超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
ちょっとサブタイトルは変更させていただきました。
それでは、 心労×教会×依頼 はじまります
「助けていただいて本当に感謝していますわ――一時はどうなるかと思いましたけど」
「うぐっ!?」
夢人達と金髪碧眼の青年――シンの助けもあり、無事にスライヌ達を追い払えたことを確認した若草色の髪の少女は安堵の息を漏らしながら全員にお礼を言った。
しかし、すぐにぼそりと付け足すように夢人のことをジト目で見ながらつぶやく。
少女の非難するような視線に心当たりがある夢人は思わず顎を引いて低く声を出してしまう。
実際にスライヌ達を退治して少女を救ったのはネプテューヌとアイエフ、それにシンの3人である。
そんな中、唯一夢人だけが何もできずにただスライヌにやられていたのだ。
ここでネプギアとコンパは動けなかった自分の護衛をしていたので、少女は2人のことを役立たずと思っていない。
だからこそ、少女は夢人のことを厳しい目で見てしまう。
ブレイブソードと言う見るだけで立派とわかる剣を持っているのにもかかわらず、何もできずにスライヌにやられた夢人の評価は少女の中でかなり低いものになっていた。
「申し遅れましたが、私はミモザと言いますわ。とある理由で見聞を広めようと飛び出したのはいいのですが、まさかあのようにモンスターに襲われるとは思っていなかったので本当にありがとうございますわ」
(うーん、ちょっと訳ありっぽい感じかしらね)
少女――ミモザの自己紹介を聞いて、アイエフは何か事情があるのだと推測する。
それはミモザが1人でいたことや旅の目的をぼかしていることも理由ではあるが、何よりその服装と立ち振舞いがアイエフの頭に引っかかったのだ。
ミモザの服装は白いブラウスに真っ赤なロングスカート、さらに茶色のショートブーツとおよそ旅をする装いではない。
ただ、それを言ってしまえば自分達も旅をする服装ではないとアイエフもわかっている。
ネプテューヌのパーカーワンピースやネプギアのセーラーワンピース、コンパのセーターにミニスカート、夢人のシャツにジーパン姿なんて旅をしているとは到底思えない服装だ。
加えて冒険者と自称したシンも杏色のミリタリージャケットと紺色のスラックスなので、そこまでこの場においてミモザの服装が浮いているわけではない。
だが、その言葉遣いと所作にアイエフは旅慣れをしていない雰囲気を察知したのである。
モンスターに襲われるかもしれない旅をしているのに、武器を携帯している様子はない。
かと言って、ミモザが魔法を使えるのならスライヌから逃げ惑う必要もない。
仲間がやられて逃げ出すようなモンスターなのだ。
魔法で少し数を減らせば、すぐに力量関係を悟ってスライヌ達も襲ってこなかったはずである。
つまり、ここまででミモザには自衛手段がないとアイエフは判断したのだ。
――自分の身を守る方法を持っていない。
――旅をする目的も詳しく話そうとしない。
――ある程度教養のある丁寧な言葉づかい。
――しかも、冒険者なら絶対に口にすることがない旅を甘く見ているような発言。
助けたことをアイエフは後悔していないが、ミモザのことを厄介な事情を持っていそうな相手だなと思ってしまう。
(……まあ、この子達に付き合って旅をするって決めた時点で今更よね)
ミモザに対する推測を巡らせていたアイエフであったが、自分が既に充分厄介な事情に片足を突っ込んでいることを思い出して苦笑してしまう。
各大陸にあると思われる鍵の欠片を探してゲイムギョウ界を旅する――なんて目的はあるが、アイエフはまだ完全に夢人達を信用したわけじゃない。
何故なら、夢人達と出会ってからまだ2日目なのである。
しかも、自分達は別のゲイムギョウ界からやって来たとか、記憶喪失だといくら夢人達に言われてもアイエフは信じられない。
明確な証拠もないのに、おいそれと荒唐無稽な話を信じられるわけがなかった。
そんなアイエフが夢人達と一緒に旅をすると決めた理由は2つ――ディスクからモンスターを呼びだした女性のことと鍵の欠片を通じて聞いた声の主の正体を確かめるためである。
今まで旅してきた中で、アイエフはディスクからモンスターが召喚された現場を見たことがなかった。
しかも、モンスターを使役する人物がいるなど夢にも思っていなかったのである。
だからこそ、アイエフはモンスターを召喚したディスク――エネミーディスクと名付けたディスクを扱った女性を追うことにしたのだ。
冒険者である前にゲイムギョウ界に住む一人の人間として、ガーディアンのような強力なモンスターを使役できるアイテムを持っている危険人物を野放しにすることは、アイエフの正義感が許さなかったのである。
加えて、鍵の欠片を通じて助けを求めてきた人物――仮称チェアーさんを見捨てることもできず、アイエフは2人を結んでいるネプテューヌと共に行動することを決めたのだ。
……そこに危なっかしく見える夢人達を放っておけないアイエフの優しさもあるのだが、それを素直に口に出すことはせずに仕方なくとポーズをとっている。
アイエフ自身も夢人達が悪人であることはわかっているが、無条件で信頼するには彼らの人柄を理解していないのだ。
しかし、疑ってかかってしまうことを冒険者と言う職業柄仕方ないと思いつつも、アイエフはわり切れずに少しばかり胸を痛めていた。
その痛みを自覚していながらも、今のアイエフには自嘲的な笑みを浮かべて諦めにも似た心境でいることしかできない。
逃避や自分の気持ちを誤魔化しているだけだとわかっていても、夢人達が信頼できるまでアイエフは葛藤し続ける。
ミモザの登場は、そこにまた1人訳ありの人物が加わっただけだと思うことにしたのである。
当然、突然現れたシンに対する警戒も怠らない。
夢人を助けてもらった感謝はあるが、それがすぐに信頼に繋がるわけではない。
アイエフの顔に浮かべられた苦笑は、そんな風に深く考え込んでしまう自分への自嘲が込められていた。
「いいっていいって。そこのシンって人も言ってたでしょ? 困っている人がいたら見過ごせない主人公タイプな性格しているんだよね、わたし達も――っと、そうだった。わたしはネプテューヌ。そんでもって、こっちが……」
「わたしはコンパと言うです。大きな怪我もしていないみたいでよかったです」
「あ、私はネプギアって言います。よろしくお願いしますね、ミモザさん」
「……ネプ、ギア?」
誰にも言えない心境を押し隠しているアイエフが息苦しさを苦笑をすることで誤魔化していると、ネプテューヌ達がにこにこと笑いながらミモザへと自己紹介をしていく。
アイエフが浮かべた表情の意味を悟られていないことに内心で安堵していると、ミモザがネプギアを眉をひそめて見つめていた。
シンやネプテューヌ、コンパの時とは違う反応にネプギアも軽く驚いてしまう。
「あ、あの、私がどうかしましたか?」
「……いいえ、何でもないわ。これからよろしくね、ネプギア」
「は、はい」
その反応に戸惑うネプギアが尋ねると、ミモザは先ほどまで浮かべていたいぶかしむような顔を一変し、柔らかくほほ笑みながら握手を求めた。
どこか釈然としない気持ちでいながらも、ネプギアはミモザに応えて2人は握手を交わす。
すると、2人の様子を見ていたネプテューヌが口の端を尖らせて不満をこぼす。
「ブーブー、よろしくするのはネプギアだけなの? せっかくこうして出会ったんだし、わたしとも仲良くしようよ。今なら、無料でわたしのとびっきりのスマイルもつけちゃうよ! ほら、ラステイションへの道でわたしと握手! ってさ」
「それで、そちらの方達の名前はなんて言うんですか?」
「華麗にスルーされた!?」
自分をアピールするように大げさに両腕を開いて握手を求めるネプテューヌを、ミモザは敢えて無視して夢人とアイエフへと話しかけた。
聞こえも目の前に差し出した手も見えているはずなのに無視されたネプテューヌは大声で叫んでしまう。
ちょっとぎこちなく思えた2人の間に流れる空気を変えるために冗談半分でやったとはいえ、ネプテューヌもさすがにミモザの完全無視には心がちょっぴり傷ついてしまう。
「私はアイエフ。この子達のお守り役と思ってくれればいいわ」
「で、最後に俺は御波夢人だ。よろしくな、ミモザ」
「――っ、そうですか。よくわかりましたわ」
夢人の名前を聞いた瞬間、ミモザの片眉がピクリと動いた。
だが、ミモザはネプギアの時のように反応せず、まるで張り付けたような綺麗な笑顔のままで口を開く。
「改めて、お礼を申し上げますわ――そこのブ男以外は」
「ぶ、ブ男!?」
輝くような笑顔でネプテューヌ達にお礼を言ったと思えば、ミモザはすぐさま蔑むように夢人に向かって毒を吐いた。
名乗ったはずなのに名前で呼ばれないばかりか、ブ男呼ばわりされて夢人は大いに慌ててしまう。
「ちょっ、何で……」
「耳が汚染されるから話しかけるんじゃないわよ――差し出がましいのですが、ラステイションの街まで私も同行してもよろしいでしょうか? またモンスターに襲われると思うと、怖くて怖くて……」
「そんなことあるわけないだろ!? ――てか、おい無視するな!?」
「ま、まあまあ、落ち着いてください御波君」
その豹変ぶりに夢人同様に驚いて硬直していたネプテューヌ達であったが、ミモザの態度は変わらない。
明らかに夢人にだけ侮蔑の視線を送って毒を吐くと、次の瞬間にはネプテューヌ達にしおらしい態度で同行することを願い出た。
いくら助けようとして逆にスライヌにやられていたとはいえ、そこまで言われる筋合いはないとさすがに我慢の限界を迎えた夢人が声を上げるが、ミモザは素知らぬ顔で無視し続ける。
悔しそうにミモザを睨む夢人を宥めるシンに心の中で応援をしながら、アイエフはため息をついてしまう。
(はあ、早々に厄介なことになりそうね)
ミモザの夢人に対する態度に、アイエフはさっそく悪い予感が当たったと思ってしまう。
アイエフにしてみても、ブレイブソードを持っていたにもかかわらずスライヌごときにやられてしまった夢人に思うことがないわけじゃない。
だが、敢えてミモザのようにあからさまな態度で貶すつもりもなかった。
いい意味で言えば素直、悪い意味で言えば空気が読めていないミモザの発言にアイエフが頭を痛めていると、夢人への態度の変化に硬直していたネプテューヌとコンパが騒ぎ出す。
「ちょっとちょっと!? さすがに助けてもらったのにブ男呼ばわりはないんじゃないの!! 確かにゆっくんはイケメンじゃないし、かっこ良くもないへたれ系の女装趣味をしている変態さんだけど、ブ男と言われるくらい醜くはないよ!!」
「そうです!! ゆっくんさんの顔は可もなく不可もなくって感じなんです!! だから、ブ男は間違ってるですよ!!」
「お前ら、フォローする気ないだろ!?」
2人ともミモザの夢人に対するブ男呼ばわりを撤回しようと擁護しているのだが、微妙に論点がずれていた。
間違いなくブ男の部分は否定しているのだが、2人とも嘘をつけない性格をしているために事実しか語っていない。
散々パッとしないだの気持ち悪いなどと言われ慣れている夢人であっても、擁護してくれている2人からの事実故に否定できない出来事を暴露されたことに泣きそうになってしまう。
もちろん夢人は2人に悪気があるわけじゃなく、むしろ自分のためにミモザに言ってくれていることは分かっているし感謝もしている。
しかし、夢人はそれでもこの場で自分の犯した過ちを初対面のミモザとシン、そして思い人であるネプギアの前で晒して欲しくはなかったと思ってしまっていた。
実際、傍から聞いていたシンの頬は少しだけ引きつっており、夢人から1歩下がっていた。
「……確かに、少し感情的になっていましたわ」
「うんうん、分かってくれたならそれで……」
「ですが、私はそこのブ男を認める気はありません――さあ、いつまでもこんなところにいないで先を急ぎましょう」
「って、全然わかってないじゃん!? というより、勝手に先に行っちゃってるし!? 待ってってば、おーい!?」
ミモザは2人の言い分を聞き、少しだけ思案するように瞳を閉じた。
すると、次の瞬間申し訳なさそうに沈んだ声で話しだす。
そのことにネプテューヌが満足そうに頷いていたのだが、それでも目を見開いたミモザはやはり夢人のことを鋭く睨むように見つめてしまう。
キッと夢人を睨むと、ミモザは言いたいことを終えたと言わんばかりにネプテューヌ達に背中を向けてラステイションの街の方へと1人で歩いていく。
結局意見を変えなかったミモザに驚愕していたネプテューヌだが、すぐに追いかけて話を聞こうとする。
だが、ミモザはネプテューヌに話しかけられながらも全く答える様子もなく、ただただラステイションへの道を歩いて行くだけである。
「あー、あんまり気にしない方がいいと思うよ」
「ゆっくんさんは絶対にブ男じゃないですから。ちゃんと見れる顔ですから安心してくださいです」
「……うん、2人ともありがとうな……はあ」
「夢人さん……」
スタスタと先に行ってしまったミモザのせいで嫌な雰囲気が漂っていたが、気まずそうな顔で夢人を慰めるシンに続いてコンパも優しく微笑みながらフォローを入れる。
しかし、2人の気づかいはありがたいと感じている夢人であったが、さすがにミモザのあの態度に傷ついたことを隠せずに乾いた笑みを浮かべてため息をついてしまう。
唯一何も言わずに黙っていたネプギアだが、肩を落として落ち込む夢人のすぐ傍に寄って手を重ねると、ミモザの後ろ姿に険しい目線を送っていた。
言外に夢人を侮辱したミモザを許さないと言っているように思え、アイエフはこのままこのメンバーと行動を共にしていいものかと考えてしまう。
改めて、ここにいるメンバーの厄介さを思い知ったからである。
――記憶喪失だか何だか知らないけど、ハイテンションで騒ぎまくる別世界で女神をやっていたらしいネプテューヌ。
――看護学生に必要ないほど大きな注射器を振り回す天然のコンパ。
――ブレイブソードと言う立派な剣を持っているのに満足に戦えない夢人。
――突然光と共に現れた夢人のこと以外すべて忘れてしまったらしいネプギア。
――夢人にだけ悪態をつきまくる謎の多いミモザ。
……まだコンパは許容範囲だが、それ以外がアイエフの頭を悩ませる。
つい先ほど出会ったばかりのシンがアイエフには1番まともに見えてしまう。
(……やっぱり、早まったかも)
今朝の決断に後悔しながら、アイエフはきりきりと痛むような気がする腹を押さえてしまう。
だが、今更夢人達と別れるとは言い辛く、アイエフの苦悩は続いていく。
ただアイエフにできることは、これ以上頭を悩ませる出来事が起きないで欲しいと願うことだけであった。
* * *
ちょっとしたトラブルもあったが、無事にラステイションの街に到着した夢人達はすぐさま教会へと足を運んだ。
どこにあるかもわからない鍵の欠片を無暗に探すのではなく、まず教会で何か情報があるかどうかを確認しようとしたのである。
「こんにち……」
「何だ貴様らは。ここは貴様らのような連中が遊びに来る場所じゃない。さっさと帰れ」
――教会の中に入ろうとした矢先、入口にいた仏頂面の職員に門前払いをくらってしまった。
これには元気よく手を上げて挨拶をしようとしたネプテューヌも笑顔のまま固まってしまう。
「え、えっと、ちょっとだけ聞きたいことがあるんですけど……」
「そんなことは知らん」
「あの、せめて話だけでも……」
「知らんと言っている。貴様らの話を聞いてやるほど教会は暇じゃない」
有無を言わせずに言い放つ職員の態度に怯えながらも、コンパは何とか鍵の欠片の情報を知るために食い下がろうとした。
だが、職員はまったく取り合おうとしない。
それでもシンが話を聞かせてもらおうとすると、職員はあからさまに眉間に刻まれているしわを深くした。
すると、用は済んだと言わんばかりに夢人達に背中を向けて教会の中に入っていこうとする。
「お待ちなさい。それでも女神様に仕える教会の職員なのですか? そんな恥知らずな態度で女神様のために働いているなどとよく言えますわね」
「アンタみたいな器量のない職員がいるんじゃ、ブラックハート様も大したことないみたいね」
わざと聞こえるように挑発染みたことを職員へとミモザとアイエフは言った。
女神に敬意を払っている教会の職員なら、絶対に黙ってはいられないことだ。
これで怒って反論するならば、当初の予定と違って円満とはいかないが話を聞けるかもしれないと思ったからである。
そのために少しでも職員と話を長引かせる必要があり、2人は敢えて目の前の職員とラステイションの女神であるブラックハートを貶すような言い方をしたのだ。
「それがどうした。貴様らがなんと言おうが、痛くも痒くもない――話はこれで終わりだ。いつまでもそんなところにいないで、さっさと立ち去れ」
だが、職員は顔色一つ変えずに2人の挑発を受け流すと、教会の中へと入ってしまう。
その対応に唖然となる夢人達だったが、すぐに眉をひそめたアイエフが全員に声をかける。
「……仕方ないわね。1度帰りましょう」
アイエフの提案に誰も反対することなく、夢人達は1度教会から離れようとするのだが、途中でネプテューヌが不思議そうに首を傾げて立ち止まってしまう。
「あれ?」
「どうかしたか?」
「いや、ちょっと誰かに見られているような気がしたんだけど……まあ、気のせいだよね。わたし達も行こう、ゆっくん」
「おう」
急に立ち止まったことを不審に思った夢人が話しかけると、ネプテューヌは困ったような表情で人差し指を頬に添えて答えた。
しかし、すぐに首を横に振って笑顔を夢人に見せると、ネプテューヌは小走りでアイエフ達に追いつこうとする。
――教会の窓からその後ろ姿を見つめている人物に気付かないままで。
* * *
「まったく、いくら私達が他国から来たからと言ってあんな態度を取るなんて……」
「しかも、女神様を侮辱されたのに反論の1つもしないなんて……あんな奴が女神様に仕える教会の職員でいいはずがありませんわ……っ!」
「ふ、2人とも落ち着いてくださいです!?」
「お、お怒りなのはわかるんですけど、ちょっと抑えてくださいって!?」
先頭を歩くアイエフとミモザの2人が怒気を撒き散らしているため、コンパとシンが必死になって宥めている。
まあ、気持ちはわからなくもない。
俺だってあんな態度取られて気分はよくない。
いつの間にか目の前を睨むように歩いていた。
このままじゃいけないと思った俺は鼻骨を指でほぐすように揉んで、1度状況を整理しようと頭の中で今日起こったことを思い出す。
まずは何と言ってもネプギアのことだな。
朝のコンパを知らない発言に続いて、フィーナのこともわからなかったネプギアの様子に嫌な予感がしていたけど、本当に最悪な状況だった。
何故だか理由はわからないけど、ネプギアは俺のこと以外をすべて忘れていたんだ。
何で俺のことだけは覚えているんだとも思ったけど、それすらネプギアはわからないとしか答えてくれない。
……俺も記憶喪失になったことがあるから、そのことがわかってしまうのが辛かった。
俺の場合は特殊だったけど、記憶喪失になると本当に頭の中に空白ができたみたいに何も思い出せなくなるんだよな。
横にいるネプテューヌだってそうだし、ルウィーのシェアが低下したせいで昏睡状態になったロムだってそうだった。
言い方は悪いけど、ネプギアは俺達に比べるとまだマシな方だ。
自分の名前も他人である俺のことを覚えているんだから。
……でも、俺にはそれが余計に辛い。
「夢人さん? どうかしましたか?」
「ああ、いや……俺もさっきのことがちょっとな」
「そうですか。でも、1人で悩まないでくださいね――ちゃんと私が傍にいますから」
今のネプギアのことを思って俺がちょっと感傷的になっていると、その本人が心配そうな表情で顔を覗きこんできた。
すると、ネプギアは柔らかくほほ笑みながら俺の手を握ってくれる。
本当なら嬉しいはずなのに、今は少しだけ悲しい。
何故なら、きっと今のネプギアは俺以外に頼る人がいないからこんな態度を取っているのだろう。
前にリゾートアイラン島でアイエフに言われたことを思い出す。
――依存、か。
確かに、今のネプギアは臆病になっていると思う。
しきりに俺と手を繋いで、ちゃんとここにいるかどうかを確かめようとしてくる。
だけど、これが全面的に悪いことじゃないこともわかってる。
誰だってわからないことは怖いんだ。
俺がネプギアの不安を少しでも減らせるのなら、いくらでも力になろう。
……でも、俺は今のネプギアの傍にいることが辛い。
何故なら……
「もー、こんな時まで2人はラブラブしてるんだから。ヒューヒュー、お熱いよお2人さん!」
「そ、そんな……恥ずかしいですよ、“ネプテューヌさん”」
――そう、ネプギアは大好きな姉であるネプテューヌのことすら忘れていたんだ。
あんなに何度も泣いて辛い思いまでして助け出そうとしていたネプテューヌのことを忘れてしまっているネプギアの姿を見ていると、俺は少しでも浮かれていた自分を殴りたくなってくる。
これならいっそ、俺のことも忘れてもらっていた方が楽だったと思うのはきっと甘えなんだろうな。
俺はもうすでにネプギアに同じことをしていたんだから。
……パープルディスクに入っていた記憶を取り戻す前の俺と出会ったネプギアのことを思うと、今よりも残酷なことを俺はネプギアにしてしまっていたんだからな。
気がつくと、ネプギアと繋いでいる手に力がこもっていた。
でも、ネプギアは何も言わずに優しく目を細めると、俺の手をそっと握り返してくれる。
その気遣いが嬉しくもあり、申し訳なくもあり、悲しくもある俺はただギュッとこの手を離さないように握ることしかできない。
――絶対にネプギアのことを守る。
1番辛いはずなのは自分なのに、勝手に弱気なっている俺を励ましてくれるネプギアを守りたい。
いや、守れるように強くなってみせる!
アカリがいない今、魔法も使えなくなった俺だけど、この手を繋いでいるネプギアがこれ以上傷つかないように守れるだけの強さを手に入れようと決心を固める。
今になって、本当にラムや父さんと母さん達が強いってよくわかるよ。
記憶喪失になったロムや俺のことをちゃんと支えてくれたんだから。
――本当に自分が情けなくて、心が弱いことを自覚してしまう。
「ていっ!」
「あだっ!? ね、ネプギア?」
考え事に集中していると、急に額に痛みを感じて驚いてしまった。
気がつくと、目の前にネプギアが悪戯に成功したような顔で口元を綻ばせていた。
「ふふふ、いつか落ち込んでる私に夢人さんがしてくれましたよね、これ――いつまでもそんな顔してちゃ駄目ですよ」
「っ、ああ、そうだな」
心を読まれたかと思って一瞬ドキッとしたけど、俺の頬は自然と緩んでしまっていた。
ネプギアと一緒なら、何だって出来そうな気がしてくる。
惚れた弱みで単純だけど、ネプギアの笑顔を見て弱気になっていた心に力が戻って来た。
よし、絶対に強くなるぞ!
この世界の問題を解決して、ネプギアとネプテューヌの2人と一緒に必ず無事で元の世界に戻る!
そして、もう1度告白するんだ!!
頼りがいのあるところやかっこいいところを見せて、ネプギアに好きになってもらう!!
今度こそ告白を成功させて、ちゃんとネプギアと恋人同士に!!
「ウェへ、ウェへへへへへ……」
「あ、あれ? ゆっくんどうしちゃったの?」
「あ、あはは……夢人さん、時々こうなるんですよ」
ネプテューヌとネプギアが何かを言っているような気がするけど、俺は顔の締まりを元に戻せそうにない。
ネプギアとの幸せな未来を妄想すると、自然と込み上げてくる笑みを堪え切れない。
ああ、そう考えると、この繋いだ手とかデコピンされた額の熱がとても心地よく……
「――気持ち悪い笑い方してんじゃないわよ!!」
「ごぼっ!?」
……そう思っていた俺の腹部に突き上げるような拳が叩きこまれた。
目の前で展開されていた幸せな未来予想図が一瞬にして、憤怒の表情をしたアイエフへと差し替わる。
結構強く殴られたらしく、俺は痛みに膝をついてしまう。
そんな俺をアイエフはもちろん、その後ろにいたミモザも冷たい目で見下ろす。
「まったく、こっちが真剣に今後のことを考えていたら、なに気持ち悪い声だして笑ってるのよ。アンタも真面目にこれからのことを考えなさい!!」
「ただでさえ役立たずのブ男のくせに、それ以上顔を醜くさせるなんて、本当に救えないわね」
「ま、まあまあ2人とも。御波君も悪気があったわけじゃないんですから」
2人の迫力に俺は何も言うことができない。
と言うより、怖くて何も言えない!?
あの職員の態度に怒っているのはわかるけど、それを俺にぶつけないで欲しい!?
俺だって、ちゃんと今後のネプギアとのことを考えていたんだからさ!?
……まあ、ちょっと下心が隠しきれずに出てきちゃったけどね。
とりあえず、2人を宥めようとしてくれるシンには感謝だな。
シンがいなかったら、もっとボロクソ言われそうだったし。
「はあ、とりあえず少しでも情報を得るためにギルドに行くしかないかしらね」
「ギルド? ギルドってどう言うところなの?」
「ギルドは教会や街の人からの依頼を受ける場所なんですよ。だから、困った街の人達を助けながら情報を集めようってことですよね?」
「なるほど。そんな施設があるんですのね」
シンに宥められて怒りが削がれたのか、額に手を当ててため息をつくアイエフの提案に、ミモザは不思議そうに首を傾げた。
すると、コンパがすかさずアイエフの考えをミモザにわかるようにギルドの説明と共にしていく。
その話を聞いているうちは目を丸くさせていたミモザであったが、終わると納得したように首を何度も縦に振りだす。
でも、何でミモザはギルドを知らないんだ?
ギルドってどこの国にもあるんじゃないのか?
「そう言うこと――って、ギルドを知らないってことはもしかしてアンタ……」
「だったら、ギルドから依頼を受ける前に私の依頼を受けてもらうわ」
俺が疑問に思っていることも、この世界で冒険者をしているアイエフには心当たりがあったらしく、眉をひそめながら何かを尋ねようとする。
だが、ミモザはそれを遮って俺達に宣言する。
「私はラステイションで起こっている真実をこの目で確かめたい――だから、あなた達は私の護衛をしなさい」
目的を簡潔にはっきりと命令するように言い放つミモザの姿は、どこか凛々しく見えて思わず頷いてしまいそうになった。
いや、まあ断る理由もないんだけど、どうしてミモザは真実を知りたいだなんて言うんだ?
疑問に思うと同時に、不安のせいか肩に担いだブレイブソードを入れた竹刀袋の“重み”が増したような気がした。
という訳で、今回は以上!
剣の部分はまた後日……多分、2、3話後になっちゃうかもしれませんね。
その前にあの子達を登場させませんと。
それでは、 次回 「ライバル×工場×迷子」 をお楽しみに!