ドッキドキがもう聞こえな〜い!
deco27さんのゾンビ、オススメです。
「……ふぅ、一先ず最悪は避けられたな」
最悪、文字通り最も悪い状況や事柄のこと。
今の俺はというと、沙花叉と同じクラスという、史上最悪の結果を見事切り抜けられていた。
先ほど、校舎内で貰った紙を見た後、入って来たこの1年のクラスには何処を見渡しても沙花叉の姿は無い。
それにあの沙花叉のお友達の姿もない、正に最高の状況だ。
やっと俺は付き纏う沙花叉の呪縛から解放されたのだと思うと、これからの高校生活に胸が踊るのも無理はない。
寧ろ今からが俺の本当の学園生活の始まりと言っても過言ではない。
さて、まだ最初のホームルームまでは時間がある。
高校でぼっちを避ける為にも、ここらで誰かに話しかけておくか……。
そんな事を考えていた俺だったが、ふと後ろから背中を叩かれる感覚がして後ろを振り向いた。
するとそこに居たのは……【カラス】だった。
あ、どうも、先程ぶりですね。
「だから違ーう!! 吾輩はこっちだ!」
「げっ、お前さっきのちびか」
「ちびじゃねぇわ! 人間のくせに生意気だぞ!」
やはり世の中というのはそれほど甘くはないらしい。
まさか沙花叉の代わりにこいつが同じクラスだなんて……三年間沙花叉と一緒に居たことによって培われた俺の危険センサーは、目の前の少女にレッドアラートを鳴らし続けている。
つまり、あれだ。
関わらないが吉って事だな、うん。
「そうか、そうだな。
俺が悪かった、じゃあそういう事で」
「お、おい! どこ行くんだ? まだ話は終わってないぞ!」
「はいはい、じゃあそういう事で」
「どういう事だ!?」
席を立ち上がり、離れる俺の後ろから煩い声が聞こえてくるが、こういうのは気にしたら負けだ。
それよりも、早いとこ普通の友達を見つけよう。
沙花叉のように人の話を聞かない奴や、あのちびのように人にいちゃもん付けるような奴じゃない、ごく普通の友達を。
クラスにいるとどうしてもあのちびが五月蠅かった為、俺はクラスを出るとぶらぶらと廊下を歩く事にした。
後10分か20分もすればホームルームだが、一先ずあのクラスからは離れたかったし、それにこの学校の何処に何があるのかというのも知る事ができる良い機会だ。
そうして自分のクラスから少しの間歩いていると、俺と同じように廊下を歩く生徒達の中に、一際目立つ【木刀】が見えた。
腰に付いてる木刀から目を離し、よく見ると何処かで見たような見てないような女の子が居た。
しかしあんなものぶら下げてよく先生達は何も言わないな、見てくれがまるで昭和のヤンキーだぞ。
そして髪は金色だろうか? それに綺麗な水色のような色の目をしている。
どう考えても日本人離れした目鼻立ちと髪の色、そして腰に差している木刀。
この状況で大抵の人は俺と同じ言葉を溢すだろう。
「なんじゃあれ」
「なっ!? あれとは何でござるか、斬るでござるよ!」
「え? あぁ悪い、つい」
どうやら聞こえてしまったらしい。
あぁやだ、こっち来るよ……俺は普通の友達を探しに来たっていうのに、どうしてこう変わり者しか見つからないんだこの学校は。
「ん? その顔……もしかして八一君でござるか?」
「? どうして俺の名前を?」
「どうしても何も、沙花叉から散々聞いてたでござる。
それにさっき校門で会ったでござるよ」
「校門……あ、もしかしてあの時の刀持ってた人?」
「刀じゃなくて、チャキ丸でござる!」
なんだその小学生が付けたみたいな名前は。
っていうかこいつあの沙花叉と愉快な仲間達の一人かよ、どおりで何か見たことがあったような気がした訳だ。
それにしても俺は友達を探してこうして廊下にいる訳だが、普通は自分のクラスにいる筈。
それなのにこいつはここで何をしてるんだ?
「でも丁度良かったでござる、八一君に会えて」
「? 俺に? それはどういう……」
「それは着いてからのお楽しみでござるな、取り敢えず一緒に来て欲しいでござる」
「まぁ……別に良いけど、もうホームルームまであまり時間がないぞ?」
「大丈夫でござる、すぐ済む用事だから」
そう言い残すとこいつ……いや、いつまでもこいつやあいつ呼ばわりじゃ失礼か。
この子は意外とまともそうだし、それに仲良くする気は無いが、沙花叉の友達なら名前ぐらいは知っておいてもいいかもしれない。
あのちびは論外だが、あいつの頭に乗ってるカラスさんの名前は是非とも後で聞いておこう。
「なぁ、その前に名前を教えてくれないか?」
「え? あ、そうでごさるな、失礼したでござる。
風真いろはでござる! これから宜しくでござる、八一君!」
「あぁ、風真」
「もぉー、いろはでいいでござるよっ!」
「そうか……?」
何だこの感じ……何なんだろうこの感じは。
この沙花叉と話してる時には感じない幸福感は。
これだよこれ、聞いてるか沙花叉、これがお前に足りないものだぞ。
こんなに性格良さそうな友達がいるのに、何故お前はあんなにもうざ絡みするような奴になってしまったんだ、色々チャンスはあった筈だろ?
それがどうして人の足を蹴り上げる奴になってしまったんだ、俺は悲しいぜ。
「じゃあ行くでござるよ、八一君!」
「あぁ、分かった、いろは」
いろはは満足したように笑うと俺の前を歩き出した。
そうして歩いてる間に色々と話をした所、どうやらいろはは小さい頃から剣道を父親の影響で習っていたらしく、その腕前はかなりのものらしい。
中学では全国大会で一位も取っていて、高校生や大人相手でも歯が立たないらしく、剣道の世界ではかなりの有名人なんだそうだ。
その事もあってか特例中の特例で中学の時や、この高校でも決して人を傷つけないのを条件に、木刀を持つことが許されているらしい。
どうやら腰に刀を差していないと落ち着かないんだそうだ、いや侍かよ。
「そう! 風真は侍なんでござる!
よく分かってるようで嬉しいでござるよ、八一君」
「もしかしてその喋り方も侍の真似か?」
「真似じゃなくて本物でござるっ!」
本物の侍が本当に語尾にござるって言ってたのかは、甚だ疑問が残るが、そんなことこの自称サムライには関係ないんだろうな。
「本物の侍なら本物の刀を差さなきゃダメだろ」
「……」
「……? いろは?」
何気なく、本当に何気なく言った俺の言葉に、突然いろはの足が止まる。
勿論本気で本物の、いわゆる日本刀を持てと言ったわけじゃ無い、侍だと豪語するいろはを少しからかいたくて言っただけだ。
それなのにいろはは突然青ざめた顔をしてその場に立ち止まった。
急にどうしたんだ、と聞く俺にいろはは何も答えなかった。
いや、正しくは答えたくないように見えた、何か思い出したくないトラウマを隠すように。
それが何なのかは分からないが、直ぐに調子を取り戻し笑いながら歩き出すいろはの後を、俺はただ着いていくしかなかった。
いつかいろはが話してくれる日は来るのかと、そんな事を考えながら。