ホロライブ・ゾンビーズ   作:鉄の掟

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第四話 何かがおかしい

 

 

 

 

 

「それでは、今からホームルームを始めます」

 

 担任の川島先生が教団の前に立ち、ホームルームを始めた。

 とは言っても入学初日という事で、この後入学式をやった後は、午前中に帰ってもいいらしい。

 教科書やその他諸々の学校生活に必要な物は明日配られるそうだ。

 

 そうして短めのホームルームを終えた川島先生は、入学式が始まったら呼びに来ると言い残すと、教室から色々な書類を持って出て行った。

 きっとこの後担任同士で打ち合わせやら何やらをやるんだろう、教員という職業も中々辛いもんだな。

 

 そういえば、ホームルームの最中に学校の外でやたらサイレンが鳴っていたな。

 今も何台ものパトカーがサイレンを鳴らしているんだろう、外は朝の静かさと打って変わって、少し騒がしい程に音が鳴り止まない。

 ……何か胸騒ぎがする、いや単純に初の高校生活に多少なりとも緊張しているだけか? 

 

「おい、人間! お前のせいで先生に怒られたじゃないか! ったくこれだから男は……」

 

「さっきから思ってたんだが、その人間とか吾輩とかの変な口調は何だ? 高校生にもなって恥ずかしいにも程があるぞ」

 

「な!? おおおお前にそんな事言われる筋合いは無いぞ!」

 

「まぁ、それはそうだが」

 

 次から次へと表情筋が飽きないやつだ。

 

 さて、川島先生はそう言ったものの入学式がいつ始まるかも分からない。

 その間、ただ机でボーっとしてるのも面白くないな。

 かと言って、誰か話す相手がいる訳でもないし、周りはすでに何個かグループが既に出来上がりつつある。

 

 というか、このままでは俺だけぼっちになる気がする。

 これはまずい、どうにかして話し相手ぐらいは見つけないと、俺の高校生活は期待していた青色から一転して、灰色の空模様一直線だ。

 

「おい、人間」

 

「あ? 何だよ、今お前に構ってる暇は……」

 

 そう言いながら、後ろを振り返ると、ちびすけは窓の方を向き何か説明し難い顔をしていた。

 その光景がやけに気になり、ちびと同じ目線を辿っていくと、そこには警察のパトカーが何台も止まっていた。

 それも警察はパトカーを道路の真ん中に壁を作るように駐車していて、まるでそこで銃撃戦でも繰り広げる気なのかと疑うくらい、拳銃を取り出し駐車したパトカーから、先の道路を見つめていた。

 その光景は嫌な曇り空も相まって、余計に不気味な光景だった。

 

 警察は一体何故あんな事をしてるんだ? 

 もしかしてさっきの殺人犯を捕まえようと……? いやそれにしてはやや警察の数が多すぎる。

 それにいくら何でもアメリカならまだしも、日本であそこまで犯人に対して警戒するだろうか。

 相手がライフルを持っているなら話は別だが、それなら無闇に大勢の警察が駆けつけることはしないだろう、先に近隣住民の保護と安全を優先する筈だ。

 それとも、まさか……人の命より優先しなければいけない事があるのか? 

 

「! おい、何処に行くちびすけ」

 

「離せ、人間、少し……様子を見てくるだけだ」

 

 俺が窓の外に夢中になっている時、ふと横にちびすけもカラスさんもいないことに気付いた。

 そして教室の扉の方を見ると、ちびすけが階段の方へ降りていくのが目に入る。

 

 何となく何を考えているのか理解できた俺は、ちびすけに急いで走って追いつくと、手を掴み行かせないようにする。

 様子を見に行くだと? この状況で外に行くバカは本当のバカだ。

 あれだけの警察が必要な何かしらがあの先で起こっているのに、バカ正直に向かって行ってもしもの事があったらどうする。

 俺は正直知ったこっちゃないが、こいつは沙花叉の友達だ、後であいつに怒鳴られるのは勘弁したい。

 

「状況を分かってるのか、あの警察の数を見たろ、お前死ぬぞ」

 

「……刮目せよ! 吾輩の名はラプラス・ダークネスだ!」

 

「……は?」

 

 急に何言ってんだこいつ、遂にイかれたか。

 

「吾輩はエデンの星を総べる者! そんな吾輩に恐れるものなんてないのだ! それじゃあそういう事で手を離してもろて……」

 

「いや、余計に離せるか」

 

 どうやら沙花叉はとんでもない厨二病こじらせ少女と交友関係を築いていたらしい。

 ラプラス・ダークネス? 最早ほぼ初対面の俺にここまで厨二病の設定を貫かれると、逆に清々しく思えてくるな。

 

 とはいえ、それなら余計に行かせるわけにはいかない。

 罷り間違って警察の隣でハリー・ポッターの呪文とか唱えてみろ、明日のニュースでコイツの厨二設定が全国に名を轟かせる事になってしまう。

 それだけは阻止しなければ、この痛々しい厨二少女の為にも。

 

「面白半分で行く気なら早く教室に戻れ、俺は本気だぞ」

 

 本名がわからないから仕方なくラプラスって呼ぶが、ラプラスは俺がそう言うと、ポケットから携帯を取り出し俺に見せて来た。

 そこには母上と書かれたスマホの電話画面が表示されているが、繋がっているにも関わらずスマホからは何の音も聞こえない。

 つまり、相手がスマホの電話に出ないという事だろう。

 

「母上はいつでも吾輩を気にかけてくれて、電話にも直ぐに出てくれるんだ……それなのに、さっきから……電話に出なくて……」

 

「……」

 

「お願いだ、離してくれ……八一」

 

 ……こいつ、こういう時に限って名前で呼びやがって。

 

 

「……分かった、お前が行きたきゃ行けばいい」

 

 そう言って、離すまいと握っていた手を離す。

 ラプラスは少し赤くなった手首を触ると、ジトっとした目を向けて来た。

 ……こいつ、人が心配してやってやった事なのに何だその目は。

 

「悪かったよ、強く握り過ぎた、それより早く行くぞ」

 

「え、な、どういう……ちょ、ちょっと!? おい!」

 

 先に階段を降りて行く俺に続いてラプラスも駆け足で階段を降りる。

 階段を降りている間、ラプラスは俺に色々一人で平気だの、俺には関係ないだのと言ってきたが、最終的には何やら納得した様子で口を閉じた。

 

 そりゃあそうだ、この状況で高校生……まぁ年齢は高校生の、女子が一人外に飛び出して、どうにか出来る訳がない。

 こいつは少し感情的に行動する所があるが、どうやら自分で物事を考えられる頭はあるみたいだな。

 俺が階段を降りている間、一言も話さなかったのも状況を理解するのに良いスパイスになっただろう、どうやら俺は沙花叉によると、黙ってると相当怖い顔をしているらしいからな。

 全く心外だ、こんなにも慈愛に満ちた性格の俺にそんな事言いやがって、男だったらコンクリート詰めにしてたぜ。

 

「八一……やっぱり良いやつなんだな」

 

「あ? どういう意味だ」

 

「え? あ、その…沙花叉からは、鈍感で女心の分からない唐変木って聞いてたから……」

 

「そうか、ありがとう教えてくれて」

 

「や、八一……? か、顔が怖いぞー……?」

 

 大丈夫だラプラス、生まれつきこの顔だ。

 少し頭の血管が切れそうだが、今はそれどころじゃない。

 今の話は後で沙花叉にしっかり事情聴取してやろう、楽しみだ。

 

 さて、案外すんなりと階段から校門まで辿り着いた俺達は、ラプラスの家の方角に向かって歩き出した。

 しかし、やはり町の雰囲気がどこか不気味だ。

 沙花叉と一緒に歩いていた朝には聞こえていた人の歩いている音や、車の音、店の中の話し声も、何故か今はぴたりと止んで聞こえて来ない。

 

 まるで世界に俺とラプラスしか居なくなったみたいに静かだ。

 それが異様なのはラプラスも感じているようで、さっきから俺の横にピッタリとくっついて来て歩きにくい。

 っていうか俺が付いてきたからいいものの、もし俺が付いてこなかったら、こいつはどうやって家まで行く気だったんだ? 

 今の俺は迷子の子どもを保護してる大人の気分だぜ。

 

「少しは自分の体くらい自分で支えてくれないか?」

 

「う、うるさいぞ……! 吾輩だってしたくてしてるわけじゃ」

 

「あっそ、なら俺はここまでだな」

 

「い、いやー? それは少し違うんじゃないかなってわ、吾輩は思うけどなー?」

 

 はぁ、高校の入学式の日に抜け出すというリスクを犯してやる事が、こいつのお守りとは。

 全くどいつもこいつもイかれてるぜ。

 

 その時、一発の銃声が俺とラプラスの耳を激しく裂いて遠ざかっていった。

 そして間髪入れずにまるで戦場のど真ん中にいるみたいに、俺とラプラスがいる道路より先、右に曲がった道から、銃声が止まる事なく鳴り響く。

 そしてそんな爆音の中に、人間の悲鳴が混ざっているのを俺は聞き逃さなかった。

 

「ラプラス! こっちだ、早く!」

 

「え、な、銃声……? 八一、一体何が……」

 

「考えるのは後だ、一先ずここを離れるぞ!」

 

 ラプラスの手を掴んで俺は走り出した。

 その手は小さく暖かくて、俺の心の内に、こいつを絶対に守るという決意を抱かせるには充分過ぎるほど、尊い感触だった。

 

 ……何処でもいい、兎に角ここを離れないとまずい。

 あれだけの銃声が聞こえたということは、きっと警察はとんでもないものに向かって、銃を発砲していた。

 人間相手にあそこまでする訳がない、でもだとしたら何だ? 何故警察はあんな死に物狂いみたいに……? 

 それに銃声の中で微かに悲鳴も聞こえた、さっきまであんなに静かだったんだだぞ、なのに何だって急に銃声が鳴り響くんだよ! クソっ! 

 

「取り敢えず、学校に戻るぞ、いいな?」

 

「で、でも八一、吾輩のお母さんが……」

 

「大丈夫だ、兎に角今はそう信じろ」

 

 幸いにも、銃声がした方角と俺達が向かっていたラプラスの家の方角は違う。

 だからといって安心は出来ないが、少なくともラプラスにとっては気休め程度にはなるだろう。

 

 そうして俺達は学校に戻る為に走っていた。

 動揺から非日常的な出来事からかラプラスは走るにも一苦労だったが、何とか俺が手を引き学校が目前に見える距離まで近づいていた。

 

 嫌な予感がする、どうしてさっきまであれだけの銃声が鳴ったにも関わらず、野次馬の一人も見かけないんだ? 

 それに遠くではまだ銃声が聞こえるが、その数は明らかにさっきより少ない。

 一体何に対してそんなに発砲しているんだ? ……妙な胸騒ぎがする……

 

 その時、遠くで人影のようなものが見えた。

 その人影はまるで酔っ払いのように右へ左へ揺れながら、俺たちの方へ歩いて来ていた。

 その人影を目にしたラプラスは安堵したのか、俺の手を握る力を抜いて深く溜息を吐いた。

 

「はああぁぁ、良かったな八一、人だぞ人」

 

「……ラプラス」

 

「一時は吾輩もどうなる事かと……」

 

「ラプラス」

 

「ん? ……八一? どうし」

 

「逃げるぞ……早く……早く!!」

 

 ラプラスの手を引いて、人影と逆方向に再び走り出す。

 訳が分からない様子でラプラスは俺に説明しろと叫ぶが、今はそんな事に構ってられない。

 

 俺もとてもこの世の事とは信じられない……しかし、自慢じゃないが俺は唯一目の良さだけは誰にも負けた事はない。

 子供の頃から大人によく褒められ続け、今では視力検査で間違えることなんて万が一にも無い程、俺の目は遠くの物も鮮明に写ってしまう。

 そんな俺はしっかりとこの目で見てしまった……

 

 あれが肉を噛みちぎり、口から血を滴らせながら、俺とラプラスを人とは思えない血走った目玉で見つめているのを。

 

 

 

 




仕事が忙しくてなかなか投稿が出来ず申し訳ありません。
次でプロローグは最後になると思います。
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