超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
ネプVⅡとコラボ中のハイスクールD×Dのゲームをしていたら遅くなってしまいました。
……ユニしか最終進化させられない無課金プレイの自分が悔しい。
それでは、 信じられるわけがない はじまります


信じられるわけがない

 私はリーンボックスで生まれたわけじゃない。

 

 戸籍の上ではリーンボックス出身となっているが、厳密に言えば違う。

 だからと言って、自分が生まれた国を知っているわけでもない。

 あくまで私はリーンボックスで生まれたわけじゃないことだけしか知らないのである。

 子どもの頃は両親とお兄様だけが私の世界の住人だった。

 名前も分からない国の静かな森の中で家族4人で幸せに暮らせるのだと信じて疑わなかった日々が遠い昔のように思える。

 便利な暮らしなんていらない。

 火なら起こせばいいし、水なら汲んでくればいい。

 電気やガスなんてなくても幸せに暮らしていける。

 だから、私はどうして森の中で生活しているのかを聞こうと思わなかった。

 いや、知ろうともしていなかった。

 例え両親が話してくれたとしても、私は変わらないだろうと思っていた。

 だって、大切な人が傍にいればどんなことでも乗り越えられるってお父様が読み聞かせてくれた絵本の言葉を信じていたから。

 

 ――でも、その事実を知ってしまった時にはもう私の世界は壊れてしまっていた。

 

 

*     *     *

 

 

「あれはワシが協院長に就任して間もない頃じゃった。ある日、プラネテューヌからとある学者志望の若者から協会の資料を見せて欲しいと連絡があったんじゃ」

 

 昔を懐かしんで話すイヴォワールの表情はどことなく寂しさを連想させるものだった。

 話しながらイヴォワールは夢人達に背中を向け、机の上に置かれている写真を手に取る。

 

「昔のリーンボックスは今よりも過敏に他国の人間に反応しておっての、若者の入国を拒否していたんじゃよ。だが、若者はそれでも諦めきれなかったようで、密入国までしてワシの前で土下座して頼み込んで来たのです」

 

「ず、随分とアグレッシブだったんですね」

 

「当時のワシからしてみれば、礼儀も何もなっていない若造としか思えませんでしたがな」

 

 若者の行動に苦笑いを浮かべるデンゲキコに、イヴォワールは軽い調子で答えた。

 その視線は未だに手元の写真に注がれているので、夢人達はイヴォワールがどんな顔をしているのか分からない。

 

「いきなりワシの前で密入国のことを告白し、必死に頼み込んできた時には本当に呆れてものも言えなかったわい。密入国までしてきたのだから、隠れて資料を盗んでおけばよかったのに、わざわざ自分から馬鹿正直に告白するなんてのぅ」

 

 しかし、イヴォワールの背中からは少なくとも話に出ている若者に対する嫌悪感は感じられない。

 そう夢人達が考えていると、イヴォワールは写真から窓の外へと視線を移す。

 

「真面目で融通が利かなかったんじゃろうな。言葉の節々に若者特有の青臭さがにじみ出ておった。確か、ゲイムギョウ界の真実を解き明かすために協力してくれと言っておったかのぅ? 大きな夢に情熱を傾け、どこまでも追いかけてみせると言う気概だけは見せておった」

 

 イヴォワールは夢人達へと振り返って話を続ける。

 

「だが、融通を利かせられなかったのは当時のワシも同じじゃった。どれだけ立派な夢を掲げたところで、若者はリーンボックスに密入国してきた犯罪者。しかも、若者はプラネテューヌの者。ワシは協院長としての責務を果たすため、即刻若者を強制送還しようとした――しかし、それに待ったをかけた者がおったのじゃ」

 

 そう言いながら、イヴォワールは写真を夢人達に見えるように差し出した。

 

「その者がワシの娘であり、ミモザの母親じゃった」

 

「この人が……」

 

 写真立ての中に映っている女性を見て、夢人は即座にミモザの顔が重なって見えた。

 女性は若草色の髪をポニーテールに結び、快活に白い歯を見せながら笑っている。

 起伏に乏しい体型をしているミモザと違い、女性らしい肉付きの良い体型をしているため見間違うことはなかった。

 

「娘は資料くらいけちけちせず見せてあげればいいと言ってきたのじゃが、協院長としてそれを聞き入れられるわけがなかった。娘は不満そうにしながらも、ワシの心情を察して若者をプラネテューヌにそのまま返すことを認めてくれた……と、その時は思っておったんじゃ」

 

「その時は? え、あの、それってどう言う意味なんですか?」

 

「……何のことはない。ただ娘がプラネテューヌに帰った若者に知りたがっていた内容を手紙で送っていたのじゃよ」

 

 疲れたように肩を落とすイヴォワールに尋ねたデンゲキコであったが、返って来た答えに目を丸くしてしまった。

 隣にいる夢人もまた、デンゲキコと同じく固まってしまっている。

 

「娘はワシが言うのも難ですが、落ち着きのない子でした。部屋の中で優雅にお茶をするよりも、外に出て剣を振るっているような娘じゃった」

 

「は、はい? 剣を振るってって……えっ?」

 

「親の贔屓目からしても、娘は才能があったのじゃろうな。街の男連中はおろか、荒事を担当する職員ですらも片手で捻っておったからのぅ」

 

「嘘……」

 

 イヴォワールの語るミモザの母親像が信じられず、夢人は唖然としてしまう。

 写真に映る女性からは確かに力強い印象を受ける。

 だが、少し山道を歩いただけで息切れをしてしまう程の体力しかないミモザとイヴォワールの語る武勇伝の女性が親子であることにどうにも違和感を感じてしまう。

 

「ほっほっほっ、信じられんのも無理はありますまい。娘に比べて、ミモザは運動がてんで駄目ですからな。そこは父親に似たようでワシは逆に安心したものじゃよ」

 

「あ、あの、話の流れから察するにミモザさんと言う方の父親って……」

 

「うむ、先程まで話に出ておったプラネテューヌの若者じゃよ」

 

 夢人の反応を見て、イヴォワールはおかしそうに笑った。

 親であるイヴォワール自身の方が娘とミモザの違いをよく知っているため、夢人の言いたいことや考えていることも理解できるのである。

 その時、蚊帳の外にいたデンゲキコはおずおずとイヴォワールへと質問を投げかける。

 隠すこともなく答えるイヴォワールはわずかに目を細めて優しげに口元を緩める。

 

「何でも最初は若者が密入国をしてまで知ろうとした資料に興味を引かれたらしくてのぅ。それがどう言う意味なのかを知るために、今度は娘の方から若者へと連絡をしたそうじゃ」

 

「それってかなり不味くないですか?」

 

「不味いもなにも、一般常識に照らし合わせてもNGでしょうな。当時のワシは遂に娘が勉学に目覚めてくれたのかと喜ぶあまり、若者へ手紙を出していることに気付くのが遅くなってしまったんです」

 

「あ、あははは……」

 

 頭痛を抑えるかのように手のひらを額に当てるイヴォワールを見て、夢人は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 それだけで娘にどれだけ苦労をかけさせられたのが分かってしまう。

 

「とにかく、娘と若者の文通を知ったワシは当然それをやめさせようとしました。ですが、娘はかなり反発しましてのぅ」

 

「まあ、話の流れから考えても一筋縄じゃいかなそうですしね」

 

「う、うむ。だから、ワシも根気強く説得を続けねばならんと決意したのです……が、ワシは大事なことを忘れてしまっていたのです」

 

 憐みの目を向けてくるデンゲキコに気まずさを感じながら、イヴォワールは話を続けようとした。

 だが、すぐにイヴォワールの顔に影が差す。

 それだけで夢人達はイヴォワールの苦労を察してしまう。

 

「えっと、凄く嫌な予感がするのですけど――と言うより、私にはもう次にどんな行動を起こすのか予想が付いちゃったりしちゃったりするのですが……」

 

「十中八九、お考えの通りだと思いますよ」

 

 デンゲキコの言葉がおかしいことを指摘する者はこの場にいなかった。

 夢人もミモザの母親であることを考え、母親である女性が何をしでかしそうなのかを予測できていた。

 嫌な沈黙が部屋の中を支配し、全員が居た堪れない気持ちになってしまう。

 それを破るようにイヴォワールは言い辛そうにしながらも口を開く。

 

「娘はそのあまりある行動力を発揮し、リーンボックスから飛び出して行ってしまったのです」

 

 

*     *     *

 

 

「まあ、駆け落ちってやつよね」

 

「そ、そうですね」

 

 頬づえをついて虚空を見上げるミモザに、コンパはどう反応していいのか困っていた。

 いや、言葉を出したコンパはまだマシな方かもしれない。

 何故なら、ミモザを見るネプテューヌ達の目は明らかに白けたものになりつつあったのだ。

 

「お母様は何度も何度も楽しそうに私とお兄様に話してくれたわ。自分とお父様は情熱的な出会いをして、一緒にゲイムギョウ界中を駆け巡ったって……でも、後になって両親が駆け落ちをした末に結ばれたって真実を知った私はどうなったと思う? 正直、あの母親馬鹿じゃないのとか普通に考えたわよ」

 

 愚痴をこぼすミモザは誰の目から見ても不貞腐れていた。

 奇しくも協会で同じ人物のことを語っているイヴォワールとはまるで態度が違う。

 

「まったく、お父様と結ばれるためなら、もっとやり用があったでしょうに。自分が協院長になって協会を支配するなり、無駄に強いその腕力にものを言わせて馬鹿な貴族連中を脅したりって……」

 

「ストップ、ストーップ!! さすがにそれ以上は発言が危なくなってるから落ち着いて!!」

 

「――っん、そうね。とりあえず、話を進めましょうか」

 

 このままでは延々と愚痴を聞かされると危惧したネプテューヌが慌てた様子でミモザの言葉を遮った。

 自分も熱が入り過ぎていたと自覚しているらしく、ミモザは素直にネプテューヌの言葉を受け入れる。

 だが、ネプテューヌ達は内心でミモザもその母親も大差がないように思っている。

 どちらも勝手にリーンボックスを飛び出したあたり、似たもの親子としか思えない。

 

「学者志望とは言え、お父様はまだ名も売れていなかったし、急に押しかけて来たお母様を養える余裕なんてなかったわ。そんな2人がすぐに結婚なんてできるわけなく、しばらく2人でゲイムギョウ界中を見て回ったらしいのよ」

 

「婚前旅行ってこと~? 何だかロマンティックだねぇ」

 

「……そんな甘い話じゃないわよ」

 

 憧れているようなニュアンスを含ませるプルルートの言葉を、ミモザはバッサリと両断した。

 その表情は話す前からげんなりしている。

 

「やれ、どこのダンジョンのモンスターが強かっただの、罠に引っ掛かって死にそうになっただの、どこぞの有名な盗賊団を潰したとか――そんな私の興味のないことしか話してくれなかったのよ、あの馬鹿母は!!」

 

 話しているうちに沸々と湧き上がって来た怒りを堪え切れず、ミモザは両手で机を思いっきり叩いた。

 

「何、何なの? お父様のゲイムギョウ界の真実を解き明かすって目的はいったいどこに行ったの? 実の子どもに笑いながらモンスターをどうやって倒したかとか話す意味が分からない。しかも、ギュって感じだとかバシュッとやったんだとか自分の感覚で話しだすものだから余計に理解不能よ。それに森の中で私とお兄様がフェンリルに遭遇した時、あの馬鹿母が何をしたか分かる? 私が瞬きをしているうちにフェンリルの首を両断したのよ? 子どもを連れて逃げるじゃなくて戦いを挑んだのよ。しかも、首が落ちると同時に前足と後ろ足も胴体から分離し始めて……ああ、あの時ほどモンスターに死体が残らないことを喜んだことはなかったわ。しかも、そんな惨劇の後なのにあの馬鹿母は何事もなかったかのように笑顔で家に帰ろうなんて言うし、それから……」

 

「わ、分かった!? 分かったから、1度落ち着こう!? ほら、深呼吸をして!? ひっひっふー!?」

 

「あの、それってラマーズ法ですよ」

 

「ちょっ、コンパ今はそれを言っちゃ駄目だって!?」

 

 フェンリルの解体現場を思い出したのであろう、ミモザは顔色が次第に青く染まっていく。

 それでも母親への愚痴が止まりそうにないのだから、よほどミモザは溜めこんでいたのだろう。

 その流れを断ち切るため、REDは敢えてボケると同時に場の空気を明るくしようとした。

 しかし、そこは看護学校に通っていたコンパが同席していたのである。

 真面目なコンパは困った顔で首を傾げながらREDのボケにまともな指摘をしてしまったのだ。

 流れ的にREDがわざとボケたことに気付いていたネプテューヌがコンパにツッコミを入れることで落とし所にしようとしたのだが、部屋の中の空気は既にグドグドで挽回は不可能だった。

 

(こ、これはかなりキツイ!? ね、ネプテューヌ、なんとかして!?)

 

(ねぷっ!? 無理無理!? さすがのわたしでもこの空気の中でボケられないって!? REDちゃんが自分でなんとかしなよ!?)

 

(それができないから困っているんだよ!?)

 

 因みに、ネプテューヌとREDは一切言葉を交わしていない。

 お互いにアイコンタクトだけで何となく意思疎通ができているのである。

 これも比較的に一緒にいる頻度が高いおかげだろう。

 

「え、えっと、ミモザさんのお父さんってどんな人だったの(教えて)?」

 

「お父様ですか?」

 

 そんなネプテューヌとREDに救世主が現れた。

 気まずい空気を払拭しようとロムがミモザに違う話題を振ってくれたのである。

 

「お父様は学者と言うこともあって、とても博識でしたわ。私が何を聞いてもちゃんと分かるように答えてくれて、いつも笑顔でニコニコしていたの。炊事洗濯掃除と、何でもできるお父様だったわ」

 

(……あれ? ミモリンってもしかしてファザコン?)

 

 母親のことを話す時とは打って変わって、楽しげに語るミモザにネプテューヌはとある疑念を抱いた。

 話す内容が酷過ぎた母親とのギャップがある影響なのかもしれないが、少なくともミモザが父親を嫌悪している様子はない。

 考えていることを口に出さないのは下手に詮索して怒鳴られないようにするための処置である。

 

「運動は駄目だけど、優しくて賢いだけでなく何でもできるお父様。一方で、頭の中身が空っぽで本能のままに行動する腕っ節だけの脳筋なお母様――正反対の2人だったけど、一緒に過ごすうちに愛が芽生えて生まれたのがお兄様と私。さすがに頭の中がお花畑だったお母様でも私達が生まれてからは少しは落ち着いたみたいで、家族4人で森の中に居を構えて静かに過ごしていたわ」

 

(あっ、これガチだ)

 

 ミモザが話す内容よりも、ネプテューヌは疑惑が確信に近づいたことの方が大事だった。

 しかし、それを口に出して話を中断させてしまえば、ミモザと真面目なアイエフから怒鳴られることは目に見えている。

 だから、ネプテューヌは心の内にとどめて静かに納得するだけにした。

 

「太陽が昇ると同時に馬鹿母の喧しい雄叫びで起床し、昼間はお兄様と一緒に森の中で遊ぶかお父様の膝の上で絵本を読んでもらったりしたわ。夜は電気なんてないから暗くなると同時に皆で横になって寝たわね。高確率で寝相が悪い馬鹿母の足が私のお腹に乗せられて寝苦しかったのを覚えているわ」

 

「そ、そうなんだ」

 

「テレビやパソコンはもちろん、友達1人すらいなかった森の中での生活。どうしてあの思慮深いお父様がそんな馬鹿母にピッタリの野生に帰るような生活を選んだのかは分からない。選択肢でいえば、お父様の実家であるプラネテューヌで生活することもできたはずなのにね」

 

「まあ、普通に考えればそうするのが普通だよね」

 

「でも、私はあの森で暮らした日々を辛いなんて1度も思わなかったわ。友達はいなくても家族が……学校に通わなくても教師よりも頼りになるお父様が傍にいてくれたから……私はあの日々が幸せだって胸を張って言えるわ」

 

 どこまでもミモザの語る母親の扱いが悪いことに、ネプテューヌは苦笑してしまう。

 口では悪く言っているが、ただ素直になれないだけだと何となく察しているからだ。

 ミモザが素直じゃないことは散々ブ男と言って馬鹿にしている夢人を心配した素振りを見せたことから分かりきったことである。

 ネプテューヌが合いの手を入れて同意すると、ミモザは口元を柔らかく綻ばせる。

 

「――だけど、そんな幸せな日々も一瞬で壊れちゃうものなのよ」

 

 しかし、すぐにミモザは緩んでいた頬を引き締めた。

 突然の変貌と発言を聞いて、ネプテューヌ達は背筋に冷たいものを感じる。

 

「あの日、私は無邪気に森の中で遊んでいたわ。そして、綺麗な花を見つけたからお父様達にも見せたくてはしゃいでいたのもよく覚えている。そうだ、お父様達にも教えてあげようって家まで呼びに戻ったわ……でもね、そこにはもう何もなかったのよ」

 

「ど、どう言う意味なんですか?」

 

「そのままの意味よ。戻ったら、家がなくなっていたのよ――木っ端みじんに壊れてね」

 

 淡々と語るミモザに耐えきれず、コンパは質問を投げかけた。

 すると、ミモザは口元に薄く笑みを浮かべて答える。

 しかし、その目は笑っておらず、むしろどす黒い感情が見え隠れしている。

 

「私も最初、何が起こったのか分からなかったわ。我が家があった場所は既に残骸しか残っていない。お父様達の姿も見えない。だから、私は大声でお父様達のことを呼んだわ。でも、私の呼び声に答えてくれたのはお父様達じゃなかった。それどころか人ですらなかったわ」

 

「まさか……」

 

「現れたのはとても大きなモンスター……ドラゴンだったわ」

 

 ネプテューヌ達は誰も口を挟めなかった。

 ミモザよりも早く答えに近いことを言おうとしたアイエフですら、硬く口を閉ざしてしまう。

 何故なら、“ドラゴン”と口にしたミモザの言葉に並々ならぬ憎しみを感じたからである。

 よく見れば、ミモザの体も小刻みに震えている。

 

「名前なんて分からないけど、片目に傷を負ったドラゴンだったわ。そいつは現れるなり、私のことを口から出した息で吹き飛ばしたわ――その後のことはよく覚えてないわ。木に叩きつけられた直後、誰かが私を抱きしめてくれたことまでは覚えている。でも、目を覚ました私はリーンボックスのこの屋敷で眠っていたのよ」

 

「誰かが助けてくれたってことだね」

 

「そうね。協院長から聞いた話だと、旅の男の人が私をリーンボックスまで連れて来てくれたって言っていたわ。その人もすぐにどこかに行ってしまったみたいで、私は会ったことがないんだけどね」

 

 険しい表情をしたシンがそう言うと、ミモザは自嘲気味に笑みを浮かべた。

 見ている方が痛々しく思えるほど、今のミモザは儚くて壊れてしまいそうに見える。

 

「それから私の暮らしは変わってしまった。ふかふかのベッドの上で目を覚ましたら、前髪が後退し始めて無駄に顎ひげを蓄えたジジイが私の祖父って名乗り出して、お父様達は死んでしまったって言うものだから本当に訳が分からなかったわ」

 

「ミモちゃん……ぐすっ」

 

「散々暴れたものだわ。お父様達に会わせろって……でも、協院長は私を抱きしめてごめんとしか答えてくれないし、泣いて泣いて喚き散らすことしかできなかったわ」

 

「そんなことが……あったなんて……ぐすっ」

 

 ミモザの境遇にコンパとロムは涙ぐんでいた。

 いや、2人だけではない。

 言葉にはしなくても、ネプテューヌ達の目も潤み始めている。

 

「もしかして、ミモザさんがイヴォワールさんのことを他人行儀で呼ぶのもそのご両親のことがあったからなの?」

 

 そんな空気の中、シンが当初の疑問であったことをミモザにぶつけた。

 すると、ミモザは……

 

「ハア? そんなことあるわけないじゃない」

 

 ――露骨に眉をひそめて言い放つ姿に、ネプテューヌ達は唖然としてしまった。

 先程まで広がっていたミモザへの同情するような空気は既に霧散し、全員目を丸くして驚いている。

 

「お母様達のことで協院長に非なんてどこにもないじゃないの。あなた、話をよく聞いてたの?」

 

「え、いや、聞いていたつもりだったんだけど……あれ?」

 

 珍しくシンは内心で混乱していた。

 外面はとぼけた様子で首を傾げているだけだが、頭の中は疑問符で溢れかえっている。

 

(どう言うことだ? 協力者の話でも、家族関係はほぼ壊滅的だって聞いていたのに……)

 

「別に私は協院長のことを恨んでなんていないわよ。むしろ、為政者としては尊敬しているわ。だから、私は安心してクーデターを起こせるのよ」

 

「うんん? ごめん、すごくよく分からない」

 

 反応が返ってこないシンに見切りをつけ、ミモザはイヴォワールに対する思いを語った。

 だが、その言葉の意味が難解すぎるためにネプテューヌは開き直って尋ねることしかできない。

 

「まず、前提として今回のクーデターの目的はリーンボックスの現状――他国と関わりを持たず、引きこもりの状態を打破するためのものよ」

 

「ひ、引きこもりって……」

 

「亀のように自分の甲羅に閉じこもるのも、ニートが働かずに部屋の中でパソコンを弄っているのも同じことよ。とにかく、ブ男が逮捕されたってことが引き金になったのは違いないけど、元々起こるべくして起こるクーデターだったのよ」

 

 身も蓋もない例えに頬を引きつらせるREDを無視して、ミモザは話を続ける。

 

「普通に今の協会が現体制を変更すれば、旧貴族派――まあ、金にものを言わせて我がままばかり口にする連中の邪魔が入るのよ」

 

「どうしてなんですか?」

 

「簡単に言えば、今でも横領とか裏工作やらで甘い汁を啜っているからよ。しかも、協会の成り立ち上、そう言う後ろ暗い貴族を排斥することも不可能だし……」

 

「え、そいつらって悪い奴らなんでしょ? だったら、懲らしめてやればいいじゃん」

 

 ミモザの説明に納得できないのは質問をしたコンパとRED以外の皆も一緒だった。

 すると、ミモザは疲れたようにため息をつく。

 

「そんな簡単な話じゃないのよ。元々協会は貴族院って言う旧貴族の人間だけが職員として選ばれる評議会による決定が強い力を持っていたのよ。評議会で決定したことが協会の本意であるとも言われていたわ」

 

「つまり、実質その評議会ってところがリーンボックスを支配していたってことね」

 

「そう言うこと。まあ、評議会もグリーンハート様と協院長の力で今はもうないんだけどね。でも、評議会に属していた旧貴族派の協会への影響力は今でも馬鹿にできないほど大きいわけよ」

 

 この時点で話に付いていけない者もいたが、ミモザは説明を止めようとしない。

 自分なりに解釈して受け止めるアイエフのような者が1人でもいればいいと思っているからだ。

 

「彼らも今までリーンボックスを守ってきた名家。いれば邪魔するだけだけど、いなくなっても困ってしまうような複雑な連中なのよ。だから、協院長は私の境遇を利用して貴族の権威を完全に失墜させる案を考えたわ――それが私を旗頭にしたクーデター。言わば、新体制派ってわけね」

 

 ミモザの言葉を聞いて、理解の追いついていたアイエフ達ですら思考を止めてしまった。

 何故なら、ミモザの発言が正しければ今までの認識が前提から覆されてしまうからである。

 

「筋書きはこうよ――旧時代の愚かしい仕来たりによって親を失くした悲劇の少女が今でも暴虐を尽くす貴族を討ち、リーンボックスを生まれ変わらせる。これにより、リーンボックスは完全に貴族と言う特権階級を撤廃し、平等であり他国とも自由に友好を結べる国へと皆で変えていくだろう、ってね」

 

「……アンタ、それ本気で言ってるの?」

 

「こんなことを冗談で言えるわけないでしょ。それに、本当のことを言えば、あなた達も無暗に動くようなこともないでしょうしね」

 

 震えた声でアイエフが尋ねれば、ミモザは平然と返した。

 しかも、ミモザの言う通り、アイエフは自分達が動けなくなってしまったことを理解してしまう。

 

「本当はもっと準備期間を用意する予定だったんだけど、ブ男と言うイレギュラーが入って時期が前倒しになっただけなのよ――まあ、理解が追いついていないあなた達にも分かりやすく言うなら、このクーデターの発起人は協院長であり、討たれるのも協院長って言う自作自演の道化芝居なのよ」

 

 完全に動きを止めてしまっているネプテューヌやREDやらに目配せをし、ミモザは問いかける。

 

「さあ、教えて下さらない? どこの世界に国を守るために娘を捨て、国をよりよくするために孫を利用する男を家族だなんて思える人間がいると思うかしら? ――少なくとも、私は無理よ」

 

 最後にそう小さく呟いたミモザの声は泣き声にも似ていた。




という訳で、今回はここまで!
よし、これでクーデターの説明に一区切りがついたので、次回は予定通り彼女に焦点が当てられそうです。
後は課金という誘惑に負けそうな心でゲームよりも執筆を続けないと……気がついたら、平気で重課金してそうで怖い。
それでは、 次回 「帰る場所があるわけがない」 をお楽しみに!
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