超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
日に日に暑さが厳しくなっていきますよね。
もうクーラーの出番なのかな(白目)。
それでは、 初対面のわけがない はじまります
「第1回、ゆっくんとネプギアのラブラブデートを温かく見守ろう隊の会議を始めるよー!」
「おおー!」
「わぁ~い!」
往来の真っただ中、ネプテューヌは腕を振り上げて高らかに宣言した。
しかし、拍手をするREDとプルルート以外の視線は冷ややかである。
「あのね、アンタ達はここがどこだか分かっているの?」
「え、リーンボックスでしょ? そんなことを聞くなんて、あいちゃんの方こそ大丈夫? ハッ、もしかして、あいちゃんも記憶喪失美少女隊の仲間入りを……」
「――道の真ん中で何を叫んでいるのかって言っているのよ!!」
的外れな解答だけでなく同類扱いしてくるネプテューヌに、アイエフは我慢の限界を迎えた。
ネプテューヌの背後にまわり、こめかみの部分をぐりぐりと指の第2関節で圧迫させる。
「イタイタイタイタイタイ!? ギブギブ!? わたしの脳細胞がどんどん死滅していっちゃうよ!?」
「元々空っぽなんだから問題ないわよ」
「酷い!?」
痛みに悶えながらもボケを忘れないネプテューヌの相手をするのに疲れ、アイエフは制裁を中断した。
解放されたネプテューヌは涙目になりながらアイエフを睨む。
「いくらツンデレキャラだって言っても、もう少しわたしにデレを見せてくれてもいいんじゃないかな? このままじゃ、ただの暴力キャラになっちゃうよ?」
「ネプテューヌは分かってないなー。ツンデレのデレは、ここぞって時に発揮されるからグッとくるんだって――わざとらしく横に並んで【さっきは、その……ごめん】って囁かれるシチュエーションに萌えるんだよ!」
「うっ、まさかこのわたしが言い負かされるなんて。悔しい! ……でも、そんなあいちゃん見てみたい」
「コイツ等ときたら……」
ネプテューヌとREDの頭の中で勝手に動いている自分を消してしまいたいと、アイエフは本気で思った。
これ以上馬鹿な話に付き合って時間を浪費したくないアイエフはさっさと本題を切り出す。
「私達はこれから協会に行って鍵の欠片について聞きに行くんでしょ? あの2人のデートをデバガメしている暇なんてないわよ」
「ええー、そんなの後でもいいじゃん。しばらくはリーンボックスにいるんだし、協会に行くのは明日にしようよ」
「駄目よ。昨日の内にグリーンハート様との面会の予約までしたんだから、絶対に予定は変えないわよ」
不服そうに眉尻を下げるネプテューヌに、アイエフは強い口調で断言した。
すると、ネプテューヌは名案だと言わんばかりに表情を明るくさせる。
「そうだ! 協会にはあいちゃん達だけで行ってきてよ。わたしはゆっくんとネプギアのデートを観察しに行くからさ」
「あっ、ズルイ! それなら、アタシも行くよ! ネプギアもヨメの1人だし、もしも夢人が不埒な真似をしそうになったらアタシが天誅を下さないと」
輝く笑顔と共にネプテューヌは自分の興味を優先した。
同調するREDであったが、その動機はとても物騒である。
冗談ではない証拠に、袖の中にしまってあるけん玉を動かす音が聞こえる。
「だから、そもそも尾行なんて無粋な真似はやめなさいって。あの2人がどうなろうが、私達には関係ないでしょ」
「関係あるよ。ゆっくんもネプギアもわたしを中心としたチームの大切な仲間だし、リーダーとして2人の仲の進捗度を確認する義務があるんだよ」
「……いつからアンタがリーダーになったのよ」
頑として夢人達のデートを観察しようとするネプテューヌに、アイエフは頭が痛くなってくる。
真面目に最低なことを言うネプテューヌに呆れ、アイエフは思わずため息をついてしまう。
「あいちゃんの言う通りだよ。アタシはネプテューヌをリーダーと認めたわけじゃないよ」
「何をー! この溢れんばかりの主人公力を持つわたしを差し置いて、誰がこのパーティーのリーダーだって言うの?」
「そんなの当然アタシに決まっているじゃん! このパーティーはアタシを中心としたヨメ達とのコミュニティなんだよ!」
「ブブー、残念でした! それじゃ、ゆっくんが仲間外れで成立しないもーん! やっぱり、この“ネプ子さんと愉快な仲間達”のリーダーはわたししかいないね!」
「そっちこそ、ダウトー! 愉快なことをしているのは夢人しかいないじゃん! つまり、その名前だとネプテューヌと夢人のコンビになっちゃうよ!」
「ぐぬぬっ、まさかそんな上手い切り返しをされるなんて……!」
「ふふーん、アタシを舐めないでよね」
白熱した議論を交わしているが、どちらの言い分も夢人に対して失礼極まりなかった。
だが、2人はそれを当たり前のように話しているのも今までの夢人の行動が起因しているのだろう。
確かにスライヌ相手にして一方的に負ける姿は滑稽であったため、間違ってもいなかったのである。
悔しそうに歯噛みするネプテューヌと得意げに胸を張るREDであるが、2人は今自分達がいる場所を完全に忘れていた。
――2回目になるが、ここは天下の往来なのである。
当然、ネプテューヌ達以外の通行人もいるのだ。
ただでさえ、ネプテューヌ達は大人数で目立つのに騒いでいたら、嫌でも注目を浴びてしまう。
通行人から奇異の目で晒されても気にした様子もないネプテューヌとREDはともかく、他のメンバーには堪ったものじゃなかった。
「うぅぅ、絶対変な目で見られているですぅ」
「あ、あはは、あまり気にしない方がいいと思うよ」
羞恥に顔を赤くして俯くコンパを、シンはフォローしようと声をかけた。
だが、苦笑いを浮かべる外面と違い、シンは内心で忌々しそうに舌打ちをしている。
(やれやれ、計画を実行する前はあまり目立ちたくなかったんだけどなぁ。仕方ない、ここは“僕”が別れて行動することを提案するとしますか)
コンベルサシオンと裏路地で密会した後、作成途中であった新作と仕込みの準備で寝不足であったシンはくだらないことを言い合うネプテューヌとREDに苛立ちを感じていた。
しかし、短絡的に行動を起こさず、自分にメリットが生まれるように計算する。
「えっと、このままだと他の人にも迷惑をかけてしまいますし、ネプテューヌさんとREDさんだけ別行動にしたらどうでしょうか? アイエフさん、グリーンハート様との面会時間まで後どれくらいですか?」
「ちょっと待って――ゲッ、もうこんな時間じゃない。早く行かないと間に合わなくなるわ」
「だったら、急ぎましょう。グリーンハート様もご多忙な時間を割いてまで面会をして下さるんですから」
「……そうね。こっちも馬鹿2人がいなくなった方が楽でいいか」
上手くアイエフを誘導することができ、シンはラステイションでの布石がしっかりと機能していることを確認することができた。
それは好青年を演じている“僕”がある程度信頼されていることに加え、アイエフがネプテューヌ達に負い目を感じていること。
証拠に、シンから見てもアイエフは夢人達と一緒にいると気まずそうな素振りを見せている。
(まあ、彼女の自業自得だけどね)
一緒にいることが辛いと感じているのにもかかわらず、夢人達から離れられないアイエフのことをシンは哀れだと思わない。
無責任に何も言わないで離れていくことをしないだけでも、アイエフが何だかんだ言いながらもお人好しで義理堅い性格をしていることは分かる。
……しかし、だからこそシンにとっては利用しやすかった。
負い目を感じていてもその罪を告白するタイミングを失ってしまったアイエフは、既にシンの術中に嵌まってしまっている。
今更になって謝罪をしようとしても、ガナッシュを通じて渡した物がアイエフを縛り付ける。
何故なら、それはアイエフが絶対に打ち明けられない最大級の秘密なのだから。
「そう言うわけだから、ネプテューヌさんとREDさん以外は協会に……」
「――ダメ」
自分の思うように事を進ませようとしたシンを止めたのはロムだった。
通さないと言わんばかりに、ロムは両手を大きく広げてネプテューヌとREDの前に立つ。
「夢人お兄ちゃんとネプギアちゃんの邪魔しちゃダメ(ぜったい)」
「邪魔なんてしないしない。ちょっと後ろから温かく見守っているだけだからさ」
「そーそー、ロムが心配するようなことは絶対にしないって」
「それもダメ。今は2人っきりにさせてあげて(お願い)」
怒っているような雰囲気を纏っているロムを、ネプテューヌとREDは宥めながら説得しようとした。
だが、ロムは首を横に振って説得を聞き入れない。
すると、今度は頭まで下げだす。
「夢人お兄ちゃん、今すごく悩んで苦しんでいると思う。でも、ネプテューヌさんとREDさんがいたら、ずっと溜めこんじゃう(きっと)。だから、ネプギアちゃんと2人っきりにして欲しいの」
「……あー、うん、ゆっくんが調子が悪いのはわたしも分かっているし、ね?」
「……まー、そう言うことなら、恋人同士で楽しく過ごしてもらった方がいいよね。ごめんね、アタシ達が無神経で」
「それと、止めてくれてありがとう。ロムちゃんは本当にいい子だね」
「ううん、分かってくれたらいい(にっこり)」
ネプテューヌ達の前で気丈に振る舞おうとしても、ロムは最近の夢人の姿に心配を隠せなかった。
今にも泣き出してしまいそうなくらい、瞳を潤ませている。
そんなロムの様子に、自分達がどれだけ目先の興味に引かれて無粋な真似をしようとしたのかを理解し、ネプテューヌとREDは反省する。
2人からの謝罪とお礼を受け取り、ロムもようやく笑顔を浮かべることができた。
「……あり? ねえねえ、こんぱ」
「どうしたんです?」
「ろむがいっていること、あいえふとおなじじゃないの?」
「え……あっ」
話がまとまりかけたのも束の間、ピーシェの一言にネプテューヌ達は固まってしまった。
聞かれたコンパも、ピーシェが間違ったことを言っているわけではないので返答に困ってしまう。
「……そう言えば、そうよね。私とこの子で、どうして態度が違うのかしら?」
「えっと、それは慢心と言うか環境のせいとか……」
「ぶっちゃけ、ロムちゃんに頭まで下げられたら断れなかったというか……」
感情を押し殺した平坦な声でアイエフはネプテューヌとREDに事の真偽を尋ねた。
それが余計に恐怖を煽り、2人は冷や汗をかきながらきょろきょろと視線をさまよわせてしまう。
「そうだったの~? あたしはてっきり、あいちゃんの反応が可愛いからだって思っていたのに~」
『そんなの当たり前――あっ』
「へぇ、つまりアンタ達は私で遊んでいたってわけね」
意味の分からない言葉で言い訳をしようとするネプテューヌ達に、プルルートはさらなる爆弾を投下した。
目をパチクリとさせて呟いたプルルートの言葉に反応してしまった瞬間、ネプテューヌとREDは自らの失言に気付く。
だが、それはあまりにも遅い後悔であり、2人の目の前には青筋を浮かべたアイエフがいた。
「あ~、もしかして、余計なことを言っちゃったかなぁ?」
「うーん、でも、あれはねぷねぷ達が悪いんですし、気にしなくてもいいと思うですよ」
「それに、アイエフさんも少し楽しそうに見える(にこにこ)」
怒鳴るアイエフと叱られているネプテューヌとREDの様子を見て、プルルートは申し訳なさそうな顔をした。
アイエフの怒りが爆発するきっかけを作ったのが自分の発言であるため、プルルートも気にしないわけにはいかなかった。
そんなプルルートを、コンパは苦笑しながらフォローする。
コンパの隣にいるロムも騒ぐ3人の様子をほほ笑ましそうに見守るのであった。
「――ロムちゃん」
「っ、シン、さん……?」
そんな時、ロムは急に話しかけてきたシンに過敏な反応を示した。
怯えるようにコンパのスカートの裾をギュッと握ってしまう。
「さっきは僕もごめんね。僕が別行動なんて提案したから、ロムちゃんに無理させちゃって」
「……ううん、気にしてない」
「そう言ってくれて、ありがとう」
会話の最中、ロムは終始シンと目を合わせようとしない。
俯いたままのロムに、シンも困ったように頬を掻いてしまう。
すると、ピーシェがロムとシンの間に割り込んでくる。
「こらー! ろむをいじめるなー!」
「い、虐めてないよ。だから、ピーシェちゃんも落ち着いて」
「でも、シンさんは本当にロムちゃんに何もしていないんですか?」
ロムを守ろうとするピーシェを宥めるシンに、コンパは非難するような目を向ける。
それだけロムのシンへの態度が他の人と違うのだ。
「何かしたってことはないと思うんですけどね。もしかしたら、嫌われちゃうようなことをしちゃったかな? ごめんね」
「も~、理由も分かってないのに謝るのは駄目だよぉ! ちゃんと悪いと思って謝らないと~」
(それが分からないから困っているんじゃないか、まったく)
とりあえず謝って許してもらおうとするシンの行動を、プルルートは叱りつける。
しかし、ロムから嫌われるようなことをした心当たりのないシンにとっては、そんなことを言われても困るだけだった。
説教をしてくるプルルートに心の中で悪態をつき、シンは1つの推論を立てる。
(もしかして、俺が演技をしていることに気付いている?)
あり得なくもない推論に、シンはロムへの警戒を強める。
何が原因で勘づいているのかも分からないので、シンはより一層ロムの前でボロを出さないように注意することを決意した。
(……何だか、怖い)
――しかし、そんなシンの決意をよそに、ロムは持ち前の強い感受性により危険を感じ取っていたのである。
具体的に言葉にできないが、ロムはシンを恐れてしまっていたのだ。
「もー、いくならはやくいこーよ!! ぴい、つまんないよー!!」
「それもそうですね。あいちゃんもそろそろ終わりにするですよ。時間ももうないんですよね?」
「え――あ、あああああ!? そうだったわ!? こんなことしている暇なんてなかったのに!? ほら、走るわよ!?」
先程から1歩も動いていないことに、ピーシェは遂に我慢できずに不満を漏らしてしまった。
ちょうどいい機会だと思い、コンパはアイエフに叱られていたネプテューヌ達へと助け船を出す。
すると、アイエフはネプテューヌ達のことなど放っておいて先に協会へと走り出してしまう。
「ちょっ、あいちゃん!? 置いてかないでよ!?」
「待ってってばー!?」
急に走り出したアイエフに驚くも、ネプテューヌとREDはすぐに追いつこうと駆け出す。
そんな3人を見失わないように、コンパ達も協会へと急ぐのであった。
* * *
「ようこそ、リーンボックス協――おや? どうかされましたかな?」
「……い、いえ、お気遣いなく」
頭部の生え際が後退しているお爺さんが軽く息を乱しているわたし達を不思議そうに見た。
代表としてあいちゃんが答えたんだけど、額の汗を拭いながらじゃ説得力がないと思う。
――ここまでのネプテューヌは!
あいちゃんを弄り過ぎてグリーンハート様との面会時間に遅れそうになったわたし達はBダッシュで協会に向かった。
ギリギリで間に合ったわたし達に待っていたのは、定番の白い顎ひげを蓄えたお爺さんである、以上!
いやぁ、ハイライト風にやってみたけど、あんまり意味なかったかもね。
でも、なんで偉いお爺さんとかって顎ひげを伸ばすんだろうね。
あれかな? もしかして、ひげが威厳の証とかそんな暗黙の了解と言うかテンプレが老人協会では制定されているのかも。
「それでは改めて、リーンボックス協会によくぞ参られた。あなたがアイエフ殿で間違いないかの?」
「はい、本日はグリーンハート様との面会の機会を頂き、誠にありがとうございます」
「ほっほっほっ、そんなに硬く並んでも構わんよ」
堅苦しい挨拶を交わすお爺さんとあいちゃん。
でも、お爺さんの方はすぐにあいちゃんを安心させるように笑みを浮かべる。
「そちらの皆さんもよくいらっしゃった。ワシは当協会の協院長をしておるイヴォワール。お嬢ちゃん達は何と言うんじゃ?」
「ぴいはぴいだよ!」
「この子はピーシェちゃんで、わたしはロムです」
「そうかそうか。ピーシェちゃんは元気があっていいのぅ。ロムちゃんも教えてくれてありがとう」
自己紹介をしたイヴォワールさんはピー子とロムちゃんと視線が合うように膝を折った。
その様子は孫を愛でるお爺さんそのもので、何だかほほ笑ましい。
ピー子もロムちゃんもイヴォワールさんに頭を撫でられても嫌そうにせず、むしろ嬉しそうに目を細めている。
「さて、それではグリーンハート様の所に連れていく前にお聞きしたいのじゃが、予約していた人数より少ないようじゃのぅ。どうかなされましたか?」
「えっと、2人ほど別行動をとっているんです。だから、協会には私達だけと言うことで」
「うむ、何やら事情があるみたいじゃな……会えるのを楽しみにしておったんじゃがのぅ」
2人を愛でるのに満足したらしいイヴォワールさんは立ち上がると、あいちゃんにここにはいないゆっくん達のことを尋ねた。
イヴォワールさんが小声で残念そうに呟いていたけど、わたし達には何のことだか分からない。
会えるのを楽しみにしていたってどう言うことなのかな?
もしかして、ゆっくんかネプギアの事を知っているのかな?
「まあ、後で直接挨拶に向かうとするか――まずはここにいる皆さんにお礼を言いたい。本当にありがとうございました」
えっ、どうしてわたし達お礼を言われているの!?
急に頭を下げられたら、こっちが困っちゃうんだけど!?
しかも、ロムちゃんに続いて今日2度目だし!?
「ミモザから話は聞いております。皆さんがいなければ、モンスターに襲われて無事では済まなかったと。本当に何とお礼を申し上げればいいのか」
「み、ミモリン? え、それじゃ、おじさんは……」
「あの子から聞いてませんでしたか? 恥ずかしながら、ミモザはワシの孫娘なんじゃよ」
『え、えええええ!?』
イヴォワールさんの衝撃告白に、わたし達は驚いてしまった。
リムジンに乗ったり執事さんがいたり屋敷を見たりしたから、ミモリンがある程度偉い立場だってことは理解していたけど、まさかイヴォワールさんの孫だったなんて。
でも、言われてからでもミモリンとイヴォワールさんってあんまり似てないなぁ。
もしかして、ミモリンも将来おでこで光を反射する必殺技を使えるようになるかも!
「あの子は娘に似て、お転婆が過ぎるところがあるからのぅ。ちょっとした言い合いで、勝手に国外へと出て行ってしまったんじゃ」
「……もしかして、家出ですか?」
「そうなるのぅ。前もって計画もしていたようで、気がついた時には旅行客に紛れて国外に出てしまった後じゃった」
ズバリ言い当てたコンパの指摘に、イヴォワールさんは疲れたようにため息をつく。
その様子から、ミモリンにだいぶ苦労させられていることがうかがえる。
「あれ? それなら、どうして屋敷の中では会わなかったの? イヴォワールも一緒に住んでいるんでしょ?」
「コラッ、協院長を呼び捨てにするなんて……」
「好きに呼んでもらって構わんよ。昨日は片づけなければならん仕事が残っておってのぅ。協会に泊りこんだだけじゃよ」
あいちゃんがREDちゃんを叱るけど、イヴォワールさんは気にした様子もなく疑問に答えた。
実はそう言ってもらえるとわたしも助かったりするんだよね。
ずっと“イヴォワールさん”なんて、長々と文字数使うのもどうかと思うんだよ。
心の中で思っているだけでも疲れちゃうし、本人の許しも出たことだからここはフランクに“イボ痔さん”なんて呼んでも……って、さすがに失礼すぎるか。
「イボ爺さんも大変なんですね」
「コンパまで!? だから、この人は……」
「はっはっはっ、よいよい。ご覧の通り、若い皆さんからしてみれば、ただの老いぼれジジイなのだからな」
チャレンジャーコンパの呼び方はイボ爺さんに笑って受け入れられた。
とりあえず、わたしもコンパに倣ってイボ爺さんって呼ぶことにしよう。
でも、あいちゃんはどこか不服そうに眉をひそめている。
「アイエフ殿も、そう常に肩肘張っていると疲れるだけですぞ。形式にこだわるのは年を取ってからでも遅くはない。若いうちは頭を柔らかくして臨機応変に対応することがよい経験を積む秘訣なのじゃからな」
「……ご忠告、痛み入ります」
「まあ、ジジイの説教など煩いだけじゃろうが、それもまた経験かのぅ」
不満そうなあいちゃんに、イボ爺さんはアドバイスを送った。
わたしにはその言葉に重みのような物を感じた。
伊達に年を重ねてきたわけではないと証明するような説得力があるような気がする。
でも、あいちゃんはそれを素直に受け入れたとはお世辞にも言えない。
そんな風に畏まって頭を下げるあいちゃんを見て、イボ爺さんも困ったように笑うことしかできなかったらしい。
「やれやれ、年をとるとどうにも説教臭くなって敵わん。皆さんもこんなジジイの話に付き合わせてしまってすまんのぅ」
「それは別にいいんだけどぉ~……」
「どうかなされましたか?」
「どうしてミモちゃんは家出なんてしたの~?」
申し訳なさそうにするイボ爺さんに気を遣ったのか、それとも素で疑問に思ったことを口にしただけなのかは分からないけど、ぷるるんの聞きたいことはわたしも気になる。
こうして話してみると、イボ爺さんはラステイションの教会の人達みたいに感じの悪い人じゃないってことは分かる。
好々爺って言うのかな?
そんな言葉がぴったりの人だと思うのに、ミモリンは何が原因で家出なんてしたんだろう?
「簡単な話じゃよ。ミモザがワシのことを嫌って飛び出しただけじゃ」
「嫌われているって、大変じゃないですか!? そんな家族なんですから、早く仲直りしないと……」
「あの子がワシを嫌うのは仕方のないことなんじゃよ。あの子にとって、ワシは憎まれて当然なのだからな」
コンパが慌てているのにもかかわらず、イボ爺さんは落ち着いていた。
……ううん、諦めているような気がする。
多分、ぷるるん達も気付いている。
だって、仕方ないとか当然とか言いながらも、イボ爺さんは悲しそうだから。
「よかったら、アタシ達が何とかしようか? ほら、ミモリンも素直じゃないところがあるし、きっと仲直りできるからさ!」
「わたしも仲直りのお手伝いする(ぐっ)。だから、元気出して」
「……ありがとう。皆さんのような方がミモザの傍にいてくれて、本当によかった」
REDちゃんとロムちゃんに励まされ、イボ爺さんは嬉しそうに目を細めた。
すると、ピー子が黙ったままイボ爺さんに近づく。
「いぼわー」
「うん、どうかし――イダダダダダッ!?」
「ぴーしぇちゃん!?」
ズボンをクイクイッと引っ張るピー子と目線を合わせるために屈んだ瞬間、イボ爺さんの白いひげが思いっきり引っ張られた。
下手人は当然ピー子。
予想外の行動に、ピー子と1番付き合いが長いぷるるんが急いでイボ爺さんを助けるために近寄る。
「何をしているのぉ!? 早くやめないと怒るよ~!?」
「やだ! いぼわーがげんきになるまでする!」
もしかして、ピー子なりにイボ爺さんを励まそうとしていたの!?
でも、いきなり顎ひげを引っ張るのは駄目だと思うなぁ!?
ピー子的には頭を撫でるのと同じなのかもしれないけど、やられているイボ爺さんは涙目だから!?
「は、ははは、ピーシェちゃんもありがとうのぅ。おかげで元気が出たぞい――だから、早く離してくれんかのぅ」
「ほ、ほら、イボ爺さんもそう言っているから~」
「うん! いぼわーがげんきになってよかった!」
無邪気に笑うピー子と違い、イボ爺さんは絶対に切実なお願いだったと思う。
イボ爺さんのひげを手放したピー子はそのままぷるるんに抱きあげられたまま拘束される。
放っておくと、また予想外なことをしそうだからね。
「も~、あんなに強く引っ張っちゃ駄目だよぉ~。ちゃんとイボ爺さんにごめんなさいって言って~」
「なんで? ぴい、なにもわるいことしてないよ?」
「いいから~、ごめんなさいするの~」
「……ごめんなさい」
ぷるるんって、結構お母さんっぽいよね。
ピー子もぷるるんがムッとしていると、すぐにちゃんと言うこと聞くし。
……あれ? だったら、いつもピー子から馬鹿にされているような気がするわたしはどんなポジションにいるんだろう?
「なに、ピーシェちゃんも良かれと思ってしたことだし、謝る必要はどこにもないぞ。むしろ、元気をもらえたわい。ありがとう、ピーシェちゃん」
「えへへー」
「っと、随分と長話に付き合わせてしまったのぅ。それでは、グリーンハート様の所まで案内させてもらうぞい。さあ、こっちじゃよ」
本当にイボ爺さんがいい人でよかったよ。
痛かったはずなのにピー子に気を遣うだけじゃなく、今も近づいて頭を撫でている。
どうしてミモリンが嫌うのかが分からないくらい、いいおじいちゃんだと思うんだけどなぁ。
そんなことを思っていると、イボ爺さんはとある部屋の前までわたし達を先導する。
途中、誰もしゃべらなかった。
きっと皆緊張しているんだと思う。
それはわたしもだけど。
うぅぅ、緊張するなぁ。
ラステイションでは結局ブラックハート様には会えなかったからね。
一応、わたしもプラネテューヌの女神らしいんだけど、他の女神に会うのは緊張するよ。
きっとわたしが『変身』した時みたいな感じの人がこの扉の向こうにいるんだろうな。
「グリーンハート様、面会を希望された方をお連れしました」
ノックをして呼びかけても返事はなかった。
不思議に思っていると、イボ爺さんは再び扉を叩く。
今度はさっきよりも強く、どこか怒っているような感じで呼びかける。
「グリーンハート様!! 聞いておられるのですか!!」
『後にしてくださいまし!! 今、手が離せませんの!!』
怒気を孕んだイボ爺さんの呼びかけに、扉の向こうからも怒鳴り声が返って来た。
どうやらちゃんと部屋の中にはグリーンハート様がいるようである。
手が離せないってことは、仕事中だったのかな?
もしかして、わたし達が長話をし過ぎたせいでグリーンハート様に迷惑がかかっちゃったのかも……
「くっ、あの方はまた……!」
「あ、あの、お忙しいようならまた後日でも……」
「いいえ、それには及びませんぞ――失礼します!!」
怒りを堪えているように見えるイボ爺さんに、あいちゃんは申し訳なさそうに提案した。
しかし、イボ爺さんは力強く首を横に振って、躊躇いなく扉を開け放つ。
――って、勝手に開けて大丈夫なの!?
だって、グリーンハート様は忙しいんじゃ……
「グリーンハート様!! あれ程仕事中はゲームをしないで下さいと言ったはずですぞ!!」
「うるさいですわ!! 今とても大事なところ――っ、もう突破しましたの!? くっ、急いで応援を呼んで本陣の守りを固めないと!?」
開かれた扉の向こうには、暗い室内でパソコンに向かう1人の女性の姿があった。
多分、あの人がグリーンハート様なんだと思う。
それと、イボ爺さんの言葉が真実なら、グリーンハート様の手が離せない理由はネトゲみたい。
しかも、ものすごい勢いでタイピングしている後ろ姿を見ると、かなり慣れているような気がする。
……うわぁ、って思ったわたしは間違ってないと思う。
あの人が本当にグリーンハート様なの?
ただの引きこもりゲーマーにしか見えないよ。
「っ、やりましたわ!! わたくし達の勝利です!!」
――喜んでいるところ悪いけど、結局話は聞けるのかな?
という訳で、今回は以上!
まあ、私はうちわ派ですけどね。
今でこれなら今年の夏も厳しそうだ……
それでは、 次回 「わたくしが弱みを見せるわけがない」 をお楽しみに!