異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。   作:みん

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ケット・シー は 邂逅する

 突然だが、ボクは今エ・ランテルに来ていた。今回はショウも一緒だ。ボク達は完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)を使い、更に課金アイテムである腕輪で完璧に気配を殺して十二分に警戒をしつつ街を歩く。

 

 この前アンから聞いた新人冒険者が、なんと王国三チーム目のアダマンタイト級に昇格したらしいのだ。『ホニョペニョコ』と呼ばれる、第三位階魔法を使いこなす凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)をたった二人(と一匹)で打ち倒した功績を認められたらしい。なんでも、第八位階魔法が込められた『魔封じの水晶』を使用したのだとか。

 

 魔物とはいえ、ホニョペニョコ──到底本当の名前とは思えない。まるで、大して興味もないフリーゲームを始める時に適当に付けたようなネーミングセンスだ。翻訳されなかった、この世界特有の意味のある言葉の可能性もあるが。

 第八位階魔法というのも眉唾物だ。ご主人が零していた話だから事の真偽はさて置き、そう公表されたことは事実なのだろう。

 

 アダマンタイト級ともなれば組合への賄賂やコネでなれるものでも無い為、多少誇張されているにしても実力は確かなのだろうが。

 

 何よりの問題はそのチーム──漆黒と呼ばれているらしい──が登場したタイミングだ。どうしても、トブの大森林で見たあのダークエルフの子供の存在が脳裏にチラついてしまう。

 漆黒がユグドラシルプレイヤー、或いはプレイヤーの命令を受けたNPCであると考える方が自然だし、もしそうなのだとしたら突如現れた凶悪な吸血鬼、というのもユグドラシル関係のモンスターかもしれない。

 

 手っ取り早く功績を挙げたいプレイヤーのマッチポンプの可能性すらある。吸血鬼を召喚する魔法やスキルは少なく無いし、第三位階が使える程度の下級モンスターであればリソースもかなり少なく済むだろう。

 

 そんな考えもあって、この目で直接確認する為に遠路はるばる(ゲートを使って)エ・ランテルにやってきたという訳だ。アン達がお出迎えしてくれたが、特に目新しい情報は手に入らなかった。

 

 こっそり冒険者組合に顔を出してみたが、目的の漆黒は依頼を受けて不在のようだ。酒場で飲んだくれていた冒険者達が言うには、ゴブリン部族殲滅の為に数日前に北へ向かったらしい。

 

 その後も町中で情報収集を進めたが収穫は無く、今日は帰ろうかと思っていた頃。突如として、強烈に鼻につく心底不快な匂いがボクとショウを襲った。

 

「……アンデッドですな」

「こんな街中に堂々と現れるなんてね。どれだけ隠蔽力と腕に自信があるんだか」

 

 日が傾いてきたとはいえ時間はまだ夕方であるし、何よりここは冒険者組合の真ん前だ。生者を憎み悪を成すアンデッドが来ていい場所ではない。

 勿論、イビルアイという例外も存在しているが──。

 

「──なるほど、噂の吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターは自らも不死者(アンデッド)だったわけね」

 

 漆黒のフルプレートアーマーを身に纏ったアンデッドは、首から最高級冒険者である証たるアダマンタイト製の冒険者プレートをぶら下げていた。斜め後ろに控える女も同様にプレートを下げ、周り警戒しつつ歩を進めている。その後ろを大きなハムスターが小走りで追いかけていた。アレが森の賢者だろうか?

 冒険者プレート、メンバー構成、装備品。その全てが彼らこそが目的のチーム"漆黒"であると証明している。

 

「ショウ、どう思う?」

「ふむ……まず魔獣ですが、はっきり言って雑魚ですな。レベルにして三十程でしょうか、我なら二秒で殺せましょう」

 

 魔獣──トブの大森林に居た森の賢者。ボクからすればただの巨大なハムスターにしか見えない。表情も足運びも能天気そのものだ。警戒のけの字も感じさせない。それだけトブの大森林では飛び抜けた実力を持っていた、ということだろうか。

 

「そして女の方ですが、こちらも大したレベルではないでしょう。精々六十前後と言ったところでしょうな、恐るるに足りませぬ」

 

 女の方──確か名前はナーベだったはずだ。触れ込みでは第三位階を使いこなす魔法詠唱者(マジックキャスター)らしい。まず目につくのは容姿だろう、驚く程に整った顔をしている。この世界の住民は顔面偏差値がかなり高めだが、その中でも一際異彩を放っているだろう。

 しかしその実力は大したことは無い、か。この世界基準で言えば世界トップクラスの強者に分類されるであろうが、それなりにプレイしていればレベル百は最低条件だったユグドラシルプレイヤーから見れば、レベル六十は戦力として数える程でもない。

 種族やキャラメイクによっては厄介なスキルを持っていることもあるが、レベル差のある相手からのスキルは大抵が装備やアイテムで無効化できるからだ。

 

「それは同感だ。男──モモンの方は?」

「アイテムを使って巧妙に隠しているようですが、我のこの精霊の双眸(エレメンタル・アイズ)の前には無力。アレはレベル百でしょうな、魔力量を考えれば魔法職でしょう。」

 

 精霊の双眸(エレメンタル・アイズ)妖精猫(ケット・シー)のみが取得可能な固有スキルだ。視界に入れた相手のHP(体力)MP(魔力量)、レベル、ステータス異常、装備のレアリティ等が分かるという効果でMP消費やクールタイムの無い常時発動型のスキルである。

 因みにボクは取得していない。ゲーム内では有れば便利だが優先順位の低い使い所の限られるスキルだった為、ショウを生み出す前のソロプレイヤーだったボクには取得する余裕がなかったからだ。

 

「それにあの者、ワールドアイテムを装備していますな。腹の辺りに反応を感じます。ステータスにもワールドの文字が表示されております故、間違いはないでしょう」

「ワールドアイテム? そうか……それは要注意だね」

 

 基本的にワールドアイテムに対抗するには二つの手段の内どちらかを使うしかない。幸いボクはワールド・ガーディアンという名の、ワールドを冠する職業を持っているし、ショウは存在そのものがワールドアイテムである為対抗手段は最低限整っていると言える。

 一応インベントリにもワールドアイテムは二つほど入っているが、その内一つは相打ち必至の品物であるし、もう一つはコントロール不能な大魔法を放つ装飾品である為使いどころが難しい。

 特に後者は普段から身につけるにしては豪華すぎるし、何より副作用が強すぎて使い物にならないのだ。この世界に来た直後に一度だけ装着した事があるが、とても人には言えない無様を晒した為、命の危機が迫りでもしない限りは二度とインベントリから出すことは無いだろう。

 

「それで、どう致しますか? こちらにはまだ気付いておらぬ様子。今ならばあの首を落とすことも不可能ではありますまい」

「物騒なことを言うな。アンデッドの匂いがするとは言え、まだ悪人であると決まった訳では無い」

 

 死の匂いを忌み嫌う妖精猫(ケット・シー)の本能に引っ張られたショウが毛を逆立てる。気持ちは大いにわかるが、もし彼がプレイヤーなのだとすれば元々はゲームを楽しんでいただけの一般人だ。ボクやショウがそうであるように、種族(アンデッド)の性質に引っ張られているのだとしても、その思考に染まっているならばああして生者の街に溶け込むことは出来ないはず。

 

 しかし、元が人間であるからと言って善人であるとは限らない。それに、相手の戦力がどれほどなのかもわかっていないのだ。

 出来ればこちらの正体を悟られずに、まずは友好的な接触を図りたいところである。

 

 ──問題なのはボクが使える手駒の中に、人型の生物が居ないことだ。ボク自身もショウも人間に変身する魔法は持っていないし、召喚できるのは猫系の獣魔のみ。正体を明かさずに接触など出来ようがない。

 

 いっそ、その辺の人間に魅了(チャーム)を掛けて近付くか? いや、魅了系の魔法は被対象者に記憶が残るからリスクが大きすぎる。この姿で転生すると分かっていたら効率度外視で人型のモンスターを召喚できるようビルドを組んだのに……!

 

「ここまで濃厚な死の匂いを纏わせた者が善人であるとは到底思えませんがなぁ」

「不快な気持ちも分かるが、手を出せば危ういのはこちらだ。一対一のPvPなら負けるつもりは無いが、数で押されては勝ち目も薄い」

「むむ、それは確かに」

 

 六大神も八欲王も、ギルドメンバー複数人で転生してきたのは確実だ。であれば彼らもそうである確率が高い。

 況してや相手はワールドアイテムを保有している実力者なのだから、藪をつついて蛇を出す必要も無いだろう。

 

 上位層のプレイヤーなのであれば何かの機会にフレンド登録をしている可能性もあったが、生憎と伝言(メッセージ)の送信先リストに変化はなかった。

 この世界で伝言をやり取りするにはお互いの名前を知る必要がある為、全く知らないプレイヤーか、或いは彼もNPCなのだろう。モモンという名前も偽名の可能性がある。

 そういえばモモンという名前、餡ころさんの所のギルド長も似たような名前だった気がするな。例のナザリック大侵攻を殆ど一人で殲滅したとか。通常であれば不可能だが、ワールドアイテムが絡んでくるなら話は変わる。例えば世界意志(ワールドセイヴァー)のような武具を持っていたり、だ。

 餡ころさんは未だにリストの文字が黒塗りされたままだから、こちらの世界に来ていないことは確定なのだけれど──。

 

「ふむ……であれば仕方ありません。言語能力のある適当な魔物を召喚して、奴らが街を出てからけしかけましょう。幸い、この世界にも言葉を話すモンスターは存在するようですしな」

「それしかないか。何度も召喚出来るとはいえ、部下を捨て駒のように扱うのは気が引けるんだけどなぁ」

「王たるもの、多少の犠牲は覚悟して頂かなくては。我とて貴方の為に死ねるのなら本望ですとも」

 

 なんて事ないような軽い口調で、けれど真剣味のある声でショウはそう言う。

 だからボクはなにも言い返せなかった。お節介で正直煩わしいなと思うこともあるけれど、もう十年も一緒に居るのだ。きっとショウが死んでしまったら、ボクは立ち直れないし何としてでも蘇生させるに違いない。

 

 暫く黙ったままでいると、漆黒の二人は冒険者ギルドの中に入っていった。森の賢者は建物の外で大人しく留守番している。賢者と呼ばれていただけあって、多少の知性はあるようだ。

 恐らく依頼を受けたのだろう、数分で出てきた彼らはそのまま南門へ向かい街を出ていく。

 

 顔パスで門を通り抜け、今度は駆け足で南東へ向かう。かなりの速さだが、森の賢者(ペット)に合わせているのか全速力という訳では無さそうだった。

 

 ある程度街から離れて、周囲を見回したモモンが転移門(ゲート)を開く。

 

「タイミングは今しかない、な。第十位階怪物召喚(サモン・モンスター・10th)、 キャスパルク。作戦通り、なるべく穏便に頼むよ」

「グルル……承知しました」

 

 キャスパルクは全長五メートル程の化け猫だ。漆黒の毛並みと立派な翼を持ち、大きな耳と二本の角が特徴的な、神話では災厄を齎すと言われているモンスター。

 キャスパルクを選んだ理由は、召喚できる魔物の中でも指折りに物理防御力が高いからだ。例え話が拗れても、そう簡単に殺されることは無いだろう。

 

「何者だ!」

 

 召喚されたキャスパルクに気付いたモモンが声を上げる。隠蔽魔法を使っていないのだから当然だ。

 

「私の名はキャスパルク、この世界を守護する者。アンデッドよ、何をしにここへ来た」

「モモンさ──ん、お逃げ下さい!」

「待て、ナーベ! お前が敵う相手ではない!」

「しかし──」

「お前は先に──」

「ひいいい、お助けでござるううう!」

「──グルル。私は話をしに来たのだ。貴様らが世界に仇なす者でないのなら、敵対する意思は無い」

「モモンガ様、早く!」

「ナーベラル!」

「……」

 

 キャスパルク、ちょっと困ってるな。設定失敗したか?

 今の反応でモモンがプレイヤー、ナーベがNPCであることはほぼ確定だろう。森の賢者は頭を抑えて蹲っているから無視しよう。

 

 ……てか今モモンガ様って言った?

 モモンガ様って、噂に聞くあのモモンガさんだろう?

 

「黙れ! 話をしに来たと言っただろうが」

「貴様モモンガ様になんて口を。殺す……!」

「ま、待てナーベラル! キャスパルク、と言ったか。何故私がアンデッドだと?」

「知れたこと。そのように死の匂いを撒き散らしておいて、逆になぜ気付かれぬと思ったか」

「し、死の匂い……? そんなステータスは無かったが……俺って臭いのか……?」

 

 小声でブツブツと話すモモンガさん。あれ、割と面白い人なのか?

 そう言えば餡ころさんも、『モモンガさんは良い人だけど苦労体質』とか言ってた気が。

 

「それで、貴様は何の為に、何故この世界に来た」

「……その前に一つ確認させてくれ。お前はプレイヤー(・・・・・)か?」

「違うな。私はプレイヤーではない」

「そうか……だが、プレイヤーの存在は知っているのだな?」

「……」

「わかった。私の──俺の目的は仲間を探すことだ。この世界に来た理由は、知らん。気が付いたらここに居たからな」

 

 

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