超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
遅くなりましたが、その分今回は文量がいつもよりも多めです。
それでは、 怒り×友達×喪失 はじまります


怒り×友達×喪失

 頬を張った乾いた音が響いた。

 自分でやっておきながら、その音がやけに耳に残っている。

 まるでそれ以外の音が全て消えてしまったみたいに思える。

 

「――私が言いたいこと、分かるわよね?」

 

 赤くなった頬を押さえて呆然としている変態に、私は冷たく問いかけた。

 正直、さっきとは違う意味で頭の中が真っ白になっている。

 

 ――原因は、さっきの変態の答え。

 そのさも当然と言わんばかりの顔が、私の中の怯えをすべて消し去った。

 残っているのは、変態に対する怒りだけ。

 私はどうしてもそれが抑えられなくなり、変態の頬を思いっきり張ってやったのだ。

 

「まさか分からないとでも言うの? いえ、分かってないからあんなことをしたのよね」

 

 きょとんとしている変態に苛立ちが増し、私は答えを待たずに自己完結をして勝手に納得してしまった。

 プルルートも変態も、私が何をしたいのか分からないだろう。

 私だって、今の自分が何をしたいのかなんて分かっていない。

 ただ抑えきれない怒りに後押しされ、言葉が自然と私の口から出てしまっているだけなんだから。

 

「運がよかったのか知らないけど、もう2度とあんな真似をするんじゃないわよ。分かったわね?」

 

「え、ちょっと待ってくれ!? 話がよく分からな……」

 

「――黙りなさい」

 

 慌てて口答えをしようとする変態を、私は冷たく切り捨てた。

 私の少ない言葉で全てを理解しろだなんて思わないけど、変態にも察するぐらいはして欲しかった。

 変態は服装や奇行だけでなく、頭の中もおかしいのだろうかと疑ってしまうくらい当たり前のことを言ったつもりだったのだから。

 ……まあ、変態的な思考回路だからこそ、変態的な行動を平然と出来るのだろうけど。

 

「ノワールちゃん、急にどうした……」

 

「プルルートもちょっと黙ってて」

 

「えっ、あっ、うん」

 

 恐る恐ると言った感じで声をかけてくるプルルートを、私は鋭く睨みつけて黙らせた。

 私の剣幕に驚いたプルルートは目を白黒させながら頷いてくれる。

 散々甘えて頼りにしたプルルート相手に、本当はそんなことをしたくなかった。

 でも、このことをなあなあで終わらせるわけにはいかない。

 視線を変態に戻し、私は理解してもらえるように言葉を選ぶ。

 

「理解していないみたいだから言っておくけど、私はあなたのネプテューヌを助けようとした行動については何も言うつもりはないわ。ここまではいいわね?」

 

「お、おう」

 

「――でも、それを当たり前だと思っているあなたが許せないから怒っているのよ」

 

 確認するように尋ねると、変態は目を丸くして頷いた。

 しかし、続けて私が投げかけた言葉に、変態は不服そうに眉を寄せる。

 私の言い分に不満を感じたのか、それともまだ理解が追いついていないのか分からないけど、説明を続ける必要があるらしい。

 

「私があなたを許せない点は3つよ。1つ目は、軽はずみな行動で自分の命を投げ出そうとしたこと。2つ目は、神聖な守護女神戦争の邪魔をしたこと。そして最後に、あなたが私やネプテューヌを女神と知っていながら助けたことよ」

 

「……1つ目のことは分かる。確かにノワールから見たら、そう取られてもおかしくはなかった。実際、俺もネプテューヌもプルルートに助けてもらわなかったら、地面に激突して死んでいたはずだ。でも、2つ目と3つ目の意味が分からない。それはそんなに大事なことなのか?」

 

「大事よ。むしろ、分からないあなたの常識を疑うわ。まさか記憶喪失だなんて妄言を吐くつもりじゃないでしょうね?」

 

 分かりやすくするために指を1本ずつ立たせながら変態に説明した。

 すると、変態は渋い顔をしながらも納得してくれる。

 どうやら私の言いたいことへの理解が追いついて来たらしい。

 でも、まだ完全に理解しきれていない部分があるみたいで、私に尋ねてくる。

 私はそれに対してはっきりと答え、敢えて馬鹿にするような言い方をして変態を睨む。

 

「今回は至って正常だよ。ただこの世界について、まだよく知らないだけさ」

 

「おかしな言い方をするわね。まるで自分が別の世界から来たみたいな言い方じゃない」

 

「まあ、実際そうだしな。まだこっちのゲイムギョウ界に来て、2週間も経ってないし……」

 

「………………なるほどね。納得したわ。」

 

 変な答え方をする変態を、私は冗談を交えながら馬鹿にした。

 しかし、変態が真面目な顔で肯定する姿を見て、私は間抜けな顔で呆けてしまう。

 鼻で笑い飛ばそうとしていたのに、きょとんとした顔で固まってしまったのだ。

 だけど、しばらくして停止していた思考が正常に戻ると、私はある意味で納得してしまう。

 

「ごめんなさい、今まで気づかなくて」

 

「へっ? 急にどうしたんだよ? なんでそんな生温かい目で俺を見つめるんだ? それにこの手は?」

 

「もう、私だってそこまで鬼じゃないわよ。ほら、何時までもこんな所にいないで行くわよ。さあ、早く立ちなさい」

 

「ど、どこに?」

 

「――病院に決まってるじゃない」

 

 大事なことに気付いた途端、変態を見る目が変わってしまった。

 変態に向けていた怒りが自分へと返ってきて、私は自責の念に押し潰されそうになってしまう。

 でも、今はそれどころじゃないと分かっているため、私は優しく変態を見つめながら手を差し出した。

 すると、急に態度を変えた私を不審に思ったらしい変態が矢継ぎ早に質問をしてくる。

 出来るだけ安心させるように柔らかく笑みを浮かべたつもりでも、変態は戸惑い続ける。

 そうこうしている時間がもったいないと判断した私は、無理やり変態の手を掴んで立ち上がらせて病院へと連れて行こうとする。

 

「ちょっ、ちょっと待った!? どうして病院に行かなくちゃいけないんだよ!?」

 

「……そうよね。今のあなたに自覚症状はないのかもしれないけど、怖くないから大丈夫よ。1人で不安なら、ちゃんと私も付き添って上げるから、ね?」

 

「いや、駄々をこねているわけじゃないからな!? 俺は病院に行くことを怖がってるわけじゃないからな!?」

 

 病院に連れて行こうとする私に、変態は慌てて抵抗してきた。

 しかし、そんな風に大きな声を出して喚く姿も、今の私にはただの強がりのように思えてしまう。

 癇癪を起した子どもに言い聞かせるように優しく諭そうと、私は変態の手をギュッと握ってあげる。

 不思議と最初に感じた不快感を今は感じない。

 きっとあの時は変態のことがよくわからなかったせいで不気味に思っていたからそう感じてしまっただけなのだろう。

 でも、今ようやく変態のことを理解することができた。

 

 ――そう、変態は重度の妄想癖を患っていたのよ。

 

 通りで話が通じないと思ったわ。

 最初からおかしいと思っていたのよね。

 メイド服を着たり、気持ちの悪い顔で笑ったり、私を助けたり、おかしな作り話を作ったり、妙な盆踊りもどきをしたりと奇行ばかり繰り返していたもの。

 むしろ、気付いてあげられなかった自分が悔しいわ。

 女神として、現実と妄想の区別もつかなくなっている人間に気付いてあげられなかったなんて。

 変態は必死にサインを出していたのに、あろうことか無視し続けたせいで気付くのに遅れてしまった。

 一緒にいたネプテューヌ達は何をやっていたのよ――なんて、悪態をつく資格もないけど、少しだけ恨めしく思ってしまう。

 私が逃げていなければ……と、悔やんでも悔やみきれない。

 でも、私はもう現実から目を逸らさないわ。

 だから、私もちゃんと変態と向き合わなければいけない。

 気付いた私がちゃんと病院に連れて行ってあげないといけないのよ!

 

「大丈夫よ。私はちゃんと分かってる。分かっているわ。私はあなたの味方よ――だから、早く病院に行くわよ」

 

「どうしてそこで病院に行くことになるんだよ!? 頼むから、ちゃんと会話をしてくれ!?」

 

「……そうね。無理やりは駄目よね。分かったわ。お互いに落ち着いて話をしましょう」

 

 病院に強い拒否反応を示す変態を見て、私は急ぎ過ぎたかと思った。

 誰だって、急に病院に行こうなんて言われたら、当然不安になる。

 変態の気持ちを考えないで、私が自己満足で病院に連れて行っても意味がないのだ。

 だから、私は変態が落ち着いてくれるまで話を続けようと考える。

 話を聞きながら間違っていることを軌道修正してあげることくらいは、今の私でもできると考えたからだ。

 幸いにも変態は私の言葉をちゃんと聞いてくれている。

 だから、私が変態を現実に引き戻してあげられる可能性は0じゃない。

 責任は重大よ、私。

 変態が社会復帰できるように、私が頑張らないと!

 

「……えっと~、あたしはいつまで黙ってればいいの~?」

 

 

*     *     *

 

 

 その後、涙目で縮こまっていたプルルートに謝り、私達3人は並んで腰を下ろした。

 また私が真ん中の【川】の字でだ。

 変態の話を聞くには、この並び順が都合がよかった。

 近すぎるかもしれないと思ったけど、変態はどこか納得しつつも脳内で作り上げた設定を私にちゃんと教えてくれる。

 

「……なるほどね。原因は分からないけど、あなたはここと違うゲイムギョウ界からやって来た、と言うわけね」

 

「ああ。信じてもらえないかもしれないけど、本当のことなんだ」

 

 話を要約した私に、変態は真面目な顔で頷いた。

 どう見ても、変態は自分の言っていることが間違いないと信じて疑っていない。

 ……正直、記憶喪失よりも質が悪いと思ってしまった。

 私のことを知らないと言っていたネプテューヌが可愛く見えるレベルで、変態がおかしいことを再確認させられてしまった。

 

 さて、いったいどう言う風に反応するのが正しいのかしらね。

 ここは直球で、それはあなたの脳内設定なんでしょ? とか言ってみるべきか。

 それとも変化球で、その世界の私って何をしているの? とか話を合わせるべきなのか。

 ……どちらにせよ、頭の痛くなる問題が起こりそうな予感しかしないわ。

 

「ねえ、ノワールちゃん」

 

「……何よ?」

 

「実は~、あたしも別の世界から来たみたいなんだよ~。そうだよね~、ゆっちゃん」

 

「あっ、うん、多分な」

 

 悩む私の肩をちょんちょんと突き、プルルートはにっこりと笑いながら変態と同じ妄言を吐いた。

 そのまま流れるように変態へと確認するが、どうも反応は芳しくない。

 変態はどこか戸惑っているように思えた。

 

 ……さすがプルルートね。

 変化球による自然な会話への介入、これが私とプルルートのコミュニケーション能力の差と言うわけか。

 悔しくないわけじゃないけど、プルルートならと納得してしまう自分がいる。

 なにせ、普通なら愛想を尽かされてもおかしくない私と笑顔で接してくれているのだもの。

 その心の大きさと優しさは素直に尊敬できるわ。

 ――よし、この会話の流れを崩さないように私も続かないと……

 

「ところで、やっぱり“ゆっちゃん”って言うのはやめてくれないか? さすがにちゃん付けには抵抗があるんだけど」

 

「ええ~? ダメなの~?」

 

「いや、駄目なわけじゃないけど……」

 

「だったら、いいでしょ~? ねぷちゃんやこんぱちゃんも同じように呼んでいるんだし~」

 

 プルルートの話術に感心していると、いつの間にか話は違う路線へと切り替わってしまっていた。

 悲しそうに眉を八の字にして頼み込むプルルートに、変態は断わり辛そうにしている。

 そんな風に間に挟まれているのに会話に置いて行かれた私は口を開きかけた状態で固まって動けなくなってしまった。

 

 し、しまった!?

 タイミングを逃した!?

 くっ、どうすれば自然な流れで会話に戻ることができるの!?

 ここでさっきの話題のことを話すと、私が空気読めない女に思われてしまう!?

 今更どんな風に貶されようが構わないと思っていたけど、さすがに望んでそんな不名誉な称号をもらうわけにはいかないわ!?

 考えるのよ、私!?

 私だって、やればできるんだから!?

 

「……はあ、まあいいか。変な風に呼ばれるのも今更だしな」

 

「やった~! えへへ~……って、あれ? 変な風って、どんな呼ばれ方をされてたの~?」

 

「うっ、話さないと駄目か?」

 

「せっかくだし~、ゆっちゃんのことを教えてよ~」

 

「……面白い話じゃないぞ? それでもいいのか?」

 

「うん! 教えて教えて~!」

 

 困ったように笑いながら許可を出す変態に、プルルートはにへらと頬を緩ませた。

 しかし、すぐに疑問を感じて眉をひそめてしまう。

 思わずこぼしてしまった言葉だったのだろう、追求された変態は嫌そうに顔を歪めながら呻く。

 だが、プルルートの頼みを遠まわしに断ろうとしても断わり切れず、変態は諦めたようにため息をつく。

 

 こ、この流れはいつの間にか軌道修正がされているわ!?

 さすがプルルート!

 もしかして、プルルートって看護師やカウンセラーに向いているんじゃないかしら?

 白衣を着たプルルート――うん、違和感はないわね。

 っと、そんなことを考えてないで、今度こそ巡ってきたチャンスを活かさないと。

 

「そうだな、俺は元の世界だと――ずっと偽物扱いだったなあ」

 

「……ほえっ?」

 

「……はあっ?」

 

 変態の予想外の言葉に、楽しそうに笑みを浮かべていたプルルートはきょとんとした表情で固まってしまった。

 私も思わず口から間抜けな声を出してしまうくらい衝撃を受けている。

 しかし、そんな私達2人に構わず、変態はどこか遠い目をしながら語り続ける。

 

「いやさ、状況的に仕方なかったのは分かるよ? でもさ、さすがに自分をモデルにした架空の存在の偽物って言われるのはアレだよ。毎回面接の時、名前を名乗った途端に面接官から【それで本名は?】って聞かれる俺っていったい誰なんだよって感じだよな。いいさ、本当は分かってるよ。あっちの俺の方がかっこよくて何でもできるもんな。それに比べて、俺はいつも何もできなくて冴えないだのブ男だの言われまくって……」

 

「ちょっ、ちょっと落ち着きなさい!? 落ち着きなさいってば!?」

 

「……あ、ああ、悪い。変な空気にしちまったな」

 

 聞いてるこっちが悲しくなってくる設定を自虐的に話す変態を見ていることに堪え切れず、私は思いっきり肩を揺らして正気に戻そうとした。

 何とか正気に戻ったらしい変態はバツが悪そうな顔をして私達に謝る。

 それに対して、私はため息をつきながら変態に文句を言う。

 

「まったく、その通りよ。他にもっとマシな呼ばれ方をされてなかったわけ?」

 

「他には裸男や奴隷、誘拐犯に指名手配犯、気色悪い女装をしている変態にロリコンや無類のおっぱい好き……」

 

「――あなたはいったい何をしたって言うの!?」

 

 変態が一先ず落ちつきを見せたことに安堵しているのもつかの間、さらなる驚愕の内容がポンポンと出てきた。

 再び遠い目をして空を見上げる変態にツッコミを入れなければ、もしかしたら延々と同じようなことを言い続けていたのかもしれない。

 

 この変態は脳内で何をやったら、そんな風に呼ばれる妄想を思い浮かべることができるの!?

 まったく意味が分からないわ!?

 だいたい、普通妄想って自分に都合のいいことを想像するものじゃないの?

 それなのに、変態は自分にマイナスになるようなイメージばかり膨らませて――もしかして、性格的にネガティブだとそう言う風にしか妄想できないのかしら?

 ……とにかく、私にとって理解できない領域ね。

 

「あはは、自業自得と言うか……俺はただ、自分にできることを精一杯やろうとしただけなんだけどな」

 

「つまり、何よ? 努力が空回りした結果ってこと?」

 

「……まったくもってその通りです」

 

 力なく笑いながら言葉を濁そうとする変態に、私は敢えて確信を突くように問いかけた。

 すると、変態はガックリと項垂れてしまう。

 

 ……何かおかしい気がするわね。

 変態の妄想が無駄にリアリティがあるように聞こえるのはどうしてなのかしら?

 まるで本当にそう言う風に蔑まれていたかのように、変態が落ち込んでいるのは何故なの?

 変態が現実を見れているから? ――だったら、妄想で逃避する必要なんてないはずよね。

 だったら、変態の話している妄想は真実? ――そっちの方がありえないわ。

 別世界なんて漫画やゲームの世界じゃあるまいし、存在するわけがないじゃない。

 

「辛くなかったの~?」

 

「へっ? それってどう言う意味だ?」

 

「だから~、そんな風に呼ばれてて嫌にならなかったの~?」

 

 新たに更新された変態の情報に私が頭を悩ませていると、プルルートが悲しそうな顔で変態に尋ねた。

 落ち込んでいたせいで理解が遅れたのだろう、変態はきょとんとした顔でプルルートに問い返してしまう。

 元々言葉足らずだった問いかけに肉付けをされたプルルートの言葉を聞き、変態はふっと頬を緩ませる。

 

「そりゃ、嫌になったさ。ネプギア達に誤解されたり、無駄に恨まれたりした時は死にたいとすら思ったくらいだ――でもな、それでもよかったことがいっぱいあった」

 

「よかったこと?」

 

「ああ。こんな何もできない俺でも、皆は信じてくれたし――何より、泣いていた顔を笑顔に出来たんだ。ありがとうって、お礼も言ってくれたんだ」

 

 そう言った変態は懐かしむように夜空の星に手をかざした。

 

「馬鹿だの無謀だの言われることばかりして、上手くいったことなんてほとんどなかった。でも、そんな失敗ばかりの俺のことを皆は見放さないでいてくれた。出会えて幸せだって言ってくれた女の子がいる――だから、俺はいくら悪く言われようとも前を向いて頑張れた。俺にできることは、がむしゃらに突っ走ることだけだったからな」

 

「……それで空回りしても、本当によかったって言えるの? 馬鹿なことをし過ぎて、愛想を尽かされるかもとか考えなかったの?」

 

「したくて空回りしているわけじゃないさ。俺だって、ビシッとかっこよく決めたかったよ。でも、上手く立ち回ろうとしても、考えるだけで動けなくなるだけだったんだ。1人じゃ何もできないくせに、全部背負いこもうとしても皆に迷惑をかけるだけだった。そんな不安を見せたくなくて強がった結果、泣かせたくなかった女の子を悲しませたんだ――俺はそれが1番辛かった。自分が嫌われることなんか、それに比べたらちっぽけな悩みだ。嫌われたくないからって理由で何もしなかったら、俺はもっと大事なものを失くしてしまう……あの時みたいに」

 

 大真面目に語り続ける変態に、私は自然と問いかけていた。

 何も考えず、純粋に変態の答えを聞いてみたかったからだ。

 すると、変態は困ったように眉根を下げながらもほほ笑んだまま答えてくれる。

 だが、変態は不意に悲しそうに右手首に巻かれたブレスレットに視線を落とす。

 左手の指で軽く8個ある紫色の水晶の1つに触れながら、変態は口を開く。

 

「だから、俺は【やめろ】って言われても、やめたくないし諦めて立ち止まりたくもない。目の前で起こっていることから目を逸らして、本当に大事なものをもう2度と失いたくは……」

 

「――もういいわ」

 

「ノワールちゃん?」

 

 力強く語る変態の言葉を、私は無理やり遮って膝を強く抱きしめた。

 心配そうに声をかけてくるプルルートを無視して、私は俯く。

 

「何となく……何となくだけど、あなたのことが分かったわ。あなたって、不器用なのね」

 

「確かに器用には生きられないな。前にも言われたことがあるよ」

 

「言われて直すようなら、そんな大口叩けるわけないか。まあ、開き直っているのもどうかと思うけどね」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

 私は自然な様子で変態に話しかけることができた。

 さっきまでどう声をかけようかと悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい自然に話せていると思う。

 それを自覚すると、頬の緊張が解けていく。

 私の一言で困っている変態をチラリと見上げると、余計に口元が緩みだす。

 

「別にそれが悪いって言ってるわけじゃないわ。ましてや、あなたのその考え方を否定するつもりもないわ。むしろ、そんな風に考えられるあなたが羨ましいくらいよ――でもね、1つだけ忠告しといてあげるわ」

 

 膝につけていた顎を離し、顔を上げた私は真っ直ぐに変態の目を見つめながら言う。

 

「女神と人間を同列に考えることだけはやめなさい。私から言えることはそれだけよ」

 

「……どう言う意味だよ?」

 

「言葉通りの意味よ。その不器用な自己満足を続けたいなら、もう2度と私やネプテューヌと関わるのはやめなさい。それがあなたのためよ」

 

 私の忠告に、変態は顔をしかめて尋ね返してきた。

 しかし、私はそれを敢えて切って捨てて、はっきりと断言する。

 それでも納得した様子を見せない変態から目を逸らさずに私は言葉を続ける。

 

「あなたが私を助けてくれたことには感謝しているし、ネプテューヌと親しいことも分かっているわ。でも、今のあなたの中途半端な距離感でずっと接するつもりなら、その自己満足はただの迷惑よ」

 

「なんで助けたり、親しくなったら駄目なんだ?」

 

「私達が女神だからよ。それ以上の理由は必要ないわ」

 

 さっきまでの変態の話を加味した上で、私は突き放すように言い切った。

 それでも食い下がろうとする変態の言葉を、私は冷たく振り払う。

 

「いい? 私達女神と人間は違う生き物なのよ。それだけは絶対に勘違いするんじゃないわよ」

 

「……意味が分からない。何が違うって言うんだよ?」

 

「理解する必要なんてないわ。むしろ、人間は女神を理解しちゃいけないのよ」

 

 諭すように言っても疑問を返してくる変態に、私は首を横に振りながら告げた。

 そのまま私は視線を夜空に向け、少しだけ目を細める。

 

「女神は信仰の対象――言ってしまえば、ただの偶像が形になって生まれた存在なのよ。先代の女神が何を思ったのか分からないけど、ゲイムギョウ界を4つに別けたから生まれた女神の1人が私。だから、私には義務があるの。私を信仰してくれる人達を守ると言う女神の義務が」

 

「それがどう……」

 

「話は最後まで聞きなさい――女神としての義務を果たすために必要なことは平等よ。そのために女神は常に人間よりも上に存在していなければいけないのよ。下手に同じ目線に立ったら、女神はただの人になってしまう。信仰の対象にならなくなるのよ」

 

「そんなのおかしいだろ!? それじゃ、まるで……」

 

「あなたがどう思おうと関係ないわ。女神は常に人間の理想を具現化した存在でなければいけないのよ。理想は手で触れられそうになった瞬間、ただの現実になってしまうわ。そうなったら、もう2度と人間は女神と言う理想を信じられなくなる――だから、あなたのその距離感は迷惑なのよ。あなたの自己満足を勝手に女神に押し付けるのはやめなさい」

 

「だからって、納得できるわけないだろ!! 勝手なのは理想を押し付ける人間の方じゃないか!! 女神は……ノワールはそれでいいって言うのか!!」

 

「――いいから黙って納得しなさいよ!!」

 

 丁寧に説明したつもりでも、変態は納得してくれなかった。

 その顔を怒りに染めて、私に食い下がってくる。

 でも、そんな自己満足な言い分をぶつけられたくらいで考えを改めるほど、私も安っぽくない。

 脅すように変態の胸ぐらを掴み、私は額がぶつかりそうな距離まで顔を寄せて睨みつける。

 

「いいに決まってるじゃない!! 私は女神なのよ!! 国の平和と繁栄を願わないわけじゃないじゃない!! 人間の価値観で話をするんじゃないわよ!!」

 

「それで本当にいいのかって聞いているんだよ!! 女神は勝手な理想を押し付けられるだけの象徴じゃないだろ!! 心のない便利な道具扱いをされるために生まれたんじゃないだろ!!」

 

「象徴? 便利な道具? ――大いに結構じゃないの!! それが信仰になって女神の力になるのよ!! そう言うあなたも分かったような言い方で女神を騙るんじゃないわよ!!」

 

「だったら、理解できる距離まで近づいてやるよ!! 女神が人間の上を行っているのなら、その背中に追いついてやる!! それで問題ないだろ!!」

 

「問題あるわよ!! あなたは自分の言っていることの意味が分かってるの!! 人間が女神と同じ位置に辿りつけるわけないじゃない!! いい加減、さっさと認めなさいよ!!」

 

 私達は怒鳴り合って主張をぶつけるが、互いに認めることができずに平行線を辿っていた。

 ただ私には変態の言い分も理解できる。

 だけど、それ以上に私は女神として間違ったことを言っているつもりはない。

 

「絶対に認めない!! 女神だって、ゲイムギョウ界で一緒に生きる仲間だろ!!」

 

「違うわよ!! 女神と人間には埋められない溝があるの!! 仲間だなんて言葉で、気軽に慣れ合える存在じゃないのよ!!」

 

「それはおかしいだろ!! 今だって、俺とノワールはこうやって言い合ってるじゃないか!! この距離にいったいどんな溝があるって言うんだよ!!」

 

「そんなの屁理屈じゃない!! 私が言いたいのは実際の距離感じゃなくて、精神的なものよ!! 現に、私達はお互いの主張を受け入れられていないじゃない!!」

 

「それはノワールが意固地になってるからだろ!! いくら言われようとも、俺は諦めないぞ!! 人間と女神は絶対に理解しあえる!! 精神的な距離だって縮められる!!」

 

「無理に決まってるでしょうが、この不器用!! 無意味なことに熱くなってないで、さっさと納得……」

 

「――も~、喧嘩はダメ~!!」

 

『ぐおっほ!?』

 

 私達が言い合いをしていると、突然首筋に強烈な痛みが走った。

 直前に聞こえた声からプルルートの仕業だと分かるのだが、私達はお互いのことしか見えていなかったため、なすすべなく頭から地面へと押し倒されてしまった。

 ガンッとぶつかった頭が痛むが、それ以上にプルルートが抱きついている首の圧迫が酷い。

 おそらく、プルルートは私と変態の首に抱きつくように押し倒したのだろうと倒れてから分かった。

 

「ちょっ、急になんてことをするのよ!?」

 

「そうだぞ!? それと、早く腕を離してくれ!?」

 

「やだ~!! 2人が仲直りするまで、絶対に離さないよぉ~!!」

 

『はあっ!?』

 

 抗議する私達を無視して、プルルートは抱きつく力を強めてくる。

 思わず、変態と一緒になって驚きの声を上げてしまう。

 すると、プルルートは顔だけを私の方に向けてくる。

 その表情は怒っていますよと言わんばかりに眉を精一杯吊り上げていた。

 

「あたしもゆっちゃんと一緒でノワールちゃんのお話、難しくてよくわからないけど~……」

 

「だから、別に分からなくても……」

 

「それじゃダメなの~! あたしはノワールちゃんのお友達だよぉ~! お友達のことを分からなくちゃ、悲しくなっちゃうよぉ~」

 

 段々と語尾は小さくなり、遂にプルルートは目尻に涙を浮かべてしまった。

 間近で見せられるプルルートの泣き顔は、私に強い罪悪感を抱かせる。

 だからと言って、発言を撤回するわけにもいかないので、私はせめてもの抵抗としてプルルートから視線を逸らすことにした。

 

「ゆっちゃんも難しいことばっかり言ってたけど~、つまりノワールちゃんと仲良くしたいってことでいいんだよね~?」

 

「……まあ、そうなるな――うん、俺はこの世界のことも女神のこともノワールのことも、もっとよく知りたいんだ」

 

 私が視線を逸らしたせいで、プルルートは泣きそうに顔を歪めながら変態の方へと向き直った。

 すると、変態はしみじみとした様子で私にも聞こえるような声で自己満足を貫くと宣言する。

 私は思わず眉間に力を込めてしまう。

 

「だったら、ゆっちゃんもあたしと一緒だよね~。ノワールちゃん、聞いてたぁ~?」

 

「……聞いてるわよ」

 

 嬉しそうな声で頭をこくこくと動かしていたプルルートが、再び私の方へと顔を向けてきた。

 その目尻にはまだ涙が溜まっているが、表情にはどことなく楽しそうな笑みが浮かべられている。

 対して、私は不貞腐れているようにチラッとプルルートの顔を見ることしかできない。

 しかし、プルルートは気にした様子も見せず、いつもの締まりのない笑顔で口を開く。

 

「ノワールちゃんは、ゆっちゃんのこと嫌い~?」

 

「……別に」

 

 プイッと顔を逸らしながら私はプルルートの問いかけに答えた。

 

 事実、私は変態のことを特別嫌ってはいない。

 かと言って、好きだなんてことはありえない。

 正直な話、私にとって変態はただの人間でしかない。

 好きとか嫌いとか、そう言う特別な感情を抱くべき相手にならない。

 

「だったら、問題ないよねぇ~! えへへ~」

 

「……何が問題ないのよ?」

 

「だって~、それならノワールちゃんとゆっちゃんはお友達になれるもんね~」

 

『はいっ!?』

 

 笑顔で衝撃の発言をするプルルートに、私と変態は再び驚いてしまった。

 どう考えればそういう結論に行き着くのか、私にはプルルートの頭の中で展開されている超理論が理解できない。

 

「ちょっと待ってよ!? どうして私が変態と友達にならなくちゃいけないのよ!?」

 

「ほえっ? だって~、ノワールちゃんもゆっちゃんのこと、嫌いじゃないんでしょ~?」

 

「確かに嫌いじゃないけど……だからって、どうして友達になる必要があるのよ!?」

 

「特に理由はないけど~、喧嘩するよりもお友達になって仲良くなった方が絶対にいいからかなぁ~」

 

「――意味わかんないわよ!?」

 

 慌てて反論する私の言葉を、プルルートはまったく取り合おうとしなかった。

 それどころか、照れているみたいに頬をほんのりと赤く染めてはにかんでいる。

 

 プルルートはいったい何を考えているって言うの!?

 今までの話の流れから、どうして私と変態が友達にならないといけないのよ!?

 しかも、どこに照れる要素があるのよ!?

 ネプテューヌと話していた時みたいに、突拍子もないことを急に言うのはやめてよ!?

 私には、あなた達みたいに異次元の会話を翻訳する機能は備わっていないのよ!?

 

「ゆっちゃんも、ノワールちゃんとお友達になるのは反対なの~?」

 

「え、いや、別に反対はしないけど……」

 

「だったら、後はノワールちゃん次第だよね~。ねえねえ~、ノワールちゃんはどうする~?」

 

「っ、そんなのお断りに決まってるでしょ!!」

 

「ええ~? どうしてなの~?」

 

 私がやり場のない怒りを心の中で愚痴として並べていると、プルルートは変態へと同じように問いかけていた。

 戸惑っている様子で曖昧に言葉を濁す変態のことを都合よく解釈した結果、プルルートは無駄にいい笑顔で私へとグッと顔を近づけてくる。

 反射的に顔を仰け反らせてしまったが、私ははっきりとプルルートの言葉を否定する。

 だが、プルルートに諦めた様子はなく、不満そうに唇を尖らせる。

 

「あのね、あなたも私の話を聞いていたでしょ? 女神と人間は慣れ合っちゃいけないのよ。ましてや、気軽に友達なんかになれるわけないじゃない」

 

「でも~、あたしとノワールちゃんはお友達でしょ~?」

 

「うっ、それは……」

 

 思わずため息をこぼしてしまったが、私は優しくプルルートを諭そうとした。

 しかし、ここに来てプルルートに甘え過ぎたつけが私に回ってくる。

 はっきりと否定しなくてはいけないのに、プルルートへの後ろめたさに私は言葉に詰まってしまう。

 

「なあ、ノワール」

 

「……今度は何よ?」

 

「友達云々は抜きにしても、もっと俺に教えてくれないか? この世界のこと、女神のこと、ノワールのこと――俺はもっと知りたいんだ」

 

 私が2の句を告げなくなっていることを好機と見たのか、変態は懇願してくる。

 頭が混乱したせいもあり、幾分か冷静に戻れた私は黙って変態の頼みを前向きに検討することができた。

 

 確かにプルルートの言う友達がどうこうとかは置いておいて、変態にいろんなことを説明することは私にとってもメリットがある。

 この世界の正しい認識を理解して、変態が私の主張を受け入れるなら問題は全て解決する。

 でも、それでも変態が考えを曲げないようなら……

 

「――いいわ。教えてあげる」

 

「っ、ありがとう!」

 

 返事を返すと、変態が嬉しそうな声でお礼を言ってきた。

 対して、私の顔は強張る一方だ。

 瞳を閉じると、変態が私の主張を受け入れてくれなかった時――つまり、最悪のパターンに入った時のプルルートの顔が思い浮かぶ。

 しかし、それも仕方ないと割りきらないといけない。

 そもそも私が不用意にプルルートと慣れ合いをしてしまった結果なのだ。

 でも、だからと言ってこのままなあなあで関係を続けるわけにもいかない。

 全ては私の自業自得なのだ。

 例えプルルートを泣かせてしまうとしても、私は女神と人間との間にある埋まることのない溝を2人に教えないといけない。

 

 ――女神に恐怖を抱くように刻みつけてでも。

 

「えへへ~、これで2人もお友達になるんだよねぇ~」

 

 無邪気に笑うプルルートの顔が、決意を固める私の胸を強く締め付けるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 夢人達が宿泊しているホテルの玄関前、そこにアイエフは1人で立っていた。

 まだ空は薄暗く、夜明けまでには時間がある。

 アイエフ自身も普段ならまだ眠っている時間であったが、とある理由により眠ることができなかったのだ。

 

「……ごめんなさい」

 

 チラチラと名残惜しそうにホテルを見上げていたが、やがてぼそりと謝罪の言葉をこぼしてアイエフは歩きだす。

 その顔は泣き出してしまいそうなくらいに歪められていた。

 

 ――ギュッと、肩にぶら下げている竹刀袋の紐を握り直し、アイエフは脇目も振らずにホテルから遠ざかっていくのであった。




という訳で、今回はここまで!
これで一応夢人君とノワールの会話は一区切りですね。
続きは本編が終わった後の女神通信で。
それで次回からはクライマックスに向けて事態を動かしていかないと。
それでは、 次回 「誘拐×襲撃×相棒」 をお楽しみに!
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