異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。   作:みん

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ケット・シー は 考える

 ご主人が帰って来るまでの間少しだけ仮眠をしよう、そう思っていた時期がボクにもありました。

 

 何度寝ても気持ち良さを感じる、暖かいフカフカのベッド。

 麗らかな日差しに、エアコンに似たマジックアイテムでバッチリ整えられた空調。

 そして、この世界では殆ど敵無しとも言えるショウに守られているという安心感。

 

 幾つもの条件が重なってすっかり寝入ってしまったボクが目を覚ましたのは、太陽がすっかり落ちて皆が寝静まった深夜だった。

 当然任務で疲れて帰って来たご主人は自分のベッドですやすやと寝息を立てている。普段は大人びて見えるけど、こうして見れば年相応の少女に見える。現在十九歳の彼女は、ボクから見ればまだまだ子供だ。

 

 正直に言えば冒険稼業なんて危険な真似は辞めてほしいくらいだ。そりゃあボクのスキルがあれば大抵の命の危機は事前に察知できるけれど、相手がボク以上の存在であれば防ぐことは出来ない。

 無論、蘇生の短杖(ワンド・オブ・リザレクション)真なる蘇生の短杖(ワンド・オブ・トゥルーリザレクション)もかなりの在庫があるけれど、この世界では復活魔法を使えないように殺す手段があるかもしれない。

 

 例えばドラゴンロードが扱えるというこの世界固有の魔法、始原の魔法(ワイルド・マジック)を使われた際にユグドラシル産の蘇生魔法が対抗できるかは疑問が残る。聖者殺しの槍(ロンギヌス)を敵に使われる心配がないことだけが救いだろうか。

 

 そんなボクの心配を余所にご主人は幸せそうに眠る。いい夢でも見ているのかな。そうだったら良いんだけどな。

 

 それにしても──

 

「どうして起こしてくれなかったのさ、ショウ!」

 

 小さな声で、ボクを警護していたショウに問う。確かに起こしてとは言ってないけれど、ご主人に紹介するとは言っていたはずだ。

 

「忠実な下僕たる我に、陛下の安眠を邪魔するなど出来ようはずがありませんが。陛下の主殿には我から懇切丁寧に挨拶しましたので、どうぞご安心ください」

「むぅ……不審には思われなかった? きちんと普通の猫の真似はできた?」

「ええ、勿論。主殿は快く我を受け入れてくれましたとも。我らのことは十分理解されている様子でした。流石は陛下の見込んだ人間ですな」

「そ、そう? ならいいんだけど」

 

 満足気に頷くショウ。なんだか勿体ぶった言い回しが気になるが、特に魔法を使った痕跡もなく会話だけで平和的に交渉をしたのだろう。第一、すぐ横で魔法を使われたら流石のボクでも起きるだろうし……多分、恐らく。

 最近やたらと寝付きがいいんだよなぁ。理由の大半は、ご主人から貰ったこの猫用ベッドが余りに気持ち良すぎるせいなんだけど。猫用とはいえ、少なくとも過去にボクが使っていた人間用のベッドよりは遥かにいい素材を使っている。ユグドラシル時代のマイホームは最高級品で揃えていたけど、一応見かけ上の寝る機能はあっても感触なんて分からなかったしな。 

 

「ところで陛下」

「ん、なに?」

「もしや主殿は純粋な人間では無いのでしょうか? 例えばその、吸血鬼(ヴァンパイア)とか」

 

 真面目くさった声でショウに問われて、一瞬惚けてしまった。

 

「えぇ……何言ってるのさ、ご主人はどこからどう見ても人間でしょーが。あんまり面白くないぞ、その冗談」

 

 堅物のショウでも冗談を言うらしい。そのセンスは褒められたものではなかったが。

 確かにご主人には吸血鬼のチームメイトが居るけれど、その残滓を勘違いするほどショウの感知能力は悪くないはずだ。

 イビルアイがそうであるように全ての吸血鬼が悪である訳では無いが、ボク達種族の性質上アンデッドのペットは御免蒙りたい。

 

「む、そうですよね……だったら何故──」

 

 何やら納得のいかない表情でぶつぶつ独り言を呟くショウ。一体どうしちゃったんだろうか?

 ここは一人にさせてあげた方がいいかもしれない。ボクを守るためにずっと気を張っていたから疲れているだろう。

 

「ボクはもう寝付けそうにないし、今日の内はベッドはショウが使うといいよ。ボクはちょいと外を散歩してくるから」

「陛下のベッドを使うなど畏れ多い。それに、外出されるなら我もお供しまする」

「ボクが良いと言ったら良いんだよ。ちょっとした散歩だって、王都から出るようなことはしないさ」

「いやしかし──」

 

 何が何でもついて行く、といった様子のショウをなんとか宥めて転移門(ゲート)を開く。そういえばショウを実地訓練に出したのは経験を積ませるためとは別に、こういった過保護な面が若干面倒くさくなったからだった。

 NPCってみんなこうなんだろうか? だったら他のプレイヤーもさぞ苦労しているに違いない。妖精猫(ケット・シー)のボクは排泄の必要は無いけれど、そうじゃなかったらショウはトイレまで着いてきてただろうから。

 

 ショウは猫だからまだマシだけれど、人型のNPCに付き纏われて見ろ。ボクなら一ヶ月でノイローゼになる自信があるね。

 王種である妖精猫(ケット・シー)としての性質に引っ張られているのか、傅かれること自体には抵抗がなくなってきているんだけど。

 

 本物の妖精猫(ケット・シー)になって早三年。思えば人間的な欲求は殆どなくなってしまったと思う。

 例えば食事。ボク達の種族は何も食べなくても魔力さえあれば死ぬ事は無い。多少の空腹は感じるし、食事を美味しいとは思うが、逆に言ってしまえばそれだけだ。

 

 睡眠も同様に、寝ることは出来るが生命維持に必要な行動では無い。眠過ぎて判断力が落ちたり、気絶したりすることは無い。睡眠という行為が気持ちいいから眠るだけ。前世では睡眠時間を削って趣味に当てていたから、その分を取り戻しているとも言えるかな。

 

 性欲は──多分ないと思う。少なくともボクは感じたことがない。照れているご主人を見ると庇護欲と愛らしさは感じるけれど、それって別に性欲ではないよね?

 猫の交尾って痛いって聞きますし。直接見た事は無いし、妖精猫には性別がないから交尾はできないと思うけど。しなくても子供できちゃったしなぁ。

 

 そんな感じで三大欲求が限りなくゼロになった代わりに、知識欲と好奇心は膨れ上がった。この屋敷の蔵書は全て読み終わってしまったから、ここ最近は夜な夜な図書館に忍び込んでは読書を楽しんでいる状態だ。

 普通の猫が本を読むなんて有り得ないから、ご主人におねだりするわけにもいかない。

 

 あのご主人なら『天才だわ!!』とか何とか言って買ってくれそうな気もするけど、本って別に安い買い物じゃないしね。

 

「さーて、今日はどの物語を読もうかなぁ」

 

 最近ハマっているのは英雄譚が書かれた冒険小説。魔法やモンスターが実在する世界なだけあって、これらに描かれている物語は殆どが実話らしい。

 その証拠に、ご主人が持つ魔剣・キリネイラムは十三英雄と呼ばれる二百年前に活躍した英雄の一人、悪魔との混血児とされる暗黒騎士が持っていた四大暗黒剣の一つだ。

 

 ご主人曰く、「暗黒の精神によって生まれた闇の自分」が「油断したら肉体を支配して魔剣の力を解放する」らしいのでデメリットも大きい危険な武具なのだろう。

 ボクの探知能力には引っかからなかったが、ご主人がそんな嘘をつくはずもないので恐らく職業(クラス)的な問題──聖職者の職業を取っているご主人にしか感じられないか、装備をして初めてわかるタイプのギミックが組み込まれているのだろう

 どこかでタイミングを見計らってまともな剣とすり替えておかねばならない。あの程度の情報量の武器でそのようなデメリットが存在するなんて、やはりこの世界の技術は歪んでいる。或いは何者かが歪ませてしまった、か。

 

 十三英雄の他にも六大神や八欲王の物語は有名であるけれど、ボクは彼らの大半が"プレイヤー "及び"NPC"なんじゃないかと睨んでいる。ボクだけがこの世界に呼ばれた、なんて都合のいいことがあるとは思えない。前世でも、ボク以外の転生者っぽい人は幾人か見かけたことがあるしね。

 

 八欲王の物語は調べれば調べるほどボクの予想が正しいと証明してくれる。

 伝説によればリ・エスティーゼ王国を暫く南下した砂漠にある八欲王が作り出した浮遊都市、その更に上空に城が浮かんでいるそうなのだ。これはショウが存在を確認しているから空想上の産物ではない。

 

 更に、八欲王は何らかの力を使いこの世界にユグドラシル特有の魔法であった『位階魔法』を広げた。まるでシステムを改変するように、新たな魔法体系を作り上げてしまったのだ。

 そのような事ができるアイテムなど、ワールドアイテム──それも二十に数えられている永劫の蛇の指輪(ウロボロス)か五行相克の効果としか考えられない。

 

 浮遊城に、強力なワールドアイテム。

 ある程度ユグドラシルをプレイした者なら、アースガルズの天空城を支配していたあの上位ギルドを思い浮かべるはずだ。

 実はボクも一度だけギルドに勧誘されたことはあるけれど、良くも悪くもゲーマーといった様相であまり気の良い奴らではなかったな。

 

 天空城はそのまま転移できて、ボクのマイホームはどこかに消滅してしまった理由はよくわからないが……神様というのは兎角理不尽なものだから、理由なんてないのかもしれない。マイホームがあれば、使ってみたい家具や食べてみたかった食材もかなり保存してあったんだけどなぁ。

 凡そ、プレイヤー個人のための異空間たるマイホーム機能とダンジョンを支配して作り上げるギルド拠点では別物としてカウントされたのだろう。ボクも適当なダンジョンを支配しておけばよかったな。

 

 ギルドの転移と言えば──

 

「ああ、そういえばカッツェ平野の事を調べようと思っていたんだった」

 

 カッツェ平野はエ・ランテルから南東、王国と帝国、法国、竜王国などに囲まれたどこの国にも属さないアンデッド多発地帯だ。王都からは少し離れた場所にある為実際に訪れたことは無いが、数百年前の崩れた建造物や遺跡が複数点在しているらしい。

 

 何より気になるのはその名前。カッツェがKatze、つまりドイツ語のネコが語源なのだとしたら、もしかすると我が宿敵ギルド・ネコさま大王国が関係しているかもしれないのだ。

 

 今日はカッツェ平野について重点的に調べてみよう。そう思いそれらしき書物に片っ端から手をつける。どうやら一番大きな建物は六階建てだったようだが、現在は殆どが崩壊しておりアンデッドの住処となっているようだ。

 

 デス・ナイトやスケリトル・ドラゴン、エルダーリッチといったこの世界の住民にとってはかなり凶悪なモンスターの存在も確認されており、遺跡の殆どは手付かずのまま放置されているらしい。

 

 数百年前からあるにしては余りにも情報が少なすぎる。ボクやショウであれば一日で調べられる程度の表面的な情報以外は見当たらない。

 ここ数年は王国と帝国との小競り合いの戦場になっているため、重要な情報は秘匿されている可能性も勿論あるのだが──

 

「──あまり調査は進んでいないのかな」

 

 これ以上この図書館では新しいデータが手に入ることは無さそうだ。今度ご主人が不在の日にでも、ショウを連れて訪れてみる方が早いだろう。大して脅威になるモンスターは確認されていないし、もしかするとネコさま大王国に取り残された猫系のモンスターが助けを求めているかもしれない。

 もしそうなら、ありとあらゆる猫の王として、訪れないという選択肢は無いのだ。この身体が、救える(いのち)があれば救うべきと訴える。

 

 ギルドマスターとは絶対に会いたくないが、彼が生きているなら噂に聞く惨状には陥っていないだろうから問題は無い。

「む、もうこんな時間か」

 

 読書に夢中になっていたが、気付けばもう明け方だ。ショウも心配していることだろう。

 今日のところはここらで帰るとしよう。ご主人が起きたら改めてショウのことを紹介しないといけないしね。

 

「『転移門(ゲート)』──っと」

「おかえりなさいませ、陛下。ちょっとした(・・・・・・・)散歩と言うには随分長かったですな」

「ただいま、ショウ……ゲートの真ん前で立ってるのやめてよ、ビックリするから」

「善処はしましょう」

 

 ──部下の視線が痛い。ちょっと置いていっただけでこんなに拗ねるのに、よく三年間も自由にさせてくれたものだ。

 煩わしかった一日二回の定期連絡も、いま思えばかなり譲歩してくれていたのかもしれない。

 

 それとも三年間で執着が増した? 嫌な想像しちゃったな。今日からしばらく一人にはなれないかも……。




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