超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回本編中に顔文字を使ったのですが、ちゃんと表示されているか不安です。
でも、彼女に顔文字は不可欠ですからね。
それでは、 帰る場所があるわけがない はじまります


帰る場所があるわけがない

 ……正直な話、私は夢人が捕まったとかクーデターが起こるだとかに興味はない。

 

「さあ、もういいでしょ? 説明は済んだし、2日間大人しく屋敷の中で過ごしていなさいよ」

 

「ま、待って!? まだ夢人お兄ちゃんのことが……」

 

「だから、ブ男は今頃国外に追い出されているわよ」

 

 やれやれと言った感じで立ち上がろうとしたミモザを、ロムが慌てて呼び止めた。

 でも、ミモザは既に退出する気であり、椅子から完全に立ち上がって嫌そうな顔で答える。

 

「今現在、ブ男にかけられている嫌疑は他国からグリーンハート様を害する目的で渡って来た犯罪者ってことになっているわ。このまま用意していたシナリオ通りクーデターが成功したら、確実にブ男は犯罪者として処理されてしまうになるのよ」

 

「ちょっ、ゆっくんってそんな危ない状況だったの!?」

 

「冤罪である証拠もないんじゃ仕方ないでしょ。だから、協院長は既に処分してしまったと言う体にして、ブ男の罪を失くそうとしているのよ」

 

「えっと~、ゆっちゃんがこのままリーンボックスにいると危ないから~、ポイッとお外に避難させるってことでいいのかなぁ?」

 

「そう言うことよ。まあ、ブ男本人はしばらくリーンボックスに立ち入ることはできなくなるけどね」

 

 表現はアレだが、プルルートのまとめ方には私も納得できる。

 犯罪者として疑われている夢人がこのままリーンボックスに残っていても、新体制派が冤罪である証拠を手に入れなければずっと牢屋の中で生活することになる。

 でも、既に処分されてしまっているとしたらどうだろう?

 いくらシナリオがあるとはいえ、クーデターが終わった後は新体制が完全に馴染むまでゴタゴタが続くだろう。

 そんな中、過去の処分した1犯罪者のことなど気にする余裕なんてないはずだ。

 仮に調べられたとしても、貴族の横暴を証明する手札の1枚としても利用できる。

 つまり、クーデターの発起人である協院長側としたら、イレギュラーである夢人を国外に追い出すだけで、より新体制派の正当性を証明できるわけだ。

 

「もう気になることはないわね? 私も準備があるんだから、あなた達は大人しくしていなさいよ。いいわね?」

 

「……1つ、いいかしら?」

 

「あいちゃん?」

 

 不満そうな表情をしているネプ子達に苛立っているのだろう、ミモザの語気は荒い。

 でも、まだミモザには聞かなければいけないことがある。

 私がスッと手を挙げると、コンパが不安そうな目を向けてくる。

 多分、私の様子がいつもと違うことに気付いたのかもしれない。

 協会でも感情のままに叫んで泣いてしまったし、心配をしてくれているんだと思う。

 だけど、これだけはミモザに聞いておかなければ私の気が済まない。

 

「アンタは本当にそれでいいと思っているの?」

 

 ネプ子達が驚いた目で私を見ているのが分かる。

 自分でも柄じゃないことを聞いている自覚はあるし、ただのクーデターだったらミモザの言う通り大人しくしているつもりだった。

 でも、この答えを聞くまでは納得できない。

 

「随分と大雑把な質問ね。もう少し具体的に言ってくれないかしら?」

 

「私はアンタが自分の家族のことを切り捨てて得られる結果に満足できるのかって聞いてるのよ」

 

「……何だ、そんなことか」

 

 つまらなそうに眉をハの字にするミモザに、私の目尻が吊り上がった。

 しかし、私が睨んでいるにも関わらず、ミモザは気にする様子も見せずに口を開く。

 

「指導者が国を動かす時、自己の感傷や思いつきで行動するべからず。常に大局を見失うことなく、国を良き方向へと導く姿勢を貫け――切り捨てられる協院長が私に叩きこんだ考え方の1つよ。例え祖父と言う続柄だとしても、この身は既に新体制派の代表。非情な孫と罵られようが、リーンボックスの未来のために平気で切り捨ててやるわ」

 

「それ、協院長がアンタの母親を見捨てたことと同じことをしているだけって気付いてないの?」

 

「過程はともかく、切り捨てると言う結果が同じことは分かっているわ。でもね、それの何が悪いの? まさか切り捨てなくてもいい方法がある、なんて頭の中がお花畑になっているような方法があると思っているの?」

 

「アンタ……っ!」

 

 ミモザの考えは正しいし理解もできる。

 いつものニュートラルな私だったなら、納得して大人しく静観することを選んでいただろう。

 

 ……でも、今の私は駄目だ。

 胸の奥から沸々と湧き上がってくる熱を抑えられそうにない。

 今だってミモザがわざと煽っていると分かっているのに、どうしようもなく怒りが表に出てしまう。

 

「ベタな話だけど、9を救うためには1を切り捨てなくちゃいけないわ。そのまま10を救えばいいなんて言う現実を見ない馬鹿もいるかもしれないけど、そんなの出来っこないわよ」

 

「そうね、私もそれについては同意してあげるわ。10を救うなんて言う馬鹿はただの夢想家よ。でも、最初から切り捨てることを前提にしているのは指導者として本当に相応しいって言えるのかしら? そんなトップのいる国で安心できると思っているの?」

 

「民衆にとって良い政治とは自分の生活を豊かにしてくれることよ。飛び火してきそうな火の粉があったら、大人しく権力に恭順する姿勢を示すのが人間の本質よ――それに、あなたは勘違いをしているんじゃないの?」

 

 先程まで浮かべていた人のことを馬鹿にするような笑みを消し去り、ミモザは真っ直ぐに私を見つめてくる。

 

「権力って言うのは振るわなきゃ意味のないものなのよ。内外問わず行使することによって、そう言う力があることを知らしめる必要があるわ」

 

「だけど、そうやって無暗に振るった結果がアンタの言う旧貴族派なのよね? そいつらと今のアンタは何も変わらないわ」

 

「当たり前じゃないの。私も旧貴族派も根元の部分は同じよ。色々と理由をつけて権力を振るい続けることでしか自分の居場所も守れない卑怯者――だからこそ、見苦しく生き恥を晒し続けるのなら、例え自分が汚名を被ったとしても切り捨てることが本当の貴族としてのあり方だと私は思うわ」

 

 ミモザと私の問答は平行線を辿っている。

 力強い意志を感じさせる眼差しで見つめられていると、まるで自分の方が間違っているのではないかと思ってしまう。

 いや、事実として私がここまでミモザに食い下がっていることが問題に違いない。

 そんな風に私が弱気になっていると、ミモザは大袈裟にため息をつく。

 

「ハア、まさかあなたがここまで聞きわけがない人だとは思わなかったわ。正直、そこの馬鹿筆頭2人を縛って部屋に転がしておけば済む話だと思っていたのに」

 

「……えっと、もしかしてそれってわたし達のことなのかな?」

 

「……馬鹿筆頭って、さすがに酷いと思うんだけど」

 

「黙ってなさい。ブ男を含めてお馬鹿3人衆のくせに生意気よ。ねえ、アイエフ?」

 

 ネプ子とREDちゃんが文句を言うが、ミモザはまったくに気にした様子も見せない。

 真っ直ぐに私を見つめたまま問いかけてくる。

 

「あなたがそこまで熱くなっている理由。それって、もしかして自分が『切り捨てられた』側の人間だったからかしら?」

 

「っ!?」

 

 ――心臓が止まるかと思った。

 呼吸すら忘れて私は大きく目を見開かせてしまう。

 

「その反応だと図星のようね。悪いんだけど、あなたのことは調べさせてもらっていたわ」

 

「えっ……あっ……なっ……」

 

 勝手に人のことを調べたミモザに文句を言いたいのに、口が思うように動いてくれない。

 目の前がグラグラと揺れているように見える。

 それなのに、ミモザだけははっきりと認識できるのが凄く気持ち悪い。

 

「あなたの気持ちが分かるなんて安っぽい同情をするつもりはないわ。あなたが今、どんな気持ちで冒険者をしているのかもブ男達と一緒にいるのかも私にはどうでもいいもの――ただし、これだけは言っておくわ」

 

「あ……っ!?」

 

 気が付けば、椅子に座っていることも忘れてミモザから距離を取ろうとしていた。

 重心が後ろに傾いたことで、私は椅子ごと後ろに倒れてしまう。

 そんな風に無様な姿を晒しても、ミモザの目は私を逃がそうとしなかった。

 

「『切り捨てる』側の……いえ、切り捨てるしかなくなった女神様の責任も考えないで一方的に喚くだけなら、今すぐこの国から出ていきなさい!! 勝手に自分の境遇と協院長を重ね合わせるな!! それは私達への侮辱よ!! 不愉快だわ!!」

 

「――っ」

 

「あいちゃん!?」

 

「どこに行くんですか!?」

 

 ミモザの本気の怒りをぶつけられた私の行動は早かった。

 まるで最初からそうすることを決めていたかのように動けた。

 

 ――今すぐここから逃げ出したい。

 頭の中でそれだけしか考えられず、私はミモザから逃げるために部屋を飛び出したのである。

 後ろからネプ子とコンパ、それにREDちゃん達の声も聞こえたような気がする。

 でも、今の私に呼び止める声に応じる余裕なんてない。

 

 部屋を飛び出した私はそのまま屋敷の外へと出てしまっていた。

 少しでもミモザから遠くへと逃げるために……

 

「なんで……どうして……っ!」

 

 街の中を走りながら、今更になって出てくる自分の声が酷く私の心を抉ってくる。

 まるで媚を売っているかのように情けない声色を自分が口にしているのかと思うと、今すぐにこの世から消えてしまいたくなる。

 

 ……嫌、もう全部どうでもいい。

 この国のことも、ラステイションでのことも、ネプ子や夢人達のことなんかも関係ない。

 あの事を知っているミモザがいるアイツらとはもう一緒にいられない。

 このまま全部忘れて私は……

 

「――っ、くっ!?」

 

 周りに気を配る余裕がなかった私は足をもつれさせて転んでしまう。

 倒れた拍子に擦れた頬が熱くて痛い。

 ガヤガヤと周りの人達が倒れたままの私を見ているのが分かる。

 でも、私は立ち上がる気力さえ湧いてこなかった。

 

 ……なんで私がこんな惨めな思いをしなくちゃいけないんだろう。

 私がいったい何をしたって言うの?

 私は何も悪いことなんてしてなかったのに。

 

「はい」

 

「え――あっ」

 

 差し出された手と声に反応して顔を上げると、そこには先程振り切った金髪の少女がいた。

 どうしてここに、なんて疑問に感じていると、少女はふわりと柔らかく笑みを浮かべる。

 

「お節介ですけど、やっぱり放っておけませんでした」

 

「やっ……わ、わた……」

 

 泣いていた私のことを心配してくれた少女の優しさを裏切ったのに、今更手を繋げるわけがない。

 でも、払い除けることもできずに私はただただ怯えることしかできなかった。

 

 ――すると、少女は自分から膝をついて私の頭を抱きしめてきた。

 

「大丈夫ですよ。泣きたい時は思いっきり泣いてもいいんです。ちゃんと受け止めますから」

 

「あ、ああ、ああああ……っ!」

 

「辛くても無理して我慢していたら、いつか本当に壊れちゃいますから。大丈夫、周りには見えないようにちゃんと抱きしめておきます。だから……」

 

 耳元で囁く少女の声が優しくて、目頭が熱くなってくる。

 それでも素直に泣けなくて必死で口から漏れだす声を抑えようとした。

 

「――今は、泣いていいんです」

 

「っ、うわああああああああああああ!?」

 

 少女の言葉を聞いて、私はまるでスイッチが入ったように大声で泣き始めた。

 周りに見物人がいることなど気にならない。

 泣くことを許してくれた少女の優しさと温もりに抱かれ、私は子どものように泣き喚くことしかできなかったのである。

 

 

*     *     *

 

 

「――あなたは本当にそれでいいと思っているんですか!!」

 

「正しさなど関係ないのですよ。これはワシなりのケジメなんじゃ」

 

 ……こちらデンゲキコ、隣にいる御波さんと協院長が修羅場です。

 じゃなかった、メチャクチャ険悪なムードです。

 

「ケジメ? それなら、なんでミモザを1人にしようとしているんですか!! 家族なんでしょ!! だったら……」

 

「それはできんのですよ。あの子にとって、ワシは母親を見捨てた憎いジジイでしかないのです。それに今もワシはリーンボックスのためとは言え、ミモザに全ての責任を押し付けようとしているのです。こんなジジイのことなど、あの子も既に家族と思っていないでしょう」

 

「そんなの言い訳じゃないですか!! 直接聞かなきゃ……ミモザがどう思っているかなんて分からないじゃないですか!!」

 

 おーおー、御波さんも熱いですね。

 いや、鬼畜肉欲獣みたいな感じの性格だと思っていましたが、これはもしかして天然ハーレム系だったのかもしれませんね。

 熱い口車に乗せられた女性が何人いることやら。

 まあ、今は関係ありませんけどね。

 さて、厄介事がごめんな私は黙って事の成り行きを見守っておきますか。

 

「いえ、あの子にはいつも言い聞かせてきました。指導者たる者、感傷や思いつきで行動することなく、常に大局を見て国を良き方へと導けとな。ですから、今のワシはあの子にとって国の未来を遮る巨悪なのです。慈悲もなく切り捨てるべき存在なのですよ」

 

「だからって、簡単に割り切れることじゃないでしょ!! 例え今あなたが言った通りでも、ミモザにとってあなたは最後に残された家族なんだ!! あなただって、ミモザを1人残して平気なわけじゃないんでしょ!! だから、俺に……いや、俺達がミモザを支えられる仲間になれるようにリーンボックスのことやクーデターのことも話してくれた!! 違うんですか!!」

 

 御波さんが私のことも巻き込む発言をしたことに、思わずギョッとしてしまった。

 だが、ここで下手に口を開けば、本当に後戻りできなくなってしまう。

 

 お、おおお落ち着け、私!?

 平常心、そう平常心になるんだ!?

 私はこの場で名前だけの存在になって灰色の答えを示すだけの背景に溶け込むのです!?

 熱くなっている御波さんに同調することなく、激流に身を任せて【あれ、そんな人いたっけ?】みたいな感じの記憶から消えてしまうような空気にジョブチェンジです!?

 下積み時代の記事にするターゲットを尾行した日々を思い出すのです!?

 あのあんパンと牛乳しか奢ってくれなかった先輩の憎い顔を思い出すんだ!?

 

「……やはり、あなたに話してよかった。ワシは素直にそう思います。あなたのような人が傍にいてくれれば、きっとあの子はワシと違って道を踏み外さないで済む」

 

「誤魔化さないでください!! 俺は今、あなたの本当の気持ちを知りたいんだ!! 正直に答えてください!!」

 

 穏やかにほほ笑む協院長に、御波さんはさらに語気を荒げて噛みつく。

 御波さんから見れば、協院長の態度はどう見ても諦めているようにしか見えませんからね。

 実際、私にもそう見えます。

 

「そうですな。本音を言わせてもらえるのなら、ワシも好きで孫から憎まれたいとは思っておりません。それに、あの子は娘の忘れ形見なのですよ? できることならば、この身が朽ち果てるまであの子の成長を見ていたかった。いつかワシの元から巣立ち、グリーンハート様と共にリーンボックスを良い国へと変えていく姿を見てみたかったです」

 

「だったら……」

 

「ですが、それを見届ける資格はワシにないのです。それに、ワシにはまだやらねばならないことが残っています」

 

 憂い顔で正直な気持ちを吐露する協院長に、御波さんが顔を若干明るくさせた。

 しかし、そんな御波さんの希望を打ち消すように、協院長は重々しく語り始める。

 

「クーデターを無事成功させるために、旧貴族派の連中の動きを完全に止めておかねばなりません。横やりが入れば、母親に似て感情を表に出しやすいあの子はきっと冷静でいられなくなります。そこは父親の素直な一面も似たのでしょうが、それでは駄目なのです。これはミモザにとっても壁を乗り越える試練なのですよ」

 

「……なんですか、それ。ミモザに家族を切り捨てても冷静でいられる人間になれって言うんですか、あなたは!!」

 

「ええ。例え家族や知り合いがいなくなろうとも、冷静さを失わずに国を導く指導者になってもらいたいと願っております」

 

「っ、ふざけるな!! お前はミモザに人を切り捨てても平気でいろって言うのか!! 家族や知り合いを失っても涙1つ流すなって言いたいのか!! 娘の忘れ形見だって……血の繋がった家族にそんなことを願っているのかよ!!」

 

 遂に我慢の限界を迎えたらしい御波さんが協院長に近づき、思いっきりその胸ぐらを掴み上げて睨み始めてしまいました。

 敬語もかなぐり捨てて、協院長に激しい怒りをぶつけている。

 ――因みに私はと言うと、後ろでどうすることもできずにアワアワしています。

 

 無理無理、アレに割って入れるわけないでしょ!?

 だって、今の御波さんすっごく怖いんですもの!?

 なんでだか分からないですけど、ものすっごく怒っているんですってば!?

 

「子を持つ親なら、怒って当然でしたな。話に聞いていた通り、御波殿は良き父親でおられるようだ」

 

「どうしてそんなことを知っているのかとか、誰から聞いたのかとはどうでもいい。今は俺のことよりミモザのことだ」

 

「そうでしたな。しかし、御波殿には申し訳ございませんが、ずるい言い方をさせてもらいます」

 

 胸ぐらを掴まれて至近距離から怒りをぶつけられていると言うのに、協院長は慌てることも苦しんでいる素振りも見せない。

 

 ……っと言うよりも、御波さんってお子さんがいたんですか?

 子どもがいるのに女性を囲って生活しているなんて、最低じゃないですか。

 まさに女性の敵ですね。

 

「――【大事なのは、過去じゃなくて未来なんだ】」

 

「っ!?」

 

 協院長が呟いた途端、御波さんはバッと手を離してしまった。

 その表情は驚きで固まってしまっている。

 

「こんなやり方しかできないワシを恨んでくれて構いません。ですが、ワシはかつてあなたが言ったこの言葉の通りに行動するだけなんじゃ」

 

 御波さんに対して申し訳なさそうにしながらも、協院長は言葉を止めようとしない。

 

「ワシや旧貴族派のような過去の遺物は未来に羽ばたくミモザのような若者達の足を縛りつけるだけじゃ。後ろを振り返っても何も生まれやしない。ましてや、過去を思うだけでは何もできないのです」

 

「――っ、それは……」

 

「リーンボックスの……ひいてはゲイムギョウ界の未来を願うからこそ、ワシは喜んで踏み台となって消えましょう。ミモザと言う新しい希望を輝かせるためだけでなく、今日よりも良い明日を迎えられるように」

 

 ……朗報、私が完全に蚊帳の外にいる件について。

 いやまあ、協院長の話に理解が追いついていないだけなんですけどね。

 でも、御波さんには効果てき面だったみたいです。

 悔しそうに拳を握りしめて俯いていますもん。

 

「……本当に申し訳ないとは思いますが、1つ尋ねさせてもらいましょう。御波殿は娘を失くした時、最初何を思われましたか?」

 

「っ、それは……」

 

「娘の死を無駄にしないために、孫が羽ばたく道を守り抜く――それが家族としてワシのできる最初で最後の役割なんじゃよ。なに、ただでは死にませんぞ。このイヴォワール、旧貴族派を全員道ずれにして表舞台から消えてみせましょうぞ、ほっほっほっほっ」

 

 わざとらしくにこやかに笑う協院長の姿が痛々しく見えます。

 歯軋りが聞こえてくる俯いたままの御波さんほどではありませんが、私も胸が酷く痛い。

 ですが、この状況で私にできることは皆無です。

 捕まった事実をなかったことにしてプラネテューヌに帰してもらえるのは嬉しいですが、どうにもモヤモヤしたものを感じてしまいます。

 

「さて、デンゲキコ殿も申し訳なかったのぅ。こちらの不手際により、一時とは言え不自由な思いをさせてしまって……」

 

「っ、い、いえいえいえいえいえいえ!? と、とととととんでもないですよ!? アレは私が怪しい行動を取ったのが悪いんですから!?」

 

 いきなり話しかけられて、私は思わず激しく挙動不審な態度を取ってしまう。

 正直、最後まで話を振られずに空気でいたかった。

 

「ううむ、そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、何かワシにできることがあれば――っと、そう言えば、デンゲキコ殿はプラネテューヌの記者でありましたな?」

 

「は、はい、その通りですけど」

 

「でしたら、今回のクーデターのことを記事にしてはいただけないでしょうか?」

 

 急な協院長の申し出に、私は目を丸くしてしまう。

 

 いや、私としては渡りに船ですけどね。

 だって不謹慎ですけど、クーデターなんて大事件を記事にできたら確実に社内における私の評価が上がりますよ。

 ライバルであるファミ通さんの鼻も明かせますし、万々歳のさよなら逆転ビクトリーですけども、今までの話を聞いていた身としては凄く記事にし辛いんですけど。

 

「書く内容はデンゲキコ殿にお任せします。要は、リーンボックスが新体制になったことを外へアピールできればいいのですよ」

 

「は、はあ。でも、さすがにさっきまで聞いていた話をそのまま書くわけにはいきませんよね」

 

「そこの見極めはデンゲキコ殿の裁量にお任せするしかありませんな。どうかよろしくお願い申します」

 

 す、すっごく重たい役割が回って来たー!?

 やめてください、小市民な私にプレッシャーをかけないでくださいよ!?

 記事の内容が決まって嬉しいって言うのに、素直に喜べないじゃないですか!?

 

「思った以上に話が長引いてしまいましたな。さて、早くお2人にはリーンボックスの外へと出てもらわねば……」

 

「ま、待ってください!? 俺はまだ……」

 

「いえ、これ以上は時間の無駄でしょう。お互いに意見を変えない限り、平行線を辿ったままです」

 

「でも、俺は……」

 

「――その気持ちだけで充分です。どうか、ミモザのことをよろしくお願いします」

 

 食い下がろうとする御波さんに対して、協院長は首を横に振って答えた。

 頭を下げて孫のことを頼む協院長を前にして、御波さんも何も言い返すことができないようで悔しそうに顔を歪めてしまう。

 

「では、お2人を案内する者を呼んで来ましょう。少しの間、そこのソファーに座っていてください。おそらく、今の時間ならグリーンハート様と一緒にゲームをしていると思うのですが……」

 

 そう言いながら部屋を出ていった協院長には悪いのですが、どう考えてもくつろげる雰囲気ではありません。

 今のどんよりしている御波さんと2人っきりにしないで欲しかったんですけど!?

 協院長、できるだけ早く帰って来てくださいよ!?

 

「……俺……ギアも……」

 

 あーもーダメです!?

 ぼそぼそと何言ってんだか分からないことを言っている男性と2人っきりなんて私無理です!?

 今すぐカムバーック、協院長!?

 

「待たせたのぅ。この者がお2人を安全に国外へと連れて行ってくれますので、どうか安心してもらいたい」

 

 天に祈りが通じたらしく、ガチャリと扉が開いて協院長が帰ってきました。

 

 これも私の日頃の行いがよいおかげですね!

 いやあ、真面目に生きてきてよかったよかった!

 

「(´・ω・`)bらんらんに任せろー」

 

 ……へっ? 案内人ってまさかの“らんらん”ですか?




という訳で、今回は以上!
いよいよ次回はアイエフにスポットライトを当てますよ。
前章からの謎の行動とかも明らかにしますのでお楽しみに。
……あ、らんらんも忘れないでくださいね。
それでは、 次回 「独りぼっちのわけがない」 をお楽しみに!
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