超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
まず、誤字報告で前回ファルコムの武器が“ドラゴンスレイヤー”と書きましたが、正しくは“ロングソード”でした。
mk2と混同してたようです。本当にすいませんでした。
しかも、今回もサブタイを変更です。
それでは、 罠×ピンチ×女の涙 はじまります
「てええいっ!!」
ブラックハートは牛鬼に向かって気合いの掛け声とともに大剣を振り下ろす。
正面から飛翔してきたこともあり、牛鬼も負けじとブラックハートの大剣に自らの武器であるハンドアックスで対抗する。
――瞬間、激しい金属音と共に大剣とハンドアックスは互いに押し切ろうと拮抗し合う。
その結果に、ブラックハートは苦い顔をしてしまう。
(くっ、私が押し切れないなんて……)
全力で斬り込んだのにも関わらず、ブラックハートは牛鬼に自分の攻撃が通らなかったことを悔しく感じた。
確かに、体格で言えばモンスターである牛鬼の方がブラックハートの2倍くらいはある。
武器のハンドアックスもブラックハートの大剣の3倍近い厚さを誇っている。
普通に考えれば、ブラックハートの攻撃が通じなくてもおかしくはないはずであった。
……しかし、それは人間の場合であって、女神であるブラックハートには当てはまらない。
(コイツが他のモンスターよりも強いってこと? それとも、私がこのモンスターを倒せなくなるほど力を失ってしまったって言うの?)
一撃で決められなかった理由を考えて、ブラックハートの表情はさらに曇りだす。
ブラックハートにはどちらの理由にも心当たりがあった。
何故なら、両者の根本的な原因は同じであるからである。
自業自得――ラステイションの現状を顧みて何度も思い浮かべた言葉がブラックハートに重くのしかかってくる。
ラステイションの治安が悪くなればなるほど、女神であるブラックハートの受け取れるシェアの力は減少する。
即ち、女神の守護が弱まり、モンスター達の力は増幅するのだ。
この関係は必ずしもイコールで結ばれるものではないが、国を守る女神の力が衰退することでモンスター達の活動が活発化することに間違いはない。
また仮に、シェアが充分に受け取れていないせいでブラックハートの力が衰えているのであっても同じことが言える。
モンスターを倒せないと言うことは結果的にラステイションの平和は脅かされてしまうことになり、女神であるブラックハートを信仰する者が減ることになってしまう。
……過程はともかく、牛鬼を一撃で倒せなかったのはブラックハートの力が弱くなったことに他ならないのである。
そう結論付けたブラックハートは奥歯を強く噛みしめる。
大剣を握る両手の力も強め、ブラックハートは鋭く牛鬼を睨みつける。
「だからって、私は――っ!!」
「っ!?」
押し込む力をブラックハートが一瞬だけ弱めることにより、牛鬼はバランスを崩してよろけてしまう。
すぐさま片足を前に出して踏ん張ろうとするのだが、その隙を見逃すほどブラックハートは甘くなかった。
拮抗状態が崩れたせいで目標を見失ったハンドアックスを滑らせるように動かした大剣で上方へと弾き、ブラックハートはくるりと体を回転させて牛鬼へと近づく。
そのままの勢いを保ったまま、ブラックハートは無防備になっている牛鬼の頭目掛けて大剣を振り上げると……
「負けるわけには、いかないのよっ!!」
――牛鬼の体を真っ二つにするように大剣を振るう。
すると、斬られた箇所から光の粒子が溢れだし、牛鬼の体は消滅する。
それを見届け終えたブラックハートが振り下ろした大剣を再び中段に構えようとした時……
「グルラアアアアアア!!」
「っ、しまっ――」
――叫び声とともに先程倒した個体とは違う牛鬼がブラックハート目掛けてハンドアックスを横薙ぎに振るってきたのだ。
叫び声で気付いたブラックハートはすぐさま回避しようとするが、咄嗟のことに声が漏れてしまうだけで体が思うように動いてくれなかった。
牛鬼1匹を倒したことで安堵していたことが裏目に出てしまったのである。
迫りくる衝撃に備え、大剣を盾にしたブラックハートは思わず強く目をつぶってしまう。
「クロスコンビネーション!!」
……しかし、いつまでも牛鬼のハンドアックスは襲ってこず、代わりにブラックハートの耳に凛々しい女性の声が響いてくる。
ブラックハートが薄目を開けて何が起こったのかを確認すると――そこには自分を襲おうとした牛鬼を刀剣で斬りつけている女神化したネプテューヌの姿があった。
まず、ネプテューヌはブラックハートと牛鬼との間に割り込むと、刀剣でハンドアックスを受け流したのである。
先ほどブラックハートがしたようにハンドアックスを受け流すことで牛鬼のバランスを崩すと、ネプテューヌは追撃をするために近づく。
目標よりも斜め上へとハンドアックスを逸らされたことでがら空きになった牛鬼の脇腹目掛けてネプテューヌは刀剣を振り下ろす。
その一撃だけにとどまらず、振り下ろした刀剣の柄をもう片方の手で持ち上げると、再び牛鬼へと斬りかかる。
2つの斬撃がクロスした瞬間、牛鬼は光となって消滅してしまう。
その呆気なさにネプテューヌが軽く目を瞬かせると、後ろにいたブラックハートへと振り返り声をかける。
「1体1体はそれほど強くないようだけど、数だけは多いんだから油断しない方がいいわよ――まだ戦えるわよね?」
「あ、当たり前じゃない!? 私を誰だと思ってるのよ!? 馬鹿にしないで!?」
口元に軽く笑みを浮かべて挑発するように尋ねてくるネプテューヌに、ブラックハートは歯をむき出しにして吠えた。
それまでポカンと呆けていたのだが、ネプテューヌに助けられたと理解した途端に自分の不甲斐なさに対する怒りや悔しさなどで顔が赤く染まっている。
しかし、歯を食いしばりながら鋭い眼差しで自分を睨むブラックハートを見て、ネプテューヌは柔らかく頬を緩めて口を開く。
「そう。だったら、協力してさっさと片付けるわよ」
「さっきまでふざけていたくせに、いきなり仕切りだすんじゃ……」
「まずはわたしが斬り込むわ。あなたも遅れないようについてきなさい!」
「って、勝手に話を進めるんじゃないわよ!? もう、後で覚えてなさい!?」
眉間にしわを寄せて納得していない様子のブラックハートに構わず、ネプテューヌは了承を得ずにモンスター達に斬り込んでいく。
話を聞かないネプテューヌに怒鳴りながらも、ブラックハートはその後に続いて飛翔する。
「はああっ!!」
「そこっ!!」
2人の狙いは3匹目の牛鬼。
まずネプテューヌがハンドアックスを振り下ろそうとしている牛鬼の懐に飛び込んで、腕を弾き上げるように刀剣を振るう。
そのまま上昇したネプテューヌの影から、続いて飛翔してきたブラックハートが大剣を横薙ぎに振るって牛鬼の腹部を両断する。
ネプテューヌの刀剣によって斬り飛ばされた腕、ブラックハートによって胴体から真っ二つになってしまった牛鬼は光となって消滅する。
「クケエエエエエッ!!」
「うるさいっ!!」
「グゲッ!?」
消滅した牛鬼の影からブラックハートを襲おうとコカトリスが飛び出したのだが、叫び声をあげたことで奇襲に気付かれてしまい、蹴り飛ばされてしまう。
横薙ぎに振るった勢いを利用したブラックハートの回し蹴りを喰らったコカトリスは大きく仰け反りながら吹き飛んだ。
そのコカトリスを目掛けて、上昇していたネプテューヌは刀剣を振り下ろす。
「でえええいっ!!」
頭から両断されてしまったコカトリスは断末魔の叫びすら上げられずに光となって消えてしまう。
しかし、着地と同時に片膝をついたネプテューヌに今度は3匹のなき草が跳びかかってくる。
頭を下げているネプテューヌは襲いかかろうとしているなき草達に気付いていないのか、まったく動く様子を見せない。
それを好機とみたなき草達はネプテューヌの正面と左右から跳びかかろうとして……
「伏せたままでいなさいよっ!!」
――ネプテューヌの頭上ぎりぎりを掠めるように振るわれたブラックハートの大剣の餌食となった。
ブラックハートの忠告を聞く前から微動だにしなかったネプテューヌだったが、大剣が振るわれた際に少しだけ頭が下げて避けることに成功する。
なき草達を倒すと、立ち上がったネプテューヌとブラックハートは自然と背中を合わせて周りのモンスター達を警戒する。
「まったく、ぼさっとしてんじゃないわよ。私が助けなきゃ、あなたあの雑魚モンスター達にやられるところだったわよ」
「ええ、助かったわ。ありがとう」
「べ、別にお礼なんていらないわよ!? あなたを倒すのは私なんだから、その前に倒れられちゃ困るってだけで――お、囮に使っただけなんだから!?」
周りのモンスター達が唸るだけで襲いかかってこないことを確認すると、ブラックハートは先ほどの仕返しをしようとネプテューヌを嘲笑った。
だが、ブラックハートは予想していた反応と違って素直にお礼を言ってくるネプテューヌに慌ててしまう。
焦ってしどろもどろになりながら、ブラックハートは誤魔化すように叫んだ。
叫んだ後で、さらに自分の醜態を晒してしまったことを自覚してブラックハートの顔は真っ赤に染まってしまう。
(くっ、なんなのよなんなのよ!? ネプテューヌのくせにネプテューヌのくせにネプテューヌのくせに……生意気なのよ!?)
口を固く噤んで心の中で文句を並べるブラックハートであったが、ネプテューヌに不満があるわけではない。
むしろ、ネプテューヌの強さが健在であったことを嬉しく思っていた。
いくら守護女神戦争の決着をつけるためとはいえ、3対1でネプテューヌを脱落させようとしたことに、ブラックハートはもやもやとしたわだかまりを感じていたのである。
後々に考えて、自分がネプテューヌよりも強いと言うことを証明できなかったことが悔しかったのだ。
だからこそ、今背中合わせでいるネプテューヌが変わらずに強い姿を保っていることに喜びを隠せず、ブラックハートの口角はにやりと吊り上っていた。
(ネプテューヌがこれだけ強いのなら、プラネテューヌのシェアは相当なものになっているはず――だったら、今のネプテューヌに勝てば、私は確実にあの頃の強さを取り戻せる!)
打算的な考えだが、ブラックハートは既にモンスター達よりもネプテューヌとの戦いに目を向けていた。
それは、少なくともネプテューヌと共闘すれば周りのモンスター達を難なく倒すことができると言う安心感が生まれたせいでもある。
今は仕方なく一緒に戦っているが、ブラックハートの目的はネプテューヌを打倒すること――ひいては、プラネテューヌのシェアを奪うことである。
(ふふっ、大勢でぞろぞろしていた時は弱い者虐めになっちゃうかもとか思ったけど、心配無用だったみたいね。これなら心おきなく全力で叩き潰……)
「クケエエエエエッ!!」
『ハアッ!!』
「ギョフッ!?」
ブラックハートがモンスター達を全滅させた後のことを考えていると、2人の真横からコカトリスが翼を広げて突撃して来た。
だが、警戒していたネプテューヌはもちろんのこと、いくら考えに耽っていても同じ過ちを犯さないように注意していたブラックハートもコカトリスの接近にすぐに気付いた。
――瞬間、示し合わせたように2人の蹴りがコカトリスへと炸裂する。
背中を合わせていた結果、お互いを気遣って武器を振るえなかったからだ。
2人の踵がコカトリスのくちばしを突き上げるように蹴り上げられる。
放物線を描くように遠ざかっていくコカトリスへ、ブラックハートは追撃をかけるため大剣を大きく振りかぶって振り下ろす。
無防備に体を反らせているコカトリスが避けられるはずもなく、ブラックハートの大剣によって真っ二つにされ光になってしまう。
すると、ブラックハートはそのままさらに奥に待ち構えているモンスター達へとプロセッサユニットのウイングを全開にして飛翔する。
続けて、ネプテューヌもいつでもブラックハートの援護ができる距離を保ちながら飛び出す。
……いくらネプテューヌに勝つことが目的とはいえ、ブラックハートは卑怯な真似をしたくなかった。
モンスター達を相手にした後の疲労したネプテューヌに勝っても、ブラックハートは納得できないのである。
何よりモンスター達を倒すことを全部ネプテューヌに任せることなど、ブラックハートの誇りが許さなかったのだ。
ネプテューヌだけには負けられない――そんな強い思いを抱いて、ブラックハートは1匹でも多くのモンスターを倒そうと勢い込む。
例え、それで自分が万全の状態で戦えないとしても、敵であるネプテューヌに弱みを見せたくないブラックハートは力の限り大剣を振るい続けるのであった。
* * *
一方、同じようにモンスター達と戦っている夢人はというと……
「っ、せいっ!!」
「キュウ!!」
ブレイブソードを重たそうにコカトリスへと振るう。
しかし、ブレイブソードの重さに振り回されているせいで、コカトリスにはまともに当たらない。
精々胸元の羽毛が少しだけブレイブソードの切っ先に掠めるだけである。
しかし、ブレイブソードを避けるために後方に跳んだコカトリスの後ろには既にファルコムが待ち構えており……
「たあっ!!」
――ロングソードに斬り裂かれてしまう。
コカトリスを1匹倒したことで、ファルコムは心配そうに夢人へと駆け寄る。
……そこには額から大量の汗を流している夢人がブレイブソードを支えにして立っていた。
「これ以上はもう無理だよ。後は、あたしに任せて下がってて」
「ハア、ハア、ハア……わかった――クソッ」
肩で息をする夢人を周囲のモンスター達から守りながら、ファルコムは短く冷静に事実を突き付ける。
駄々をこねて戦おうとしてもファルコムの邪魔になると嫌でもわかっている夢人は頷いて答えるが、悔しさは隠しきれない。
――ネプテューヌとブラックハートが共闘していたように、夢人とファルコムも一緒にモンスター達と戦っていたのである。
2人のように即席のコンビネーションが上手くいくわけがなく、夢人達の戦法は至ってシンプル――当たらないブレイブソードを避けたモンスターをファルコムが仕留めるだけであった。
まず、夢人がブレイブソードを振り回してモンスター達を分散させる。
振るうと言うよりもブレイブソードの重さに振り回されている夢人の攻撃は、モンスター達にとって容易に避けられるものであった。
その避けたモンスターを狙って、ファルコムがロングソードでトドメを刺すだけの連携である。
……これは夢人から提案したものであり、ファルコムもあまり納得していなかった。
しかし、夢人の戦い方を見てそれしかないと悟り、ファルコムも渋々と提案を受け入れるしかなかったのだ。
ブレイブソードを振り回したせいで疲労困憊の夢人に対して、ファルコムはトドメだけを担当していたため体力の消耗は少ない。
周りのモンスター達もネプテューヌ達が減らしてくれていることもあり、これ以上夢人が無理をしなくてもいいと判断したファルコムは下がっているように指示を出したのである。
――だが、夢人がロム達の所に下がろうとした時に1つ目の蝙蝠が光る何かを掴んで横切る。
夢人達がなんだと思うよりも先に、ロム達の所にいた1人の少女が弾丸のように飛び出した。
「それはぴいの!! ぴいのキラキラをかえせ!!」
「ぴーしぇちゃん!?」
「ぴいちゃん、ダメッ!?」
プルルートとロムの制止の声と止めようと伸びてきた腕を掻い潜り、ピーシェが蝙蝠を追って走り出したのである。
その目には蝙蝠の掴んでいる光るもの――十六面体の水晶しか映っていない。
「キキッ」
蝙蝠はまるでピーシェを馬鹿にするかのように鳴き声を発して目を細めると、わざとらしくその場で停止する。
すると、すぐに今度はピーシェを夢人達から遠ざけるように飛翔する。
「っ、危ない!?」
「くっ!?」
突然現れたように見えた今までいなかった1つ目の蝙蝠に呆然としていた夢人とファルコムであったが、すぐに飛んで行った方向を見て慌てだす。
――そこには牛鬼が待ち構えていたのだ。
しかし、ピーシェは水晶しか目に入っておらず、その先でハンドアックスを構えている牛鬼の存在に気付いていない。
夢人達は急いでピーシェを止めようとするのだが、出だしが遅れたために牛鬼に向かって走るのを止められない。
それでも何とかしようと駆けだす夢人達の横をすり抜けて、ピーシェに追いついた影が1人だけいた。
「おい、危ねえだろ!? 勝手に飛び出すんじゃねえよ!?」
――ガナッシュから貰った紙を盗んだ少年である。
少年はピーシェに追いつくと、無理やり肩を掴んで止めようとした。
「はなして!? ぴいのキラキラとりかえすの!?」
「だから、危ないって言ってんだろうが!? 言うことききやがれ!?」
「やーだー!?」
「あがっ!?」
腕を払いのけようとするピーシェを、少年は羽交い絞めにして押さえようとする。
しかし、少年が怒鳴ってもピーシェの態度は変わらず、必死にもがいて蝙蝠を追いかけようとする。
両手足をバタバタとさせるだけでなく、ピーシェは後ろから押さえている少年目掛けて後頭部を思いっきり伸ばす。
見事に後頭部が顎に当たってしまい、少年は思わずピーシェを拘束する手を離してしまう。
「っ、まてー!!」
「イタタタ――って、おい!? だから待てって……っ!?」
少年の拘束が外れたことで、ピーシェは再び蝙蝠を追って走り出そうとした。
頭突きを喰らって痛む顎を擦りながらピーシェを止めようとする少年であったが、その先にいた牛鬼がハンドアックスを振り上げている姿を見て息をのんでしまう。
だが、すぐに弾かれたようにピーシェへと少年は駆けだす。
一方、ピーシェからすれば邪魔する者がいなくなったおかげでキラキラ――水晶を持った蝙蝠を問題なく追い続けられた。
すると、突然蝙蝠が水晶をピーシェの目の前に落とす。
落ちてくる水晶を見て、ピーシェはパアッと顔を明るくさせると受けとめようと両手を伸ばしてジャンプする。
……だが、すぐに後ろから来た少年に潰されるように覆い被されてしまう。
「ふぎゅっ!? もー、なんでぴいのじゃまを……」
「ぐっ!?」
「むぎゅっ!?」
頭から地面へと落下したピーシェが上に覆い被さっている少年へと文句を言うが、強く抱きしめられたことで最後まで言うことはできなかった。
ピーシェに覆いかぶさり守ろうとする少年の上には――牛鬼が振り下ろそうとしているハンドアックスの刃があったのである。
すぐに立ち上がることも転がって避けることもできないと悟った少年は、せめてピーシェだけでも守ろうとギュッと抱きしめる。
迫りくる死の恐怖に少年が固く目を閉じて縮こまっていると……
「だああああああっ!!」
――振り下ろされるハンドアックスの冷たい刃の代わりに、金属が砕けるような音と夢人の叫び声が聞こえてきた。
少年が恐る恐る目を開けると、そこにはブレイブソードを振り上げてハンドアックスの刃を砕いた夢人の後ろ姿が映り込む。
……ハンドアックスの刃が2人に襲いかかる前に間に割って入ることができた夢人は、激しく牛鬼を睨みながらブレイブソードを振り上げた。
2つの武器が激突した結果、ブレイブソードがハンドアックスの刃を砕いたのである。
砕かれて破片になったハンドアックスの刃は大きく上空へと吹き飛ぶと光の粒子となって消滅し、同時に牛鬼が持っていた持ち手の部分も消えてしまう。
武器を失ったことでたじろぐ牛鬼に向かって、夢人に遅れる形でやって来たファルコムが斬り込む。
「せいやああああっ!!」
「グルラアアアアアアッ!?」
――跳躍からのから竹割り。
勢いよく跳んできたファルコムに、牛鬼は顔をロングソードで斬り裂かれてしまったのである。
倒すまでには至らなかったが、牛鬼は斬りつけられた箇所を両手で押さえて痛みに叫び声をあげてしまう。
「くっ、浅かったみたいだね」
倒しきれなかったことに悔しそうに顔を歪めながらファルコムが着地している後ろで、夢人は目を丸くしている少年と抱きしめられているピーシェに手を伸ばす。
「早く下がるぞ!! ボーっとしてるな!!」
「っ、は、はいっ!?」
怒鳴るように夢人に言われたことに、少年は驚きながらも素直に従おうとした。
ピーシェを抱きしめたまま少年がロム達の所に向かって下がるのを見送ると、夢人は蝙蝠が落とした水晶を拾い上げる。
――手に取った瞬間、夢人は驚愕に目を見開かせてしまう。
「こ、これって……」
「っ、避けて!?」
「っ!?」
水晶を見て驚いている夢人に、ファルコムが焦った声で呼びかけた。
ハッとしてファルコムの声がした方を向くと――そこには両手で顔を隠したまま暴れ回る牛鬼が夢人へと近づいてきていたのである。
急いで逃げようとする夢人であったが、ピーシェと少年を助けるために走った足が重く感じられ、動こうとして失敗してしまう。
疲労に足をもつれさせて前のめりに倒れそうになる夢人に向かって、暴れる牛鬼が迫る。
……ロム達の所にいたコンベルサシオンはほくそ笑みながら、牛鬼の足が夢人を踏みつぶそうとしている光景を見つめていた。
その手にはロム達に見えないように1枚のディスクが握られている。
慌てて夢人の所に駆け寄ろうとするロムとプルルートに気にすることなく、コンベルサシオンは夢人が踏みつぶされるのを楽しげに笑みを浮かべて待ちわびる。
――しかし、牛鬼の足は夢人の体を踏みつぶす直前で停止してしまう。
それだけにとどまらず、牛鬼の体は突然光の粒子となって消滅していく。
後に残ったのは何が起こったのかわからずに呆然とする夢人達だけ。
「――えっ」
唯一何が起こったのかを目の当たりにしていたファルコムは信じられないと言った風な表情で固まっていた。
牛鬼が光になった理由は理解しているが、その原因となる“物体”を飛ばしたのが誰なのかがわからないのである。
そんな風にファルコムが戸惑っていると、完全に牛鬼の体は消え去り――カラン、と音を立てて背中に突き刺さった“物体”が地面へと落下する。
それは刀身が光の粒子で形成されている剣――ビームソードであった。
「夢人さん!!」
ビームソードが飛んできた方向――試練の洞窟の入り口の方向から夢人の名前を呼びながらネプギアが走ってくる。
ネプギアは呆然としているファルコムに目もくれず、倒れている夢人へと抱きつく。
「ね、ネプギア!? そ、そのこれは……」
「よかった――夢人さんが無事で本当によかったあ……!」
「――っ、心配かけてごめん。それと、助けてくれてありがとう」
上半身だけを起き上がらせていた夢人の胸に、ネプギアは顔を埋めながら泣き出した。
最初は慌てていた夢人であったが、ネプギアが泣いていることがわかると抱きしめ返して優しく囁く。
すると、ネプギアは何も言わずに夢人に抱きつく力を強める。
ギュッと自分に抱きついたまま震えるネプギアに、夢人は悔しそうに顔を歪めるのであった。
という訳で、今回は以上!
次回で全員合流ですね。
そして、さらに街にも戻るんであの子も登場すると……
それでは、 次回 「記憶喪失?×現状×魔剣」 をお楽しみに!