超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
このサブタイで分かった人もいらっしゃるでしょうが、伏線が出ていた“あの子”が登場しますよ。
後、前章で出番がなかった“あの子”も……
それでは、 檻の中にクマがいるわけがない はじまります


檻の中にクマがいるわけがない

「……え、あの、その、よく意味が分からないんだけど」

 

 ベールの衝撃発言から1番最初に正気を取り戻したのはネプテューヌであった。

 しかし、頼まれた内容を理解したのではなく、頭の中で処理しきれずに戸惑っている。

 助けを求めようともコンパ達は未だに固まったままであるため、孤立無援状態のネプテューヌにできることはベールに問い返すことだけだった。

 

「そのままの意味ですわ。あなたがわたくしを倒すことが、あなた達のお願いを聞く条件ですわ」

 

 曖昧に笑みを浮かべてその場を切り抜けようとするネプテューヌであったが、真面目な顔で言い切るベールを前にして再び固まってしまった。

 

「本来であれば、このようなことをあなたにお願いすることは筋違いであることも重々承知しています。ですが、今はあなただけが頼りなのです。どうかお願いできないでしょうか?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!? いきなりすぎて話が全然見えないよ!?」

 

「でしたら、結論だけ申し上げます。あなたがわたくしを倒す、それだけですわ」

 

「それは分かるよ!? 分かるけどもさ!?」

 

 口元に笑みすら浮かべられる余裕が出てきたベールとは対照的に、ネプテューヌは状況が飲み込めず慌てるばかりだ。

 雰囲気が若干緩んだことで、驚愕から復帰したシンは2人の会話に割りこもうとする。

 

「とりあえず、ネプテューヌさんは落ち着いて。それと、ベール様に確認したいことがあります」

 

「ええ、わたくしが答えられる範囲でお答えしますわ」

 

「では、まず先程守護女神戦争の名の元と言いましたよね? それがどんな意味を持つのかも当然理解されているのですよね?」

 

「……ええ、もちろんです」

 

 ネプテューヌを宥めつつ、シンはベールから事の真意を聞きだそうとする。

 確認するように尋ねるシンに、ベールは悲しそうに目を伏せながらも肯定する。

 

「だったら、どうして自分から敗者になるようなことを仰るのですか? それではベール様が……」

 

「っ、そうです! いくらねぷねぷがこの世界のねぷねぷじゃないとしても、ベールさんが負けたら……」

 

「――すみませんが、それにはお答えすることができません」

 

 追求するシンの言わんとしていることを理解し、コンパもベールへと疑問を投げかけた。

 だが、ベールはただ首を横に振って2人の問いに答えようとしない。

 

「確かに、わたくしがネプテューヌに負けたと言うことが広まれば、お2人の懸念通りのことが起こるでしょう。ですが、わたくしは……」

 

「――ですか」

 

「あ、あいちゃん? どうしたの?」

 

 ベールが言葉を続けようとした時、俯いていたアイエフがボソリと呟いた。

 明らかに様子のおかしいアイエフを心配してREDは声をかける。

 しかし、そんなREDの心配をよそに、アイエフは顔をあげると同時にキッとベールを睨みだす。

 

「そうやって、あなたは裏切るんですか!! あなたのことを信仰している人達を裏切って見捨てるんですか!!」

 

「っ、それは……」

 

「私、グリーンハート様だけはそんなことを絶対にしないと思っていました!! それなのに……それなのに!!」

 

 激情が込められたアイエフの叫びを聞いて、ベールは動揺して目を逸らしてしまう。

 まるで叱られて怯えているかのように縮こまっているベールに、アイエフはさらに怒りを募らせていく。

 

「お、落ち着いてよぉ~!? ほら、ど~ど~!?」

 

「うるさい!! アンタは黙ってて!!」

 

「いたっ!?」

 

 落ち着かせようとするプルルートの手を払いのけ、アイエフは明確な敵意をネプテューヌ達へも向けだした。

 どうしてアイエフがこんなにも態度を豹変させてしまったのか分からないネプテューヌ達は戸惑ってしまう。

 互いに顔を見合わせ、アイエフを宥めようと口を開く。

 

「あいちゃん、どうしちゃったの? ぷるるんはあいちゃんを心配しているんだよ? それなのにどうして?」

 

「そうです。いつものあいちゃんらしくないですよ? だから、落ち着いて……」

 

「――うるさいって言ってんのよ!!」

 

 激情の理由を尋ねようとするネプテューヌとコンパの声を遮り、アイエフは甲高い怒鳴り声を響かせた。

 

「何も知らないくせに勝手なことを言わないでよ!! 勝手に私を決めつけないでよ!! 私は……私は……っ!!」

 

 悔しそうに顔を歪めるアイエフの目から涙がこぼれ出す。

 泣き顔を見せないように俯くアイエフを前にして、ネプテューヌ達は戸惑い何も言えなくなってしまう。

 

(……あーあ、遂に爆発しちゃったか)

 

(まさか、彼女は……)

 

 ――そんな中、シンとベールだけはアイエフがどうして激情を表に出したのかを理解していた。

 シンは事前にアイエフのことを調査していたためであり、ベールは引き金となった自分の発言と先程の慟哭から推測したのである。

 だが、理解できた2人の心境は異なっている。

 感情を爆発させてしまっても仕方ないと思っていたシンと違い、ベールは痛ましいものを見る目でアイエフを見つめていた。

 

「悪いんだけど、条件は別のことにしてくれないかな? と言うよりも、そもそもわたしには全然状況が分からないし、ベールと戦うのも嫌だからさ」

 

「……そうですね。先程のことは忘れてください」

 

 アイエフの鼻をすする音だけが聞こえる中、ネプテューヌは意を決してベールへと返事を返した。

 それがアイエフを気遣う意味も持っていることは、言葉にしなくても伝わる。

 チラリと横目でアイエフを見るネプテューヌに、ベールは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「皆さんもごめんなさい。わたくしのせいで皆さんにも嫌な思いをさせてしまって」

 

「それは別にいいんだけど……」

 

「ただの気の迷いですわ。そんなに深く考えないでくださいまし」

 

 謝罪を口にするベールに、REDは気まずそうに頬を掻いてしまう。

 事情を聞こうとするも、ベールはこれ以上説明しないらしい。

 再び沈黙が部屋の中を支配するが、今度はすぐに破られる。

 

『グリーンハート様、イヴォワールです』

 

「あっ、はい、どうぞ」

 

「失礼しま――どうかなさったのですか?」

 

 扉を叩く軽い音と共に聞こえてきたイヴォワールの声は、どうしたらいいのか分からなかったネプテューヌ達にとって救いであっただろう。

 入室してきたイヴォワールは部屋の中に広がる微妙な空気に眉をひそめながらベールへと尋ねる。

 

「わたくしが悪ふざけをし過ぎたせいですわ。それよりも、頼んでおいたお茶はどうしたのですか?」

 

「申し訳ありませんが、今日のところは皆さんにお帰りしていただきたく思います」

 

「……何があったのですか?」

 

 自分の質問に答えず硬い表情で一方的に告げるイヴォワールの様子を見て、ベールは目を鋭く細めた。

 

「詳細はこの後会議を開きますのでそちらの方で――皆さんには本当に申し訳ありませんが、本日の面会はこれまでとさせていただきたく存じます」

 

「分かりました。それでは失礼します。行こう、皆」

 

「は、はいです」

 

 イヴォワールの有無を言わせぬ丁寧な口調での通達に、シンが最初に反応した。

 この場で起こった一部始終を目撃していながらも内心で傍観者に近い立場にいたシンだからこそ、戸惑うことなく受け入れられたのである。

 遅れてコンパがソファーから立ち上がり、未だに俯いているアイエフへと声をかける。

 

「あいちゃん、帰るですよ?」

 

「……分かってるわよ」

 

「あ、あいちゃん! そのさ……」

 

「――ごめんなさい、今は1人にさせて」

 

 呼び止めるネプテューヌの行為も虚しく、アイエフは1人でさっさと部屋を出て行ってしまう。

 イヴォワールはおろか、ベールにまで気を配る様子もない。

 スタスタと歩いて行ってしまったアイエフの後ろ姿を、ネプテューヌ達は見送ることしかできなかった。

 

「あいえふ、どうしたの? どうしてあんなにおこってたの?」

 

「分からないけど、アイエフさんは泣いていた。きっと何か理由があると思う」

 

 目の前で起こっていた事態の変化に口を挟めずにいたピーシェが不安を吐露すると、ロムは悲しそうな顔で答えた。

 不安を抱えているのはネプテューヌ達も同じである。

 ロムの言う通り、何か理由があるはずだとアイエフを心配していた。

 

(さて、これからが大変だね)

 

 ――ただ1人、心配そうな顔を作っているだけのシン以外は。

 

 

*     *     *

 

 

 私こと、デンゲキコはこれまで人様に後ろ指を指されるようなことを1度もした覚えはありません。

 小さい頃は近所でも真面目で有名でしたし、今だって誠実をモットーに社会貢献をしてきた自負があります。

 つまりですね、私がなにを言いたいのかと言うと……

 

「――私は無実です!? ノットギルティーなんですってば!?」

 

 両腕をガッチリと掴んでいる協会の職員さんに無実を訴えたいんですよ!?

 私がいったい何をしたって言うんですか!?

 案内してくれた女の子とはぐれたことが有罪なんですか!?

 それとも、ただ連行されている御波夢人さんを写真に収めたり、特集記事を書くためのメモを取ったりすることがそんなに罪深いことなんですか!?

 

「うるさいぞ!! 大人しく歩け!!」

 

「ひいっ、ごめんなさい!?」

 

 暴れる私に、職員さんは怒鳴った。

 善良な一般市民でしかない私にとって、協会の職員と言う国の重要機関に所属している人達に逆らうような精神は持ち合わせていないため、その怒鳴り声は恐怖しか感じられない。

 

 ……こ、このままだと本当に無実の罪を着せられてしまうじゃないですか!?

 今も晒し者みたいに歩かされているのだって耐えられないのに、その上前科付きなんてレッテルまで貼られてしまう!?

 そうなったら、当然会社もクビだろうし、せっかくなれた記者も続けられない!?

 きっと社会的バツ1として皆から陰で噂されて――って、そんなの嫌ですよ!?

 

「本当にその人は何も関係ないんですって! だから……」

 

「それを決めるのは私達ではない。貴様も大人しくしていろ」

 

「ぐっ!?」

 

 怯えている私に代わって御波さんが無実を訴えてくれましたが、職員さんは聞く耳を持ちませんでした。

 それでも食い下がろうとする御波さんを黙らせるため、職員さんは拘束している腕を捻り上げる。

 

「ごめん、妙なことに巻き込んじゃって」

 

「……いえいえ、気にしないでください」

 

 痛みで顔を歪めながらも申し訳なさそうに謝ってくる御波さんと私は顔を合わせられない。

 

 ……マズイですよ、これは緊急事態ですってば!?

 純粋に謝ってくる御波さんを記事にして『ハーレム男の末路? 痴情のもつれは逮捕へと』なんてことを書こうとした自分の邪まな考えが辛すぎる!?

 ああ、そんな顔で謝らないでください!?

 むしろ、謝りたいのは私の方なんですから!?

 

「ご苦労、そいつらが例の2人だな」

 

「ああ。協院長は何と仰っていたのだ?」

 

「2人はそのまま牢屋へと収監せよとのご指示だ。気をつけて行けよ」

 

「わ、分かった」

 

 結局、無実を証明できずに協会まで連行されてきた私達の処遇は牢屋行きのようです。

 もう完全に犯罪者待遇です。

 さようなら、昨日までの清き自分。

 こんにちわ、汚れちまった私。

 

 ……でも、おかしいですね。

 どうして私達を連行する職員さんの顔が強張っているのでしょうか?

 心なしか私達を憐れんでいるようにも見えますし。

 

「貴様らに1つだけ注意しておくことがある。決して大きな音を立てるんじゃないぞ」

 

「それってどう言う……」

 

「いいから黙って言うことを聞け。さもなければ――死ぬぞ」

 

 協会の廊下を歩いて行く途中、職員さんが神妙な顔つきで私達へと忠告してきました。

 どう言う意味なのか分からず御波さんが尋ね返しましたが、職員さんは答えてくれない。

 

 と言うより、死ぬってどう言う意味ですか!?

 まさか、牢屋の中で拷問とかされちゃうんですか!?

 い、いくら犯罪者にも人権ってものがあると思うんですけど!?

 私に至っては冤罪ですし!?

 拷問するなら、御波さんだけにしてくださいよ!?

 

「いいな? ここから先は不用意に音を立てるんじゃないぞ? 絶対だからな?」

 

 地下へと続く階段の前で、職員さんは念入りに私達へと忠告する。

 自分がこれから牢屋へと押し込められる立場でなければ、明らかに振りですねとボケられるのですが、今の私は緊張で生唾を飲み込むことしかできません。

 きっとこの先には身の毛もよだつような凄惨な現場を演出するように壁に血飛沫とか妙に抉られた痕とかが残っているのでしょう。

 そして、1度収監されたら2度と日の光も浴びることができず、私達はそのままってことに……

 

「あのぅ、すいません。その前にお花を摘んできても……」

 

「牢屋に専用のスペースがある。着くまで我慢しろ」

 

 シット! やっぱり、逃げられませんでしたか!

 と言うよりも、牢屋にスペースがあるって言ってもどうせポツンと壺が置いてあるだけでしょ!?

 そんな女として終わっているお花の摘み方なんてしたら、私の尊厳が失われてしまうじゃないですか!?

 

「……これだからデリカシーのない男の方って言うのは嫌なんですよ」

 

「今、何か言ったか?」

 

「いいえ、何も言ってないです、サー!?」

 

「おいこら!? だから、大きな声を出すな!?」

 

 小声で口に出していたのだろうか、職員さんが睨むように私を見てきました。

 当然、逆らえるはずのない私が正直に答えるわけはありません。

 むしろ、焦って大きな声を出してしまいます。

 すると、職員さんが慌てた様子で私の口を塞ぐ。

 

「いいか? もう1度だけ言っておくが、少しでも長く生きていたいなら絶対に大きな音を出すなよ。分かったな?」

 

 必死な顔で伝えてくる職員さんに私はこくこくと頷くことしかできない。

 

 ……まあ、口が塞がれてしゃべれないですし。

 それに長生きも――って、あれ? 少しでもって今言いませんでしたか?

 もしかして、私達が拷問の末に殺されることは確定なんですか!?

 

「着いたぞ……静かに入れよ」

 

 地下だから当たり前ですけど、私達が連れて来られた牢屋は暗くてじめじめしていました。

 ただ、予想よりも清潔に保たれているらしく、血飛沫とか妙な痕とかはありません。

 そして、職員さんが鉄格子の扉を開け、私達に入るように命令します。

 大人しく牢屋の中に入ると……

 

「グルルルル……」

 

 ……うわー、想像していた牢屋よりもすっごく綺麗じゃないですか。

 お手洗いもちゃんと牢屋の一画を改造して外から見えなくしてあります。

 ベッドはさすがにありませんが、布団が用意されていますし、床で寝る分にも充分広いスペースも確保してありますね。

 食事の問題とここが牢屋であることを忘れれば、快適とは言えないけどそこそこ暮らしていけるような気がしますよ。

 

「お、おい、しっかりしろ!? しっかりしろって!?」

 

 あははは、御波さんは何をそんなに慌てているのですか?

 私は正気も正気、元気にいつも通り通常運転ですよ。

 いやー、捕まった当初はどうなることかと思いましたが、すぐに誤解も解けるでしょうし、ここで気長に待たせてもらいましょうよ。

 ほら、私ってラステイションからリーンボックスまで強行軍で財布の中身が心許なかったですし、ホテル代が浮くと思えば牢屋も快適な広々空間にビフォーアフターですよね。

 

「ガウッ!」

 

「ひいいいいいいっ!? ごめんなさい、調子乗りましたあああああ!?」

 

 ――なんて、現実逃避している場合じゃありませんよ!?

 思わず考えていたことが読まれたんじゃないかと驚いて謝っちゃったじゃないですか!?

 どれだけ私は呆然としていたんですか!?

 って、そんなことはどうでもいいんですよ!?

 なんですか、いったい何なんですか!?

 リーンボックスの牢屋にどうして“アイツ”がいるのですか!?

 

「なんでクマあああああ!?」

 

 ええ、ええ、そうですよ!?

 今まで目の前で低い唸り声を上げていたのはクマだったんですよ!?

 リーンボックスの牢屋はいつから動物園に鞍替えしたのですか!?

 こんな地下室じゃ、お客さんは来ませんよー!?

 

「それじゃ、大人しくしてろよ」

 

「待って待って待って!? どうしてクマが牢屋の中にいるんですか!? 牢屋間違ってませんか!? 私、そんなにクマっぽいですか!?」

 

「……まあ、頑張れ」

 

「応援しないでくださいよおおおおお!?」

 

 足早に去っていく職員さんに、私は叫ばずにいられませんでした。

 私の細腕では鉄格子を破ることなんて不可能だと分かっていても、ガチャガチャと開けようとしてしまうのも仕方ありません。

 なにせ、後ろでは獰猛な肉食動物であるクマが待ち構えているのですから。

 

 牢屋に降りる前に言っていた【死ぬぞ】って、そう言うことだったんですね!?

 拷問器具とかよりも、もっと惨たらしい殺害方法で私達を亡き者にしようってことだったんですね!?

 ですが、一言言っておきますよ――私は食べても絶対美味しくありませんから!?

 クマの餌エンドなんて嫌過ぎる!?

 きっと骨までしゃぶられて、最後に残った粉をトイレに流されてしまう!?

 いやああああ、私はまだ土に還りたくないですって!?

 

「おやおや、落ち着きたまえ、そこのレディー。このクマは人を襲わないさ」

 

「そう言うこと。だから、あまり大きな声を出さないことをお薦めするよ」

 

 クマの存在感に気が動転していた私の耳に、聞き覚えのない声が聞こえてきました。

 声のしてきた方を向くと、そこには2人の男性がいます。

 2人とも髪をオールバックにしてつり目が特徴的なイケメンさんです。

 おそらく兄弟なんだと思います。

 

「まあ、何はともあれ、我らは君達を歓迎するよ。好きにくつろいでくれるといい」

 

「もっとも、牢屋の中でくつろげるかどうかは君達次第だけどね」

 

 余裕たっぷりに歓迎ムード全開で私達に声をかけてくる2人。

 だけど、私はその言葉をまったく信用できない。

 おそらく御波さんも同じ気持ちだろう。

 

「えっと、それならどうしてそんなに離れた所にいるんだ?」

 

 ――何故なら、2人はクマから距離を取るように壁際に縮こまっていたのです。

 しかも、何だか体が微かに震えているような気もします。

 

「ふっ、それは我ら兄弟が壁際の隅が好きなだけさ。それに、こうして壁際にいることこそが我らにとって試練なのだ」

 

「そうだとも。僕ら兄弟はもう2度とあんな“絶壁”に破れたりはしない。これは僕らが“絶壁”を越えるための特訓なんだ」

 

 やはり兄弟だったお2人ですが、その言葉に微塵も説得力がありません。

 分かるのは壁に対して何か恨みのようなものを抱いているようだと言うことだけ。

 壁がいったい何をしたって言うのでしょうか?

 

「ギャウッ!」

 

「ひぃっ――って、兄さん!? どうして僕を盾にするの!?」

 

「くっ、すまない弟よ。私は憎き“絶壁”を克服するためにも壁から片時も離れるわけにはいかんのだ……!」

 

「だからって、僕を押し出さないで!?」

 

 ……そりゃ、威嚇するように吠えるクマを前にしたら誰だって自己保身に走りますよね。

 まあ何はともあれ、ターゲットが私から逸れたみたいでなによりです。

 後は騒がず、慌てず、目を逸らすことなく牢屋で過ごすことが身の安全に繋がるでしょう。

 

「――大丈夫ですよ。その子、何もしなければ大人しいですから」

 

 兄弟の尊い犠牲に感謝していると、今度は後ろ――牢屋の外から女性の声がしてきた。

 振り向くと、向かい側にも私達の入っている牢屋と同じ造りの牢屋があり、鉄格子越しに女性が声をかけて来ていたのである。

 灰色の髪に水着にしか思えないトップスとショートパンツと言う大胆な露出をしている女性です。

 裸足だし、これから泳ぎに行きますよと言うファッションにしか思えない。

 

「今はちょっと運動不足で苛立っているみたいですけど、基本的に人は襲わないんで安心してくださいね」

 

「そ、そうなのか? えっと、君は?」

 

「あ、わたしは鉄拳って言いまして……」

 

「――ほう、今日は随分と来客が多いようだな」

 

 御波さんと灰色の髪の女性――鉄拳さんの話を遮ったのは、これまた妙な格好をした青い髪の女性でした。

 その人は如何にも魔女だと言わんばかりの黒いとんがり帽子を被って、白いコートとドレスチックな服装をしています。

 明らかにリーンボックスの牢屋がカオスです。

 まともな人が私しかいません。

 

「これも運命石の導きと言うわけか――なるほど、ならば私が動く時も近いと言うわけだな」

 

「……えっと、そちらは?」

 

「気にしないでください。さっきも同じことを言ってましたから」

 

 あっ、それは重症ですね。

 魔女のようなコスプレに加えて厨二病まで発症しているなんて。

 と言うより、鉄拳さんがあっさりと御波さんの疑問を流しているのを凄いと思うのは私だけでしょうか?

 

「ふっ、鉄拳は何も感じていないようだが、私には分かってしまったのだよ。今日だけで2度も牢屋の扉が開かれたと言うことは、つまり上で何かしらの問題が起こったと言うことだろう? 問題の大小までは分からないが、少なくとも何らかのアクションがあってしかるべきだ」

 

「ほう、意外と頭が回るのだな」

 

「ふっ、私を誰だと思っているのだ――私は次元すら越えることを可能にした狂気の魔術師、この程度の推測など容易いものだ」

 

 よく見れば、向こうの牢屋にはもう1人女性がいたみたいです。

 頭までローブをすっぽりと被っているせいで顔は見えませんが、ドヤ顔をしている狂気の魔術師さんに呆れているのは分かります。

 

 ……あれ? 何かおかしくありませんか、この配置。

 

「あのー、そちらは全員女性で、こちらは私以外男性ですよね? どうして私はこっちにいるのでしょうか?」

 

「……えっと、それは多分職員の人が間違えたんじゃないかなーって」

 

「――おい、コラー!! 早く私を野獣の檻から出せー!!」

 

 困ったように笑みを浮かべながら言葉を濁す鉄拳さんには悪いんですが、私にも真相が分かってしまいましたよ。

 大方、クマが怖くて逃げだしたんですよね? ――きっとそうですよね!

 そうじゃなかったら、私が男と間違われて牢屋に入れられたことになってしまいますもん!

 私にも女の意地がありますし、男と間違われただなんて絶対に認めませんよ!!

 

「……なんか、ごめんな」

 

 御波さんも察したなら、謝らないでくださいよ!?




という訳で、今回は以上!
次回はこの投獄メンバー中心になりますね。
デンゲキコを案内していた子の出番を期待した皆さんは少々お待ちを。
それでは、 次回 「同類のわけがない」 をお楽しみに!
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