超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今回はいつもより早い時間に投稿できました。
しかも、久しぶりの一万字越え!
……ここまで長くなるとは本当に思わなかったです。
それでは、 勇気をこの手に はじまります
シーンと静まり返る空気の中、私はいよいよもって目の前のこの子達が残念すぎる思考回路の持ち主だと理解させられた。
……いや、だからと言って、まったく笑える状況じゃないんだけどね。
「ね、ねぷねぷ? い、いつもの冗談なんですよ、ね?」
「ごめん。結構マジレスなんだよね、これが」
「わたしは冗談がよかったです!?」
背の高い方の彼女――確か、コンパって呼ばれてたわね――が恐る恐る尋ねると、ちっこい方――こっちはネプテューヌだったかしら――が目を泳がせながら気まずそうに答えた。
その答えを聞いたコンパは泣きそうな顔になって慌ててネプテューヌに詰め寄る。
「じゃあ、どうやってあのモンスターさんを倒すんですか!? わたし、ねぷねぷがどうやって『変身』するのかなんてまったくわからないですよ!?」
「やっぱり? いやまあ、駄目元で知ってるかなあって思って聞いてみたけど、やっぱりコンパもわかんないんだ」
「そんな他人事みたいに言ってる場合じゃないです!? 現在進行形でわたし達がピンチなんですよ!?」
「分かってる分かってる。でもね、コンパ。わたし、こう思うんだ」
焦りを隠せないコンパとは逆に、ネプテューヌの方はまるで達観しているかのように苦笑している。
すると、突然ネプテューヌは真顔になって口を開く。
「人生って準備不足の連続じゃない? 現実から目を背けて慌てるだけじゃ駄目だと思うんだ。だから、今のわたし達にできることは手持ちの手札で運命を切りひら……」
「――無駄にいいこと言う余裕があるなら、さっさと病院に行きなさい!!」
「ねぷっ!?」
したり顔で語りだすネプテューヌに我慢ができず、私はその頭に思いっきり拳を振り落とした。
……まったく、状況もわきまえずにいつまでも頭のおかしいことを言う子達ね。
大体『変身』って何のことよ?
そんなこと普通できるわけないじゃない。
そう言うのは、アニメやゲームとかの二次元で充分よ。
本当に頭が残念な子達ね。
「またぶった!? 親にもぶたれたこと……って、そうだっ!! あいちゃんはどうすれば『変身』できるかわかる?」
「はいはい、適当にベルトでも巻いてポーズ取ったり、スプーンでも掲げてなさい」
「……スプーンは間違っただけですけど」
さすがに痛かったらしく、ネプテューヌは涙目になって私に抗議してきた。
だが、それもすぐに鳴りを潜め、私までこの子達の妄想に引き込もうとしてきた。
付き合いきれない私は適当に手をぷらぷらと振って相手をすると、困った顔でコンパがどうでもいいツッコミを入れる。
正直、この子達のお遊びに付き合ってあげられるほど余裕があるわけじゃない。
むしろ、こちらに狙いを定めてきているモンスターはさっき気絶させたサンドウォーム以上に威圧感を感じる。
今まで旅してきた中で見たこともないモンスターだけど、おそらくかなり強い部類に入るモンスターだ。
今の私で……しかも、2人の足手まといと助けなきゃいけない1人がいる状況で相手をするのは難しいと言わざるを得ない。
「アーッハッハッハ!! なんだ? どうした、ネプテューヌ? 元の姿に戻らないとは随分と余裕じゃないか! そんなことでこのガーディアンに勝てるとでも思っているのか?」
「ちょっ、ちょっとタイム!? 今トラブル発生中だから、ちょっとそこで待ってて!?」
「ふん、貴様の事情など知らんな。ほーれ、コイツらも追加だ」
こっちが慌てている状況を愉快そうに高笑いする変な格好をした女に向かって、ネプテューヌはTの字をジェスチャーで作りながら訴えるけど、当然の如く受け入れられることはなかった。
勝ち誇るように口角を上げた女がさっきと同じディスクを取り出すと、またもや私達の視界が真っ白に染まってしまう。
だけど、今回は腕で顔を隠していたおかげで何が起こったのかを確認することができた。
――それは信じられない光景だった。
ディスクから光が放たれると、その光が集まりだしてモンスターに変わってしまったのだ。
シカベーダー、ゴーストガール、ゴーストボーイ、契約天使がそれぞれ3体ずつ。
小型とはいえ、一気に12体のモンスターが出現した。
まるでモンスターが倒された時に光になる現象を巻き戻しで見せられている気分だ。
今までずっとゲイムギョウ界中を旅してきたけど、こんなモンスターの現れ方は初めて見た。
……いや、むしろ、こうやってモンスターが生み出されているのかもしれないと考えてしまう。
だとしたら、モンスターはこの女が持っているようなディスクから誕生するとでも言うわけ!?
ありえないって頭ごなしに否定することは簡単だけど、それ以外に目の前で起こった現実を説明することもできない。
くっ、駄目だ。今は余計なことを考えている場合じゃない。
どうにかしてこの状況を切り抜けないと……
「うわあああ!? なんかいっぱいモンスターが増えてる!?」
「ど、どどどどうすればいいんですか!?」
――この驚いている2人を守りながら、手早く13体のモンスターを倒して、さっさとサンドウォームに飲み込まれた男の方――ゆっくんってあだ名で呼ばれてた奴――を助けなきゃいけないんだから。
まったく、どこの無理ゲーよ?
難易度が高すぎて嫌になってくるわ。
さて、ネプテューヌじゃないけど、今の私の手札でこの勝利条件を満たすのは辛いわね。
サンドウォームを逃がさないように放った魔界粧・轟炎のせいで、大分魔力を消耗してしまった。
使えて1発……いえ、小型モンスター達を倒すだけなら弱い奴2発はいけるわね。
でも、剣を持っている蜘蛛みたいな足のモンスターがいるから却下。
どんなモンスターかもわからないのに、勝負を仕掛けるのは分が悪すぎる。
そうでなくてもこっちはハンデを背負ってるんだから、そう簡単に手札をさらけ出すなんて真似はできない。
――やるなら、確実に勝てるタイミングで使わなくちゃ。
「アンタ達は下がってなさい。ここは――」
モンスターの大群を前にして戸惑う2人の前に出ると、私はすぐさま身を低くして駆けだす。
走りながらコートに隠していたジャマダハル――拳の先に刃がくるように設計された剣、所謂カタールと呼ばれる刀剣を両手に持つと、素早く目の前にいたゴーストボーイとゴーストガールを両断する。
――ザシュッ、と本来なら刺し貫くことを目的として作りであるカタールでも確かな手応えを感じると、2体のモンスターは私の目の前で光となって消滅する。
……冷静に冒険者として判断するのなら、今の私の取るべき行動は戦闘ではなく、1人で街に向かって逃走する以外に考えられない。
モンスターを召喚したディスクを持っている女の目的は、おそらくネプテューヌだろう。
どう言う関係なのかわからないけど、相当恨みを買ってるんじゃないかしら。
だから、自分の無事だけを考えるのなら、女の目的じゃない私はもしかしたら見逃してもらえるかもしれない。
この子達と会ったのもついさっきだし、この場で私が尻尾巻いて逃げても誰も文句は言わないだろう。
むしろ、勝算の低い戦いに挑もうとしていることの方が馬鹿げてるわ。
――でも、だからと言って逃げる理由にはならないわ。
あの男とこの子達は、会って間もない私のことを“信じてる”って言う程のお人好しだ。
わざと知らなくてもいい冒険者達の裏事情を話しても、この子達は当たり前のように接してくれた。
冒険者なんて根なし草の嫌われ者のはずなのに、どうしてそんな風にしていられるのかって呆れてしまうくらいだ。
私が上手いこと助けを呼んでくるとかいい方法があるとか言って逃げても、この子達は囮にされたことにすら気付かないだろう。
きっと“信じてる”って言って、頭がおかしいくせにモンスターに立ち向かっていくんじゃないかしら。
そんな呆れるレベルのお人好し達を見捨てて逃げる? ――できるわけないじゃないっ!!
そんなことしたら、私は自分で否定した冒険者紛いの連中と同じになってしまう。
ここで私を信じる3人を見殺しにしたら、“ゲイムギョウ界に咲く一陣の風”の名が廃るわ。
例え勝算の低い戦いでも、ここで逃げたら私はプライドと一緒に人間として大切なものを失ってしまう。
だから、私の選択は1つだけ。
私は2体のモンスターを両断する際、振り上げたせいでクロスさせていた腕をゆっくりと降ろす。
睨むように前を見据え、残っているモンスター達に向かってカタールの刃を向けると、私は後ろの2人にも聞こえるように宣言する。
「――私に任せなさい。こんな雑魚モンスター達なんて、すぐに片付けてあげるわ」
1人でモンスター達を倒して、3人を無事に街まで送り届ける――最初に会った時に言った言葉を実行するだけよっ!
* * *
「……う、うーん、ここは?」
目を開けても、目の前が真っ暗なことに軽く戸惑ってしまう。
何故か寝転んでいる地面もヌメヌメしてて気持ち悪い。
……えっと、俺ってどうしたんだっけ?
確かコンパがサンドウォームに食べられそうになったから、咄嗟に投げ飛ばしたんだよな。
それからまるで引っ張られるような感覚を覚えたと思ったら目の前が真っ暗になって、気付いたら何かにぶつかったんだった。
そしたら急に周りが暑くなって、シェイクされるように揺らされたから、必死にぶつかった何かにしがみついて耐えてたはず。
……あっ、その後襲ってきた衝撃のせいで地面に叩きつけられたんだ。
それで気絶してたわけか。
ってか、このヌメヌメした感触は地面じゃなくて、サンドウォームの体の中だったのかよ。
でも、起きたからと言ってどうすりゃいいんだ?
今の俺にはどっちが出口――この場合、サンドウォームの口なのかはわからないぞ。
だけど、このまま大人しくしてたら、まず間違いなく体液で溶かされちまう。
……あれこれ考えてる場合じゃないな。
とりあえず、動かなきゃ何も始まらない。
「よい――イダッ!?」
ブヨブヨするサンドウォームの体の中の感触に気持ち悪さを感じながら、起き上がろうと仰向けの体勢であった体を起こそうとしたのだが、何かが額にぶつかった。
背中に感じる不快感を早くどうにかしたいと思っていたせいで、勢いをつけて起き上がろうとしたのが仇となったみたいだ。
「イタタ、いったい何が……って、アレ? 本当に何だかコレ?」
痛む額を擦りながら何にぶつかったのかを確認しようとするのだが、本当に何があるのかがわからない。
真っ暗なせいで手で形を把握することしかできないけど、明らかにサンドウォームの体内とは違う感触に戸惑ってしまう。
ヌメヌメやブヨブヨしている肉の感触ではなく――まるで金属を触っているような感じだ。
しかも、細長い棒のような形でありながら、妙な厚みもあるし……と言うより、もしかしてコレ引っかかってないか?
ちょうど俺が通ってきたサンドウォームの食道の肉の壁と壁に細長いコレが引っかかってる。
コレのおかげで俺は、あるのかわからないけどサンドウォームの胃の中に突入することだけは防げたわけだ。
でも、この触った感触――何故か知ってるような気がするんだよな。
特にこの辺りの他の所に比べて滑りにくいところとか……って、あら?
「取れちゃった?」
思わず言葉に出してしまう程、あっさりと肉の壁と壁の間から抜けたことに目を丸くしてしまう。
そんでもって、持った感じだとやっぱり俺はコレを知ってるような気がしてくる。
と言うより、何でコレは横に伸びるようにスライドするんだ?
――しかし、深く考える前に激しい揺れが俺を襲ってきた。
* * *
「ええい、邪魔をするなら、まずは貴様から血祭りに上げてやる! やれっ!!」
2体のモンスターを倒したアイエフを憎々しげに睨みながら、魔女のような格好をしている女性は残っているモンスター達に指示を飛ばす。
すると、召喚されたモンスター達は当たり前のように女性の指示通り、アイエフへと襲い掛かる。
「ふっ、アンタらが束になってやってきたところでっ!!」
最初に跳びかかってきたシカベーダーを回し蹴りの要領で蹴り飛ばすと、アイエフはそのままの勢いで体を回転させながら次の標的である2体目のゴーストボーイにカタールの刃を突き刺す。
――グサッ、と突き立てられたカタールによりゴーストボーイは光となって消滅し、残り10体。
それでもアイエフの動きは止まらず、すぐさま視界の端に映り込んだシカベーダーに向かって突撃する。
その際、横から割り込んできた2体目のゴーストガールと3体目のゴーストボーイがアイエフの道を塞ぐ。
しかし、アイエフは冷静にそれらに対処するため、走っている体を捻って回転させる。
ぐるりと竜巻のように回転して2体のモンスターの間を通り抜けると同時にカタールで斬りつけた結果――残されたのは2体のモンスターが消滅したことで発生した光だけであった。
だが、アイエフはそれでも止まらず、真っ直ぐに標的にしていたシカベーダーに詰め寄り、逃がさないように上へと蹴り上げる。
「これでっ!!」
気合いと共に振り下ろされたカタールの刃により、空中で逃げ場を失ったシカベーダーは虚しく消えてしまう。
残り7体――次の標的を探すために周りを見渡したアイエフの目に映ったのは、こちらを攻撃しようとしている2体の契約天使だった。
(っ、しまった!?)
契約天使の体に帯電しているように青白い光が発生しているのを見て、アイエフは焦りのあまり硬直してしまう。
契約天使――耳の長い兎のような顔と丸い宝玉が特徴の、女性が召喚した4種類のモンスターの中でアイエフが知らないガーディアンと呼ばれたモンスターを除けば、唯一遠距離から攻撃することができるモンスターである。
一直線に放電するように魔法を放つことができる。
その予備動作で既に魔法を放つ準備が整っているのがわかってしまったアイエフは、頭では避けなければいけないとわかっていても間に合わないとも思ってしまい、動けなくなってしまった。
恰好の的になってしまったアイエフに、2体の契約天使は同時に電撃を放とうと……
「チェストー!!」
――したところで、横からきたネプテューヌの木刀に吹き飛ばされてしまう。
片方目掛けて振り下ろした木刀を、すぐに横に薙ぐことでネプテューヌは2体がアイエフを攻撃することを防いだのだ。
2体が木刀に殴られたダメージによって光に変わったのを確認すると、ネプテューヌはアイエフに向かってピースをしながらにかっと笑いかける。
「見た? わたしの超ファインプレー!」
「アンタ、どうして……」
木刀で肩を叩きながら笑うネプテューヌのことが信じられず、アイエフは呆然と立ち尽くしてしまう。
そんなアイエフに向かって、ネプテューヌは不満そうに眉をひそめながら両手を腰に添えて言い放つ。
「まったく、あいちゃんってば1人で突っ走り過ぎ。わたしだって、『変身』できなくてもこんなモンスターなんて楽勝なんだからさ。それにほら、コンパだって」
アイエフはネプテューヌが指さした方を向くと、そこには大きな注射器をフルスイングしてシカベーダーを壁に叩きつけているコンパの姿があった。
「えいっです!!」
可愛らしい容姿と掛け声からは想像できなかったパワフルなコンパの1面と大きな注射器の存在に、アイエフは自分の目を疑ってしまった。
だが、何度瞬きしても大きな注射器を振り回すコンパの姿は変わらない。
(え、あれ、これってつっこんだ方がいいのかしら? あの注射器とか意外と力持ちなところとか注射器とか……)
「ふふん、コンパは看護学生だからね。得意の注射器捌きでモンスターなんてイチコロなんだよ」
「――いやいや、普通の看護学生はあんなもん分回さないわよ!?」
何故か自分のことのように得意げになって話すネプテューヌに、混乱していたアイエフは思わず本音をぶちまけてしまった。
ゲイムギョウ界中を旅してきたアイエフでも、さすがに巨大な注射器でモンスターをなぎ倒す看護師は見たことがない。
すると、ネプテューヌは困ったように笑いながら口を開く。
「だよねえ。わたしも最初見た時驚いたんだけど、今の看護師は護身用にあのサイズの注射器がデフォルトなんだってさ」
「ありえないから!? あんなもん持って何から身を守るつもりなのよ!?」
「えっと、患者さん達からのセクハラじゃないかな?」
「看護師が余計に仕事増やしてどうするのよ!?」
少なくともネプテューヌよりまともだと思っていたコンパに、実は自分の常識で測れない部分があったことにアイエフの心労が積み重なる。
頬に手を添えながら曖昧に笑みを浮かべるネプテューヌの姿を見て、アイエフは頭痛を堪え切れずに額を押さえてしまう。
(駄目だ。この子達、早く何とかしないといろいろと危ない気がする)
「まあ、コンパのことはともかく、あいちゃん」
「……何よ?」
自分が何故出会って間もない2人のことをここまで心配しなければいけないかと思うと同時に、それでも見捨てられない気持ちも存在し、アイエフの頭痛は酷くなる一方だ。
そんな葛藤に頭を悩ませるアイエフは当然不機嫌になり、自分のことを呼んだネプテューヌをぎろりと睨んでしまう。
しかし、ネプテューヌは睨まれているのにもかかわらず、柔らかく口元を緩める。
「あいちゃんがわたし達のことを助けようとしてくれるのは嬉しいよ。でもね、わたし達だって戦えるんだからさ。パパッと一緒にモンスター達を倒して、早くゆっくんを助けよう」
「アンタねえ……はあ、怪我しても知らないからね」
「大丈夫! わたし、この戦いが終わったら……」
「要らんフラグを立てようとするなっ!!」
一緒に戦おうとするネプテューヌの言葉に、アイエフは呆れを感じながらも頬が緩んでしまう。
素直に嬉しいという気持ちを口に出せずにいたアイエフはそっぽを向いてぶっきらぼうに返すが、すぐにまたもやふざけたことを言いだしたネプテューヌを怒鳴り睨みだす。
だが、上がった株をすぐに暴落させたネプテューヌの行動のおかげで、アイエフは気負っていた心が楽になるのを感じた。
アイエフにとって不本意ではあったが、ネプテューヌのおかげでいい具合にガス抜きをすることができた。
力んでいた肩の力がすっと抜け、アイエフは余裕が感じられる笑みを浮かべる。
「ったく、こんな状況でふざけたことを言うなんて、どう言う神経してんのよ」
「いやあ、わたしってばシリアス苦手だし、パーティーのリーダーはゴーイングマイウェイな方が良いに決まってるでしょ?」
「いつ私がアンタ達のパーティーに加入したのよ……まあ、いいわ。それじゃ、アンタはあの子と一緒に小さい方を頼むわ。私があのでかい奴を仕留めるから」
どうでもいいことを尋ねてくるネプテューヌに苦笑しながら、アイエフは手早く指示を出す。
顎をしゃくって戦ってるコンパの救援に向かえとネプテューヌに伝えると、アイエフは少し離れた位置でこちらの隙を窺っているガーディアンを相手にするために腰を低くする。
「ちょっ、アイツの相手はリーダーで主人公のわたしが……」
「はいはい。それじゃ、リーダーで主人公なアンタには私の露払いを頼むわね」
「それおかしいから!? ボスを仲間に任せて雑魚を叩く主人公なんてありえな……」
「来るわよっ!!」
「え、来るって……ねぷっ!?」
勝手に決められた作戦に抗議していたネプテューヌであったが、さすがにそこまで長くは話していられなかった。
3体目の契約天使をコンパが押さえている間に残りの小型のモンスター――3体目のシカベーダーとゴーストガールが2人に襲いかかって来たのだ。
2体のモンスターの強襲がわかっていたアイエフが華麗に避けながら注意を飛ばすが、反応が遅れてしまったネプテューヌは慌てて跳び退ることしかできなかった。
「もー、今パーティーのリーダーとしてまさかの仲間のストライキに猛然と抗議していたって言うのに! よくもやってくれたねっ! うりゃあああ!!」
八つ当たり気味にネプテューヌがモンスター達に怒りをぶつけている間に、アイエフは当初の予定通りガーディアンへと駆けだす。
しかし、ガーディアンはアイエフが迫って来ていると言うのに静かに剣を構えるだけで、迎撃の体勢で待ち構える。
(やっぱり、見た目よりも理知的みたいね)
小型のモンスターと共に襲い掛かって来なかったことから、ガーディアンにはある程度考える知恵があることを想定していたため、アイエフは慌てることなくどう対処するのかを思考する。
獣のように襲ってくるモンスターであればその隙を狙うことができるのだが、理知的に考えて行動するモンスターの場合はそれが難しい。
しかし、だからと言って後手に回ってしまうと、万全な体勢のガーディアンに比べて自分が振りだと言うこともアイエフは理解している。
そのため、アイエフの狙いは1つ――一気に懐に飛び込んでの接近戦。
でかい図体と剣では小回りが利かないだろうと予測し、以前ネプテューヌがつけた十字傷にカタールを突き刺す作戦だ。
いくら強そうな雰囲気を纏っていたり知恵があろうとも明確に存在する弱点を突けば倒せるはずだと、冒険者として危険なモンスターとも戦ったことのあるアイエフの経験が導き出した答えである。
ただ、実行するために邪魔だった小型モンスターもネプテューヌとコンパに押さえてもらっている今、アイエフの邪魔をするものは存在しない。
魔女のような格好をしている女性も、ガーディアン達モンスターに戦闘を任せて後ろに下がったままだ。
(このチャンス、絶対に逃がさないっ!!)
障害が全てなくなったと判断したアイエフは、さらに身を屈めて加速する。
迎撃態勢で待ち構えていたガーディアンが攻撃範囲にアイエフが入ったのを確認した瞬間、狙いを定めて剣を振り上げる。
――その瞬間を狙い、アイエフは一気に跳躍する。
剣を振り上げたことでがら空きになった胴体目掛けて、アイエフは一気に距離を詰める。
懐に入ってしまえば、剣は怖くない。
もう片方の腕への注意を怠らなければ、確実に胸の十字傷にカタールを突き刺すことができる状況をアイエフは手に入れた。
(もらったっ!!)
空中に浮かぶ自分に伸びてくるガーディアンの腕をカタールの刃で受け流しながらも、アイエフの動きは止まらない。
跳び込んだ勢いのまま、ガーディアンの胸にある十字傷目掛けて近づいていく。
――だが、その時アイエフを予想もしなかった場所から襲う存在があった。
「なっ!?」
アイエフは自分が何かに激突して吹き飛ばされているのが信じられなかった。
小型のモンスター、ガーディアンの剣と腕、魔女のような格好をしている女性でも無理な位置から攻撃を受けたのだ。
(何で真下から!?)
……そう、アイエフは真下から飛び出してきた何かに激突して吹き飛ばされてしまったのだ。
考えられるのは魔女のような格好をした女性が何らかの魔法を行使したことだが、そんな予備動作はまったく感知できなかった。
それに、懐に飛び込んだ段階で全神経を集中させて周りを警戒していたアイエフが見逃すはずがない。
頭を疑問が埋め尽くすだけでアイエフは、まったく答えを出せない。
……だが、その疑問もアイエフが視線を少しだけ下に落とすだけで解消する。
(口、ですって!?)
――そこにあったのは、ガーディアンの2つ目の口であった。
尖った犬歯のようなものがガーディアンの腹部の下にあることは分かっていたが、アイエフはそれが開くと思っていなかった。
だが、今その口は開かれており、アイエフを襲ったものの正体がそこから吐き出されたのは明白である。
「くっ、あうっ!?」
『あいちゃん!?』
ガーディアンの2つ目の口から吐き出された何かによって地面に叩きつけられたアイエフの悲鳴を聞き、ネプテューヌとコンパは慌てて駆け寄った。
既に小型モンスターは退治し終えており、後はアイエフがガーディアンを仕留めるのを待っていたのである。
「あわわわわ!? あいちゃんがモンスターの下半身から飛び出した白くてドロドロした粘液をぶっかけられちゃったよ!?」
「こらーっ!? 変な言い方するな!?」
ネプテューヌの言い方に語弊はあるが、実際にアイエフの体は白い粘液――蜘蛛の糸のようなもので地面に磔にされていた。
怒りと羞恥で顔を真っ赤にさせたアイエフがいくら起き上がろうとしても、粘り気のある蜘蛛の糸が動きを阻害して立ち上がることすらできない。
「アーッハッハッハ!! 後もう少しと言うところで残念だったな。それ、ネプテューヌともう1人も早く捕まえろ!!」
「キシャアアアアアアアア!!」
「っ、ねぷねぷ危な――きゃあああっ!?」
「っ、コンパ!?」
高笑いする女性の指示通り、ガーディアンが再び第2の口から蜘蛛の糸による弾丸を吐きだそうとしているのを見て、コンパは慌ててネプテューヌを突き飛ばした。
そのおかげでネプテューヌは蜘蛛の糸から逃れることができたが、代わりにコンパがアイエフと同じように地面に磔にされてしまう。
「チッ、邪魔が入ったか。だが、次は外さん。やれっ!!」
「キシャアアアアアアアア!!」
「くっ、早く逃げなさいっ!?」
「ねぷねぷっ!? 逃げてくださいっ!?」
「そ、そんなこと言われてもっ!?」
狙いをコンパに邪魔されて不機嫌そうに舌打ちをする女性であったが、すぐにガーディアンへと再度命令を下す。
アイエフとコンパは、せめてネプテューヌだけでも逃げてもらおうと必死に声を張り上げて叫ぶ。
だけど、2人――サンドウォームに食べられた夢人も含めて3人を見捨てて逃げることができないネプテューヌはどうしていいのわからず、その場に残って蜘蛛の糸を回避しながらチャンスを窺うことを選択する。
「おっと!? 何のっ!? ちょっ、危なっ!?」
「ええい、ちょこまかと逃げるなっ!!」
「そ、そんなこと言われて捕まるわけな――って、へぶっ!?」
何度も飛んでくる蜘蛛の糸の塊を、ネプテューヌは時に背中を反らしたり、時に屈んだり、時にギリギリのスウェーで避けながら跳び回る。
それに苛立ちを感じた女性の言葉に、苦しそうな顔をしながらも律儀に反応せざるを得なかった性格のせいで、ネプテューヌは誤って地面に付着した蜘蛛の糸を踏んでしまった。
急に上がらなくなった足のせいでバランスを崩し、ネプテューヌは鼻から地面へと激突してしまう。
「この馬鹿っ!! 何ドジ踏んでんのよ!!」
「そ、そんなこと言わなくても……」
「ふ、2人とも今はそれどころじゃないですよ!?」
逃げろと忠告したにもかかわらず、自分達と同じように蜘蛛の糸に捕まってしまったネプテューヌに、アイエフは青筋を立てながら怒鳴ってしまう。
赤くなった鼻を擦りながらネプテューヌが力なく釈明しようとする言葉を遮り、コンパは2人に注意を促す。
しかし、その忠告は遅かったようで、魔女のような格好をした女性は嫌らしく口の端を吊り上げながら、ゆっくりとネプテューヌへと近づいていく。
「クックックッ、運がなかったな、ネプテューヌ……さあ、もう逃げられないぞ。覚悟してもらおうか」
「わ、わたしにいったい何をするつもりなの!? ――っ、まさかわたしの体目当てなの!? わたしにそっち系の趣味はないんだからね!? エロ同人みたいなことをするのはやめてっ!?」
「違うわっ!! 誰が貴様にそんなことをするかっ!! ……ふん、だがその減らず口も今日で聞き収めと思うと心地よいものだな。さらばだ、ネプテューヌ」
逃げられない状態になっても平常通りのネプテューヌに、女性は眉を吊り上げて激怒するが、すぐにその態度を鼻で笑う。
嬉しそうに頬を吊り上げながら人差し指をネプテューヌに向けると、女性の瞳が一瞬怪しい赤色に染まる。
すると、指先にも赤い光が発生し、ネプテューヌに向かって……
「ゴオオオオオオオオオッ!!」
――赤い閃光が発射される前に、地響きと共にサンドウォームが気絶から目覚めた。
「こ、ここに来てさらにピンチが追加されたー!?」
「っ、チッ、今は貴様に構ってる暇はないっ!! さあ、ネプテューヌッ!! 貴様の力をっ!!」
「ゴウエッ!!」
『……はっ?』
気絶から目覚めたサンドウォームまで暴れ出したらと思い、ネプテューヌは顔を青くして叫んでしまう。
一瞬、女性は先にサンドウォームの方を始末しようとも考えたが、ネプテューヌが身動きの取れない千載一遇のチャンスを天秤にかけ、先に自分の目的を果たそうと指先から赤い閃光を照射する。
――だが、赤い閃光は次の瞬間、ネプテューヌと女性の間にサンドウォームが吐きだした物体にぶつかってしまう。
さすがにこれは誰も予想していなかったため、全員が呆けた声を上げてしまった。
サンドウォームから吐き出された物体――奇しくも、女性からネプテューヌを救った夢人は赤い閃光を受けながら地面へと落下した。
「ぐえっ!? イタタタ……外に出られたのはいいけど、いったい何がどうなってるんだ?」
「ゆっくん!? 無事だったの!?」
「おう、なんとか……って、お前は何してんだよ?」
手を添えながら頭を振って状況を確認しようとする夢人に、ネプテューヌの驚いた声がかけられた。
答えながら振り返ると、夢人は不自然に足が伸びた状態で倒れているネプテューヌを不審に思い、眉をひそめてしまう。
「見てわかるでしょ!? 今、わたし動けないの!? って、それよりゆっくん何か光に撃たれてたけど、体は大丈夫なの!?」
「えっ? 別に何ともな……うん?」
今までサンドウォームの体の中にいてどんな状況になっていたのか知らない夢人に言ってやりたいことはいっぱいあったが、1番にネプテューヌは女性から放たれた赤い光を受けた体を心配した。
しかし、ネプテューヌの心配をよそに、夢人は特に体に異変を感じていなかったが、代わりに不思議そうに右手首に巻かれたブレスレットを凝視してしまう。
今までは外の光を受けて紫色に輝くだけだったブレスレットの水晶が淡く光りだしていたのだ。
(これってもしかして……)
「何度も何度も邪魔ばかり入りおってっ!!」
自発的に光っているように見えるだけでなく、どこか熱を発しているブレスレットのことを考える夢人であったが、その思考は突然響いてきた女性の怒声によって遮られてしまう。
女性は血走った眼で夢人を睨みながら指を指してガーディアンへと指示を出す。
「ガーディアン!! その邪魔な男を殺せっ!! 八つ裂きにしてしまえっ!!」
「キシャアアアアアアアア!!」
女性の指示を受けたガーディアンは顔を仰け反らせて雄叫びをあげると、ゆっくりと夢人へと近づいていく。
それに焦りを感じたネプテューヌ達は慌てて叫んでしまう。
「っ、ゆっくん早く逃げて!?」
「……それに、これって……やっぱり、そうだっ! だったら……っ!」
「ちょっと!? アンタ何しようとしてんのよ!?」
「逃げてください、ゆっくんさん!?」
だが、夢人は慌てた素振りを見せることなく、サンドウォームの体内から自分が持ってきたものの正体を確かめると、軽く頬を緩めながら立ち上がる。
逃げるためではなく――ガーディアンからネプテューヌを守るように。
この行動に慌てたアイエフとコンパが急いで逃げろと叫ぶのだが、夢人は逃げようとせずに真っ直ぐにガーディアンを見据える。
「なあ、ネプテューヌ。前に言ってたよな、今が駄目でもこれから俺の良さを見せつければいいって」
「そんなことはいいから!? ゆっくんは早く……」
「その時が意外と早く来たみたいだ。まあ、見てろって!!」
にやりと笑った夢人はサンドウォームの体内から持ち出した物体――剣を鞘から抜き去り、切っ先をガーディアンへと向けた。
……それは西洋剣のバスタードソードに分類される剣であった。
だが、刀身には赤さびが目立ち、刃毀れも酷い状態である。
とてもではないが、剣の本分である斬ることも突くこともできそうに見えない。
夢人以外の全員がそう判断した瞬間――目を覆う程の強烈な光が発生する。
光の発生源は夢人の持っている剣。
黄金色の光が魔窟内を埋め尽くす中、夢人の握っている剣に変化が起こる。
――錆びていた刀身は、内側から黄色、赤、白い鋼色の輝きを放つものに。
――鍔の部分は、燃え盛る炎のような意匠へと。
――見る者すべてに圧倒的な存在感を振りまく、その剣の名前は……
「ブレイブ――お前の魂、もう1度使わせてもらうぞ!! 皆を守るために!!」
今は別世界にいる友のゲイムギョウ界を守る正義を貫く魂――ブレイブソードを両手に構え、夢人は力強く宣言した。
……その右手首に巻かれているブレスレットの水晶の数を1つ減らしながら。
と言う訳で、今回はここまで!
ようやく出せました!
いやもう、サブタイで予想付いていた方もいたんじゃないでしょうか。
今作においての魔法が使えなくなった夢人君の武器、ブレイブソードをようやく登場させることができました。
いつまでも役立たずにしておけませんからね。
それでは、 次回 「再会は新しいトラブル」 をお楽しみに!