ホロライブ・ゾンビーズ   作:鉄の掟

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お、お久しぶりです。
その言い訳をすると、今までもGW中も仕事で書く暇が無く…こんなに遅い更新になってしまいました。
なので作者の頭をぶち抜くのは勘弁して下さい。

それでは、どうぞ。


第六話、崩壊

 

 

 

 静かな町を全速力で走り抜けてく。

 大丈夫、きっと間に合う筈だ、さっき学校から聞こえたスピーカーからもおかしな雰囲気は無かった。

 今頃、沙花叉はどうせ暇そうに机に突っ伏してるだろう、綺麗な目で時計を睨みながら、進まない時計の針にがっかりしてる筈だ。

 きっとそうに違いない……なぁそうだろ? 沙花叉……

 

「八一! あそこ!」

 

 隣で息を切らせながら走るラプラスが、前の方を指差しながら叫ぶ。

 その指の先には俺たちが目指す、沙花叉達がいるであろう学校が遠くに見えた。

 あの怪物から逃げてる時は遠く感じた距離だったが、やはり人は目的があると違うらしい、俺とラプラスは少しだけ立ち止まり、遠目に学校を見つめると、また体の疲れを無視して走り始めた。

 

「ラプラス! もう少しだ踏ん張れ!」

 

「わ、吾輩を舐めるなぁ!」

 

 そうして走って走って、俺たちは学校の手前まで来ていた。

 そこで俺は気づいてしまった。

 

 ……もう全てが遅かったということに。

 

 

 

 学校に繋がる道を走り、最後の曲がり角を曲がった俺とラプラスの目に飛び込んできた光景は、学校の門の前で警官の服を着た男が、さっき出くわした数人の怪物に、見るも無惨に喰われてる姿だった。

 

 一人は腕を食いちぎって、二の腕に噛み付いていて、また一人は腹から内臓を引き摺り出し、夥しい量の血が噴き出すそれを無我夢中で喰らっていた。

 そして俺たちの目の前で警官を食っている怪物の一人は、この学校の制服を着ていて、その事実が俺を更に絶望へと突き落とした。

 

「あ……ああ……嘘だ、ろ? ……こんなの……」

 

 目の前の光景がまるで理解出来ない。

 なんでこんな事が俺の目の前で起きてるんだ? ついさっきまで普通に通行人が歩いていた道で、何で人が人を食って……。

 

 希望が目の前の光景にズタズタに引き裂かれていく。

 どうせ警察が何とかしてる、きっと戻れば全てが片付いていてこんな状況で外に出た俺を、沙花叉や母さんが叱ってくる。

 そして……その後は俺は謝って仲直りして……また明日にはこの学校に何事もなかったように……沙花叉と、笑って……。

 

「!! さ、沙花叉!」

 

 そうだ、沙花叉……あいつはどうなったんだ!? 

 いや、きっと大丈夫だ。 

 何だかんだ地頭は良いあいつの事だ、きっとすぐに状況を察知して逃げてるに決まってる。

 目の前の警官は、恐らく沙花叉が逃げる時間稼ぎでここに残ってくれたんだろう。

 それなら早く助けに行かないと……! 

 

「……っ! 何掴んでんだよ……離せラプラス!!」

 

 目の前の怪物を無視して走り出そうとする俺だったが、後ろから何かに強く腕を掴まれる。

 見ると、そこには俺の腕を離すまいと必死に小さな体に力を入れ、俺の腕に抱き着くラプラスがいた。

 

「行かせ……ないぞ! 絶対にっ!! 行かせない!」

 

「お前、ふざけんなよ!? 元はと言えばお前について行ったばかりに俺は!」

 

「今、八一が行って何になるんだ!? もう手遅れだ……全部手遅れなんだっ……」

 

 ラプラスの目から大粒の涙がポツリと零れ落ちる。

 それは沙花叉達が死んだと決めつけ、その死に対する涙だったのか、俺を外に連れてきてしまったことに対する後悔の涙だったのかは、俺には分からなかった。

 ただ、俺は……ラプラスの様に諦めたりはしない、沙花叉は生きてる。

 絶対に生き残っている筈だ。

 

「もう一度だけ言う、離せ」

 

「うぐっ……ひっぐ……いや……いやだ!」

 

「……っ! そうかよ!!」

 

 ラプラスは絶対に行かせないと言う言葉通り、力一杯俺を止めようとしていた。

 しかし、所詮は男と女、それにラプラスは体格的にもかなり小柄だ、力勝負なら圧倒的に俺の方が有利。

 そうして俺はラプラスを力尽くで引き剥がし、怪物のいる方へと走って行った。

 

「うっああ……なん……でよ、八一……! 何で、行っちゃう……の……っ……!」

 

 後ろからラプラスの嗚咽混じりに俺を呼ぶ声が聞こえる。

 その声に俺の心は大きく揺さぶられるが、それでも俺はやはりあいつを放っておくわけには行かない。

 ……本当にお前は居ても居なくても俺を困らせる奴だぜ、沙花叉。

 

「っ邪魔なんだよ、退け!!」

 

 俺が走り出すと、警官に群がっていた怪物の一人が俺に向かってきた。

 しかしその動きは人間より遥かに遅く、しかもこちらに千鳥足で向かってくるだけで、何か喧嘩の様に殴ったり蹴ったりするような素振りすらない。

 ……多分本当にこの怪物はゾンビの様なものなんだろう、それなら弱点もきっと同じな筈だ。

 

 俺は学校の側に転がっていた拳程の石を拾い上げ握ると、歯を剥き出しにして向かってくる怪物の顔に向かって思いっきり殴りつけた。

 すると、怪物は後ろに倒れ込み体を痙攣させた。

 やはりコイツらはゾンビの様に頭が弱点らしい、なら人間の様に固い石で殴られれば脳震盪も起こるわけだ。

 

 そして脳震盪を起こしてる間は当然だが怪物は動かない、その隙に俺は怪物に跨ると、手に持った石を大きく上へと持ち上げる。

 その瞬間、目の前の怪物と目が合った。

 きっとこんな風になる前は優しい人だったのだろう、温和な印象を与えるその顔の口元には肉片がつき、血を滴らせながら俺を睨みつけるその目に、俺は勢いよく石を叩きつけた。

 

 

 

 

「……申し訳ないけど、使わせて貰います」

 

 数人の怪物を殴り飛ばし殺した俺は、さっきまで食われていた警官の近くまで行くと、警官が身につけているベルトを外し、そのまま自分の体へと取り付けた。

 ベルトには警棒や無線機があり、きっとこんな石よりは役に立つだろう。

 

 しかし何故か拳銃だけはベルトのケースの部分に無く、辺りを見渡すと少し離れた位置に落ちていた。

 落ちていた拳銃を拾い上げ、手に取り中身を確認すると、拳銃には不思議な事に球が全弾入っていた。

 しかしそんな事を気にしてる場合じゃない、拳銃には弾は五発、それにベルトには弾を入れるケースも付いていて、後二十発はあると思う。

 

 ……こんな事して、事態が収まったら確実に俺は捕まるな。

 まぁ既に殺人をしてる訳だし、気にするのも今更か……。

 

 

「! ラプラス、何してんだ」

 

 警官からの装備を身につけた後、学校の方へ向くとそこには学校の中を徘徊する怪物の姿が見えた。

 その姿に激しい怒りを覚え、拳銃を強く握り締めながら一歩を踏み出す俺を、またしてもラプラスが今度は前から抱き着き、止めてきた。

 

「ぜっだいに、いがぜないんだ!!」

 

 ラプラスの顔は涙でぐしゃぐしゃで、体は強く強張り震えていた。

 こうしている間にも沙花叉は危険に晒されている、もしかしたら本当にラプラスの言う様に手遅れになるかもしれない。

 

「お前いい加減に……!」

 

「わがはいは…っ…八一が昔から好きだ! ずっと昔から大好きだった!」

 

「……は?」

 

 こいつ、こんな一刻の猶予もない時に何言ってんだ。

 大体、こいつと会ったのは今日が初めてだった筈……。

 

「まだ吾輩が小学生の頃、八一は一人ぼっちだった吾輩とよく遊んでくれていたんだ! 嬉しかった、ずっと一緒に居たかった! でも八一は……どんどん吾輩から離れていって……勇気を出して声を掛けようとした時にはもう沙花叉が居て……それがすごく悔しくて……! 

 

 それで吾輩は名前も服装も全部変えて……そしたらまた一人ぼっちになったんだ……でも今の吾輩なら八一は昔みたいに一緒にいてくれると思った! だから頑張って沙花叉と友達になって関わりを作ったのに……八一は、気づいてもくれなかった……。

 

 でも、八一はやっぱり変わってなかったんだ……あの時一人で外に出ようとした吾輩に、着いてきてくれた! だから、だから吾輩は……!」

 

 ラプラスは叫ぶ様に、心の奥底に溜まっていただろう想いを吐き出した。

 そして最後には、消え入りそうな声で俺の胸の中で言葉を漏らした。

 

「八一に……死んでほしくない……!」

 

「……」

 

 

 ラプラスは俺の胸に抱きつき、泣きじゃくる。

 側から見れば妹が兄に泣きついている様にも見えるだろう、それ程までに小さな体で、小さな背中だ。

 だから俺は今度は優しくラプラスを引き剥がし、涙で潤んだラプラスの目をしっかりと見つめて伝えた。

 

「ごめんな、それでも俺は沙花叉を助けに行く」

 

 その時、車の音と共にパトカーが俺たちのすぐ側で止まった。

 そしてパトカーからは一人の女の警官が出て来て、俺たちに駆け寄って来た。

 

「貴方達、何をしてるの!? 早く乗りなさい!」

 

「すみません、俺はまだやる事があって、先にこいつをお願いします」

 

「!? お嬢ちゃん! 早くこっちに来て!」

 

 駆け寄って来た女の警官は、俺の付けているベルトの拳銃に目をやると、血相を変えてラプラスを車に連れて行った。

 まぁこんな状況で俺みたいな一般人が拳銃を持っていたら、どう考えても危険だし、車には乗せないよな。

 ただ今の俺には、これ以上有難いことはない。

 

「い、いやだ! 離して!!」

 

「あ、暴れないの! 早く逃げるわよ!」

 

「だ、だったら八一も! お願いします八一も助けて下さい!」

 

「いいから早く来なさい!」

 

 力任せに暴れるラプラスだが、流石に同じ女でも向こうは警察官だ、敵うはずなくラプラスはパトカーに乗せられ、警官は直ぐに運転席に行くと車を発進させた。

 これで一先ずラプラスは安全だろう。

 ……大丈夫だラプラス、俺はこんな事じゃ死なないさ。

 

「……沙花叉、今助けに行くからな」

 

 そうして俺は、先程のやり取りで学校から出て来た怪物達に向かって、拳銃を構えると、重い引き金を引き切った。

 

 

 

 




これで一応プロローグは終わりになります。
次からは第一章に入る予定です、お楽しみに。
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