超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
遅くなりましたが、今回から新章突入です。
それでは、 独りぼっちの部屋 はじまります
独りぼっちの部屋
「クソッ! いったい何だって言うんだ、“アレ”は……!」
ルウィーの教会近くの森の中。
ワンダーとファルコムの介入のおかげで夢人から逃げ切れたシンは忌々しげに近くの木を殴った。
口から出る言葉は、想定外の事態を引き起こした元凶への悪態である。
〔どうやら無事だったようだな〕
「っ、デルフィナス!」
そんなシンの目の前で、赤い粒子が渦を巻く。
赤い色から自分を狙っていた夢人のことを、シンは脳裏によぎらせてしまう。
だが、即座に聞こえてきた声の人物の名前を叫ぶ。
すると、赤い粒子は人の形になり、デルフィナスがシンの目の前に現れたのだ。
「君は知っていたのか?」
〔御波夢人のことか?〕
「他に何があると言うんだ……!」
怒気を放つシンに、いつもの冷静さは無かった。
1歩間違えれば、殺されていたかもしれないので当然である。
「“アレ”はいったい何だ? あんな隠し玉があるなんて、俺は聞いていないぞ」
〔“アレ”も貴様が見た『再誕』の力の1部だ〕
「……随分と便利な言い回しだね。いい加減、聞き飽きたよ」
まともに説明するつもりの無いデルフィナスに、シンは苛立ちを隠せない。
顔を怒りに歪め、この感情を芽生えさせたデルフィナス――そして、夢人に恨みにも似た思いを抱く。
〔今回は忠告に来た〕
「忠告だって?」
〔貴様が自身の目標を優先するのなら、2度と御波夢人の前に姿を現すな〕
疑問に答えようとせず、一方的に命令をしてくるデルフィナス。
湧きあがる怒りは当然あるが、シンの根底にある思いがデルフィナスの言葉を聞き逃さない。
思考していく中で深く……そして、冷めていく頭でシンは落ち着きを取り戻していく。
「……ご忠告、どうもありがとう」
〔ならば、いい。御波夢人は我が対処する。貴様は我が動いた後で動け〕
それだけ言い終えると、デルフィナスは現れた時と同様に赤い粒子になって消えてしまう。
1人に戻った森の中で、シンは先ほどのデルフィナスの忠告の意味を考える。
(御波夢人が俺の計画の邪魔になると言うことか? それとも、単純に敵対すれば俺の命が無いと言う意味なのか……情報が足りなさすぎる)
結論を導くには、あまりにも情報が少なすぎた。
悔しげに顔を歪め、シンは一先ず疑問を置いておくことにする。
これからどう動くべきかへと思考を切り替える。
(これであの愉快で騒がしい仲間達の一員じゃなくなったわけだが、どうする? とりあえず、あそこに戻ってデータを……うん?)
考えに耽るシンの頭上から、翼がはためくような音が聞こえてきた。
ふと見上げると、そこには1つ目の蝙蝠のようなモンスター……使い魔の姿があった。
夢人から逃げるために牛鬼と共に召喚したデータ収集用のモンスターである。
――瞬間、シンはある考えを閃き、口の端を怪しく吊り上げるのであった。
* * *
――シン達がいるゲイムギョウ界とは別次元のプラネテューヌ。
郊外の森の中にある今にも壊れそうなオンボロアパート。
その前でネリネは隣に居るネプギアに尋ねる。
「ここが夢人の家?」
「うん、そうだよ」
ネリネに引っ張られてギョウカイ墓場からプラネテューヌに戻って来たネプギア。
その勢いは凄まじく、ネプギアは文字通りネリネに手を引かれてここまで連れて来られたのだから。
「早く入ろう」
「ちょ、ちょっと待って!? 今、鍵を開け……」
「開いてる」
「えっ!?」
ネプギアが預かっていた鍵で開ける前に、ネリネは夢人の部屋の扉を開けて勝手に入って行ってしまう。
(開けっ放しって、夢人さん不用心ですよ!?)
夢人の危機管理能力を心配しながら、ネプギアもネリネに続いて入室する。
前に来た時と変わらないまま部屋。
だが、家主がいないだけでネプギアは何だか凄くいけないことをしている気分になってしまう。
(だ、大丈夫。夢人さんは何時でも来ていいよって言ってたし、やましい気持ちなんてこれっぽっちも……)
「布団敷きっぱなし」
「ふ、布団!?」
ネリネの何気ない発言に、ネプギアは大袈裟に反応してしまった。
視線を落とすと、敷かれたままの布団が残っている。
「ちょうどいい」
「――って、何しているの!?」
「寒いから温まる」
何を思ったのか、ネリネは顔を真っ赤にしているネプギアを無視してその布団に包まって丸くなってしまう。
ハッと正気を取り戻したネプギアが慌てるが、ネリネは布団から顔だけだした状態で丸くなったままである。
発言通り寒かったのだろう、布団に包まっているネリネは目を細めて口元を緩めていた。
「そ、そうじゃなくて、ダメだってば!? それは夢人さんの布団なんだよ!?」
「夢人のだから、ダメなの?」
「そう! ――って、違うよ!? 他人の布団に勝手に入っちゃダメなの!?」
不思議そうに首を傾げるネリネに対して、ネプギアはもういっぱいいっぱいだった。
自分でも何を言っているのか分からなくなるほど焦っている。
思わずこぼれた本音に、ネプギアの顔はさらに赤くなっていく。
「でも、ワタシは夢人と一緒に寝てたよ」
「……えっ?」
――しかし、そんな照れや恥ずかしさもネリネの発言で吹き飛んでしまう。
固まってしまったネプギアを疑問に思いながらも、ネリネは言葉を続ける。
「ワタシ、夢人とずっと一緒に寝てたよ。だから、問題ない」
(――いやいやいや!? 問題大ありですから!?)
言葉にならない叫びを、ネプギアは心の中で上げていた。
ネリネが何故かドヤ顔で言うから、余計にネプギアの心は荒れてしまう。
(また!? またなんですか!? ロムちゃんに続いて、ネリネちゃんとも一緒に寝たんですか!? 夢人さんはそんなに小さい女の子と一緒に寝たいんですか!?)
熱くなった頭ではまともなことを考えられない。
以前にロムと一緒のベッドで夢人が寝たことも思い出し、ネプギアの思考は暴走状態である。
因みに、ネプギア自身はいつもアカリを挟んでいるのでノーカウントだ。
「もしかして、ネプギアも寒いの? だったら、一緒に入ろう?」
ネプギアがそんなことを考えているとは知らず、ネリネは自身を包んでいた布団を緩めて提案した。
最初何を言われたのか分からなかったネプギアであったが、すぐにボンッと沸騰するように首筋まで真っ赤になる。
(えっ、ちょっ!? 夢人さんの布団に私も入るの!? そんなこと出来るわけ……)
「寒くないの?」
「……ちょ、ちょっとだけ寒いかなぁって」
いけないことだって分かっていてもネプギアはネリネの誘惑を振り切ることができなかった。
恥ずかしそうにネリネから視線を逸らし、心の中で自己弁護をしている。
(し、仕方なかったんですよ? だって、外は寒いのに、この部屋に暖房器具が一切ないんですから……そう、外が寒いから仕方なく布団を使うだけなんです。それだけなんです)
必死にネプギアが自分に言い聞かせている間に、ネリネは布団を被ったままモソモソと動き始める。
心の中で夢人に言い訳しているネプギアは当然気付かない。
きょろきょろと部屋を見渡すと、ネリネは徐に押入れを開ける。
「何これ?」
押入れの中に入っていた物を手に取り、ネリネは首を傾げる。
それを持ったままネリネは、1人で頷いたりしているネプギアの元へ近づく。
「ねえ、ネプギア」
「だから、これは決してやましい気持ちとかあるわけじゃなくてですね、本当に仕方なく……」
「えい」
「――わぷっ!? ね、ネリネちゃん? どうかしたの?」
ぶつぶつと呟くネプギアの顔を、ネリネは押し入れで見つけた物で叩く。
急に冷たい物が顔にぶつかったことで、ネプギアもようやくネリネが目の前に居ることに気がついた。
「これ、何か分かる?」
「え、えっと……履歴書?」
ネリネから受け取ったのは、どこにでも売っているクリアファイルだった。
中にはそれなりに用紙が入っている。
用紙の1枚目はどうやら夢人が書いた履歴書らしい。
「ダメだよ。これは夢人さんが就職活動をするために必要なものなんだから」
「シューショクカツドー?」
「そう、これが無いと夢人さんが困っちゃうから、元の所に戻さないと」
意味が分かっていないネリネをよそに、ネプギアはすぐに履歴書を元の場所に戻そうとした。
夢人が真面目に就職活動をしていることを知っているからである。
「でも、同じのいっぱいあるよ?」
「いっぱい必要だから、用意しているの」
「じゃあ、アレも?」
ネリネが押し入れの中を指さすと、そこには同じように積み重なったクリアファイルがいくつもあった。
履歴書もそこに戻そうとネプギアが動く前に、ネリネは他のファイルを手にとる。
「これ、それと違う。でも、中身は同じのばっかり」
「だから、勝手に見ちゃダメだってば」
ファイルの中身を取り出してパラパラとめくるネリネから、ネプギアは用紙を奪い取る。
そして、用紙に書かれていた内容に目を丸くしてしまう。
「不採用通知……えっ、これ全部?」
ファイルの厚さは履歴書の物よりも厚い。
つまり、夢人がそれだけ就職活動に失敗していると言うことだろう。
(夢人さん、こんなに受けてたんだ……あっ、ココは私も知っている)
「ネプギア?」
「あっ、ううん、何でもないよ。とりあえず、これは元の場所に戻しとこう」
初めて知った夢人の就職活動事情に、ネプギアはただただ驚くばかりだった。
聞こうとしなかったわけではないが、いつも夢人が曖昧に濁していたからである。
思わず読んでしまったことに罪悪感を覚えながら、ネプギアはそれらを元の押し入れの中に戻す。
「求人広告にアルバイトの雑誌もある」
履歴書と不採用通知を戻す時、他にもアルバイトの情報誌やプリントアウトしたらしい求人広告も見つけた。
ネプギアがアカリと一緒に遊びに来た時はまったく見なかった物が押し入れの中にあったのである。
それを見つけてしまったネプギアの胸に寂しさが込み上げてくる。
(相談してくれてもよかったのになぁ……私じゃ、頼りないってことなのかな?)
確かに、ネプギアに就職活動の知識はない。
だが、頑張っている夢人の力になれることはあったのではないかと思ってしまう。
「ネプギア、ネプギア」
「今度は何?」
「教えて欲しいことがある」
呼ばれて振り返ると、未だ夢人の布団を装備しているネリネは無表情のままネプギアに問う。
「――夢人はここで何をしていたの?」
「えっ?」
予想もしていなかったネリネの質問に、ネプギアはきょとんとしてしまった。
そんなことを聞かれても、どう答えていいのか分からない。
「えっと、夢人さんはここで就職活動をしていて……」
「他には?」
「他には……あれ?」
さらに詳しく知りたがるネリネだったが、ネプギアはそれ以上答えることができなかった。
思い出せないのではない。
ネプギアは夢人がこの部屋で生活し、就職活動をしていたことしか知らなかったのである。
「ちょ、ちょっと待って。今、思い出すから」
必死に思い出そうとするが、少しも引っかからない。
決して夢人との交流が途絶えたわけではない。
前みたいに毎日会っていたわけではないが、それでも他の誰よりも会っていると思っていた分、ネプギアはショックを隠しきれなかった。
(えっ、何で!? どうしてなの!? だって、夢人さんはいつも楽しそうに笑ってたのに!?)
ネプギアの思い出の中の夢人はいつも楽しげに笑っていた。
困ったように笑って今の生活が大変だとこぼす時はあっても、辛いとはひと言も聞いたことがない。
だから、ネプギアもネリネに尋ねられて初めて気がついた。
……この部屋は生活するために必要最低限の物しか置いていないことを。
むしろ、物が少なすぎて生活感がないとも言える。
テレビや冷蔵庫などの家電製品は当然なく、あるものと言えば壁に立てかけられている折り畳み式のテーブルくらい。
その現実に、ネプギは夢人の生活を知ろうともしなかった自分を呪い――そして、泣きそうになってしまう。
(夢人さんはここで1人になって……どんな気持ちだったんだろう)
何もない1人きりの部屋。
夢人がここで何を考えていたのか、とネプギアは思いを馳せるのであった。
* * *
「リン……」
名前を呼んでも返事が返ってくることはない。
いつもなら【バウッ】と頭の中で聞こえてくる家族の声が……
――フェンリルのリン。
両親を殺されたボクに残っていた最後の家族。
転生した時の『特典』により、体の中に居るはずのリンの存在が今は少しも感じられない。
ボクがネリネに負けたから、リンは……
「――っ!?」
俯いて歩いていたせいだろう。
ボクは何かにぶつかってしまい、尻餅をついてしまった。
「っと、わりい……って、フェル?」
「シュンヤ、さん?」
謝罪してくる声に顔を上げると、そこには見知った茶髪の男の人がいた。
とある事件を機にゲイムギョウ界中でブレイクしている音楽アーティストグループ“ユピテル”のメンバーの1人、シュンヤさんである。
「ほら、立てるか?」
「……ありがとうございます」
差し伸べられた手を取り、ボクは立ち上がってお礼を言った。
だけど、顔だけは上げられない。
今の顔を知り合いに見せたくなかった。
「んで、何かあったのか?」
そんなボクの態度に、シュンヤさんも何か勘づいたのだろう。
労わるような声でボクに尋ねてくる。
「……何でもないです。急いでますから、これで失礼します」
「まあ、そう言うなって」
話したくないボクが立ち去ろうとしたが、シュンヤさんに腕を掴まれてしまう。
「ちょうどこれからオレ達のライブがあるんだ。特別に招待してやるよ」
「……いいです。結構です」
「遠慮するなっての。さあ、行くぞ」
ボクの言い分を聞かず、シュンヤさんは強引に腕を掴んだまま歩き始めた。
抵抗する気力もわかないボクはされるがままにシュンヤさんについていく。
「まあ真面目な話、そんな顔しているお前を放っておけるわけねえだろ?」
「……えっ?」
「気付いてねえのかよ。お前、かなり酷い顔しているぜ」
そんなこと言われなくても分かっている。
鏡を見なくても今の自分が酷い顔なのは分かっていた。
でも、改めて指摘されると自分が余計に惨めに思えてくる。
「……関係ないです」
「そうかよ。だったら、勝手にお節介やかせてもらうからな。覚悟しとけよ」
恨み事を言って突き放そうとしてもシュンヤさんはボクの腕を離そうとしなかった。
それどころか、意味の分からない宣言までしてくる始末。
シュンヤさんがどうしてそこまで構うのかが分からず、ボクは困惑してしまう。
「そう驚くなっての。これでもお前らには感謝してるんだぜ。今のオレ達があるのは、あの時勇者……っと、夢人が後押ししてくれたおかげでもあるんだからな」
「……全部お兄さんがやったことです。ボクは何もしてない」
「それこそ関係ねえよ。言ったろ? オレ達は夢人も含めたお前達全員に感謝しているんだぜ」
ニッと歯を見せて笑うシュンヤさんが、ボクには眩しく思えた。
犯罪組織の計画に加担し、リーンボックスを混乱させたシュンヤさん達ユピテルのメンバーが今も音楽活動を続けられるのはお兄さんのおかげだ。
あの時、お兄さんが5pb.さんのライブにユピテルも参加させて欲しいと教祖である箱崎チカさんに頼んだからである。
だから、ボクは本当に何もしていない。
それなのに感謝なんかされても辛いだけだ。
「ほら、少し走るぞ。このままじゃ、リハに間に合わなくなっちまうからな」
「は、はい!?」
シュンヤさんに急かされ、思わず大きな声を出してしまう。
すると、シュンヤさんは嬉しそうに笑って走り出す。
「急ぐぞ! ファンの皆は待ってくれねえんだからな!」
駆け出すシュンヤさんに引っ張られ、ボクの足も自然と走り出していた。
今はその強引さがありがたい。
リンやお兄さん、アカリちゃん……そして、ネリネのことで遊んでる暇なんてない。
本当なら、今すぐにでもシュンヤさんの腕を振り解くのが正解なのだろう。
でも、今のボクにこの腕を振り解くことはできそうになかった。
……ボクはどうしたらいいんだろうか。
と言う訳で、今回は以上!
この章は超次元と超次次元をリンクさせるための章なので、短めの予定。
まあ、予告通りメインは超次元サイドですが。
それでは、 次回 「失ったものと責任」 をお楽しみに!