異世界にニャン生したので楽しくペット生活してたら、ラスボスが現れたのですが。 作:みん
「私の──俺の目的は仲間を探すことだ。この世界に来た理由は、知らん。気が付いたらここに居たからな」
モモンガさんは少し考え込むと、身に付けていた兜を外してそう言った。心做しか、言葉遣いも先程までの気取ったものではなく、崩した──と言うよりは、少しやさぐれた様なものになる。
隣に立つナーベラルは未だ警戒しているようで剣をしまう様子もないが、正直彼女から感じる力量であればキャスパルク単騎でも殺られることはない。彼女なりに実力差を弁えているから殴りかかっては来ないのだろうが。
「ふむ……」
キャスパルクは逡巡するフリをしながらボクの指示を待っている。さて、どうしたものか。
「ショウ、どう思う?」
「嘘をついている雰囲気はありませんが……奴は所詮アンデッド、信用するには値しませぬ。こちらの腹を探られる前に一先ず撤退し、情報を集めるべきでしょう。幸い、奴らはアダマンタイト級冒険者として堂々身を晒しているわけですから、直ぐに尻尾を出すでしょう」
「ふむ……」
ボク達
ギルド アインズ・ウール・ゴウンはメンバー総勢四十一名という少数編成ながらギルドランキングは最高9位。その上、所持しているワールドアイテムの数も全ギルドの中で最多という噂があった程。そのトップである彼の実力は計り知れない。
ユグドラシルにおける強さとは
ビルドもPSもプレイ時間も課金額も、誰にも負けるつもりは無いが上には上がいるというもの。
ソロプレイヤーのボクでは到底手に入れることの出来ない潤沢な素材と多数のワールドアイテムを駆使して襲いかかられては為す術なくやられてしまうかもしれない。
それに今のボクにはラキュースという明確な弱点がある。彼女自らが嬉々として触れ回っているおかげで、アインドラ家が白猫を飼っているという話はある程度の冒険者や貴族達なら誰でも知っているらしい。
先日も組合で知り合いの冒険者に如何に
つまり、ボクが直接姿を晒すのは最後の手段にしたいのだ。餡ころさんの知り合いであるモモンガさんが悪人であるとは思いたくないが、正体をバラすにはリスクが大きすぎる。
それに、モモンガさんが善人であったとしても彼と共に転移してきたその他のNPCやギルドメンバーが善人であるとは限らないのだ。
積極的に敵対するつもりは無いが、信用するには情報が足りなさすぎる。
リスクは大きい。それはわかっている。
しかし──
「ショウの心配は尤もだ。けれど、ボクは彼と直接話そうと思う」
「な、なりません陛下! 御身自ら接触するなど、危険すぎます! せめて我が──」
「──ごめんね、これはボクの我儘だ。でも譲れない……ショウ、君はここで様子を伺い、少しでも危険を感じた場合はボクを置いて即時退却するように。ああ、
「ぐぬぬ……はぁ。わかりました、陛下の御心のままに」
「ありがとう」
無意識に漏れ出た支配者のオーラを消す。上位者としての命令ではなく、ボクの意思を聞き入れて欲しかったのだがこれ以上言い争っている時間はない。
念の為、ゲーム内で愛用していたPvP用の装備に着替える。
純白の羽をあしらった真っ赤なテンガロンハットに、純黒のサーコート。首元にファーの付いたお洒落マントも忘れない。
服に合わせた黒のブーツも履いて完成だ。フレンドには長靴をはいた猫なんて呼ばれていたが、ボクのイメージは姫を守る騎士様だ。戦闘スタイルは騎士じゃなくて魔法剣士だけどね。
準備は万全。未だ心配そうな顔のショウの頭を撫でて、何処から移動してきたのか悟られない様にするために
「ご苦労、キャスパルク。そして初めまして、モモンガさん」
※
「ご苦労、キャスパルク。そして初めまして、モモンガさん」
この世界に来て初めて見た
昔の童話にあった様な気取った格好をしている白猫は、その格好に相応しいような優雅さで帽子を取り頭を下げる。
「ボク──ゴホン。私の名はグラン。グラン・ロ・レイユ。貴方と同郷の、元プレイヤーです」
「あ、ああ。私はモモンガだ。失礼だが、何処かで会ったことがあるだろうか?」
チラりと横目でナーベラルの様子を伺う。本当はサシで彼(彼女かもしれない)と話したいが、相手の素性も分からない以上ナーベラルを下げることはできない。
少なくとも今のところは礼を付くして丁寧な態度で接してくれる初対面の相手にこんな口調で返すなど、社会人としては恥ずかしいが……ハムスケは兎も角、ナザリックのNPC達の前で軽々しく頭を下げる姿を見せる訳にはいかないのだ。どうかグランさんが器の大きい人であってくれと願うばかりだ。
「直接お会いしたことはないと思いますよ。トーナメントには時折顔を出していましたから、その際にアバターや名前を見たことがあるのかもしれませんね」
「ふむ。そうで──そうか」
「ふふ。ええ、そうですよ。私の方はモモンガさんのことを人伝に聞いていましたが。ああ、ギルド アインズ・ウール・ゴウンのギルド長でお間違いないですよね?」
「……ええ、そうです」
アインズ・ウール・ゴウンはギルドランキングも高かったし、掲示板でも度々──主に悪い意味で──話題になっていたから俺の名前も聞いたことがあったのだろう。俺個人のフレンドにはグランという名前の人物や、猫獣人の知り合いはいないから。
「良かった。餡ころもっちもちさんには随分とお世話になったんです。私のアバターを気に入ってくれたみたいで」
「……ああ、なるほど! 餡ころさん、動物大好きでしたからね。そうか、餡ころさんのお知り合いか……!」
久しく聞いていなかったギルドメンバーの名前を聞き、つい興奮してしまう。感情抑制が働いても尚声が弾んでしまうほどに。
そう言えば以前、餡ころさんが『どうしてもギルドに入ってほしいメンバーがいるんだけど、相手がイエスと言ってくれない』とボヤいていたことがあった。
『アバターのクオリティが高すぎて猫を飼いたくなった』とか『供回りの猫も可愛すぎて纏めてモフりたい』とも言っていた気がする。
そうか、だからグランという名前に聞き覚えがあったのだ。餡ころさんは暇があれば『グランちゃんマジ天使』とやまいこさんや茶釜さんに布教していたから。
すっかり猫派になった三人の要望で一般メイドの数人に猫耳猫しっぽ要素が付け加えられたのは記憶に新しい。ホワイトブリムさんがかなり気合いを入れて作画を描いていたはずだ。
改めてグランさんを見る。昔の日本では野良猫も多く、その気があれば誰でも気軽に飼うことが出来たと聞くが、現代の環境汚染が進んだ日本では野良猫など居ないし一部の金銭的余裕のある上流階級しか飼う余裕は無いのだ。
だから
パッチリしたアイスブルーの瞳に、表情に合わせて揺れる髭。ヒクヒクと動く鼻とゆらゆら揺れ続けている尻尾……猫とは斯くも可愛いものなのか。そりゃあ餡ころさんも夢中になってしまうはずだ。
「モモン様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ、問題ない。ナーベよ、至急ナザリックへ戻り歓待の準備を。彼女はアインズ・ウール・ゴウンの大切なお客様だ」
「しかしモモン様一人というのは些か危険では──」
「命令だ、ナーベラル。ハムスケも連れていけよ」
「……ハッ!」
ナーベラルがハムスケを連れ渋々転移したのを見届け、グランさんに向き直る。これで漸く腹を割って話せるというものだ。
「良かったんですか、そんな簡単に信用して?」
「餡ころさんからよく話は聞いていましたから。それに今思い出しましたがグランさんってワールドガーディアンでしょう? 今の俺の装備じゃぶつかっても勝てませんよ」
ロールプレイ重視のビルドを組んでいる俺のPvP能力は事前の情報収集に裏付けされたものだ。予め可能な限りの情報を集め、必要であれば一度ぶつかって敗けてもいいと割り切っている。それでも勝率は五割ほど。
ワールドチャンピオンと同格のワールドガーディアンの称号を持つグランさんに、今の状態では万が一にも勝てるはずがない。
手の内を知っているはずのたっち・みーさんにも模擬戦で勝てたことがないのだから。
「ふむ……餡ころさんがそんなにボクの話をしてくれていたというのは嬉しいような恥ずかしいような。けれど、信用してくれたのは有難いです」
「グランさんが隠さずに正体を打ち明けてくれたお陰ですよ。所でグランさんはお一人ですか? 確か、ギルドには所属していなかったと思うのですが」
「一人ではないですよ。供回りのNPCと一緒に転移してきました。今呼びますね」
ギルドに所属していないソロプレイヤーはNPCを製作することは出来なかったはずだが、どういう事だろうか。もしかするとメンバーを募集していないだけで、どこが小さなダンジョンを拠点に構えたソロギルドを作っていたのかもしれない。
ソロギルドは基本的に他のギルドから優先的に潰されてしまうことが多かったが、ワールドガーディアンにわざわざ喧嘩を売るような真似をするプレイヤーは少ない。リスクとリターンが見合っていないからだ。過疎化し各ギルドのログインメンバーも減っていたサ終直前なら尚更。
ワールドを冠する
伝言から少し経ち、全身を甲冑で覆ったグランと同じ様なサイズの猫が現れた。
目つきは鋭く、武器に手を当てている。どこからどう見ても臨戦態勢だ。
アレ。さっきグランさんは『信用できる人だったからショウもおいで〜』とか何とか言ってなかったか……?