかけてから返却した。

 

「どうやら、我が家の深域武装はお気に召されたようですな!」

「ええ、たいへん気に入りました。ぜひとも手に入れたい逸品ですね」

「おや。奇遇ですな! あれは今度の桜闘会、それも全種総合部門の優勝賞品になるかもしれない代物でして……」

 

 という白々しい会話を聞いて、グーラは目をキラキラさせていた。

 何気に、グーラのこういう一面を見るのは初めてだった。存外、彼女は武器が好きなのかもしれない。ならば尚の事、ガチでいく気になれるというものだ。

 

「優勝目指し、頑張ります」

「うむ。本番を楽しみにしておりますぞ!」

 

 そんな訳で、俺は意欲たっぷりに大会へと挑むのであった。

 今後の為とかより、グーラの為の方がしっくりくる。お陰で俺のやる気はマックスだった。

 

 よーし、パパ張り切っちゃうぞ!




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 イシグロが最初に確認した紫水晶の剣ですが、これは東区長バンキコウの私物です。
 だから、カスレアではなかったんですね。

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 何するにしてもしないにしても、現状の把握は大事だと思ってます。よろしくお願いします。
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