異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。 作:みん
今日から暫くご主人は依頼で遠出をするらしい。確かギガント・バジリスクの討伐依頼だったかな。蒼の薔薇であればギガント・バジリスクの一体や二体、難しくない相手だ。
石化の視線は耐性のない者には確かに厄介だが、逆に言えばそれさえ対策してしまえば後はそう苦戦せずに倒せるだろう。蒼の薔薇の戦闘は遠目から数度見ているが、個々の実力を何倍にも押し上げる連携を取れていた。基本ソロプレイヤーのボクからすれば羨ましくて仕方ない程には。
少しだけ危ういのは、四人の中でイビルアイの実力が突出していることくらいだ。一般的に、パーティ内での実力差が離れていることは良いこととはされない。どうしても強者への甘えが出るし、相手にとっても攻撃の隙が出来やすくなるからだ。
ただでさえ蒼の薔薇は構成が近接戦闘に寄っていてバランスが悪い。装備の質も、ボク目線ではお世辞にも良いとは言えないし、アイテムボックス内で肥やしになっている装備品を貢ぎたいくらいだ。どこかのタイミングで拾ってきたフリでもしたら誤魔化せるだろうか?
尤も、ボクが持っている人間用の装備は殆どがガチャのハズレ品か試作品だから、
それでも
ふむ。今度蒼の薔薇の依頼に先回りしてドロップ品でも装おうかな。幾つか案を考えておこう。
閑話休題。
そういう訳で今日ご主人は不在なのだ。つまり何が言いたいのかというと、退屈なのである。
暇なのはいいことだ。大して休む時間もなく、文字通り死ぬまで働き続けた過去を持つボクから言わせると、暇とは即ち幸福である。
だがしかし、今ボクが感じるのは暇ではなく退屈の二文字。この世界にインターネットやゲーム、テレビなんかの娯楽は存在しない。一般市民には、そこまでの余裕が無いからだ。
数少ない娯楽と言えば、帝国にある闘技場くらいのもの。一度訪れたことがあるが、あの異様な雰囲気が肌に合わず二度と行こうとは思えなかった。
ああ、退屈だ。こんなことならこっそりとご主人について行けばよかった。
仕方がない。今日も今日とて野良猫ロールプレイでもするしかない。
いつものように認識阻害の首輪を付けて、幻術でしっぽを一本に隠す。
土で自慢の毛並みを泥で汚せば、どこからどう見ても一般野良猫の完成だ。
対・使用人用の偽装工作も忘れない。
「
「やや。如何なされましたか、陛下!」
「あ、ショウ? 今暇ならちょっと来て欲しいんだけど」
「御意!」
戦闘経験を積むために少し離れた戦地に送り込んだ彼女は、返答に迷うこともなく短く答えると
ボクのユグドラシル時代に希少なワールドアイテムを使って生み出したNPC、猫魈軍。普段はショウと呼んでいる。
見た目はボクと同じ白猫で、パッと見で違うところと言えばしっぽの本数が三本ある所くらいだ。よく見ると瞳の形が違ったり、毛の長さが多少異なったりしているので見る人が見ればわかるだろう。ご主人ならすぐに気付きそうだ。
ワールドアイテムとは、ユグドラシルに於ける運営の悪ふざけの象徴だ。サービス開始当時から頭がおかしいと言われ続けた運営の、悪行の最たる例とも言える。
種族の変更や無限に強くなる武器等のシンプルかつ強力なものから、ゲームシステムを変えるモノまで文字通り何でもありの代物である。
消費系アイテムが多いが、その限りでは無い。
ショウはボクが手に入れた数少ないワールドアイテムの内の一つを使って『運営に作ってもらった』僕のパートナーNPCだ。
キャラクターデザインからモデリングまでボク一人で手がけた彼女は、ボクの代わりを務めるに相応しい美しさを持っている。
ショウの種族はボクと同じ
将軍なのに支援職なのはご愛嬌、と言うやつだ。ホントは名前を先に思いついてからビルドを決めたせいなんだけどね。
ま、部下を上手く動かして戦に勝つのが良き将軍だろう、多分。
所謂傭兵NPCとは違い、運営による本気のAIが組み込まれている為汎用性も高く、プレイヤーと間違われることも屡々あった程である。
なお、ボクと同じように性別はない。
「お呼びですか、王よ」
「う、うむ」
ゲーム内では
「ちょっと出掛けてくるから。いつものヤツでお願い」
「承知いたしました!」
こうしてショウに留守と身代わりを任せるのは初めてのことでは無い。簡単に言い付ければ、ショウは完璧にボクの意思に従ってくれる。
最初は反乱でも起こされるんじゃないかとビクビクしたものだけど、彼女は設定通り、王に忠実な下僕になってくれている。
さて、準備も整ったことだし──ついに冒険に出発だ。
行先は……今日はエ・ランテルにしようかな!
※
人の目に付かないよう
まるで訪問を悟っていたかのようにボクを出迎えたのは、三匹の猫達だ。
彼女らはまるで人間のように恭しく頭を下げ、ボクの発言を待った。
最もボクに近い位置に居るのがアン。真っ黒な体毛にボクによく似たブルーの瞳を持つ彼女達のリーダー。
この世界の散策を始めてから、一番先に話しかけてきた同族が彼女だ。ここら一帯の野良猫集団を牛耳っている元ヤン猫である。かなりの美猫であるが、目付きがちょっと怖い。いい子なんだけどね。
その次に座っているのがドゥ。茶トラでこの中では一番大柄な体躯を持つやんちゃ盛りの男の子。よくイタズラをしてアンに怒られているらしい。ボクの前では従順な姿しか見せてくれないから、ちょっとだけアンが羨ましい。
もっと甘えてくれていいのよ?
一番離れた場所で縮こまっている白猫がトワ。穢れを知らないもふもふフワフワの子猫だ。この子は将来美人になるぞ。ボクには適わないけどね。
まだ生まれて二ヶ月のキティちゃんだ。アンの子供なんだけど、何故かボクの遺伝子も半分混じっているらしい。
ご主人、ボク知らないうちに子持ちになっちゃったよ。
「出迎えご苦労。何か変わったことは?」
労をねぎらい、問い掛ける僕に猫達はより深く頭を下げてから順に口を開く。
傍から見ればニャーニャーと野良猫共が騒いでいるだけに見えていることだろう。
ボクだって、自分が猫の王たる
「ふむふむナニナニ、
英雄と呼ばれる存在でさえ第五位階を使えるのがやっと、といったこの世界においては魔法への完全耐性を持つと称されている程の高難度モンスターである。
確かにある程度地力があって物理攻撃を得意とするパーティであれば苦戦をすることも少ないだろうが、二人組というのだからその実力は確かなものだろう。
因みに森の賢王というのはトブの大森林に縄張りを持つ魔獣のことだ。目撃者は少なく情報が乏しい為その存在も眉唾物であったが、アン達が言うには森の賢王は勿論、東の巨人も西の魔蛇も実在するらしい。
さして興味もなかったので、見たことは無い。あの森から強者の気配は感じたことがなかったが。
「あとの報告は──トブの大森林の戦力均衡が崩れた? ああ、森の賢王が不在になったからか。あの森には
今のボクはご主人のいちペットに過ぎないただの飼い猫だけれど、こうして同族たちが王と慕ってくれている以上はそれに応える義務がある。
彼らはボクの命令に従い情報収集をしてくれているし、ボクが配下に授けている
そんな忠実な配下達が、言葉は発さずとも理解しているといった様子でボクを見つめた。
特にトワのキラキラと尊敬に光る瞳。『わかってるよ、パパ!』なんて副音声まで聞こえる。ボクはパパじゃないが?
うっ、そんなに見ないでくれ。ボク、この瞳に弱いんだよなぁ。ボクは別に
「おーけーわかった、チラッと見てくるよ。君たちはこの街で大人しく待っててね」
城塞都市エ・ランテルは王国の中では比較的治安のいい街だ。冒険者の出入りが激しいのが理由の一つだろう、取るに足らない小競り合いや喧嘩は耐えないが、人死にが出るような事件はそうそう起こることはない。
産まれたばかりのトワはさて置き、アンとドゥなら
念の為三匹には魔法耐性が上がるネックレスを付けさせる。ユグドラシル内では店売りの安物だったが、第二位階までの魔法は殆ど弾くことが出来るしこの世界では役に立つだろう。このくらいのアイテムなら、ご主人に渡しても不審がられないかな?
アン達に別れを告げて
行先は勿論トブの大森林、その入口だ。
「『
気配や音を完全に遮断する第九位階魔法を唱え、森の中へと歩を進める。
時折ゴブリンやウルフは見掛けるものの特筆するべき変化はないように見られた。
駆け足で森の奥地へと進むと、複数の"嫌な気配"と共に見慣れない木製の小屋が目に入った。
トブの大森林は低難度のモンスターも多いが、オーガやトロールといった大型モンスターも棲息しているし、足場は悪く生い茂った木々によって視界も遮られている危険な場所だ。
その奥地に一般人が木こり小屋など建てるはずもなく、周囲で木材を運んでいる
そして何より──
「あの
首を傾げながら辺りを見渡すダークエルフの子供。格好からして男の子だろうか、かなり整った顔付きで身なりも良く、
完全不可知化状態のボクに違和感を抱く索敵能力も脅威だ。ここは一旦撤退するべきだろう。この様な野良猫装備で会っていい相手ではない。
「
スキルを起動し脱兎のごとく逃走する。お前猫だろって? じゃあ脱猫だ。
建物から少し離れて、周囲を警戒しつつ
ボクの様子を見て不安そうな顔をするアン達には絶対に森には近付かないよう言い含め、アインドラ邸へと戻った。
「お早いお帰りですね、どうかされましたか?」
「トブの大森林でヤバいのに逢っちゃってさ。一対一なら負ける気はしないけど、アレ多分NPCだ。どっかのギルドが拠点まま転移してきてるかも……」
「それはそれは、大変ですな 」
口では大変と言いつつ、大した問題では無いような反応をするショウ。こいつ、ボクのことを過大評価してる節があるからなぁ。
一部の例外を除いた大抵のレベル100プレイヤーに負ける事は無いと思うけど、相手がギルドその物なら話は別だ。
例えば天使系種族のプレイヤーのみで形成されたギルド・セラフィム。
例えば上位三ギルドとある目的で合流して出来た連合ギルド・トリニティ。
例えば猫系NPCを大量に囲っていたボクのトラウマギルド・ネコさま大王国。
特にネコさま大王国に関しては、ボクとショウを捕獲しようと何度も襲ってきたものだから精神的に会いたくないところ。
あとは──たった四十一人で千五百人からなる討伐隊を退けた異形種専門の悪役ギルド アインズ・ウール・ゴウン。
「そういえば、餡ころさんAOGに加入したって言ってたっけ」
ユグドラシル内におけるボクの数少ない友人を思い出す。
「──ここで考えていても仕方ない、か。ショウ、暫く戦闘訓練はナシで。ご主人に紹介するから、普通の猫のフリしといて」
「はは、畏まりました!」
「普通の猫は二本足で立って言葉を話しながら敬礼なんてしないからな?」
大丈夫かなぁ……心配だ。