第一話 怪物
「くそっ、これじゃあ身動きが……」
ラプラスと別れてから、俺は拳銃の弾が尽きる限り群がってくるゾンビ達を撃ち続けた。
その中には、俺と同じ制服を着た男や女も居たが……もう誰の目から見ても手遅れなのは明らかだった。
そうして慣れない拳銃を撃ち続けても尚、次から次へと何処からかやって来るゾンビ達から、俺は用済みの銃を投げ捨て校舎内のトイレに身を隠していた。
しかし時間が経つにつれ、校舎内のゾンビ達の数はどんどん増しているように感じる。
しかも増えているのはこの高校の制服を着た奴らばかりだ、という事は……恐らくは……
「俺みたいに隠れている奴ら……だった」
正直……ラプラスの言う通り手遅れだと感じている自分がいる。
果たしてこの地獄みたいな状況で沙花叉は生きているんだろうか? ……そんな事ばかりが頭の中で留まり続けている。
俺はあいつがあんな風に変わり果てた姿なんて見たくない。
「……死んで欲しくない、か」
さっきラプラスに言われた言葉。
子供みたいに泣きじゃくって細い腕に力を入れ、一生懸命俺を抱きしめていたラプラス。
そんなあいつに俺は……約束したはずだろ。
沙花叉を助けに行くって。
「……よし、もう弱音は無しだ」
拳を強く握り締め、そう決意する。
助けるんだ、必ず何があっても……そう約束したもんな。
「よし! 行く」
【はぁはぁ……!! だ、誰か居ないでござるか!? 居たら開けて欲しいでござるっ!!」
俺が扉に手をかけた瞬間、扉の向こうから聞き馴染みのある声が聞こえて来た。
しかしその声色は怯えや恐怖が混じり、今この瞬間にも崩れ去ってしまいそうなほど必死だった。
「い、いろは!?」
向こうにいるのがいろはだと気付いた俺は扉の鍵を素早く開けた、すると小柄な影が俺の隣を横切り、後ろに倒れ込む音が聞こえた。
そして扉の向こうの廊下にはゾンビの群れが押し寄せており、俺は直ぐに扉を閉め鍵を掛けるのと同時に、扉には肉がちぎれ骨が浮き出た無数の腕が勢いよく音を立てて張り付いた。
「いろは、おい! 大丈夫か?」
「はぁはぁはぁ……! 八、八一……くん?」
「そうだ、一体何……がっ……」
いろはの方に向き直った俺はその異様な姿に言葉が詰まってしまった。
着ている制服やスカート、そして綺麗な金色の髪と手に握り締めている木刀には赤黒い血がべっとりと塗りたくられたように付着していて、水色の目と声だけが目の前にいるのが風真いろはなのだと教えてくれた。
「八一君……風真は……かざ……まはっ」
「落ち着け、大丈夫だ」
何かを言おうとしたいろはを俺は抱き締める。
生臭い鉄の香りと、ペンキのように粘り気のある血が着ている制服に染み込んで来るが、そんなのどうだって良い。
いろははきっと戦ったんだ。
あのゾンビ達から誰かを守る為に、自分の命よりも優先して立ち向かったのだろう。
そうじゃなきゃ、ここまで血で染まる事なんてあり得ないはずだ。
「よくやった、もう大丈夫だ」
「うっぐ……ひっく、八一君……一体何が起こってるんでござるか?」
「俺にもよく分からないが取り敢えず無事で良かった」
「皆んな……皆んなおかしくなっちゃったでござる、風真も……あんな事したくなかったのに……っ……」
「落ち着け、一体何があったんだ?」
風真は俺の質問に少し間を置いて答え始めた。
扉に押し寄せるゾンビの呻き声が辺りを埋め尽くす中、俺は風真の話に耳を澄ませた。
「最初は何が起きたか分からなかったでござる……」
〜数十分前、ラプラスを除く四人の教室にて〜
「もう本っ当にあり得ないっ! 八一のバカ! こんな可愛い沙花叉が隣にいるのにぃー!!」
「……あれ、どうするでござるか?」
「こよりが考えるにあのクロヱちゃんには近づかない方が賢明じゃないですかねぇ……」
「まぁ結局八一君からは何も原因が聞き出せなかったしね、はぁ……」
八一君と別れた風真達は自分の教室に帰って来ていたでござる。
風真の座る席は沙花叉の一個後ろの席なんでござるが……流石にあの状態の沙花叉には風真も近寄りたくはないので、こよちゃんとルイ姉がいる廊下側の席にお邪魔してるでござる。
「それにしてもあそこまで沙花叉が怒っているのを見たのは風真は初めてでござる、多分二人もそうだと思うのでござるが……」
「そうだね、お風呂に入る前はしょっちゅう機嫌が悪くなるけど、あそこまでのは私も初めて見たかな」
「やっぱり八一君絡みでござるか?」
「そうじゃない? 当の本人は無関心みたいだけど……」
「こよもあんまり人に興味が無い様に見えましたー、それともツンデレなだけですかね? 何だかんだクロちゃんとは長い付き合いみたいですし」
うーん……こよちゃんの意見に少し疑問を感じる。
風真と二人で話していた八一君は冷たい印象は受けなかったし、寧ろ優しく話し易い人だと感じたでござる。
でもあの教室での八一君は確かに何処か無関心に見えた、でもそれは沙花叉を嫌っての物じゃなくて……寧ろ思春期の妹に手を焼くお兄ちゃん的な感じだったでごさる。
まぁ八一君も少し言葉が刺々しかったでござるが……。
「はーい、ホームルーム始めますので席に着いてくださーい」
黒板の前の席で作業していた先生が腕時計を確認すると、少し気怠げに教室内に居る生徒達にそう声を掛けた。
それを聞いてこよちゃんとルイ姉は廊下側の席に座り……風真は沙花叉の一個後ろの席に腰を落としたでござる。
……廊下側の二人が同情した目で見てくるでござる。
「……いろはちゃん」
「な、何でござるか?」
「……後で木刀貸して」
「ダ、ダメでござるよ!? 木刀で何をする気でござるか!」
「……掃除?」
「木刀を使う掃除なんて聞いた事ないでごさるぅ!?」
「そこー、静かにしないと廊下に立たせちゃいますよー」
先生のやる気ない注意に慌てて椅子を引いて勢いよく立ち頭を下げる。
すると先生は、はいはい座って座って、と本当に教師なのか疑う程適当な事を言い、風真が座ると何事もなかった様にホームルームを始めた。
ホームルームと言っても一言二言だけで適当に済ませた秋田先生は、風真達に入学式まで教室に居るように伝えると、そのまま教室から出て行ってしまった。
そうして秋田先生が居なくなった教室はまた数分前と同じ様に仲良い人同士で話しているという、普通の何処にでもある教室の光景になったでござる。
でも……話す内容はさっきとはまるで違うものだった。
「あれやばくない? 何台来てんの?」
ホームルームが終わって、沙花叉の席に集まった風真達三人は隣の席の女の子が指差す窓の外を見つめていたでござる。
普通なら携帯をいじるか、友達と話す様な空き時間。
それなのに風真達の他にも教室内の殆どの生徒が窓の外をじっと見つめ、今また一台通り過ぎるパトカーを目で追っていたでござる。
「何かこの近くで殺人があったみたい、10人以上の死亡が確認されてるって書いてある」
「じゅ、10人!? 大変でござるじゃないでござるか!」
「落ち着いていろはちゃん!? ござるがおかしくなってる!」
「……八一、何してんのかな」
あわあわと慌てる風真をこよちゃんも焦った様子でツッコむ。
そんな風真達を他所に沙花叉は窓の外をただジッと見つめて、偶に八一君の名前を呼んでは溜息を吐いているでござる。
ルイ姉はスマホで何かを調べてるみたいでござるが……あ、充電切れた。
「くっ……私とした事が」
「いやいつもそんな感じでござる」
「いろは辛辣ー……」
そうして風真達が少しずつ外の光景を忘れて、いつもの様に他愛もない話をしていると……
ガラガラっ! とそんな大きな音を立てて少しだけ汗をかいた秋田先生が、教室を見渡して驚く風真達を置き去りにこう言った。
「皆んな、全員いる!? 誰かトイレに行った人とか居ない?」
「え、えっと……多分いないでござる」
「そう、分かった。 悪いけど今は絶対に教室から出ないで」
「秋田先生っ!」
教室のドアに手を付きながら話していた秋田先生の横から、女性の人が息を荒げながら秋田先生に話しかける。
「川島先生……? 何かありましたか?」
「うちの……うちのクラスの生徒が二人居ないんです……同じクラスの子の話だと、外に出たみたいで……」
「……取り敢えず警察の方々に今は任せましょう」
「で、でもっ! その子達に何かあったら……!」
「川島先生」
「っ! ……はい、分かりました……」
教室のドアを閉じて廊下で話している二人の先生の声は完璧には聞こえないでござるが、それでも何となく話は分かってしまうものでござる。
確かあの川島先生のクラスには八一君とラプちゃんが居た筈でござる、もしも……もしも外に出た二人というのがその二人なら……。
「沙花叉、八一君に電話」
ルイ姉がいち早く沙花叉に声を掛ける。
「もうやってる…………ダメ、出ない」
「ラプちゃんの方はどうでこざるか?」
「…………」フルフル
「確定だね」
そう、この時点で居なくなった二人が確定してしまった。
もし八一君とラプちゃんが教室に今も居るなら電話に出ない訳がない、という事は……あの二人は外に出てるという事。
「……っばか八一!」
沙花叉が音を立てて椅子から立ち上がる。
そんな沙花叉を風真もこよちゃんもルイ姉も、それぞれが違う場所を掴んで足を止めさせる。
「離してっ!!」
「離せるわけないでござる」
「そうだよ、クロちゃん」
「ラプラスには八一君が付いてる、何が起きてるか分からないけど彼ならきっと大丈夫だよ」
「それでもっ……八一に何かあったら、沙花叉はっ……!」
3人に止められて沙花叉は大人しく自分の席に座り直す。
「……二人が心配な気持ちは風真も同じ、でもここで沙花叉を行かせる訳にはいかないでござる」
「……」
「そんな事したらきっと後で八一君に怒られてしまうでこざるからなっ!」
「……ふっ、なにそれ」
「確かにあの顔で睨まれたらこよ……腰抜かしちゃうかも」
「どっかの総帥なら泣き出しちゃうかもね、私は
ルイ姉……すべってるでござる。
まぁでもルイ姉の寒いギャグもさっきまで怖い顔をしていた沙花叉が笑ってるのを見ると、偶には良いものだと思うでござるな。
しかし、そんな風真達の笑い声を遮る様に廊下の奥から慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、窓の遠くから拳銃の発砲音が窓を突き抜け、教室の中に響き渡った。
「ふ、不定期投稿だからっ! 不定期投稿!」
そう言った作者は翌日、遺体となって発見された。
はい…ふざけてないで謝ります、投稿が遅くなりすみません。
因みに次回も投稿は未定となっています。
こんな作者の小説ですがもし宜しければ楽しんで頂けると嬉しいです。