超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
遂にゴールデンウィークのシーズンに突入ですね。
まあ、私は特別な予定とかないんですけどね。
それでは、 こんなに女々しいわけがない はじまります
――どうして上手くいかないんだろうな。
今の気持ちを敢えて言葉にするなら、これ以上に相応しいものはないと思う。
いや、そもそも上手くやれた例が少ないけどさ。
最近は前よりも強く無力感を感じるようになってしまった。
ミモザの屋敷に着いてから宛がわれた部屋のベッドに座りながら、俺はぼんやりとこのゲイムギョウ界にやって来てからここまであったことを思い返していた。
『私に教えてちょうだい――今の無力なあなたに何ができるのかを』
ラステイションでノワールに言われた言葉が胸に刺さって消えない。
偉そうなことを言っておいて、俺はあの時何もできなかった。
何も言い返せず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかったんだ。
『今の貴様はただの愚者だ』
マジックにそう言われて当然だ。
俺は結局『再誕』の力を引き出せなかった。
アカリがいた時と何が違ったんだ?
俺はマジックが言うように『再誕』の力を使おうとしてない……わけじゃないと思う。
スライヌを相手にした時、マジェコンヌさんに教えてもらった通りに強くイメージしていたはずだ。
でも、何もできなかった。
……分からない。
俺、どうしたらいいんだよ。
ミモザに発破をかけられて吹っ切れたと思ったのに、全然前に進めない。
このままじゃ駄目だ。
そう、駄目なのは分かっているのに。
「――さん! 夢人さん!」
「っ、ごめん!? どうかした?」
すぐ近くから俺を呼ぶネプギアの声を聞き、ハッとして思考を中断する。
笑って誤魔化そうとするが、ネプギアは不安そうに眉尻を下げてしまう。
「本当に大丈夫なんですか? さっきもボーっとしていたみたいですけど……」
「それはその……そう、ちょっとこの部屋が凄過ぎて落ち着かなくてだな……」
「――嘘ですよね、それ」
「うっ」
やはり、咄嗟に思いついた言い訳は通じないか。
でも、この部屋が落ち着かないって言うのは本当なんだよな。
数週間前までオンボロアパートに住んでいたわけで、こんなホテルのスイートルームのような豪華な部屋は居心地が悪くて堪らない。
壁に飾ってある高そうな絵とか近づけないし、ベッドの傍にある電気スタンドとかも怖くて触れないって。
「本当のことを言ってください。私、心配なんです」
顔を俯かせて手を握ってくるネプギアに、俺は何も言えなかった。
前までなら、心配ないって言いながら握り返したはずの手に力が入らない。
あれ、俺は本当にどうしちまったんだ?
ネプギアが泣きそうな顔をしているんだぞ?
それなのに、どうして何も言えないんだよ。
ほら、早く言葉を絞り出せよ。
偉そうなことばかり言う口なんだから、早く仕事しろよ!
「――何も言ってくれないんですね。手も握り返してくれない」
何も言えないままの俺の耳に、ネプギアの悲しそうな声が響く。
それでも俺は動けなかった。
口も手も思うようにならない。
……本当に俺は何もできない愚か者だったんだ。
「だったら、今度は私が――夢人さん!!」
「は、はい!?」
本当の自分を知って絶望を感じていると、ネプギアがガバッと顔を上げて俺の名前を叫んだ。
驚いた拍子に俺が顔を仰け反らせてしまうが、ネプギアはすぐに距離を縮めようと近づいてくる。
「これからデートしましょう!! 2人っきりで!!」
俺が初めて好きだと自覚した笑顔と共にネプギアは爆弾を投下してきた。
だが、間近で見た笑顔の破壊力と爆弾発言に理解が追いつかない俺は間抜けにも口をポカンと開けてしまう。
「……へ、あ、デート? 2人っきりで?」
「そうです!! ほら、最近夢人さんずっと難しい顔ばっかりしていましたから、気分転換にいいかなって思いまして!! ……えっと、その、め、迷惑ですか?」
「い、いや、そんなことない!?」
復唱することしかできない俺に、ネプギアはまくし立てるように言葉を続けてきた。
やがて自分が大胆な発言をしたことを自覚したのだろう、ネプギアの顔は次第に赤く染まっていく。
最後には消え入りそうな声で上目遣いなんてされたら、俺もさすがに黙っているわけにはいかなかった。
慌てて答えると、ネプギアはパアッと顔を明るくさせて口を開く。
「そ、それじゃ、私も準備してきますから! ちょっと待っててくださ――きゃあっ!?」
「だ、大丈夫か!?」
「あ、あははは、ちょっと転んだだけですから!? そ、それじゃ、失礼します!?」
慌てて部屋を飛び出そうとしたネプギアが何もないところで転倒した。
よほど焦っていたのだろう。
助け起こそうと近づく前に、ネプギアは恥ずかしそうにしながら俺から逃げるように部屋を出て行ってしまう。
残された俺は立ち上がろうとした体勢のまま動けなくなり、今更になってこの状況に全ての理解が追いついてくる。
――どうしてこんなことになった!?
いや、ネプギアと2人っきりでデートできるなんて嬉しいよ!?
でも、いきなりデートなんてどうすればいいんだよ!?
ま、まずはデートプランを考えなきゃいけないだろ!?
次にお金……って、ほとんどない!?
これはマズイ!?
ミモザ――は駄目そうだし、ネプギアの準備が終わる前にアイエフかコンパにお金を貸してもらわないと!?
ああもう、いきなりデートなんてどうすればいいんだよ!?
* * *
「ふっふっふ、ようやく着きましたよ!! リーンボックスよ、私は帰って来たー!!」
人の目も憚らず、リーンボックスの街の真ん中でデンゲキコを雄叫びを上げていた。
夢人達が乗ったリムジンがリーンボックスに向かったと言う情報を聞き、急いで教会に渡航許可を得て来たのである。
しかし、突然の申請に加えて興奮して息を荒げていたデンゲキコの様子に、教会の職員はすぐに許可を出すことを躊躇った。
そのせいで身元の確認やら渡航目的などを必要以上に詳しく尋ねられ、許可が下りた時には既に日が沈んでしまっていたのである。
だからこそ、デンゲキコは朝一でリーンボックスに乗り込み、気分は最高潮を迎えていた。
それこそ、思わず叫び出してしまう程に興奮していたのである。
「うわぁ、またネプ子みたいなのがいるわ。あんなこと言って、恥ずかしくないのかしら?」
「もー、あいちゃんは分かってないね。ああいうのはフィーリングが大事なんだよ。考えるな、感じろって感じの」
「それはちょっと違うんじゃないかな?」
「……ご、ごほん。さ、さーて、私も早く探しに行かないと」
外野から聞こえてくる声に、デンゲキコの頭は冷静に戻って羞恥を感じてしまう。
しかも、無駄に自分の心境を察せられていることが辛い。
会話が聞こえてきた方を見ないようにしながら、デンゲキコはわざとらしく独り言をつぶやいて街の奥へと向かって進んで行くのであった。
――ここでもし、デンゲキコが恥ずかしがらずに顔を上げていれば、すぐさまリーンボックスまでやって来た目的を達成できたであろう。
何故なら、その外野こそがデンゲキコの探していた夢人と共に行動をしていたネプテューヌ達であったのだから。
「まずは地道に聞きこみをしていくことにしましょう。いくらリーンボックスと言えども、そうそうリムジンなんて高級車を自家用車にしている人は少ないでしょうし……おっ、ちょうどいい所に人が! すみませーん! 少しお時間よろしいでしょうか?」
「え、私?」
まだ恥ずかしいのか、それとも癖なのか分からないが、デンゲキコはぶつぶつと考えていることを口に出しながら歩き続ける。
すると、思い立ったが吉日と言わんばかりに考えていたことを行動に移すのであった。
急に話しかけられて驚く少女に構わず、デンゲキコは見事な営業スマイルを披露して用件を伝える。
「はい! 実は少々お尋ねしたいことがありまして、この辺りにリムジンを乗用車にしている方をご存じないでしょうか?」
「リムジン、ですか? えっと、さすがにそれだけだとちょっと分からないです」
「ああ、すみません。こちらの説明不足でしたね。でしたら、リムジンを所有している方に心当たりは……」
「いえ、そう言うことではなくて、リーンボックスだとリムジンはそんなに珍しくないんですよ」
「……へ?」
少女の言葉に、デンゲキコの表情は笑顔のまま固まってしまう。
そんなデンゲキコの様子に、少女は苦笑しながら説明する。
「私も人から聞いた話ですけど、リーンボックスの富裕層――貴族って呼ばれている人達の間だと、リムジンはあまり珍しいものじゃないみたいなんです。だから、リムジンって情報だけだと何も言えなくて」
「そ、そんな……」
いきなり頓挫してしまった聞きこみ調査に、デンゲキコは膝を折ってしまう。
地面に両手をついて項垂れる様は、悲壮感すら漂わせていた。
(リムジンが有り触れているって、この国はどれだけ金持ちが多いんですか!? ってか、貴族って何!? めちゃくちゃ偉そうな肩書きなんですけど!?)
戸惑いながらも、デンゲキコはどうにも少女の口から出た言葉が腑に落ちなかった。
記者と言う職業柄、デンゲキコは当然渡航する前にリーンボックスの情報を簡単にだが調べていた。
しかし、いくら興奮していたとしても、貴族なんて重要そうな単語を見逃すわけがないと胸を張って言える。
いくら記憶を辿っても思い出せない――ならばと、デンゲキコは1つの仮説に思い至るのであった。
(情報が秘匿されていた? これは大きな事件の臭いが……)
「あっ、でも、少し前から貴族って呼び方はしなくなったんだっけ。今は普通にただのお金持ちってことになっているんでした」
「――私の嗅覚のバカァァァ!?」
少女からもたらされた追加の情報に、デンゲキコは四つん這いの体勢すら維持できずうずくまってしまう。
無駄に内面でかっこつけていた分、恥ずかしすぎて死んでしまいたいとすら思っていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……すみません。最近、ちょっと鼻詰まりが酷くて」
「え、でも……」
「お願いします。そう言うことにしておいてください」
「……分かりました」
突然の奇行を目の前で繰り広げても尚、自分を心配そうに気遣う少女の優しさがデンゲキコには余計に辛かった。
しかし、考えていたことを正直にそのまま話すことは憚れてしまい、誤魔化そうとする。
戸惑いつつも納得してくれた少女の理解力に、デンゲキコは泣きたくなってきた。
すると、少女は苦笑いを浮かべながら提案する。
「事情は分かりませんけど、お困りのようなら私も力になりますよ」
「っ、いえ、でも、これ以上ご迷惑をかけるわけには……」
「そんなことは気にしないでください。困っているのなら、助け合うのが当たり前ですから」
(……うぅぅ、なんて優しい少女なんでしょう!)
醜態を晒した自分に優しく手を差し伸べてくれる少女の姿に、デンゲキコは救いの女神の姿を重ねて見てしまった。
感激のあまり、涙腺は崩壊寸前まで緩んでしまう。
潤んだ瞳で見上げると、少女は困ったように笑って手を差し伸べてくれている。
デンゲキコには、少女の金髪に映える十字に添えられた黄緑色のヘアピンすら神々しく感じてしまう。
「とりあえず、私の友達に話を聞きに行きましょう。その子も元貴族の家の子で、昨日久しぶりにリーンボックスに戻って来たみたいなんですよ。もしかすると、あなた――えっと……」
「あっ、申し遅れました! 私、デンゲキコと申します!」
「うん、デンゲキコさんが探しているリムジンって、彼女の乗って来た物かもしれませんから」
(――ここに来て、逆転の有力情報ゲット!!)
少女の話を聞き、デンゲキコは心の中でガッツポーズをとった。
“元貴族”、“昨日”、“戻って来た”と、限りなくデンゲキコが探していたリムジンの情報に重なる。
もしかすると、本当に少女の友達が自分の探している夢人が乗っていたリムジンじゃないかと期待を膨らませる。
「それは助かります! ですが、突然私なんかが訪問しても大丈夫なのでしょうか?」
「多分、大丈夫だと思いますよ。ちょっと捻くれてて態度が悪く見えるかもしれませんが、外の国から来る人の話なら喜んで聞きたいって言うと思いますし」
「でしたら、私のとっておきをお話を披露しましょうか。こう見えても、プラネテューヌで雑誌編集の記者をしておりますので、色々とネタをご用意してありますよ」
「ふふ、それじゃ、私も楽しみにさせていただきますね」
「バッチコイです! このデンゲキコにお任せを!」
楽しそうに顔を綻ばせる少女に、デンゲキコも自信満々に胸を叩いて見せた。
そこでデンゲキコは少女の言葉に妙な引っかかりを覚える。
(はて、外の国の情報を嬉しがる? リーンボックスはメディアがそんなに発達していないのでしょうか?)
記者の端くれとして、デンゲキコはリーンボックスの情報メディアがどのような物なのかに興味を引かれた。
デンゲキコ自身、リーンボックスに来ることは初めてであり、一般に公開されている情報しか知らない。
取材と言う名目とファミ通への対抗心がなければ、ずっとプラネテューヌに引きこもっていた程である。
「それじゃ、案内しますね」
「……おっと、よろしくお願いします!」
軽くほほ笑む少女の言葉を聞き、デンゲキコは考えることを中断した。
リーンボックスのメディアに興味はあっても、深くは関わらないだろうと結論も同時に下す。
何故なら、デンゲキコは既にプラネテューヌの出版社に勤める記者なのだ。
転職を希望しているわけでもないのに、目移りする必要はないとも判断したのである。
「ところで、そのお友達とはどのような方なのでしょうか? やはり、国外に出ていた元貴族となりますと、それなりに偉い立場の方だったりするんですか? 国外に出ていらっしゃったのもそこに関係したお仕事、もしくは旅行だったりするんでしょうか?」
「……うん、実際偉い立場には違いないんだけど、国外にいた理由は別に仕事とか旅行とか、そんなことじゃないんですよ」
「はい? では、いったいどのような理由で?」
不躾かとも思ったが、デンゲキコは尋ねずにいられなかった。
言い難そうに少女は困った顔で口を開く。
「――ただの家出なんです」
* * *
「――以上が、私からお伝えしたかった全てです」
「うむ」
執務室とでも言うべき部屋。
手入れの行き届いているのであろう白いあごひげを撫でながら目を閉じている老人を前に、コンベルサシオンは頬が緩むのを必死に押さえていた。
「すまんが、もう1度確認させてもらえんか? あなたの話は本当かのぅ?」
「ええ、事実です。私の話だけで納得できないのであれば、こちらの映像をご覧ください」
眉間にしわを寄せ疑わしそうに老人が尋ねることも、コンベルサシオンは最初から分かっていた。
予め用意しておいた端末を手に取り、老人に画面が見えるように提示する。
『うふふふ、さぁて、悪いことをしたら何て言うんだったけ~?』
『ひぃっ!? ご、ごめんなさい!? 許して下さい!?』
『よくできましたぁ~。だったら、ご褒美をあげないとねぇ!』
『い、いや、結構で――アアアアアアッ!? もう踏まないでぇぇぇ!? これ以上は――』
――そこに映っていたのは、アイリスハートと体全体にモザイク処理を施されたガナッシュであった。
モザイク処理がプライバシー保護の役割ではなく、放送禁止物への対処に思えてしまう。
画質が悪いのか、乱れている映像が余計に惨劇を酷く印象付けている。
しかも、ガナッシュの悲鳴が真剣過ぎて、コンベルサシオンでさえ冷や汗を流し、ぶつりと強制的に映像を停止させてしまう。
「……惨たらしいのぅ。これはいったい何があったんじゃ?」
「つい先日、ラステイションで実際に起こったことです。このサディスティックに笑う女性――プラネテューヌの女神を名乗る者がこの青年を脅して街を火の海に変えたのです」
「街を……だとしたら、この女性があなたの言う……」
「ええ、彼女のような存在こそ、女神を失墜させようと目論む異教徒――いえ、邪教徒なのです!」
極力画面を見ないようにしながら、老人はコンベルサシオンへと映像の内容を問う。
すると、コンベルサシオンは怒りを堪えているかのように表情を苦々しく歪める。
「彼女達は女神の姿を模倣し、信仰を失わせることでゲイムギョウ界を混沌に陥れようとする許せない所業を各地で広げているのです! 先程の映像に出てきたプラネテューヌの女神を騙る女性の他にも、我が国のホワイトハート様の姿まで確認されています!」
「……すると、遠くないうちにグリーンハート様やラステイションのブラックハート様の偽物も現れるかも知れんと言いたいわけじゃな」
「その通りです。ですから、私はこの情報をホワイトハート様より各国へと伝達するように頼まれたのです。そこで、ホワイトハート様はとある決断を下しました」
事の重大性をすぐに理解してくれる老人に感謝しつつ、コンベルサシオンは内心で予定通りに事が運べていることにほくそ笑む。
最後の駄目押しとばかりに、コンベルサシオンは厳かに告げる。
「ルウィーとリーンボックスの間で友好条約の締結を、とホワイトハート様はお考えです。信仰する女神様は違いますが、ゲイムギョウ界全体の平和を守ろうとする意志は同じ。どうか、我らルウィーと手を取り合ってはもらえないでしょうか?」
コンベルサシオンの提案に、老人は瞳を閉じて思案する。
しばらくすると、老人は机の上に肘をついて手を組む。
まるで祈りをささげているかのような姿勢のまま、老人は確認するようにコンベルサシオンへと問いかける。
「邪教徒の危険性、ホワイトハート様のご意思、どうしてそんな提案を我が国に持ち込んできたのか……概ね理解させてもらった」
「でしたら……」
「――悪いが、断わらせてもらおう」
一瞬、コンベルサシオンは老人の言葉の意味を理解できなかった。
思考停止しているコンベルサシオンを真っ直ぐ見据えながら、老人は再び告げる。
「聞こえんかったかのぅ? 我が国はルウィーと友好条約は結ばんと言ったんじゃ」
「っ、ど、どうしてですか!? あなたも邪教徒の危険性を理解したはずではなかったのですか!?」
「当然、危険なことは理解しておるよ。だが、邪教徒と対抗するためにルウィーと手を組むことは、また別問題じゃ。それにわざわざ友好条約を結ぶ必要性も感じられんしのぅ」
提案を蹴られて焦るコンベルサシオンを前にしても、老人は意見を変えようとしない。
国の行く末だけでなく、ゲイムギョウ界の未来を左右するような決断だと言うのに、老人は迷うことなく断言する。
何とか食い下がろうとするコンベルサシオンに、老人は力強く宣言する。
「リーンボックスは、我が国の力だけで邪教徒に対処する。だから、ルウィーとの友好条約を締結する必要はない。例え、ゲイムギョウ界全体の平和が脅かされるような事態に陥ろうとも、リーンボックスはこれまで通りの姿勢を貫くことをここに宣言させてもらおう――これがリーンボックス『協会』、協院長であるワシの決定じゃ」
「……つまり、それがグリーンハート様のご意思と受け取ってもよろしいでしょうか?」
「無論。このようなことで、グリーンハート様のお手を煩わせる必要もない」
国の――女神の決定だと宣言する老人に、コンベルサシオンは屈辱を感じていた。
予定ではこのまま条約を締結した振りをして、とある目的を達成しようとしていたのである。
しかし、ただのルウィーの宣教師として来ている自分がここで老人の決定に異を唱えるわけにもいかず、歯がゆい思いを感じていた。
「分かりました。では、私はその旨をホワイトハート様にお伝え……」
「いや、それは無理じゃよ」
「っ、な、何をするんですか!?」
1度退いて作戦を立て直そうとするコンベルサシオンであったが、部屋の入り口で待機していた職員に拘束されてしまった。
両側から腕をがっしりと掴まれ逃げ出せないコンベルサシオンに、老人は感情を感じさせない声で淡々と言う。
「ルウィーの宣教師コンベルサシオン殿は、我が国リーンボックスに不要な混乱を招く情報を広めようとした。これはリーンボックスの平和を乱す許されない所業である。まさにあなたが先程説明して下さった邪教徒と同じ、危険な人物だと判断させてもらう。よって、その身柄を拘束する」
「そんなことが許されるわけ……」
「弁解を聞くつもりはない。連れていけ」
『ハッ!』
必死に暴れるコンベルサシオンに興味を失ったのか、老人は椅子から立ち上がり、背中を向けて冷たく職員へと指示を出す。
本来であれば、コンベルサシオンは職員達の拘束を抜け出すことなど容易い。
しかし、ここでもし暴れてしまえば、目の前の老人は確実に自分達の計画を邪魔する存在になると言う確信があった。
(くっ、この狸じじいめ!! 後で覚えていろ!!)
今は何の力もない宣教師を演じるしかないと分かっていても、コンベルサシオンは悔しさと怒りを抑えられなかった。
職員に拘束されながらも、目尻を吊り上げて最後まで老人の背中を鋭く睨みつける。
やがて、コンベルサシオンと職員が部屋からいなくなると、静かになった部屋に老人のため息が響く。
「やれやれ、本当に厄介な物を持ち込んでくれたものだな」
恨めしいほどに綺麗な青空を見ながら、老人はぼやいてしまう。
その表情はコンベルサシオンの提案を跳ね退けた時と違い、今にも泣き出してしまいそうなほど弱々しい。
すると、老人は体を反転させ、机の上に置かれている2つの写真立てを愛おしそうに見つめ始める。
『協院長、今よろしいでしょうか?』
「構わんよ」
しばらくすると、コンベルサシオンを連れて行った者達とは違う職員が老人の部屋に訪ねてきた。
「先日、グリーンハート様との面会を予約したアイエフ様達がお見えになっております」
「おお、もうそんな時間か。あい、分かった。すぐに行くとしよう」
職員に先導され、老人は部屋を後にする。
写真立ての中にいる若草色の髪をしている女性にほほ笑んでから……
という訳で、今回は以上!
金髪の少女と老人の正体は……まあ、名前は出てませんけど分かる人は分かっちゃいますよね。
ですが、正体を明かす前に次回は丸々デートの話です。
それでは、 次回 「未練が残っているわけがない」 をお楽しみに!