異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。   作:みん

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閑話 ボクの寝ている間に

 この国に二チームしか居ないアダマンタイト級冒険者、その一つとしてギガント・バジリスクの討伐という危険な任務をこなして帰宅した時のこと。

 私を癒す唯一無二の存在。地上に舞い降りた天使を愛でようと、意気揚々と自室のトビラを開けた私を待っていたのはグランちゃんだけでは無かった。

 

「な、なんて可愛さなの──」

 

 三年前まで野良猫だったとは思えないほど無防備な顔で、安心しきったようにお腹を出して眠るグランちゃんの横に、まるで姫を守るようにもう一匹白猫が座っていたのだ。

 グランちゃんは普段から少し緩めの顔つきをしているが、その白猫はキリリと鋭い眼光で私を警戒している。可愛い。

 

 グランちゃんよりも少し長い毛質に、三本生えている立派なしっぽ。あれ、猫のしっぽってこれでいいんだっけ?

 グランちゃんも二本生えているし、私がこれまで見てきた猫がたまたま一本だけだったのかもしれない。

 このだらしなく伸びたグランちゃんが猫じゃないはずがないのだし。

 

「グランを起こすのは可哀想だけど、このまま待ってる訳にもいかないわよね? どうしたら良いのかしら……」

 

 可愛い猫ちゃんとはいえ、見知らぬ猫が部屋に入り込んでいるというのは高位貴族としてのセキュリティ的に少々問題だ。猫が入り込めるということは、即ち暗殺者も入り込めるということだから。

 使用人は皆それなりの実力者であるし、複数のマジックアイテムで屋敷を防御しているから油断していた。殺気への対策は十分だが、殺気を帯びていない刺客に対する防犯は不十分なのだろう。

 

 精神魔法を使えば殺気など誤魔化せる。実際、現在はチームメイトになっているティナとティアに襲われた時は直前まで気付けなかったのだし──自分の実力を過信して慢心していたのかもしれない。最近は八本指がきな臭いことになっているし、気を引き締めないと。

 

 幸いにも今回の侵入者はグランちゃんの知り合いであるようだし、アダマンタイト級冒険者である私が猫に負ける筈もないから助かったが。

 

 ティナとティアと言えば、初めてグランちゃんを見せた時にいつにも増して様子がおかしかったことを思い出す。あの二人、ちょっと性へ──好みが歪んでいるし、もしかしたら獣も行けるのかもしれない。

 イビルアイが止めてくれなかったら大変なことになっていただろう。今思えばイビルアイの様子も変だったけれど。

 

 そうだ、と思い出し机に仕舞っていたカチューシャを取り出す。グランちゃんが起きるまでの間、侵入猫本人から事情を聞けばいいのだ。

 

 部屋の入口に鍵を掛け、念の為マジックアイテムで間諜対策も施す。

 何度つけても恥ずかしいカチューシャを装着し、なるべく刺激しないように猫ちゃんに問いかけた。

 

「これでよし、と。ここは私の部屋なのだけれど、猫ちゃんはグランの知り合いかしら?」

「……にゃん(如何にも)にゃーにゃ(我の名は)にゃんにゃーにゃん(猫魈軍)にゃにゃーん(陛下からは)にゃんにゃ(ショウと呼ばれておる)

「ショウ。可愛い名前ね!」

にゃわにゃん(陛下の主殿)にゃにゃにゃん(突然の訪問)にゃーにゃ(大変失礼した)

 

 謝罪と共に頭を下げるショウちゃん。

 え、ちょっと賢すぎないかしら? グランちゃんも大概だったけれど、これは……。

 猫って皆こんな感じなの? この事実を知ったら世のネコスキー達は卒倒するんじゃないかしら。可愛くて賢くて可愛い上に可愛い。なんてパーフェクトな生き物なの。

 

 このカチューシャを買ってきてくれたイビルアイには後で好きなだけマジックアイテムを買ってあげないと。いや、それだけじゃ足りないわね。けれどお金も冒険者としての地位も持っているイビルアイに渡せるものなんて──貴族の地位? ラナーに相談かしら。賄賂で貴族位を買うなんて、今どき珍しいことでもないのだし。

 

 ああ、いけない。私としたことが、目の前の光景の尊さに冷静じゃなくなっていたわ。今は目の前の猫ちゃんに集中しないと。

 

「グランの友達なら別にいいけれど……その陛下って、グランのことよね?」

にゃん(その通りだ)にゃにゃーんにゃ、にゃーにゃん(陛下は全ての猫族を束ねる絶対王であられる)にゃんにゃにゃーにゃー(我は本日より陛下の側仕えとして)にゃあにゃんにゃん(ここに住むよう命じられた)にゃーにゃん(よいだろうか)?」

 

 一生懸命にゃーにゃーと鳴くショウちゃん。まるで歴戦の戦士のような雰囲気と言葉遣いだ。このカチューシャ、口調までしっかり反映してくれているのかしら?

 それとも私の妄想? カッコイイ系のショウちゃんに相応しい言葉遣いを勝手に作り上げてるのかもしれない。

 

「え、ええ。勿論住むのは構わないけれど」

にゃあ(かたじけない)

 

 可愛い猫ちゃんからのお願いだ、受け入れないはずはない。グランちゃんが王族というのは眉唾ものだけど……ショウちゃんから私と同じ雰囲気を感じるのよね。わかるわよ、私もたまにそういうシチュエーションで妄想するもの。

 だってグランちゃんはそんな様子見せたことないわよ。ふふ、お堅い口調もその延長かしら?

 

 ここには猫ちゃんしか居ないのだし、乗ってあげないと可哀想よね!

 

 

 

 

 

 

「それにしても、やっぱりグランは王様だったのね。前々から感じていたのよ……支配者のオーラ、って奴を」

 

 陛下の主殿に居住の許可を貰い、一安心した所で主殿はチラチラと周りを見てから納得顔で呟いた。先程までの緩んだ雰囲気が少し変わった気がする。

 なるほど。これが主殿の本来の姿──というわけか。余所者である我の前では隠していたのだろう。普段は優しげな令嬢を装っているのだ。能ある猫は爪を隠す、と言うやつだな。

 

「『しかり! 流石は主殿、陛下に認められるだけはある。主殿は弁えた者、なのだな』」

「ふふ、私はこう見えてもこの国に二つしかないアダマンタイト級冒険者のリーダーなのよ」

 

 余裕の笑みを零す主殿。三年間も我らの王と共に過ごしているのだ、そのアダマンタイト級等という肩書きがなんの慰めにもならないことはとうに知っているはずだろう。

 しかし敢えてそれを口に出す。嫌味というよりは自虐──いや、この場合は我に対するアピールが正解か。抜け目のない人間だ。

 

 おそらく最初の問答、いやそれ以前から主殿を試していたことも理解しているのだろう。陛下の命令通り建前では普通の猫を装っていたが、主殿は直ぐにこちらの意図を理解したようだった。

 マジックアイテムによる間諜対策は──まあ、及第点といったところか。この程度の効果では我程の実力があれば直ぐに破ってしまえるが、この世界ではそれなりの物だろうから。

 

 欲を言えば防ぐだけではなく、弾き返す。何かしらのカウンター措置を取った方が安全だが、圧倒的上位者である我らがいるのだからその必要は無いと判断したのかもしれない。

 恥知らずにも陛下の様子を隠れ窺う俗物が居れば、我が直接消すからだ。

 

 ふむ、我の性質を既に理解し利用する、か。何とも豪胆な御仁だ。彼女がアダマンタイトたる所以は戦闘力ではなく知識と判断力にあるのかもしれない。

 

「『ああ、そうであったな……これは失礼した。陛下の今の主とはいえ、物の知らぬ小娘と侮っていた点、謝罪しよう』」

「いいのよ、わざとそう見られるように過ごしているんだもの。貴方も本当の姿(・・・・)を知られる訳にはいかないでしょう?」

「『ふむ……確かにその通りだ』」

 

 この三年、様々な戦地を訪れてきたが、この世界の住人共はかつて陛下が君臨したユグドラシル(あの世界)よりも脆弱だ。一部竜族や"ぷれいやー"の血を覚醒させた"神人"とやらは確かな実力を持っているが、それでも陛下に勝てるような物は見つからない。噂に聞く"竜帝"であれば話も違うだろうが、終ぞその存在を確認することは出来なかった。

 

 そんな軟弱者が、我らの真の力を知りながらも怯むこと無く受け入れる。これほど興味深い存在はいない。陛下が彼女を選んだ(・・・)のはその心の強さ故──なのだろう。

 

 面白い。実に面白いぞ、人間。

 我らが王は何よりも退屈が嫌いだ。そして、そんな王の気質を与えられた我もまた。

 

「『気に入ったぞ、主殿。悠久の時を生きる我が王が一時の仮宿に選んだだけはある』」

 

 白虎、獅子鳥(アンズー)聖虎獣(ドゥン)といったユグドラシルでも強者とされたモンスターから女神の一柱であるバステトまで、多種多様な生物の王であらせられる王がこの様な粗雑な建物に留まる理由が分からなかったが、彼女を見れば納得だ。

 力を持つだけの愚物など掃いて捨てるほどいるが、強き心を持った弱者はそう多くはない。

 

 妖精猫(ケット・シー)に寿命はない。人間の寿命など、我々にしてみればほんの瞬きほどの一瞬だ。そしてその一瞬と言えども何より尊い王の時間に釣り合うだけの器量を目の前の人間は示した。

 ならばもう詮索は不要。我は王の手となり足となり──ただの猫畜生にだってなろう。

 

「『主殿、我が先程主殿を試した事は何卒陛下にはどうか内密にしてほしい。陛下は純粋なのだ』」

「ええ、理解(わか)っているわ」

 

 やはり話が早い。こういった所も陛下が気に入った理由の一つなのだろう。

 

「ところでショウ。お願いがあるんだけど──」

「『我に出来ることなら聞こう』」

 

 神妙な面持ちで主殿が呟く。

 我が王の主殿の為だ。同族を手に掛けろ、などという難題でない限りは軽くこなして見せようぞ。

 

「──モフ」

「『モフ……?』」

「モフモフ。モフモフさせて頂戴! あと出来れば吸わせて? ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!」

「『モフ……? す、吸わせてとはなんだ。主殿は人間ではなく吸血鬼(ヴァンパイア)だったのか?』」

「違うわよ!!」

 

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