超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
さあ、お待ちかねの緑の人のターンです。
黒のツンデレとどう違うのか。
それでは、 わたくしが弱みを見せるわけがない はじまります


わたくしが弱みを見せるわけがない

「ようこそ、皆さん。わたくしがリーンボックスの女神グリーンハートですわ。さあさあ、ご自由におかけになってくださいな」

 

 備え付けのソファーに腰をかけるように促したが、今日の面会希望者の方々は誰ひとり動こうとしない。

 仕方なく、わたくしが先に椅子に座ってソファーへと気兼ねなく座れるように配慮することにした。

 

「どうかなさいましたか? あっ、わたくしとしたことがお茶の準備を忘れるところでしたわ。早速人数分の……」

 

「――グリーンハート様、今更過ぎますよ」

 

 先程からジト目でこちらを見つめていたイヴォワールからの一言に、わたくしは腰を浮かした姿勢で固まってしまった。

 

「あら、何のことでしょう? わたくしは女神として皆さんを持て成そうと……」

 

「でしたら、どうしてゲームをなさっていたのでしょうか? ちゃんと面会予約時間はお伝えしたはずですぞ」

 

 くっ、イヴォワールも余計なことを言わないでくださいまし!?

 このままでは女神としての威厳が保てないではありませんか!?

 

「まったく、皆さんも申し訳ない。この方がリーンボックスの女神であらされるグリーンハート様ご本人なのじゃが……」

 

「あー、別に疑っているわけじゃないよ。ただ、ちょっと驚いていただけだし」

 

「……面目ない。普段は立派な方なのですが、その……プライベートでは少々難のある部分がありましてのぅ」

 

 白い十字キーを模したアクセサリーをした紫色の跳ねっ毛が特徴的な髪の少女がイヴォワールを慰めている。

 でも、それは余計にイヴォワールを居た堪れない気分にさせてしまったらしい。

 

 ……それよりも、イヴォワールはわたくしをフォローする気はないのですか?

 今、明らかにわたくしのことを馬鹿にしたような発言が聞こえてきたのですが。

 

「聞き捨てなりませんわ。イヴォワール、協院長のあなたが率先してわたくしを非難するような発言をするなんて、あってはならないことですわ。そもそも、わたくしがプライベートで何をしようとあなたには関係ないはずです」

 

「――言わせているのはあなたの方ですぞ!!」

 

 このままではわたくしの評価がどんどん下がっていくような気がしたので、イヴォワールを厳しめに叱責することで体裁を保とうとした。

 しかし、それは逆にイヴォワールの怒りに油を注ぐ結果になってしまう。

 

「確かにプライベートでは何をなさろうとも構いません!! ですが、今は仕事中ですぞ!! 分かっておられるのですか!!」

 

「そんなことをいちいち言われなくても分かっていますわ。今日は偶々魔が差してしまっただけのこと。それに、わたくしの助けを待つ人達を放っておくほうが女神の名が廃りますわ。今日だってわたくしが救援に間に合ったからこそ、救えた命があるのですから」

 

「それは画面の向こうの話ですよね!! ゲームに夢中になって仕事を放棄する方が女神として失格です!!」

 

「命の価値に二次元も三次元もありませんわ。どちらも等しく尊い物であり、守らなければならない物なのです」

 

「立派なことですが、説得力がありません!!」

 

 そろそろ怒鳴り散らすイヴォワールの相手も疲れてきましたわ。

 まったく、イヴォワールは何も分かっていません。

 自分の分身であるキャラクターが死んだ時のことを知らないから、わたくしの考えが分からないのです。

 ああ、せっかく長い時間プレイした末に手に入れた装備が破壊された時やコツコツと溜めていたお金が半分以下にまでされてしまった時の絶望感。

 注ぎこんだ費用が一瞬のうちに水の泡に消えてしまうあの感覚は、まさに身を切り裂かれるような思いなのに。

 

「まったく、そんなことですから最近は妙な噂が立っているのですぞ。ゲームの中でグリーンハート様を名乗る不届き者がいると、若い職員が言っておりましたし」

 

「――今はそのようなつまらない事を言い合っている場合ではありませんわ。ほら、そちらの皆さんにも失礼ですわよ」

 

「う、うむ。それはそうなのですが、それをこんなことを言わせた元凶であるグリーンハート様に申されるのは……」

 

「さあ、皆さんもいつまでもそうしていないでご自由にくつろいで下さいまし! イヴォワールは早くお茶の準備を!」

 

「わ、分かりました。失礼します」

 

 余計なことを言いそうになったイヴォワールを無理やり――じゃなかった、いつまでもお客様をお待たせするわけにもいかないのでお茶の準備と言う名目の元に退出させた。

 

 ふぅ、危ないところでしたわ。

 リアルでの顔バレはゲーマーとして絶対に避けなければならない不文律。

 いくらわたくしの執務室と言えども、気軽に話題に出していいものじゃありませんわ。

 

「それでは改めて――リーンボックス協会にようこそいらっしゃいました。わたくしが女神グリーン……」

 

「って、待った待った!? ちょっと待った!?」

 

「女神グリーンハートと申します。以後、お見知りおきを。さて、それでは皆さんのお名前をお聞かせしてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「……もしかして~、全部なかったことにしようとしているのかなぁ?」

 

 ……はて、いったい何を言っているのでしょうか?

 彼女達が到着したのはイヴォワールがお茶の準備に向かった、つい先ほどのことではありませんか。

 そもそもなかったことにするだけの過去なんて、わたくし達の間にはありませんわ。

 ですから、わたくしは何も悪く――あら?

 

「じー……」

 

「ね、ねえ、今度は自分からじーっとか言いながらわたしのことを見ているんだけど。こう言う時はどうすればいいの、REDちゃん?」

 

「あ、アタシ!? え、えっと、そうだね……にらめっこで勝負、かな?」

 

「わ、分かったよ。それならこれでどうだ!」

 

 ――ッ、間違いありませんわ!?

 突拍子もないことを即座に実行に移す空気の読めなささに加え、あんな人として最低限失ってはいけない物をかなぐり捨ててまで馬鹿な顔を作る女は他にいない!?

 

「ネプテューヌ!? どうしてここに!?」

 

 

*     *     *

 

 

「やれやれ、グリーンハート様ももう少しだけでも真面目に職務に励まれてくれると嬉しいものを」

 

 その頃、グリーンハートにお茶の準備を命じられたイヴォワールは愚痴をこぼしながら廊下を歩いていた。

 疲れたようにため息をつく背中が哀愁を誘う。

 

「ハア、いっその事ネットに接続できないようにしてしまえば……」

 

「大変です、協院長!?」

 

 グリーンハートにとって死活問題になるかもしれない処置が下されそうになった瞬間、慌てた様子でイヴォワールへと駆け寄る職員の姿があった。

 

「なんじゃ騒々しい。何かあったのか?」

 

「それが外回りに出ていた職員から連絡があって、例の異教徒を捕縛したとのことです」

 

「なんじゃと?」

 

 職員の報告を聞いて、イヴォワールの顔は険しくなる。

 先程までネプテューヌ達と接していた時が嘘のように、イヴォワールの様子は鋭く怒気を孕んでいるかのように見える。

 無言のまま事の真偽を尋ねるイヴォワールの迫力に怯えながらも、職員は報告を続ける。

 

「は、はい、本人も御波夢人であることを認めたとのことで、捕縛してこちらに向かっているとのことです」

 

「間違いではないのだな?」

 

「そ、そこまでは直接目にしたわけでないので……」

 

「ああ、すまんのぅ。お主を責めているわけじゃないではないが、どうしても事がことだけにのぅ」

 

 委縮して報告も尻すぼみになる職員を安心させるように、イヴォワールは謝罪を口にした。

 雰囲気もすでに穏やかなものに戻っており、職員も安堵の息をつく。

 だが、笑みを浮かべながらもイヴォワールの目には鋭さが残ったままである。

 

(あまりにも早すぎる異教徒の発見。なるほどのぅ。コンベルサシオン殿はこの状況を見越しておったのか、はたまたただ利用されただけなのかは分からんが、どちらにせよワシらにできることは……)

 

 顎ひげを擦りながら、イヴォワールはこの状況に納得のいく理由を思いつく。

 だが、イヴォワールは慌てることなく静かに目を閉じるだけだった。

 

「協院長?」

 

「おお、すまんな」

 

 突然瞳を閉じて黙ってしまったイヴォワールを心配した職員が声をかける。

 思考を一時中断し、イヴォワールはこれからのことを伝えようと職員へと指示を出す。

 

「とりあえず、ワシはこのことをグリーンハート様に報告しに向かう。お主は異教徒のことを他の者にも伝えるんじゃ。ここに連れてきたら……」

 

「す、すみません、まだ報告しなければならないことがあるのです」

 

「何? 他にも何かあったのか?」

 

 イヴォワールの指示を遮り、職員は申し訳なさそうに口を開いた。

 まだ何か厄介事があるのかとイヴォワールが身構えていると……

 

「実は捕縛中の異教徒を見て怪しい行動を取った女性も一緒に連行しているとのことです」

 

「……すまん、もう1度言ってくれんかのぅ?」

 

「捕縛した異教徒の移送中に怪しい行動を取った女性もこちらへと連行しているようです」

 

 職員からの報告に、イヴォワールは頭が痛くなってきた。

 聞き間違いだと信じて問い返しても同じ答えが返ってきたことが余計に辛い。

 

「その怪しい行動とはいったい何なんじゃ?」

 

「報告によれば、女性は異教徒をしきりにカメラで撮影し、移送中の様子を事細かくメモしていたようです。不審に思った職員が異教徒の仲間ではないかと疑って声をかけようとしたところで女性は逃走を試みたらしく、何らかの関係がある者だと判断して捕縛したとのことです」

 

 額に手を当てながら、イヴォワールは職員の判断と女性の迂闊な行動に呆れを感じていた。

 異教徒の危険性を考えれば、怪しい行動をした女性に疑いをかけた職員の判断は間違っていない。

 しかし、それはイヴォワールからしてみれば、厄介事を増やしただけである。

 

(大方、逃げ出した理由は職員の雰囲気がピリピリしていたからじゃろうて。まったく、若い連中はこれだからいかん)

 

 外回りに出ていた職員の人柄はイヴォワールも当然知っている。

 時に夢人を捕縛したような力仕事も任せられることもあり、外回りの職員は協会で事務仕事をする者よりも年が若い層が多い。

 だからこそ、夢人を捕まえたことで興奮していた気持ちを上手く隠すことができず、女性へと威圧的に接してしまったのだろうとイヴォワールは予想していた。

 逃げようとした女性にも非はあるが、職員の方ももう少し穏便にことを運んでもらいたかったと思ってしまう。

 

「つまり、もうすぐ異教徒とその疑いがある者がやってくると言うことだな。他に何か報告はあるのか?」

 

「いえ、以上です」

 

「ふむ、それなら連行してきた両名は即座に牢屋へと収容せよと伝えておいてくれ。それと、他の者に緊急で異教徒への対策会議を開くと言っておくのじゃ。今グリーンハート様と面会をしておられる客人が帰り次第、すぐに会議を始めるぞ」

 

 指示を出し終えると、イヴォワールは職員からの返事も聞かずに踵を返してグリーンハートの執務室へと戻っていく。

 後ろからバタバタと急いで報告に回るのであろう職員の足音を聞きながら、イヴォワールは異教徒として連れて来られる夢人達のことを考える。

 

 ――だが、次の瞬間には別の人物の顔がイヴォワールの頭の中によぎってしまう。

 思わず立ち止まり、イヴォワールは窓の外を眺めてしまう。

 空はまるで悩んでいる自分がちっぽけに思えてしまう程の、綺麗な青空であった。

 

「……結局、ワシにはこうすることしかできないのだな」

 

 自嘲めいた独白はイヴォワール本人以外に届くことなく、協会の廊下に虚しく溶けていく。

 気持ちを切り替えるように頭を振ったイヴォワールは再びグリーンハートの元に向かうために歩き始める。

 俯くことなく前を見据える瞳に確かな決意を秘めて……

 

 

*     *     *

 

 

「――なるほど、記憶喪失ですか」

 

 グリーンハートは何度も頷きながら、ネプテューヌからされた説明を頭の中で反芻させる。

 その様子に、アイエフは恐る恐る口を開く。

 

「あ、あの、あまり真に受けない方がいいですよ。ネプ子――いえ、このバカは見ての通りの奴ですから」

 

「ちょっと、あいちゃん!? 今、なんでわざわざわたしのことを馬鹿って言い直したの!? それに、見ての通りの奴ってどう言う意味!?」

 

「見られているからって理由でいきなり変顔をするバカはアンタ1人ってことよ」

 

 あんまりなアイエフの説明にネプテューヌは異議を唱えたが、誰もフォローをしようとしない。

 何故なら、アイエフが言っていることは事実であり、反論の余地もないのだから。

 

「アレはREDちゃんがにらめっこだって言うから――って、それならREDちゃんのせいだよ!? わたし、何も悪くないよね!?」

 

「いやいや、その理屈はおかしいから!? アタシはネプテューヌがどうすればいいのか分からないって言ったから、頭の中で最初に思いついた選択肢を呟いただけだよ!?」

 

 どうにかして不名誉なレッテルを返上しようとするネプテューヌは矛先をREDへと変更した。

 言いがかりを付けられたREDは高速で手を振って否定するが、ネプテューヌによる非難は続く。

 

「そもそもにらめっこで勝負が選択肢で出てくるREDちゃんが悪い! ボタン連打でシナリオを進めていたら、選択肢に気付かないでバッドエンドになってたみたいな雰囲気になっちゃったじゃん! どうしてくれるの!」

 

「それはネプテューヌが悪いんじゃん! どうしてボタン連打なんてアナログな方法じゃなくて、スキップモードにしておかなかったの! それなら事前にクイックセーブも楽勝だったのに!」

 

「……ねぷてぬとREDはなにをいっているの?」

 

「ぴーしぇちゃんにはちょ~っと早かったかもね~」

 

 責任のなすりつけ合いは斜め上の方向へと逸れ、他の者からすればくだらない議論に代わってしまったかのように思える。

 純粋に疑問を抱くピーシェに、プルルートは。

 誤魔化すように頭を撫でられ、ピーシェは目を丸くして首を傾げる。

 

「まったく、このバカ2人はいつもいつも……」

 

「ふふふ、あなた達は随分と賑やかなのですね」

 

「――っ、ごめんなさい!? 今すぐこのバカ2人を止めますから!?」

 

「いえいえ、仲がよいことはとてもよろしいことではありませんか」

 

 場所もわきまえずにいつもの馬鹿騒ぎを繰り広げる2人をアイエフは止めようとしたが、グリーンハートの一言に背筋が凍るような思いを感じた。

 怒りは一瞬で焦りへと代わり、アイエフの顔は青く染まってしまう。

 しかし、グリーンハートはアイエフの危惧を否定し、ほほ笑ましいものを見る目をネプテューヌとREDへと向ける。

 

「確かにいきなり記憶喪失と言われましても、にわかに信じられないことは事実ですわ。ですが、今わたくしの目の前にいるネプテューヌがわたくしの知っているネプテューヌとは明らかに違うことも事実ですし、頭ごなしに否定するのも間違ってますわ」

 

「べー――グリーンハート様が知っているネプテューヌさんって、どんな人なの?」

 

「そうですわね。わたくしの知っているネプテューヌなら、今頃斬りかかって来てもおかしくありませんわ。こうして首が無事に繋がっていることが不思議なくらいですわ」

 

 ロムの質問に笑顔で答えるグリーンハートであったが、その内容はとても物騒であった。

 笑顔で首を擦っているところが余計に恐怖を煽ってくる。

 

「うわぁ、この世界のわたしってそんなにバイオレンスなの? さすがにそんな自分と間違えられたら困るんだけど」

 

「そこは安心してくださいな。さすがに辻斬りみたいな真似を日常的にしていたわけではありませんもの」

 

「そうだよね! それなら安心……」

 

「精々首筋に刀を添えてくるくらいですわ」

 

「――それも十分物騒だよ!?」

 

 嘘か本当か分からないグリーンハートの話に、ネプテューヌは翻弄されっぱなしであった。

 ネプテューヌはツッコミに疲れて肩で息を整えながら、上品に口元を手で隠しながら笑うグリーンハートを睨む。

 

「あらあら、少しからかいすぎたようですわね」

 

「少しどころじゃないよ……ハア、まさかグリーンハート様がこんな性格だとは思わなかったよ」

 

「ムッ、あなたの口から様付けで呼ばれるのは何だかすごく不快ですわね」

 

 ため息をつきながら漏らしたネプテューヌの一言に、グリーンハートは眉間にしわを寄せるほどの嫌悪感を抱いた。

 嫌味にしか聞こえなかったのである。

 だが、グリーンハートはすぐに両手を胸の前で合わせて顔をパアッと明るくさせる。

 

「そうですわ! 皆さんもネプテューヌと同じように、わたくしのことをグリーンハートではなく、ベールと呼んでくださいまし!」

 

「そ、そんな簡単に決めていいんですか? 僕達、リーンボックスの人間じゃありませんよ?」

 

「わたくしが許可しているのですから問題ありませんわ。それと、別にわたくしの名前なんて隠すような物ではありませんもの」

 

(……おいおい、女神がそんなにフランクでいいわけがないだろう)

 

 グリーンハート改め、ベールの発言にシンは頭痛を感じて額に手を当ててしまった。

 同じように少し離れた位置でアイエフも頭を抱えている。

 しかし、頭の中で考えていたことはシンと違っていた。

 

(まさか、本当にネプ子は女神様だったって言うの? グリーンハート様もそれを当たり前のように受け入れてるし……)

 

「うん? どうかしたの?」

 

「……何でもない」

 

 胡乱気な目で見つめいたことがネプテューヌにバレ、アイエフは誤魔化すように視線を逸らした。

 

 アイエフは今の今までネプテューヌを女神だと信じてはいなかったのである。

 女神化した姿を知っていても、普段の姿から信じることができなかったのだ。

 当たり前のようにそれを受け入れているコンパやRED達が素直すぎるだけで、アイエフの反応も間違っていないだろう。

 しかし、だからこそベールの発言に人一倍戸惑いを覚えていたのである。

 

「……グリーンハート様、1つお聞きしたいことがあるのですが」

 

「ですから、わたくしのことはベールと呼んでくださいな。もしくは、ベルベルと呼んでもらっても構いませんわよ?」

 

「いえ、そんな恐れ多いことはできません」

 

 期待するように瞳をキラキラさせるベールの言葉をきっぱりと断り、アイエフは硬い口調のまま尋ねる。

 

「グリーンハート様は本当に信じていらっしゃるのですか? 記憶喪失なんて突拍子もないことだけでなく、こことは違うゲイムギョウ界から来たなんてことを真顔で言うコイツ等の話を信じられるのですか?」

 

 アイエフの質問に、部屋の中の空気が凍りついた。

 まるで同意を得たいがための懇願にも似た問いかけにネプテューヌ達が絶句していると、ベールは悩むように瞳を閉じて頬にピンと立てた指を添える。

 

「うーん、信じる信じないかの2択で選べと言うのなら、判断材料が少なすぎて信じないを選ぶのが普通ですわね」

 

「っ、それじゃ!」

 

「――ですが、わたくしはネプテューヌのことを信じますわ」

 

 断言するベールを見て、アイエフは固まってしまう。

 立ち上がりかけた姿勢でベールを見つめたまま、アイエフは震える唇で必死に言葉を紡ぐ。

 

「どう、してですか?」

 

「アイエフさんの仰りたいことは当然理解していますわ。確かに記憶喪失とか別の世界と言われても、普通は信じられませんわよね」

 

「だったら……」

 

「ですが、わたくしの知っているネプテューヌならば、そんな見え透いた嘘をつくわけがありませんわ」

 

 真っ直ぐにアイエフを見つめていた視線をネプテューヌへと移し、ベールは言葉を続ける。

 

「わたくしの知っている彼女は良くも悪くも真っ直ぐな性格をしていましたわ。時折、電波を受信しているのではないかと疑ってしまうレベルのおかしな発言をする時もありましたけど、嘘をつけるような性格はしていませんでしたわ」

 

「それ、微妙にわたしのことをバカにしてない?」

 

「ですから、わたくしはネプテューヌを信じさせてもらいますわ。それに、別の世界とか凄く面白そうではありませんか?」

 

 自分への評価が気に入らないネプテューヌの意見を聞きながし、ベールはお茶目にアイエフへとウインクしてみせる。

 重たい空気を払拭しようとするベールなりの配慮だ。

 現に、コンパ達はベールの仕草に笑みを浮かべ始めていた。

 

「異世界――この場合、同じ人物がいると言うことを考えると平行世界でしょうか? アニメやゲームでは定番の設定ですわよね。いったいどんな世界なのでしょう?」

 

「うーん、こう言う時はゆっくんがいてくれたらよかったんだけど――って、ロムちゃんから聞けばいいじゃん!」

 

「まあ、あなたも並行世界からいらっしゃったのですか!」

 

「う、うん(一応)」

 

 ワクワクと期待をしているベールに、ロムは苦笑いだった。

 ノワールの時のように険悪な態度を取られることなく、元いた世界と同じで友好的に接してきてくれるベールに安堵もしていた。

 

「そう言うことなら、プルルートとピーシェは完全に異世界から来たんだよね。何たって、プルルートがプラネテューヌの女神だったんでしょ?」

 

「うん、そうだよ~」

 

「まあまあ、別世界のプルルートさんが別世界のプラネテューヌの女神だったんですの! 並行世界だけでなく別世界の住人にまで出会うことができるなんて!」

 

 話に加わろうとするREDの発言により、ベールの瞳はさらに輝きを増した。

 興奮しているようで頬もわずかに上気している。

 

「今日はなんて素敵な日なのでしょう。まさかリアルでこのような奇跡の出会いを果たせるなんて……ああ、夢が広がりますわ」

 

「うんうん、分かるわかる。違う世界があるとか、もうドキドキとワクワクが止まらないよね!」

 

「アタシもアタシも! 世界が広がり続けるだけ、素敵なヨメとの出会いも増えるしさ!」

 

「あたしもねぷちゃんやREDちゃん達、それにベールさんにも出会えて嬉しいよぉ。えへへ~」

 

「――ぷるるーん!!」

 

「――プルルートー!!」

 

「わっぷっ!?」

 

「ず、ズルイですわ!? わたくしも混ぜてくださいまし!?」

 

 はにかむプルルートの発言を聞いて、ネプテューヌとREDは嬉しさを堪え切れずに抱きついてしまう。

 対面に座っていたせいで出遅れたベールも慌てて立ち上がり、後ろから3人を抱きしめる。

 

「もー、ぷるるんは本当にいい子なんだから。わたしもぷるるんに会えて嬉しいよ」

 

「いきなりの不意打ちには驚いたけど、アタシもネプテューヌと同じ気持ちだよ。プルルートをヨメにできて、本当の本当に嬉しいんだから」

 

「わたくしもですわ。プルルート――いえ、ぷるるんに会えて嬉しいですわ」

 

「――えへへ~、よかったぁ~」

 

 破顔するプルルートを中心とした4人の様子をコンパ達はほほ笑ましく見守っていた。

 だが、ピーシェは我慢できずに行動に移してしまう。

 

「うー、なんだかわかんないけど、ぴいもまぜてー!」

 

「うごっ!? ――ちょっとピー子、そこでどうしてわたしに向かって来るかな!?」

 

「ねぷてぬがじゃまだから! こんどはぴいがぷるるとをぎゅっとするばん!」

 

 ネプテューヌはピーシェに体当たりをされて強引にプルルートから引き剥がされてしまう。

 その一瞬の間にプルルートへと抱きつくピーシェのほほ笑ましい様子に、ネプテューヌは文句も言わずに困ったように笑うだけだった。

 

「まー、わたしはもう充分にぷるるん成分を補給し終わったし、ここはピー子に譲ってあげるよ」

 

「ねぷねぷも何だかんだ言ってぴいちゃんに優しいですものね」

 

「うん、2人は仲良し(にこにこ)」

 

 強がりにも聞こえるネプテューヌの言い分に、コンパとロムの顔にも笑みがこぼれた。

 最初の気まずい空気などなかったかのように、ほんわかした雰囲気が部屋の中に満ちていく。

 

 ――しかし、その雰囲気に馴染めないアイエフは1人黙ったまま俯いていた。

 気まずそうに握った拳を膝の上に置いているアイエフをチラリと見やり、ベールは思い出したかのようにプルルートから離れて口を開く。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。あなた達が今日わざわざ面会の予約までした目的はいったい何なのですか?」

 

「それは……」

 

「あっ、その前に1つわたくしからネプテューヌにお願いしたいことがあったのですわ」

 

 自分から質問を投げかけておいて、ベールは答えようとしたシンの言葉を遮ってネプテューヌの方を向いた。

 いきなり名指しで呼ばれたネプテューヌは不思議そうに首を傾げてしまう。

 

「わたしに? いいよいいよー、わたしにできることならなんだってやってあげるよー」

 

「そんな簡単に安請け合いしても大丈夫なの? まだ何をするのかも分からないのに」

 

「あら、何もそう難しいことではありませんわよ。例え、記憶を失っていようとも並行世界からの別人であろうとも、ネプテューヌであるならば――いえ、ネプテューヌにしかできないことなのですから」

 

 軽い調子で返事をするネプテューヌに不安を感じるシンに、ベールは安心させるように補足する。

 すると、ベールは先ほどまで浮かべていた笑みを消し去り、真っ直ぐにネプテューヌを見つめ始める。

 

「ネプテューヌ――いえ、プラネテューヌの女神パープルハート」

 

「は、はい」

 

 あまりにも真剣なベールの様子に、ネプテューヌは戸惑ってしまう。

 しかし、オドオドしているネプテューヌに構わず、ベールは告げる。

 

「――守護女神戦争の名の元に、わたくしリーンボックスの女神グリーンハートを倒してくださいまし」




という訳で、今回は以上!
いやぁ、人数が多いと会話が多くなりますね。
動きの少ない会話メインだから仕方ない気もしますけど、ほとんど地の文がな気がします。
まあ、その分次回色々と動いてもらいましょう。
それでは、 次回 「檻の中にクマがいるわけがない」 をお楽しみに!
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