超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
1週間と言っておきながらだいぶ遅くなって申し訳ありませんでした。
それでは、 激・突・枯・渇 はじまります


激・突・枯・渇

 ……冗談だと思いたかった。

 でも、気まずそうに顔を逸らしているフィーナに、嫌でも冗談ではないことが分かってしまう。

 

「じゃ、じゃあ、夢人は……」

 

「最悪、犯罪神として凝縮された負のシェアエナジーに心を呑みこまれて2度と正気には戻れないわ。今はかろうじてシンとか言う男への怒りで自分を見失わずにいられているけど」

 

「っ、そんなのどうでもいいよ!? だったら、早く何とかしないと!?」

 

「焦った所であなたには……もちろん、私にも出来ることはないわ。だから、あなたは早くあの箱を開けてみなさいよ」

 

 確かに、フィーナの言う通りだ。

 今の私に出来ることは、この緑色の箱を開けて中身を確認することだけ。

 

 ……でも、こんな気持ちじゃ集中できないよ。

 早くしないと夢人が死ぬかもしれないのに、こんな所でのんびりなんてしていられるわけがない。

 

「私だって、色々と計算外だったのよ。本当だったら、時間をかけて水晶の中のシェアエナジーを操作して体を再構成しようと思っていたんだから。そして、今度こそ本当に父様達の娘のフィーナとして生きようと思っていたのに……あーもう!? 何であの厚化粧ババアは父様に余計なことをしてくれてるのよ!?」

 

 ぶつぶつと言っていると思ったら、急に叫び出すフィーナ。

 しかし、その内容は少しも私の頭に入ってこない。

 耳で聞いて理解できても、焦りのせいですぐに頭の中が真っ白になってしまう。

 

「せめてゲハバーンがあれば――いや、私に『再誕』の女神としての力が残ってさえいれば、こんな悩まずに済んだのに!? どうしてこんな奴に頼らなきゃいけないのよ!?」

 

「――さい」

 

「はぁ? 何か言った?」

 

「うるさいって言っているの!! 少しは黙ってて!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐフィーナに我慢できず、私は怒鳴った。

 ただでさえ集中しきれないのに、横で喧しくされたらもっと集中できない。

 

「だいたい、全部フィーナのせいじゃん!! フィーナが夢人に犯罪神なんかが入っているブレスレット渡したのが悪いんでしょ!!」

 

「他に方法がなかったのよ!! 既に回路が出来上がっていた父様がゲイムギョウ界に居られるようにするには、ブレスレットのシェアエナジーが必要だったの!! それとも何? あなたは父様がゲイムギョウ界からいなくなってもよかったって言うの!!」

 

「よくない!! でも、そんな危険な状況だったなんて知らなかった!! 知ってたら……」

 

「知ってたら? それであなた達に何が出来たって言うのよ!! 父様の状況を知らなかった姉様はともかく、あなた達普通の女神に出来ることなんて何もないわ!! ましてや、自分の力も満足に扱えないあなたに何が出来るって言うの!!」

 

 ……分かってる。

 言われなくても全部分かっている。

 今の自分が八つ当たりして喚き散らしているだけなんてことは。

 でも、仕方ないじゃない。

 このままだと私――箱を開けることすら、諦めてしまいそうになっちゃう。

 何も手につかなくなって、泣くことしかできなくなりそうになる。

 

「ねえ、気になっていたことがあるのだけど、あなたは何がしたいの?」

 

 何も言えなくなって俯く私に、フィーナは問いかけてきた。

 

「私はあなたのことなんて、これっぽっちも興味がないし、どうでもいいわ。でも、あなたの力が父様を救えるかもしれないから、こうして協力してあげているの」

 

「……何が言いたいの?」

 

「分からない? 私はね、あなたが何もできずにそうやっているだけなら、もうあなたに用はないのよ――目障りだから、さっさと体だけ明け渡して消えなさい」

 

 ぞっとするほど冷たく言い放たれたフィーナの言葉だけど、不思議と私の胸にストンと落ちてきた。

 それでいいかもしれないと思ってしまったのである。

 

 ……だって、きっと私よりもフィーナの方が夢人を助けられるから。

 何もできない私なんかよりも、力を失ったとはいえ元『再誕』の女神だったフィーナの方が絶対に箱の中身も体も上手く使ってくれる。

 だったら、夢人のためにも私は消えた方がいいのかもしれない。

 

「――っ、あーもう!! 少しは言い返すとかないの!! あなた、このままだと本当に全部失うのよ!! 私があなたの全部を奪い取るって言っているのよ!! 何とか言いなさいよ!!」

 

 グイッと胸ぐらを掴み上げられたけど、私は視線を上げられない。

 少し顔を上げれば、そこにフィーナの顔があることは分かる。

 でも、私の目線は縫いつけられたように、ずっと下だけを見続けている。

 

「そうやって逃げるつもりなの? 自分のやりたいことも言わずに、もの分かりの良い振りをして全部他人任せ。挙句の果てには全部投げ捨てて逃げるなんて」

 

「……やめて」

 

「2度目の人生だからって、もしかして今までの全部遊び感覚だったんじゃないの? まあ、無責任なあなたには何を言っても無駄だろうけど」

 

「もうやめてよ!!」

 

 気付けば、フィーナを押し飛ばして叫んでいた。

 顔は変わらず下を見続けているけど、フィーナが尻餅をつく音だけが聞こえてくる。

 

「フィーナに何が分かるの!! 何も分からないまま急に死んだって言われて生まれ変わって……女神の力が目覚めたら、生みの親に捨てられた私の気持ちが!! 私はこんな力要らなかったのに!! こんなの!!」

 

 爆発した感情のまま、私は手にしていた緑色の箱を思いっきり床に叩きつけた。

 傷1つ付かずに乾いた音を立てて転がる箱を忌々しく思う。

 

「戦う力とか、魔法とか……そんなの、要らなかったのに……私はただ……キラキラして生きたかっただけなのに……」

 

 ナナハ――ううん、生まれ変わった後の私の前世は普通の女子高生だったんだよ?

 そんな私が女神とか女神候補生とか、本当に意味が分からない。

 私はただ、憧れた人達のように恋愛やスポーツ、勉強でキラキラした生き方をしたかっただけなのに。

 

「それで? あなたの望んだキラキラした生き方って何なの? 周りの皆から良い子とか思われる賢い生き方なのかしら? 模範的な優等生のような生き方を望んでいたのなら、どうしてあなたは父様を好きになったの? 父様が母様を好きだと知った上で恋をしたのでしょう?」

 

「それは……」

 

「いいわ、面白いことを教えてあげる――母様は死んだわよ」

 

「……え」

 

 何でもないことのように言われたフィーナのひと言に、私は耳を疑った。

 今まで動かなかったのが嘘のように自然と顔が上がる。

 そこには私を冷たく見下ろすフィーナの顔が見える。

 

「さあ、あなたにとって最大の恋敵がいなくなったわ。必然的にあなたが父様に1番近い女の子になるわね――それでもまだ私に全部奪われてもいいと思う?」

 

 

*     *     *

 

 

 鋼と鋼がぶつかるような鈍い音が街中に響く。

 しかし、それは決して鋼鉄同士のぶつかり合いではない。

 片方は剣であるが、もう片方は生身の肉体なのだから。

 

「むっ、中々固いな」

 

 剣を振るう者――ディックは剣越しに感じる衝撃に顔をしかめた。

 その感触は正に鉄の壁を剣で斬り裂く感覚に似ていた。

 

「アアアアアアッ!!」

 

 拳を振るう者――夢人はディックが感じている衝撃などまるで意にも介すことなく、拳を無暗矢鱈に振り続ける。

 ひたすらにディックを殴りつけようとしていた。

 

「ねえねえ、がすと。夢人、本当にどうしちゃったんだろう?」

 

「そんなことをがすとが知るわけないですの。と言うより、日本一はディックの助太刀に入らなくていいんですの?」

 

「無理だって。考えなしで突撃したら、こっちがやられちゃうよ」

 

 完全に蚊帳の外になってしまった日本一とがすとが、夢人の変貌について話し合う。

 それもディックの姿を見た途端、夢人が親の仇を見つけたと言わんばかりに突撃したせいである。

 2人とも、完全に夢人のターゲットから外れてしまったのだ。

 

「今はタイミングを見計らわないと。勘だけど、夢人のあの右腕からすごく嫌な予感がするんだよね」

 

「そんなの見れば分かりますの。まあ、バカはバカなりに考えてたってことですのね」

 

「……あれ? アタシ、ずっと馬鹿だって思われてたの?」

 

「何を当たり前な――っと、雑談はここまでですの。集中してタイミングを見計らうですの」

 

 日本一から疑問をスルーし、がすとは杖に魔力を込め始める。

 何時でも魔法を放れてるように準備しているのだ。

 それは日本一も同様であり、腰を低くして何時でも駆け出せるようにしている。

 

 ……一方、のほほんとしている2人とは対照的に、ディックは険しい表情で夢人の攻撃を捌き続けていた。

 

(単調な重さだけの攻撃だが、隙が見当たらない)

 

 防御に専念しつつ攻めるタイミングをうかがっているディックであるが、その時はなかなか来ない。

 ディックからすれば、夢人の攻撃は簡単に避けたり捌けるものである。

 だが、いざ攻勢に出ようとした時には、既に狙っていた箇所に赤黒い右腕が先回りしているのだ。

 そのことから、力押しでの勝負が不利と判断したディックが防戦一方になってしまうのも無理はなかった。

 

(埒が明かないな。それにこのままでは剣の方が耐えられないか)

 

 夢人の右腕と激突する度に飛び散る細かい破片に、ディックは今使っている剣の限界を悟る。

 今使っているものもシアンがブレイブソードを参考にして試作した剣の1つであり、決して鈍らなどではない。

 しかし、軽く見積もっても同じ強度――もしかすれば、それ以上の硬度を持っている夢人の右腕と何度も打ちあうことは不可能であった。

 

(賭けに出るか)

 

 そう決めたディックの行動は早かった。

 剣で夢人の右腕を滑らせるように逸らすと、自身はその流れに逆らわず回転しながら前に出る。

 ちょうど1回転――夢人の背後を取ると、ディックは無防備に見える背中を無視して後ろに大きく跳ぶ。

 

「さて、上手くいくか」

 

 振り返り爛々と赤黒い瞳で睨みつけてくる夢人を見て、ディックは呟く。

 しかし、その表情に不安はない。

 ただ冷徹に夢人を睨み返すだけだった。

 

「ガアアアァァ!!」

 

 先に動いたのは夢人だった。

 獣染みた雄叫びを上げながら、赤黒く染まった右腕を振り上げて突進する。

 

「ふぅ……」

 

 対して、ディックはあろうことか、深く息を吐きながら剣を鞘に収め始めた。

 夢人がその凶腕を振りかざして近づいているにも関わらず。

 

「ちょっ、何考えてるの!?」

 

「自殺行為ですの!?」

 

 これに慌てたのは助太刀のタイミングをうかがっていた日本一とがすとである。

 割って入ろうとしても、ましてや魔法を放とうとも、ディックの突飛な行動のせいで初動が遅れてしまった。

 間に合わない、と2人が考えた瞬間……

 

「――ッァ!?」

 

 ――夢人の体が仰け反った。

 不格好に顎を突き出して上半身を仰け反らせていたのである。

 そして、夢人の顎のあった場所には剣の柄……中途半端に鞘から飛び出している剣の柄がそこにあった。

 

 ……それは全てディックの技量があったからこそ、為し得た絶技であった。

 剣を鞘に戻す振りをして相手の顎を柄で打ち抜く。

 言葉にすれば簡単だが、鞘を突き出すタイミングがズレれば剣に勢いが乗らず、夢人を仰け反らせることなどできなかった。

 そもそもいくら急所に当たったとはいえ、勢いだけで人を仰け反らせることなど不可能である。

 それを可能にしたのが、一瞬のうちに首と四肢を刎ねる技――《牙折り》を使えるディックの閃光と見間違う超スピードの突きである。

 

「悪いが止まってはやれんのでな!!」

 

 倒れないように踏ん張ろうとする夢人の隙をつき、ディックは地面を蹴り出す。

 鞘から完全に飛び出していく剣を無視して、ディックは手に残った鞘で夢人の左側頭部――赤黒い右腕から最も遠い場所を殴打する。

 顎を突き上げられた影響で意識が遠のいていた夢人はこれを避けることができず、体を大きく揺らして倒れそうになってしまう。

 だが、ディックは夢人が倒れることを許さず、前かがみに倒れてきたその左肩を思いっきり足裏で蹴り飛ばす。

 

「っ、チャンス到来ですの!!」

 

 まるで転がる空き缶のように大きくディックから離れた夢人を見て、がすとは溜めていた魔力を解放する。

 それは光の柱となって地面に転がる夢人に降り注ぐ――がすとのオリジナル魔法《フォルクスリート》。

 全てが夢人に叩きつけられ、大量の砂塵が舞い上がる。

 

「っ、そこだああああ!!」

 

 砂ぼこりの中によろよろと立ち上がる人影を見ると、日本一は一目散に飛び出した。

 ここで畳みかけて気絶させようと、飛び蹴りを浴びせようと跳躍する。

 

「……あれ? って、うわあああ!?」

 

 だが、そんな日本一の蹴りは夢人に察知されていたらしく、ピンと伸ばした右足を赤黒い腕で掴まれてしまう。

 足首を掴まれ宙吊りにされたことに気付いた日本一は悲鳴を上げる。

 

「――なーんてね!!」

 

 しかし、驚いた表情からすぐにニヤリと笑って見せた。

 体のバネを利用して宙吊りの状態から状態を起き上がらせる。

 そして、腰に携えていた短剣“プリニーガン”を赤黒い右腕に……

 

「って、嘘ぉ!? 折れたぁ!?」

 

 ――突き刺そうとするも、プリニーガンの刃の方が折れてしまい、日本一は絶叫してしまう。

 日本一は冷や汗を垂らしながら、視線を夢人の顔へと向ける。

 案の定、赤黒い光を灯す瞳は日本一を映していた。

 

(あっ、ヤバ……)

 

「――爆ぜろ!!」

 

「っ、ぼわっ!? ……あだっ!?」

 

 最悪な予感が頭をよぎった日本一だったが、突然の爆風が彼女を救った。

 爆風に気を取られたおかげで投げ飛ばされ、日本一は背中から地面に落下する。

 

「どうにか間に合ったみたいだな」

 

「ちょっとレイヴィス!? 助けるなら、もっとちゃんと助けてよ!?」

 

「助けてもらったくせに文句を言うな」

 

 地面に転がる日本一のすぐ傍に立つのは爆発した剣を投擲した人物――レイヴィスであった。

 怒鳴りながら文句を言う日本一を鬱陶しく思いながら、レイヴィスは視線を夢人から外さない。

 

「そもそも今まで何やってたのさ!? アタシ達よりも先にこっちに来たくせに、どこにもいなくて探し回ったんだからね!?」

 

「その話は後だ。今は夢人を――っ!?」

 

 インターバルは長続きしない。

 砂塵を切り払い、夢人は真っ直ぐにレイヴィスと日本一へと迫る。

 自分達が狙いだと気付いたレイヴィスは即座にのんきに構えている日本一を突き飛ばし、己も横に転がるように夢人の正面から外れる。

 

「やれやれ、すっかりコメディーですの!!」

 

「ッ、グオッ!?」

 

 2人が左右に避けた結果、夢人の正面には回り込んでいたがすとが立っていた。

 杖を突き出し、魔法で空気を破裂させる――《おとのはのしらべ》を夢人の懐を狙って発動させる。

 弾けた空気の塊が夢人をよろめかせる。

 

「続けていくよ!!」

 

 さらに飛び出してきたのは獣の耳が生えている少女――サイバーコネクトツーであった。

 その手に持つ双剣“サイバーエッジ”を交差させたまま、夢人の懐に飛び込む。

 

「双刃乱舞!!」

 

「グオッ!?」

 

 押し込まれるように交差させたサイバーエッジを一気に横に振り抜き、流れるように左を顔、続けて右を袈裟切りのように振り抜くサイバーコネクトツー。

 それで終わらず、勢いを殺さずに体を回転させ、軽く跳躍するとともにサイバーエッジで夢人の首を挟みこむように叩き落とす。

 仕上げに持ち前の身軽さを活かし、夢人の胸を蹴り上げて空中でクルリと体を回転させて距離を取って着地する。

 正に乱舞と呼ぶに相応しい連撃だった。

 

「そして、これで終わりだ」

 

「――ッ、ガハッ!?」

 

 フラフラしている夢人に、ディックは静かに告げた。

 振り返った時には既に剣の刃が夢人の右肩に刺さっていた。

 日本一達が夢人の相手をしている間に剣を拾い、ディックはこのチャンスを待っていたのである。

 ディックはそのまま夢人を押し倒し、動きを封じるために鳩尾を膝で押さえる。

 

「アアアアアアアッ!?」

 

 ゴリッと骨が軋む音が鳴ると同時に、地面に夢人の血が広がっていく。

 悲鳴を上げてもがく夢人だが、地面にまで貫通させた刃が余計に体を傷つけるだけで終わってしまう。

 

「アア……おれ……は……」

 

 やがて力が尽きたようで、だらんと脱力しきった状態で腕を投げ出して瞳を閉じる夢人。

 それを確認し終え、ようやく安堵の息を漏らしながらディックは立ち上がる。

 

「終わったな」

 

「――って、何やってるんですの!? これじゃ、夢人が死んじゃうじゃないですの!?」

 

「むっ、始末するのではなかったのか?」

 

 やり終えた感を出すディックに、がすとは怒鳴りながら近づく。

 きょとんとするディックを見て、頭痛を覚えてしまう。

 

「違うですの!? この男はがすと達の知り合いで、出来るだけ穏便にして欲しかったですの!?」

 

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ!? 気絶しているなら、早く止血しなきゃ!?」

 

「問題ないと思うぞ。さっき思い出したが、コイツはもっと酷い怪我をしても平気で俺に向かってきたからな」

 

「……因みに、その酷い怪我をさせたのは誰ですの?」

 

「当然、俺だ」

 

「やっぱりですの!?」

 

 戦いの緊張が解けたせいか、いつもよりがすとはハイテンションでディックにツッコミを入れていた。

 しかし、サイバーコネクトツーの言う通り、ディックに問い詰めるのは後でも出来る。

 だから、がすとはすました顔をしているディックを無視して、夢人の傷口と脈を測っているサイバーコネクトツーに尋ねる。

 

「どんな感じですの?」

 

「……医者じゃないから詳しいことは分からないけど、脈はあるし、ちゃんと生きている。でも、右肩の傷口が酷いから、もしかするともう2度と動かせなくなるかも」

 

「専門的なことは医者にお任せですの。今は止血と病院へ運ぶことを優先させるですの」

 

「そうだね」

 

 やるべきことが決まれば、すぐに行動に移す2人。

 がすとは止血用のアイテムをバックの中から探し、サイバーコネクトツーは傷口を広げないようにゆっくりと剣を抜こうとする。

 

「おい、貴様」

 

「んっ、俺のことか?」

 

「他に誰が居る――貴様はいったい誰なんだ?」

 

 そんな救命活動を続ける2人を除く他のメンバー……その中でレイヴィスが威圧的にディックに問いかける。

 先程の会話から、夢人を襲ったことは簡単に推測できたからこそ、レイヴィスはディックの素性を怪しむ。

 

「答えるのはいいが、お前の方こそ誰なんだ? 銀髪に眼帯……厨2病とか言う奴か」

 

「違う!! 話を逸らすな!!」

 

「そう怒鳴るな。俺の名はディックだ。お前は?」

 

「チッ、レイヴィスだ」

 

 計算なのか素なのか判断がつかず、レイヴィスは思わず舌打ちをしてしまう。

 そんなレイヴィスを宥めようと、日本一が苦笑しながら近づく。

 

「まあまあ、レイヴィスもそんなにカッカしないで。一緒に戦った仲間じゃん」

 

「……よく知りもしない相手を仲間なんて呼べない」

 

「もー、そう言う所硬いって言うか、気難しいよね」

 

 日本一がレイヴィスの肩に手を回して頬をつつくが、反応は素っ気ない。

 苛立ちを隠そうともしていない顔を日本一から背け、レイヴィスは言い放つ。

 そんな微妙な空気の変化を気にもせず、ディックはレイヴィスに尋ねる。

 

「それでいったい何の用だ?」

 

「……さっき夢人を襲ったと言っていたが、どうしてそんなことをした?」

 

「魔王派のコイツに聞きたいことがあってな……むっ、しまった。またやってしまったか」

 

 眉をひそめながらディックは倒れている夢人に視線を向ける。

 

「まあ、今回は助かりそうだな。回復してから聞けばいいか」

 

「……おい、怪我をさせた張本人に答えてくれると思っているのか?」

 

「答えなければ答えないで構わん。元々、知っているかもしれないと考えていた程度だからな」

 

 怒気を向けてくるレイヴィスを無視して、ディックは正直に答えた。

 その態度が余計にレイヴィスの癪に障り、彼の怒りがさらに募る。

 

「それにしても不思議な男だ。獣同然の動きをしたことには驚いたが、何かの魔法なのか?」

 

「……知るか」

 

「うーん、アタシ達もどうしてあんなことになっていたのか状況がよく分かんないんだよね」

 

「そうなのか。だが何にせよ、剣を使っていた時の方がまだマシだったな」

 

 ――ピクリッ、と夢人の指がディックの言葉に反応するように動いた。

 だが、それに誰も気付かない。

 1番近くに居るサイバーコネクトツーでさえ、見逃してしまうような小さな反応だった。

 

「いやいや、夢人だよ? 絶対さっきまでの方が厄介だったって」

 

「そんなことはない。妙な動きではあったが、この男は俺の剣についてこれた。むしろ、剣を使っていた時の方が戦い辛かったぞ」

 

「……じゃあ何か? 貴様はさっきまでの夢人が弱いと言いたいのか?」

 

 冗談だと受け流そうとした日本一だったが、あまりにも真剣な顔をしているディックに開いた口が塞がらなかった。

 夢人のことはもちろん、ディックの実力も目の当たりにしたため、その言葉が信じられなかったのである。

 すると、同じように信じられず目を見開いていたレイヴィスが乱暴にディックへと問う。

 

「――ああ、弱いな」

 

(っ、よわ、い……!?)

 

 ディックの口にした単語が引き金となり、散り散りになっていた夢人の意識がまとまり始める。

 

(おれが……よわかった、から……ネプギアは……っ!)

 

 脳裏に過ったのは、ルウィーの森の中で初めてディックに出会った記憶。

 手も足も出せずにブレイブソードを折られ、気が付けばラステイションの病院で眠っていた夢人。

 もしも、あの時と……夢人は強い後悔の念を再燃させる。

 

「――うわあああああああっ!!」

 

「ちょっ、何が起きたの!?」

 

 急に叫び出した夢人に、尻餅をついてしまうサイバーコネクトツー。

 何事かと雑談していたディック達はもちろん、治療道具を両手に持っていたがすとも驚いた。

 そして、雄叫びを上げた夢人は右肩を貫通している剣を赤黒い右手で掴み……

 

「だあああああっ!!」

 

 ――刀身を圧し折った。

 いや、握り潰したと言った方が正しいかもしれない。

 2つに別れた剣の柄の方は地面へと落ち、残った右肩を貫いている方を引き抜くように夢人は立ち上がる。

 

「ハア……ハア……んぐっ!? あああああっ!!」

 

 その姿に、ディック達は何も言えなかった。

 剣を握り潰した右腕をだらりと力なく垂れ下げ、生身の左手で肩を貫く刀身を引き抜こうとする夢人を。

 肩から血を噴き出させながら刀身を放り投げ、涙を流し歯を食いしばって絶叫する様を。

 

「俺は……俺は!! 弱いままじゃいけなかったんだ!! 甘えちゃいけなかったんだ!! だから!!」

 

 夢人が何を叫んでいるのかを理解できる者はこの場に居なかった。

 しかし、その声には悲しみが溢れている。

 そんな中、似た思いを抱いた記憶があるディックは不思議とその叫びに共感してしまう。

 

「――俺はもう、弱くて負けちゃ駄目なんだよッ!!」

 

 空を仰いで夢人が叫ぶと、突然ラステイションの空が曇りだす。

 夢人の真上を中心に渦を巻くように雲が流れ始める。

 すると、雲の中心から赤い稲妻が夢人へと落ちてくる。

 

「きゃあっ!? いったい何!?」

 

「何が起こっているんですの!?」

 

 目を覆うような光と轟音、衝撃を間近で受けたサイバーコネクトツーとがすとが混乱した声を出す。

 誰もが困惑している中、雷の直撃を受けたはずの夢人が立ったまま姿を現す。

 

 ――その右腕をより禍々しく変貌させて。

 

「……これってまさか」

 

「……まだ終わってなかったみたいだな」

 

「……第2ラウンドなんて聞いてないよ」

 

 軽口を叩き合っているように見える日本一とレイヴィスだが、その表情は青ざめている。

 むしろ、平然と夢人を睨んでいるのはディックしかいない。

 

 ――まず、肘までだった赤黒い装甲のようなものが肩まで伸びていた。

 爬虫類のような手のひらはより鋭利な爪を伸ばし、甲には十字の形が浮かび上がっている。

 ディックの剣が貫いていた肩の傷穴は嘘のように消えていた。

 

「負けられない!! 絶対に負けられないんだ!!」

 

 ……戦いはまだ終わりそうになかった。

 

 

*     *     *

 

 

 ――その頃、次元を隔てたゲイムギョウ界でも危機が起こっていた。

 

「……ねえ、それって本気で言っているのよね?」

 

「ふん、私をつまらんことばかり言う女神どもと一緒にするな」

 

 ギョウカイ墓場に緊急招集されたネプギア達は、とある話をマジェコンヌからされていた。

 ユニが頬を引きつらせながら確認するように尋ねても、マジェコンヌは無情に事実を告げるだけだった。

 

「原因は不明だが、ギョウカイ墓場のシェアエナジーが急に減少し始めている。このままいけば、ギョウカイ墓場そのものを維持できず……」

 

『維持できず?』

 

 不意に揃ってしまった相槌と共に息を呑む音が、誰の耳にも大きく聞こえる。

 

「――ゲイムギョウ界と激突する。分かりやすく言えば、この大地が4つの大陸の上に落下すると言うことだ」




と言う訳で、今回はここまで!
先ほど間違って前書きも後書きもない投稿をしてしまい、すいませんでした。
まあ、あまり意味のない部分ですが何故か毎回書いておきたいんですよね。
それでは、 次回 「鋼・鉄・復・活」 をお楽しみに!
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