超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
区切りがよさそうなので、今回もちょっと予定を変更させていただきました。
それでは、 封筒×スライヌ×誘拐 はじまります
――コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえたことにより、壁に寄り掛かっていたアイエフは顔を上げた。
そこには胡散臭い笑みを張り付けたガナッシュがいた。
「いやはや、遅れてしまって申し訳ありません。どうも支度に手間取ってしまいまして……」
「そんなことはどうでもいいわ。こんなこと、さっさと終わらせましょう」
「おっと、失礼しました。では、早速例の物をお譲りして頂けますか?」
勿体ぶった態度で肩をすくめるガナッシュに、アイエフは苛立ちを隠せず睨みつけた。
すると、ガナッシュはにこりと笑みを浮かべて、アイエフに両手を差し出す。
対して、アイエフは泣き出してしまいそうな顔で抱きかかえていた竹刀袋を1度ギュッと抱きしめる。
しかし、すぐに未練を断ち切るかのように固く目を閉じながら竹刀袋をガナッシュの手のひらへと乗せる。
「確かに頂きま――っとと。なかなか重量があるようですね」
「気をつけなさい。それ、竹刀袋に入れているのは鞘がないからなのよ。つまり、下手すると自分を斬ることになるわよ」
「それはまた怖いですね。ご忠告、感謝しますよ」
アイエフの手が離れた瞬間に感じた竹刀袋の重さに、ガナッシュは驚いて目を丸くしてしまった。
思わず落としてしまいそうにもなるが、すぐに竹刀袋を自分の体と平行にするように傾けて事なきを得る。
アイエフの厭味ったらしい忠告に、冷や汗をかくガナッシュはチラチラと竹刀袋が自分の方へと倒れて来ないのかを警戒してしまう。
「そんなことよりも、そっちも早く例の物を渡しなさいよ」
「まあまあ、そう慌てないでください。ちゃんとこうしてご用意してありますから」
竹刀袋の紐と中に納まっている剣の柄の部分を握ることで、とりあえず安堵の息を漏らしているガナッシュにアイエフは眉を吊り上げながら催促した。
何を言われているのかを当然理解しているガナッシュは苦笑しながらスーツの懐から1枚の封筒を取り出す。
それが目に入った瞬間、アイエフは思わず喉を鳴らしてしまう。
ガナッシュの持っている封筒――その中身こそ、アイエフがここに来ている最大の理由なのだから。
「しかし、これを手に入れるのには本当に苦労しましたよ。ただでさえうちには怖い怖い社長秘書さんがいるのに、最近では社長も私に隠れて独自の動きを見せていますのでなかなかコンタクトを取る時間が取れなかったんですよ」
「アンタらの内輪揉めなんて興味ないわ。さっさとそれを渡しなさい」
「おっと、そうでしたね。最近活気づいている鼠の対処法を考えていたせいか、ついつい愚痴をこぼしてしまいましたよ」
困ったように笑いながら、ガナッシュは封筒をアイエフに手渡そうとした。
しかし、ガナッシュの腕が完全に伸びきる前に、アイエフはひったくるように封筒を奪い取る。
すぐさまのり付けされている部分を乱暴に剥がし、中身を確認する。
「……確かに、受け取ったわ」
「ご満足頂けたようでよかったです。それと、もう1つの依頼の品はやはり無理でしたか?」
「っ、ええ。そっちは肌身離さず持っているみたいで、抜きとる隙もなかったわ」
封筒の中に入っていた書面を沈痛な面持ちで眺めながら、アイエフは言葉を絞り出した。
指圧で紙が破けてしまうのではないかと疑ってしまう程、ピンと伸ばされた紙はアイエフの望んだもので間違いなかったのである。
しかし、アイエフの顔には喜びや嬉しさ、ましてや達成感なども感じられない。
それが分かっていながら、ガナッシュはにんまりと口元を緩めて、まるでアイエフを追い詰めるように問いかける。
すると、アイエフは一瞬肩を震わせてしまう。
そして、誤魔化すようにわざとらしく肩をすくめて答えるアイエフに、ガナッシュも気落ちした様子でため息をこぼす。
「それは残念です。個人的にも非常に興味があったのですけどね」
「……悪かったわね」
「いえいえ、別にアイエフさんを責めているわけではありませんよ。コレのついでに頼んだ物ですし、依頼の報酬である“それ”を返却してもらおうとも考えていませんから」
バツが悪そうな顔で謝るアイエフを、ガナッシュはフォローしながらクイッと眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
見透かされているように大事に抱え込んだ“それ”を指摘され、アイエフは余計に苦い顔をする。
一瞬、コートのポケットの中に入っているUSBメモリの存在が頭を掠めるが、アイエフはそれを出そうとは思わなかった。
何故なのかは自分でもよく分かっていない。
ただアイエフは、目の前で胡散臭く笑うガナッシュにだけは絶対に渡したくないと思っていた。
「……なら、これで依頼は完了ね。私は帰らせてもらうわ」
「はい、ご苦労様です――それと申し訳ないのですが、もう1つ追加で依頼を受けて頂きたいのですが……」
「お断り――っ!?」
これ以上ガナッシュと同じ場所にいたくないと思ったアイエフはさっさとこの場を離れようとした。
しかし、ガナッシュはアイエフを呼び止めようとする。
無視してガナッシュの横を通り過ぎようとした瞬間、アイエフの足首に1本の紐のような物が巻きつく。
驚き慌てて振り払おうと思うよりも早く、アイエフは全身にまるで稲妻が走ったかのような感覚に襲われる。
同時に足に力が入らなくなり、立っていられなくなったアイエフは受け身も取れずに地面へと転がってしまう。
「な、なに、を……」
「まあまあ、そう言わずに受けてくださいよ。ただ眠っているだけでいい簡単なお仕事ですから。ほら、最近寝不足気味のアイエフさんには打って付けだと思いませんか?」
「っ、あ、んた……!」
指1本すらまともに動かすことができず、うつ伏せの体勢で転がっているアイエフはわなわなと震えるだけの唇で何とか疑問の声を上げた。
即座に気遣いなんてこれっぽっちも感じさせないガナッシュの言葉が降り注ぎ、アイエフは忌々しげに睨みつけようとする。
しかし、できることは眼球運動のみで顔も上げられない。
「依頼の内容は、鼠の巣から番犬を引き剥がすことです。どうにも厄介な番犬がたくさんいるみたいなので、か弱い猫である私共としてはとても困っていたのですよ」
アイエフの様子などお構いなしで、ガナッシュは依頼の内容を説明していく。
動物に例えてあるが、アイエフにはそれが何を指しているのか心当たりがある。
だからこそ、何とか体を動かそうとするが、アイエフの意思とは裏腹に体は少しも動いてくれない。
意識が鮮明である分、アイエフはガナッシュを止められないことを悔しく感じてしまう。
「それに先日ようやく完成した商品の性能テストもしなければいけませんので、少々心苦しいのですが、アイエフさんには番犬を誘き寄せる餌になってもらいたいのですよ――ですが、安心してください。これも我らが女神様のためですから」
「っ!?」
最後にそう囁かれた瞬間、アイエフの全身を再び稲妻が走るような感覚が襲った。
しかし、今度は意識を保つこともできそうになく、アイエフの瞼は次第に閉じていく。
寝不足であったこともあり、アイエフは意識を繋ぎとめておくことができない。
意識が遠のいて行くアイエフが最後に耳にしたのは……
「ぬら」
――何故か、スライヌの泣き声であったような気がした。
* * *
「……で、結局朝まで話してたわね」
「そうだな」
太陽が昇り始め、明るくなったラステイションの街を歩くノワールと夢人。
プルルートの仲裁によって言い合いが収まった後、ノワールはゆっくりと自分の知っている常識を夢人へと話した。
話題を変える度に夢人が質問したせいで、ノワールとしては不完全燃焼な部分はある。
しかし、重要な話はだいたい伝えられたと思っている。
「すぅ、すぅ」
「……まったく、この子って本当にマイペースよね。1人で勝手に寝ちゃうなんて」
ノワールは夢人に背負われて眠っているプルルートを呆れた目で見ながら呟いた。
難しい話やあまり興味のわかない話ばかりだったせいか、プルルートは途中で眠ってしまったのだ。
元々夜中であったこともあり、2人はプルルートを無理に起こさずにそのままにしておくことにしたのであった。
しかし、太陽が昇り始めたのでホテルへと帰るためにプルルートを起こそうとしたのだが、どうやら眠りが深かったせいでまったく起きる気配がなかった。
仕方なく、眠ったままのプルルートを夢人が背負っていくことにしたのである。
「まあ、そう言うなって。プルルートも昼間は食堂の手伝いで疲れてたんだろうからさ」
「お人好しね。あなただって、本当は疲れて眠たいはずなのに」
「確かに、ちょっときついかも……ふわあ」
眠っているプルルートが落ちないように調整しながら、夢人はフォローを入れた。
実際、プルルートはシアンの食堂を手伝っていたこともあり、疲れが溜まっていた。
しかし、ノワールに気分転換をしてもらうため、眠気を抑えて散歩に誘ったのである。
そんなプルルートを背負う夢人を見て、ノワールは呆れ顔で苦笑してしまう。
頷いて肯定する夢人はあくびをしたせいか、急に瞼が重くなってきたように錯覚する。
眠たい頭で考えることは、ネプギアとの約束であった。
(マズイな。ネプギアとの約束は明日だって言うのに、まだ技が完成していない。何とかしないと……)
「ほら、シャキッとしなさいよ。こんな所で倒れられても、私は2人も運べないんだから」
「分かってるって」
眉間にしわを寄せる夢人を見て、ノワールは眠気に耐えられなくなってきたのだと勘違いしてしまう。
喝を入れるように声を掛けられた夢人は無理やり重たい瞼を大きく開かせて眠気を振り払おうとする。
「なあ、ノワール」
「ふわぁ――って、何よ?」
だが、それだけでは襲いかかって来た睡魔を完全に払しょくさせることができないと悟り、夢人はノワールと会話をして意識を保とうと考えた。
声を掛けられたノワールは夢人の方に顔を向けず、返事だけをする。
理由はノワールも眠気に誘われてあくびをしていたからだ。
手で押さえてはいるものの、口をポカンと開けている顔を見られたくないノワールはあくびをかみ殺して平静を装うとする。
しかし、無理にあくびをやめたせいで目尻には涙が浮かび上がり、そのことを夢人が気付いてしまったのではないかと言う羞恥に頬もわずかに赤くなってしまう。
「やっぱり、女神同士って仲良くなれないのか?」
「――ええ、そうよ」
そんな女の子らしい恥じらいも夢人の質問で消え去ってしまったノワールは、冷たく断言する。
2人は互いに歩みを止めずに会話を続ける。
「守護女神戦争のことはちゃんと話したでしょ? 私達は同じ世界に共存なんてできない。ゲイムギョウ界に女神は4人もいらないのよ」
「……それって、本当にどうしようもないことなのか?」
「くどいわよ。他の奴らが何を考えているのか知らないけど、少なくとも私は認めない――いえ、絶対認められないわ」
目の前を睨むように歩くノワールの言葉が夢人に重々しく突き刺さった。
反論する余地すら夢人には与えられていないのだ。
言い直すことにより、ノワールの決意の固さが当事者でない夢人にもよく分かってしまう。
女神のこともまだよく理解しきれていない自分が軽々しくノワールの決意を否定することができないことは、夢人も重々承知している。
しかし、それでも夢人は固く閉ざしてしまいそうになる口を開く。
「正直な話、俺は納得できない。どうして女神が共存できないのかも、どうして守護女神戦争なんて争いをしてまで真の女神を決めなければいけないのかもさっぱりだ」
「……そう」
「俺は互いにいがみ合っているよりも仲良くした方がいいと思う。けど、そんな簡単な話じゃないことも分かってる。結局、ノワール達からしてみれば、俺は女神の事情を教えてもらっただけの部外者の1人なんだよな」
「それは間違いないわね」
ノワールは夢人の考えを素っ気ない対応で聞いていた。
ある程度予想はしていたのである。
短い時間であるが、夢人が教えただけで納得するような性格をしていたのなら、ノワールもここまで頭を悩ませてはいない。
だから、ノワールからしてみれば、夢人の言葉には驚きも衝撃を受ける要素もない
端的に言えば、心に響くものではなかったのである。
言われた所で、自分の考えを改める必要性も感じられない。
ただの世間知らずが漏らした感想の1つでしかなかったのだ。
「――だからこそ、俺もノワールの考えを認められない」
続けられた夢人の言葉を聞いた瞬間、ノワールは足を止めてしまった。
予想外の一言に驚いたわけではない。
むしろ、夢人がそう言うと分かっていたからこそ、ノワールは足を止めて顔を少しだけ俯かせてしまう。
「ノワールから色々教えてもらっても、俺にはまだ分からないことが多すぎる。この世界のことも、女神のことも、ノワールが何を考えてネプテューヌ達のことを認められないのかも分からない。偉そうに言っていた女神の背中に追いつく方法なんて検討もつかない」
並んで歩いていたノワールが立ち止まったことに気付き、夢人も歩みを止めた。
ゆっくりと振り返り、夢人は自分の正直な気持ちをノワールへと伝えていく。
「でも、分からないってことを理由にして諦めることだけは絶対にしない。だから、俺はネプテューヌと関わることを絶対にやめない。もちろん、ノワールにも近づいてみせる」
夢人の決意表明にも似た宣言を聞きながら、ノワールはただただ静かに目を閉じるだけであった。
しかし、それは夢人の考えを受け入れようとしているからではない。
夢人が本気だと分かるからこそ、ノワールも非情に徹するための覚悟を決めようとしているのだ。
「……どうあっても認めないつもりなのね」
「ああ。ノワールみたいに言い切れるほど自信があるわけじゃないけど、俺は女神が仲たがいしたままでいるなんて信じない。いいや、信じたくないって言った方が正しいのかもしれないな」
「どっちも認めないなら同じことよ。あなたって、本当に不器用なのね」
「おう。俺も簡単には譲れないからな」
確認するようにノワールが問いかけても、夢人は言い淀むことなく肯定した。
そんな中、夢人は不意に口元を緩める。
思い起こすのは、ネプギア達と一緒にゲイムギョウ界中を旅した記憶。
ユニやロム、ラムにナナハともすんなりと仲良くなれたわけではない。
だが、今ではかけがえのない仲間であり、大事な人達だと夢人は思っている。
軽々しく考えるつもりはないが、この世界の女神達も今はいがみ合っていてもいつかは仲良くなれる未来を夢人は望んで強く思い浮かべた。
そんな未来に思いを馳せた結果、夢人は笑みをこぼしてしまったのである。
すると、ノワールも少しだけ張りつめた雰囲気を緩める。
俯いているのは変わらないが、声が少しだけ柔らかくなったのだ。
それが分かっただけでも夢人は頬がにやけるのを止められなくなってしまう。
お互いの主張は平行線だが、少なくともノワールが自分の意見に理解を示してくれたと思ったからである。
しかし、にかっと笑う夢人と相対しているノワールの拳はギュッと強く握りしめられていた。
(ごめんなさい。こんな方法でしか、あなたを諭せないなんて……本当、女神失格よ)
心の中で夢人に謝罪をし、ノワールは悔しそうに眉間にしわを寄せた。
幸い、俯いていたことでノワールの目元は前髪に隠されており、夢人が気付く様子はない。
これからノワールがしようとしていることは単純なことだ。
――純粋な“実力行使”である。
夢人が人間であることを承知の上で、ノワールは身を持って女神と人間の違いを知ってもらおうとしているのだ。
野蛮な言い方をすれば、ノワールは女神の力で夢人を痛めつけようとしているのである。
夢人の決意を蔑ろにして、だ。
考えを改めてくれるまで、ノワールは例え自分が恨まれたり怖がられたりしても手心を加えるつもりはない。
ノワールとしても不本意であるが、それが夢人のためでもあると信じている。
何故なら、夢人の行動は無謀としか思えないからだ。
ノワール自身、人間と女神との間にある溝は測り知れない程深いと思っている。
それを女神である自分ならともかく、人間でしかない夢人が越えることは不可能だとしか思えないのだ。
だからこそ、ノワールは目に見えるだけでなく、夢人に体でも人間と女神との違いを刻み込んで、無理矢理でも考えを改めさせるつもりなのだ。
こんな方法しか取れないことに、ノワールの胸は酷く痛み傷つく。
ネプテューヌに負けた時よりも辛く感じてしまう。
それだけノワールが女神として人間を愛し守ろうとしている心を持っている証拠であろう。
「だったら、私からもう1つだけいいことを教えてあげるわ」
「うん? いいこと?」
痛む胸を必死に誤魔化して、ノワールはほほ笑みながら夢人へと最後の忠告を行おうとした。
きょとんとした顔の夢人に向かい、ノワールは握りしめた拳を自分の体で隠しながらゆっくりと歩み寄る。
そして、手が届く距離まで詰め寄った瞬間、背負われているプルルートなどお構いなしで夢人の腹に向かって拳を……
「あっ、いた!! 御波君!!」
――振り抜こうとしたが、こちらに向かって走ってくるシンの姿に慌ててノワールは拳を再び体の後ろに隠した。
ノワールが何をしようとしていたのかに気付かず、夢人はただ駆け寄ってくるシンの方へと顔を向ける。
「あれ、どうかしたのか?」
「どうかしたのかじゃないですよ!? こっちはあっちこっち探していたんですから!? もうどこに行っていたんですか!?」
「いやあ、ちょっと街外れの河原までな」
息を切らせながら駆け寄って来たシンに、夢人は不思議そうに尋ねた。
一緒のホテルに泊っていると言っても、基本的にずっと夢人はブレイブソードを使いこなすための特訓をしているので、シンと一緒に過ごす時間はあまり多くなかった。
シン自身も独自にシアン達のために動いていたため、朝と夜ぐらいしか話す機会はなかった。
だから、こうして慌てた様子でシンが自分を探していた理由に夢人は心当たりがなかったのである。
「別にそう言うことを聞いているわけじゃなくて――って、こんなことを言い合っている場合じゃないです!? 大変なんですよ!?」
「わ、分かったから、落ち着いて話してくれ」
膝に手をついて呼吸を整えながら、シンは責めるように夢人を見上げて声を荒げた。
そのシンの勢いに押されつつも、夢人は落ち着かせようとする。
一方で、邪魔をされたノワールは2人から少し離れた位置で腕を組んで立ったまま静観していた。
2人に聞こえないように軽く舌打ちをしたが、ノワールは心の中で夢人とプルルートに危害を加えないで済んだことを安堵もしていた。
だが、そんな風に感じている自分に苛立ちも覚え、ノワールは複雑な気持ちになってしまう。
「実は、アイエフさんが……」
「アイエフがどうかしたのか?」
ノワールが葛藤をしている間も、シンと夢人の話は続いて行く。
とりあえず落ち着いたシンは夢人に用件を伝えようとするが、すぐに言い辛そうに顔を歪めて言葉を区切ってしまう。
ただ事じゃないと悟った夢人はシンに続きを促すように尋ねる。
すると、辛そうにしながらもシンは意を決して口を開く。
「――アイエフさんがアヴニールに誘拐されたんです!!」
『っ!?』
夢人とノワールは、シンの伝えた内容に驚き息を飲んでしまった。
「アイエフがアヴニールにって……どう言うことなんだよ!?」
「理由は分かりません!? ですが、コンパさんが慌てて僕達の部屋に来て誘拐されたって言ってたんです!?」
頭の中が真っ白になりかけた夢人だが、すぐにシンの両肩を強く掴んで問いただそうとした。
だが、シンの顔にも困惑が浮かび上がっており、状況をよく把握できていないことは明白であった。
「コンパさんが言うには、朝起きたらアイエフさんがいなくて、代わりにアイエフさんを預かったって言う紙が残っていたって……」
「他には!? 他には何か書いてなかったの!?」
「後は、アイエフさんを助けたければ、僕達にアヴニールの第三重機倉庫に来いって書いてあったらしいんですけど、僕達じゃどこにあるのか分からなくて……」
「――っ、それなら私が案内するわ!!」
慌てているせいもあって、シンの説明はたどたどしかった。
しかし、内容が内容だけに落ち着いてもいられないと判断したノワールは強引にでも話を進めようと夢人達の会話に口を挟む。
素直にノワールの質問に答えるシンだが、話していく内にその顔が陰りだす。
今やアヴニールの工場はラステイション中に建造されており、どこがアイエフの連れて行かれた工場なのかが分からないのである。
だが、そんなシンの弱気な様子を吹き飛ばすかのように、ノワールは力強く言い切る。
案内すると言ったノワールには、アイエフがいる工場がどこにあるのかを知るための手段が存在している。
皮肉にも、それはアヴニールの社長秘書であるマーマレードから渡された地図である。
加えて、何か問題が起こったとしても、一緒に渡されたカードキーを使えば工場のセキュリティーシステムを一時的にダウンさせることができる。
「ほら、愚図愚図するんじゃないわよ!! 1度ホテルに戻らなきゃいけないんだから!!」
「分かった!! 行くぞ、シン!!」
「うん!!」
ノワールに急かされなくても、夢人とシンも急いでホテルへと戻るために駆け出した。
ノワールは地図とカードキーを取りに戻るために。
夢人は背負っているプルルートを安全なホテルに置いて、寝泊まりしている部屋にあるブレイブソードを取りに……
「そうだ!! 御波君!!」
「なんだ!!」
「あの剣はどこにあるんだい!! 部屋に置いてなかったみたいだけど!!」
「……へっ?」
ホテルへの道を急ぎながら、シンは思い出したかのように夢人へと問いかけた。
走りながらのせいか、言葉が荒々しくなっているが、シンの言いたいことは夢人へとちゃんと伝わる。
だからこそ、夢人は間抜けな顔で転びそうになってしまうのであった。
――風雲急を告げる1日が始まるのであった。
という訳で、今回は以上!
ようやくラステイション編のクライマックスに入れました。
ここまで来たら全体の話数でも区切りのよい数字にしたいと思う欲求があるのですけどね。
……まあ、ここまで長引かせるつもりはなかったので、後2話で本編を収めたいですけど。
それでは、 次回 「人質×襲撃×相棒」 をお楽しみに!