超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
ラステイション編の本編最終話、随分と長くなりました。
それでは、 恋心×ドS×結託 はじまります



恋心×ドS×結託

〔ギガガッ!?〕

 

 頭部に鋼鉄の拳を叩きこまれたキラーマシンは、大きく体を仰け反らせた。

 砕けたカメラアイの欠片が宙を舞う。

 

〔ふん!!〕

 

 がら空きになったキラーマシンの胴体を目掛けて、ワンダーは腰に添えていた逆の腕を突き出す。

 真っ直ぐに指を揃えた手のひらは、キラーマシンの装甲を容易く貫く。

 すると、ワンダーはキラーマシンを貫いている手のひらにエネルギーを集中させ……

 

〔アクセルバースト!!〕

 

 ――次の瞬間、キラーマシンを内部から爆発させたのだ。

 手のひらに集中させたエネルギーを留めることなく外へと放出するワンダーの奥の手、アクセルバーストである。

 

「タツタ!? どかーんって、しんじゃったの!?」

 

「ええ!? タツタ君、爆発しちゃったの~!?」

 

「……死んでないから落ち着きなさいよ」

 

 ワンダーの一撃により完全に破壊されてしまったキラーマシンが地面へと派手な音を立てて崩れ落ちる姿を見て、ピーシェは慌ててしまった。

 ピーシェの中では、未だにキラーマシンとリュータがイコールで結ばれていたのである。

 しかも、ピーシェの叫びを聞いたプルルートは疑うことなく、それを信じてしまう。

 ピーシェはともかく、一緒になって焦りを見せるプルルートに、ミモザは呆れたようにツッコミを入れる。

 

「あっ、ミモちゃん! 気がついたんだね!」

 

「ええ、それでこれはいったいどういう状況なの?」

 

「えっとね~、ぴーしぇちゃんとミモちゃんが危なかった所をあのロボットさんが助けてくれたんだよぉ~」

 

「ロボットさん?」

 

 気絶から目覚めたミモザに、プルルートは嬉しそうに声をかけた。

 体中の痛みや眩暈を感じながらも、ミモザは上半身を起こして状況を確認しようとする。

 それにプルルートは答えようと、ワンダーを指さしながら簡潔にミモザへと説明する。

 

「ねえねえ!! さっきのどかーんってやつ、なんだったの!! どかーんってやつ!!」

 

〔こらこら、走ると危ないぞ〕

 

「ねえったら、ねえ!! どかーんってやつ、もういちかい――っ!?」

 

〔おっと〕

 

「うにゃ? ……!」

 

 プルルートの指さした方向を向いたミモザが見たものは、ワンダーに向かって走るピーシェの後ろ姿であった。

 ミモザからの拘束が解けた途端、ピーシェは瞳を輝かせながらワンダーへと駆け出したのである。

 しかし、興奮しすぎたせいでワンダーの注意も聞かず、ピーシェは瓦礫に足を取られてしまう。

 危うく顔から転びそうになるピーシェを、ワンダーはそっと腕を伸ばして支える。

 そのまま抱え上げられたピーシェは目をパチクリとさせてしまう。

 だが、すぐにその表情は嬉しそうな笑顔へと変わる。

 

「うおー、たかいたかい!! ぴいがいちばんたかい!!」

 

〔喜んでもらえてよかった。どれ、少し動くぞ〕

 

「おっ、おおっ!? すごいすごい!! とんでるみたい!!」

 

 いつもより視点が高いことに、ピーシェは嬉しそうにはしゃぎ始めた。

 そんなピーシェに苦笑すると、ワンダーはゆっくりとプルルート達へと歩み寄る。

 ガシン、ガシンッとワンダーが歩くたびに起こる振動にピーシェはまた楽しそうに笑う。

 

「あの方が……私を……」

 

「ミモちゃん?」

 

「っ、何でもないわよ!?」

 

 一方、ミモザはワンダーとピーシェから目が離せなかった。

 次第に潤みだす瞳には憧憬にも似た気持ちが含まれているように見える。

 プルルートに声をかけられるまで、ワンダーが近づいてきていることにすら気付かないくらいだ。

 思わずミモザは恥ずかしそうに声を荒げてしまう。

 

〔ほら、早くそこのお姉さん達の所に行くんだ〕

 

「えー、もっととんでいたいよー」

 

〔それはまた今度やってあげよう。今は少しだけ我慢しててくれ〕

 

「うー、わかった!! でも、やくそくだよ!! またやってくれるって!!」

 

〔ああ、約束だ〕

 

 そんなミモザ達をよそに、ワンダーは抱きかかえていたピーシェをゆっくりと降ろした。

 だが、ピーシェはもっと持ち上げていて欲しかったらしく、不満そうに眉を八の字にしてしまう。

 そんなピーシェに、ワンダーは優しく言い聞かせる。

 すると、少し悩むそぶりを見せたが、ピーシェは笑顔でワンダーの言葉に従ってプルルート達の方へと駆け寄って行く。

 

「ぷるるとー!! みーもー!!」

 

「ぴーしぇちゃん!! よかった、よかったよぉ~!!」

 

 満面の笑みで近づいてくるピーシェを、プルルートはギュッと抱きしめた。

 危ない目にはあったものの、プルルートはピーシェが無事でいて本当に嬉しいのである。

 そんな2人を優しく見つめていたミモザに、ワンダーは小声で伝える。

 

〔すまないが、私達はここで失礼させてもらう。3人で早く安全な所まで避難してくれ〕

 

「っ、で、でも、まだ男の子が1人この先に……」

 

〔分かった。ならば、私達がその男の子を必ず無事に君達の元へと送り返すことを約束しよう〕

 

 いきなり耳元でワンダーに囁かれて、ミモザはビクッと体を震わせてしまった。

 ミモザは恥ずかしさに頬を紅潮させながら、自分達だけ安全な場所に逃げることができない理由をワンダーに話す。

 すると、ワンダーは軽く頷いて、ミモザの不安を吹き飛ばすように力強く宣言する。

 

〔あちらへ真っ直ぐに進めば、おそらくネプテューヌ――いや、私達以上に頼もしい者と合流できるはずだ。彼女達ならば、きっと君達のことを守ってくれる〕

 

「悪いな、ミモザ。プルルートとピーシェのことを頼んだぞ」

 

 自分がやって来た道を指さし、ワンダーはミモザに安全な場所までの逃げ道を提示した。

 続けざまに夢人の申し訳なさそうな声が響くが、残念ながらミモザの耳には入らない。

 今のミモザの頭の中にはワンダーの姿と声しか入ってこないのだ。

 

〔では、そろそろ……〕

 

「ま、待ってください!? お、お名前を――じゃない、まだ助けてもらったお礼を言って……」

 

〔――ワンダーだ〕

 

 プルルートとピーシェの邪魔をしないように、ワンダーはゆっくりとミモザから離れようとした。

 しかし、ミモザは咄嗟に呼び止めてしまう。

 後先考えずに呼び止めてしまったせいか、ミモザは慌てて頭が真っ白になってしまっていた。

 しどろもどろになって焦るミモザに、ワンダーは静かに告げる。

 

〔ワンダーと呼んでくれ。それと、礼には及ばない。私達が助けたかったから、君達を助けただけなのだからな〕

 

「ですが、それでは私の気持ちが……」

 

〔うむ。では、言葉を変えよう――君達が無事でいてくれてよかった。ありがとう〕

 

「っ!?」

 

 謙遜するワンダーに、ミモザは食い下がろうとした。

 だが、ミモザは逆にワンダーからお礼を言われて言葉を失ってしまう。

 悪い意味では決してない。

 激しく高鳴る鼓動がミモザの冷静さを奪っているのである。

 

〔そう言うことだ。2人にもそう伝えておいてくれ〕

 

 黙ったまま自分を見つめてくるミモザを見て、納得したのだろうと判断したワンダーはそう言い残すと静かに背中を向けた。

 脚部の車輪を全力で稼働させ、未だに黒煙が燻っている場所へと向かっていく。

 

「うん? あっ、ロボットがいっちゃう!? ばいばーい!! やくそく、わすれないでよー!!」

 

「ばいば~い!! 助けてくれて、ありがとう~!!」

 

 車輪の駆動する音が聞こえると、ピーシェはブンブンと手を振ってワンダーを見送った。

 それを真似して、プルルートも腕を振りながらお礼を口にする。

 ……そんな中、ミモザは1人胸元で手を組んでワンダーを見つめていた。

 

「……ワンダー、様」

 

 うっとりとワンダーの後ろ姿を見つめるミモザ。

 熱に浮かされたままワンダーの名前を口にすると、ミモザの頬は自然と緩んでしまう。

 それを自覚して潤みを増す瞳には、ワンダーしか映っていない。

 

 ――そんな時、ガサッと何かが動くような音が聞こえてくる。

 

「……ねえ、ぴーしぇちゃん」

 

「どーかしたの?」

 

「ちょっとここでミモちゃんと一緒に待っててくれるかな~? あたし~、ちょ~っとだけ用事ができちゃったからぁ~」

 

 音が聞こえてきた方向を向いたプルルートは、ピーシェにミモザと一緒にいて欲しいとお願いする。

 だが、そんなプルルートを見たピーシェは不思議そうに首を傾げてしまう。

 何故なら、プルルートの表情がおかしいのである。

 にっこりと笑みを浮かべているはずなのに、どうしてかピーシェにはまったく笑っていないように見えてしまう。

 

「ぴいもいっしょにいっちゃだめなの?」

 

「ダメじゃないけどぉ~、すぐに帰ってくるから待ってて欲しいなぁ~」

 

「……うーん、わかった。ぴい、みーもといっしょにまってる」

 

 いつもと様子が違うプルルートに不安を感じたのか、ピーシェは自分も一緒について行こうとした。

 しかし、プルルートの表情は変わらず、優しく見える笑顔でピーシェを諭そうとする。

 少し悩んだが、ピーシェはプルルートの言葉に素直に従うことを選択する。

 

「うん~、ミモちゃんのことをよろしくねぇ~」

 

 素直に言うことを聞いてくれたピーシェに、未だワンダーの去って行った方向をはにかんだ表情で見つめたままのミモザを頼み、プルルートはスタスタと歩き始める。

 向かう先は、先程何かの音が聞こえてきた方向である。

 次第ににっこりと笑っているはずの目を怪しく光らせながら、プルルートは歩くスピードを速めるのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 やれやれ、まさかあのような物があるとは予想外でした。

 “あの御方”へと献上する商品のテストは、ブラックハート様と何故かラステイションにいるプラネテューヌの女神にお願いする予定でしたのに……

 

「まさかロボットになるだなんて思いませんでしたよ」

 

 私は瓦礫に身を隠しながら、先程目撃した光景を思い出して深く息を吐いた。

 

 先程、私がキラーマシンの性能を直に見ていると、1台のオートバイが人型のロボットになったんですよ。

 いえ、どちらかと言うと乗っていた男性の体を包み込んだと言うべきでしょうか?

 ……まあ、どちらにしても私の理解を越えていました。

 急にオートバイが宙に浮いたと思うと、男性の頭の上に落下し、いつの間にかロボットになっていただなんて、未だに信じられません。

 まったく、非常識にも程があります。

 

「みぃ~つけたぁ~」

 

「っ、誰ですか!?」

 

 ロボットについての考察をしていると、急にゾッとするような声が聞こえてきました。

 間延びした可愛らしい女の子の声だと言うのに、私は背筋が凍るような感覚を覚えたのです。

 私がバッと声がした方へと顔を向けると、そこにはにっこりと笑う青紫色の髪を三つ編みにしている少女がいました。

 

「ちょぉ~っと聞きたいことがあるんだけどぉ~……」

 

「え、あ、ああ。避難が遅れた方ですか。ここは危ないですし、私が安全な場所までエスコートいたしましょう」

 

 首を傾げながら尋ねてくる少女を見て、私は内心でホッとしました。

 きっと先程感じた寒気は気のせいだったのでしょう。

 なにせ、彼女はにっこりと可愛らしく笑っている少女ではないですか。

 これでも紳士を自称しています私としては、礼節を持って少女を安全な場所に避難させなければならない使命があるのです。

 

「そんなことよりもぉ~、さっき見てたよねぇ~?」

 

「な、何をでしょうか?」

 

「あたし達があの変なうねうねしたのに襲われているのをさぁ~、見てたよねぇ~?」

 

 紳士として彼女の手をとって避難場所へとご案内しようとすると、少女は私の言葉を無視して問いかけてきました。

 にっこりと笑っているはずの少女からは、何故だかブラックハート様よりも強い迫力を感じてしまいます。

 引きつりそうになる頬を誤魔化しながら、確信を込めて尋ねてくる少女にどう返事をしていいのかを思案をし……

 

「ええ、確かに先程目撃しましたけど……ああっ! もしや、あなたがあそこにいた少女でしたか! 怪我がない様子でよかったです!」

 

 咄嗟に誤魔化そうと、わざと驚いた表情を作りました。

 さすがに黙って見ていたでは体裁が悪いですけど、後から現れたあのロボットのおかげで色々と言い訳できそうですしね。

 

「すみません! 実は助けなければと思っていたのに、足が震えてしまって……それに、後から現れたロボットが最初のロボットを倒したのを見たら、もう恐怖でいても立ってもいられなくなりまして……」

 

「――ごちゃごちゃとうるさいなぁ~!!」

 

「へっ?」

 

 如何にも気弱な青年を演じていますと、急に少女の口からありえない言葉が聞こえてきました。

 加えて、少女が不機嫌そうに眉を吊り上げて私を睨みつけています。

 突然の少女の変化に、私は演技をするのも忘れてしまいました。

 

「あたしはぁ~、見たか見ていないかって聞いてるんだよぉ~!! ――それにぃ~、どうしてゆっちゃんの剣を持ってるのぉ~?」

 

「こ、これは、ですね……私もそこに落ちていたものを拾ったばかりでして、その……」

 

「へぇ~、そうなんだぁ~」

 

 ドスの利いた少女の低い声に圧倒されてしまい、私は思わずアイエフさんから受け取った竹刀袋を体の後ろに隠してしまいました。

 やった後でしまったと思いましたが、やってしまったことは仕方がありません。

 私はできるだけ少女の顔を見ないようにしながら、もっともらしい言い訳をします。

 自分でも苦しいと思ってしまう言い訳をすると、少女の声が幾分か柔らかくなりました。

 

 くっ、これも“彼”がこんな剣に興味を示すからいけないのですよ!?

 私はこんな剣になんて、これっぽっちも興味なかったと言うのに!?

 

「え、ええ、そうなんですよ!? ちょうどそこの瓦礫に埋もれていたものを見つけたばかりでして……」

 

「――でもぉ~、あたし達を見ていた時にはもう持っていたよねぇ~?」

 

「っ、そ、それは……」

 

 安心したのも束の間、私の不用意な発言で状況はかなり悪い方向へと変わってしまった。

 少女のことを甘く見過ぎていましたね。

 それに、少女から放たれている妙な威圧感に私自身が冷静でいられなかったのも原因の1つでしょう。

 仕方ありません、ここは一時退散させて頂きましょう。

 さすがに少女が私よりも身体能力に優れているようには見えませんし、適当に誤魔化して逃げてしまいましょうか。

 

「す、すみません。私はこれから探さなければいけない人がいますので、失礼させて……」

 

「あぁ~もぉ~、ダメ!! あたし、我慢できないぃ~!!」

 

 癇癪を起したかと思うと同時に、少女の体を光が包み込んでいきました。

 その現象に心当たりがある私は驚いて目を大きく見開いてしまいます。

 

 まさか、彼女がプラネテューヌの……っ!?

 

「――ふぅ~、さぁ~てと、質問に答えてくれるかしらぁ~?」

 

 光の柱が弾けると、そこには少女とは似ても似つかぬ女性が立っていました。

 露出の多い黒のボンテージ服。

 蝶の羽のような機械の翼。

 手には鞭のようにしなっている剣。

 赤紫色に怪しく瞳で私を見つめながら、嗜虐的な笑みを浮かべています。

 

 ひと目見て分かってしまいました。

 彼女こそ、“あの御方”やブラックハート様と同じ女神――プラネテューヌの女神パープルハートだったのですね!?

 もしや、先程のやり取り全てが私達の計画を見抜いていた上での計算だったのでは!?

 だから、言い訳ばかりしている私に業を煮やして直接的な行動に打って出ようとしているのですか!?

 いや、“彼”に限って計画を悟られるようなミスをするとは思えませんし……

 

「黙ってないで、早く答えてくれないかしらぁ~? どうして嘘ばかりついたのかをねぇ~?」

 

 ――しかし、パープルハート様の言葉に、私は心の平静を取り戻すことができました。

 どうやら私達の計画を知られてはいないご様子です。

 ただ、私が言い訳ばかりをしていたことに怒ってらっしゃるようですね。

 それなら、まだ何とかなります。

 

「も、申し訳ございませんでした!? 何分、私も突然街が破壊されていく様子を見て混乱しておりまして……女神様に嘘をつくつもりはなかったのです!? 本当に申し訳ございませんでした!?」

 

 パープルハート様の怒りを鎮めるには、さっさと謝ってしまうことに限りますね。

 後は、この用済みになった剣をパープルハート様にお返しすれば、何も問題ありません。

 要は、私が急な事態に戸惑っていた一般市民だと言うことをパープルハート様に分かってもらえれば、それで……

 

「なるほどねぇ~、そう言うことならあたしも……」

 

 思った通り、納得してくれたご様子のパープルハート様に、私は内心でほくそ笑んでしまいました。

 ですが、それを表情には出さず、私は駄目押しで女神様の慈悲に感極まって泣きそうな顔を作ります。

 わざとらしく見えないようにしながら顔を上げると、そこには口の端を大きく吊り上げるパープルハート様の顔がありました。

 

「――正直になるまで、その体に聞くしかないわねぇ~!!」

 

「ひいぃぃっ!?」

 

 ビシンッと鞭を地面へと叩きつけると、パープルハート様は楽しそうに私を見下ろしながら物騒な宣言しました。

 そのあまりの恐怖に、私は思わず悲鳴を上げて尻餅をついてしまいました。

 無様でも私はガクガクと震える体を止められなくなってしまったのです。

 

「どうにもあなたの言葉は信用できないのよねぇ~。それに、まだ何か隠してそうだし~」

 

「な、何を根拠にそんな言いがかりを!?」

 

「根拠ならあるわよぉ~。だって~、あの変なうねうねを怖がっていたみたいなことを言っていたのに、あたしが話しかけるまで怯えてなかったじゃない? それに何だか、他にも色々と知っていそうだしぃ~、詳しく教えてもらえるかしらぁ~」

 

 パープルハート様の威圧感に、冷静さを失ってしまった私は咄嗟に声を荒げてしまいました。

 しかし、パープルハート様の鋭い指摘に私は言い負かされてしまいます。

 伊達に女神様ではなかったというわけですね。

 ……こうなってしまったら、もう私の負けですね。

 少しでも被害を抑えられるに注意をして、当たり障りのない情報だけを与えてしまいましょう。

 計画なら、まだいくらでも軌道修正できます。

 1番大事なことは、この危機的状況を脱出することです。

 

「わ、分かりました。私の知っていることを全てお話し……」

 

「そんなことで許してもらおうとしてもダメよぉ~。言ったでしょ? あなたの言葉は信用できないってさぁ~――だから、簡単には許してあげないわぁ~」

 

 しかし、そんな私の目論見はパープルハート様には通じませんでした。

 それどころか、先程よりもパープルハート様の笑みが凶悪なものへと変わってしまっています。

 まるで、私を追い詰めて楽しんでいるかのような……そんなサディスティックな雰囲気がパープルハート様から漂ってきます。

 

「うふふふ、あたしも色々と溜まっているのよねぇ~。ノワールちゃんとゆっちゃんは全然仲良くできなくて喧嘩ばっかりだしぃ~、あのガラクタのせいで頑張っていたシアンちゃん達にすっごく迷惑かかっているしぃ~、ぴーしぇちゃんとミモちゃんは危なかったしぃ~、あたしも昨日夜更かししたせいでまだ眠たいのよねぇ~」

 

「あ、あ、あああああ……」

 

「あらぁ~、そんなに怯えなくても大丈夫よぉ~。あたしも疑っているだけの相手に本気になるほど鬼じゃないものぉ~――その代わり、優しく……そう、2度と嘘なんてつけないようにとびっきり優しいサービスをしてあげるわぁ!!」

 

 一部、理不尽な怒りをぶつけられているような気もしないではないですが、私にはそこまで考えられるほどの心の余裕はありませんでした。

 ただただ、ゆっくりと1歩ずつ近づいてくるパープルハート様が怖くてまともに言葉もしゃべることができません。

 私にできることはただ1つ――パープルハート様から逃げなければと、思うことだけでした。

 

「うふふ、ふふふふふふ~」

 

「うわああああああああ!?」

 

 

*     *     *

 

 

「……何だよ、これ」

 

 その頃、シアンの工場に辿りついたリュータは目の前の光景に言葉を失ってしまった。

 ――辺り一面、焼け野原だったのである。

 工場であった建物は無残にも破壊され、あっちこっちで火の手が上がっている。

 

「何なんだよ、これ……いったい、何なんだよ!!」

 

 夢人達を呼ぶためにホテルに行く前までは無事だったシアンの工場の現状に、リュータは怒りの叫びを上げた。

 リュータには理不尽としか思えなかったのである。

 どうして頑張っているシアン達ばかりが辛い目にあって、アヴニールには何も起きないのかと。

 そして、リュータの怒りはこの惨状を作り上げた元凶――今も工場を破壊しているキラーマシンへと向かう。

 

「許さない――絶対に許さねえぞ!!」

 

 激情に駆られたままリュータはキラーマシンへと走り出した。

 当然、ただの子どもであるリュータがキラーマシンを止める術を持っているわけはない。

 しかし、キラーマシンの破壊活動を黙って見てもいられなかったのだ。

 

「うおおおおおっ!!」

 

〔はあああああっ!!〕

 

「――って、あれ?」

 

 飛びかかってでもキラーマシンの行動を止めさせようとしたリュータだったが、急に後ろから現れた人物に先を越されてしまう。

 まだ何もしてないのにキラーマシンが勝手に吹き飛んでいく姿を見て、リュータは目を丸くしてしまった。

 いつの間にか自分とキラーマシンの前に躍り出たロボットの後ろ姿を見つめることしかできなかったのである。

 

「やれやれ、あまり無茶するなよ、リュータ」

 

「っ、その声!? まさか夢人兄ちゃん!?」

 

 拳を突き出した体勢から、ゆっくりと振り返ったロボット――ワンダーから聞こえてきた声にリュータは驚いてしまった。

 

「おう。遅くなったけど、コイツらを倒しに来たぜ」

 

「っ、遅すぎだっての!! ったく……」

 

 夢人の言葉に、リュータは不覚にも目頭が熱くなってしまった。

 目元を荒っぽく服の袖で拭いながら悪態をつくが、リュータの口元は少しだけにやけている。

 

「それに何なんだよ、その格好? まるでロボットみたいじゃん」

 

〔まるでも何も、私はロボットだからな〕

 

「って、誰だ!? 夢人兄ちゃん、今の声って――ハッ、まさか!?」

 

 今の夢人の姿を不思議そうに見ていたリュータであったが、急に聞こえてきたワンダーの声に驚いてしまった。

 すると、リュータは突然夢人から距離をとってしまう。

 睨むような目つきでこちらを見つめるリュータに、夢人とワンダーは首を傾げながら問いかける。

 

「おい、急にどうし……」

 

「――テメェ、夢人兄ちゃんの偽物だな!! 正体を現せ!!」

 

「はあっ!?」

 

 ビシッと指をさしながら叫ぶリュータに、夢人は戸惑いを隠せなかった。

 

「ちょっと待て!? 俺は偽物なんかじゃないぞ!? 正真正銘、御波夢人本人だ!?」

 

「もう騙されねえぞ!! テメェがロボットなら、夢人兄ちゃんの声色ぐらい簡単に真似できるだろうし、何より……」

 

〔何より?〕

 

 夢人は慌てて誤解を解こうとするが、リュータは聞く耳を持ってくれない。

 親の仇を見るような目で夢人の事を睨みながら、リュータは自分の推理を語る。

 

「――夢人兄ちゃんがそんなに強いわけないだろ!!」

 

 ワンダーの追及に、リュータはあらん限りの声で断言した。

 握りしめた拳をわなわなと震わせるリュータの力説は続く。

 

「オレの知っている夢人兄ちゃんはなあ、テメェみたいに強くなんてないんだよ!! 弱そうなモンスターにすら、ボロ雑巾みたいにやられるのが夢人兄ちゃんなんだ!! だから、いくら夢人兄ちゃんの声で騙そうとしても、オレには分かる!! テメェは夢人兄ちゃんの偽物だってことがな!!」

 

〔……すまない、夢人。世界が変わってもお前の評価が変わっていないことを喜べばいいのか、悲しめばいいのか分からない私を許してはくれないか?〕

 

 妙に説得力のあるリュータの説明に、ワンダーは申し訳なさそうに夢人へと声をかけた。

 心当たりがあり過ぎて、ワンダーには夢人をフォローすることが不可能であったのである。

 

「リュータ、お前が言いたいことは俺にもよーく分かる。でもな、今はそんなことをいちいち説明している暇は……」

 

〔CHANGE MODE VEHICLE〕

 

「な――い?」

 

 自覚がある分、夢人はリュータを怒鳴りつけることができなかった。

 しかし、怒っていないわけではなく、夢人はこめかみをヒクヒクとさせながらも後で話し合うことを決めてリュータを早く安全な場所に逃がそうとする。

 そんな時、突如として夢人にとって不吉な機械音が聞こえてくる。

 瞬く間にアーマーモードは解除され、ワンダーがバイクの姿に戻ってしまったのだ。

 

「ワンダー、どうして急にアーマーモードを解除したんだよ!? まだ30分経ってないだろ!?」

 

〔……どうやらエネルギーが切れたようだ〕

 

「冷静に言ってる場合じゃないからな!? ってか、エネルギー切れってどう言うことだよ!?」

 

 ワンダーのモードチェンジ、アーマーモードには30分と言う制限時間がある。

 それは犯罪組織との最終決戦の後で、1からオーバーホールされても残っていたアーマーモードの欠点の1つである。

 部品の耐久度や装着者の安全を考えて、主にワンダーの組み立てとメンテナンスを担当したリーンボックスの教祖である箱崎チカが技術者達に組み込んでもらったリミッターと言うわけだ。

 しかし、今のモードチェンジはリミッターと関係ないエネルギー不足によって引き起こされた。

 本来であれば、ワンダーにエネルギー不足などと言う問題は発生しない。

 動力源としてシェアクリスタルを内蔵し、シェアエナジー増幅装置を組み込んであるワンダーは、理論上半永久的に活動が可能である。

 マニュアルにも当然記載されている事項であるため、夢人は予想外の事態に慌ててしまう。

 

「夢人兄ちゃん!? ……へ、へへ、お、オレは最初っから夢人兄ちゃんだって分かってたぜ。ほら、えっと、その、敵を欺くにはまずモナカからとか、そんな感じ? それに、さっきまで言っていたことは別にオレが夢人兄ちゃんのことを嫌いで言っていたわけじゃ……」

 

「今更、そんなフォローはいらないからな!? 後、モナカじゃなくて味方だし……って、違う!? とにかく、お前は早く……」

 

〔ギガジジジジ〕

 

『っ!?』

 

 ロボットの正体が夢人だと分かり、リュータは露骨に視線を逸らして気まずそうに言い訳を並べた。

 だが、夢人からしてみれば、そんな態度でフォローされても余計に悲しくなるだけである。

 とりあえず、夢人はアーマーモードが解除された原因を考えるのをやめてリュータを早く逃がそうとしたのだが、聞こえてきた機械音に顔色を青くしてしまう。

 顔を上げると、そこには夢人達に大きな影を落としているキラーマシンがいたのである。

 

「リュータ、早く逃げろ!! コイツは俺が何とかする!!」

 

「でも、夢人兄ちゃんが!?」

 

「いいから!! ――ワンダー!!」

 

〔すまない、私も動けそうにない〕

 

「くっ!?」

 

 鬼気迫る表情で夢人はリュータに逃げるように叫んだ。

 しかし、リュータは泣きそうな顔をして首を横に振るだけで逃げようとしない。

 仕方なく、夢人はワンダーにリュータを頼もうとしたのだが、即座に断られてしまった。

 アーマーモードが解除された途端、ワンダーは糸が切れた操り人形のように横たわったまま動けなかったのである。

 最悪の状況に夢人は悔しげにキラーマシンを睨むことしかできなかった。

 

〔ジガガッ!!〕

 

「っ、チッ!?」

 

「っ、夢人兄ちゃん!?」

 

 抵抗する力を持たない夢人達に、キラーマシンは無慈悲にも斧を振り下ろそうとする。

 斧が持ち上げられた瞬間、夢人は躊躇うことなくキラーマシンに背中を向けてリュータへと駆け出す。

 そのまま減速することなくリュータを抱え、夢人はキラーマシンから逃げようとする。

 しかし、そんなにすぐに巨大な斧の攻撃範囲から逃げられるわけもない。

 加えて、キラーマシン自体も夢人達を狙って振り下ろす斧の着地点を微調整する。

 最早避けられない一撃が放たれようとした時……

 

「――そこっ!!」

 

 突如としてキラーマシンを襲った大剣の三段突きにより、斧は柄の部分を残して砕け散ってしまった。

 斧の砕け散る音と聞こえてきた女性の声に夢人が振り返ると、そこにはブラックハート――女神化したノワールがプロセッサユニット《ブラック》を身に纏って悠然とキラーマシンと相対している姿が見える。

 

「ノワール!! 助かったよ!! ありが……」

 

「ちょうどいい機会ね。よく見てなさい」

 

 キラーマシンの攻撃から自分達を救ったのがノワールだと分かると、夢人は表情を緩めてお礼を言おうとした。

 だが、その言葉はノワールの嫌に静かな声に遮られてしまう。

 その意味が分からずに目をパチクリとさせる夢人に構うことなく、ノワールは大剣を振り上げてキラーマシンへと飛翔する。

 

「これが女神と人間の……」

 

〔ギギギッ!?〕

 

 あっという間にノワールはキラーマシンの懐に潜り込み、鉄球つきの棍棒を持っている腕を大剣で斬り裂いた。

 すると、キラーマシンの腕はいとも容易く切断されてしまったのである。

 切断された箇所がショートを起こしたようで、青白い火花が目に見える形で放出されている。

 しかし、ノワールは腕を斬り下ろしただけでは止まらなかった。

 大剣を振り切ると同時に体を丸めて下降する。

 だが、額が足の位置まで下がった瞬間に、空中を蹴るように大きく体を反らせて上昇する。

 そのまま上昇することでキラーマシンの頭部を蹴り飛ばす。

 所謂、サマーソルトキックを繰り出したのだ。

 足のつま先を覆うプロセッサユニットの硬度はキラーマシンよりも優れていたらしく、カメラアイに罅が入る。

 

「決して埋まらない溝よ!!」

 

〔っ!?〕

 

 叫ぶと同時に、ノワールは再び空中を蹴ってキラーマシンへと突撃した。

 ただ大剣を構えて真っ直ぐに飛ぶだけの行動であったが、キラーマシンの腕を斬り下ろすには充分であった。

 既に柄だけの状態になった斧を持っていた腕を肩から切断したのである。

 そのまま軽やかに地面に着地するノワールと対照的に、両腕を失ったキラーマシンは体のあちこちを放電させながらガタガタと震えるだけであった。

 

「――後、あなたがやろうとしていることって、こう言うことよね」

 

 夢人に聞こえるように呟くと、ノワールは大剣を下段に構えて腰を落とした。

 そして、次の瞬間、後ろ足で前に踏みこむと同時に棒立ちになってしまっているキラーマシンを振り上げた大剣で斬る。

 だが、ノワールは止まることなく前足に重心を乗せて大剣を横に一閃。

 大剣を振り切るとノワールの体は回転してしまい、完全にキラーマシンを視界から外してしまう。

 しかし、揃えた両足での回転は素早く、ノワールは即座にキラーマシンを捕捉できる。

 最後に体を回転させた勢いを失くすことなくノワールは地面を蹴り、大剣の横薙ぎをキラーマシンの胴体へとお見舞いする。

 ボディを斬りつけるだけの先程までの斬撃と違い、最後の一太刀はキラーマシンの胴体を2つに分断した。

 崩れ落ちる上半身と力なく地面へと落下する尻尾のような脚部の横をすり抜け、ノワールは大剣を振り抜いた体勢で立っていた。

 一方で、その一連の動きを見せられていた夢人は呆然とノワールの背中を見つめることしかできない。

 何故なら、ノワールの今の動きこそ、夢人が何度も失敗をした回転斬りの完成形に近いのだから。

 

「ふぅ、細かいところとかは違うかもしれないけど、だいたいこんな感じよね。違ってたかしら?」

 

「合ってる。でも、どうして……」

 

「こうした方が分かりやすいと思ったからよ」

 

 ゆっくりとノワールは振り返ると、夢人に先程の動きについての感想を求めた。

 ノワールがどうしてあんな真似をしたのか、どうして河原で練習していた動きが回転斬りであることを知っているのか、などの疑問が夢人の頭の中を埋め尽くす。

 そんなぼんやりとしている夢人の疑問に、ノワールは1歩ずつ近づきながら答える。

 

「河原で見たあの変な踊り、ずっと両手で何かを握っているように見えたわ。それに、手を握られた時に感じた違和感――アレって、硬くなった手のひらのタコよね?」

 

「あ、ああ」

 

「だから、私なりにあなたがやろうとしたことを再現しようとしたのが今の動きってわけよ」

 

 ノワールに言われて、夢人は慌てて手のひらを見つめた。

 そこには確かに硬くなり始めではあるが、立派なタコがある。

 すると、ノワールは急に立ち止まる。

 そのせいで夢人達とノワールとの間に不自然な距離感が生まれた。

 

「これでもう分かったでしょ? あなたがいくら頑張ろうとも、女神には届かない。その証拠がさっきの私の動きよ」

 

「な、なあ、夢人兄ちゃん? あの痴女、いったい何を言って……」

 

「悪い、事情は後で説明する――ノワール、それでも俺は……」

 

「何度でも頑張る? それとも、諦めないって言うつもりかしら?」

 

 キラーマシンを倒したはずなのに空気が重くなる一方で居心地の悪さを感じたリュータは、不安そうに夢人の顔を見上げた。

 しかし、夢人はノワールのことで頭がいっぱいであり、まともにリュータの相手をしていられるほどの余裕がなかった。

 ノワールは夢人の反論を先読みし、困ったように眉を下げて口元に笑みを浮かべる。

 

「確かに、努力して諦めなければ今の私の位置には辿りつけるかもしれないわ――でもね、私も立ち止まったままじゃないのよ」

 

 そう言うと、ノワールは1度深く目を閉じた。

 次に目を開いた時、ノワールの顔には一切の甘さは存在しない。

 睨むのではなく、ただ真っ直ぐに夢人を見つめてノワールは口を開く。

 

「あなたが前に進むように、私も前に進む。いえ、女神である私は人間であるあなたよりもずっと早く前に進むわ。だから、女神と人間の距離を縮めることなんて不可能なのよ。それでも諦めないって言うのなら、私に教えてちょうだい――今の無力なあなたに何ができるのかを」

 

 凛としたノワールの問いかけに、夢人は答えることができずに悔しそうに顔を歪めて口を噤んでしまう。

 手を伸ばしても届かない距離にいるノワールが、夢人にはどうしようもなく遠くに感じて悲しくなったのだ。

 

 ――そのせいで夢人の足は地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、ノワールとの距離を1歩も縮めることができなかったのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 その日の夜、1人の女性が暗い部屋でモニターに映る映像を睨むように見つめていた。

 

「……チッ、これはいったいどう言うことだ」

 

 悪態をつく女性の目は、モニターに映りだされている2人の女性に注がれている。

 1人はキラーマシンを魔法で氷漬けにした水色の髪の少女――女神化したロム。

 もう1人はノワールの敵意を飄々とした態度で受け流す青紫色の女性――女神化したプルルート。

 どちらもキラーマシンが撮影した記録映像である。

 キラーマシンが機能を停止しても、内部に搭載された記録用のカメラが映像を別の場所へと転送していたのだ。

 今、女性が見ている映像はどちらもキラーマシンが破壊された後のものである。

 そして、映像に映し出されている2人の存在は、モニターを見ている女性にとって認められないものなのだ。

 

「遅れてしまってすみません……って、もう見ていたんですか?」

 

「遅いぞ、いったい何をしていた?」

 

「何をと言われましても、僕にも事情ってものがありますから」

 

 しばらくすると、部屋の中に1人の男性が入室してきた。

 男性は謝罪の言葉を口にするが、表情からはまったく悪びれた様子を感じられない。

 女性の追及も無視して、男性はモニターの方へと視線を向けてしまう。

 

「へえ、これが異世界の女神の力なんですか」

 

「……何だと? 貴様、今何と言った?」

 

「ですから、彼女達は異世界の女神だと言ったんですよ。まあ、僕自身もこうして見るまで信じられませんでしたけど」

 

「異世界、か……」

 

 不意に男性が零した一言に、女性はピクリと眉を上げて反応した。

 いぶかしむような女性とは異なり、男性は楽しそうに笑みを浮かべてモニターのロム達を見つめる。

 しかし、女性の方は眉間に深い皺を寄せて疑わしそうに睨むだけだった。

 

「何でも彼女達はこことは違うゲイムギョウ界の女神で、何らかの事情があってこちらのゲイムギョウ界にやって来たそうです」

 

「その何らかの事情とやらは、いったい何なのだ?」

 

「さあ? さすがにそこまでは僕にも分かりませんよ。それに、彼女達も分からないそうですしね」

 

「チッ、考えるだけ無駄と言うわけか」

 

「そう言うことです。今はそれよりも、可及的速やかに対処しなければいけない問題がありますよね」

 

 答えの出ない口論を繰り返すことに飽きたのか、男性が女性にこの場に集まった本当の目的を話し始めるように促した。

 当然、女性の方も男性の言いたいことが分かっており、軽く鼻を鳴らして本題へと移る。

 

「ふん、言われんでも分かっている。問題は連中――新しい女神がこのゲイムギョウ界にやって来てしまったことだ。しかも、2人も……」

 

「あっ、追加でもう1人です」

 

「なんだと?」

 

「僕の方で確認したところ、新しい女神は3人ですよ。いやあ、これで女神は7人ですね」

 

「のんきに言っている場合か!」

 

 能天気に笑う男性を、女性は怒鳴りつけた。

 しかし、男性は笑みを崩すことなく言葉を続ける。

 

「しかも、まだ増えるかもしれないんですよ。少なくとも、あと1人はこちらにいるようなことを話していました」

 

「……つまり、女神が8人以上になる可能性があるのか。クソッ、迷惑な奴らだ!」

 

「どうどう、落ち着いてくださいよ」

 

 追加でもたらされた男性からの情報に、女性は忌々しそうに表情を歪めてモニターのロム達を睨む。

 しかも、宥めようとする男性にも女性の怒りは飛び火する。

 

「これが落ち着いていられる状況か! 女神が増えるだけでも問題だと言うのに、8人もいるのだぞ! 倍になっているじゃないか!」

 

「ええ、困ったものです」

 

「だから、どうして貴様はそうのんきに構えていられるのだ! ――それに、早くそのふざけた口調をやめろ! 貴様の敬語を聞いていると、虫唾が走る!」

 

「おやおや、酷い言われようですね。これでも僕――いや、俺は彼女達の前ではお人好しの好青年で通っているんだけどね」

 

「貴様が好青年だと? ふん、どこの世界に平気で嘘をつく好青年がいると言うのだ――なあ、シン」

 

 怒鳴り散らす女性にとって、落ち着いているように見える男性の存在は苛立ちを増幅させてしまう。

 しかも、女性は男性の口調が気に入らなかったのである。

 そこを指摘すると、男性は今までのニコニコとしていた笑顔から雰囲気を一変して、にやにやと嫌らしく口元を歪め始めた。

 すると、幾分か怒気が納まった様子の女性は呆れながら男性――シンへとわざとらしく問いかける。

 

「さあ、どこだろうね? 生憎と、そんな矛盾しているような人物に会ったことがないから分からないよ」

 

「……まあ、いい。しかし、よく貴様もそう態度を平然と変えられるものだな」

 

「必要だからに決まっているじゃないか」

 

 女性の質問に、シンはとぼけて答えた。

 暗に、夢人達と仲間ではないと言っているのだ。

 薄情なことを平然と言うシンを見ていると、さすがに女性もモニターの中の女神達に対する怒りが冷めてくる。

 

「とにかくだ。これ以上、女神どもに好き放題されては敵わん! どうにかせねばなるまい!」

 

「あっ、今日ってそういう話だったんだ。てっきり、いよいよラステイションを消しちゃうものだと思っていたのだけど?」

 

「それができれば、とうの昔に実行していた。だが、まだ“その時”ではないことくらい、貴様も分かっているだろう?」

 

「まあ、確かにね」

 

 なかなか本題に移れないことに女性は痺れ気を切らして、力強くシンへと訴えた。

 対して、シンは女性を馬鹿にするような笑みを浮かべて物騒なことを呟く。

 すると、女性は頭痛を押さえるように額を手のひらで覆い、嘘は許さないと言わんばかりにシンを睨んで言葉の真意を尋ねる。

 シンの方も先程の言葉は冗談であったようで、にやにやと笑うだけであった。

 

「まったく、私は何か女神どもを減らせる方法がないかと聞いているんだ」

 

「うーん、そう言われてもねえ。やっぱり、地道に1人ずつ減らしていくしかないんじゃないかい?」

 

「それができれば、こんなに苦労はしていないだろ。ましてや、今は女神が倍の人数もいるのだ。もう一刻の猶予も残されてはいない状況だと言うのに……」

 

「焦っても状況がよくなるわけじゃないよ。とりあえず、まずは確実に1人を減らすべきだと思うのだがね」

 

「……そうだな。そうとなれば、利用できる物は最大限に利用せねばなるまい」

 

 生産性のない愚痴がこぼれたが、女性はシンの言葉を聞いてとある決心を固めることができた。

 一方で、シンは女性が何を言っているのかが分からず、不思議そうに首を傾げてしまう。

 

「何を言って……」

 

「出て来い、【デルフィナス】!!」

 

「っ、なあっ!?」

 

 シンが尋ねようとした瞬間、女性は声高らかに数日前に自分の前に突然姿を現した謎の人物の名前を叫ぶ。

 すると、何もないところから赤い粒子が渦のように発生し、1つの影が浮かび上がってくる。

 その影こそ、デルフィナスだった。

 

〔どうやら契約を結ぶ気になったようだな〕

 

「わぁお、いつの間にそんな人と知り合ったんだい?」

 

「貴様は黙っていろ――ああ、四の五の言っていられる状況ではなくなったのでな。だが、その前にはっきりさせておかねばならないことがある。貴様の望みを言え。どうして私に契約を持ちかけたのかの理由をな」

 

〔貴様に契約を持ちかけた理由は、我の望みを阻む女神どもを排除すると言う同じ目的があるからだ。我は女神どもさえいなくなれば、貴様らがゲイムギョウ界で何をしようとも構わない〕

 

 現れたデルフィナスは、即座に女性――コンベルサシオンに以前持ちかけた契約の話を切り出した。

 茶化してくるシンを黙らせると、コンベルサシオンは契約を成立させることを前提の上でデルフィナスにその真意を問う。

 

「なるほどな。それならば、利害の一致と言えなくもない」

 

「敵の敵は味方、って暴論の上でのだけどね」

 

「だから、貴様は黙っていろと言っているのだ! ――だが、コイツの言うことにも一理ある。女神どもを消すだけならば、回りくどいことなどせずに貴様だけで勝手にやればいいだけだ。何故、わざわざ私に話を持ちかける必要など、貴様には……」

 

〔――我の望みは1つ〕

 

 デルフィナスの不安定な立ち位置をシンに言われなくても理解しているコンベルサシオンは、少しでも情報を聞き出そうとした。

 しかし、デルフィナスはコンベルサシオンの質問を遮ると、未だに映像が流れていたモニターを指さす。

 

〔御波夢人、ただ1人〕

 

 有無を言わせぬ迫力を伴い、デルフィナスはモニターに映る夢人を指さして宣言するのであった。

 その仮面の瞳に怪しい赤黒い輝きを灯しながら……




という訳で、今回はここまで!
いろいろと後を引くような感じになりましたけど、一応はラステイション編でやることは終了しました。
後は、ノワール視点での女神通信と今回はコンパ視点での後日談、最後に超次元側の続きを書いて、次章へと続きたいと思います。
女神化したプルルートとの絡みは次回にということで。
それでは、 次回 「new女神通信(ノワール編)」 をお楽しみに!
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