超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
時間的にすでに8月になってますね。
できれば7月が終わる前に投稿したかったorz
それでは、 バイバイ、マイスター はじまります


バイバイ、マイスター

 リーンボックスの教会、その一室で少女は1人携帯端末に目を落とす。

 肩までの長さに切りそろえられた金髪に青い瞳、スポーティーな印象を与えるトップスとパンツスタイル。

 すらりと伸びた手足からも、少女の健康的な美しさを引き出しているように見える。

 

 しかし、少女の顔には憂いの色があった。

 携帯端末に表示されている文字が少女の心を重くする。

 

「もう、終わりなんだね……」

 

 少女のせつないつぶやきが部屋に響く。

 辛そうに瞳を閉じ、携帯端末を胸に強く抱き寄せた少女は送られてきたメールの通りに行動すべきかと逡巡する。

 

 メールを送って来た相手は少女の思い人であった。

 常の少女であれば、メールが送られてきただけでも嬉しそうに顔を綻ばせていただろう。

 そして、楽しそうにどんな風に返信すべきかをベッドに寝転がりながら足をばたつかせて考える、少女にとってささやかな幸せの時間になっていたはずであった。

 

 だが、今の少女に思い人からのメールを楽しめる余裕はない。

 その文面は少女にとっても待ち望んだものであった。

 いつかは絶対にこの日が来ることを理解しており、あの病院での自分を変えようと行動を始めた時から、ずっと気に病んでいたことでもある。

 この思いのせいで傷ついたり、大切な友達だと思っていた彼女達と喧嘩したり、本当の家族になろうと歩み寄って来てくれた姉達にもたくさん酷いことをしてしまった。

 

 しかし、少女はこの思いに嫌悪感を抱いてはいない。

 この思いを芽生えさせてくれた人がいたから、今の自分があるのだと少女は思っている。

 少女の世界を広げ、新しい自分を始めさせてくれた人がいたからこそ、自分の本当の思いに気付き、大切な友達が増え、家族だと誇れる2人の姉と絆を深めることができたのである。

 だから、少女は胸の中に息づく温かい思いを否定しない。

 その思いもこれまで自分を作り上げてきた大切な一部であることを知っているから。

 

「……行くしか、ないよね」

 

 目を開けた少女は悲しみを隠そうとせず、表情を歪ませたまま部屋を出ていこうとする。

 しかし、ドアノブに少女が手を掛けようとするのだが、まるで拒絶反応が起こっているかのように腕が震えて動かない。

 

「駄目だな、私……もう行かなきゃいけないんだから」

 

 無理に笑おうと頬を動かそうとするのだが、少女の唇が震えるだけで泣くのを我慢しているようにしか見えない。

 瞳にもジワリと涙が浮き上がるのを自覚すると、少女は自分がこんなにも浅ましかったのかと心の中で卑下し始める。

 待ち望んだことなのに、いざその瞬間になって逃げ出したくなった自分が嫌になってしまったのである。

 しかし、いつまでも立ち止まってられないと、震える手の甲に同じく震えている手のひらを合わせて、ドアノブを弱々しく掴む。

 躊躇いながらもゆっくりと扉を開いた少女に、引き返す道は用意されていない。

 後は、思い人から送られてきたメールに載せられていた場所に足を進めるだけであった。

 

 

*     *     *

 

 

 私、リーンボックスの女神候補生ナナハは恋をしている。

 

 ちょっと周りとは違った特殊な生まれの事を考えると、恋を経験するのが遅い気もするが、日々初恋に胸を疼かせている。

 事実、私は外見的な年齢と精神的な年齢が一致していない。

 何故なら、私は2度目の人生を送っているのだから。

 

 ……北条沙織。

 今の私に生まれ変わる前の名前。

 あの時の私は割と普通によくいる学生の1人だったと思う。

 何の取り柄もなく、ただキラキラした生き方をしている人達を羨む日々を送っていた。

 勉強ができる人、スポーツができる人、歌が上手い人、皆の前で演説したりしちゃう人なんかは、私にはないキラキラした輝きを持っているように感じた。

 そんな人達に憧れて努力しても、実を結ぶことのない日々が苦痛だった。

 いつまでもキラキラできない自分が嫌いで、憧れた人達のような人生を諦めそうになった時、私の運命を変える出来事が起こったんだ。

 

 その人は綺麗な女性だった。

 真っ白な空間にいつの間にかいた私は自分が死んだことと、目の前にいた女性の言葉しか頭になかった。

 その人は私にもう1度生まれるチャンスと願いを叶えてくれると言ったんだ。

 願いを叶えてくれる、私はそれに喰いついてしまった。

 だから、私は望んでしまった。

 憧れた人達のように生きるためのキラキラとした輝き……『才能』を。

 

 生まれ変わった私の毎日は退屈だった。

 勉強にしろ、スポーツにしろ、私は他の子達よりも優れていた。

 そう言う意味では、私が女性から貰った『才能』はちゃんと機能していたのだろう。

 努力をすればその分だけ自分の力に変わっていく感覚に、私は北条沙織であった時に感じなかった優越感と言うものを覚えた。

 それがまさに私の考えるキラキラしている人達が見ていた景色なんだと、この時は疑わなかった。

 

 しかし、貰った『才能』は私を孤独にした。

 今まで一緒に遊んでいた子達は離れていき、誰も私に近づこうとしなかった。

 遠巻きにこそこそと何かを話し、私が近づけば逃げていく。

 当時の私はそのことが信じられなかった。

 私の考えていたキラキラした人達は誰からも愛され、周りから笑顔が絶えない、そんな人達だったのだから。

 貰いものだけど、確かに憧れた人達と同じ『才能』を持っているはずなのに、どうして私は1人になってしまったのか、本当にわからなかったのだ。

 

 ……今にして思えば、私はただ優越感に浸りたかっただけかもしれない。

 周りから称賛を受け、ちやほやされたかっただけだと思う。

 貰いものの『才能』を、まるで自分のものだと自慢したかったんだ。

 私はこんなことができるんだ! だから、皆よりも凄いんだよ! って、独りよがりな考え方をしてたんだろうね。

 

 増長していた私の気持ちを、さらにへし折るような変化がある日の夜に起こった。

 突然、私の瞳の色が紫色になってしまったんだ。

 最初はその変化すら気付かなかった。

 急に今の私を生んでくれた母親に頬を張られたことが始まりだった。

 何事かと思い、叩かれた頬を押さえながら見上げると、怯えたような表情で私を見つめてくる両親がいた。

 当然、どうしてそんな顔をされるのかわからない私が両親に近づくと、母親は決定的な一言を言った。

 

【来ないで!】

 

 明確な拒絶の言葉であった。

 『才能』のせいで孤独になった私の胸をこれ以上ないって思う程抉るものだった。

 まさか両親まで私から離れていってしまうのかと、信じられない気持ちで手を伸ばすと、母親の頬が恐怖に引きつったのが見えた。

 ……もう限界だった。

 両親に拒絶されたのだと悟った私は家から飛びだした。

 もう何も信じられない。

 自分が輝くために貰った『才能』も、仲のよかったはずの子達も、今の私を生んでくれた両親さえも。

 キラキラと輝きたいと願った第2の人生は、私に苦痛しか与えてくれない。

 こんなはずじゃなかった。

 私はこんな思いをするために生き返ったわけじゃないっ!

 キラキラと輝きたかっただけなのにっ!

 

 自業自得とも言える現状に不満しか漏らせなかった私は、気が付けば暗い裏路地の壁に背を預けて泣いていた。

 どうやってここまで来たのかはわからなかったけど、とりあえず空を見上げながら泣いていたことだけは覚えてる。

 着ている服もボロボロ、髪の毛なんてぐしゃぐしゃ、転んだんだと思うけど膝や肘も痛かった気がする。

 でも、それ以上に空に光る星達が綺麗だと思っていた。

 見上げた星の輝きが……手を伸ばせば届きそうに見えるのに、絶対に手に入れることができないそれがやけに悲しく思えた。

 まるでお前には輝く資格なんてない、と言われているような気がした。

 だったら、このまま死んじゃってもいいかな、と思った時だった。

 

【……もし】

 

 2度目の人生を送っていた私の運命を大きく変えた女神に出会ったのは。

 彼女の腰まで届く綺麗な金髪と胸を強調するような緑のドレスのような服が、絶望しかけていた私の目に強く印象に残った。

 彼女、リーンボックスの女神ベール、ベール姉さんとの出会いが女神候補生であるナナハの始まりだった。

 

 流されるままベール姉さんに連れられて、リーンボックスの教会にやって来た私はそこで初めて自分の瞳の色が変化していることに気付いた。

 瞳の中央に変な模様も浮かんでおり、まるで昨日までの自分と同じ顔だとは思えなかった。

 あの時、私はこの瞳を悪魔の目だと思い、両親に捨てられたのも、『才能』を貰ってもキラキラできない原因はこれにあると思いこもうとした。

 今にして思えば無理やりなこじ付けだとわかるけど、あの時の私はそう思いこまなければ心を壊してしまいかねないほど追いつめられていた。

 そんな私を止めてくれたのは、ベール姉さんだった。

 暴れる私を優しく抱きしめ、女神グリーンハートの姿に『変身』したベール姉さんはこう言ってくれたんだ。

 

【よければ、わたくしの妹になりませんか?】

 

 嬉しかった。

 皆が私から離れていく中で、ベール姉さんだけが手を差し伸べてくれたのが。

 絶望しかけて冷たくなった心が温かくなるのを感じた。

 だから、私は自然とベール姉さんの提案に頷いていた。

 女神候補生としての私の始まりだ。

 でも、この時の私には名前がまだなかった。

 前世で名乗っていた北条沙織でも、生みの親が名づけてくれた名前も、特に思い入れがなかったんだ。

 女神候補生として、ベール姉さんの妹として生きるために、私は新しい名前が欲しかった。

 そして、できればそれをベール姉さんから、新しい家族から貰いたかった私は我がままだと思いつつも、おねだりをしてしまった。

 不意打ちだったのだろう、ベール姉さんはオロオロとしながら必死に私の名前を考えようとしてくれた。

 しばらくすると何かを閃いたのか、一冊の本のしおりを取り出して見せてくれた。

 そのしおりは四葉のクローバーが押し花のようにされていた。

 ベール姉さんはどうしてそんなものを見せたのかわからない私を優しく抱き寄せ、髪を撫でながら穏やかに笑って説明してくれた。

 

【あなたにいっぱい幸せが訪れるように……7つの葉のクローバー、つまりナナハという名前を送りますわ】

 

 三つ葉と四葉を合わせたクローバー、それが今の名前であるナナハの由来。

 リーンボックス女神候補生ナナハ、グリーンシスターの誕生だった。

 

 でも、そんなナナハになった私の新しい毎日は、すぐに以前までと同じものになってしまった。

 最初、女神の力をコントロールするためにベール姉さんが付きっきりで指導してくれたおかげで私はすぐに女神の力を自分の力にすることができた。

 それを見たベールが私を天才だと言ってくれたのだが、素直に喜べなかった。

 生みの親に捨てられて間もなかった頃であったため、私はまだベール姉さんのことを完全に信じることができなかったんだ。

 だから、天才と称されて私は何だか壁を感じてしまった。

 ベール姉さんがそんなつもりで言ったのではないことは分かっているけど、どうしようもない心の隔たりを感じたんだ。

 その心の壁の名前は『特別』……2度目の人生を歩みながら、女神と言う人間じゃなくなった私を他人と区別するために自分で作り出してしまった心の距離だった。

 私はベール姉さんに褒められる度に、自分が作った壁が厚くなっていくことに気付いていた。

 でも、私にそれを壊す勇気は持てなかった。

 だって、壊してむき出しにされてしまったら、北条沙織だった頃の『才能』のない自分がさらけ出されてしまう。

 それを知られたら、ベール姉さんだって私から離れていくかもしれない。

 あの時の、ベール姉さんに歩み寄ろうとしなかった私にいつもそんな恐怖が襲い掛かって来た。

 だから、私は積み上げていくことしかできなかった。

 『特別』という壁を、本当の自分を知られる恐怖を隠しながら。

 

 そんな毎日がずっと続いていくと思っていた頃、ちょうど3年前にベール姉さんが犯罪組織に敗れて捕まったとの知らせが届けられた。

 だけど、私は悲しいと思えなかった。

 ベール姉さんを助けようとも思うことすらなかったんだ。

 チカ姉さんにどんなことを言われても、私の心は変わることがなかった。

 私のインチキで獲得した『特別』じゃない、本物の『特別』を持っているベール姉さんをどうやって助ければいいの? と、自分で言うのもなんだけど随分と斜に構えた考えを持っていた。

 その時にはもう、私は『特別』の壁に埋もれてしまっていた。

 自分で作り出してしまった『特別』な私と言う虚像に押し潰されそうなっていた。

 純粋にキラキラとした生き方を望んでいた私……望まれていない私は消えなくちゃ駄目なんだと。

 

 そんな私の心を救ってくれた人がいた。

 御波夢人、私の初恋の相手だ。

 最初会った時は、ただの女装趣味の変態としか思えなかった。

 後で聞いた話だけど、当時犯罪組織の片棒を担いで有名になろうとしたユピテルの皆が起こした事件に巻き込まれたせいで、已む無く変装する羽目になっていたらしい。

 ……でも、わざわざ女装する必要はないと思うだけどな。

 

 私にとって、夢人は理解できない存在だった。

 もちろん女装していたせいもあるけど、その行動原理が特に理解できなかった。

 弱いくせにモンスターと戦ったり、私なんかを助けるために怪我を負ったりもした。

 正直言って、夢人には戦うためのセンスがない。

 才能と言い換えてもいいけど、とにかく夢人は精々人並みレベルまでしかないだろうと思う。

 いくら努力をしようとも、ベール姉さんはおろか私のようなインチキの『特別』にすら届かないだろう。

 夜にケイブとの特訓を繰り返す姿を見て、私は夢人のことをそう評価した。

 無駄な努力をして何が楽しいのかと、私は夢人のことを見下していたんだ。

 『才能』のなかった時のことを、北条沙織だった頃の時を棚に上げて。

 

 そのくせ夢人は笑っていたんだ。

 特訓は辛いはずなのに、いくら努力をしても無駄なのに。

 私には眩しく見えたんだ。

 醜くも、あの時の私は夢人に嫉妬していたんだ。

 北条沙織と同じはずなのに、キラキラしているように見えた夢人の姿に。

 何の『才能』もない夢人が輝けるのに、どうして『才能』がある私が輝けないのかと。

 だから、私は八つ当たり気味に夢人に言ってしまった。

 人には壁がある……望む望まない関係なく、絶対に乗り越えられない壁があると。

 

【言ったろ。女の子を守るのに理由はいらないって】

 

 だけど、夢人は馬鹿にしたり見下したりした私を救ってくれた。

 私のことをどこにでもいる普通の女の子だと言いながら、夢人は私に見せてくれたんだ。

 その輝きを、私の憧れた本当のキラキラを。

 

【運命なんてもんは、いつだって自分の手で切り開けるんだよ】

 

 そう言って、物理的に私達を閉じ込めていた岩を拳で砕いた夢人の姿を見て、私の『特別』の壁に罅が入ったことを覚えている。

 今まで私は自分から何もしようとしなかった。

 独りよがりな努力で満足して、他人から与えられた状況に流されるだけだったんだ。

 そんな私がキラキラと輝けるわけがない。

 憧れているだけじゃ、いつまで経っても自分のキラキラを手に入れることはできないんだ。

 いくら新しいスタートを切ろうとも、心が輝こうとしない限り、私は本当の自分を始められないことを夢人との出会いで教えられた。

 2度目の人生が始まって、初めて世界が色づいた瞬間だった。

 

【俺はナナハに出会って不幸になんかなってない! ……むしろ、ナナハと出会えたことは俺の幸せだ!】

 

 アンダーインヴァースでレイヴィスの言葉に心を折られそうになった時に聞いた言葉、今思い出すだけでも私の心を強く揺さぶってくるよ。

 『転生者』であることが、ゲイムギョウ界に悪影響を及ぼすと言われ、自分のことを皆を不幸にする悪魔だと思いこみそうになった時、夢人の言葉が私を救ってくれたんだ。

 レイヴィスから私を守るように立っていたその背中がとても大きく見えた。

 心の疼きを抑えられず、涙が自然とこぼれてしまった。

 ……この時から、私は夢人に夢中だったんだ。

 漫画やアニメのように、ヒロインである私をいつも助けてくれる優しい王子様。

 ちょっと少女漫画の読み過ぎなような気がしたけど、私にとって夢人は初めてずっと傍に居たいと、隣にいて守ってもらいたいと思える男の人だった。

 決して力が強いわけではないけど、夢人の心の輝きが強く私を引き付けたんだ。

 

 だから、私は今も夢人に恋をしている。

 その後もギョウカイ墓場で夢人が消えたり、ネプギアの考え方が受け入れられないものだったりと、色々なことが起こった。

 特に、ギャザリング城の地下で遂にネプギアが夢人と両思いであることを知った時、私は自分の恋が終わってしまったんだと錯乱して暴走してしまった。

 あの時のことはよく覚えてないけど、私を助けようとしてくれたベール姉さんにとても酷いことをしてしまった。

 だけど、私は今も夢人のことが好き。

 愛してると言ってもいいくらいに、1番近くでずっと一緒に居たいと強く思ってる。

 

 ……でも、それも今日でお終い。

 私は今から夢人に会いに行く。

 デートの最後に告白した丘、私のお気に入りの場所に。

 

 

*     *     *

 

 

 気が付けば、空は茜色に染まっていた。

 私がリーンボックスの教会を出た時には、まだ青空が広がっていたと言うのに。

 気付かないうちに、私の足は遅くなってたみたいだ。

 

「あっ……」

 

 私が丘に辿り着くと、そこにはもう夢人の姿があった。

 夕陽を眺めているのか、私にはその背中が黒い影にしか見えなかった。

 でも、その影が夢人であることはすぐにわかった。

 

「遅くなってごめん」

 

「いや、気にするなって。俺が早く来すぎただけだからさ」

 

 迷いなくその背中に謝ると、夢人は振り返って私にほほ笑みかけてくれる。

 このやり取りだけを考えると、デート前の恋人同士だと思ってしまうが、実際に私達の雰囲気はどことなく重い。

 私は夢人と視線が合うことを恐れて俯いてしまったからだ。

 夢人もそんな私に何を言っていいのかわからないようで、何も話そうとしない。

 

 ……ずっとこのままでいればいいのに。

 ふいに脳裏によぎった甘い考えに、私はつくづく自分のことが嫌になってくる。

 夢人が私をここに呼び出した理由なんて、1つしかないのに。

 

「今日はナナハに聞いてもらいたいことがあるんだ。そのままでもいいから聞いていてくれ」

 

 痺れを切らした夢人が口を開いた。

 いつもは私の優しく溶けるような声も、今は少しだけ硬さを感じる。

 その声が聞こえた瞬間、私の肩は跳ね上がり、両耳を塞ぎたい衝動にかられてしまう。

 でも、私は夢人の言葉を聞かなければいけない。

 俯いた顔は上げられないけど、夢人が話す内容をちゃんと聞かなくちゃ駄目なんだ。

 

「告白の返事……俺はナナハの思いに応えられない。俺が好きなのは、やっぱりネプギアなんだ」

 

「っ」

 

 急に胸が苦しくなった。

 締め付けられるような圧迫感を覚え、私は苦痛に表情を歪ませて歯を食いしばる。

 

 ……わかってた。

 夢人がそう答えるのなんて、最初からわかっていたんだ。

 あの病院で告白した時も、この場所で2回目の告白をした時も、私の思いは夢人のネプギアへの思いに勝てないと。

 それでも、最初から諦めたくないから私は夢人に告白したんだ。

 少しでもいい、可能性があれば私にもチャンスがあると信じて。

 

「答えを出すのが遅くなってごめん。ずっと優柔不断な態度で苦しませたのに、ナナハの思いに応えられなくてごめん。それでも俺はナナハの望んだ答えを返すことはできないんだ」

 

 辛そうに謝罪してくる夢人の言葉を聞いていると、私の胸はどんどん痛みを増していく。

 

 謝らないでよ。

 私が夢人を困らせたんだよ?

 夢人がネプギアを好きなのを知ってて、告白したんだよ?

 私が告白しなければ、夢人は今頃もうネプギアと恋人になってたかもしれないのに、どうして謝ってくるの?

 ……全部、全部私の我がままのせいなんだよ!!

 夢人は何も悪くない!!

 悪いのは全部私なんだ!!

 夢人のネプギアへの思いが少しでも自分の方を向けば、と思っていた浅ましい私のせいなのに!!

 

「こんなことを言うのも変だけど、俺明日ネプギアに告白してくるよ。ナナハの気持ちを踏みにじったのに、いつまでも自分の気持ちを大切にしまっておけない……今日はそれだけを伝えに来たんだ」

 

「あっ……」

 

 夢人なりのけじめなんだろう、ネプギアに告白すると言って立ち去ろうと横切られた瞬間、私は腕を伸ばそうとしてしまう。

 ……でも、夢人の腕を掴む事はできない。

 だって、夢人はちゃんと私の思いに応えてくれた。

 ちゃんと告白の返事をくれたじゃないか。

 だから、私も笑ってネプギアとの仲を……っ!?

 

「あっ、あああ、あああああああ………………っ!?」

 

 勢いよく上げた顔で捉えたのは、私に背を向けて歩いていく夢人の姿。

 いくら手を伸ばしても、どんどん遠ざかっていく……ベール姉さんに拾われた日に見上げた星空の輝きに似ている。

 ……私の輝きは、夢人の心に届かなかったんだっ!!

 

「うぅぅ、あああああ………………うわああああああああああああん!!」

 

 その場にへたりこみ、私は小さく体を丸めて無き叫んだ。

 夢人に聞こえることも、喉が潰れてしまうかもしれないことも気にせずに私は泣き続ける。

 

 ……ごめんなさい、こんな未練がましく泣き叫んでしまって。

 本当はネプギアとの事を応援したいのに、できない私でごめんなさい。

 ネプギアのことを好きな夢人をずっと困らせていてごめんなさいっ!!

 

 でも、今日まででいい。

 今日が終わるまでは、夢人のことを好きでいさせて下さい。

 あの星が消えるまでは、夢人のことを愛する気持ちを許して下さい。

 この胸に溢れる悲しみは消せないけど、明日になったらできるから。

 夢人とネプギアのことを祝福できるようになれるからっ!!

 だから、せめて今日だけは……今日が終わるまでは……あなたのことを愛させてください。

 

 夕陽は完全に沈み、薄暗くなった夜空に星の明かりが灯る。

 でも、私はまだしばらく動けそうにない。

 見つけた一番星の輝きが遠のいていくように霞んでゆく。

 

 ……さよなら、私の初恋。




という訳で、今回はここまで!
……この流れ、次回はもう大体わかりますよね?
果たしてどんな結末が待っているのか。
それでは、 次回 「気持ち伝えて」 をお楽しみに!
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