超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
いよいよ今回で50話目になりますね。
……それなのにまだラステイション編って。
後、ちょっと前回からの補足もあってサブタイも変更です。
それでは、 孤独×賭け×技 はじまります
「本当、単純だったわね」
「……はい?」
シアン達が結束を強めていた頃、寄り合いが開かれていた場所からホテルへと帰る道の途中でミモザは髪を縛っていたリボンを解きながら、夢人に聞こえるように呟く。
一瞬、何を言われたのかが分からなかった夢人はきょとんとしてしまう。
語感で夢人が理解していないことを悟ったのであろうミモザは顔だけ振り返って口を開く。
「だから、あそこに集まった彼らのことよ。少しそれっぽいことを言っただけで、あんなにやる気になるなんて。あなたと同じで単純馬鹿の集まりだったみたいね」
「おいっ!?」
先程やる気を出した男達を馬鹿にして、ミモザは皮肉っぽく笑った。
あんまりなことを言うミモザに、夢人は慌てて尋ねる。
「お前は俺やシアンの時のように、わざと怒らせるようなことを言ってあの人達をやる気にさせようとしたんじゃないのか!?」
夢人の解釈では、ミモザは敢えて男達を悪く言うことでやる気を引き出したのだと思っていた。
その証拠に、部屋を出ていく際にミモザの口元がわずかに吊り上っていたことを夢人は見ていた。
「――はあ? どうして私がそんなことをしなくちゃいけないのよ?」
しかし、驚いている夢人に対して、ミモザは呆れた顔で返した。
歩みを止め、ミモザは体ごと夢人へと振り返って腕を胸の前で組む。
「何を勘違いしているのか知らないけど、私はあの見るに堪えない汚物どもにトドメを刺しに行っただけよ。まあ、予想以上に単純で低脳な馬鹿の集まりだったせいで予定が崩れちゃったけどね。本当、男って生物はあなたみたいな奴しかいないのかしら?」
「……いやいやいや、それ本気で言ってるのか!?」
あっけらかんとぶちまけるミモザに、夢人の頭は混乱してしまう。
ミモザの行動に理解が追いつかないのだ。
確認するように尋ね返す夢人に、ミモザは不快そうに眉をひそめる。
「何を当たり前のことを言ってるのよ。私は嘘が嫌いなのよ。あの場で言ったことは全部私の本心。あなたみたいになってるこの国の連中が気にくわないから、クレームを突き付けに行っただけよ」
「クレームって……」
夢人の中で寄り合いで繰り広げられたミモザと男達のやり取りの印象ががらりと変わってしまった。
敢えて憎まれることで男達を焚きつけるミモザ……ではなく、ただ不満を言いに行ったミモザと勘違いをしてやる気を見せる男達の図に。
扉越しからでも聞こえてきた男達の熱い叫びを聞いた夢人としては、何とも言えない微妙な気分になってしまう。
結果的によい方向へと転がったからよかったものの、男達と同じようにミモザの言葉でやる気を出した分、夢人はいいように騙されたことを喜んでいいのか、それとも馬鹿にされたことを怒っていいのか複雑であった。
「……何か文句でもあるのかしら?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど……」
「だったら、いいじゃないの。そもそも他国の私に言われるまで動けない汚物どもが悪いのよ。まったく、シアンもシアンで昨日言ったばかりなのに諦めかけていたし」
何か言いたそうな夢人を、ミモザはぎろりと睨む。
曖昧に濁そうとする夢人に、ミモザはあからさまに肩を落とす。
半目になってぼやくミモザの言葉に、夢人は疑問を覚えて尋ねる。
「えっ、ミモザってラステイション出身じゃないのか?」
「はあ? どうして私がこんな女神様への敬いに欠ける国に属さなくちゃいけないのよ?」
夢人の質問を一蹴し、ミモザは嫌そうに顔を歪めた。
「女神様への信仰を勘違いして、権力争いの駒にするような連中と私が同じに見えるの? ――はっきり言って不快だわ。2度と間違わないでちょうだい。いいわね?」
「わ、分かった」
ありありと嫌悪と苛立ちを表に出すミモザに、夢人は困ってしまう。
純粋に疑問に感じたことを口にしただけで噛みつかれるなんて堪ったものではない。
そんな夢人の様子を見て、ミモザは疲れたようにため息をつく。
「はあ、あなたはどうしてそんなありもしない妄想をしたのかしら?」
「だって、さっきノワ――じゃなかった、ブラックハート様がシアン達を見捨てて当然とか言ってたじゃないか? あれも本気で言ってたわけだろ?」
「ああ、そう言うことね。別に普通に考えれば、ブラックハート様がアヴニールの味方をするのは当然じゃない。女神様は国の発展を常に願っているのよ? 生産性のない汚物どもとアヴニールだったら、アヴニールを取るに決まってるじゃないの」
当たり前だと言わんばかりの顔で説明をするミモザに、夢人は納得がいかなかった。
夢人の知っている女神達――ネプギア達は確かに国の発展を願っているだろうが、困っている国民を見捨てるような行動は絶対にしないと思っている。
そんなネプギア達だからこそ、夢人も生まれた世界を捨てて、一緒にゲイムギョウ界で生きていこうと決めたのだ。
「その顔じゃ、納得はしてないわね。はあ、これだから現実を見れない奴は嫌いなのよ」
「……どう言う意味だよ?」
「そのままの意味よ。あなたも女神様に夢を見過ぎている単純馬鹿だってこと――よくそれでネプギアのことを好きだって言えるわね」
「お前……っ!」
眉間にしわを寄せてムッとしている夢人を見て、ミモザはため息をついた。
低い声で尋ねても、ミモザは夢人を見下すように見つめるだけ。
吐き捨てるように自分の恋心を馬鹿にされ、夢人は怒りをあらわにしてミモザを睨む。
「本当のことよ。あなたはネプギアと言う女の子を愛していても、女神様としてのネプギアを理解しきれていない。だから、私の言葉なんかで簡単に怒るのよ」
「確かに俺は女神についての理解が足りないのかもしれない。だけど、そんなの関係……」
「関係あるわ。だから、あなたは夢を見過ぎている単純馬鹿なのよ――女神様はあなたの考えているような身近な存在じゃない。私達人間と違って、常に孤独を感じているのよ」
「孤独?」
元々女神のいない世界で生まれ育った夢人は、ミモザの言葉を完全には否定できない。
それでも反論しようとする夢人を遮り、ミモザは悔しそうに表情を歪める。
辛そうに語るミモザの様子を見て、夢人は驚きに目を見開いてしまう。
「ええ、そうよ。女神様は私達人間のせいで常に孤独なのよ。寄り合いでの汚物どもの様子を見たでしょ? 私達が祭り上げただけだと言うのに、勝手に期待したり失望したり――都合のいいイメージだけを押し付けて、少しも理解しようとしていなかったわ」
「それはそうかもしれないけど……」
「言いたいことは分かるわ――仕方のないことだって。私達人間と違って、女神様には力がある。皆、それが怖いのよ。だから、特別な存在として……いえ、国を守る守護者としての役割しか求めていないの。それが当たり前だから、あの汚物どものように信仰を勘違いする人が多いのよ」
今にも泣き出しそうな様子で語り続けるミモザに、夢人は何も言えなくなってしまう。
ミモザの話のように孤立した女神候補生――ナナハを知っているからだ。
女神の力に目覚めたナナハに恐怖した両親は、彼女を家から追い出した。
そのことで悩み傷ついて自分の殻に閉じこもってしまったナナハを知っている夢人にとって、ミモザの言っていることが間違っていないことは分かる。
しかし、知っているからこそ納得もしきれない。
そんな夢人の心情を悟ったのか、ミモザは薄く笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「あなたは女神様に近すぎたのよ。私の言葉をおかしいと感じて怒れるのはその証拠――でも、ここにいるのはあなたの知っている世界の女神様達じゃないわ。必要に迫られれば、この世界の女神様は非情な決断だって下せるわ。それが私達への女神様を祭り上げた罰なのよ。女神様の力に怯えて逃げた私達の罪。女神様を孤独にしているのは、自己保身に走った傲慢な私達人間の……」
「――そうだとしても」
「えっ……」
懺悔するように辛そうに話すミモザの言葉を、夢人は遮った。
驚いてきょとんとしているミモザを真っ直ぐに見つめ、夢人は柔らかくほほ笑む。
「そうだとしても、俺はこの世界の女神達を信じる。確かに、俺は“勇者”って特別のせいで近すぎたのかもしれない。でも、俺はもう“勇者”じゃない。普通とはちょっと違うけど、ただの人間だ。だから、俺もお前のように女神達を――この世界を真っ直ぐに見つめて信じるだけだ」
「私のように?」
「だって、そうだろ? お前も女神を信じているから、あの人達の態度に我慢ができなかった。それって今の俺なんかよりも、ずっと女神のことを理解しているからだろ。だから、俺ももっとこの世界と女神を理解するために手を伸ばし続ける。お前のように、絶対に女神を孤独にさせないためにな」
「っ、ふん!」
不意に夢人は視線を自分の手のひらへと落とした。
開いていた手のひらを強く握り、夢人はミモザのように女神を孤独にさせないために理解を深めることを決意する。
すると、ミモザはハッとして夢人から顔を背ける。
「……本当、単純馬鹿は羨ましいわね」
「何か言ったか?」
「ブ男なりに精々頑張ればって言ったのよ。何時までもこんなところにいないで、さっさと帰るわよ」
「おう!」
はにかみながらミモザは夢人に聞こえないようにぼそりと呟いた。
聞き返す夢人を誤魔化し、ミモザはスタスタとホテルへと帰ろうとする。
これから自分がしなければならない道標を示してくれたミモザに、夢人は感謝の念を抱く。
それだけでなく、夢人はミモザのことを少し嬉しく思う。
自分と同じ――いや、それ以上に女神を思っているミモザの存在に夢人は心強さを感じたのだ。
言葉は乱暴だが、夢人はミモザに背中を押された気分になったのである。
ミモザの呼びかけに返事を返す夢人の足取りはホテルを出た時と違って軽くなり、確かな1歩を踏み出したのであった。
* * *
――ゆっくんは動けなかった。
時間だけが無情にも流れていく中、ゆっくんは歯を食いしばることしかできない。
額からは汗が噴き出し、頬を伝って流れ落ちる。
辛そうに顔を歪めて、ゆっくんは遂に体をぷるぷると震わせ始める。
じりじりと足を前へ動かすことはできても、持ち上げることができないせいで上半身が段々と倒れていく。
すると、ゆっくんの前に立ち塞がっている壁が崩れ落ちるように倒れてくる。
それをチャンスとみたらしいゆっくんは下段に構えていたブレイブソードを振り上げようとして……
「うわっ!? ――があっ!?」
――盛大に足を滑らせた。
上半身が倒れていたことでバランスが崩れたせいだと思う。
前にも後ろにも体重が移せなかったゆっくんは、踏ん張りが必要だった後ろ足を滑らせて体勢を崩してしまった。
振り上げようとしたブレイブソードの重さに振り回され、ゆっくんは肩から地面に横向きで倒れてしまう。
立ち塞がっていた壁はそんなゆっくんにお構いなしに倒れてくる。
「ぶふぉっ!?」
見事に壁――ときめきシスターと言う平面上のモンスターに圧し掛かられて、ゆっくんは無様な悲鳴を上げた。
「カウント! ワン! ツー! スリー!! ――よーし! 賭けはアタシの勝ちだね! 約束通り、お昼のプリンはアタシの物だー!」
「もー!! ゆっくん、どうして負けちゃうの!! わたしのプリン返してよ!!」
判定がついた勝敗を前にして、わたしとREDちゃんのプリンを賭けた勝負にも決着がついた。
ジャンケンで負けたせいで、ゆっくんがモンスターに勝つ方にしか賭けることができなかったわたしは、奇跡が起こるのを信じていたと言うのに。
「ひ、人を賭けの、対象に、する、な……」
ときめきシスターに押し潰されながら、ゆっくんは苦しそうな表情でわたし達を睨んでくる。
だが、途中で力尽きたようで、ゆっくんは持ち上げていた首をガクッと落としてしまう。
……仕方ないなあ、もう。
プリンを失った喪失感は消えないけど、ゆっくんの救出をしないと。
今日これで何連敗だっけ?
* * *
「おーいしー! やっぱり、ヨメからの愛情たっぷりプリンは格別だね!」
REDちゃんは満面の笑みで賭けの報酬として没収されたわたしのプリンを食べる。
その横でわたしはしょんぼりとしながら、ゆっくんから奪ったプリンをスプーンで突く。
……別に賭けに負けたことは気にしてないもん。
わたしのプリンはなくなっても、このゆっくんから奪った新しいプリンがあれば……あれ? でも、REDちゃん理論で行くと、このプリンにはゆっくんの愛情が――何だか急に微妙な味がしてきたなあ。
わたしが今補給したいのはプリン分であって、ゆっくんの愛情なんていらないんだけど。
「……ねえ、REDちゃん。このプリンとそっちのプリン、交換してくれないかな?」
「やだ」
「即答!?」
このままゆっくんの愛情入りプリンを食べることが辛くなったわたしは、苦肉の策としてREDちゃんに交換を申し込んだ。
しかし、REDちゃんは即座にわたしの申し出を却下する。
驚くわたしに、REDちゃんは嫌そうな顔でわたしの持っているプリンを見て口を開く。
「だって、それ夢人のじゃん。いくらヨメの頼みと言っても、さすがに夢人のはなあ……」
「そこを何とか!? REDちゃんはわたしがゆっくんの愛情に汚されちゃっても平気なの!? このままじゃ、わたし……ゆっくんに寝取られちゃうよ!?」
「な、なんだってー!?」
ゆっくんのプリンを嫌がる気持ちは痛いほどよくわかるけど、わたしはどうしてもと頼み込んだ。
そして名案とばかりにわたしがよよよと泣き真似をすると、REDちゃんは大袈裟に声を上げて驚いた。
その反応に確かな手応えを感じ、わたしは心の中でガッツポーズをとる。
だって、ゆっくんのことは好きだけど、ラブじゃないもんね。
人の恋人に横恋慕するほど、わたしも野暮な女じゃないよ。
このプリンに込められたゆっくんの愛情は、本来だったらネプギアが受け取るべきものだもの。
そのネプギアがここにいないから、仕方なくわたしとREDちゃんでゆっくんの愛情を分散してなかったことにしないといけない。
……まあ、どうしてネプギアみたいな美少女がゆっくんのことを好きなのかは謎だけどね。
ゲイムギョウ界七大不思議にノミネートされてもおかしくないミステリーだよ。
「くっ、アタシが間違ってたよ。ヨメのためなら、アタシはどんな辱めだって受けてみせる!! ――ネプテューヌ!!」
「REDちゃん!!」
REDちゃんの愕然とした表情は次第に悔しさに歪んでいく。
やがて、力強く顔を横に振ると、REDちゃんは情熱的にわたしの名前を呼んだ。
応えるように、わたしもこの胸の内から湧き上がってくる温かな気持ちを隠さずにREDちゃんを呼ぶ。
お互いの視線は絡まり、ゆっくりと顔の距離が近づいていく。
わたしは上気しているREDちゃんの顔に吸い込まれるような感覚を覚えた。
何だか恥ずかしくなり、わたしの瞼は自然と重くなって……
「――あっ、また夢人兄ちゃんが負けた」
『あっ、本当だ』
――タツタの言葉で、一気に熱が冷めた。
わたしとREDちゃんが同時に振り向いた先には、お尻を高く突き出して地面に突っ伏しているゆっくんの姿がある。
そのすぐ横には紫色の箱がいくつも重なった姿をしているモンスター――テリトスがいた。
テリトスは不機嫌そうに目を細めて唾を吐き捨てると、倒れているゆっくんに見向きもせずに森の中に消えていく。
……うわあ、テリトスがゆっくんに興味すら持っていないことを幸運と見るべきか、それとも残念に思うべきか分からない光景だね。
まあ、やられているゆっくんにトドメを刺しに行こうとしない分、わたし達が楽出来るから別にいいか。
「おーい、ゆっくん! 生きてるー?」
「……生きてるよ」
駆け寄って呼びかけると、ゆっくんはテンションの低い声で応えてくれた。
モンスターにいいようにやられたのだから、ゆっくんの機嫌が悪いのは仕方ないと思う。
両手を地面について体を起こしたゆっくんの顔の上半分には痛そうな石の痕が残っていた。
「イタタタ……今のタイミングはバッチリ合ってたと思うんだけど、そっちからはどう見えた?」
「えっ、あ、そーだね……わ、ワンテンポ遅かったかなあ?」
顔の砂を落としつつ、ゆっくんはわたしにさっきの戦い――もとい、モンスターのサンドバックになった様子の感想を聞いてきた。
REDちゃんとプリンの交換を必死に頼んでいたわたしは、当然ゆっくんのことを見ていなかったため、思わず視線を逸らして適当に答えてしまう。
すると、ゆっくんはわたしを責めるようにジト目で見つめてきた。
「おい、まさか見ていなかったわけじゃ……」
「さあ、過去を振り返っても前進しないよ!! 次行ってみよう!!」
「無理やり誤魔化そうとするな!!」
「ねぷっ!?」
モンスターにやられて落ち込んでいるであろうゆっくんを励ますべく、わたしは前向きな提案を出してビシッとテリトスが消えていった森の方を指さした。
しかし、さすがに誤魔化しきれず、ゆっくんに頭を叩かれてしまう。
「コラー! モンスターに勝てないからって、アタシのヨメに八つ当たりをするなんて許さないよ!」
「REDちゃん……」
「だったら、REDはちゃんと見ていたよな?」
「――うん、今のはネプテューヌが悪いよね。もー、頼まれたことくらいしっかりやらないと駄目じゃん」
「まさかの裏切り!?」
わたしが叩かれたことで、REDちゃんはぷんぷんと怒りながらゆっくんに文句を言った。
そのことに感動していると、REDちゃんはゆっくんの問いかけにあっさりと主張を変えてしまう。
一瞬のうちに裏切られ、わたしは孤立無援の状況に陥ってしまった。
「とりあえず、夢人兄ちゃんもお昼にすれば?」
「……ああ、そうだな」
まさに鶴の一声と言うべきタツタの提案に、ゆっくんはため息をつきながら立ち上がる。
パンパンと軽くズボンの汚れを払ってお弁当を持っているタツタに近づいていくゆっくんを見て、わたしはホッと一息つく。
よく見ると、傍にいたREDちゃんも同じように安堵の息を漏らしていた。
お互いに気付いて顔を見合わせると、わたし達は自然と頬を緩ませて笑いあう。
……お互い、何とか危機を脱してよかったと思いながら。
* * *
どうしてわたし達が青空の元でお弁当を食べているのかと言うと、別にピクニックに来ていたとかゆっくんがモンスターに負ける姿を笑いに来たとかではない。
ゆっくんがまたザラット神殿に剣の修行に行くと言うので、ついて来てくれと頼まれたのだ。
何故か今朝からやる気に満ちたゆっくんはわたしとREDちゃんとタツタに、どこが悪いのかを指摘して欲しいとお願いしてきた。
それがここに来てから、さっきまでずっと続けてきたモンスターとの実戦訓練だった。
元々ある程度素振りをして体を温めたら、今日からモンスターを相手に戦ってみることをファルコムと決めていたらしい。
しかし、その肝心な監督役のファルコムがシアン達の方に呼ばれて一緒に来れなくなったため、急遽ピンチヒッターとして暇をしていたわたし達が招集されたと言うわけだ。
「それで、リュータから見てどうだった?」
「うーん、オレもよくわかんないけど、何だかやり辛そうに見えたかな? 素振りの時みたいに綺麗に振れてなくて、無理して剣を振ってるように見えたけど……」
「あー、うん……途中でまた足が滑りそうになったんだよ。多分、そのせいだな」
お弁当の中身を食べながら、ゆっくんはわたしとREDちゃんの代わりにタツタにさっきのテリトスとの戦いについて聞いていた。
言い悩むように感想を口にしたタツタの言葉に心当たりがあるらしく、ゆっくんは難しそうな顔でお弁当のサンドイッチをパクつく。
「別に靴底が擦れているわけじゃないんだけどな。どうして滑るんだろう?」
「やっぱり、ファルコム姉ちゃんが言っていたように踏ん張りが足りないんじゃねえの? ほら、昨日後ろ足の指とか言ってたじゃん」
「いや、意識はしているんだよ? でもさ、いざ本番ってなると上手くいかなくてさ」
失敗する原因は分かっても、どう改善していいのかが分からず、ゆっくんとタツタは頭を悩ませる。
「ってか、夢人兄ちゃんの方は大丈夫なのかよ? 朝からずっとモンスターにやられっぱなしで体とか本当に平気なのか?」
「え、ああ、大丈夫大丈夫。これくらいは平気だって――まあ、やられることには慣れてるからな」
「そ、そうなのか?」
話題を変えるように、タツタはゆっくんの体の調子を聞いた。
実際、ゆっくんは平然としているけど、今日だけで体のあちこちに結構傷を作っているはずだ。
なにせ、朝からお昼までずっとモンスターにやられっぱなしだったのだから。
しかし、ゆっくんは平気な顔でタツタを安心させるように笑みを浮かべた。
でも、すぐに遠い目になるのはやめた方がいいと思う。
その何とも言えない雰囲気に圧倒され、タツタの頬は引きつってしまう。
やられ慣れているとはいえ、ゆっくんって見た目に反して結構体が頑丈なんだよね。
ときめきシスターに圧し掛かられたり、テリトスのブロックで叩かれたり、ドカーンに体当たりに吹き飛ばされても目立った怪我をしていないのが不思議でしょうがないよ。
……まあ、そんな何度も繰り返されるリプレイを見るのに飽きて、わたしとREDちゃんはお昼のプリンを賭けた勝負をしていたんだけどね。
結局、ジャンケンに負けたのが運の尽きでわたしのプリンが……
「でもさー、やっぱり1番の問題は夢人が動けないことじゃないの?」
「……それなんだよな」
わたしが今は亡きプリンへの思いに身を焦がしていると、REDちゃんがさっきまで続けられていたゆっくんのサンドバック記録に対する率直な意見を言った。
正直わたしも同じことを感じていたし、ゆっくんも分かっていたことらしい。
頭が痛いと言わんばかりに、ゆっくんは額に手を当ててため息をついてしまう。
ゆっくんがファルコムに教えてもらった戦法は、かなり限定的な状況でしか使えない。
1対1、しかもカウンター狙いでしか意味がない戦法だ。
そのせいで、ゆっくんはモンスターを見つけてもブレイブソードを構えるだけで動けなくなってしまう。
相手役のモンスターもそんなゆっくんを警戒して睨み合いが続いてしまう。
やがて、互いに焦れてきてじりじりと近寄るんだけど、結果はバランスを崩したりタイミングを外してゆっくんがやられるパターンでお終いになる。
「でも、それならどうすれば……」
「ふっふっふっ、そう言う時こそアレの出番だよ! アレの!」
「アレ?」
浮き彫りになった問題点に解決策を考えようとするゆっくんを見て、REDちゃんは不敵に笑った。
眉をひそめながらタツタが尋ねると、REDちゃんは嬉しそうに口を開く。
「必殺技だよ、必殺技! 実はアタシ、夢人にピッタリの必殺技を思いついちゃったんだ!」
「えっ、本当なのか!?」
「うん! それがコレだよ!」
驚くゆっくんに気をよくして、REDちゃんは勢いよく袖口から何かを取り出して地面へと投げつけた。
――それは独楽だった。
クルクルと回り続ける独楽を見てきょとんとしているわたし達に、REDちゃんは得意げに胸を張りながら説明する。
「要は足が滑ることと自分から動けないことをどうにかすればいいんでしょ? だったら、思い切って独楽みたいに回転しちゃえばいいんだよ!」
「……回転斬りってことか?」
「そう、それそれ! これなら自分からモンスターに向かって動けるし、向かってくるモンスターの対処も出来ると思うんだ!」
REDちゃんの説明を聞いて、ゆっくんは下唇に指を添えて考えこむ。
わたし的には、REDちゃんの提案は悪いものじゃないと思う。
回転するってことは、それだけ勢いを付けられるってことでしょ?
だったら、普通にブレイブソードを振るよりも強い斬撃を繰り出せるってことになると思う。
それに、回転技ってのは必殺技の定番だよ。
のこぎりの刃のように回転しながら相手を八つ裂きにする光線技や、ドリルのように回転しながら放つ蹴り技とか、回転技には結構いろいろなバリエーションがある。
――つまり、結論として困った時はクルクル回っとけば全部解決してくれるんだよ!
回るだけなら、初心者のゆっくんでも簡単に出来るだろうし……
「でもさ、それってずっと夢人兄ちゃんが回ってなきゃいけないんじゃないのか?」
『……あっ』
タツタの指摘に、わたしとREDちゃんは間抜けな声を出してしまった。
確かに、回り続けなければならないゆっくんの負担は重くなる。
しかも、回転しながら相手に近づいても逃げられて終わりじゃないのかな?
……改めて考えて見ると、回転斬りって結構難易度高いのかもしれない。
「うー、駄目かー。いいアイディアだと思ったんだけどなー」
困ったような顔で髪を掻きながら、REDちゃんは悔しそうな声を出す。
わたしも乗り気だった分、少しだけ落ち込んでしまう。
でも、仕方ないと割りきって他のアイディアを考えようとした時……
「――いや、回転するってのはいいかもしれない」
1人考えこんでいたゆっくんが、何かを思いついたようでぽつりと呟いた。
すると、すぐにゆっくんは立ち上がってブレイブソードを構える。
「えっと……確か、こう動いて……次に……」
「何やってんの?」
「ちょっとイメージトレーニング」
目を閉じてぶつぶつと呟きながらブレイブソードを小さく動かすゆっくんを不審に思い、タツタは思い切って質問した。
それに短く答え、ゆっくんは何度もブレイブソードを小さく振り続ける。
「うん、だいたい思い出した。後は実際動いてみるしかないか……ありがとうな、RED」
「え、あ、うん。なんだよくわからないけど、どういたしましてでいいのかな?」
「ああ、REDのアイディアで思いついたんだからな――それに、これを完成させれば、ネプギアも納得してくれるだろうしな」
しばらくすると、ようやくイメージが固まったらしいゆっくんが1度脱力して肩をほぐすように回し始めた。
それを終えると、ゆっくんは笑いながらREDにお礼を言った。
1人で納得するゆっくんについていけず、REDは戸惑いながら首を傾げてしまう。
そんなREDに、ゆっくんは苦笑しながらブレイブソードを構え直した。
言葉通り、今度は実際にブレイブソードを振りながら動いてみるらしい。
「えっ、もうちょっとゆっくり休まなくて平気なのかよ? 食べたばっかりだし、もう少し休憩した方が……」
「いや、今頭の中ではっきりと思い浮かべられているうちに1度試してみたいんだ――おっ、ちょうどよく出てきたな」
止めようとするタツタを振り切り、ゆっくんは森の中から出てきたときめきシスターと相対する。
「行くぞ! ――ッ!!」
掛け声とともにゆっくんは自分からときめきシスターとの距離を詰める。
大きく1歩を踏み出し、下段からブレイブソードを振り上げる。
そして――
という訳で、今回はここまで!
中途半端で終わっているように見えますが、これで今回はおしまいです。
ラステイション編は結構長引きましたけど、もうそろそろ1度決着をつけませんと。
それでは、 次回 「散歩×女装×理由」 をお楽しみに!