超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
約2か月ぶりの更新ですね。
それでは、 再・会・落・下 はじまります


再・会・落・下

『私達も行きましょう、夢人さん』

 

 ……木漏れ日が差し込むバーチャフォレスト。

 夢人の手を握り、ネプギアは晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。

 

『はい、約束ですよ?』

 

 ……リーンボックスの夜空の下、指切りをして約束を交わす夢人とネプギア。

 彼女は照れたように頬を染め、嬉しそうにはにかんでいた。

 

『ごめんなさい……そして、これからもよろしくお願いします』

 

 ……些細なすれ違いでぎくしゃくしてしまった夢人とネプギアだったが、互いの思いを打ち明けて元の関係に戻ることが出来た。

 再び絡まった小指を見て、彼女は瞳に涙を浮かべながらほほ笑んでいた。

 

『最後って……最後ってなんですか!? 待ってください、夢人さん!?』

 

 ……消えていく夢人に向かい、必死に手を伸ばし駆け寄ろうとするネプギア。

 しかし、その手が彼に届くことはなく、彼女は残された衣服を抱きしめて泣き崩れるだけだった。

 

『ずっと……ずっと会いたかったです、夢人さん。もう離れたくありません』

 

 ……夢人の唇を奪い、ネプギアは強く抱きつく。

 幸せそうに閉じられた瞳から漏れだす涙はどこまでも純粋で綺麗だった。

 

『私と毎晩一緒に寝てもらいますからね!?』

 

 ……顔を真っ赤にして爆弾発言をするネプギアに負けないぐらい、夢人の顔も染まっている。

 勢いで言ってしまったことに恥ずかしくなって去ってしまった彼女の後ろ姿を見送りながら、彼も頭を抱えていた。

 

『本当に……本当に私でいいんですか? 私のこと、好きなんですか?』

 

 ……不安そうに顔を見上げてくるネプギアに、夢人は言葉と態度で気持ちを伝える。

 愛しさが溢れ、彼は何度も彼女と唇を重ね合った。

 

『私の思いがきっと夢人さんを守ってくれますから』

 

 ……貰ったプレゼントのお返しに、ネプギアは夢人に今まで身に着けていた白い十字キーを模した髪飾りを手渡す。

 彼女の思い出が詰まった大切なものを預かり、彼の胸は熱くなった。

 

 

 ――そんな思い出の数々を、夢人は真っ暗な空間の中で見せられ続けていた。

 途切れることなく続けられる思い出。

 夢人はそれをただただ見続け、思い出していく。

 

(ネプギア……)

 

 その中で、夢人はふわふわとした幸福感に包まれていた。

 思い出の中には悲しいものも当然ある。

 だが、それでも夢人は嬉しく思ってしまう。

 ネプギアを泣かせてしまった罪悪感は感じるが、それ以上に自分が愛されていると理解できるからだ。

 

(俺……俺は……)

 

 夢人は目の前に広がる思い出達に触れようと手を伸ばす。

 ここがどこで何故思い出が目の前に浮かび上がっているのかさえも、今の夢人には関係なかった。

 ただ、ネプギアに触れたい……それだけである。

 

 

『ゆめ……と、さん……』

 

 ――しかし、手を伸ばした先に広がった光景は残酷だった。

 

「あっ……」

 

 そのネプギアの姿を見た途端、夢人の表情は凍りついた。

 声を漏らした唇は震え出し、目の焦点もブレ始める。

 幸せしか感じていなかった夢人の頭を絶望が支配する。

 

「ネプギアッ!?」

 

 もがくように体を動かし、夢人は必死にネプギアの元へと近づこうとした。

 だが、ネプギアと夢人の距離は変わらない。

 

「ネプギアッ!? ネプギアッ!? ネプギアーッ!?」

 

 名前を叫んでも、当然返事は返ってこない。

 何故なら、目の前に広がる光景は夢人の記憶なのだから。

 

 忘れられない――いや、幸せだった思い出を回想することで、夢人は忘れようとしていたのかもしれない。

 結婚式場を思わせるようなルウィーの教会。

 ステンドグラスから差し込む幻想的な光が差し込む赤いカーペットの上で、純白のウエディングドレス姿のネプギアが倒れていた。

 

『さい……ご……に……わが、ままを……』

 

「やめろ!? やめてくれ!? それ以上はもう……」

 

 結末を知っているからこそ、夢人はこれ以上ネプギアの言葉を聞きたくなかった。

 だが、そんな夢人の願いもむなしく、ネプギアは記憶にある通りの言葉を口にする。

 

『わたし……が……いなく……なって、も……ずっと……わすれ……ないで……あいしてます、ゆめとさん』

 

 ――そう言い残し、ネプギアは光の泡となって消えてしまう。

 記憶の通りに残されたウエディングドレスも闇の中に解けるように消えてしまった。

 

「――だ」

 

 暗闇の中で1人残されてしまった夢人は呟く。

 両手で頭を抱き締めるように、うずくまってしまう。

 

「嘘だ嘘だ嘘だ!? こんなこと……こんなことッ!?」

 

 認めたくない記憶を、夢人は必死に否定しようとした。

 そうしなければ、心が壊れてしまいそうになっていたから。

 真剣に愛し合っていたからこそ、ネプギアが消えてしまった記憶を認めたくなかったのである。

 

〔夢人さん〕

 

「――っ、ネプギア!? どこに居るんだ、ネプギア!?」

 

 悲しみにくれる夢人の耳に、ネプギアの声が聞こえてきた。

 夢人は慌てて顔を上げ周りを見渡す。

 すると、そこには体全体から淡い光を灯し続けているネプギアがいた。

 

〔そんなに悲しまないでください。私まで泣きたくなってきちゃいます〕

 

「無理だ、そんなの……だって……だって、もう君はッ!!」

 

〔私も……私もッ!!〕

 

 泣き出した2人は自然に体を抱き締め合った。

 ギュッと体が――心が離れてしまわないようにと。

 

〔私も嫌です!! やっと……やっと気持ちが通じ合ったのに、こんなことになるなんて!!〕

 

「何なんだよ!! 俺達がいったい何をしたって言うんだよ!!」

 

〔もっと一緒に居たかった!! 夢人さんとずっと一緒に居たかっただけなのに!!〕

 

「ふざけんなよ!! 何でこうなるんだ!! 俺は好きな子と一緒に居ることすらできないのかよ!!」

 

 感情が爆発した2人の叫びは、自分達の境遇に対する嘆きであった。

 2人はこれからもずっと一緒だと疑っていなかった。

 だからこそ、突然の理不尽な別れに悲しみ――それ以上に怒りを感じている。

 

〔……本当はずっと怖かったんです。私、夢人さんの思っているような“いい子”じゃなくて、自分勝手で酷いことばかりして傷つけてばかりで――それでも夢人さんはこんな私のことをずっとずっと好きでい続けてくれて〕

 

「そんなことない!! ネプギアが居たから、俺は今まで頑張ってこれたんだ!! だから、そんな悲しいことを言わないでくれ!!」

 

〔いいえ、違いません。だって、私はあんなに一緒に居たのに、少しも夢人さんの気持ちに気付くことが出来なかったんですから〕

 

 夢人の慰めに耳を貸すことなく、ネプギアはただただ抱きつくだけだった。

 

〔アカリちゃんが居なきゃ……パープルディスクの中身を知らなかったら、ずっと夢人さんの気持ちに気付くことなんてなかったはずです。だから、私……〕

 

「違う!! ネプギアは悪くなんてない!! 俺が……俺が臆病だったんだ。一緒に居るだけで幸せで、その関係を壊すのが怖くて何も言い出せなかったんだ」

 

 後悔が胸の奥から溢れてくる。

 夢人はもっと早くネプギアに気持ちを伝えていればと思わずにいられなかった。

 

「だから、ネプギアは悪くない。絶対に……絶対に」

 

〔……ありがとうございます〕

 

 震えながら自分を諭す夢人に、ネプギアは大粒の涙を浮かべた。

 背中に回していた腕を離し、ゆっくりと夢人から離れようとする。

 その意図は夢人にも伝わり、密着していた体は徐々に離れていく。

 

〔やっぱり、間違ってなかったんですね。夢人さんに愛されて、夢人さんのことを好きになった気持ちに間違いなんてなかったんですよね?〕

 

「ああ。俺もネプギアのことを好きになって、それで……っ!」

 

 ボロボロと涙を流しながらもほほ笑むネプギアと違い、夢人は言葉を続けることができなかった。

 未だネプギアが消えてしまったと言う現実を直視し、“幸せだった”と過去形にしてしまうことが怖かったのである。

 

〔――んぅ〕

 

「っ!?」

 

 そんな情けない顔を晒している夢人に、ネプギアは黙って唇を重ねた。

 驚きながらも、重なった唇の温かさに夢人の瞳から新しい涙がこぼれ始める。

 

〔やっぱり、私“悪い子”です。だって、“いい子”ならこんな風に夢人さんを悲しませる真似なんてしませんから〕

 

 名残惜しみながら唇を離すと、ネプギアは夢人の肩をそっと押しだす。

 すると、徐々に夢人の体がネプギアから離れていく。

 

〔最後にお願いがあります〕

 

「最後ってなんだよ!? 待て!? 待ってくれ!?」

 

 どれだけもがいても、夢人は少しもネプギアに近づけない。

 それどころか、どんどんと離されていく。

 

〔こんなことを私が言う資格はないと分かっていますが――どうか幸せになってください。私のせいで夢人さんが苦しむのなら、いっそ私のことなんて忘れて……〕

 

「っ、出来るわけないだろ!? 君を忘れるなんて出来ない!?」

 

〔――だったら、なんて言えばいいんですか!!〕

 

 泣きそうな顔で笑みを浮かべていたネプギアであったが、夢人の叫びを聞いて取り繕うことが出来なくなってしまう。

 

〔私だって忘れて欲しくない!! ずっとずっとずっと私のことを好きでいて欲しいんです!!〕

 

 今までの態度はネプギアなりの強がりだったのだろう。

 だが、夢人の言葉に本音がこぼれ出してしまった。

 

〔夢人さん……私、私……!〕

 

「ネプギア……!」

 

 再び求め合うように、2人は互いに手を伸ばす。

 

 ――しかし、その指先が触れ合うことはなかった。

 あと少し、と言う所でネプギアの体が光になって消えてしまったのである。

 

「っ、ネプギア!? どこに居るんだ!? ネプギアアアアァァァァッ!?」

 

 誰もいなくなってしまった暗闇の中で、夢人は必死でネプギアの姿を探す。

 だが、ネプギアの姿が見つかることはない。

 

「……なんで、なんだよ……どうしてこんな」

 

 心がどんどん落ちていく。

 先程まで感じていたはずのネプギアの温かさすら、夢人には信じられなくなってしまう。

 まるで体全体が溶けていくような脱力感に身を任せてしまいそうに……

 

『へえ、なるほどね。女神の最後って、意外と呆気ないものだったんだ』

 

 ――なった瞬間、夢人はその声を聞いた。

 途端に夢人の体に力が戻ってくる。

 

『まあ、単刀直入に言ってしまえば、俺は君達を騙して近づいていたわけだけどね』

 

 顔を上げて声の主を見つけた夢人の胸はざわついた。

 それはネプギアと会った時とは真逆の感情だった。

 ギリッと奥歯をかみしめ、夢人はその人物を睨みつけている。

 

「――シンッ!!」

 

 へらへらと笑った顔で現れた人物……シンに夢人は怒りを抑えきれなかった。

 

(そうだ、アイツだ!! アイツが居たから、ネプギアは!! ネプギアはッ!!)

 

 今の夢人には目の前の全てが赤く染まって見えていた。

 自分達を騙していたことはもちろん、ネプギアが消えてしまった直接の原因であるからだ。

 自制の効かない怒りで頭の中が1つのことしか考えられなくなっていたのである。

 

「許さないッ!! 絶対に許さないッ!!」

 

 胸の奥から広がった憎悪の炎はとどまることを知らない。

 気が付けば、再び夢人の右腕は赤く禍々しいものへと変化していた。

 

「どこだ!! どこに居る!! ――シンッ!!」

 

 夢人が変わってしまった右腕を横薙ぎに振るうと、空間に罅が入った。

 罅はやがて大きな亀裂へと変わり、夢人のいる空間そのものが崩壊していく。

 

〔――そうだ。それでいい〕

 

 ……空間に散った赤い粒子から漏れた声を聞くこともなく、夢人はシンに対する憎悪を抱いたまま意識を浮上させるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「結局、あなたの目的は何なの?」

 

 次々と紹介されていく商品達を見ながら、ノワールは隣に居るシンに尋ねた。

 

「おやおや、随分と直球で聞いてくるんだね。ちょっと意外だなぁ」

 

「はぐらかさないで。あなたに拒否権なんてないわ」

 

 胡散臭い笑みを浮かべるシンを、ノワールはキッと睨む。

 やれやれと肩をすくめながら、シンは口を開く。

 

「仕方ないな。それじゃ、先に俺の質問に答えてくれないですか? 是非とも女神様の意見を聞きたいと思っていたことがあるんだ」

 

「……それはあなたの企みにも関係しているのね?」

 

「企みだなんて後ろ暗いことがありそうな言い方をしないでくれたまえ。それで、どうしますか?」

 

 突き付けられた交換条件に、ノワールは一瞬悩んでしまう。

 シンから無理やりにでも話を聞きだすことは可能だ。

 色々と理由をつけて、総合技術博覧会が終わった後に教会へ連行すればいい。

 だが、目の前の男が素直に従うわけがないとも思っている。

 

「分かったわ。何でも聞きなさいよ」

 

 悩んだ末、ノワールは少しでも情報を得ようとシンの提案に乗ることにした。

 下手なことを口にしない限り、ノワールにデメリットはない。

 迂闊な発言を絶対にしないと言う自負も決断を後押ししている。

 

「わぉ、本当にいいんですか? 結構答え辛いことを聞いちゃいますけど?」

 

「何でもいいから、質問するならさっさとしなさい。その代わり、私が答えたら……」

 

「ええ、分かっていますよ。俺も本心を語りますよ」

 

 どこまでも信用できなさそうな軽薄な態度を取るシンに苛立ちながらも、ノワールは努めて冷静になろうとする。

 小声での会話とはいえ、2人が居るのは大勢の観客が居る会場。

 ノワールは女神として毅然とした態度を貫くつもりなのだ。

 

「では、早速――女神として、ゲイムギョウ界の大陸が崩れ落ちていく現象をどう受け止めていますか?」

 

 それまでのいい加減な態度が鳴りを潜め、シンは真剣な声色でノワールへと問う。

 

「……質問の意図が分からないわ」

 

「そんなに難しく考えないでください。率直にどう思っているのかを聞きたいんですよ」

 

 予想外な質問に、ノワールは眉をひそめていぶかしむ。

 しかし、ノワールに約束を反故にするつもりはない。

 

「そうね。増えすぎた人口と過度な開発が大地に影響を与えているせいで起こっている現象だと思っているわ」

 

「つまり、人間達の自業自得だと?」

 

「いいえ、それは違うわ。人口の増加や開発も、人が進歩していく上では必要なことよ。だから、こう言ういい方は好きじゃなけど、受け止めるべき痛みのようなものだと思っているわ」

 

 当然、ノワールも何の対策も講じていないわけではない。

 だが、ゲイムギョウ界の発展を考えれば、不可避の自然災害のようなものだと考えているのである。

 

「……それだけなのかい?」

 

「当然、被害に対する対策はしてあるわよ。有事の際はすぐに対策本部を……」

 

「ああ、もういいよ。聞きたいことは聞けたからね」

 

 まるで興味を失くしたかのように話を打ち切ったシンに、ノワールもさすがに気分が悪くなる。

 ムッとした顔を隠すことなく、ノワールは口を開く。

 

「じゃあ、次は私から質問させてもらうわ。もちろん、いいわよね?」

 

「まあ、そう言う約束だからね」

 

「だったら、聞かせてもらうわ――あなたは何が目的なの?」

 

 ノワールの変わらない問いかけに、シンは思わず噴き出してしまいそうになる。

 

「黒の女神様はこんなにも直球派だったなんて初めて知ったよ」

 

「誤魔化そうとしないで、ちゃんと答えなさい」

 

「うーん、前にも似たようなことを聞かれたよ。まあ、俺の答えは1つだけだけど」

 

 真剣なノワールと違い、シンはへらへらしたままである。

 シンからすれば、己の目的は特別隠しておくものではないからだ。

 

「俺の目的はゲイムギョウ界の救済、ただそれだけだよ」

 

「……真面目に答えなさい」

 

「ハハッ、これまた同じようなことをどうも」

 

 ふざけているようにしか思えないシンの発言に、ノワールは沸々と怒りが湧いてくる。

 代わりにシンの方はノワールの対応が予想通り過ぎて笑ってしまう。

 

「信じる信じないかは別として、女神様はゲイムギョウ界に違和感を感じたことはないかい?」

 

「違和感?」

 

「そう。例えば、どうして凶暴なモンスターが居るのか、どうして女神と言う存在が生まれたのか――どうして大地が浮いているのか、とかさ」

 

 シンが挙げた例を、ノワールは考えてみる。

 そして、すぐに答えが出てくる。

 

「モンスターが居るのはそういう風に生態系が進化したからに決まっているじゃない。そんなモンスターから人間達を守るために私達女神が生まれた。それに大地が浮いているのは、ゲイムギョウ界が浮遊大陸だから……」

 

「本当、女神様って頭がおめでたいんですね」

 

 自身の言葉を遮って侮辱とも取れる暴言吐くシンに、ノワールの眉はピクリと跳ね上がった。

 そのまま無言のままシンを睨みつける。

 

「事実を言っただけで、そんなに怒らないでくださいよ。まさか本当に何も感じていなかったとは思っていなかったんですから」

 

 嘲笑を浮かべながら、シンは語り出す。

 

「モンスターが自然発生? だったら、モンスター同士の縄張り争いが起こってもおかしくないかい? あなたは今までモンスター同士が争っている場面を目撃したことがあるかい?」

 

「……ないわ」

 

 長い間女神として人を襲うモンスター達を倒してきたノワールだったが、シンの言ったような現場を目撃したことはない。

 モンスターが人を襲う場面はあったが、モンスターがモンスターを攻撃する場面は見たことがなかったのである。

 

「次に、本当に女神は人間を守るために生まれたのかい? 誰がそんなことを決めたんだい?」

 

「人間を守ることは女神の使命よ。誰かに命令されたわけじゃない。私達には力の無い人間達を守れる力がある。だから……」

 

「随分と傲慢な考え方――いや、これは守られている人間達に非があるのか」

 

「なんですって?」

 

 人間を守ることは女神としての誇りと責任である。

 それを貶すような言い方をするシンに、ノワールも黙っていられない。

 だが、ノワールが追及する前に、シン自身がその考えを話し出す。

 

「力ある者にはそれ相応の責任を、って考え方は嫌いじゃない。だけど、君達女神のそれは一方的な押し付けだ。君達がそのちっぽけな自尊心を満たすと同時に、人間を堕落させているとも考えられないかい?」

 

「そんなものは個人の向上心じゃないの。現に目の前の彼らを見てみなさいよ。互いに切磋琢磨して技術を磨く。私は彼らが安心して技術を磨けるように、ラステイションの平和と安全を守ってきたのよ」

 

「過保護なだけさ。君達が考えるよりも人間は弱くない……いや、実質人間は女神よりも強いよ」

 

 互いの主張を認めず平行線だった議論に、シンはうんざりしてしまう。

 その露骨な顔の変化が、ノワールの苛立ちに油を注いでしまった。

 

「あなたって、随分と捻くれたものの解釈しかできないのね」

 

「そう思いたければ、そう思っているといいよ。俺は別に君達がいくら吠えようとも考えを変えるつもりはないからね」

 

 ここまでの会話で、ノワールはある程度シンがどのような人物なのかを結論付けていた。

 所謂、アンチ――女神に対して否定的な意見を持った人物なのだ。

 当事者のことを考えず、客観的に正しさを追求しているとも言っていい。

 長く生きてきた中でシンと似たタイプの人種に会ったことがあるノワールは、彼らの理屈に正しさがあることも認めている。

 

「あなたの意見に賛同はできないし納得も出来ないわ。でも、理解はできるつもりよ」

 

「へぇ、理解ねぇ?」

 

「その上で言わせてもらうわ。あなたの考え方の方が傲慢よ。人は誰でも不満を抱えながらも折り合いをつけて生きているわ。でも、あなたはそれを理由にゲイムギョウ界を無暗矢鱈にひっかきまわしているだけ。だから……」

 

「――やっぱり、無駄だったか」

 

 ノワールの説得を遮ったシンの表情は心底つまらなそうだった。

 そのままシンはあからさまな態度で額に手を当ててため息をつく。

 

「ハア、予想通りと言えば予想通りだったけど、こうも見事に信じてもらえないとは少し落ち込むなぁ」

 

「今までのあなたの行動で信じられると思っていたの?」

 

「御尤もで。まあ、今度はもっと有意義にディベートできる相手とだけにするよ」

 

 ぎろりと睨むノワールの視線を受け流し、シンはにやけだす。

 

「……そろそろ、かな」

 

「何を言って――っ!?」

 

 ポツリと呟いた意味をシンに問おうとした瞬間、ノワールは突然の脱力感に襲われた。

 危うく倒れてしまいそうになったところを踏ん張り、直観的に悪寒の走った場所へと目を向ける。

 

「あ、れは……?」

 

 ノワールが目を向けた先――会場の天井付近に赤い粒子が集まっていた。

 どこからともなく現れて増えていく赤い粒子はやがて人の形に変わる。

 

 ――ドガンッ、と展示してあった作品を破壊して落下した赤い人型は吠える。

 

「シンンンゥゥゥッ!!」

 

(待っていたよ、御波夢人君)

 

 会場に居た人達全員が竦むような憎悪の叫びを上げる夢人の登場に、シンは予定調和だと言わんばかりに笑みを浮かべるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

(いったい、何がどうなっているのよ!?)

 

 アイエフは走っていた。

 ルウィーの教会の廊下を全速力で駆けて、とある部屋に向かっていた。

 

 ――事の発端は、ネプギアの捜索が空振りに終わって帰って来た時だった。

 アイエフはそのまま夢人の様子を見に牢屋の方へと足を運んだのだが、そこで見たのは腰を抜かした職員と破壊された鉄格子だけだった。

 慌てて事情を聞き、夢人がどこかに消えてしまったと分かったアイエフはこの状況に対処できそうな人物の下へと急ぐ。

 

「っと、この部屋ね!」

 

 そして、アイエフは目的の部屋に辿り着く。

 部屋の中に居るのは女神であるブランやベールではない――サイタマだ。

 自分の目で見たわけではないが、その実力は夢人の暴走を1度止めたことから確かなはずと考えたからである。

 女神の2人への報告を職員に任せ、アイエフは迷うことなくサイタマの部屋に来たのだ。

 

「入るわよ!! 大変なことに……」

 

 ノックすらせずに、アイエフは乱暴に扉を開け放つ。

 幸い、鍵はかかっておらず、扉は簡単に開いた。

 しかし、部屋の中で見た光景は……

 

「にぇへへ、ほっちょけ~きぃ~がいっぱいぃ~」

 

 ――涎を垂らしながら眠るサイタマだった。

 眠っている彼女に言うのは違うかもしれないが、緊張感もへったくれもない。

 その様子を見て、アイエフは思わず立ち尽くしてしまう。

 

「も~、たべられにゃいよ~……うぇっへっへっへ」

 

 テンプレートな寝言を呟くサイタマに、アイエフのこめかみがピクリと反応した。

 サイタマの寝顔がいつもふざけてばかりで自分に迷惑をかけてくるネプテューヌに重なったことも後押ししたのかもしれない。

 青筋を立てたアイエフはずかずかと大股で部屋に入り、気持ち良さそうに眠っているサイタマを叩き起こす。

 

「起きなさいっ!!」

 

「っ、うにゅううぅ!?」

 

「――って、ちょっと!? なに落ちてんのよ!?」

 

 怒鳴られた衝撃で、サイタマは奇声を上げながらベッドから落ちてしまう。

 アイエフが慌てて近づくと、ベッドから落ちたことで目を回して気絶してしまっているサイタマが居た。

 そんなサイタマの様子に、アイエフは不安しか感じなかった。




と言う訳で、今回は以上!
更新が遅れてすいませんでした。
ようやく溜まっていたゲームやらアニメをある程度消化し終えたので、また書く気力が湧いてきました。
毎日更新とはいかないまでも、週一更新は目指して頑張ります。
それでは、 次回 「保・険・失・策」 をお楽しみに!
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