超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
まあサブタイを見ればわかると思いますけど、今回も長くなったので分割です。
そのおかげで出番が増えるよ、ノワールさん!
それでは、 踊り×女装×理由 はじまります
プルルートから突然夜の散歩に誘われた私だけど、運が悪くプラネテューヌの高官である“ゆっちゃん”と遭遇し、何が悲しいのか両側を挟まれて街から少し離れた河原に連行されてしまった。
せめてもの救いは“ゆっちゃん”がプルルートみたいにギュッと手を握ってこなかったことと、私に積極的に話しかけてこなかったことだろう。
プラネテューヌ高官のくせしてよくわからない行動を繰り返す“ゆっちゃん”は私にとって不気味な男性だった。
実際、握っているように見せかけるために触れられていること自体、私には言い知れぬ不快感を与えてきた。
恥ずかしいなんて気持ちはまったく湧かなかった。
敢えて素直に自分の気持ちを言い表すなら……気持ち悪いと言う表現が適切だと思う。
――そう、“ゆっちゃん”の手は気持ち悪かったんだ。
触れられているだけで、私の手はまるで凍りついたように動かせなくなってしまった。
だから、“ゆっちゃん”に触れられていると、まるで体が左右で真っ二つにされてしまったかのように錯覚してしまった。
そのせいで楽しそうなプルルートには悪かったけど、私はすぐにでも逃げ出したいとずっと思っていた。
……まあ、私には手を振り払うこともできなかったんだけど。
「1、2、3……っ!」
結局、河原まで【川】の字で連れて来られたわけだけど、私とプルルートは今、特に何もしていなかった。
ただ座って、変な動きをする“ゆっちゃん”を眺めているだけ。
「4、5――って、うおっ!?」
1歩ずつ位置を確認をするようにカウントを取って動く“ゆっちゃん”だったけど、5歩目で足をもつれさせてしまう。
何とか地面に激突する前に両手をつくことで、顔から倒れることだけは防ぐことができた。
「もうちょっと足を前に出すべきなのか……よしっ、もう1回!」
失敗した原因を口にすると、“ゆっちゃん”はめげずにもう1度立ち上がり、またもや奇妙な動きをしようとする。
――実を言うと、失敗したのはこれが初めてではない。
既に河原に来てから、何度も足をもつれさせたり、上体を大きく投げ出すような形でバランスを崩して転んでいる。
今回は偶々地面との激突を避けられたが、それ以前に見ている私の方が痛いと思ってしまうような転び方を何度もしていた。
さすがに泥だらけになってまで続けようとする姿を見て心配になったが、私は止めようとは思わなかった。
かと言って、ずっと見ていたいとも思っていない。
ただ私が邪魔をして“ゆっちゃん”からいらない不興を買う必要はないと思ったからだ。
下手に口答えをして、プルルートやラステイションを危険に晒してしまうなら、私は“ゆっちゃん”が何度転ぼうとも無視する方を選ぶ。
今の私にできることは出来るだけ“ゆっちゃん”に――プラネテューヌに抵抗する意思を見せないようにすることだけなのだから。
「1、2……って、あれ? 足が動かせ――なあっ!? アダッ!?」
私が黙って本当は見たくもない奇妙な行動を眺めることしか出来ないでいると、“ゆっちゃん”がまた足をもつれさせて転んでしまった。
今度は上体を捻り過ぎたせいで後ろ足が前に出せず、無理やり前に出そうとして、見事に肩から地面に倒れてしまいそうになる。
しかも、中途半端に受け身を取ろうとした結果、“ゆっちゃん”は背中を打ちつけた反動で、大きく揺れた後頭部を地面に激突させてしまう。
そのまましばらく、“ゆっちゃん”は両手で後頭部を押さえてゴロゴロと痛みに悶え転がり続ける。
「……ねえ、プルルート」
「どうかしたの~」
「もう帰らない?」
声にならない悲鳴を上げながらのた打ち回っている“ゆっちゃん”から視線を外し、私はプルルートに帰ることを提案した。
理由はどうあれ、プルルートなら“ゆっちゃん”に意見できることは先程証明されている。
それに素直に戻るなら、“ゆっちゃん”も文句は言わないだろう。
元々、プルルートが無理やり見たいと言って河原までついて来たのだ。
私達がいない方が“ゆっちゃん”にとってもプラスになるはず。
後はプルルートが“ゆっちゃん”に帰る旨を伝えれば、私達をそのまま見送ってくれるだろう。
「え~? もうちょっと見ていようよぉ?」
「見ててもつまらないでしょ?」
「そ~かなぁ? あたしはかわいいと思うんだけどなぁ~」
眉をひそめて渋るプルルートに、私は遠まわしに自分の気持ちを伝えた。
すると、プルルートは困ったように眉をハの字にして耳を疑ってしまうようなことを口にする。
私は思わずギョッとしてプルルートの方を向いてしまう。
「可愛い? どこがよ?」
「う~ん、どこがって聞かれると困るんだけど~、ノワールちゃんはかわいいと思わないの~?」
「……ごめん、可愛いとだけは絶対に思えないわ」
睨むような目つきで私が見つめているにも関わらず、プルルートは少しだけ頬を染めながらうっとりとした様子で“ゆっちゃん”を見つめていた。
逆に小首を傾げながら質問を返されてしまい、私も同じように“ゆっちゃん”の方を向いて素直な感想を口にする。
あの“ゆっちゃん”の奇妙な動きを見て、可愛いと言えるプルルートの感性が理解できないわ。
だって、ゆっくりとした動きで勝手にバランス崩して転ぶだけなのよ?
それのどこが可愛いって言うの?
「そ~かなぁ? あたしはゆっちゃんの踊り、見ててかわいいから大好きだよぉ~」
相当納得できないって顔をしていたらしく、プルルートは私の顔を覗き込んで、にへらと締まりのない顔で笑いながら“ゆっちゃん”の奇行を絶賛した。
だけど、いくら言われた所で私の感想は変わらない。
あの動きを可愛いだなんて、私には到底思えなかった。
“ゆっちゃん”の動きは、敢えて例えるのなら盆踊りのように見える。
まず、1歩足を踏み出すと同時に腰を捻り、腰の位置にあった両腕を顔の横にまで持ち上げる。
次に、踵が完全に浮き上がっている後ろ足が地面を擦るように1歩目の足よりも前へと滑らせ、両腕を下ろす。
そこで2歩目に踏み出した足に1歩目の足を近づけると、膝を曲げて体勢を低くする。
すると、何故かその場で回転するように2歩目の足を踵から思いっきり後ろへと伸ばして前進しようとする。
その時、両腕を大きく斜め上へと振り上げ、先程と同じように腰を捻らせて1歩目の足を2歩目の足よりも前へと踏み出そうとする。
――この動作を繰り返す踊りなのかわからないけど、私が見ているうちに5歩以上“ゆっちゃん”はステップを踏んでいない。
後、私が分かることと言えば、“ゆっちゃん”の動きにはリズムがあるらしく、1歩目と2歩目はしっかりと止まるようにしていたが、3歩目から5歩目まで流れるように体を動かそうとしていた。
そのせいで、3歩目に移る時と5歩目の動作でよく転んでいた。
「……はあ」
「やっぱり、帰りたいの~?」
「そうね。でも、プルルートはもうちょっと見ていきたいんでしょ?」
「そうだけどぉ~、ノワールちゃんが帰るって言うんだったら、あたしも一緒に帰るよ~」
頭の痛みが治まったのか、“ゆっちゃん”が立ちあがって再び踊り始めたのが見え、私は思わずため息をついてしまった。
また変な盆踊りもどきを見せられると思うと、酷く憂鬱になってしまう。
そして、心配するようにプルルートに私は遠慮がちに答える。
すると、プルルートは柔らかくほほ笑みながら私の意見を尊重して帰ろうと言ってくれる。
「……ごめんね、我がまま言っちゃったりして」
「気にしないでいいよぉ~。あたしとノワールちゃんは、お友達なんだから~」
譲歩してくれたプルルートに申し訳なく思い、私は顔を俯かせてしまった。
しかし、そんな私にプルルートは変わらない態度で優しく答えてくれる。
その優しさが余計に苦しくて、私は顔を上げることができない。
不意に目頭の奥が熱くなり、私は泣きそうになる衝動を抑えようと下唇を強く噛んで堪える。
……何時から私はこんなに涙脆くなっちゃったのよ。
こんな風に私を気遣ってくれるプルルートの心遣いが嬉しい。
でも、それ以上にプルルートの言葉に応えられない私が悔しい。
プルルートは友達だと思ってくれているけど、私はそう思えない。
一方的に甘えているくせに、私はまだプルルートのことも信じられない。
もし裏切られたら……
もし期待に応えられなかったら……
もしプルルートに危険が及んでしまったら……
――考えたら切りがない不安が私の中にはある。
そんな風に思うくらいなら、いっその事プルルートを冷たく突き放してしまえばいいってことは私にも分かってる。
でも……それでも、私は……
「ゆっちゃ~ん、あたし達先に帰るね~」
「――んっ、おう、分かった。でも、2人だけで平気か?」
私が身を縮こませて泣くことを堪えていると、プルルートは盆踊りもどき続けていた“ゆっちゃん”へと声をかけた。
気付いた“ゆっちゃん”は了承するも、不安そうにプルルートに尋ねる。
「ここから街まで少し歩くし、モンスターに襲われるかもしれないぞ? 俺も後1回やって切り上げるから、待っててくれないか?」
「ぶ~、だ~か~ら~! あたしも戦えるよぉ~! こう見えても、ゆっちゃんより強いんだから~、心配ないよぉ!」
「いや、俺もさすがにプルルートには負けられないさ。それにモンスターじゃなくても、夜には変な奴も出てくるかもしれないしな……ああいう奴らは下手なモンスターよりも厄介なんだぞ?」
「ほえ? 夜に出てくる変な奴~? それって、ゆっちゃんのこと~?」
「……おい、それはどう言う意味だ?」
「だって~、夜に出歩いているし~、ゆっちゃんって女装趣味の変態さんなんでしょ~? ――初めて会った時も、メイドさんの格好をしていたし~……」
「っ!?」
うずくまって2人の口論を聞いていたが、プルルートが発した言葉を聞いた途端、私の体に悪寒が走った。
ビクッと震えた体は自分の意思では止められず、震え続ける。
別に寒くなったわけではない。
その証拠に私の背筋にはツーッと汗が流れるような感覚がある。
でも、ガタガタと震える体は止まらず、ブワッと噴き出した汗も治まる気配を感じない。
……女装趣味? メイドの格好?
何かしら、頭の中に妙な引っかかりを感じるんだけど。
でも、思い出そうとすると、拒否反応を起こしているみたいに頭に痛みが……
――うん、これは思い出すなってことよね?
思い出さない方が幸せだってことでしょ?
だったら、無理に思い出す必要なんて……
「あ、あれにはちゃんとした理由があってだな……」
「――い、いやあああああああああ!?」
『っ!?』
――しかし、そんな私の記憶は顔を上げた瞬間、鮮明に蘇ってしまった。
“ゆっちゃん”の顔と、あの時の変態の顔が重なってしまったのだ。
さらに、あの時の妙に生温かい感触が頭の中で勝手に思い出されてしまい、私は思わず悲鳴を上げて後ずさってしまう。
座っていたせいで後ろに倒れそうになってしまうが、そんなことは今の私には関係なく、少しでも変態から遠ざかりたいとしか思えない。
恐怖のあまり、目を逸らすことさえも私にはできない。
突然の悲鳴に驚いた顔をしている2人が見ている中、私は恥も外聞もなく涙を流し続ける。
きっと今の私の顔も酷く怯えていることだろう。
それが分かっていても、私には体裁を整える余裕なんて微塵もなかった。
「……ゆっちゃん~? ノワールちゃんに何かしたの~?」
「いやいや、これは俺のせいなのか!? 俺が何もしてないのはお前も見てたから分かるだろ!?」
「う~ん、そ~なんだけど~……」
「なら、ノワールに聞いてみなきゃ分かんないだろ!? いったい何が……」
「来ないでっ!!」
「へぶっ!?」
責めるように低い声で尋ねるプルルートに、変態は慌てふためく。
すると、変態は怯える私に近づこうとしてくる。
変態が近づいてくる恐怖に、私は思わず指で掻き毟った土を投げつけてしまう。
相手がプラネテューヌの高官だとか、逆らうわけにはいかないなんてことは完全に頭の中になかった。
ただただ変態が近づいてくるのが怖くて、攻撃してしまったのだ。
投げつけた土は見事に変態の顔に直撃した。
「このっ!! このっ!! このっ!!」
「ちょっ!? やめっ――ブッ!?」
変態が仰け反って怯んでいる隙を逃さず、私は次々と土を投げつけていく。
変態が顔を両手で庇って私の方を伺いながら話しかけようとしても、手は絶対に緩めない。
手の間をすり抜けて変態の鼻に石が直撃しても、私は手を止めずに土や石を投げ続ける。
「あわわわわわ!? ストップ、ストーップ!?」
「っ、離して!? 離してよ!?」
「ダメ~!? それ以上やったら、絶対にダメなの~!?」
いつの間にか背後に回っていたプルルートが私を羽交い絞めして止めようとした。
最初は暴れて抜け出そうとしたけど、次第に背中越しに感じるプルルートの温かさが私を落ち着かせてくれる。
ジワリとまた視界が霞み、私は抵抗せずにプルルートの背中にもたれかかる。
「ふぅ~、やっと落ち着い……」
「プルルートぉ!!」
「って、うわあああああ~!?」
だらりと力を抜いた私に安心して腕を押さえていた力を弱めるプルルート。
でも、私は自由になるとすぐに振り返ってプルルートの胸に跳びこむ。
勢い余って押し倒してしまったが、私はプルルートの胸に顔を押し付けたまま泣いてしまう。
「ひっぐ、えっぐ」
「えっ、えっ、えっ? だ、大丈夫だから~!? 泣き止んでよぉ~!?」
「あっ……う、うぅぅ、ああああああああああ!!」
「余計ひどくなったぁ!?」
鼻をすすったり、しゃっくりを繰り返し、私は静かにプルルートの胸で泣いてしまった。
戸惑うプルルートが私を泣き止ませようとして、優しく頭を撫でてくれる。
その優しさが余計に私の涙腺を脆くし、遂には声も我慢できなくなってしまう。
子どもっぽく泣き喚く私に、プルルートは驚きつつも背中をポンポンと叩いて泣き止ませようとする。
――そのせいもあり、しばらく私の涙は枯れそうになかったのであった。
* * *
「誠に申し訳ございませんでした!!」
落ち着いた私に、変態が土下座をしながら謝ってくる。
ここまでの経緯として、ぼそぼそとプルルートに私がどうして怯えているのかを伝えていくと、変態は次第に顔を青く染めていった。
そして、泣き止んだ私を見て、変態は今目の前でしているように綺麗な土下座をしたのだ。
何となく土下座し慣れていると言うか、堂に入った様子が見られる。
しかし、急に土下座をして謝られた私の気持ちも考えて欲しい。
私としてはそんな突然の奇行に驚いて恐怖しか感じられない。
思わずプルルートに抱きつく力を強めてしまった。
「アレは不慮の事故――いえ、私としましても想定外の事態に見舞われた次第でして、まさかあのようなことになるだなんて思いもよらず……」
「ゆっちゃ~ん?」
「――はい、私が悪かったです!? 女装をしていた私の責任です!? 申し訳ございませんでした!?」
無駄に畏まった謝罪をして言い訳をしようとしているように思えた変態だったが、プルルートの一言で完全に縮こまってしまった。
額を地面に擦りつけて平謝りしてくる変態を見て、プルルートは私の背中を優しく撫でながら口を開く。
「も~、どうしてすぐに謝らなかったの~? 謝る機会はいっぱいあったはずだよねぇ~?」
「……いや、それはちょっとタイミングが……」
「また言い訳するの~?」
「――私の意気地が足りなかったせいです!? 本当にごめんなさい!?」
変態はプルルートの圧力に負け、少しも弁解をさせてもらえない。
普段ののほほんとしているプルルートを知っている分、私には今の彼女が何だか新鮮に思えてしまう。
ここに来て、頭の中にあった私を含む3人の力関係がはっきりとしてくる。
――私も変態もプルルートには逆らえない。
これだけは、はっきりと理解させられてしまった。
でも、さすがに謝り続ける変態を憐れに思い、私は恐る恐るプルルートに意見する。
「も、もういいわよ。それに変態が謝ることができなかったのは、私が変態と会わないようにしていたからだし……」
「そうなの~?」
「う、うん」
最後は小声になってしまったが、どうやら変態をフォローすることができたらしい。
プルルートが首を傾げながら確認するように尋ねてきたので、私は上手く動かせない頬で精一杯笑みを作る。
実際、変態は毎日部屋に来て私に声をかけてくれた。
朝、昼、晩の1日3回。
控えめに扉をノックして私に入ってもいいかと聞いてきた。
顔を会わせたくなかった私はその度に布団に潜り込んで無視したせいで、変態は1度も部屋に入って来たことはない。
無理やり押し入ってくることがないことをいいことに、私は変態が来る度に無視を決め込んでいたのだ。
そのせいで謝る機会を失ったのだと思うと、少しだけ罪悪感に胸が痛む。
いくら変態と言えども、夜の冷たい地面の上で土下座をさせたままでは気分が悪い。
……他にも私は変態に負い目を感じていることがある。
あの時、私がトドメを刺したと思ったネプテューヌを追って飛び下りた変態を止められなかったと言う負い目が……
「う~ん、ノワールちゃんがそう言うなら、あたしが怒っているのもおかしいよね~。だったら~、ゆっちゃんも頭を上げていいよぉ」
「っ、本当ですか!?」
「うん。でも~、もう2度とノワールちゃんを困らせちゃダメだよ~? ――さもないと、あたしがお仕置きしちゃうからね~」
「イエス、マム!?」
プルルートから許しを得た変態は、ガバッと嬉しそうな表情で顔を上げた。
そんな変態を見て、プルルートは脅すように言い放つ。
私の方からじゃ顔は見えないけど、今のプルルートはきっと怖い顔をしているのだろう。
その証拠に、変態が怯えた顔で正座をしたまま敬礼をしている。
「絶対だからね~。それじゃ~、ノワールちゃんから何か言っておきたいことはある?」
「へっ?」
「だから~、ノワールちゃんはゆっちゃんに何か言っておきたいことはないの~?」
満足したように頷くプルルートが急に私に話を振ってきた。
突然の問いかけだったせいで頭の中が一瞬真っ白になってしまう。
すると、今度は今の私にも分かるようにプルルートが言い直してくれる。
……言っておきたいことね。
それならたくさんあるわよ。
むしろ、言ってやりたいことだらけで何から言ってやればいいのだか分からないくらいにね。
でも、そんなことを急に聞かれても困るじゃない。
頭の中が真っ白になっちゃって、何を言ったらいいのか分からなくなっちゃった。
「え、えっと、それじゃ……」
「お、おう」
とりあえず思いついたことを言ってやろうとすると、私と変態の間に妙な緊張感が生まれた。
ビクッと肩を震わせた変態を見て、私の顔も強張ってしまう。
動かしづらくなった唇をなんとか動かし、私は変態に言ってやる。
「コスプレに、興味があるの?」
――自分の言葉に頭が痛くなったのは生まれて初めてだった。
まるで頭を鈍器で殴られたように錯覚してしまう。
穴があったら入りたいと思ってしまう程、私は切実に自分の口から出た言葉をなかったことにしたい。
コスプレに興味があるの? ――って、何を聞いているのよ、私は!?
さっきプルルートが言ってたわよね!?
変態には女装趣味があるって言ってたわよね!?
それなのに、どうしてそんなどうでもいいことを聞いたりしているのよ!?
「……こ、コスプレか。やったことはないけど、似たような経験はある。正直あまりいい思い出がなくてな、キャラになりきるってことには抵抗があるんだ」
「そ、そうなの」
「ああ、あれはもう思い出したくないと思っていたのに無理やり引き出されてな――最初は死にたいとすら思ったよ」
思った以上に真面目に答えてくる変態に、私は戸惑ってしまった。
しかも、やたら実感のこもった様子で重々しく話すものだから、私は口も挟めない。
……なんで変態は真面目に答えてるのよ!?
しかも、メイド服のことはコスプレじゃないって言ってるようなものだし!?
やっぱり、この変態は女装趣味の変態だったのね!?
なんで私はこんな背筋が凍るような事実を確認しているのよ!?
もっと他のことを聞かないと駄目じゃない!?
「そ、それじゃ、どうしてメイド服だったの?」
「……好きな子に振られたから」
「はあ?」
「好きな子に告白して振られたから、女になって振り向いてもらおうとしたんです……」
またくだらないことを尋ねてしまったと私が思っていると、変態は意味のわからないことを口にした。
一瞬冗談かとも思ったけど、変態は本気で落ち込んでいるように見える。
えっと、好きな子に振られたから女になるってどう言う理屈なの?
もしかして、その好きな子って言うのは同性の相手だったのかしら?
それだったら、別におかしい話じゃないと思うんだけど……ううん、やっぱりおかしいわ。
常識的に考えて、振られたから性転換するって発想自体が異端よ。
そもそも振られたのなら、きっぱりと諦めて相手の幸せを願うものじゃないの? ――私に恋愛経験はないけど。
一般論でもその方が建設的だし、お互いにいい関係のままいられると思うんだけど。
……まあどちらにせよ、私には理解不能な分野ね。
「そ、それじゃ、次に……」
繰り返し尋ねたことで、私は大分落ち着きを取り戻してきた。
予想以上に変態が真面目に答える内容に驚かされつつも、元々聞いておかなくてはいけなかったことを尋ねる。
「――どうして落ちるネプテューヌを助けようとしたの?」
「へっ? 別に理由なんてないけど」
「そう、分かったわ」
今まで違う種類の質問に驚いたのだろう、変態は間抜けな顔で目をパチクリとさせながら答えた。
それでも迷った様子がないことを見れば、真面目に答えているのは分かる。
「ごめん、プルルート。ちょっと離してちょうだい」
「いいけど~……」
「もう平気よ。ありがとうね」
ずっと抱きしめてくれていたプルルートにお礼を言って離れると、私はスッと立ち上がって変態に近づく。
変態は正座したまま首を傾げて不思議そうに近づいてくる私を見上げている。
私はその何も理解していない変態の顔に苛立ち、そして……
――バンッと、頬を思いっきり張ってやったのだ。
という訳で、今回はここまで!
前書きのおふざけはさておき、次回で3人の会話に一先ず区切りをつけますよ。
そしたら遂に……ってわけで、この長くなったラステイション編も残すところ後わずかですね。
それでは、 次回 「怒り×友達×喪失」 をお楽しみに!