超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
どうもだいぶご無沙汰しておりました本編を更新いたします。
いや、本当に遅れてしまって申し訳ないです。
それでは、 悪魔×企業×添い寝 はじまります


悪魔×企業×添い寝

「ゲハ、バーン……?」

 

 兎をモチーフにしたような仮面を被った人物に差し出された剣を見つめながら、コンベルサシオンは眉間に深いしわを寄せた。

 そもそもコンベルサシオンは目の前の人物を信用しようとは思っていない。

 急に現れたことや意味不明な言動、極めつけに見るからに怪しいゲハバーンがコンベルサシオンの警戒心を強めている。

 

 ――吸い込まれそうなほど美しい闇色の刀身は、薄暗い洞窟の中でもコンベルサシオンの顔をくっきりと映し出している。

 とりわけ剣に関心を持っているわけでもないコンベルサシオンでも、差し出されているゲハバーンが異常なことはひと目で分かっていた。

 視界に収めた瞬間、夢人が“再現”したブレイブソード以上の威圧感を感じたからである。

 ふと気を抜けば、差し出されているゲハバーンを受け取りそうになる衝動を抑え、コンベルサシオンは目の前の人物を睨みつけて尋ねる。

 

「……随分と立派な剣じゃないか。しかし、生憎と私には剣の心得なんてものはこれっぽっちもないんだがな」

 

 皮肉を織り交ぜつつ、コンベルサシオンは挑発するように口角を吊り上げた。

 遠まわしに目の前の人物と契約しないと言っているのである。

 

 ……しかし、実際には目の前の人物の迫力に圧倒されて強がっているだけである。

 もしも今すぐに目の前の人物と戦うことになれば、自分は手も足も出ずにやられてしまうとコンベルサシオンは確信していた。

 得体の知れない存在であることに加え、ゲハバーンと言う未知数の力を秘めている剣、他にも何か奥の手を隠しているはずと、コンベルサシオンは推し量れない影に恐怖していたのである。

 だが、コンベルサシオンにも自身の強さや能力にプライドがある。

 ただ言いなりになって施しを受けるほど、落ちぶれてはいないとも自覚していた。

 ――だからこそ、目の前の人物に弱気な態度を見せられない。

 

〔案ずる必要はない。ゲハバーンを扱うのに技術は必要ない。必要なのは、資質のみ〕

 

「ハッ、だったら尚更そんな物いらないね。私にはそんな資質なんて物は……」

 

〔いいや、貴様には資質がある――何故なら、貴様は犯罪神なのだからな〕

 

 仮面を被った人物が語りかける内容を、コンベルサシオンは鼻で笑った。

 しかし、すぐに続けられた言葉に笑みを消してしまう。

 コンベルサシオンは再び口にされた“犯罪神”と言う単語に眉をひそめる。

 

「いい加減にしてもらおうか。私は犯罪神なんて、御大層な神を気取った覚えはない――そして何より、契約だとほざく信用ならない貴様の戯言などに従うつもりなどないぞ……っ!」

 

 静かに怒気を孕んだ物言いで、コンベルサシオンはゲハバーンを受け取らないことをはっきりと断言した。

 だが、仮面の人物は動じた様子もなく淡々と告げる。

 

〔そうか。だが、忘れるな。貴様と我の願いは同じ――貴様が望めば、いつでも契約を結ぶと言うことを〕

 

「黙れ。そして、とっとと失せろっ!!」

 

 諦めず契約を迫ってくる仮面の人物に、コンベルサシオンは我慢の限界を迎えて怒鳴ってしまった。

 右腕を大きく横に薙いで仮面の人物を――差し出されているゲハバーンを遠ざけようとする。

 すると、仮面の人物はコンベルサシオンの手がゲハバーンに触れる前に、自分の体の方へと引き寄せる。

 

〔まあいい。今日のところは引き下がろう。もしも契約を結びたいのなら、我が名を――【デルフィナス】を呼ぶといい〕

 

 最後にそう言い残すと、現れた時と同じようにデルフィナスの体の周りに赤い粒子の渦が発生する。

 間近で巻き起こった風と赤い粒子の眩しさに、コンベルサシオンは顔を腕で覆ってしまう。

 やがて、風が収まったのを確認して腕を下ろしたコンベルサシオンの前には、デルフィナスの姿はどこにもなかった。

 

「デルフィナスか……」

 

 デルフィナスがいなくなったことで一気に噴き出てきた汗を拭いながら、コンベルサシオンは静かにつぶやくのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 ラステイションの街中、まばらな人通りの中を1人の少女が辺りを見回しながら走っていた。

 青い短髪にはゴーグル、服も作業着と目立つ姿であったが、誰も少女の恰好を不思議には思わない。

 何故なら、少女が普段からその格好でいることを周りに人達は知っているからである。

 

 少女は声をかけてくる人達に頭を下げて何かを頼みこむと、すぐに次の場所へと走っていく。

 そして、次から次へと場所を移り、いよいよラステイションの街の端まで辿りついてしまった。

 

「はあ、本当にアイツらはどこ行ったんだ?」

 

 少女は疲れたように息を吐くと、周りを見渡した。

 だが、目当ての人物達を見つけることができず、少女は肩を落としてしまう。

 

「まったく、こっちも忙しいって言うのに面倒事ばかり増やして……」

 

「だーかーらー!! さっきからごめんって言ってんだろ!! 勘違いしていただけなんだよ!!」

 

「っ、この声は!?」

 

 仕方なく引き返そうとした少女の耳に、探していた人物達の内の1人の声が聞こえてきた。

 慌てて少女が振り向くと、そこには……

 

「はあ? そんな言い訳が通用すると思っているの? 子どもだからって何をやってもいいわけじゃありませんのよ?」

 

「まあまあ、そろそろ許してあげるですよ。タツタ君だって、悪気があったわけじゃ……」

 

「オレはタツタじゃなくて、リュータだ!! 間違えんな!!」

 

 頭を上で両手を合わせながら必死に謝るリュータを、コンパに肩を貸してもらいながら歩いているミモザが冷たい目で見下ろしていた。

 ガナッシュから渡されたモンスターの情報が書かれている紙を盗んだことだけでなく、使われた煙玉のせいで一時的に呼吸困難に陥ったこともあり、ミモザは夢人達よりもリュータに怒りを感じていたのである。

 そんなミモザを宥めようとするコンパであったが、名前を間違われたリュータによって遮られてしまう。

 

「な、なあ、ネプギア? そろそろ離れて……」

 

「駄目です。こうしていないと、夢人さんはすぐに危ないことに首を突っ込むんですから」

 

「で、でも、そのおかげでぴいちゃんとタツタ君が無事だったんだし(おどおど)」

 

 そんなミモザ達3人と一緒に歩いている夢人は、腕を掴んで離さないネプギアに困惑していた。

 男として好きな女の子に抱きつかれていることに喜びを感じるとともに、こうなった経緯を考えて夢人は不甲斐なさも感じてしまう。

 夢人に助け船を出そうとするロムも、いつもと違うネプギアの態度に戸惑いを隠せない。

 

「うわあ~、これが修羅場ってやつなのかなあ~? あたし~、初めて見たかも~」

 

「うーん、どちらかと言うと心配性って感じがするけどね」

 

 夢人達の様子を見て、後ろを歩いていたプルルートが首を傾げながらそんな感想をこぼした。

 それを隣で聞いていたファルコムは苦笑してしまう。

 実際に会ったばかりで夢人達のことを深く知らないために、ファルコムにはネプギアが心配性なだけとも見えていた。

 

「みてみて!! ぴいのキラキラ!! すっごいでしょ!!」

 

「あ、ああ、うん。すごくきれいだね」

 

「えへへー」

 

 さらに、その近くではピーシェが宝石をシンに自慢していた。

 両手で掲げられた宝石に、シンは困ったように笑いながら誤魔化すようにピーシェの頭を撫でる。

 褒められた気分になったピーシェの頬は自然と緩んでしまう。

 

「あいちゃん、元気ないみたいだけど大丈夫? 何かあれば、すぐにリーダーのわたしに相談してね!」

 

「いやいや、ヨメの悩みを解決するのはアタシの役目だよ! ほら、あいちゃんも遠慮せずに何でも言って来ていいからね!」

 

「……だったら、静かにしててよ」

 

 ふらふらと歩くアイエフを心配して、両隣りにいたネプテューヌとREDが声をかけた。

 だが、心配している2人も頭痛の原因であるため、アイエフの顔色は悪くなる一方である。

 額に手を当てたアイエフは弱々しい声で答えることしかできなかった。

 

 ――そんな探していた2人を含めた13人の様子を見た少女はつぶやく。

 

「……随分と賑やかな連中みたいだな。はあ、おーい!! RED!! タツタ!!」

 

「うん? ――って、シアン!!」

 

「だから、オレはリュータだって――ゲッ、シアン姉ちゃん!?」

 

 できるだけ夢人達を好意的に捉えようとした少女――シアンであったが、すぐに無理があるかもと思ってため息をついてしまった。

 しかし、すぐにシアンは声を張り上げて夢人達に駆け寄る。

 呼ばれて嬉しそうに手を振るREDとは対照的に、リュータはバツが悪そうに顔をしかめるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「まあ、ちょっと狭いかもしれないけど、適当にくつろいでくれよ」

 

 シアンが街の入り口でうるさく騒いでいた夢人達を連れてきた場所は一軒の食堂であった。

 ここはシアンの母親が切り盛りしている食堂であり、入り口には【準備中】と言う札が吊るされている。

 夢人達から話を聞くには好都合だと思ったシアンが、営業時間前まで仕込みをしている母親に頼んで利用させてもらえるように連絡していたのである。

 

「それじゃ、カウンター席はわたしが貰った!!」

 

「ああっ!! そこはアタシの指定席だよ!!」

 

「ぴいもそっちにすわりたい!!」

 

 案内した途端にネプテューヌとRED、ピーシェは我先にとカウンター席へと駆けだした。

 早速迷惑をかけ始めた3人の様子に、続いて店の中に入ったアイエフは頭が痛くなってしまう。

 額を手で覆いながら項垂れるアイエフに、シアンは苦笑する。

 

「あまり気にしなくても大丈夫だぞ? 元気があっていいくらいじゃないか」

 

「……そう言ってくれると助かるわ」

 

「大分疲れてるみたいだな。お前も早く座ってろよ。今、何か飲み物を持って来てやるから」

 

 弱々しい笑みを返すアイエフに座ることを勧めると、シアンは夢人達全員分の飲み物を用意するために食堂の奥へと向かった。

 シアンの心遣いに少しだけ癒されると、アイエフはできるだけ騒いでいるネプテューヌ達から離れた席へと座る。

 

 食堂にはそれなりの人数が入れるように設計されているが、1つのテーブルに4つの椅子しか置かれていない。

 そのためにネプテューヌ達よりも後に食堂に入ってきた夢人達は、できるだけアイエフの周りに集めれるように座りだす。

 しばらくすると、奥に行っていたシアンがお盆に人数分のお茶を持ってやってくる。

 その姿を確認したコンパはすぐに立ち上がると、シアンがお茶を配るのを手伝い始める。

 

「おっ、悪いな。助かるぜ」

 

「いえいえ、これくらい当然ですぅ」

 

 お茶を配るのを手伝ってくれるコンパに、シアンはカラッとした笑顔を向けた。

 元々自分達のために用意してもらったお茶なので、手伝うのはコンパにとって当然の行動であった。

 それでもお礼を言われて悪い気がしないコンパの頬は嬉しそうに緩んでいる。

 そして、全員にお茶を配り終えると、シアンはアイエフの対面に座って口を開き始める。

 

「さて、まずはタツタが迷惑をかけたみたいで悪かったな」

 

「……まったくですわ」

 

 テーブルに両手を置いて頭を下げるシアンの言葉に同意するように、ミモザが冷たく言い放つ。

 自分の名前を間違われたことを訂正させようとしたリュータであったが、夢人達に謝罪しているシアンとミモザ、さらにアイエフにまで睨まれて言葉をつまらせてしまう。

 

 事実、アイエフはリュータの行動をミモザ同様に許していない。

 アイエフからしてみれば、リュータがガナッシュから貰った紙を盗んだせいでプルルート達と言う新たな頭痛の種に出会うことになったと思ってしまっていた。

 しかも、ガナッシュから依頼された依頼の討伐対象――フレースヴェルグを見つけることも出来ずにラステイションの街へと戻ってくる羽目になっている。

 実際は討伐対象であったフレースヴェルグをブラックハートがすでに倒してしまっていたために見つけることができなかっただけである。

 全てがリュータのせいとはアイエフも思っていないが、少なからず八つ当たり的な思いを抱いていたのである。

 

「3人とも気にし過ぎですよ。タツタ君だって勘違いしていたみたいなんですから」

 

「コンパさんの言う通りですよ。ところで、タツタ君は何を勘違いして僕達を襲ったんだい?」

 

 3人に睨まれて居心地が悪そうにするリュータの頭を優しく撫でながら、コンパは困ったような笑みを浮かべた。

 コンパに頭を撫でられていることが恥ずかしいのか、リュータはわずかに頬を染めてそっぽを向いてしまう。

 そんなリュータに苦笑しながら、シンは自分達を襲った理由を尋ねる。

 

「それはその、さ……だって、お前らが“アヴニール”のガナッシュと一緒にいたから……てっきり悪い奴らだと思って……」

 

「“アヴニール”? あたしにはそのガナッシュとか言う人もよくわからないんだけど、どう言うことなの?」

 

 ポツリポツリと気まずそうに話すリュータの言葉に、ファルコムは疑問を感じて首を傾げた。

 実際、ファルコムは成り行きで夢人達と一緒に行動することになってしまったので状況がよく飲み込めていないのである。

 本当なら試練の洞窟でモンスターを退治した後、いつの間にかいなくなったコンベルサシオンを探そうともファルコムは考えていた。

 しかし、涙目になったアイエフに一緒にいて欲しいと頼まれたのである。

 元々お人好しな性格でもあったファルコムは騒ぐ夢人達を放っておくことができず、こうして一緒にラステイションの街までついて来たのだ。

 

「アヴニールってのは会社の名前で、ガナッシュはそこの重役なんだよ――それで一応聞いとくけど、お前達はガナッシュと何を話していたんだ?」

 

「何って……普通にギルドからの依頼を受けたらガナッシュが来て、それから交易路にいるモンスター退治の話を聞いただけよ?」

 

「――そうか。いや、悪いな。ちょっと疑っちまってさ」

 

 リュータの言葉を聞いてから少しだけ目を細めていたシアンはファルコムの疑問に簡単に答えた。

 すると、シアンは表情を強張らせたままアイエフへと硬い声で尋ねる。

 どうして急にそんな態度になったのかわからないアイエフは眉をひそめてしまう。

 嘘をつく理由もないので正直にアイエフが答えると、シアンは安心したように眉根を下げる。

 

「そのアヴニールってどんな会社なの? そっちの子が勘違いして襲ってきたくらいだから、よくないことをしているってことはわかるんだけど……」

 

「よくないこと? いいや、そんな言葉じゃ片付けられないさ――今のラステイションはほとんどアヴニールに支配されているようなもんなのさ……っ!!」

 

 未だに要領を得られないアイエフが問いかけると、シアンは首を横に振った。

 だが、すぐに顔を悔しげに歪ませると、シアンはテーブルの上に置いていた両手を強く握りしめる。

 

「長い間ブラックハート様が守護女神戦争でいなかったことをいいことに、アイツらは教会を乗っ取りやがったんだ。今じゃ教会の連中は全員アイツらの協力者で、わたし達町工場の奴らは仕事すらさせてもらえないんだ」

 

「……えっと~、どうしてお仕事できないの~?」

 

「わたし達が何かを作っても市場にすら出してもらえないからさ。商品を作って売るためには教会からのライセンス登録が必要なんだ。でも、今の教会じゃ……」

 

「なるほどね。大体話が読めて来たわ」

 

 俯いてしまったシアンの話す内容に疑問を感じたプルルートが眉間に皺を寄せながら尋ねた。

 それに諦めたように力なく答えるシアンの言葉を聞いて、アイエフは大まかな事情を察すると同時に教会とギルドで感じた違和感の正体に気付く。

 

 教会とギルドは元々の成り立ちによって密接な関係がある。

 ギルドで出されているクエストは、全て教会の管理下にあるのだ。

 これはクエストの内容を保証するための措置でもあり、とある例外を除いてすべてのギルドで行われている。

 

 だからこそ、アヴニールに乗っ取られてしまった教会はシアン達町工場の商品売買に許可を出さないのである。

 教会とアヴニールが癒着して、商品売買とギルドでの依頼を独占しているのだ。

 ギルドで依頼を出すことは細かい手続きをすれば、誰でも可能である。

 しかし、例えシアン達がいくらクエストを申請しても教会を手中に収めているアヴニールにもみ消されてしまう。

 アヴニールにとってシアン達町工場は競売相手であり、邪魔をしない理由はない。

 何故なら、シアン達の商品が市場に出回らなければ、必然的に人々はアヴニールの商品を手に取らなければならないからである。

 それを不正だと訴えようとも、中立であるはずの教会はアヴニールに味方しているので、シアン達は商品を作っても売ることができないのだ。

 

「それで、そのアヴニールの横行を女神様は――ブラックハート様は黙認しているの?」

 

「……それがわからないんだ。下界に降りてきていることはわかっているんだが、教会の連中はわたし達には絶対に会わせてくれない。教会の中にすら入れさせてもらえないんだ」

 

「僕達の時もそうでしたし、そのアヴニールって会社が女神様に会わせないように徹底しているってことですね」

 

「ああ、それに不安もあるんだ。もしかしたら、ブラックハート様はアヴニールの奴らの行動を認めているんじゃないかって……」

 

 アイエフの質問に、シアンは弱々しく首を横に振った。

 自分達が教会に行った時の職員の対応を思い出し、シンはシアンの話に納得する。

 頷きながらシンの言葉を肯定するシアンは目を伏せて弱音をこぼしてしまう。

 

 ブラックハートがアヴニールの味方であるかどうかわからないからこそ、シアンは不安になっているのだ。

 シアン達からしてみればアヴニールの行動は許せないものだが、ラステイション全体で見れば違ってくる。

 アヴニールと言う企業の発展はラステイションにとって充分にメリットがあることだ。

 大きくなればなるほどラステイションの技術は進歩していく。

 しかも、教会も味方につけているため、アヴニールを止めることは国の女神であるブラックハート以外に誰もできない。

 手段や方法を厭わないためにシアン達のような町工場の人達からの反発はあるだろうが、客観的に見ればアヴニールの行動はラステイションの力を確実に強めているのである。

 ――即ち、ブラックハートが国を強くするためにアヴニールの行動を認めているのではないかと、シアンは考えているのだ。

 例え嘘の報告によって丸めこまれているのであっても、ブラックハート自身に会って確かめることができないシアンは悩んで不安に襲われてしまう。

 

「――馬鹿じゃないの」

 

 そんなシアンの不安を鼻で笑うように、ミモザは憮然とした顔で言い放つ。

 

「もしとかたらとか、全部勝手な想像じゃないの。ブラックハート様が本当は何を考えているのかがわからないのに、あなた達が勝手に諦めてたら話になりませんわ」

 

「ちょっ!? 言いたいことはわかるけど、もう少し言い方ってものが……」

 

「少し黙ってなさい。私にはこの世で許せないことが2つあるの――口だけの約束と、目の前の現実を見ようとしない考え方よ」

 

 切れ長の目を鋭く細めてシアンを責めるように言葉を続けるミモザを、アイエフは慌てて止めようとした。

 だが、ミモザは宥めようとするアイエフを睨むと、シアンの目の前で人差し指と中指を立てて見せる。

 有無を言わせぬ迫力で言い放つミモザの顔には、はっきりと嫌悪の表情が浮かんでいる。

 

「ブラックハート様が本当にそんな汚いことをする連中の味方をしているのかわからないのに、あなた達が諦めていたら本当にこの国は終わってしまいますわよ。それでもいいって言うんですの?」

 

「っ、いいわけないだろ!! わたしだって、このままでいいなんて思ってない!!」

 

「だったら、何としてでもブラックハート様に会おうとしなさいよ!! 弱気になって落ち込んでいる暇があったら、自分の手で真実を掴みとってみなさいよ!!」

 

 見下すように自分を見つめるミモザに、感情が抑えられなくなったシアンがテーブルを強く叩いて怒鳴りだした。

 すると、ミモザも立ち上がってシアンを険しい表情で睨む。

 お互いに額がぶつかってしまいそうになるほどテーブルから身を乗り出して睨みあう。

 

「2人ともそこまでにするです!?」

 

「喧嘩しちゃだめだよお~!?」

 

 そんな2人を宥めようと、コンパとプルルートは慌てて間に割って入った。

 コンパによって再び椅子に座らせられたシアンは疲れたように肩を落とす。

 

「……悪いな。ついカッとなっちまった」

 

「私は謝りませんわよ」

 

「ミモちゃん~?」

 

 バツが悪そうに後頭部を掻きながら謝るシアンとは対照的に、ミモザはそっぽを向いてしまった。

 宥めるために近寄ったプルルートに厳しい目で見られても、ミモザの態度は変わらない。

 

「ああ、謝る必要はないさ――むしろ、ありがとうな。おかげで目が覚めたような気がするよ」

 

 しかし、シアンはミモザの態度に気を悪くするどころか、ニッと快活に笑って見せた。

 先ほどまでの諦めたような雰囲気はなくなり、シアンはやる気に満ち溢れた目で口を開く。

 

「お前の言うように勝手に諦めてたら何も始まらないもんな。わたしにはブラックハート様がアヴニールの行動を認めているなんて信じられない――だからこそ、何としても直接会って確かめてみせるさ」

 

「それなら、わたし達も手伝うよ!!」

 

 力強く言い切るシアンの宣言を聞き、夢人達から離れたカウンター席で話を聞いていたネプテューヌが声を上げた。

 ぴょんと椅子から降りると、ネプテューヌはシアン達に近づく。

 

「正直あいちゃん達の話は難しくてよくわからなかったけど、シアンの話が本当ならわたし達ってガナッシュに騙されてたってことになるんだよね?」

 

「確かにそうなるわね。アイツは私達を利用したかっただけかもしれないわ」

 

 人差し指を頬に添えながら尋ねてくるネプテューヌの質問を肯定しながら、アイエフはガナッシュと会った時のことを思い出して眉間にしわを寄せていた。

 口では夢人達の身の安全を守るためと言っていたが、今となって考えるとラステイションの問題に部外者を関わらせたくなかっただけとも思えてきたのである。

 それならどうして自分達を利用しようとしたのかと疑問は残るが、アイエフは深く考えることをやめてしまう。

 何故なら確実なのは、ネプテューヌの言う通りガナッシュが自分達を利用しようとしたことだけなのだ。

 乱暴な言い方だが、ミモザの言う通り直接ガナッシュに問い正さなければ真実はわからないからである。

 

「でしょ? いくら教会や女神様が許しても、シアン達に迷惑をかけたり、わたしの純情を弄んだアヴニールの悪事を許しておけないよ!」

 

「ですです! わたしも何ができるかわかりませんが、精一杯シアンさん達をお手伝いしたいです!」

 

「あたしだって~、悪いことする人達にお仕置きしちゃうよ~」

 

「お前ら……」

 

 任せろと言わんばかりに胸を叩くネプテューヌに続き、コンパとプルルートがシアンを手助けすると宣言した。

 思ってもみなかった事態にシアンが驚いている間に、カウンター席からREDも近づいて来る。

 

「よかったね、シアン。これなら何とかできそうだよ」

 

「っ、ああ!! お前ら、本当にありがとう!!」

 

 最初から事情を知っていたREDが優しくささやくと、シアンはハッとして夢人達を見回した。

 ネプテューヌ達のようにはっきりと手伝うと言っているわけではないが、夢人やファルコム達も異論を唱えようとしない。

 力を貸してくれるのだと分かり、シアンはふいに込み上げてきた喜びを我慢することができず、目元に涙を浮かべてしまう。

 それでも嬉しそうに笑いながら、シアンは夢人達に頭を下げてお礼を言う。

 

 ――そんな中、1人暗い表情をしていたネプギアは隣にいる夢人の袖を軽く引っ張る。

 

「……夢人さん、この後少し話をさせてください」

 

「……わかった」

 

 俯いたまま顔を上げようとしないネプギアからの頼みに、この場の空気を壊さないように夢人は静かに頷いて答えるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 詳しい話とか計画とかを決めるのは明日にして、俺達はホテルへと戻ることにした。

 その途中、俺とネプギアはネプテューヌ達と別れて広場へと向かった。

 既に日も完全に落ちて暗くなっていたため、広場には俺とネプギアの姿しかない。

 とりあえず、話をするために俺達はベンチへと座る。

 

「それで、話っていったい何なんだ?」

 

 ベンチに座っても話を始めようとしないで俯いたままのネプギアと一緒にいることに気まずさを感じた俺は、自分から話を切り出した。

 

 ……と言っても、俺にはネプギアが何を話そうとしているのか予想がついているんだよな。

 まず間違いなくネプギアは――

 

「夢人さんはネプテューヌさん達と同じで、シアンさんを手伝うんですよね?」

 

 顔を上げたネプギアは泣きそうな表情で俺に聞いてきた。

 その問いかけはまるで俺が何と答えるのかわかっているかのようであった。

 いつの間にかベンチに置いていた俺の手にはネプギアの手が重ねられている。

 

「ああ」

 

「どうしてですか? なんでネプテューヌさん達が言いだしたことなのに、夢人さんは手伝おうとするんですか?」

 

 俺が短く頷いて答えると、ネプギアは再び目を伏せてしまう。

 それでも重ねていた俺の手をギュッと握りながら、ネプギアは言葉を続ける。

 

「シアンさんを手伝えば確実に危ないことに巻き込まれるとわかっているんですよ? 本当にわかってるんですか?」

 

「わかってるさ。それでもシアン達が困っているのを見過ごす……」

 

「――わかってない。夢人さんは全然わかってませんっ!!」

 

 不安そうに確認を取ろうとするネプギアに、俺はできるだけ優しい声を出した。

 しかし、そんな俺の言葉をネプギアは怒鳴り声をあげて遮る。

 ガバッと顔を上げたネプギアの目尻には涙が浮かんでいる。

 

「私が聞きたいことはそんなことじゃありません!! 私はどうして夢人さんがわざわざ自分から危険なことに巻き込まれに行くのかを聞いているんです!!」

 

「だから、それはシアンが困っているからで……」

 

「そうじゃありません!! どうしてこの世界とは全く関係のない夢人さんが危ない真似をしてまでシアンさんを助けようとするのかを聞きたいんです!!」

 

 感情を爆発させたように涙を浮かべながら怒鳴り続けるネプギアを俺は宥めようとした。

 しかし、ネプギアの勢いは止まらず、その言葉が俺の胸に突き刺さってしまう。

 

「夢人さんはもう“勇者”じゃないですよ!! 魔法も使えなくなって、戦うこともできなくなったじゃないですか!! 今日だって、私が助けるのがもう少し遅れていたら……」

 

「ネプギア……」

 

「お願いです。シアンさんを手伝わないで欲しいって言って、夢人さんを止めようなんて思いません。でも、それでも1つだけお願いがあるんです――もう、戦わないでください……っ!」

 

 前のめりになって訴えかけ続けるネプギアであったが、次第に声を沈ませて顔を俺の胸へと埋めてきた。

 それらの言葉を何ひとつ言い返すことができない俺はただネプギアを受け入れることしかできない。

 すると、ネプギアは涙で濡れた顔で俺を見上げながら頼んでくる。

 

「私が――私が夢人さんを守りますから。絶対に守ってみせますから……っ! “勇者”じゃないからって――戦う力がなくても大丈夫ですから……っ! 私はこうして夢人さんと一緒にいられれば、それだけで……」

 

 涙を溢れさせて訴え続けるネプギアの言葉に、俺は今朝見た夢の中のフィーナを思い出しながら悔しさに奥歯を噛みしめることしかできなかった。

 

 今ネプギアを泣かせているのは、俺が弱いからだ。

 ――俺の体にはもうアカリも女神の卵もない。

 ――俺はもう魔法が使えない。

 ――せっかく“再現”できたブレイブソードは満足に扱うことすらできない。

 今の俺にできることは何もないんだ。

 ブレイブソードがあるからと言って中途半端に戦えると思い込んだ俺の浅はかさがネプギアを泣かせてしまっている。

 心配させて、本当は言いにくいことを言わせてしまったんだ。

 ……最低だよ、俺。

 ちょっと手を伸ばせばネプギアの涙を拭ってあげることができるのに、俺の腕はまったく動いてくれない。

 だって、俺は……

 

「――ごめん」

 

「っ!?」

 

 ……ネプギアのお願いを聞き入れることができないんだから。

 

 大きく目を見開いたまま固まってしまったネプギアに胸がいたくなるのを感じながらも、俺は言葉を続ける。

 

「確かに俺はもう“勇者”じゃないし、戦う力なんてこれっぽっちもない――それでも、俺1人だけが何もしないわけにはいかない」

 

 俯こうとするネプギアの頬に手を添え、俺はその目を真っ直ぐに見つめながらはっきりと自分の気持ちを伝えていく。

 

 元々、俺はゲイムギョウ界とまったく関係ない世界で生まれて育った人間だった。

 でも、それでも女神の卵に選ばれて“勇者”になって、ネプギア達と一緒に犯罪組織と戦ってきたんだ。

 今回も同じだ――この世界に俺が来た理由なんてどうでもいい。

 ただ、目の前で困っている人を助ける――そう、初めてネプギア達と会った時と同じなんだよ。

 

「“勇者”であることや力のあるなしなんて関係ない。俺はシアンやアヴニールのせいで困っている人達を助けたいんだ。だから……」

 

「――わかりました」

 

 ネプギアは言葉を遮ると、ゆっくりと頬に添えられた俺の手に自分の手を重ねて口元を緩めた。

 しかし、その笑みはどこか寂しそうに見える。

 

「夢人さんは、やっぱり私の知っている夢人さんなんですね。それがわかって嬉しいですけど、ちょっとだけ悲しいです」

 

「うっ、ごめん。でも、俺は……」

 

「ふふっ、わかってますよ――だから、条件をつけさせてください」

 

 ネプギアの言葉に気まずくなりながらも、俺は自分の考えを変えようとは思わなかった。

 ちょっとだけ俺はネプギアから視線を逸らしてしまう。

 すると、ネプギアは可笑しそうにほほ笑んだ。

 だが、すぐに顔を引き締めると、ネプギアは真っ直ぐに俺を見つめながら言う。

 

「夢人さんには1週間だけ時間をあげます。それまでの間に戦えるってことを私に証明してみせてください」

 

「――わかった。必ず強くなってみせるからな」

 

 提示された条件を受け入れ、俺はネプギアに力強く頷いて口元を緩めた。

 

 ――タイムリミットは1週間。

 決して長い時間じゃない。

 でも、おそらくこれが心配しているネプギアができる最大限の譲歩なんだと思う。

 だったら、俺はネプギアの不安を取り除けるように強くなるだけだ!

 例え“勇者”じゃなくなって魔法も使えなくなった俺でも、ネプギアのことを守れるように強くなって……

 

「そ、それで、もし夢人さんが1週間以内に強くなれなかったら……」

 

「うん?」

 

 気合を入れている俺をよそに、ネプギアは頬を赤らめながら言葉を続けていた。

 きょろきょろと焦っているようにも見えるネプギアの態度に、俺は首を傾げてしまう。

 

「――私と毎晩一緒に寝てもらいますからね!?」

 

「っ、はああああ!?」

 

 顔を真っ赤にしてギュッと瞳を閉じたまま言われたネプギアの言葉が信じられず、俺は思わず驚いて声を上げてしまった。

 

 ちょっと待ってくれ!?

 どうして俺が強くなれないことがネプギアと一緒に寝ることに繋がるんだ!?

 

「夢人さんが強くなるために体を張るんだったら、私だって夢人さんが戦わないようにするために体を張ってみせます!? は、恥ずかしいですけど……ちょ、ちょっとくらいだったらエッチなことだって耐えてみせます!?」

 

「ブッ!?」

 

 熱に浮かされたように一気にまくし立てるネプギアの言葉に、俺は噴き出してしまう。

 そんな俺に構う余裕もないネプギアは急にベンチから立ち上がって背中を向ける。

 長い髪の間からチラリと見える首筋まで赤くなっているように見えた。

 

「そ、そう言うことですから……さ、先にホテルに戻ってますね!?」

 

「ちょっ、ネプギア!?」

 

 駆けだすネプギアを慌てて呼び止めようとしたが、その背中はすぐに見えなくなってしまった。

 残された俺はベンチの背もたれに思いっきり背中を預けると、夜空を見上げる。

 

 ……これ、どうしたらいいんだよ!?




という訳で、今回はここまで!
ちょっと今後の展開を修正していたり、ゲームをプレイして台詞とかを確認したり、ゆっくりとコラボと一緒に書いていたらいつの間にか時間が過ぎてしまっていました。
ま、まあ、これで第3章はほぼ修正なく進めていけるのでスムーズにいけたらいいなって思うんですよ……自信ないですけど。
年内中にはどうしても区切り的に6章、もしくは7章までは進ませておきたいですからね。
あっ、コラボの方は細かい修正点があるので投稿は明日になります。
それでは、 次回 「挑発×指導×激突」 をお楽しみに!
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