異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。   作:みん

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ケット・シー は 見られた

 部屋に戻ってから小一時間、ショウと会わなかった間の情報共有をしつつ過ごしていると、ご主人の眠るベッドがモゾモゾと音を立て始めた。

 ご主人は意外と朝が弱いので、大抵は決まった時刻に執事のランスが起こしに来る。勿論依頼や会談が入っている時はしっかり早朝から起きて眠気覚ましに運動をしているのだが。

 

 そんなご主人が今日は珍しく自力で目を覚ましたようだった。

 

「うぅ……あと一時間……」

 

 前世のボクみたいなことを呟きつつ布団に潜るご主人。これは見慣れた光景だ。

 

『陛下、起こさなくてよろしいので? 二度寝は健康に悪いと聞きますが』

『昨日の討伐任務で疲れているんだろうし、自力で起きるまで寝させておこう。予定が入っているなら自力で起きるさ。今日はそんな話は聞いていないし、多分あと一時間はこのままだね』

『ふむ、承知しました。我は少し席を外しても?』

『それは良いけど、どこへ?』

『朝の運動ついでに狩りでもと。修行中に美味い魚類を見つけまして……この身に食事など不要と思っていましたが、食べてみると意外と悪くないですなぁ。勿論、陛下の分も狩って来ますぞ』

 

 ご主人を起こさないよう、小声でコソコソと会話を続ける。ショウの話では、竜王国とスレイン法国の国境にある湖にアビサル・ケートスというクジラにもアザラシにも似たモンスターが生息しているそうだ。

 レベルにして三十程度。ショウなら簡単に返り討ちにするが、この世界基準であればかなりの強者のはずだ。

 

 ユグドラシルには居なかったモンスターなので見たことは無いが、ケートスが私の想像している海獣と一緒ならば食欲が湧くとは到底思えないゲテモノのはずであるが……ショウってそういう繊細さは持ち合わせて無さそうだもんな。ボクならたとえ美味しくてもグロテスクなモンスターは食べようとは思えない。

 

『構わないよ。ボクの分は要らないから、気をつけて行っておいで。ご主人が朝餉を用意してくれるだろうから、程々にね。それと、トブの大森林には呉々も近寄らないように』

『ははっ。畏まりました!』

 

 ご主人が与えてくれる高級牛肉でも食べて、ショウの好みもまともになってくれたら良いのだけれど、そもそも食事を視覚で楽しむ文化が彼女にはないだろうから、難しいのかもしれない。

 

 電力は存在せず移動に未だ馬車を使っているような世界ではあるが、上級国民の食生活に関しては割と進んでいる印象を受ける。

 様々な生活魔法によって、ボクの知る文明とは違った発展を遂げているのだろう。最初聞いた時は驚いたが、塩や香辛料を魔法で生み出すこともできるようだ。等価交換の法則はどうした? と、見る人が見れば騒いだに違いない。そんな便利な魔法があるにも関わらず、農平民の食事情は改善されていないのだから不思議だ。

 

 こと王国に関しては、帝国側から毎年難癖を付けられ小競り合いをしているものだから、農業における主力である働き盛りの男共を収穫時期に丸々兵力として持っていかれているのが痛い。

 小競り合い自体は大したものでは無いのだが、帝国の狙いは継続的に戦争を仕掛けることで起こる王国の疲弊。日頃から職業軍人を雇い入れ、戦力を保持している帝国だからできる戦略だろう。

 王国が徴兵制を採用している限り、そう遠くない内に帝国に飲み込まれるはずだ。

 

 王国が帝国に喰われるのは仕方がない。弱肉強食は世の常であり、ボクだってこの世界に来てから何体ものモンスターを殺したのだ。

 たった三年過ごしただけのボクにも分かる。王侯貴族の大半は腐っているし、地理的にも戦力的にも周辺諸国に勝ち目はない。ボクからすれば王国はもう終わった国なのだ。

 

 しかしご主人は違う。ご主人は国に縛られぬ冒険者であるが、それ以前に王国貴族だから。

 見知らぬ野良猫に手を差し伸べてしまうほど心優しい彼女が、生まれ育った国を捨てられるとは到底思えない。きっと最後の一瞬まで、この国を救おうと抗うはずだ。例えそれが無駄な抵抗だったとしても、だ。

 

 帝国の主力が噂に聞く魔法詠唱者(マジック・キャスター)程度ならばショウ一人でも攻略は容易い。ボクの仕業とバレぬよう、帝国を一日で落とすことも可能だ。ご主人が眠っている間に全てを終わらせてやることだって簡単に出来る。

 

 ボクがやるべき事は何なのだろう?

 例え一時的な延命に過ぎないとしてもご主人のペットとして、飼い主の為に自然の摂理に逆らい一国を滅ぼすべきなのか。

 それとも、あくまでこの世界に迷い落ちてしまった異物らしく傍観する事が正しいのだろうか。

 

 

 

 ──一度考え事を始めると、泥沼に嵌ったように深く沈んでしまうのはボクの悪い癖だ。前世ではよく同僚にツッコまれたし、この身体になってその傾向はより顕著になったと思う。

 出口のない思考に陥って気付けば数時間、なんてことも珍しくない。無くなった寿命に引っ張られて、時間の概念が希薄になっているのかもしれないな。

 

 

 

 ボクはご主人のことが好きだ。多分ボクは、三度目の(にゃん)生にして初めて人間に対して好きという感情を抱いている。

 

 ご主人は強く、気高く、優しくて──ボクのような半端モノには眩しすぎる存在だ。

 

 見知らぬ世界に一人きり、というのは何度経験しても恐ろしいもので、ショウを喚び出そうという考えすら持てなかったボクにとってあの日のご主人は女神様にも見えた。

 ご主人に与えられた食事もベッドも帰る場所も、ボクにとっては初めてのモノだったから。ボクは出会ったあの日に、すっかりご主人のことを好きになってしまったのだ。

 

 これが、飼い主への正しい家族愛なのだろうか?

 少なくとも、前世の飼い主(上司)には持ち得なかった感情だ。決して恋愛感情では無いけれど──愛というよりは執着に近いだろうか。猫と言うよりは犬みたいだな、ボクは。

 

 ショウはボクに対してどんな想いを秘めているのかな。

 ボクが王ではなく、ご主人のモノとして世の理を侵しても、彼女はついてきてくれるだろうか?

 

『なぁ、ご主人よ。キミはボクにどうしてほしいんだい?』

 

 未だ布団の中から出てこないご主人を踏まないようベッドの上に飛び乗り、にゃおん、と小さく鳴いてみる。まだまだ寝惚けている、それもカチューシャの付けてないご主人には通じるはずもない。

 

「んー。ふふ……なぁに、一緒に寝たいの?」

「にゃあ」

 

 ──そうだなぁ。ボクはご主人と一緒に、好きなだけ眠りたい。

 好きな時に起きて、好きな時に美味しいご飯を食べて、好きなだけ遊んで、また好きなだけ眠りたい。

 どれも妖精猫(ケット・シー)には無用の欲求だけれど、無駄なことをする時間が一番幸福を実感するんだ。

 

「おいで、グラン……」

 

 ご主人が無防備に布団の端を開けるなら、ボクは黙ってそこに飛び込むしかない。

 幸いにしてボクは普通の猫では無いから抜け毛の心配も不要だし、ご主人を傷付けぬよう爪も毎日整えている。身を清めるための洗浄魔法も欠かしていない。獣臭でご主人に嫌われるわけにはいかないからね。

 

「っ……擽ったいわ、グラン」

「……にゃぁ」

 

 なんでこう、いちいちセンシティブな反応をするかなぁ。ボクが本当の獣だったら、ご主人なんてあっという間に食い散らかされてるんだよ?

 危機管理がなってないよ、ご主人。

 

 だから──これはそう、お仕置だ。

 

「かぷっ」

 

 目の前にあったご主人のたわわな胸をひと噛みする。歯は立ててないし力も入れてないから大して痛くもないだろうが、目は覚めるに違いない。

 

「痛っ──! な、何するのグラン……?」

「にゃあん?」

 

 ご主人が悪いんだぞ。

 これに懲りたらベッドで他人を誘惑するなんて不埒な真似は辞めるんだな!

 

 ──え、そんな痛かった? それは……ごめん、決してわざとじゃあないのよ?

 

「ひゃっ!? な、舐めないでいいから! あっ、ちょっとグラン……!」

「にゃあ……」

 

 はは、朝から我儘なご主人だなぁ。

 目は覚めた? そろそろランスが起こしに来る時間ですよ。

 ──あれ、ご主人なんか怒ってる?

 

「にゃァ゛!? にゃ、にゃぁ……にゃっ」

 

 ちょっ、腰トントンはズルですって!

 ご主人? 聞いてますか!? ご主人!?

 

「にゃっ。ニ゙ャッ……! ゴロゴロゴロ……」

 

 くっ、腰の次は顎下をナデナデだと?

 いかん。これ以上はボクの身が持たな──

 

「──にゃ、にゃあん(何やってるんですか、陛下)……」

 

 ショ、ショウ……! なんてタイミングの悪い──いや、寧ろ良いのか?

 ある意味救世主。ボクの女神! この際痴態を見られたことは綺麗さっぱり忘れてやろうじゃないか。いざとなったら忘却魔法を使えばヨシっ!

 

 さあ、覚悟は決まった。今すぐに上司を助けるんだショウ!

 

にゃーにゃん(取り込み中のようなので)にゃあ(また後できますね)……」

「にゃ、にゃーーー!!!」

 

 ──神は死んだ。

 

 

 

 

 

 

『いやぁ、陛下にあんな趣味があったとは意外でした』

『今すぐ忘れろ。これ、命令だからな』

 

 あの後ショウは本当に屋敷から出ていってしまい、ランスが起こしに来るまでご主人にモフられ続けたボクはこの身体になって初めて感じる疲労感とショウにアレを見られた羞恥心で暫く自分のベッドに引きこもる羽目になっていた。

 

 ご主人は人前ではあまりボクに甘えないから、誰かに見られるということに慣れてないボクは最早キャパオーバーだったのだ。

 

 ランスは部屋から聴こえるボクの鳴き声を勘違いしたのか顔を真っ赤にしたまま慌てて入ってくるし、ショウは面白いものを見た、といった表情を全く隠そうともせずにボクをイジるしで散々だ。

 

 それもこれも、彼女の設定に『グラン・ロ・レイユとは主従関係を超えた相棒とも言える親しい仲である』とか『普段は隠しているが、実はドSである 』とか適当なことを書いたせいだ。コンソールが弄れるなら今すぐにでも設定改変してやるのに。

 

『陛下もあんなに可愛らしい声で鳴けたのですな、ハハハ』

星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)──』

『じ、冗談ですって! この名に誓って、他言はしませぬ! ぷくくっ』

 

 勿体ないが、経験値を消費して願いを叶えてくれる超位魔法を使えばコイツの記憶消せるか?

 それともアイテムボックスに3つしか入っていない流れ星の指輪(シューティングスター)の出番だろうか?

 

 こんなことなら戦闘に関係ないからと嫌わずに、記憶操作(コントロール・アムネジア)でも習得しておけばよかった……!

 

 ご主人、この恨みは忘れないぞ……。

 

「グラン、ショウー? ご飯の時間よー」

「にゃーん!」

 

 それはそれとしてご飯は食べる。今日のメニューは何かなぁ。やっぱり肉、肉が食べたいなぁ。

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