超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
総選挙、結果出ましたね。
彼女も早く登場させるために、ネプリバ3をやるよりも続きを書かないと。
それでは、 関係×嫌悪×役割 はじまります


関係×嫌悪×役割

「ふっ! ……ふっ! ……ふっ!」

 

 夜中、ホテルを抜け出した夢人は1人で素振りを続けていた。

 場所は、街から少し離れた川沿いの土手。

 周りに遮蔽物もなく、夜中と言うことで誰も夢人の近くにはいない。

 しかも、ここでなら素振りだけでなくファルコムに出された課題の走り込みもできる。

 夢人の剣の修行にはもってこいの場所であった。

 

「……ふっ! ……ふっ!」

 

 既に何回も素振りを繰り返しているため、夢人の体は汗で濡れていた。

 薄着のTシャツは肌にピッタリとくっついており、素振りをするごとに辺りに汗が飛び散っている。

 今、夢人がしている素振りは手首の矯正を目的とした上段からの斬り下ろしである。

 息を吐くタイミングに合わせて振り下ろすことで、傍目から見るとテンポよくこなしているように思える。

 だが、実際は見た目以上に辛いのだ。

 

 まず昼間との違いは、夢人が素振りに使用している剣がブレイブソードだと言う点だ。

 ノワールによって砕かれてしまったアルマッスのことを報告しにシアンの所に行った時、夢人はブレイブソードを返してもらっていた。

 またその時、アルマッスを砕いてしまったことを夢人が謝罪すると、シアンは苦笑しながら許した。

 

『元々テストケースで作った試作型だからな。気にすることないぞ。それよりも、刀身の強度不足って重要な問題点が分かって嬉しいくらいさ。ありがとうな』

 

 そう言って、シアンはブレイブソードを分析したデータを基に新しい“アルマッス”の開発に意欲を見せた。

 いや、ブレイブソードと言う自分が知りうる中で最高の剣に触れてシアンは興奮していたのである。

 “アルマッス”をブレイブソード以上の剣に仕上げてみせると、技術者としての血が高ぶっていたのだ。

 

 そんなこともあり、夢人はブレイブソードで昼間と同じように素振りをしようとしたのだが――その重さの違いに最初は満足に上段に持っていくことすらできなかったのである。

 平均的ともいえるアルマッスの重さに比べ、重量のあるブレイブソードを昼間のように軽々と振り上げられるほど、夢人の腕の筋肉は強靭じゃなかった。

 その問題を解消するために、夢人は意識して呼吸を――正確にいえば、腹直筋に力を入れていたのである。

 一般的に腹筋と言われている筋肉であり、意識することで体幹を真っ直ぐに維持することにも繋がる。

 要は、深呼吸の動作と同じである。

 鼻で息を吸うと同時にブレイブソードを振り上げ、そこから自然な形で振り下ろし、ちょうど中段の位置で止める時に口から短く息を吐く。

 これにより手首だけでなく、剣先が下がりきってしまうことも防げる。

 また腕から余分な力も抜け、ブレイブソードの重さによる腕の疲労も抑えてくれる。

 腕に力を込めるのは、振り上げる時と中段で止める時だけ。

 後は、手首に注意するだけで夢人の素振りはアルマッスを使っていた時に近づいたのである。

 

 だが、この呼吸のリズムが夢人を苦しめる要因にもなっている。

 ほぼ一定間隔でしか呼吸を行えないのである。

 何度も素振りをしていく毎に溜まっていく疲労は確実に夢人の体力を奪っていく。

 当然、息も上がってくる。

 しかし、今の夢人は呼吸をコントロールしなければいけない。

 荒く呼吸を乱すことができないのである。

 

 従って、今の夢人が持続してブレイブソードの素振りを続けられる回数は10回が限度であった。

 振り下ろす時の手首への負担や呼吸の調整に、夢人は苦しんでいたのである。

 限界まで素振りをした後、大きく呼吸を繰り返し、再び素振りへと戻る。

 これを夢人は土手に来てから何度も繰り返してきたのである。

 

「……ふっ! ――っ、ハア……ハア……ハア……」

 

 そして、今もまた限界まで素振りをした夢人はブレイブソードを杖にして大きく息を吐きだす。

 ぶわっと汗が噴き出し、体中を流れていく。

 夢人は少し呼吸を落ち着かせると、地面に突き刺しているブレイブソードを抜いて、のろのろと歩き出す。

 やがて、目的の場所――あらかじめ用意しておいたタオルと飲み物が置いてある場所に着くと、夢人はゆっくりと腰を下ろす。

 ブレイブソードを横に置き、夢人はタオルで汗を拭っていく。

 既にTシャツが吸ってしまった分は仕方ないが、少しでも不快感を軽減するためだ。

 一通り拭き取り終えると、夢人はタオルを首にかけたまま飲み物を口にする。

 

「んぐっ、んぐっ……はあ……」

 

 休憩をする度に水分補給をしていたため、夢人は持ってきていた飲み物を飲みきってしまった。

 それでも最後の1滴まで喉の潤いに変えると、夢人はそのまま仰向けに倒れこむ。

 前髪を掻きあげ、夢人は夜空を憎々しげに睨みながら呟く。

 

「……クソッ、全然集中できない」

 

 瞳を閉じて、夢人はつい先ほどホテルでネプテューヌに持ちかけられた相談と言う名の新たな問題を思い出すのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「……“倒さなきゃいけない敵”って、どう言う意味なんだよ?」

 

 ホテルの廊下でネプテューヌに告白された内容は、夢人に大きな衝撃を与えた。

 確かに夢人もこちらのゲイムギョウ界に初めて来た時、女神達が争い合っている場面を目撃している。

 レイヴィスからも神次元の女神達は自分達の知っているネプテューヌ達みたいに仲がいいわけでないことも聞いていた。

 しかし、夢人は今目の前にいるネプテューヌを自分と同じようにこちらのゲイムギョウ界に迷い込んでしまった“ネプテューヌ”だと思っている。

 事情は記憶を失っているせいで聞けないが、レイヴィスの話と照らし合わせても“ネプテューヌ”がノワールを敵だと思うことはないと考えていた。

 ――だが、今目の前にいるネプテューヌが発した言葉はそんな夢人の考えを前提から崩してしまうものである。

 だから、夢人は意味を理解しながらも確認するように尋ね返すことしかできなかった。

 

「えっとさー、自分でもよくわかんないんだけど、わたしって『変身』したらシリアスモードになっちゃうでしょ? そのせいなのかもしれないけど、あの子と戦っているうちにテンションがトップギアを振り切っちゃって、気が付いたらあの子のことを“倒さなきゃいけない敵”としか思えなくなってたんだよ」

 

「……それは『変身』が解けた今も同じなのか?」

 

「だから、そう言っているじゃん! ……何故か、今はもう痴女ともヤンデレともストーカーとも思えないんだよ。うーん、なんだろうなあ……こう、モヤモヤして上手く言えないんだけど……プリンを食べたのにナスの食感がしてきたって言えば、ゆっくんもわかってくれる?」

 

「いや、まったくわからないぞ」

 

 悲しそうな表情でノワールの認識が変化したことを教えてくるネプテューヌに、夢人は3度問い返してしまった。

 これにはネプテューヌもムッとしてしまい、思わず夢人を睨んでしまう。

 だが、すぐにネプテューヌは表情を曇らせてしまい、今ノワールに感じている思いを言葉で表そうとする。

 常人には難解すぎる例えに夢人が共感できずにいると、ネプテューヌは不満そうに唇を尖らせる。

 

「ぶー、なんでわかってくれないかな? プリンなのにナスのあのぶにゅぶにゅした食感がしてくるんだよ? そんな思いを味わったわたしの気持ちくらい簡単に察してよ! プリンのあのつるんって食感に対する冒涜だって、訴訟も辞さない覚悟だよ! 法廷で異議あり! ってあの子に言ってやりたい気分になったんだから!」

 

「……それ、色々と間違ってるからな。とりあえず、プリンから離れてくれ」

 

 真面目なのかふざけているのか判断しにくいネプテューヌの発言に、夢人の頭痛は酷くなる一方だった。

 すると、ネプテューヌは言い辛そうに眉をひそめてしまう。

 

「……だから、それがわからないんだよ。『変身』した後のわたしはあの子のことを“倒さなきゃいけない敵”って思っていたけど、最初からそうだったわけじゃなくて……それに今になってどうしてそんなことを思ったんだろうなって考えたら、余計にあの子のことが分からなくなっちゃってさ」

 

「だから、自分のキャラじゃないか」

 

「そう! でさ、本当のことを言うとね――ちょっと怖くなっちゃったんだ」

 

 頭を振って悩むネプテューヌに、夢人は先程口にした言葉の意味を察することができた。

 理解してもらえて嬉しそうに笑うのもつかの間、ネプテューヌはすぐに泣きそうな表情で心情を吐露する。

 

「ほら、今のわたしって空気を和ませるムードメーカーみたいな感じでしょ? なんて言うか、わたしがいなくちゃ始まらないって感じの。それに対して、『変身』した後のわたしって大人の魅力がむんむんとしているお姉さまタイプにチェンジすると思うんだ。自分でもびっくりするくらいのテンションに差があるビフォーアフターだと思うんだけど、実際に本当のわたしってどっちなんだろうって考えたら、不安で怖くなっちゃった――本当のわたしはどっちなんだろうって」

 

「それは……っ!?」

 

 明るく振る舞おうとしながらも、我慢できずに不安を口にするネプテューヌに言ってやりたいことがある夢人であるが、上手く言葉にすることはできなかった。

 開きかけた口を閉じて、堪えるように表情を歪める。

 

 ――事実、夢人はネプテューヌの疑問に対する答えを持っていなかった。

 出会った頃はネプギアの姉らしくない『変身』前の姿に何度も戸惑って疑ったりもした。

 しかし、そんなものは夢人の思い込みに過ぎず、『変身』前のネプテューヌを否定する理由にはならない。

 夢人自身、『変身』によるギャップがあるだけで、どちらもネプテューヌであることに違いはないと思っている。

 だが、それではネプテューヌの求めている答えにならない。

 

「えっと、その……あ、あははは、なーんちゃってね! さっき言ったのは全部嘘ウソ! 実は謎の美少女に浮気しそうになってるゆっくんを試すための演技だったんだよ!」

 

「ネプテューヌ……」

 

「でもでも、せっかく頑張ってか弱い女の子を演じたのに、ゆっくんってばわたしの魅力に全然気付いてくれないんだもんなー! ちょーっとがっかりだよ! そんな調子だと、いつまで経ってもヘタレを卒業できないぞ?」

 

 口を噤んでしまった夢人の様子に気まずさを感じたネプテューヌは、咄嗟にわざとらしく大声を出して笑い始める。

 無理をしているのは一目瞭然であり、気を使ってくれるネプテューヌに夢人は申し訳なさを感じてしまう。

 だが、そんな夢人のことなどお構いなしに、ネプテューヌはハイテンションを装いながらにやつく。

 

「まあ、それだけゆっくんが彼女さんであるネプギアのことを愛してるってことなのかもね! もうラブラブなんだから! ……あーあ、ゆっくんをからかってたら、何だかお腹が空いてきちゃったなー! そうだ! 部屋に戻って買っておいたプリンを……」

 

「――ネプテューヌ」

 

「っ!?」

 

 適当なところで話を切り上げてこの場を去ろうとしたネプテューヌであったが、夢人に背中を向けようとした瞬間に手首を掴まれてしまう。

 瞬間、ビクッと肩を跳ね上がらせ、ネプテューヌは不安そうに自分の名前を呼んだ夢人を見上げる。

 

「そのさ、俺も上手く言えないけど……俺はどっちのお前も本物だって思ってる。それに、あの子も敵じゃない。絶対に仲良くなれるって……っ!」

 

 拙くても自分の思っていることを夢人は精一杯伝えようとした。

 すると、ネプテューヌは手首を掴んでいる夢人の手にそっと自分の手を重ねる。

 そして、柔らかくほほ笑みながら口を開く。

 

「――ありがとうね、ゆっくん」

 

 その表情が嬉しそうでもあり、どこか寂しそうにも見えてしまった夢人はただ黙ってネプテューヌを見つめることしかできなかったのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 新しく追加されたネプテューヌの問題に、俺の頭はパンク寸前であった。

 もう何を信じていいのか、さっぱりわからない――と言うのが、俺の素直な気持ちだ。

 

 ……ネプテューヌが、もしかしたら俺の知っている“ネプテューヌ”じゃないかもしれない。

 これが今1番俺の頭を悩ませる。

 別にネプテューヌが“ネプテューヌ”じゃなくても、これからの付き合い方を変えるつもりはない。

 一緒に鍵の欠片を探すために旅を続けるし、記憶を戻す手助けもしていくつもりだ。

 だけど、俺はネプテューヌを騙したままでいいのか?

 不安な気持ちを誤魔化してまで、俺に相談を持ちかけてきたネプテューヌの信頼を裏切ったままでいられるのか?

 ――答えはノーだ。

 俺はネプテューヌに嘘をついたまま平然としていられるほど、器用に立ちまわれる人物じゃないってことくらい自分でもわかってる。

 だったら、ネプテューヌに“ネプテューヌ”じゃないかもしれないっと言うことを話せばいいのか?

 これなら少なくとも俺がネプテューヌに嘘をつき続ける理由はなくなる。

 ――駄目だ。

 今の『変身』前と後の姿の違いに戸惑って不安を持っているネプテューヌには言えない。

 言ってしまえば、どちらが本当の自分なのかを悩んでいるネプテューヌのアイデンティティが崩壊してしまうかもしれない。

 それに自分が楽になれるからという理由でネプテューヌを苦しめたくない。

 

「……俺は、どうすればいいんだ?」

 

 瞳を開けて見上げた夜空は雲ひとつない綺麗な星空であった。

 俺の問題だらけの頭の中とはまったくの真逆だと思ってしまう。

 汗で濡れたTシャツが体を重くする。

 まるで俺から立ち上がる気力を奪うように肉体的にも精神的にも重く圧し掛かってくる。

 口に出しても解決策が思いつくわけでもないのに、俺はボーっと夜空を見上げながら呟くことしかできなかった。

 

 解決しなければいけない問題は山ほどある。

 だけど、それを解決するために俺がしなければいけないことはなんだ?

 俺はいったい何ができる?

 何から手をつければいいんだ?

 どうすれば……

 

「――随分と間抜けな顔を晒しているのね」

 

 考えがまとまらず、頭の中が滅茶苦茶になって気持ち悪さを感じた俺の頭上から声が聞こえてきた。

 誰なのかを確認するために視線を上にあげると、そこには……

 

「ミモザ……?」

 

 理由はわからないけど、俺を嫌っているはずのミモザが立っていた。

 どうしてここにいるのかを俺が尋ねようとする前に、ミモザは侮蔑したような態度で腕を組んだまま口を開く。

 

「気安く私の名前を呼ばないでちょうだい。虫唾が走るわ」

 

「……じゃあ、どう呼べばいいんだよ?」

 

「察しが悪いわね。私に話しかけるなって言ってるのよ」

 

 蔑んだ目で俺を見下ろしながら命令してくるミモザに、さすがにムッとしてした。

 上半身を起こして俺はミモザを睨む。

 しかし、ミモザは気にした様子もなく俺に理不尽なことを突き付ける。

 昨日罵倒された時は気にもしなかったが、今の俺は悩んでいたせいもあって苛立ちを隠せない。

 そんなことを言うのなら、俺もミモザを無視しようと子ども染みた意地を張って素振りを再開しようとする。

 

「へえ、そんな状態なのに練習を続けるのね?」

 

 ブレイブソードを手に取り、俺はミモザに背を向けて離れた。

 すると、ミモザは俺を小馬鹿にしたように笑った声を出す。

 敢えてそれを無視して、俺は素振りを再開するために大きく息を吐いてブレイブソードを中段に構える。

 

「まあ、私にはあなたが何をしようが関係ないからいいんだけどね。ただし、私の質問には答えてもらうわよ」

 

 自分勝手なことばかり突き付けるミモザに怒りがわかないわけではないが、俺は無視することを決めた。

 こうしている間にも時間は過ぎていってしまう。

 ネプギアとの約束を守るために、俺は1分1秒も無駄になんて……

 

「――もうネプギアは抱いたの?」

 

「ぶはっ!?」

 

 予想外の爆弾発言に、俺は無視することができなかった。

 思わず噴き出してしまい、前のめりに倒れそうになってしまう。

 振り上げていたブレイブソードを地面に突き刺したおかげで倒れずにすんだが、俺は振り返ってミモザを睨まずにいられなかった。

 だが、ミモザはそんな俺の様子を見てクスクスと笑うだけである。

 

「あら、練習を続けるんじゃないのかしら? それとも、それがあなたの練習法なの?」

 

「――邪魔をするなら、ホテルに帰ってくれ」

 

「ふふ、図星を指されて怒ってるのね」

 

 嘲りを含んだ物言いに我慢できず、俺はミモザに低い声で言い放つ。

 しかし、ミモザは笑うだけでその場を離れようとしない。

 

「でも、あなたからしてみれば、私に邪魔されても別に構わないんじゃないのかしら? そうすれば、ずっとネプギアに守ってもらえるわよ? そっちの方があなたにお似合いだと思うわ」

 

「お前……っ!」

 

「恋人の後ろでずっとガタガタと震えてなさいよ。できもしないことを一丁前にかっこつけずに、ね」

 

「そんなことできるわけないだろ!!」

 

 にやつきながらミモザは俺に言ってきた。

 今していることが無意味だと言われているのを黙って見過ごせるほど、俺は冷静じゃなかった。

 噛みつかんばかりにミモザを睨みながら吠えた。

 すると、ミモザの顔から笑みが消え去り、俺を見下したように冷たく見つめてくる。

 

「――だったら、今のあなたに何ができるのかしら? 無駄に体を動かして時間を浪費しようとしているだけのくせに」

 

「っ!?」

 

 ミモザの言葉に、俺は言い返すことができなかった。

 事実、俺は体を動かしていなければ頭がどうにかなってしまいそうだから素振りを続けていた。

 少しでも時間を無駄にしないためと言い訳をしながら。

 

「分からないと思ったの? 問題を先送りにしようとする愚か者が分からないほど、私は間抜けじゃないわ。そうやって、自分は頑張ってるんですアピールをして同情を誘いたいんでしょ?」

 

「っ、違う!! 俺はそんなこと思ってない!!」

 

「口ではなんとでも言えるわ。でも、現にあなたは解決できない問題から逃げてるのよ。どうすればいいのかわからないから、1番楽な“自分のための努力”にしか打ち込もうとしていない。言い返せるものなら、言い返してみなさいよ」

 

 ミモザのぶつけてくる言葉が俺の胸に次々と突き刺さってくる。

 どれも心当たりがないわけじゃない。

 ネプギアとの約束を守るためと言い訳をしながら、俺はブレイブソードを使いこなす特訓を優先しているのだから。

 他にもやらなければいけないことがあるにも関わらずだ。

 すると、ミモザは何も言えない俺を見て迷うような素振りを見せる。

 不意に目を伏せ、開きかけた口を再び閉じてしまう。

 だが、すぐに顔を上げて俺を真っ直ぐに見つめてくる。

 

「――やっぱり、あなたは“勇者”って肩書きがなければ何もできないのね」

 

「っ、“勇者”って、お前がなんでそれを……っ!?」

 

「知っているわ。女神の卵に選ばれ、“再誕”の女神を生みだすためだけの舞台装置――確か、それが“勇者”だったあなたのやるべきことだったわね」

 

 俺は息を吸うことすら忘れてミモザを見つめることしかできない。

 “勇者”や女神の卵、“再誕”の女神もこの“神次元”の住人であるミモザが知っているはずがなかった。

 しかし、ミモザはさも当たり前のように俺のことを“勇者”だと呼んでいる。

 訳が分からず固まっている俺に構わず、ミモザは言葉を続ける。

 

「別に何もできないことを恥じる必要はないわ。人は誰しも何かに縛られなければ生きていけない生物よ。それは名前や性別、信仰や社会的地位みたいに色々あるわ。だから、“勇者”でなくなったあなたが何をしていいのかわからなくなってもおかしくないのよ」

 

「……だからって、何もしないわけにはいかないだろ」

 

「当然ね。だけど、がむしゃらに行動してあなたは何か結果を出せたの?」

 

 苦し紛れに返した言葉も、ミモザに問い返されてしまう。

 しかも、俺はそれに対して答えられない。

 

「まあ、答えられないのは当たり前よね。あなたがそんな器用な人物だったら、すぐに仕事を見つけられていたはずだもの。例え、自分がフィクションの人物の偽物だと評されても……」

 

「おい、さっきからお前は何を言っているんだ!? どうしてそんなことを知っているんだ!?」

 

 淡々と自分のことが語られていくのを黙って聞いていられず、俺は声を荒げてミモザの言葉を遮った。

 しかし、ミモザは驚いた様子も見せない。

 ただ真っ直ぐに俺から目を覗き込んでくる。

 

「――私の知っている“御波夢人”は凡庸で不器用な人間よ。ゲイムギョウ界に召喚されてすぐに何もできないできそこないの烙印を押され、奴隷や変質者、犯罪者と罵られようとも誰かのために手を伸ばそうと必死になった馬鹿。その裏にはネプギアに対する一途な思いもあったけど、それをこじらせたせいで周りの関係を悪化させたりもした奥手のヘタレ。確か、泣かした女の子の数が5人だったかしら? 無自覚に女の子をその気にさせるけど、まったく気付こうとせずにネプギアのお尻だけを追い求めていた朴念仁。1人で何かを抱え込もうとすると、すぐにモザイク処理が必要なくらい気持ち悪い顔になる大気汚染の原因。それから……」

 

「まっ、待て待て!? 待ってくれ!? だから、なんでお前が……」

 

「――新しい自分を始めると言いながらも、犯罪組織との戦いで失った娘のことを今でも引きずって何もできないニート野郎よ」

 

「っ……そうだな」

 

 つらつらとミモザが言い並べた俺に関する情報はほとんど否定できないものだった。

 泣かした女の子の数については物申したい気持ちがあったが、続けられた内容を聞いてその気もなくなってしまう。

 ミモザの意味のわからない発言に混乱していたはずなのに、不思議と俺はそれらを受け入れていた。

 

「“勇者”の運命に抗った男が随分と落ちぶれたものね。いえ、確か偶然だったかしら? とにかく、あなたは死ぬはずだった運命を変えてゲイムギョウ界を救うと言う“勇者”の役割も終えたはずなのに、何1つ学ばなかったようね。それとも、使えなくなった魔法と一緒に忘れてしまったのかしら? ――“御波夢人”は、どこまで行っても凡人以下。偉そうに上から目線で優先順位をつけて問題を解決できるほど、できた人間じゃない。できることはと言えば、どんなに自分が傷つこうとも誰かに手を伸ばし続けることだけ。例え、それがどんなに無様で醜悪でかっこ悪いやり方でも、諦めることだけはしない……直向きに前だけを見つめて走り、お互いに優しくなれる理想を叶えるんじゃないの?」

 

 染み渡るようにミモザの言葉が俺の中に溶け込んでいく。

 どんどん増えてくる問題のせいで感じていた頭痛がスーッとひいていくような気がする。

 

 ミモザの言う通り、俺は何の取り柄もない人間だ。

 それがネプギアの記憶喪失を治せるのか? ――無理に決まってる。

 世界のこととか悩んでどうする? ――何もわかるわけないだろ。

 どちらのネプテューヌが本物なのかを決められるのか? ――そんな権利はない。

 ラステイションの問題を解決できるのか? ――不可能だ。

 今まで頭の中でぐるぐる回っていた問題全て、俺に解決できる物は何ひとつないと断言できる!

 開き直りだと言えば、そうだと言わせておけばいい。

 だが、これは決して諦めなんかじゃない。

 むしろ、俺が前に進むための道しるべだ。

 

「ミモザ」

 

「だから、気安く呼ぶなって……」

 

「ありがとうな」

 

 お礼を言われるなんて思っていなかったであろうミモザは目を丸くしてしまう。

 その反応が可笑しくて、俺は自然と口元が緩んだ。

 

 ……俺は何を気負ってたんだろうな。

 何でもできる万能超人にでもなったつもりかよ?

 ちょっと頼られたぐらいで調子に乗ってただけのくせに。

 馬鹿な俺がいくら考えたところで、問題を解決する方法を思いつくはずがないだろ。

 何もできない俺が動いたって、事態を好転させられるわけがないだろ。

 そんな俺ができる唯一の方法は、ただ全力でぶつかっていくことだけのはずだ!!

 失敗が何だ? 後悔が何だ? ――そんなことを気にして前に進めるわけがない!!

 やれることを先送りにして立ち止まっている方が、もっと辛い!!

 自分を守る言い訳をしているくらいなら、もっと踏み込んで前に進め!!

 倒れたっていい!!

 それだけ進んでいるってことだ!!

 そして、また立ち上がって進めばいい!!

 もし立ち上がれそうになくても、今夜俺に大切なことを気付かせてくれたミモザのように、差し出されている手がきっとあるはず!!

 無駄に1人でかっこつけて、抱え込む必要なんてない!!

 同じように前に――【未来】へ進む仲間がいるんだから!!

 

「少しはマシな顔になったわね」

 

「おかげさまでな。本当に助かった」

 

「――勘違いするんじゃないわよ。私はブ男であるあなたがこれ以上醜い顔になって傍にいられることが我慢できなかっただけよ。そもそもあなたは私の許せない人種の1人よ。勝手に好意的に受け取るんじゃないわよ」

 

「許せない人種って、シアンのところで言っていた奴か?」

 

 微かに口角を上げてミモザがにやつくのに対して、俺はお礼を言いながら笑って返す。

 すると、ミモザは嫌そうに眉をひそめながら俺を睨みつける。

 確認する意味を込めて俺が尋ねると、ミモザは視線を空へと上げて口を開く。

 

「そうよ。私は口だけの約束と、目の前の現実を見ようとしない考え方をする奴が大嫌いなのよ。大言壮語で理想を語るだけの夢想家が特にね――だから、私はあなたを認めない。そして、この国の人達のあり方も認めないわ」

 

「俺だけじゃなくて、この国の人達もか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 ギリッと奥歯を噛みあわせて、ミモザは憎々しげに夜空を睨む。

 俺が問いかけると、ミモザは顎を下げて首を軽く左右に振る。

 すると、徐にポケットから1本の黄色いリボンを取り出して腰まで伸びた若草色の髪の毛を縛り始める。

 その仕草は手慣れたもので、鏡もないのにミモザは自分の髪をすぐに綺麗なポニーテールにまとめ上げたのだ。

 

「ちょうどいいから、あなたも私の壁としてついてきなさい。それくらいできるでしょ」

 

「ちょっ、急にどこに行く気だよ?」

 

 リボンの端をピンと伸ばし終えると、ミモザは高圧的に俺に命令してきた。

 急に背を向けて、どこかに行こうとするミモザを俺は慌てて呼び止めようとする。

 すると、ミモザは立ち止まり、顔だけを俺に向けてにやりと笑う。

 

「ただの殴り込みよ――この国の腐敗の温床に、ね」

 

 ……え、本気で?




という訳で、今回は以上!
いやまあ、票数が圧倒的でしたね。
さすがの人気と言わざるを得ませんよ。
さて、次の投稿はおそらくクリスマス記念の方なので番外編を更新します。
以前、後書きで報告しました5人をメインにしたものなのでお楽しみに。
それでは、 次回 「負け犬×情熱×ヒント」 をお楽しみに!
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