超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今回でようやく第1章の本編が終わります。
それでは、 ゲーム・スタート はじまります
シーンと静まり返るリビートリゾートの一画。
その発端となった一言を放ったネプギアは状況を上手く飲み込めておらず、オロオロと夢人達を見渡す。
しかし、夢人達は皆一様に驚愕の表情でネプギアを見つめているだけである。
特に、正面からネプギアの言葉を聞いた夢人はピクリとも動かない。
また夢人とネプギアのことを見守っていたユニとナナハの頬が引きつっている。
やがて、夢人達の反応に困惑していたネプギアだが、眉をきりりとさせ再び口を開く。
「だ、だから、え、えっと、その……わ、私は、男の人が好きなんです!! だ、大好きなんです!!」
(に、2度も言った!?)
ネプギアが強調して言い放った内容を聞いて、夢人はまるで雷に打たれたような衝撃を受けた。
だが、混乱する夢人をよそに、ネプギアは真剣な眼差しでジッと見つめ続ける。
その表情からネプギアが嘘をついていないことがわかってしまう夢人の内面は、さらに荒れてしまう。
(お、おおおおお落ち着け、俺!? れ、冷静になって、ネプギアがどうしてこんなことを言いだしたのかを考えるんだ!? ま、まずは状況確認から……振った俺に会いに来て、いきなり“男が好き”だとアピール。その心は……わかるわけないだろ!?)
パニックに陥りながらも冷静に状況を分析しようとした夢人であったが、まともに思考することなどできるはずがなかった。
現状を改めて認識するだけで頭痛を感じ、夢人は頭を抱えてしまう。
(もしかして、これはアレか!? 振った俺が未練がましく女装して迫ろうとしているのをナナハから聞いて、釘を刺しに来たんじゃないか!? お前が女装したところで私が好きになるわけないでしょ、このクソニート! みたいな!? って、ネプギアはそんなこと言わないって!? い、言わないよね? 言わないで……でも、俺がクソニートなのは事実だし……ああもうっ!? 結局、俺がネプギアに嫌われていることは確定じゃないか!? 俺の馬鹿!? どうしてネプギアに嫌われるような行動ばかりとってたんだよ!?)
混乱した頭の中で二転三転とする考えに翻弄され、最終的に夢人は自分を罵倒することしかできなくなってしまった。
同時に夢人の脳裏で走馬灯のようなネプギアとの思い出が次々に思い出されていく。
しかも、初めてゲイムギョウ界に来た時のことやかっこつけようとしてスライヌにボロ負けした時、初めて使う魔法で自分の腕を丸焼きにした記憶、挙句の果てにはB.H.C.によって引き起こされた黒歴史の数々による珍騒動など、夢人が考えつく限りのネプギアに嫌われた理由だけが都合よく思い出されていくのであった。
(そりゃ、ネプギアとの約束も破ってばかりだし、好かれる要素なんて俺には皆無だもんな……そうだよ。最初から俺は思い違いをしていただけなんだ。俺みたいな何の取り柄もない冴えないクソニートが、皆から愛されている可愛い女神様と釣り合うと考えること自体が間違いだったんだよ……あはは、何でこんな身分不相応な考え方をするようになったんだろうな。アレか? ネプギア達とゲイムギョウ界を救うために旅をして、いつまでも一緒にいられると勘違いしていたのか。そんなの俺が勇者だったからであって、ニートな俺はお呼びじゃないんだよ。まるで目があっただけであの子は俺のことを好きかも、とか勘違いしちゃう思春期かっての。本当になんて馬鹿な妄想をしていたんだろう)
自虐的な考えが浮かぶごとに、夢人の瞳が段々と虚ろに色を変えていく。
遂には諦めの境地に至った夢人が乾いた声を上げかけた時、黙って見ていられなかった2人が動きだす。
「ネプギアァァァ!!」
「ひゃいっ!? ゆ、ユニちゃん!? ど、どうかしたの!?」
「どうかしたのじゃないでしょ、アンタは!!」
「……そうだね。ちょっとあっちで話そうか」
ずかずかと夢人の横を大股で横切ってネプギアに近づくユニの表情はまさに鬼のようであった。
怒れるユニの迫力に押されて思わず涙を浮かべてしまうネプギアが1歩下がろうとした時、その肩を爪が食い込むほど強く握りしめる人物がいた。
ネプギアが恐る恐る振り返ると、そこにいたのは無表情のまま見下ろすように自分を見つめてくるナナハがいたのだ。
ネプギアには無表情ながらもナナハのこめかみ付近に青筋が立っているように見えてしまう。
事実、2人はネプギアの発言に怒りを感じていたのである。
「そう言うことだから、アタシ達はちょっとネプギアとお話ししてくるけど、夢人はそこでおとなしく待ってなさい。後、ブレイブとアヤは夢人が馬鹿な行動を取らないようにちゃんと見張っときなさいよね」
「ワンダーもよろしくね」
「心得た」
「わかったわ」
〔了解〕
ユニとナナハはそれぞれネプギアの腕と自分の腕を組んで逃げられないようにすると、夢人達へと指示を出す。
その言葉に有無を言わせぬ迫力を感じたブレイブとアヤ、それに今はバイク状態に戻っているがネプギアをここまで運ぶためにナナハ専用の高速機動形態であるトルネードモードに変形してここまで来ていたワンダーも素直に了承する。
「ど、どこに行くの!? 私まだ夢人さんに言わなきゃいけないことが……」
「はいはい、そのことで話があるからネプギアも黙ってついて来てね」
「じゃ、じゃあ、自分で歩くから!? ちゃんとついていくから離してよ!?」
「駄目よ。この状況であんな馬鹿なことを言いだしたアンタを信じられるわけないでしょ」
「そ、そんな私は別におかしいことなんて……痛い!? それ痛いからやめてよ!? 本当に痛いからやめてって!?」
絡められている腕の都合上、ユニ達とは逆方向を向かざるを得ないネプギアは後ろ向きに歩く恐怖を感じながら必死にやめてくれるように頼みこむ。
だが、2人はネプギアの言葉に耳を傾けようとせずにズンズンと足を進めて夢人から離れようとする。
勝手に引っ張られていくことには納得しつつも、自分が発言した内容がどのように受け取られているのかにまだ理解が追いついていないネプギアは不満を漏らしてしまう。
それにカチンときた2人は無言のままネプギアの二の腕をつねりだす。
突然の痛みに涙を流しながら訴えるネプギアであったが、2人は何も話そうとせずに引っ張り続けるだけであった。
2人によって泣きながら連行されるネプギアを見送った夢人は、完全に姿が見えなくなった頃になってようやく再起動を果たして目をパチクリとさせて呆然とつぶやく。
「……どうなってんの?」
* * *
「さーて、アンタはどうしてあんな馬鹿らしいことを言いだしたのかしら?」
「はひゃしゅから、はひゃしてひょ!?」
夢人さん達が見えなくなるくらいに離れると、私をここまで連れてきたユニちゃんに思いっきり頬を引っ張られてしまう。
しかも、その表情がにっこりと笑っているものだから、余計に痛く感じるよ!?
話そうとしてもまともに喋れないし……どうしてこんなことになってるの!?
私はただ夢人さんの誤解を解こうとしていただけなのに!?
「ほら、ユニもその辺にしときなよ。ネプギアが馬鹿なことをするのは今に始まったことじゃないし、いちいち気にしてても仕方ないんだからさ」
「それもそう、ねっ!」
「ひゃっ!? ……ううぅ、酷いよ2人とも」
ナナハちゃんのおかげでユニちゃんに頬を離してもらえたけど、そんなに呆れた目で見ないで欲しい。
私って、2人からそんなに馬鹿なことばかりしているように見られてるの?
いくらなんでも酷いと思う。
私は痛む頬をさすりながら、2人のことを見る目を鋭くさせた。
「はあ、その顔じゃ自分が何を言ったのかわかってないみたいだね。もう1度自分が何を言ったのか、よーく思い出してみなよ」
ため息をつきながらナナハちゃんが私に諭すように言ってきた。
えっと、私は夢人さんの誤解を解くために“男の人が好き”だって伝えたんだよね?
うん、間違いない。
だって、私は夢人さんが好きなんだから、何の問題もないはず。
これで夢人さんの“私が女の子のことを好き”だと言う誤解が解けているはずだもんね。
「その様子だとまだ理解できてないみたいね。さっき言った事の意味、本当にわかってんの? アンタ、あの言い方だと“単なる男好き”にしか聞こえないわよ」
「……へっ?」
1人で何の問題もなかったと頷きながら考えていると、ユニちゃんが呆れたように額に手を当てながら口を開いた。
……“単なる男好き”にしか聞こえない?
もうユニちゃんってば、そんなことあるわけが……うん? ううん? あれ? ちょっと待って、私が言ったことって確か……
【私は男の人が好きなんです!! 大好きなんです!!】
って、駄目だよ、これ!?
これだと、ユニちゃんの言った通り私が男の人なら誰でもいいみたいな“単なる男好き”になっちゃうよ!?
そうじゃなくて好きな人が男の人だって伝えたかったのに、どうして私はこんなこと言っちゃったの!?
「ち、ちがっ!? わ、わた、私、そうじゃなくて!? 夢人さんの誤解を解こうとして、その!?」
ようやく自分の発言が持っていた意味を理解できた私はかあっと顔が熱くなるのを感じた。
おそらく、今の私は耳まで真っ赤になっているだろう。
私があたふたと支離滅裂な言葉しか口から出てくれずにいると、2人は揃って疲れたように肩を落とす。
「……あー、はいはいわかってるわよ。アンタは夢人の“女神は女の子同士でしか恋愛できない”って誤解を解こうとしたのよね」
「それで、どうしたらわかってくれるのか考えてシンプルに男の人が好きって言っちゃったんだよね。うん、私達もわかってるよ」
「だったら!?」
「でもね、アタシ達が聞きたいことは別なのよ」
慌てて早く夢人さんの所に戻ろうとした私を止めたのは、ユニちゃんの射抜くような真っ直ぐな視線だった。
先ほどまでの呆れていた雰囲気も、脱力していた様子も見えない。
真剣に私のことを見つめてくるユニちゃんに、一瞬心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。
あの時、ユニちゃんと一騎打ちで決闘した後にも同じ感覚に私は襲われた。
焦って混乱していた頭の中が一気に静まり返る。
よく見れば、ナナハちゃんの様子も私がリーンボックスに逃げ出した時と同じ顔をしていることに気付く。
2人の威圧に似た迫力に押され、私は知らずに息をのんで1歩下がろうとしてしまう。
でも、何とか踏みとどまることができ、体を仰け反らせるだけですんだ。
「ふーん、まあ逃げようとしなかったことだけは評価してあげるわ。アタシ達が聞きたいことは1つだけ………………アンタは夢人のことが好きなの?」
「っ!?」
ユニちゃんから投げかけられた質問の内容を理解すると、私は息が止まるかと思った。
前にも私はユニちゃんに同じことを尋ねられたことがある。
あの時とまったく同じ言葉だ。
前に聞かれた時は、答えられずに逃げてしまった。
ユニちゃんが夢人さんのことを好きだって聞いちゃって、私の頭の中は真っ白になって何も言えなくなってしまったんだ。
いろいろと余計な言い訳ばかり考えていたけど、あの時の私はユニちゃんとの関係を壊したくないから逃げたんだとナナハちゃんに指摘された。
多分、それは間違ってないと思う。
私も夢人さんが好きだけど、ユニちゃんやナナハちゃん達のことだって好きだから、皆との【今】を壊したくなかったんだ。
私が夢人さんに対する思いを告げることで、ユニちゃん達との関係が急激に変化してしまう【未来】になってしまうのが嫌だった。
でも、今は……
「好きだよ」
自分でも驚くほど、私はあっさりと答えられた。
何のことはない、ただ1度深く瞬きした時に夢人さんの姿を思い出しただけ。
それだけで、私はあの時に出せなかった答えを簡単に出せるようになったんだ。
「……そう。なら、夢人に言うことが間違ってたこともわかるでしょ? こんなところにいつまでもいないで、さっさと夢人の所に戻りなさいよ」
「まあ、連れ出した私達が言えたことじゃないよね」
「なっ!? それはネプギアが馬鹿なことを言いだしたからでしょ!? アタシは悪くないわよ!?」
「うんうん、ユニは悪くないよね」
私の答えを聞いたユニちゃんは引き締めていた顔をふわっと柔らかく緩めて笑みを浮かべた。
いつものような態度で私の背中を押してくれているんだってすぐにわかった。
すると、ナナハちゃんがにやにやとユニちゃんの揚げ足を取る。
一瞬で顔を真っ赤にさせたユニちゃんがぎろりと睨むけど、ナナハちゃんは気にした様子を見せない。
それどころか、ユニちゃんの頭をポンポンと小さい子どもを宥めるように撫で始めた。
それが逆にユニちゃんの逆鱗に触れたみたいで、ナナハちゃんを見つめる目がより一層鋭くなってしまう。
「アンタはいつもそうやってアタシのことを馬鹿にして……」
「そう言うことだからさ。ネプギアは早く戻りなよ。きっと夢人も待ってるよ」
「うんっ!」
「ただし、絶対に幸せにならなきゃ許さないからね。頑張ってね、ネプギア」
「ナナハちゃん……うん、ありがとうっ!」
ユニちゃんの言葉を無視して、私のことを激励してくれるナナハちゃんに目頭が熱くなってしまう。
上手く笑えているかどうかわからないけど、私は自然と目が細まり頬も緩んだ。
私のことを恨むとまで言ったナナハちゃんが夢人さんとの仲を応援してくれたのだから、もう立ち止まってなんかいられない!!
「だああああああああ!? 何でアンタらはアタシ抜きで綺麗に話をまとめようとしてんのよ!? いい、ネプギア!! 今度馬鹿なことをしたら、アタシ達が絶対に許さな……」
「2人とも、本当にありがとうっ!! 私、いってきます!!」
「って、ちょっと待ちなさいよ!? アタシを無視して行こうとしてんじゃ……もがっ!?」
「良い報告しか聞くつもりないからね。いってらっしゃい」
赤い顔で怒鳴りながら指を指してくるユニちゃんには悪いけど、私はお辞儀をして晴れやかな顔でお礼を言う。
もう何も怖いことはない。
私はちゃんと自分の気持ちを夢人さんに伝えてきますと言う意味を込めて。
それでも納得できなそうにしているユニちゃんの口をナナハちゃんが苦笑しながら押さえてしまう。
2人に背中を押された私は1度頷くと、すぐに振り返って走り出す。
当然、目的地は夢人さんが待ってくれている場所だ。
待っててください、夢人さん。
逃げ出したり、誤解を招くことを言って遅くなってしまいましたが、今度はちゃんと私の言葉であなたにこの気持ちを伝えに行きます。
こんな馬鹿なことばかりしてしまった私のことを許してくれなんて言いません。
受け入れてくれるだなんて思ってません。
ただ、あなたの告白にちゃんと返事をしたいんです。
私も、あなたのことが好きですって……
* * *
太陽がほとんど沈みかけ、オレンジ色の綺麗な夕焼けに染まっていた空が段々と薄暗くなっていく。
ネプギアがユニとナナハに連れ出されてから、その場で待っていることしかできなかった夢人はただボーっと空を見上げた。
この場に残っていたはずのブレイブ達の姿はどこにもない。
彼らもまた、ユニ達が何を考えてネプギアを連れ出したのか分かっているため、空気を読んでこの場に夢人を残して自分達は姿を消したのである。
「あっ、1番星」
自分のことで精一杯でブレイブ達の配慮に気付かない夢人は、皆がいなくなってしまったため手持無沙汰になってしまっていた。
単に待っていることしかできずに暇を持て余しているのだ。
しかし、そのおかげとも言うべきか、先程よりも幾分か気を持ち直すことができた。
だからと言って、夢人の暇が埋まるわけではなく、空を見上げているか、海を眺めていることしかできないことに退屈を感じていたのである。
ふいに見上げた空に光る星を見つけたことを口にした時、夢人の耳に今まで聞こえてこなかった音が聞こえてきた。
ダッダッダッと誰かが走ってくるような音である。
気になった夢人が音のしてきた方を向くと、髪を振り乱しながら走るネプギアの姿が見えた。
「はあ、はあ、はあ……夢人さん」
ネプギアは乱れた息を整えるために片手で軽く胸を押さえるが、夢人から目をそらすことなくジッと見つめている。
その表情はリビートリゾートに来た当初に見せていた戸惑いを感じさせない真剣なものであった。
「まずは謝らせてください。何度も夢人さんに誤解させるようなことをしてばっかりで、本当にごめんなさい。だから、今からちゃんと私の気持ちを言います。私、私は夢人さんのことが……」
「わかってる。わかってるよ、ネプギア。俺もネプギアが言いたいことはちゃんとわかってるから」
「……へっ?」
頬を染めながらネプギアが思いを告白しようとするのを止めたのは、何故かさびしそうな笑みを浮かべていた夢人であった。
さすがにこの反応は予想外であったため、ネプギアは最後まで告白を続けることができずにきょとんとしてしまう。
それに構わず、夢人はどこか諦めた雰囲気を纏いながら言葉を続ける。
「さっきの“男の人が好き”って奴は、俺の“女神は女の子同士でしか恋愛できない”って勘違いを正すためなんだろう?」
「あ、はい、そうですけど……」
「だったら、ちゃんとわかってるから。俺はネプギアが女の子じゃなくて、普通に男の人に恋愛感情を抱くってちゃんとわかってるからさ」
「は、はい、ありがとうございます? ……あれ?」
思わずお礼を言ってしまったネプギアだが、何かがおかしいことに気付いて首を傾げてしまう。
夢人の言葉をそのまま受け取れば、ネプギアの意図したことはしっかりと伝わっている。
ネプギア的には何の問題もないはずだが、その違和感のなさに戸惑ってしまっているのだ。
(か、考えていた状況とまったく違うよ。でも、私の言いたかったことは夢人さんにちゃんと伝わってるのに何かおかしい気がするのはどうしてなの?)
ここに来るまで考えていた状況とまったく違う展開に、ネプギアは混乱してしまう。
夢人の認識で取り除きたかった“女神が女の子同士でしか恋愛ができない”と自分の“単なる男好き”と言う誤解が解けていることは素直に嬉しく思うのだが、それで納得もできずにネプギアの眉間にしわが寄せられてしまう。
それを見て、夢人は辛そうにしながらも目を細めて笑おうとする。
(そうだよな。わざわざネプギアが心を痛めるようなことをすることはないんだ……俺がネプギアに嫌われていることなんて、言われなくてもわかってるんだからさ)
ネプギアの苦悩をよそに、夢人は未だにネガティブな考えから抜け出せずにいたのだ。
冷静に戻って1人で考えられる時間ができたため、余計にそう思うようになっていたのである。
(ちゃんとアカリにも報告しに行かないとな。俺はもうパパじゃないって……新しいパパと一緒にママと幸せな家庭を築いてくれって!)
(ぜ、絶対にまだ誤解されてるよ!? このままじゃ駄目……ちゃんと言わないと。あなたが好きですってちゃんと告白しないと!)
突然目尻に涙を浮かべる夢人を見て、ネプギアは大きく目を見開いてしまう。
すぐさま、夢人がとんでもない誤解をしていることに気付いたネプギアは再び告白しようと瞳に力を込めて決意を固める。
対して、夢人は思考が既に諦めてしまっているにもかかわらず、奥歯を強く噛み締めながら悔しそうに表情を歪めていた。
(うん、俺はネプギアとアカリが幸せなら、それで十分……)
「夢人さんっ!!」
「っ、は、はい?」
顔を俯かせかけた夢人であったが、ネプギアが大声で自分の名前を呼んだことで驚いてはね上げてしまう。
何事かと思った夢人の目に映ったのは、眉を吊り上げて怒っているネプギアの姿であった。
「夢人さんが何を考えているのかわかりませんけど、最後まで私の話をちゃんと聞いてください!! ……ふぅ、私、私はですね」
有無を言わせずに言い切ったネプギアは、1度深く深呼吸をすると浮かべていた表情を一変させる。
はにかみながらもネプギアは真っ直ぐに夢人から目をそらさない。
その表情、声すらも甘く聞こえてしまった夢人の頬は急速に朱に染まってしまう。
夢人もまた、ネプギアから視線を外せなくなっていたのである。
やがて、ネプギアがその思いの全てを夢人に伝えるために口を開く。
「私、夢人さんのことが……」
遂に1番大切な気持ち、言葉にすれば2文字で済む思いをネプギアが夢人に伝えようとする。
ネプギア本人に焦らすつもりはなく、ただ単に言葉にするための思いが強すぎるためにゆったりとしているのだが、その一言一言に情感が込められている。
当然、直接目の前で伝えられている状況であるために夢人もそれがわかってしまう。
ドキドキと鼓動を速める心臓の音が夢人には煩わしく思えた。
もっとよく声を聞きたいと、夢人はネプギア以外何も見えなくなってしまっていたのである。
それはネプギアも同様であり、胸の高鳴りによる緊張を誤魔化すように唇を湿らせる。
ネプギアは自覚していないが、その仕草に夢人の目が自然と唇に向かってしまう。
柔らかそうなぷにっとした唇を見つめ、夢人は思わず喉を鳴らしてしまった。
そんな風に夢人が自分の唇に釘づけになっていることに気付けるだけの余裕がないネプギアは、両手を胸に染めて最後の言葉を口にしようとする。
「ったく、いつまでもイチャイチャしてんじゃねーよ!!」
「へぶっ!?」
「夢人さん!?」
……突然、この場にいないはずの第3者の声が響くと同時に、夢人の顔に細長い何かが直撃する。
完全にお互いしか見えていなかった2人は、その不意打ちに気付くことすらできなかったのである。
細長い何かが直撃したせいで夢人は頭から倒れていくのだが、その先に地面はなかった。
青白い色をした渦のような穴があったのだ。
頭の落下地点にその不思議な穴があることに気付いたネプギアが慌てて手を伸ばしたのだが、その指が夢人に触れることはできなかった。
まるで吸い込まれることが予定調和のように、夢人は頭から穴へと全身が飲み込まれてしまったのだ。
夢人の足先まで全て吸い込むと、穴は役目を終えたと言わんばかりに消滅してしまう。
後に残されたのは、夢人を助けようとして前のめりに倒れてしまったネプギアだけ。
ネプギアは穴があった場所を見つめながら、四つん這いの体勢で涙をこぼす。
「夢人さん、夢人さん……っ!! 夢人さあああああああああああん!!」
泣きながら名前を叫んでも答える者はおらず、ネプギアの悲痛な声だけがリビートリゾートに響くのであった。
* * *
「やれやれ、これでよーやく始められるわけだな」
泣き叫ぶネプギアを見下ろしながら、1つの影がにやけた顔で上空に浮かんでいた。
ページが全て紫色に染まっている本に胡坐をかきながら座っている電子的な翼を生やしている存在。
短い髪と中性的な顔立ちのために性別は判別できないが、その表情と容姿が相まって悪戯好きな妖精のようであった。
妖精はネプギアの叫びなどに耳を貸すことなく、穴の中に消えた夢人にだけ意識を向けていた。
「ったく、つまんねーこと繰り返してて本当に退屈だったぜ。でも、これからが本番だな。精々、俺達が楽しめるようにあっちで予想外のことをしまくってくれよ」
くすんだ薄いベージュ色の髪をガシガシと掻きながら不満を漏らす妖精であったが、すぐににやりと笑って宣言する。
「プレイヤーその1さん? ってな」
……妖精を含めた4人で企画したとあるゲームの始まりを。
という訳で、今回は以上!
そんなわけで次回からついに超次元を離れ……ません。
次回はナナハ視点の第1章の補足ですね。
まあ名前は変わりますけど、前作から続いているアレと同じ感じですよ。
それでは、 次回 「候補生だより(ナナハ編)」 をお楽しみに!