超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回は予定通りデート回ですよ、デート回!
……まあ、サブタイの意味は本分を読めば分かりますけどね。
それでは、 未練が残っているわけがない はじまります


未練が残っているわけがない

 ――デート。

 恋人、もしくは意中の相手と一緒に出掛けることで交際を深めるための外出。

 一般的にショッピングや映画、娯楽施設などのお互いに楽しめる場所に行くことが多い。

 しかし、デートプランには相応のセンスが必要である。

 独りよがりなデートプランは相手の気分を害するだけでなく、これまで積み上げてきた友好関係すらも崩壊しかねない。

 まさにヘル&ヘブンを体現したような1度きりのチャンスであるため、デートを申し込む際は慎重に下調べをしてから臨んだ方がいいだろう。

 失敗した後に残るものは精神的破滅と【アイツって、一緒にいてもつまんないのよね~】と言う不名誉なレッテルを張られると同時に今後一切のデートをする機会を失うことになるのだから……以上、ネプペディアより抜粋。

 

「って、何だよコレ!? 最後が適当すぎるだろ!?」

 

 ミモザの屋敷の玄関前で、俺はNギアを思いっきり地面にたたきつけたい衝動に駆られてしまった。

 だが、この間ネプギアに直してもらったばかりなのに壊すわけにはいかない。

 そもそも、こう言うサイトは製作者の主観も多分に含まれるはずだ。

 きっとこの記事を書いた人物はデートにいい思い出がないのであろう。

 

「……いやいや、落ち着け。俺が知りたいのはデートの定義じゃなくて、デートプランの方だって」

 

 自分に言い聞かせるように独り言を呟いたことで、少しだけ頭が冷えてくる。

 もうネプギアも来るだろうし、早くデートプランを考えなくてはいけない。

 

 急なネプギアからされたデートの誘いだったが、お金はコンパから借りることができたので問題ない。

 だが、肝心要のデートプランがまったく思いつかないんだ。

 

「うーん、やっぱり遊園地みたいな都合のいい場所はないか」

 

 Nギアで周辺情報を検索してみたが、前にナナハとデートした時のような遊園地は近くにないらしい。

 代わりに、自然公園やら博物館みたいな場所は多いみたいだ。

 アカリがいれば自然公園でのんびり過ごすのも悪くなかっただろうし、観光目的ならば博物館で珍しいものを見て回るのもよかっただろう。

 

 ――しかし、これはデートなのである。

 突然のことではあるが、俺は今日1日ネプギアと楽しく過ごしたいと思っている。

 なにせ、初めてのちゃんとしたデートなのだから。

 前のナナハとしたデートはバレバレの尾行を続けるネプテューヌやベール達に加え、変なキグルミやお面で隠れるネプギアに見張られていた。

 正直に言えば、もう2度とあんな保護者同伴デートはしたくない。

 しかも、あの時は最後の最後で崖から突き落とされたし……

 

「お、お待たせしました!」

 

「いや、俺も今来たところだって」

 

 慌てて駆け寄ってくるネプギアとのテンプレのようなやり取りに、俺は改めてこれからデートをするんだなって実感がわいてくる。

 実際には準備を完了させてきたネプギアと違い、俺の方はまだデートプランを考え終わっていないのだが。

 

「ごめんなさい。私がデートをしようって言い出したのに、夢人さんより遅くなってしまって……」

 

「気にしないでいいって。俺が勝手に待っていただけなんだからさ」

 

 申し訳なさそうにするネプギアに気のきいたことが言えない自分が不甲斐ない。

 暗くなってしまったネプギアを励まそうと、俺は思いついたことをそのまま口にする。

 

「その、さ……これからデートだって思うと、嬉しくってさ……あーその、気持ちがはやったって言うか何と言うか」

 

 正直、自分でも何を言っているのか分からなかった。

 ただ今の気持ちを素直に口にしようとすると、恥ずかしくて上手くまとまってくれない。

 

「わ、私も夢人さんと一緒です。デート、楽しみましょ?」

 

「お、おう」

 

 口元を両手で覆いながら嬉しそうに目を細めているネプギアに、心臓が大きく跳ね上がった。

 おそらく、今の俺は顔を真っ赤にしているだろう。

 これからネプギアと2人っきりでデートすると、強く意識し過ぎて凄く照れ臭い。

 でも、それが嫌じゃなくて、むしろ心地よいとさえ思える。

 

「そ、それじゃ、行こうか」

 

「はい!」

 

 もう少しこのままでいたいとも思ったけど、せっかくのデートの時間が減るのは勿体ない。

 そんな気持ちに後ろ髪を引かれ、俺の声はちょっとだけ上ずってしまった。

 失敗したと頭を抱えたくなるほど恥ずかしかったけど、返事をするネプギアのはにかんだ顔を見ていると、そんな小さいことなんてどうでもよく思えてしまう。

 

 ――うん、色々と頭が痛くなることばかりが山積みだけど、今だけは忘れてもいいよな。

 今だけは何も考えないで、ネプギアとデートしても……

 

 

*     *     *

 

 

(――なんて考えていた自分を殺したい)

 

 リーンボックスの街をネプギアと並んで歩いていた夢人は激しく後悔していた。

 出だしこそ、甘酸っぱい雰囲気で胸を満たしていた興奮も、今や焦りに変わっている。

 

「まずはどこに行きましょうか?」

 

「え、あ、そうだなぁ……えっと……」

 

 楽しげに笑みを浮かべながら尋ねてくるネプギアに、夢人は言葉を詰まらせてしまう。

 デートプランをまとめることができなかったため、夢人が答えられないのは当然であった。

 加えて、ネプギアと一緒にいられれば満足なんて、思考停止も同然のことを思っていたので尚更である。

 

(くっ、どうする!? ここは無難にショッピングがいいのか!? それとも定番の映画なのか!?)

 

 下手をすれば、夢人は今までで1番悩んでいるのではないかと錯覚してしまう程の問題に直面していた。

 必死にネプペディアで見た情報を思い出そうとし、夢人は何とか複数の選択肢を頭の中に浮かべる。

 その中で大雑把な括りであるが、夢人はこれからの方針として2つの道を思いつく。

 

(まずはショッピングはどうだろう? 適当に近くの店に入って売っている物を眺めているだけでも充分デートっぽいし、ネプギアが気に入った物を買ってプレゼントなんてこともできるんじゃないか? ――よし、これならいける!)

 

 

*     *     *

 

 

 リーンボックスのとある雑貨店。

 夢人とネプギアは商品棚に並ぶ可愛らしい小物類を眺めながら、楽しそうに会話を弾ませていた。

 

「夢人さん、コレなんて可愛いと思いませんか?」

 

 ふと目に止まった小物を手に取り、ネプギアは夢人へと嬉しそうに報告する。

 それは両腕がドリルになっている人型の上半身と戦車のような下半身が合わさったロボットである。

 頭頂部には大きめのネジを巻くと、自動で動くギミックも搭載されているようだ。

 

「このキャタピラの可動部分までこだわった作りなんて、最高だと思いませんか? しかも、腕まで動くんですよ!」

 

「それは凄いな。こんなに小さいのによく作ってある」

 

「ですよね! 普通だったら、こう言うタイプは簡単な作りの子供騙しみたいな物が多いんですけど――って、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃいました」

 

 夢人から同意を得られたことが嬉しかったようで、ネプギアは興奮しながら詳しく解説をしようとした。

 しかし、そんな自分をほほ笑ましそうに見つめる夢人を見て、ネプギアはすぐに恥ずかしそうに顔を俯かせてしまう。

 

「えーと、あー、その……ちょっと奥を見てきますね!」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように、ネプギアは夢人を置いて店の奥へと姿を消してしまった。

 そんなネプギアの様子に苦笑しながら、夢人は商品棚に戻されたロボットを手に取る。

 密かにネプギアへのプレゼントとして購入しようと考えたのだ。

 デートの帰りにそっとロボットを渡して驚くネプギアの顔を思い浮かべ、夢人は頬を緩める。

 

(きっと喜んでくれるよな――――――へっ?)

 

 ロボットをギュッと抱きしめてはにかむネプギアの姿まで想像していた夢人であったが、値札を見た瞬間に現実に引き戻されてしまった。

 単純にロボットの値段が高かったのである。

 予想していた値段よりも0が2つ程多いことに、夢人は頭の中が真っ白になってしまう。

 

『量産機とは違うのだよ、量産機とはな!』

 

 終いにはドヤ顔で高らかに自分を誇るロボットの幻すら見てしまった。

 そんな憎たらしく見えてしまうようになったロボットをそっと商品棚に戻し、夢人は何事もなかったかのように店の奥へと向かったネプギアを探しだす。

 

(ごめん、ネプギア。俺は無力だったよ)

 

 サプライズプレゼントすら満足に買えないことに、夢人の気持ちは沈んでしまう。

 情けない顔で肩を落としながら歩く姿は、他の客からも心配されてしまう程であった。

 当然、合流したネプギアも心配して必死に励まそうとしたのだが、夢人はずっと落ち込んだままであった。

 

 ――その後、夢人は勝ち誇ったようなロボットの幻聴を引きずり続け、ネプギアとのデートも満足に楽しめなかったのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「夢人さん?」

 

「――っ、ど、どうかしたか?」

 

「それは私の台詞です。夢人さんの方こそ、大丈夫なんですか? 何だか顔色が悪くなってきているような……」

 

「そ、そんなことないぞ!? うん、大丈夫大丈夫!? 俺はこの通り、元気だからな!?」

 

 不思議そうに首を傾げるネプギアの呼び声にハッとして、夢人は悪夢の中から戻ってくることに成功した。

 心配そうにするネプギアを必死に安心させようとする夢人であったが、その背中には嫌な汗が大量に流れていたのである。

 

(おいおい、今のはいったい何なんだよ!? アレか!? プレゼントすら満足に買えない俺にショッピングは無理だって言いたいのか!?)

 

 最悪の未来予想図を想像してしまい、夢人は内心でかなり動揺していた。

 妄想の中でバッドエンドを迎えたのは、夢人にとって初めての経験である。

 しかも、無駄にリアリティがあり過ぎて否定できないことが辛い。

 

(落ち着け、俺。一旦、冷静になるんだ。逆転の発想だ。これは選択肢が1つ、勝手に消えてくれただけなんだから)

 

 切実な思いを込めてポジティブに物事を捉えようとする夢人。

 これ以上、ネプギアを心配させないためにも自分に強く言い聞かせる。

 

(ショッピングが駄目なら映画だな。これもデートの定番中の定番だ。拘束時間は長いけど、共通の話題はその後のデートの雰囲気を明るくしてくれるはず。何より、予算オーバーなんて悲劇は絶対に起きない! ――今度こそ、いけるぞ!)

 

 

*     *     *

 

 

『愛しているよ、ジェニファー』

 

『私も愛しているわ、トム』

 

 画面の中の2人が愛を囁き合いながら口づけを交わしている姿を見て、夢人は隣にいるネプギアの様子が無性に気になった。

 映画の内容に感情移入をし過ぎて、画面に映る2人を自分達に重ねてしまい、妙に落ち着かない気分になったからである。

 

「――あっ」

 

 横目で確認すると、ネプギアはチラチラと夢人を見ていたらしい。

 暗がりでも朱色に染まっていた頬はさらに赤みを増し、ネプギアは気まずそうに俯いてしまう。

 

「ネプギア」

 

「な、なんで――っ!?」

 

 小声で呼びかけられたネプギアが返事をする前に、夢人は肘かけに乗せられていた手を重ねた。

 愛おしいものに触れるように優しく重ねられた手の重さを感じて、ネプギアの頭は限界を迎えてしまう。

 既に映画のことなんて頭になく、夢人だけを潤んだ瞳で見つめ続ける。

 

「ネプギア」

 

「夢人さん」

 

 それは夢人も同じであり、映画のことなんて忘れてネプギアだけを見つめていた。

 お互いに名前を呼ぶだけでも胸が満たされていく幸せな2人だけの空間に、外野の声は届かない。

 

「愛して――フゴッ!?」

 

「夢人さん!?」

 

 ――だが、悲劇は起こった。

 少しでもネプギアに近づこうとした夢人は腰を浮かせた瞬間、足元に落ちていた映画の公開情報が書かれたパンフレットを踏んでしまったのである。

 それは夢人達が映画館に入る前に渡された物であり、腰を浮かせる前まで膝の上に置いてあったものだ。

 自ら招いてしまった不注意によりバランスを崩した夢人を待っていたのは、後頭部に直撃した座席の背もたれである。

 滑った拍子に運悪く背もたれの金属部分が頸椎を強打し、夢人は意識を手放してしまうのであった。

 

「夢人さん!? しっかりしてください!? 夢人さーん!?」

 

 目を閉じる夢人が最後に見たのは、泣きながら自分の名前を呼ぶネプギアと視界の端に映り込む【The End】と言う字幕が大きく出ていた映画のスクリーンだけであった。

 

 

*     *     *

 

 

「――さん!? 夢人さん!?」

 

「っ、え、あ、どうかしたのか?」

 

「どうしたもこうしたも、夢人さんの方がどうしたんですか!? 何度呼びかけても返事はしないし、顔も真っ青ですよ!?」

 

 ネプギアに体を大きく揺すられながら呼びかけられて、夢人はようやく正気に戻った。

 だが、夢人の目は虚ろで病人のように顔色が悪い。

 

(本当、どうしちまったんだ。なんで妄想までネガティブになってんだよ)

 

 夢人は混乱していた。

 妄想ですら自分の思い通りにならないことが、精神的に夢人を追い詰める。

 しかも、どちらも自分の不甲斐なさが浮き彫りになるような妄想であり、夢人は言葉にできない気持ち悪さを感じていた。

 

(今はネプギアとデートの真っ最中なんだぞ。それなのに、どうしてこんなに嫌なことばかり思い浮かぶんだ? いつもならネプギアと一緒にいるだけで幸せだって思えるくらい胸がいっぱいになって、馬鹿な妄想をしていたはずなのに)

 

「……やっぱり、帰りましょう。ごめんなさい、夢人さんの体調が悪いのに無理にデートに誘ったりなんかして」

 

「へ、あ、そうじゃない!? 違うんだ!?」

 

「違いません!! ……お願いですから、無理しないでください」

 

 愕然としている夢人の手を握り、ネプギアは無理やりにでも屋敷に連れ戻そうとした。

 慌てて止めようとする夢人であったが、目尻に涙を溜めたネプギアの顔を見て何も言えなくなってしまう。

 すると、ネプギアは素早く夢人へと抱きつく。

 

「具合が悪いなら、すぐに休みましょう。デートなんて、いつでもできます。私は夢人さんが無理して笑う顔なんて、もう2度と見たくないんです。それだったら、あの時みたいに私に弱音を吐いてください。全部……私が全部受け止めてみせますから」

 

 正面から抱きついて来たネプギアを、夢人は抱きしめることさえしなかった。

 体を硬直させたまま、夢人はネプギアが何を言っているのかを思い出す。

 

 ――それはネプテューヌ達女神を救出する前日の夜だった。

 あの時、夢人はネプギアの優しさに甘えて弱音を吐いてしまった。

 見っとも無く泣きながらネプギアに抱きついたことを、夢人は今でもはっきりと思い出せる。

 もっとも、忘れたくても忘れられないのだ。

 何故なら、あの時が初めて本当の“勇者”の役割に押し潰されそうになった夜なのだから。

 

「今度は絶対に守りますから。何があっても夢人さんを離しませんから……! だから……だから!」

 

「ネプギア」

 

「っ、ゆめ、と、さん……?」

 

 服を握った拳が震えるほどに力を込めるネプギアを、夢人はそっと引き剥がす。

 両肩を掴まれて何故引き剥がされたのか分からないネプギアの顔はくしゃくしゃになっていた。

 赤くなり始めている目元が痛々しく、夢人の胸を抉ってくる。

 しかし、夢人はネプギアから目を逸らさずに口を開く。

 

「――ちょっと付き合ってくれ」

 

 

*     *     *

 

 

 返事も聞かずに夢人はネプギアの手を引いて自然公園までやって来た。

 途中、戸惑っていたネプギアの制止の声も無視して強引にである。

 そんな普通とは違う様子の夢人に、ネプギアもどうすればいいか分からなかった。

 そして、周りに誰もないことを確認した夢人はネプギアへと向き直り話し始める。

 

「ネプギア、俺がこれから話すことをよく聞いてくれ」

 

「は、はい!?」

 

 夢人に真剣な顔で真っ直ぐ見つめられ、ネプギアは大いに照れて頬を赤く染めた。

 胸をときめかせ、これから夢人にかけられる言葉に期待してしまう。

 

「――俺達は恋人じゃない」

 

「………………えっ」

 

 だが、告げられた言葉に一瞬で熱を奪われてしまった。

 何を言われているのかも理解できず、ネプギアは呆然と夢人を見上げる。

 

「もう1度言うぞ。俺達は恋人じゃないんだ」

 

 間抜けな顔で口をポカンと開けているネプギアの理解が追いつく前に、夢人は同じ内容を再び告げる。

 すると、ネプギアは動揺を隠しきれず、焦点の合わない目で頬を引きつらせながら笑おうとする。

 

「あ、あははは、何を言っているんですか? そんな冗談、全然面白くないですよ?」

 

 予想外の事態を受け止めきれず、ネプギアは夢人にそう尋ねることしかできなかった。

 率直にいえば、ネプギアは夢人に愛を囁かれるのだと思ったのである。

 2人っきりの自然公園と言うシチュエーション。

 恋人だと思っている相手からかけられる言葉に期待してしまうのは当然であろう。

 だが、現実はまさかの自分達の関係を否定するものであった。

 

「冗談なんかじゃない。本当のことなんだ」

 

 そんなネプギアの様子に構わず、夢人は真っ直ぐに真実だと伝える。

 片時もネプギアの目から視線を外すことなく、夢人は言葉を続けていく。

 

「ごめん。本当はもっと早く言うべきだったんだ。ロムからネプギアが勘違いをしているって聞いた時に、すぐに本当のことを言えばよかったってことは分かってる。本当にごめん」

 

「だ、だから、何を言っているんですか!? 私は何も勘違いなんてしてません!? だって、私と夢人さんは……」

 

「――ネプギア!!」

 

「っ!?」

 

 ネプギアは謝り続ける夢人が何を言っているのか理解できなかった。

 否定しようとするネプギアの言葉を遮り、夢人は大声で怒鳴る。

 ビクッと体を恐怖で震わせるネプギアを見て、夢人は辛そうに顔を歪めた。

 

「急に大声を出してごめん。でも、最後まで俺の話を聞いて欲しいんだ」

 

「……わかり、ました」

 

 ネプギアはたどたどしく答えることしかできなかった。

 夢人からの衝撃発言に頭が混乱し、それ以上言葉が出なかったのである。

 

「今のネプギアは記憶を失っているから分からないかもしれないけど、俺1度振られているんだよ」

 

「振られ……え、それって私に、ですか?」

 

「そうだ。俺はネプギアに振られているんだ」

 

 信じられないと言わんばかりに目を大きく開かせたネプギアが確認するように夢人へと尋ねた。

 告白して逃げられたことを思い出し、内心で傷つきながらも夢人は断言する。

 すると、ネプギアはガタガタと体全体を震わせ、覚束ない足取りで後ずさる。

 

「う、嘘、です……そんなこと、絶対にあり得ない……だって、私は……」

 

「嘘なんかじゃない。きっと今のネプギアは記憶が混乱しているから、俺のことを好きだなんて勘違いをしているだけなんだ」

 

「っ、違います!! 勘違いなんてしてません!! 私は本当に夢人さんのことが……」

 

「――違う!!」

 

 気持ちを奮い立たせて叫ぶネプギアの声は、夢人の心に届かなかった。

 否定に否定を重ね、夢人は声を荒げる。

 

「思い出してくれ!! ネプギアは俺のことを好きじゃなかったんだ!!」

 

「そんなこと覚えてません!! 思い出したくもないです!! 夢人さんこそ、どうして私を信じてくれないんですか!! もっと私を信じてください!!」

 

 胸に手を当ててネプギアは涙目で夢人に訴えかける。

 しかし、夢人の態度は変わらない。

 首を横に振ってネプギアの言葉を受け入れようとしない。

 

「違うだろ!! 信じてるとか信じてないとかじゃなくて、このままじゃ俺もネプギアも駄目になるから言っているんだ!! このまま勘違いを続けて、ネプギアが記憶を取り戻した時に傷つくのを見たくないんだ!!」

 

「だったら、記憶なんていりません!! 夢人さんとずっと一緒にいられるなら、忘れたままの方がいいです!! だって、私は……私は!!」

 

 平行線を辿る気持ちのぶつけ合いの最中、ネプギアは声を張り上げた。

 

「――私は夢人さんのことが好きです!! 大好きなんです!! 愛しているんです!!」

 

 それは間違いなく告白だったであろう。

 むき出しの思いをそのまま口にする飾らない言葉だったからこそ、ネプギアの言い分を否定していた夢人の心を揺さぶる強さを備えていた。

 しかし、夢人は何も答えない。

 唇を強く噛んで、無理やり口を閉ざしているだけである。

 

「恋人じゃなかったとか振ったとかも、どうでもいいんです!! 今こうしてあなたの目の前にいる私を信じてください!! 私は夢人さんのことが好きなんです!! 何度だって言えます!! あなたのことが好きだから、ずっと傍で一緒にいたいんです!!」

 

「だから、それは……」

 

「夢人さんだって前に言っていたじゃないですか!! 【大事なのは、過去じゃなくて未来なんだ】って!! だから、私は夢人さんと一緒にいられるなら過去なんていらない!! 一緒にいられる未来だけが欲しいんです!!」

 

 ネプギアの勢いに押され、夢人は顔を俯かせて黙ってしまう。

 ここまでストレートに思いをぶつけられれば、夢人もネプギアが本気なのは既に理解できている。

 好きだと言われ、愛されていると分かり、嬉しいとすら思っている。

 お互いに両思いだと理解して、嬉しくないはずがなかったのだ。

 

「ごめん」

 

 ――しかし、だからこそ夢人はネプギアの気持ちを受け止められなかった。

 

 気が付けば、夢人はネプギアに背中を向けて走り出していた。

 泣いているネプギアを残して、1人で走り出していたのである。

 事実、それはネプギアから逃げるためであったのだろう。

 無意識のうちに、これ以上ネプギアと一緒に居たらいけないと判断していたのだから。

 

「待ってください!! 夢人さん、待って!! ――私を1人にしないで!!」

 

 ネプギアの悲痛な叫びは夢人の耳にもしっかりと届いていた。

 だが、夢人は振り返らずに走り去っていく。

 夢人の背中へと伸ばした手は空を切り、ネプギアはその場で崩れ落ちてしまう。

 項垂れるネプギアは青々と茂った芝生を掻き毟るように指を立てることしかできなかったのであった。

 

 

*     *     *

 

 

(これでいい……これでよかったんだ)

 

 自分に言い聞かせながら走る夢人の胸には後悔しか募らない。

 

 あのまま嘘の恋人関係を続けても、ネプギアが傷つくだけだと夢人は思っていた。

 本当のことを言ったのは間違いじゃないと考えていたし、後悔もしないはずだった。

 だが、頭の中に残っている泣きながら愛を叫ぶネプギアの泣き顔が夢人を苦しめる。

 

(違う!! 俺はネプギアに振られたんだ!! だから……)

 

 淡い期待を抱いてネプギアに甘えそうになる自分を、夢人は必死に否定した。

 好きだからこそ――幸せになって欲しいからこそ、夢人はネプギアが泣いても突き放してきたのである。

 今更、後悔しても遅い。

 期待なんて抱くなと、夢人は強く自分に言い聞かせる。

 

「っ、すいません!?」

 

「おいおい、気をつけてくれ――うん?」

 

 迷いを振り切ろうと一心不乱に走り続けたせいで、夢人は緑色のスカーフを首に巻いた男性にぶつかってしまった。

 即座に自分の非を認めて謝る夢人に対して、ぶつかった男性は訝しげに眉をひそめる。

 

「お前、もしかして御波夢人か?」

 

「え、どうして俺の名前を――っ!?」

 

 自分の名前を言い当てられ驚いたのも束の間、夢人の視界は急にぶれて右肩に強い痛みを覚えた。

 男性が夢人の右腕を捻り上げて地面に強く押さえつけたのである。

 

「急に何をするんだ!? 離してくれ!?」

 

「誰が離すものか、この異教徒め!! 大人しくしろ!!」

 

「異教徒? いったい何のこと――っ!?」

 

 夢人には男性が何を言っているのかまったく理解できなかった。

 男性の方も、夢人の抗議を無視して暴れられないように背骨の辺りを脛で押さえつける。

 右腕を捻り上げられるだけでなく体重を乗せられたことで、夢人の顔が苦痛に歪む。

 抜け出すことも声を出すことさえも困難になった夢人に、男性は上から威圧的に宣言する。

 

「我らリーンボックスは貴様ら異教徒の存在を絶対に許さん!! グリーンハート様には指1本触れさせんぞ!!」

 

(何だよ、それ!? いったい何だって言うんだよ!?)

 

 身に覚えのない事を男性から言われても、心当たりのない夢人はただ混乱するだけだった。

 その後、男性と同じように緑色のスカーフを首元に巻いた男達が数人現れ、夢人を拘束して歩かせ始める。

 晒し者にしている夢人を連れて向かう先は彼らの職場――リーンボックスの協会であった。




という訳で、今回はここまで!
……御覧の通り、全く甘くないデート回でした。
ってか、妄想の中でしかデートしてなかったですね。
甘い話を期待していた読者の皆様には申し訳ありませんが、それはもうちょっと先の話になりますので楽しみにしていてくださると幸いです。
それでは、 次回 「初対面のわけがない」 をお楽しみに!
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