超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
サブタイで予想もついた方がいらっしゃったと思いますが、彼女達の参戦です。
それでは、 私がスクープを逃すわけがない はじまります


私がスクープを逃すわけがない

「ハァ~」

 

 机に突っ伏したままため息をつく自分が情けない。

 好きでこんなことをしているわけではないけど、こうでもしなければやってられない心境の板挟みが辛い。

 こんなことをしている暇なんて私には1分1秒もないことは重々承知している。

 

 でも、私は動けない。

 何故なら……

 

「どうしてゲイムギョウ界はこんなに平和なんですかー!?」

 

 記事に書く程のビッグニュースがまったくないからなんですよ!?

 

 

*     *     *

 

 

 私、デンゲキコは入社2年目にして崖っぷちです。

 

 プラネテューヌの大手……とまではいかなくても、そこそこ名の売れている出版社に就職できて順風満帆な生活を送っていたはずでした。

 元々、インターネットやSNSが普及している現代において紙媒体の情報雑誌を熱心に購読するような顧客層の減少が危ぶまれている中では、私の勤めている出版社は充分利益を上げて将来性もしっかりしている企業です。

 社長個人の伝手でテレビ局や教会の関係者と知り合いと言うのも大きく、プラネテューヌの国民の皆さんからの信頼もそこそこあります。

 ……あくまで、そこそこなんですけどね。

 

 とにかく、記者になることを子どもの頃から夢見てきた私にとって、これ以上ない就職先でしたよ。

 まあ、入社するまでが大変でしたけど。

 やはり、娯楽が進歩する毎に出版社とかアニメやゲームの関連会社とかの倍率は上がるわけでして……本当、苦労しましたよ。

 今の勤めている会社だって、妥協に妥協を重ねた結果と言えばいいんでしょうか。

 とりあえず、狙っていた第一志望からは遠い位置にあったことだけは確かです。

 でも、そこに不満なんてありません。

 厳しいと分かっていて自分から乗り込んだ業界ですから。

 好きなことを仕事にするなら、それだけリスクを伴うのも覚悟の上です。

 むしろ、私がこの会社を有名にしてやる! と息を巻いたくらいです。

 その意気込みを買われたらしく、入社して2年目にして単独での取材活動と記事の製作を任されました。

 当然、私はこの破格の待遇にその場で小躍りしてしまうくらい喜びましたよ。

 だって、ある意味で1人前と認められた証ですよ。

 やる気のなさそうな先輩の後ろをカルガモの赤ん坊の如く連れまわされた挙句、別の先輩に一面記事を奪われるなんて悔しい思いをしないで済むんですよ。

 しかも、その記事の大半は私が徹夜して作成したものだったのに……っ!

 ああ、今思い出しても腹が立ってきました!

 あの時の“彼女”の勝ち誇ったように見えたすまし顔が忘れられない!

 

「何を急に物騒なことを叫んでるのさ?」

 

 ――そう、今話しかけてきている“彼女”こそが私の怨敵であり、ライバルで同期でもあるファミ通さんです。

 隣のデスクで作業をしていたため、先程の私の叫びが気になったのでしょう。

 と言うより、衝動的に叫んでしまった私はかなり恥ずかしいんでツッコミを入れないで欲しかったんですけどね!?

 

「ゲイムギョウ界が平和なことはいいことじゃないか。うん、平和が1番だよ」

 

「……まあ、それはそうなんですけどね。でも、書くことがなくちゃ、意味ないじゃないですか」

 

「だからって、変なことは言わない方がいいよ」

 

 恨みがましく視線だけファミ通さんに向けるが、気にした様子も見せず肩をすくめられてしまった。

 正論故に私は返す言葉もない。

 自分でも理不尽で物騒なことを言っている自覚ぐらいある。

 

「それに書く内容がないわけじゃないでしょ? 最近だと、新しく見つかったダンジョンの入り口が1夜にして崩れて入れなくなったとか、巷で噂になっていた2人組の怪盗が捕まったとか、後は質のいい薬を売り歩く露天商の女の子がいるとかさ」

 

「それ、全部あなたが書いた記事じゃないですか!? 同じ物を書けと言うんですか!?」

 

「追跡調査に報告も私達の仕事の内だよ。デンゲキコさんさえよければ、私の代わりにお願いしたいんだけど……」

 

「断固拒否します!!」

 

「……だよね、分かってたよ」

 

 ガバッと顔を上げて、私はファミ通さんにビシッと指を突き付ける。

 確かにファミ通さんが言っていることは正しくて、これは何を記事に書けばいいのか悩んでいる私への気配りだってことも理解しています。

 要はチームプレーですよ。

 1人で自己満足のために仕事をしているわけじゃないんですから、当然私だって助け合いの精神が重要だってことは理解しています。

 見た目より若く見られがちですけど、これでも立派な社会人の1人ですから。

 

 ――だがしかし!! それに甘えるなんて私のプライドが許さないんです!!

 ここでファミ通さんの提案を受け入れてしまえば、私はまたカルガモの赤ん坊に逆戻りです!!

 下手したら、ずっとファミ通さんのお零れをもらうだけになってしまいます!!

 そんなのあまりにも屈辱的すぎる!!

 だから、私は自分の力だけでネタを勝ち取り、ファミ通さんよりも人気の出る記事を書かなければいけないんですよ!!

 あわよくば、ファミ通さんを私がこき使えるようになるまで……

 

「はあ、でも、実際問題として何も書くことがなくて困っているんでしょ?」

 

「うぐっ!? それはそうなんですけど……」

 

「締め切り間際の苦し紛れにこの間みたいな適当なことを書くと、今度から担当ページをもらえなくなるかもしれないよ?」

 

「失敬な!! 私はいつも真実しか記事に載せていません!!」

 

 ファミ通さんに大きな団扇であおがれている未来を想像していたのだが、確信をつく一言に脆くも崩れ去ってしまった。

 私が呻いていると、畳み掛けるようにファミ通さんはこの間書いた記事について話題に挙げてくる。

 さすがにインチキとまで言われたことに腹が立ち、私はファミ通さんをきつく睨みつける。

 

「だからって、いくらなんでも宇宙人がどうとかはないと思うんだけど」

 

 しかし、ファミ通さんは私の怒りを受け流し、呆れたように肩をすくめるだけでした。

 

 ――宇宙人。

 ファミ通さんは全然信じてくれていませんけど、私は実際に目撃したんです。

 あれは1週間と少し前の夜のことでした。

 記事に書く内容に困っていた私は気分転換をするためにちょっとコンビニに甘いものを買いに出かけました。

 夜中の間食と言う甘美な誘惑に負けそうな理性を奮い立たせながら、プリンにしようかエクレアにしようかシュークリームでもいいかななんて考えて空を見上げたのを覚えています。

 そして、夜空に煌めく星を見て、そうだ! 白玉ぜんざいにしようって考えた瞬間でした。

 あの時、私の目に驚愕のシーンが飛び込んできたんです。

 

 そこには蝶のような翼を持つ宇宙人がいたんですよ!!

 しかも、その手には紐のような物で縛った人型の物体も見えました!!

 これでも視力はいい方ですから、夜の暗さでも見間違いなんてありえません。

 いや、自分でも見間違いだと思って、何度も瞼をこすったり瞬きしても現実は変わらなかったんですから。

 現実に、夜の暗闇に乗じて宇宙人が人間をアブダクションしている光景を目撃してしまったんですよ!!

 

 いやもう、あの時はテンションがおかしくなっちゃって、ついつい叫びながら衝動のままに駆け出してしまいましたよ。

 今までUFОとか宇宙人とか特集する番組って、やらせだったりインチキだろうとか思っていましたから。

 でも、現実に目撃した瞬間、考え方が180°変わっちゃいましたよ。

 私、宇宙人信じちゃうーって。

 まあ、結局宇宙人には会えなかったんですけどね。

 誰かをアブダクションして帰る途中だったんですから、ある意味で当然でしたよ。

 でも、私の興奮はずっとクライマックスでしたから、勢いのまま読者に伝えようと記事を書きあげることができたんです。

 ……それなのに、ファミ通さんは私の感動までもインチキ呼ばわりするなんて。

 

「とにかく、この間みたいに変なゴシップ記事みたいなことは書かない方がいいよ。これは忠告だからね」

 

「……言われなくても、ゴシップ記事なんて書きませんよ」

 

 信じてないくせに念を押して注意してくるファミ通さんに、私は何だか不貞腐れた気分になってしまう。

 心配してくれるのは分かるんですけど、それをファミ通さんにされるのが気に入らないと言う矛盾した思いがあるんですよ。

 

 因みに、その時の私が書いた記事の見出しは【宇宙人来襲!? ゲイムギョウ界侵略作戦は既に始まっていた!?】って感じで読者の興味を煽ろうとしただけなのに。

 そりゃ、確かにちょっと事実を盛ったような表現を使いましたが、何事にも目を引くインパクトって重要じゃないですか。

 あまり大きな声では言えませんが、雑誌なんて書いてある内容に興味を持たせて買わせたもん勝ちなんですよ。

 

「って、あれ? 今から取材ですか?」

 

「うん、そうだよ。今、ストリートのミュージシャンで歌姫とか言われている子がいるらしくてね。少し話を聞かせてもらおうかなって思っているんだ」

 

「へえ、歌姫さんですか」

 

 会えるのが楽しみだと言わんばかりに笑うファミ通さんには悪いですけど、そんなの噂が誇張されているだけだと思いますよ。

 だいたい、歌姫なんて呼ばれている人がストリートで活躍するわけがないじゃないですか。

 どうせ、アイドルや歌手になれなかった人が周りから持て囃されているだけなんでしょうし。

 ちょっと可愛い容姿と素人に毛が生えたぐらいの腕前しかないのが落ちですって。

 

「噂だと、ガードが固くて歌い終わったらすぐにいなくなっちゃうんだってさ。プロのスカウトマンからも逃げちゃうらしいし、うちでもデンゲキコさんがお世話になった先輩が話を聞こうとして逃げられたって聞いてるよ」

 

「なんですか、それ? ってか、あの先輩が?」

 

 ファミ通さんの話を聞いて、私はその歌姫って呼ばれている人が何を考えているのかよく分からなくなってしまった。

 普通、スカウトから逃げるような真似はしないでしょう。

 しかも、いくらやる気のなさそうなあの先輩でも話すらできなかったって言うのはおかしい。

 あの先輩、人当たりの良さそうな雰囲気だけが取り柄なのに。

 まあ、悪く言えば鈍臭いのが欠点ですけど。

 とにかく、少なくとも逃げられるような真似だけは絶対にしないはずです。

 

「そう言うわけで、ちょっと気になっちゃって。ちょうどプラネテューヌにいるみたいだし、根気強く探してみようと思ってさ」

 

「……随分と余裕なんですね。もし、話が聞けなかったら何を書くつもりなんですか?」

 

「そこはもちろん考えてるよ。この間、リーンボックスに行った時のことを書こうと思うんだ」

 

 ちょっと困らせてやろうと思ったのに、笑顔で返されてしまうなんて。

 そう言えば、ファミ通さんはこの間リーンボックスに取材に出かけましたね。

 確か、街中に現れたクマが女の人を襲ったとかどうとか言ってましたけど、まさか他国でのニュースを記事にするなんて……

 

 うん? 他国? ――そ、そうですよ!? 何もゲイムギョウ界はプラネテューヌだけではありませんでした!?

 他の国のホットなニュースを記事にしてプラネテューヌの皆さんにお伝えすればいいんです!!

 そうとなれば、善は急げですよ!!

 

「そうだ、よかったらデンゲキコさんも一緒に……」

 

「デンゲキコ、取材に行ってきまーす!!」

 

「えっ、ちょっと!?」

 

 ファミ通さんが何かを言っていたような気がするけど、私は気にせずオフィスを飛び出した。

 天啓を得た私のエンジンはフルスロットルですからね。

 まだ見ぬビッグニュースが待っていると思うと、居ても立ってもいられません。

 それでは、いざ行かん!

 

 

*     *     *

 

 

「……なのに、どうして何もないんですかー!?」

 

 絶望しました。

 現実の冷たさに絶望しましたとも。

 ファミ通さんがリーンボックスに行ったのなら私は他の国に行くべきだと思い、最近可愛い看板娘がいると噂の定食屋があると言うことでラステイションに遥々やって来たというのに……!

 どうして肝心要の看板娘がいなくなってるんですか!?

 記事が書けなかったら、ここまでの交通費が自腹になってしまう!?

 取材にかこつけて、ちょっとした旅気分で経費を利用しようとしたのに!?

 これじゃ、美人看板娘のサービスを受けられる名店って記事を書けないじゃないですか!?

 しかも、街中どこもかしこも工事中で気分転換に遊べもしない!?

 こんな仕打ち、あんまりですよ!?

 

「カレーうどんお待ち! それと、随分と景気が悪そうだな。どうかしたのか?」

 

「いえ、噂の看板娘がいないことが分かりまして……いただきます」

 

 そう言って、青い髪にゴーグルをつけた店員さんが持って来てくれたカレーうどんを私はすする。

 すると、店員さんは苦笑しながら口を開く。

 

「ああ、お前さんも噂を聞いてきたのか。悪いな、アイツらも色々と忙しいみたいでな。つい昨日、プラネテューヌに帰っちまったんだよ」

 

「そんな……」

 

 さらなるバッドニュースが私に襲いかかってきました。

 よりにもよって、プラネテューヌから来た私にそんな情報を渡さないで欲しかったです。

 余計に虚しくなってしまうじゃないですか。

 

「まあなんだ、ゆっくりしていってくれよ」

 

 店員さんが慰めてくれましたけど、私の心は土砂降り洪水雷雨の真っ只中です。

 うぅぅ、カレーうどんの汁に気をつけなければいけないところが地味に辛い。

 どうして私はカレーうどんなんて女子の昼食に選ぶには難易度高めなランチをチョイスしたんでしょうか。

 

「ただいまー!」

 

「おう、早かったな。ちゃんと届けてきたんだろうな?」

 

「当たり前だろ。ちゃんと工場のおっちゃん達に届けてきたっての」

 

「うん、配達ご苦労さん」

 

 カレーうどんと静かな格闘を繰り広げていると、岡持ちを持ったツンツン頭の男の子がやって来ました。

 会話から判断するに、男の子はこの食堂のお手伝いをしているのでしょう。

 

「お前も今のうちに食っとけよ。午後からもしっかり手伝ってもらうからな」

 

「うへぇ、オレにも予定ってもんがあるんだけど……」

 

「どうせ、店の裏で木刀振ってるだけだろ? それよりも、店や工場の手伝いをした方が力がつくぞ」

 

「……はーい」

 

 店員さんに説得され、男の子は渋々ながら席につく。

 でも、その顔は晴れることなく、ひと目で納得していないのが分かってしまう。

 そんな男の子を見て、店員さんは苦笑する。

 

「そう不貞腐れるなっての。アイツらがいなくなって寂しいのは分かるけど、また来るって言ってたじゃないか」

 

「……別に寂しくなんてねーし」

 

「やれやれ、素直じゃないな。そんなにピーシェが恋しいのか?」

 

「はあ!? 誰があんな奴のことを!?」

 

 からかうように悪戯っぽく笑いながら言う店員さんの言葉は、男の子には効果てき面でした。

 荒々しく椅子から立ち上がり、不快だと言わんばかりに顔を歪めたんです。

 

「だって、お前達随分と仲がよかったじゃないか。喧嘩するほど仲がいいって言うし、ピーシェと一緒にいるのも満更じゃなかっただろ?」

 

「変なこと言うなよ! あんな喧しいぴいぴい馬鹿、いなくなって清々したぜ!」

 

「ふーん、そうかそうか」

 

「――って、全然オレの話聞いてねーだろ!」

 

 2人のやり取りにほっこりしてしまうのは私だけじゃないでしょう。

 容姿は似ていませんけど、まるで姉弟のような2人の会話に心が和みます。

 年相応の素直になれない男の子らしいところが何とも言えませんね。

 

「ったく、そんなことよりもファルコム姉ちゃんはどこにいるんだよ? 工場にもいなかったみたいだけど……」

 

「ファルコムなら、昨日できたばかりの試作品のテストに付き合ってもらってるのさ」

 

「またぁ? これで何本目だよ?」

 

「まだまだ作るぞ。博覧会までに、ブレイブソードを超えるような剣を作ることが目標だからな」

 

 にかっと笑う店員さんを見て、男の子は呆れたようにため息をつく。

 店員さんの本職はどうやら物作りらしいですね。

 今の発言からも並々ならぬ職人魂を感じます。

 

「剣ばっか作ってないで、夢人兄ちゃんに頼まれたワンダーの修理は終わったのかよ?」

 

「……ああ、そっちの方は完全にお手上げなんだ」

 

 剣を作ると宣言した時とは打って変わって、店員さんは困ったように眉尻を下げてしまう。

 思わず箸を止めて、私は聞き耳を立てて2人の会話に集中する。

 

「元々修理する必要なんてなかったんだよ。ただ、何が足りないのか分からないけど、エンジンが動かないんだよなぁ」

 

「足りないってどう言う意味なんだよ?」

 

「そのままの意味さ。分かっているのは何かが嵌まっていたような空洞だけ。エンジンがどんな仕組みで動いていたのかも分からないわたしじゃ、精々古くなった部品を取り換えてやることくらいしかできなかったよ」

 

 ……ほーほー、ラステイションの職人さんが匙を投げるほどの技術ですか。

 しかも、それはどこかのお偉いさんとかが持っているのではなく、呼び捨てにするほどのごくごく親しい相手からの依頼。

 ふっふっふ、何やら事件の香りがしてきましたよ!

 

「だったら、夢人兄ちゃんかワンダー本人に詳しい話を聞けばいいじゃん? そしたら、何が足りないのかも分かるし、直せるんじゃねーの?」

 

「もう夢人には連絡したし、ワンダーにも話を聞いたよ。でも、アイツらが言っていた足りないものがいまいちよく分からないんだよ。要は鉱石らしいんだけど、特殊な精製法が必要らしい――確か、“シェアクリスタル”って言ったような……」

 

 謎の鉱石、キター!!

 男の子や店員さんの変な言い回しは気になりますけど、これはもうビッグニュース間違いなしですよ!!

 いや、もしかしてゲイムギョウ界に新しい革命を起こす記事が書けるかも!!

 

「へー、そんなもんがあったんだ」

 

「わたしだって初めて聞いたよ。とにかく、ワンダーについては今のエンジンが動かない状態でも使えるように少し改良を加えるってことで頼まれてるんだよ。だから、今は猫の手も借りたい状態でな。お前も食べ終わったら、皿洗いと皿の回収を頼んだぞ」

 

「……わーったよ。やればいいんだろ、やれば」

 

 文句を言いつつも素直に言うことを聞く男の子と苦笑する店員さんに気付かれないよう、私は口角を吊り上げた。

 頬が緩む理由は、決してカレーうどんが美味しいだけじゃない。

 ましてや、先程お気に入りの服に跳んだ汁を何度ティッシュで拭いても落ちなかったことに対する乾いた笑みでもない。

 

 ――そう、天はようやく私に味方したんです!!

 店の中で天に感謝すると言う文字の中でしかよく分からない韻を踏んでいますけど、とにかく流れは完全に私に向いています!!

 ならば、私がすべきことはただ1つ――謎の鍵を握っている夢人さんに突撃インタビューをしなければ!!

 店員さんや男の子に聞いてもいいけど、やっぱりここはご本人さんの方が説得力ありますからね。

 何より、憶測や推測ばっかりだとまた編集長にはねられちゃいますし……

 さてさて、そうなりますと早速行動に移らせてもらいましょう。

 

「すみませーん! ちょっといいですかー?」

 

 店員さんに夢人さんのことを詳しく教えてもらいませんとね。

 待っててください、私の特ダネ!!

 今、会いに行きます!!

 

 

*     *     *

 

 

「――って、なんで私はプラネテューヌにとんぼ返りしているんですか!?」

 

 まったくもって理不尽ですよ!?

 どうして私はこんなに苦労しているんですか!?

 ホテルもお金払っちゃってましたから、もったいなくて一泊しちゃいましたし、カレーの染みがついた服を新しくしたりで余計な出費が!?

 おかげで私の懐がだいぶ薄く……ううぅ、こうなったら、何が何でも夢人さんから話を聞かなくては!?

 

「えーと、確かコンパさんの住所はこの辺りらしいんですが……」

 

 ぶつぶつと辺りを見渡しながら目当ての場所を探す。

 独り言をこぼしてしまうのはそれだけ集中している証拠です。

 決して私が寂しい人間だとか痛い人間なわけがありません。

 

 店員さん――シアンさんが教えてくれた情報によりますと、夢人さんは今コンパさんと言う方と同居しているらしいのです。

 最初は渋られましたけど、絶対に悪用しないと誓ったことで今現在プラネテューヌにいることだけは教えてもらいました。

 正直な鴨――げふんげふん、タツタ君からは他にも女の子ばっかりのハーレム状態と言う追加情報まで貰ってます。

 もしかして、インタビューを受ける条件として襲われてしまうのでは!?

 くっ、これも美少女に生まれてきた私の不運なのでしょうか!?

 

「あ、ようやく見つけ――へっ?」

 

 頭の中でドラマのような展開を思い描いていると、いつの間にか目当てのコンパさんが暮らしていると言うマンションを発見しました。

 ですが、マンションの入り口に予想外の物があり、私は固まってしまいます。

 

 ――うわぁ、あんな黒塗りリムジンなんて初めて見ましたよ。

 プラネテューヌであんな車が走っている所なんて、私は生まれてから1度も見たことなかった。

 と言うより、プラネテューヌにリムジンなんて場違いにも程があり過ぎるような……

 

「あ、あの人は!?」

 

 身を隠しながら様子をうかがっていると、マンションの入り口から複数の男女が出てきました。

 その中の1人、ニットの縦じまセーターを着た巨乳少女――タツタ君から受け取った情報通りのコンパさんがいたのです。

 つまり、あの男女の中には私の探している夢人さんも必然的に含まれていることになる。

 やがて、全員がリムジンに乗り込み、どこかへと去っていってしまう。

 それを見送った私は笑いを堪えることができなかった。

 

「ふっふっふ、謎がまた謎を呼ぶとはまさにこのこと――絶対に逃がしませんよ、私のビッグニュース!!」

 

 リムジンが走り去った方を指さし、私は高らかに宣言する。

 謎の鉱石で動くエンジンの秘密だけでなく、リムジンなんてVIP御用達の乗り物でどこかへと行ってしまい、あまつさえ酒池肉林のハーレムを形成していると言う御波夢人と言う謎の人物。

 上手く記事にできれば、私の出世は間違いなしです!

 これでファミ通さんをぎゃふんと言わせてやれますよ!

 だから、絶対に逃がしま……

 

「ママー、あの人何を言ってるの?」

 

「しっ、見ちゃいけません」

 

 ――ここが往来の真ん中だってことを忘れてたー!?




という訳で、今回はここまで!
久しぶりにシリアスがなかった気がします。
これがデンゲキコちゃんの力か……
それでは、 次回 「これがデートのわけがない」 をお楽しみに!
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