超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
そろそろ本当にPS4が欲しくなってきました。
もう1カ月もパッケージを眺めているだけなんて……くっ。
それでは、 同類のわけがない はじまります
――それは月の綺麗な夜だった。
「いたぞ!! 逃がすな!!」
後ろでうるさく叫ぶ国家権力の犬どもを無視して、私達は走り続ける。
予め逃走ルートを決めておいたため、暗い中でも迷うことなく進むことができる。
だが、それでも追手を撒くには苦労してしまう。
「兄さん、このままだと……」
「慌てることはない。そろそろ――ふっ!」
隣を走る弟が心配そうに顔を曇らせていたが、私は逆に笑ってやった。
何も問題ないことを伝えようとした瞬間、私はようやく見えてきた追手を撒く手段に口の端を吊り上げる。
そして、“それ”をサッカーで言うリフティングの要領で蹴り上げ……
「喰らうがいい!!」
「わあああっ!? やめっ!?」
キャッチすると同時に振り返り、私は無粋な追手の連中を白い粉まみれにしてやった。
何のことはない、ただの目くらましだよ。
昼の内に消火器を逃走ルート上に設置し、それを瞬時に使えるよう安全ピンも抜いていただけ。
予想外の反撃にあったせいで、追手は全員真っ白に染まり混乱しきっている。
狭い裏路地を選んだこともあり、この分なら充分私達が逃げ切るまでの時間を稼げそうだ。
「ふっ、さらばだ!!」
「ま、待て――うわああああ!?」
まともに目も開けられない様子の相手が何かを言おうとしていたが、律儀に待つほど私も甘くない。
消火剤をぶちまけたせいで軽くなった消火器を投げつけると、追ってはドミノ倒しのように転んでくれた。
そんな間抜けな連中を鼻で笑い、私は先に逃げた弟と合流するために急いで走り出す。
「上手くいったようだね」
「ああ、今宵も我ら兄弟の勝利だ」
スピードを落としていたのだろう、弟とはすぐに合流できた。
隣まで追いついた私に、弟は嬉しそうに声をかけてくる。
その喜びを分かち合うため、私も頬を緩めて弟の言葉を肯定する。
――私は“兄”、まあコードネームのようなものだと思ってくれて構わない。
このような活動を始めてからはずっとそう名乗っている。
因みに、安直だが隣を走っている弟は“弟”と言う名で私と共に有名だ。
何で有名なのかと言うと、我ら兄弟はゲイムギョウ界を騒がせている犯罪者なのである。
少し洒落た呼び方をさせてもらえるのなら、怪盗と言った方が適切だろう。
そう、我ら兄弟は今宵も盗みを働いたからこそ、国家権力の犬どもに追われていたのだ。
「よし、ここまでくれば大丈夫だろう。盗んできた物はちゃんとあるな?」
「もちろんさ。しかし、本当に度し難いよ。こんな物を使うなんて……!」
誰にも追われていないことを確認し、私は弟へと尋ねた。
すると、弟は忌々しそうに盗んだ物を握り潰す。
「それは私とて同じ気持ちだ。しかし、だからこそ我らが正さねばならんのだ。この間違った世界を!」
「そうだったね。間違っているのは、世界の方なんだ!」
やはり、我ら兄弟はこの話題になると自分を押さえることができなくなってしまう。
あの忌まわしき日の事件から、変わらずに胸の中で熱く燃えている誓い。
この炎を消すことは例え女神であろうとも不可能だと断言できる。
「必ずこの間違った世界に復讐を果たし、ありのままのゲイムギョウ界を取り戻す。それこそが……」
「そう、それこそが我らの願い。だからこそ、我らに立ち止まっている暇などない」
「分かっているよ、兄さん。引き金を引いたのは世界でも、この復讐を始めたのは僕ら……いや、いつまでも復讐なんて陳腐な言葉じゃ語れないよ。そう、これはもうゲイムギョウ界全体を巻き込んだ戦争――僕らの求めた戦争なんだ!」
確信をつく弟の言葉に、私は笑みがこぼれてしまう。
あの時は泣き喚くだけだった弟が立派になったのだと感じ、目頭も熱くなってきた。
ふっ、弟に気付かされるようでは私も兄失格だな。
弟の言う通り、我らの行いは既に復讐の域を飛び越えている。
いずれはゲイムギョウ界全体を巻き込んだ戦争へと発展していくだろう。
だが、それを憂う必要はどこにもない。
何故なら、その状況こそが我らの望んだものなのだからな。
「ならば、ここに新たな火種を投じてやろうではないか。これがゲイムギョウ界に新たな歴史を刻み込む一手となるだろう」
「ああ、世界が僕らを黙認するのなら、無視できないようにしてやればいい。いや、認めさせるんだ!」
「そうだとも! 我ら兄弟の存在を認めない偽りのゲイムギョウ界を破壊し、真なる理想郷へと生まれ変わらせてやるのだ!」
誓いの炎を熱く燃え上がらせ、我ら兄弟は今宵も戦争の引き金を引く。
弟の握りしめていた物を受け取り、私はコートの内ポケットからライターを取り出す。
「消えるがいい!」
正直、触りたくもない物品なので早々にライターで火をつけて燃やした。
すぐに物品全体に火が回る様子を見て、私は湧き上がる気持ちを抑えることができなかった。
手から離れて足元で燃えている物品を踏みつけ、ぐりぐりと念入りにこの世から消し去る。
この瞬間だけが憎しみを忘れられ、とても清々しい気分を味わえる至高の時間だ。
「ふふ、兄さんも仕方のない人だな。ちゃんと僕の分も残しておいてくれないと」
「ふっ、そうだったな」
おっと、どうやら我を忘れていたらしい。
弟が声をかけてくれなければ、危うくこの至高の時間を独り占めするところだった。
同士である弟に対して、そのような真似をするわけにはいかない。
なにせ、我らは血の繋がりと言う絆よりも強い魂の共有をしているのだからな。
「ふぅ、これでまた1歩、僕らは世界を変えられたのかな?」
「当たり前さ。愚かしくも世界を偽る悪を滅したのだ。また1歩、我らはゲイムギョウ界を正しき姿へと変えることができたのだ。全ては……」
『――巨乳の導きのままに!!』
我ら兄弟は声を合わせて誓いを口にした。
――そう、全ては真なる巨乳に溢れるゲイムギョウ界を取り戻すための戦争なのだ。
貧乳が見栄のためと言うくだらない理由で世の中を惑わすのならば、我らが正しき姿へと変えるために忌々しいアイテム――胸パットをゲイムギョウ界から消し去ってみせよう。
今も足元に転がる炭のようにな。
自分を偽ることは悪である。
何故、貧乳はそれを理解できんのだ。
あの日感じた深い悲しみ――初めて出来た彼女の胸が偽物だった時に私が感じた絶望を広めて、貧乳はいったい何をしようとしているのだ!!
義姉になるはずだった女性の真実を知り、私と同等の絶望に襲われた弟は半年も引きこもってしまったのだぞ!!
絶望を振りまくことが貧乳の目的ならば、我らは立ち向かうために立ち上がらねばならん!!
貧乳がもたらす絶望を……偽りの平和を感受するゲイムギョウ界を変えなければならなかったのだ!!
その一貫が怪盗家業である。
偽りの富める者の手から悪しきアイテムである胸パットを盗み出し、この世から1つ残らず消し去っていく。
気の遠くなるような復讐の旅路だが、我らの胸に後悔はない。
あるのは輝かしき未来――ありのままの巨乳に溢れるゲイムギョウ界の姿が見えるからだ。
誰しもが偽ることなく胸をさらけ出して希望に満ちる世界を作るその日まで、我らの戦争は終わらない。
いや、終わらせてはいけないのだ。
「――待てい!!」
達成感に酔いしれていた我らの頭上から鋭い声が響いてきた。
ハッとして見上げると、そこには月を背に1人のシルエットがあった。
「くっ、追いつかれたと言うのか!?」
「兄さん、早く逃げないと……」
「――とう!!」
周りへの警戒を怠っていたことを苦々しく思いながら、弟の進言通りに急いで逃げようとした。
だが、声の主は我らの逃亡を許してくれない。
背中を向けた瞬間、なんと我らの前にジャンプして降り立ったのだ。
「あなた達ね、この街を泣かせた犯罪者は」
声の主は少女のようだった。
鮮やかな赤いマフラーを身に纏い、黒いライダースーツ姿の少女は未だに我らの行く手を阻むように背中を向けて語りかける。
しかし、我らもこの程度で臆するほど惰弱ではない。
「ふっ、それがどうしたと言うのだ? 我らは世界を泣かす元凶を駆逐したに過ぎない。言わば、我らの行動は大事の前の小事なのだよ」
「君達は僕らを犯罪者と罵るけど、真実は違うのさ。過ちを繰り返す世界こそが真の加害者なのさ」
我らの言葉に少女は何も返して来ない。
てっきり強く言い返してくるものだと思っていた分、我らは少女に対する警戒心を強めた。
目の前にいる少女は今まで相対してきた偽りの正義感に凝り固まった国家権力の犬と違うと悟ったのである。
「――確かに、世界は残酷だよ」
ぽつりと呟くように少女が我らの言葉を肯定した。
まさか肯定されると思っていなかった我らが大きく目を見開いていると、少女はゆっくりと振り返る。
「世界はいつだってこんなはずじゃなかったことで溢れている。アタシも理不尽だって思った経験は何度もあるし、あなた達の言い分も理解できるよ」
「だったら、どう――っ!?」
私はそれ以上言葉を紡ぐことができなかった。
おそらく弟も同じ気持ちだろう。
だが、そんな我らの様子に構わず、少女は言葉を続ける。
「でも、皆そんな当たり前を受け入れながら進んでいくんだよ。例え犯罪者と罵られようとも、あなた達のように開き直ったりしないで誰かのために一生懸命になれる人だっている。その人は誰かを恨んだりも――ましてや、世界を恨むことなんてしなかった。むしろ、そんな自分に優しくない世界を好きだって言い切ったんだ」
ゆっくりと近づいてくる少女に恐怖を感じてしまう。
逃げなければ、と思っているのに足が動いてくれない。
自分が立っているのも不思議なくらい足が震えてしまっている。
声を出そうにも喉の奥が干上がっているかのようにかすれた音しか出せない。
「昔のアタシだったら、多分こんなことを言わなかったと思う。でもさ、ただ悪い奴を倒して皆が幸せになるわけじゃないって気付いたら、アタシもアタシなりの答えって奴が見つかった気がするんだ――上手くいかないことばっかりで嫌いになりそうな世界でも、誰かが手を差し伸べればきっと1つは好きになれるところが見つかるって」
奥歯がガタガタと震えて何も言い返すことができない。
おそらく、今の私の顔は恐怖で引きつっているだろう。
だが、少女は止まってくれない。
「あはは、何を言っているんだろうね。自分で何を言っているのか分からなくなってきちゃった。とにかく、アタシが言いたいことは八つ当たりしててもいいことなんて1つもないってことかな。うん、だいたいそんな感じだね」
……なんだ、いったいこの少女は何なんだ!?
このような恐怖、今まで1度も感じたことはないぞ!?
そもそも少女のような存在が本当にゲイムギョウ界にいたと言うのか!?
「さーてっと、似合わないお説教はここまでにしておいて、ここからが本番だよ。あなた達のゲイムギョウ界に対する恨みや八つ当たりは認める――だけど、そのせいで流れる涙を、アタシは許さない!」
ありえないありえないありえない!?
目の前で拳を構える少女の存在は決して認められない!?
認めてしまったら最後、我らの胸の炎が消えてしまうかもしれない!?
「世界は変わっても、アタシの正義は変わらない。誰かの流した涙を拭うため、アタシは悪を正すヒーローになる!」
少女の宣言を前にして、私の頭の中は真っ白に染まった。
倒れてしまわないのが自分でも不思議なくらいだった。
そうなってしまった理由はとっくに理解している。
いや、理解させられてしまったと言う方が正しいのかもしれない。
突き付けられた現実が勝手に私の頭の中に入り込んでくる。
そこまでが限界だったらしく、私の体から自然と力が抜けていく。
薄れゆく意識の中で、私が最後に思うことは1つだけ。
――胸を張る少女の“絶壁”に対する恐怖だけだった。
* * *
「――その後、気がついたら我らは牢屋の中でクマと共に過ごすことになってしまったのだよ。全てはあの時出会った“絶壁”のせいで!」
熱く語る兄と隣でしきりに頷く弟……それを白い目で眺めている夢人達と言う構図がリーンボックスの牢屋で繰り広げられていた。
……事の発端は、デンゲキコが自分の扱いに納得はいかないまでも幾分か落ち着いた頃のことである。
持ち前の好奇心と言うべきか、記者としてのプロ根性とも言うべき行動力で鉄拳達に牢屋に入れられた経緯を尋ねたのだ。
冷静になったことで、いずれ冤罪で投獄された自分はすぐに釈放されるだろうと楽天的に考えたことも後押ししている。
しかし、あわよくばそのまま記事にしてしまおうと言うデンゲキコの目的は、最初の兄弟達の話でいきなり頓挫しそうな勢いだ。
「思い出しただけでも体が震えてくる! “絶壁”は私の常識を上回る存在だった! あんな“絶壁”を持つレディーがいるだなんて思いもしなかったんだ!」
「それは僕も同じだ! でも、認めたくなくても僕達には分かってしまったんだ! “絶壁”が本当に女性だと言うことを!」
「……“絶壁”はまさに絶望の権化だった。“絶壁”が世に広まれば、ゲイムギョウ界は闇に沈んでしまうだろう。だからこそ、我らは“絶壁”に負けぬ強靭な精神力を手にし、いつの日かゲイムギョウ界に希望と言う名の光を取り戻そうと改めて誓いを立てたのだ!」
「兄さん!!」
「弟よ!!」
ガシッと抱き合って盛り上がる兄弟と違い、夢人達のテンションは下降の一途を辿っている。
聞かなければよかったと、後悔すら抱いていた。
「……えーっと、じゃあ、次は鉄拳さんのお話をお聞かせしてもらえないでしょうか?」
「え、ええ!? 次はわたしですか!?」
兄弟達の話を全て聞かなかったことにして、デンゲキコは鉄拳へと話題を振った。
この空気の中で話をしろと言われて戸惑う鉄拳に、夢人達は同情の念を送る。
むしろ、自分じゃなくてよかったとすらMAGES.とコンベルサシオンは思っている。
「え、えっと、えーっと……わたしはいつものように山でクマと一緒に格闘技の練習をしていたのですが、急にブワーッと光が広がって、気がついたら街の真ん中にいて保護されたと言うか、何と言うか……」
「ほーほー、それはそれはミステリーですね。光ったと思ったら、急に場所が変わっていたと――まさか、それは宇宙人の仕業では!?」
「う、宇宙人ですか!?」
しどろもどろになりながら説明する鉄拳の話を聞き、デンゲキコは頭の中に電流が走ったような衝撃を受けた。
興奮した様子で突拍子もないことを言い出すデンゲキコに当てられ、鉄拳も驚いてしまう。
「そうです、絶対にそうにきまってますよ!! 鉄拳さんとこのクマさんは宇宙人にアブダクトされたんですよ!!」
「で、でも、それならどうしてわたし達は解放されたのですか!?」
「きっと鉄拳さんとクマさんの調査が終わったから、リーンボックスの街中に捨てられたのですよ!! 自分達の存在を表に出さないように、鉄拳さん達の記憶を弄った後で!!」
「そ、そんなあ!?」
強い口調で推論を述べるデンゲキコを前にして、半ば信じてしまっている鉄拳は泣きそうになっていた。
そんな時、横で話を聞いていたコンベルサシオンがため息をつく。
「ハア、馬鹿馬鹿しい。普通に考えて、そんなことあるわけないだろうに」
「そんなことがあるのですよ!! 私もこの目ではっきりと宇宙人を見たことがあるのです!!」
「……ただの見間違いじゃないのか?」
否定的な意見に必死な様子で噛みつくデンゲキコに、コンベルサシオンは呆れてしまう。
だが、デンゲキコは得意げに胸を張りながら口を開く。
「いえいえ、アレは確かに宇宙人が人をアブダクトした瞬間でした。カメラに収めることはできませんでしたが、この両の眼でしっかりと見たのです。あの夜、蝶のような翼を持った宇宙人を――つまり、宇宙人のゲイムギョウ界侵略計画は着実に進んでいるのですよ!!」
「……もういい。勝手にやってろ」
鉄拳と言う自分の考えを立証してくれる体験を聞いたデンゲキコは止まらない。
まさに水を得た魚のように、生き生きとした様子で宇宙人説を声高に宣言する。
……そんなデンゲキコについていけないとため息をつくコンベルサシオンを置き去りにして。
「さあさあ、鉄拳さん!! よーく思い出してくださいよ!! あなたが宇宙人に連れ去られ、何をされたのかを!!」
「そんなことを言われても、本当に気がついたら山から街にいたことしか分からないですし……」
「そんなことは絶対にあり得ません!! 宇宙人が何もしなかったわけがないでしょ!! もしかしたら、鉄拳さんの体に何かよからぬ改造を施しているのかも……」
「や、やめてくださいよ!? 本当に怖くなってきちゃったじゃないですか!?」
爛々とした目で鼻息を荒くするデンゲキコに対して、疑いをかけられている鉄拳は顔を青くしている。
鉄格子があるにもかかわらず、デンゲキコは向かい側の牢屋へと身を乗り出そうとしている。
そんな中、会話に参加していない夢人はデンゲキコ達の様子から目を逸らしてボーっと天井を眺め始める。
(……ネプギア、今頃どうしているんだろうな)
考えていることは、自分のせいで泣かせてしまったネプギアのことだった。
夢人は捕まってしまった自分のことよりも、あんな別れ方をしてしまったネプギアの方が心配だったのである。
「どうかしたのか? 随分と浮かない顔をしているではないか?」
「……え、あ、ちょっとな」
そんな夢人の様子に目敏く気付いたのは、同じくデンゲキコ達の会話に参加していなかったMAGES.である。
心配するMAGES.に、夢人は曖昧に笑って誤魔化そうとする。
「そうか。まあ、深くは聞かないが――うむ、確か御波夢人と言ったよな?」
「そうだけど……」
「なるほどなるほど。つまり、貴様があの噂の御波夢人と言うわけか」
MAGES.は夢人を気遣うように話題を変えた。
だが、その路線変更に夢人は嫌な予感を感じてしまう。
それを裏付けるように、MAGES.はにやにやとした笑みを浮かべながら口を開く。
「――確か、教会の中で全裸になった勇者だったかな」
「おい、ちょっと待て!?」
MAGES.の衝撃発言に、夢人は即座に反応した。
すると、MAGES.は意地悪そうに口の端を吊り上げる。
「おや、間違っていたかな? ならば、白昼堂々の女神様との奴隷プレイに興じていた勇者殿でしたか? それとも、ルウィーの街の中心でおっぱいを叫んだ勇者様でしたかな? もしや、似合わない女装でリーンボックスを練り歩いた勇者くんだったのかも……」
「それ以上、変なことを言わないでくれ!? お願いだから!?」
明らかにMAGES.が自分をからかっているのだと分かるが、夢人は必死に頼み込むことしかできない。
何故なら、MAGES.の語る勇者像に心当たりがあり過ぎるからだ。
なにせ、過去に自分が行ってきたことであり、元いたゲイムギョウ界から認知されている夢人の評価なのだから。
「ムッ、おっぱいと叫んだだと? ふむ、君は巨乳についてどう思うかね?」
「いきなり話に食いついてくるな!? ってか、そんなの答えられるわけないだろ!?」
「駄目だよ、それじゃ。君のありのままの感情を曝け出すんだ。それこそが、このゲイムギョウ界を希望に導く光になるのだからね」
「それ、本当に意味が分からないからな!?」
友情を深めていた兄弟も、さすがに胸の話題が出てくると興味がわいたようで夢人に絡み始めた。
しかし、兄弟の理屈を夢人はまったく理解できないために答えることができない。
「おい、貴様らもそこまでにしておけよ。今、コイツと話をしているのは私なのだからな」
「ふっ、確かにその通りだ。どうやら少し礼を欠いていたらしい。申し訳ない」
(……巨乳どうこう言っている時点で礼義なんてあったもんじゃないだろうに)
ムッとするMAGES.に、兄は素直に謝罪を述べた。
だが、夢人からしてみれば、そんな兄の態度は今更としか思えない。
「さて、邪魔が入ったが、貴様――いや、夢人と呼ばせてもらおうか」
「お、おう、それはいいけど……」
改まって様子でMAGES.から名前を呼ばれ、夢人は変に緊張してしまう。
すると、MAGES.はにやついた笑みを消し去り、真顔で夢人へと尋ねる。
「――夢人は胸の大きな女性をどう思う?」
「おい!?」
「あはははは、冗談さ」
身構えていた自分が馬鹿らしく思えてしまうような質問を投げかけられ、さすがに夢人も怒りがわいてきた。
楽しそうに笑うMAGES.の言葉を信用することができず、夢人は半目で睨んでしまう。
「ふふふ、どうやらからかい過ぎたようだな。いや、すまなかった。悪かったよ」
「……ハア、それはもういいよ。ところで、MAGES.はどうして俺のことを知っているんだ?」
「その答えは簡単だ。私も貴様と同じ――こことは違うゲイムギョウ界から来た異邦人なのだからな」
「っ、お前もなのか!?」
MAGES.の告白に、夢人は目を見開いて驚愕した。
同時に、同じゲイムギョウからやって来たのなら自分の悪評を知っているのも納得できる。
また、ネプギア達と言う前例がいる以上、MAGES.の話が嘘に思えないのだ。
「つまり、お2人も宇宙人にさらわれた経験があるのですね!!」
『――いや、それはない』
横で聞き耳を立てていたデンゲキコが会話に割り込んでくるが、夢人とMAGES.はすぐに口を揃えて否定する。
最初のターゲットにされていた鉄拳は宇宙人の見えない恐怖に怯えてまともに受け答えできない状態になっている。
すると、デンゲキコは眉間にしわを寄せて不満をこぼす。
「ええー、絶対にそうですよ。宇宙人にさらわれた記憶がないのは、色々と脳改造をされたからで、本当は……」
「そもそも夢人はともかくとして、私は自分の力でこちら側に来てしまったのだ。宇宙人云々は的外れにも程があるぞ」
「え、それってどう言うことなんだ?」
怪しげににやにやと笑うデンゲキコを相手にせず、MAGES.は宇宙人関与説を否定した。
夢人が尋ねると、MAGES.は嬉しそうに頬を緩める。
「ふふふ、聞きたいか? そんなに聞きたいのか?」
「いや、まあ聞きたいけど……」
「そうかそうか。ならば、特別に教えてやろうではないか――うん?」
むしろ、説明がしたそうにしているMAGES.の様子を見て、夢人は苦笑してしまう。
だが、MAGES.が話し始めようとした時、コツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえてくる。
「食事の時間になったのか? いや、それにはまだ早すぎるような……」
牢屋に近づいてくる人物の目的を訝しみ、MAGES.は表情を険しくした。
やがて、入口の方から2人組の職員がやって来て、夢人達がいる方の牢屋を開ける。
「御波夢人とそこの女、出ろ」
「あっ、ようやく分かってくれたのですね!! いやあ、私は気にしてませんから……」
「協院長が2人をお呼びだ。さっさと出て来い」
嬉しそうに笑うデンゲキコの言葉を遮り、職員が厳つい顔で言い放つ。
それは決して夢人達の後ろで眠っているクマが怖いからではないだろう。
夢人達に向ける視線は厳しく、犯罪者を見る目のままなのだから。
(……俺、これからどうなっちまうんだろう)
さすがに自分達も牢屋に入れられている手前、我関せずを貫いているコンベルサシオンを除いたMAGES.や鉄拳、兄弟は口を挟むことができない。
職員に言われるがままに牢屋から出た夢人とデンゲキコを連れ、職員達は協院長であるイヴォワールの待つ部屋へと向かう。
漠然とした不安に襲われていた夢人はこれから何が起こるのかを推測することもできず、ただ足を動かすことしかできなかった。
という訳で、今回はここまで!
書いてて思ったことは兄弟達のキャラが強すぎる気がする(白目)。
いずれトリックと共演させて……牢屋以上のカオスになるだけですね。
それでは、 次回 「クーデターを起こすわけがない」 をお楽しみに!