超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
またもやだいぶ遅れてしまい、申し訳ございません。
まあ、長々と書かずにさっさと本編に行きましょう。
それでは、 記憶喪失?×現状×魔剣 はじまります
「これで、ラストッ!!」
最後に残った牛面のモンスターを大剣で両断し、私は一息つく。
周りのモンスター達は私……と認めたくないけどネプテューヌが協力して戦ったおかげですぐに片づけることができた。
「終わったようね。お疲れ様」
「ええ、おかげさまで少しは楽ができたわ」
手を何度も開いたり握ったりを繰り返して感触を確かめていると、私の横にネプテューヌが近づいて労いの言葉を投げかけてきた。
横目で見て息1つ乱していないネプテューヌの姿に嬉しくなり、私は皮肉を織り交ぜてにやりと笑みを返す。
さすが腐っても女神ってところよね。
普段のボケボケした間抜け面を晒しているよりも、女神化している今のネプテューヌの方が好ましく思うのはこういう態度をしているからよ。
いつも涼しい顔をして揺らぐことなく真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
褒めたくはないけど、そんなネプテューヌに私は怒りよりも先に闘志が湧いてくる。
――コイツにだけは負けたくないって気持ちにいつもさせられるのよ。
ルウィーやリーンボックスの奴にも同じ思いを抱いてはいるが、私が強く対抗意識を持っているのはネプテューヌだろう。
ギャーギャーいちいちうるさく騒ぐルウィーの奴や、何考えているのかわからないけどあまりやる気を感じられないリーンボックスの奴とは違う……言ってみれば、私の全力に静かに全力を持って応えてくれる態度がネプテューヌを特別意識している理由かしら。
まあ、そんな些細なことを考えても仕方ないわよね。
好ましく思っていようとも嫌っていようとも、最後に勝つのは1人――それが私達の宿命なんだから。
私はゆっくりとネプテューヌへと向き直ると、大剣の切っ先を向けて宣言する。
「さあ、邪魔者はいなくなったわ――決着をつけるわよ、ネプテューヌ!!」
「……何を言ってるの? 決着をつけると言われても、わたしにはあなたと争う理由がないわ」
殺気立つ私に怖気づいたのか、ネプテューヌは下がりながら戸惑いの表情を浮かべる。
大剣が向けられているのに、武器である刀剣を構えようとしない。
……どう言うことかしら?
女神化する前ならともかく、いつものネプテューヌだったら戸惑うはずがない。
余裕しゃくしゃくな態度を貫いて、私の神経を逆なでするようなことを言い放つのがネプテューヌだったはず。
自分の想定していた反応と違っていたため、私も眉をひそめてしまう。
だが、ラステイションを守るためにもここで引き下がるわけにはいかない。
大剣を握り直し、私はネプテューヌを鋭く睨みつける。
「戦う理由がない? 笑えない冗談だわ。私とあなたがこうして出会ってる――これだけで戦う理由なんて充分じゃないの」
「待って!? そもそもあなたはいったい誰なの!? ただの恥ずかしい格好をしているだけのヤンデレ系ストーカー痴女じゃなかったの!?」
「違うわよ!? ってか、それを引っ張るな!?」
私がいつでも斬りこめるように体勢を低くすると、ネプテューヌは慌てた声を出して待ったをかけてきた。
しかし、女神化しても尚とぼけたことを言ってくるネプテューヌに、私は思わず前のめりに倒れそうになってしまう。
私はヤンデレでもストーカーでも痴女でもなーい!!
勝手に人のことを変態にカテゴライズするんじゃないわよ!!
しかも、言うに事欠いて他人の振りまでするなんて!!
いくら私に負けるのが怖いからって、下手な言い訳するんじゃないわよ!!
もういい!! こうなったら実力行使で……
「喧嘩しちゃだめえ~!!」
女神化してもふざけた態度を取るネプテューヌに我慢の限界を迎えた私が問答無用で斬り込もうとした時、間延びした声で間に割って入ってくる女の子がいた。
私のことを友達だと勘違いした女の子――確か、ぷるるとだとかプルルートだとか呼ばれてたわね。
多分プルルートって名前の女の子が私とネプテューヌの間に立つと、まるで叱りつけるように眉を寄せながら口を開く。
「もお~、2人とも喧嘩しちゃだめだよお~。あたし~、怒っちゃうよ~?」
「……わたしは別に喧嘩する気はないわよ。はあ、疲れたし元の姿に戻るわね」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!? 私と戦い……」
「――ふう、もー数だけは多かったからクタクタだよ」
怒ると言うよりも小さい子どもを注意するようなプルルートの仕草に、ネプテューヌは肩を落としてため息をついた。
そのまま女神化を解こうとしているのを私は慌てて止めようとしたのだが、制止の言葉を無視してネプテューヌはボケボケした姿に戻ってしまう。
なんで私が目の前にいるのに女神化を解いてるのよ!?
私達女神は1人になるまで――真の女神を決めるまで戦い合うのが常識でしょう!?
それなのにどうしてネプテューヌは無防備な姿を晒すのよ!?
私はボケボケした方じゃなくて、憎たらしい方のネプテューヌに戦って勝たなきゃ納得できないのに!?
「ところで、ぽわぽわしているあなたはどちら様? わたしはネプテューヌ。見ての通り『変身』なんて特技を持ってる美少女です、どやあ」
「わあ~、そうなんだあ~。あたしはプルルートって名前で~、えっと~、その~……あっ、ぬいぐるみを作るのが得意だよお~、えへへ~」
やり場のなくなった怒りに私が体を震わせていると、ネプテューヌとプルルートはのんきにも目の前で自己紹介をし始めた。
無駄に得意げな顔で胸を張るネプテューヌにプルルートは少し悩んだ様子だったが、すぐに両手を胸の前で合わせてにへらと締まりのない笑顔を見せる。
「へえーじゃあ、ぷるるんって呼ぶね。よろしく、ぷるるん!」
「うん! あたしもねぷちゃんって呼ぶね~。よろしく~、ねぷちゃん~!」
私のことを無視して進められる2人の会話に頭痛がしてくる。
先程酷いことを言って泣かせてしまったプルルートが楽しそうなのはよかったけど、ネプテューヌと2人で会話をさせてはいけなかったと思う。
……さっきから2人のマイペースさに苛立ちを感じるとともに、嫌な予感が止まってくれない。
「ねぷちゃんってさ~、もしかして女神なの~?」
「うん、その通りだよ。記憶がなくて覚えてないから実感がないんだけどね。因みに、プラネテューヌって国の女神らしいんだ」
「ええ~、そうなんだあ~。実は~、あたしもプラネテューヌの女神なんだよお~」
「おおっ! 奇遇だね。まさかぷるるんもプラネテューヌの女神だったなんて――って、なんですとー!?」
「はあああっ!?」
2人の声を聞いているだけで頭痛が酷くなっていく私は、会話に入ることなく額を押さえていた。
ネプテューヌと勝負したいと思う気持ちと一刻も早くこの場から離れたいと言う気持ちがせめぎ合い、私は動くに動けなかった。
しかし、プルルートの爆弾発言に思わずネプテューヌと共に驚きの声を上げてしまう。
「え、それって本当なの? ぷるるんもプラネテューヌの女神だったなんて……」
「あたしもびっくりだよ~。まさか~、ねぷちゃんもプラネテューヌの女神だったなんてえ~」
「まさに運命の出会いってやつだよね! つまり、わたしとぷるるんは2人で1つの国を守る女神だったのかな?」
「おお~! なんか格好いいねえ~!」
能天気にネプテューヌはプルルートが女神であることを疑問に思わずに話を続けていく。
プルルートもプルルートで楽しげに笑うだけで、少しもおかしいところを指摘しようとしない。
そんな2人に対して、私は頭が真っ白になっていたために口をパクパクと動かすことしかできなかった。
「あれ? でも、だったらどうしてぷるるんはラステイションにいるの? ぷるるんってば、プラネテューヌの女神なんだからプラネテューヌにいるのが普通なんじゃないの?」
「……う~んとね~、実は~、あたしもよくわからないの~」
頬に人差し指を添えながら首を傾げるネプテューヌが疑問を投げかけると、プルルートは困ったように眉根を下げてしまう。
「気がついたら~、ぴーしぇちゃんと一緒に知らない場所にいて~、お空から落ちてきた女の子とメイド服の男の人を助けたら~……」
「ちょっ、ちょっと待って!? 空から落ちてきた女の子とメイド服の変態って、わたしとゆっくんじゃん!? それじゃ、コンパが言ってたわたし達を助けてくれたのってぷるるん達だったの!?」
「えっ……ああ~! あの時の女の子ってねぷちゃんだったんだあ~!」
「やっぱり、そうだったんだ! お礼が言いたくて探してたんだよ! 助けてくれてありがとう!」
難しそうな顔で断片的に話すプルルートの言葉を遮って、ネプテューヌは大きく目を見開かせた。
ネプテューヌの話を聞くと、プルルートはパアッと顔を明るくさせてほほ笑む。
すると、ネプテューヌはプルルートの手を取ってブンブンと振りながらお礼を言う。
だが、すぐにネプテューヌは何かを思い出したかのように表情を曇らせる。
「でも、待って。気がついたら知らない場所にいたって、どう言うことなの?」
「それがよく思い出せないの~。明るくてポカポカしてたと思ったら~、いつの間にか夜になってて~、気がついたらねぷちゃん達が落ちてきてたの~」
「うーん、それじゃ肝心なところが全然わからな――って、まさか!?」
目を伏せながら悲しそうに話を続けるプルルートに、ネプテューヌも困った顔で悩んでいた。
しかし、ネプテューヌはふと思いついたように驚愕に目を見開かせて叫び出す。
「それって記憶喪失ってことじゃないの!? うん、絶対に間違いない!! ぷるるんもわたしと同じで記憶喪失だったんだよ!!」
「え、えええ~!? あ、あたしって~、記憶喪失だったの~!?」
ネプテューヌにピンと指さされながら、プルルートは大いに慌てだした。
口調はそれまで通りに間延びしているからわかり辛いけど、表情が焦りと恐怖のあまり涙ぐんでいる。
……ねえ、そろそろ私はツッコミを入れた方がいいのかしら?
2人の会話を聞いていると、本当にめまいがしてきて倒れそうになってるんだけど。
――そもそもネプテューヌはなんでプルルートの作り話を真に受けて信じてるのよ!?
ゲイムギョウ界に女神は私達4人しかないことは、ネプテューヌもよく知っているはずなのに!?
そんなポンポンと女神が増えたら、守護女神戦争はどうなるのよ!?
ってか、記憶喪失ってそう言うものじゃないでしょ!?
確かに部分的に記憶が欠落しているのかもしれないけど、プルルートの場合はどう考えても本人がボケボケしているのが原因でしょうが!?
ああもう!? 何なのよ、この2人は!?
口には出さなくても考えるだけで頭に血が上ってしまい、私はよろめいてしまう。
でも、そんな私に構うことなく2人の会話は続いていく。
「ど、どうしよう~!? あたし記憶喪失なんてなったことがないから、どうすればいいのかわからないよお~!?」
「まあまあ、慌てない慌てない。ぷるるんは1人じゃないよ。実はわたしやもう1人ネプギアって子も記憶喪失なんだ。つまり、ぷるるんで記憶喪失仲間が3人になったってことだね」
「そう言えば~、ねぷちゃんも記憶がないって言ってたよね~? 辛くないの~?」
「特に気にしてないかな。わたしやネプギアにはゆっくんがいるからね」
「ゆっくん? その人って、メイド服着てた男の人のこと~?」
慌てるプルルートを宥めながら、ネプテューヌは柔らかく頬を緩めた。
そんな中、プルルートはネプテューヌの口から出た“ゆっくん”って名前の人物を疑問に思ったらしく、不思議そうに首を傾げる。
「そう。自分のことはぜーんぶ忘れちゃったわたしだけど、一緒にいるゆっくんが覚えてくれているから平気かなって思ってるんだ。なんて言うんだろうな、こう安心感ってやつ? ――具体的に言うと、カレーの隠し味として入れる醤油がわたしにとってのゆっくんってところかな?」
「じゃあ~、ねぷちゃんってカレーなんだあ~。とっても美味しそうだねえ~」
「一晩寝かせるごとに味に深みが出る女だからね! ……って、そうだった。コンパから聞いたんだけど、カレーってちゃんと保存しないと寝かせても美味しくならないんだって」
「そうだったの~? じゃあ~、今度カレーを作る時は~、ちゃんと保存して美味しくしないとね~」
「うんうん、わたしの豆知識が役に立ったみたいでよかったよかった。ところで、ぷるるんの家でカレーに入れるのは醤油? それともソース派だったりするのかな?」
「実は~、あたしも醤油派なんだよお~!」
――無理、2人の会話の次元についていけないわ。
私の理解が話の内容にまったく追いつかない。
ってか、なんでカレーの話になってるのよ!?
記憶喪失はどこに行った!?
色々ツッコミを入れなきゃいけないことを言ってるような気がするけど、もう何から手をつければいいのかわからないわよ!?
これ以上2人の近くにいては危険だと悟った私は後ずさりながら視線をそらす。
すると、顔を向けた先には……
「ネプギア、そろそろ離れて――って、イダダダダッ!? 髪を引っ張らないでくれ!?」
「んっ、嫌です」
「ぴいのキラキラかえして!! それ、ぴいのなの!!」
「ネプギアちゃんもぴいちゃんも夢人お兄ちゃんが困ってるから(おろおろ)」
――何か1人の男を中心として大変なことになっていた。
ネプテューヌと一緒にいた男――確か、夢人って呼ばれてた人に、さっきまでいなかったはずの淡い紫色の長い髪の女の子――ネプギアって子が正面から抱きついている。
しかも、その夢人の髪を後ろから黄色い髪の女の子――プルルートがピーシェちゃんって呼んでた子が思いっきり引っ張っている。
そんな3人を前にして最初に氷の魔法を使った茶髪の女の子――夢人がロムって言ってた子がうろたえている。
「おおっ、兄ちゃんのこの剣かっけ――って、重っ!? ちょっ、これ持ち上げられないんだけど!?」
「ああ駄目だよ!? 剣は危ないんだから――っ!? ……でも、この重さなら仕方ないのかな?」
その隣ではツンツンした黒髪の少年が夢人の持っていた剣を持ちあげようとして驚いた声を上げていた。
慌てて朱色の髪をポニーテールにしている女の子――ファルコムって名前の子が少年から剣を奪い取る。
すると、ファルコムもわずかに目を見開かせたかと思うと、すぐに納得するように頷きだす。
……正直言って、今すぐ逃げ出したい。
頭痛やらこれだけの人数がいるのに孤立している悲しみはもちろん、まともにネプテューヌと戦える状況じゃないじゃない!?
くっ、仕方ないわ。
ここは戦略的撤退を……
「ああー!! ようやく見つけたよ“タツタ”!! 探したんだからね!!」
「ゲッ!? なんでRED姉ちゃんが来るんだよ!? ってか、オレはタツタじゃねえ!? オレの名前は“リュータ”だって言ってんだろ!?」
「どっちでもいいじゃん!! そんなことよりも、また勝手に抜け出して危ないことを――って、ん?」
これ以上ここに居ても目的を果たせないと理解した私が試練の洞窟を出ようとした時、入口の方からさらに2人の女の子がやって来た。
その内の1人、赤い髪に白いメッシュが入っている女の子――REDって名前らしい子が少年を指さして叫ぶ。
露骨に嫌な顔をする少年――自称リュータに構わず近づこうとするREDだったけど、急に顔を夢人達の方へと向ける。
すると、REDはムッとした顔で怒鳴りだす。
「ちょっとそこの男!! 可愛い女の子を泣かせといて、なんでちょっとにやにやしてんのよ!!」
「は、はあああっ!? どこがにやついて――って、痛いから引っ張らないでくれ!?」
「だーかーらー、ぴいのかえして!!」
私から見ても理不尽とわかる怒り方をするREDに夢人は慌てて反論しようとするのだが、髪を引っ張るピーシェに邪魔されて最後まで言葉を続けられなかった。
いや、近くで見ているREDにはそう見えるのかもしれないけど、私には夢人が抱きつかれたり髪を引っ張られたりして困っているようにしか見えないんだけど……
「問答無用!! 可愛い女の子を泣かせる男はアタシの敵だ!! うりゃああああ!!」
「ちょっ、待っ――ふぐっ!?」
「っ、夢人さん!?」
「夢人お兄ちゃん!?」
「うおっと、とったどー!!」
言葉通り、REDは着物みたいな服の袖から何故かけん玉を取り出して、夢人の顔を目掛けて振りかぶった。
ネプギアに抱きつかれていたり、ピーシェに髪を引っ張られている夢人が避けられるはずもなく、けん玉の球は見事に鼻に激突する。
すると、異変に気付いたらしいネプギアが夢人の胸から顔を上げて悲鳴を上げる。
同時に傍でおろおろしていたロムも慌てだす一方で、ただ1人ピーシェが夢人が手放した宝石を嬉しそうに両手で持って掲げている。
「ちょっと、さすがにやり過ぎじゃないの!?」
「やり過ぎなんかじゃないよ!! 可愛い女の子を泣かせてへらへらしているなんて男なんて――って、こっちにもポニーテールが素敵な可愛い子がいる!!」
「へっ!?」
ネプギアとロムが痛そうに鼻を押さえている夢人を心配している間に、ファルコムがREDへと詰め寄った。
だが、REDは反省するどころかファルコムを見て、瞳を輝かせながらその両手を握りだす。
いきなりの行動にファルコムも驚いて下がろうとするが、それよりも早くREDが鼻息を荒くして顔を近づける。
「名前!! あなたの名前はなんて言うの!!」
「え、その、ファルコムだけど……」
「ファルコム!! ああ、もうなんて今日は素敵な日なの!! あいちゃんだけじゃなくて、ファルコム達みたいな可愛い子にいっぱい会えるだなんて!! ――決めた!! 今日出会った子みんな絶対にアタシのヨメにする!!」
「ちょっ、この子どうすればいいの!?」
「……RED姉ちゃんって可愛い子を見つけたらすぐに自分の嫁にするって言うんだ。だからさ、えっと……ごめん」
いきなり意味のわからない宣言をするREDに、ファルコムは頬を引きつらせながら怯える。
だが、リュータはファルコムから顔を逸らして謝るだけであった。
何なのよ、この状況は!?
なんでネプテューヌの周りにこんな変な連中ばかりが集まるのよ!?
もっとまともな奴はいないの!?
「……増えてる。ネプ子達みたいなのが……増えてる……っ!?」
見ているだけで頭の痛くなる連中を視界に収めていたくなかったため、私はさっさと出口へと向かおうとした。
すると、そこにはREDと一緒に来た茶髪に緑色のリボンをつけた少女が膝から崩れ落ちる姿があった。
両手を地面について、少女はぶつぶつとつぶやきだす。
「嫌……もう嫌よ……どうして少し目を離しただけで厄介事が増えていくの……こんなの悪夢よ……」
……うん、彼女も苦労しているわね。
独り言からネプテューヌの仲間だと思われる少女に同情しながら、私は静かに試練の洞窟を後にしようとする。
理由は単純で、もうこれ以上ここにいたくないから。
だが、黙ったまま横を通り過ぎようとした時、少女はガバッと顔を上げて私に訴えかける。
「ま、待ちなさいよ!? 1人で逃げようとするんじゃないわよ!?」
「――ネプテューヌに言っておきなさい。次に会った時が雌雄を決する時だってね」
「意味わかんないわよ!? ――って、コラ!? 1人で逃げるな!? いっそのこと私も連れてきなさいよ!?」
ネプテューヌへの伝言を少女に頼むと、私は振り返ることなく試練の洞窟を後にした。
後ろから聞こえてくる少女の涙声を敢えて無視して……
* * *
そんな風にブラックハートが夢人達から離れた頃、コンベルサシオンは1人誰にも気づかれることなく試練の洞窟の奥へと身を隠していた。
元々ファルコム達の同行していたこと自体が不本意なことであったため、コンベルサシオンは抜け出すタイミングをうかがっていたのである。
だから、夢人達が騒いでいる間に離脱したのだ。
充分に夢人達から離れたと判断すると、コンベルサシオンは通信機を取り出して怒鳴り始める。
「貴様、あのモンスターはどう言うことだ!! まったく役に立たんではないか!!」
〔……仕方ないでしょ? 牛鬼はガーディアンよりも弱い代わりに、数で補うタイプなんですから〕
通信機から聞こえてくる気だるげな声にコンベルサシオンはさらに怒りを募らせる。
だが、通信相手は態度を変えることなく言葉を続ける。
〔そもそも女神2人を相手に戦うなんて、今の牛鬼じゃ無理だって。まったく、どうしてそんな状況になったんだい?〕
「知るか!! こっちが聞きたいくらいだ!!」
〔ふーん、まあいいや。とりあえず、今回のデータもいつも通り送っといてくださいよ。そうでなきゃ、これ以上俺も協力するわけには……〕
「チッ、わかってる!!」
舌打ちをしながら一方的に通信を切ると、コンベルサシオンは八つ当たりをするように壁を蹴りだす。
通信相手が言っていたことを誰よりも理解しているのが自分だったからこそ、コンベルサシオンは腹立たしかったのだ。
計画が失敗したことに加え、それを思い出させようとする通信相手に対する怒りが沸々と湧き上がっていたのである。
苛立つ様子を隠そうともせず、コンベルサシオンが両眼を鋭くさせて誰もいない前方をしばらく睨んでいると……
〔随分と苛立っているようだな〕
「っ、誰だ!?」
――突然、くぐもった声がコンベルサシオンの耳に響く。
誰も近くにいなかったはずだとコンベルサシオンが辺りを見渡すと、突然地面から赤い粒子が渦を巻いて発生する。
やがて、まるで竜巻のように渦を巻く赤い粒子の中に1つの影が出来上がる。
足のつま先から姿を現す影は、人の形を取っていた。
しかし、普通の人型ではない。
――兎を思わせる仮面。
耳のの代わりに鳥の翼のように広がる装飾と、金色の1本角が特徴的である。
首元には青いマフラーを巻いているのか、仮面を被っている本人の顎と首すら見えない。
ただ仮面の後ろからは隠しきれない黒い髪がうねうねと波打っている。
エコーの入った声では判別できなかったが、その体つきから女性であることが推測される。
大胆に胸元と腰の部分だけを隠すだけの水着のような服装から覗かせる肌は、とても健康的とは言えない青白い色をしていた。
また両腕には金色と水色の水晶で構成された籠手をつけ、腰にはまるで人の顔をモチーフにしたような留め具によって青いスカートらしきものでお尻を隠している。
その突然の出現に驚いて固まってるコンベルサシオンに、現れた人物は淡々と言葉を投げかける。
〔貴様の計画、我が手を貸してやってもよいぞ――犯罪神よ〕
「……ハッ、どこの誰かは知らないが、いきなり現れて何を言ってるんだい?」
抑揚を感じさせない言葉の威圧に呑まれそうになりながらも、コンベルサシオンは鼻で笑い飛ばした。
だが、その額には冷や汗が滲みでており、コンベルサシオンが無理をしていることは明らかである。
(コイツはいったい何なんだ……それに、何故私のことを犯罪神などと呼ぶんだ? そもそも犯罪神とは一体……)
〔怯える必要はない。我と貴様の目的は同じ――女神及びゲイムギョウ界の破滅であろう?〕
「っ!?」
相対しているだけで体の震えが治まらないコンベルサシオンであったが、必死に頭を働かせて目の前の人物について考えを巡らせた。
しかし、考えがまとまらないうちに目の前の人物から自分の目的を言い当てられて、コンベルサシオンは息をのんでしまう。
大袈裟な言葉で表現しているが、コンベルサシオンの目的は目の前の人物が言っている内容と外れてはいない。
すると、目の前の人物は徐に右手をコンベルサシオンへと伸ばす。
その手のひらに恐怖を覚えたコンベルサシオンが下がろうとするよりも早く、その手に再び赤い粒子が収束し始める。
――やがて、赤い光は1本の剣を作りだす。
〔これを貴様に貸し与えよう。この剣を使えば、女神どもをせん滅することなど容易い〕
「……何故、そんなものを私に渡そうとする?」
〔簡単なことだ。我にも目的がある――ただ、それを成すために女神どもと、このゲイムギョウ界が邪魔なのだ〕
差し出される剣の深い闇色の刀身に目を奪われながら、コンベルサシオンは尋ねる。
すると、今まで感情を表に出さなかった目の前の人物の声に、とある強い思いが宿る。
憎しみ――コンベルサシオンは少しだけトーンが下がった声に込められた感情をそのように感じ取った。
だが、そんなことなどおくびにも出さず、目の前の人物は剣を差し出したままコンベルサシオンに問う。
〔さあ、選べ。貴様が我との契約を結ぶのならば、この剣――『再誕』の剣“ゲハバーン”を手に取るといい〕
瞬間、差し出された剣――ゲハバーンは見るものを魅了するかのように怪しい光を放つのであった。
という訳で、今回はここまで!
……全員は出てこれなかったよ。
まあ、次回こそは街に戻ってあの子を登場させないと。
それでは、 次回 「悪魔×企業×添い寝」 をお楽しみに!