超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
結局、1週間かかってしまいました。
それでは、 俺が縛られているわけがない はじまります


俺が縛られているわけがない

 暮れなずむ夕日を眺めながら、夢人は1人でボーっと公園にいた。

 

「……何、してんだろうな」

 

 それが自分に向けられた言葉なのか、それともここにいない誰かに向けられた言葉なのかは分からない。

 しかし、どちらにしても夢人の声に力はなかった。

 

 ――協会でベールからの協力を得られないと分かった夢人達はらんらんに連れられて再び無事に外へと出ることができた。

 だが、夢人は帰り道の途中で1人になりたいと言い、公園へと立ち寄ったのである。

 

「こんな所にいたんだ」

 

「……ナナハ?」

 

 気だるげに声がした方へと夢人が顔を向けると、そこには心配そうな顔をしているナナハがいた。

 ナナハは真っ直ぐに夢人へと近づくと、困ったように笑みを浮かべる。

 

「1人で勝手にいなくなるから心配したよ」

 

「……ごめん。ちょっと1人になりたかったんだ」

 

「そうなんだ」

 

 顔を覗き込もうとしてくるナナハから、夢人は気まずそうに視線を逸らす。

 だが、ナナハは気にした様子を見せない。

 それどころか、自分から会話を終わらせて黙ってしまう。

 

「夕日、綺麗だね」

 

「……ああ」

 

「上手く言葉にできないけど、世界が違っても変わらない物って結構あるんだね」

 

「……そう、かもな」

 

 夢人が見ていた夕日を眺め、ナナハはポツリと感想をこぼした。

 同意を求めていたわけではないが、隣にいるナナハに夢人は居た堪れなさを感じて返事をしてしまう。

 

「ねえ、ちょっと私の話に付き合ってくれないかな?」

 

 ナナハが話しかけるが、夢人からの返事はない。

 すると、ナナハは夢人からの答えを聞かず、勝手に話し始める。

 

 

*     *     *

 

 

 ――私がこっちのゲイムギョウ界に来たのは、だいたい1年ぐらい前。

 アカリが作ってくれた“穴”の先で最初に出会ったのは、モンスターに襲われていたミモザだった。

 

『だ、だだだだ誰よ、あなた!? 今、どこからどうやって現れたのよ!?』

 

 あの時、突然現れた私を指さしてミモザは顔を青くさせて驚いていた。

 腰が抜けていたのか、尻餅をついたまま動けないミモザを助けるために私は慌てて『変身』してモンスターを倒した。

 

『え、えっと、大丈夫?』

 

『大丈夫なわけないでしょ!? なんなの!? なんなのよ、あなたのその姿は!? なんであなたがグリーンハート様とそっくりなのよ!?』

 

『それについては後で説明するから落ち着いてくれると嬉しいんだけど……』

 

『だったら、今すぐ話しなさいよ!?』

 

 矢継ぎ早に質問を投げかけてくるミモザに、私はどう答えていいのか迷ってしまった。

 正直、『変身』したのは軽率な行動だったと思う。

 誤魔化すこともできないまま、私はミモザが一通り疑問を吐きだして落ち付いた頃合いを見計らって事情を説明する。

 

『別世界? グリーンハート様の妹? ――そんなこと、信じられるわけないじゃないのよ!!』

 

『嘘なんてついてないよ。信じられないのも無理はないけど、全部本当の話なんだ』

 

 当然、いきなり突飛な話をされたミモザは頑なに私のことを信じようとしなかった。

 しかし、何度も話すうちに呆れたのか、根負けしたのか分からないけどミモザは口を開く。

 

『……仕方ないから、一応納得しておいてあげる。だから、今からあなたの世界についてのことを全部私に説明しなさい。それで判断してあげるわ』

 

 ――これが私とミモザのファーストコンタクトだった。

 鼻を鳴らして不機嫌そうに歩いていくミモザの後を追い、私は彼女の屋敷にまで案内された。

 

 そこでとりあえず、私はミモザに犯罪組織との戦いのことを話してあげた。

 ベール姉さんがギョウカイ墓場に囚われた時から夢人達と出会って過ごした日々の話。

 嬉しいことや悲しいこと、辛いことや恥ずかしかったことも話した。

 そのすべてをミモザは熱心に聞き入っていた。

 気が付けば、イヴォワールさんも一緒に私の話を聞いていたのは驚きだったけど。

 

『ねえ、ナナハ。あなたと私が初めて会った日のことを覚えているかしら?』

 

 ある日、ミモザは突然そう話を切り出した。

 不思議に思って首を傾げる私に、ミモザは苦笑しながら言葉を続ける。

 

『あの日ね、私はリーンボックスを出ようと思っていたのよ』

 

『つまり、家出?』

 

『人聞きの悪い言い方をするんじゃないわよ!? 見聞を広めるための旅に出ようとしていただけよ!?』

 

 顔を真っ赤にして私の言葉を否定するミモザであったが、残念ながらそこに説得力はなかった。

 実際、初めてミモザを連れて屋敷にやってきた時にイヴォワールさんから勝手に外に出ようとしていたことを起こられているのを目撃しているからである。

 

『私にはね、どうしても叶えたい夢があるのよ。昔グリーンハート様がこぼしていたことだけど、いつの日か国同士の垣根を越えてゲイムギョウ界全体を1つにしたい。もちろん、リーンボックスが他国を支配するって意味じゃないわよ。あなたの話にも出てきた変態勇者……じゃなかった、御波夢人とか言う男と同じことをしたいのよ』

 

『夢人と同じ?』

 

 正直、この時は本気でミモザがなにを言っているのか分からなかった。

 いや、ミモザの夢については分かったのだけど、どうしてそこで夢人を引き合いに出すのかが分からない。

 

『そう、結果的に考えてあなたの世界は御波夢人が勇者であったからこそ、あなた達女神候補生達も協力し合えるようになったんでしょ? つまり、事実上4国の協力体制を整えた立役者だったことになるわよね?』

 

『まあ、確かにそうだね』

 

『だったら、次期リーンボックス協院長の私に同じことができないわけがないわ! いえ、むしろもっとよい結果を出してみせるわ!』

 

『あ、あはは……』

 

 意気込むミモザを見て、私はちょっと苦笑いしてしまった。

 すると、ミモザは不満そうに目尻を吊り上げて私を睨んでくる。

 

『何よ、何か言いたいことでもあるわけ?』

 

『ミモザはちょっと夢人を勘違いしているよ。夢人はミモザが考えているような立派な勇者なんかじゃなかったよ』

 

『……そりゃ、奇行ばっかり繰り返す男が立派なわけないじゃない』

 

 夢人に関する認識を訂正しようとしたが、ミモザは呆れたようにため息をついて私の言葉を勘違いしてしまう。

 だから、私は苦笑しながら説明を続ける。

 

『そうじゃなくて、夢人は別に4国を仲良くさせようなんて考えてたわけじゃないってことだよ。ただ、目の前で困っていた私達がいたから手を差し伸べてくれただけ』

 

『……何よ、それ。そんな衝動任せで上手くいったなんて、御波夢人って男はよっぽど運がよかったのね』

 

『運、か……むしろ、悪い方だと思うけどね』

 

 自分の意思と関係なく選ばれた勇者という立場は夢人にって不幸だったと思う。

 それ以外でも広まり続けた本人のマイナスイメージを考えれば、幸運だと言えることは少ないような気がする。

 でも、私にはそう尋ねた時に夢人がどう答えるのかが簡単に予想できる。

 

『でも、きっと夢人は……』

 

『どうかしたの?』

 

『――ううん、何でもないよ』

 

 最後まで呟くことなく、私は首を横に振ってミモザを誤魔化した。

 多分、ミモザも実際に夢人と会えば分かることだと思うから。

 

 ……その2日後、まさかミモザがまた家出を企ててラステイションへと向かい、夢人達と出会うなんて思わなかったけどね。

 

 

*     *     *

 

 

「――でも、本当に驚いたよ。ミモザ、リーンボックスに帰って来た日にすっごい顔で夢人のことを話すんだもん。それも全部愚痴でさ――あのブ男は! って、何度も何度も口にしていたんだよ」

 

 既に日が沈み切った公園。

 相変わらず夢人はひと言もしゃべらないが、ナナハの話は続いていた。

 

「イヴォワールさんとも大喧嘩しちゃってたし、本当に大変だったんだからね。まあ、2人ともそれでも久しぶりに会えて嬉しそうにしていたんだけどさ」

 

 楽しそうに頬を緩ませながら話すナナハとは対照的に、夢人の表情は曇ったままである。

 すると、ナナハは意を決して夢人へと尋ねる。

 

「――ネプギアと何かあった?」

 

「っ!?」

 

「そう、ネプギアと何かあったんだ」

 

 ナナハからの問いかけに、夢人は露骨な反応を示した。

 ビクッと体を震わせた夢人を見て、ナナハは答えを聞くまでもなく確信する。

 

「ミモザから少しだけ話は聞いてるけど、記憶喪失なんだっけ? それと関係があるの?」

 

「……違う」

 

「そうなんだ。じゃあ、もしかしてネプギアの気持ちが信じられない? 私から言うのはおかしいけど、ネプギアは本当に夢人のことが……」

 

「――そうでもないんだ」

 

 ナナハは夢人の変調の理由が知りたかった。

 だから、心当たりを1つずつ挙げて尋ねていくが、夢人は首を振って否定する。

 

「俺はさ、何もできない自分の不甲斐なさが許せないだけなんだ」

 

 そう言うと、夢人は暗くなった空を見上げて目を細める。

 

「こっちのゲイムギョウ界に来てから、何ひとつ上手くいかないことばかりだ――魔法は使えないし、『再誕』の力も使えない。せっかく“再現”出来たブレイブソードすら、俺は上手く扱うことができなかった。今もミモザとイヴォワールさんの衝突を止めたいと思っているのに、どうしたらいいのか分からないんだ」

 

 無力感に苛まれながら、夢人はナナハに弱音を吐いた。

 1度流れだした言葉は止まることなく続けられていく。

 

「クーデターをどうにかしたい――でも、俺にはいい方法が思いつかない。人間が女神に追いつけることをこっちのノワールに証明したい――だけど、そのための力を俺は持っていない。ネプギアのことも……守りたいし、約束を2度と破りたくない、けど……」

 

 ネプギアのことについて話そうとした途端、夢人は声を詰まらせて俯いてしまう。

 悔しそうに奥歯を噛みしめるが、夢人の吐露は続く。

 

「……できなかった。俺は嘘をつき続けるのが嫌だって理由でネプギアを傷つけた。今のネプギアが本気で俺のことを好きだって言ってくれたのに、それを受け止めることができなかったんだ。傷つけたくないから傷つけて……本当、俺は何がしたいんだろうな?」

 

「ねえ……」

 

「やらなきゃとか動かなきゃいけないのは分かってる。でも、頭の中がぐちゃぐちゃで何をしたらいいのかも分からないんだよ。でも、止まってなんかいられない。もうクーデターまで時間がないって言うのに……」

 

「――はい、ちょっとストップ!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

 夢人の頬を両手で挟みこむように叩き、ナナハは強制的にネガティブな言葉を遮った。

 突然の事態に夢人が目を白黒させるが、ナナハは構わずに質問する。

 

「あのさ、夢人がネプギアとした約束って何なの? それって私も知っていること?」

 

「えっと、もう戦わないでくれって……危ない真似をしないでくれって約束しちゃいました」

 

「ふーん、なるほどね」

 

 戸惑っていた夢人が正直にネプギアとの約束を話すと、ナナハはどこか納得したように頷いてみせた。

 1人で納得している様子のナナハに置いていかれ、夢人はどう反応していいのか困ってしまう。

 そうしているうちに、ナナハは夢人のことを真っ直ぐに見つめながら口を開く。

 

「うん、ようやく分かったよ。夢人がやっぱり夢人だってことが分かって、本当に安心したよ」

 

「えっ、あの、その、それってどう言う……」

 

「これでもし、夢人が心変わりしていたら私の方が困っちゃうものね。まったく、変な心配させないでよ」

 

「――お願いだから説明してくれませんか!?」

 

 心底安堵したと言った顔でほほ笑むナナハを見て、夢人は訳が分からなくなった。

 自分のことなのに自分以上に理解しているように見えるナナハに、夢人は思わず叫びながら頼み込む。

 

「いや、だって結構単純な話でしょ? 夢人がごちゃごちゃ難しく考えすぎて気持ち悪くなってるだけだしさ」

 

「き、気持ち悪いって……」

 

「本当に分からないの?」

 

 気持ち悪いと言われて傷ついている夢人を見て、ナナハは不思議そうに首を傾げた。

 そして、ナナハは当然のように夢人へと言い放つ。

 

「――だって、夢人はネプギアとの約束を守ってるだけでしょ?」

 

「はあ?」

 

「だから、夢人はネプギアに戦わないでくれって言われたから動けなくなっているんだよ」

 

 言葉の意味が分からず、夢人は呆然としてしまう。

 頭の中で疑問符が溢れている夢人に、ナナハは伝わるように言葉を変える。

 

「ほら、戦わなきゃ危険じゃないでしょ? 危ないことに首を突っ込まなければ傷つくこともない。加えて、ネプギアとの約束も守れるから夢人的に動かないことが正解だったんだと思うよ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってくれ。えっと、なんだ、つまり、俺が何もできなかったのはネプギアとの約束のせいだって言いたいのか?」

 

「うん」

 

 困惑する夢人の疑問に、ナナハは考えることもなく即答した。

 だが、説明されただけで自覚していなかったことをすぐに受け入れられるほど、夢人の心は穏やかではなかった。

 

「あのな、別に俺はネプギアとの約束のせいで何もできなくなっているわけじゃなくてだな……」

 

「ううん、これに関してはずっと前からそうなるんじゃないかなって思っていたことだし、別に不思議には思ってないよ。ただ、嫌な予感が当たっちゃったなぁって思っているぐらいだし」

 

「……どう言うこと?」

 

 ムッとしながら反論しようとする夢人を遮り、ナナハは呆れたようにため息をついた。

 その仕草と言葉に疑問を抱き、夢人は怒りを忘れてナナハに尋ねる。

 すると、ナナハはうんざりとした顔で口を開く。

 

「前にネプギアがユニと問題起こしてリーンボックスに逃げた時のことは覚えているでしょ?」

 

「……ああ、お前とデートした時のことだよな」

 

「そう。あの時、私もユニも今のままのネプギアじゃ、例え夢人と両思いでも絶対に幸せになれないって結論に至ったんだ。何でなのか分かる? ――夢人もネプギアも今みたいになっちゃうからだよ」

 

 当時のことを思い出し、ナナハは悲しげに夢人から視線を逸らす。

 

「きっとお互いに背中を追いかけ合っていた間はよかったんだと思う。でも、向かい合った瞬間に2人とも好きになってもらおうって気持ちから、嫌われたくないって思いに変わっちゃったんだよ」

 

「……嫌われたくない?」

 

「少なくとも今の夢人はそう思っているよ。ネプギアに嫌われたくないから約束を守って、何もできない振りをしている」

 

 思うところがあり、気が付けば夢人はナナハの言葉を繰り返していた。

 そして、再び視線を合わせてきたナナハの瞳に見つめられ、夢人の心臓は大きく跳ね上がる。

 

「だって、夢人が自分で言ってたものね。ネプギアを傷つけたくないから傷つけたって……それって、本当は記憶喪失になる前のネプギアに嫌われたくないからじゃないの? 今のネプギアの気持ちは知っているけど、記憶を失う前のネプギアが同じように自分のことを好きでいてくれているのか自信がないんだよね? まあ、これに関しては夢人の告白に動揺して逃げ出したネプギアが悪いんだけどさ」

 

 おどけた様子で話を締めくくったナナハであったが、夢人からの反応はない。

 無言のまま目線を下げている。

 そんな夢人に構わず、ナナハは問いかけるように話を続けていく。

 

「嫌われたくないって思うのは当たり前だよ。でも、嫌われたくないからって本当の自分を隠すのは間違っている。今の夢人は自分の殻に閉じこもっていた昔の私と同じだよ。だから……」

 

「――だったら」

 

「え?」

 

「だったら、どうしたらいいんだろうな……」

 

 ボソリと夢人が何かを呟いたのを聞き、ナナハは話を中断させた。

 夢人の口から紡がれたのはナナハが話を始める前と同じ弱々しい声だった。

 

「正直に言えば、俺は今のネプギアと一緒にいるのが怖いんだ」

 

「怖い?」

 

「記憶喪失だから周りへの態度が記憶の中のネプギアと違うのは分かっているんだけど、時々別人じゃないのかって思ったこともあったんだ。彼女が俺の知っているネプギアなのは間違いないんだ。でも、記憶の中の彼女と目の前の彼女が微妙にずれているような気がして、自分の気持ちも分からなくなりそうで怖いんだよ」

 

 聞き返すナナハに、夢人はネプギアに抱いている今の気持ちを正直に告白した。

 口にしているだけで固く握った拳が小刻みに震えだすほど、夢人が辛そうにしているのが見ているナナハにも分かる。

 

「本当、情けないよな。ずっと好きで、振られた時は死にたいとすら思っていたのに、いざネプギアから告白されたら今度は身勝手な言い分で逃げてるんだ」

 

「夢人、それは……」

 

「きっと本当はナナハに言われる前から分かっていたんだ。今がどうしようもなく怖くて不安だから、俺はネプギアの傍にいる理由が欲しかった。ネプテューヌ達と一緒に鍵の欠片を探そうとしているのも、ラステイションでシアン達やアヴニールの問題に首を突っ込んだのも、ミモザのクーデターを止めたいと考えているのも、全部勇者じゃなくなって何もできなくなった俺がネプギアの傍にいられる理由と目的が欲しかったんだと思う」

 

 口を挟もうとするナナハを無視して、夢人はこちらのゲイムギョウ界に来てからの自分を振り返る。

 話していくうちに自然と自嘲的な笑みが浮かびあがり、夢人の表情はくしゃりと歪む。

 すると、夢人は右手首に嵌められたブレスレットを胸に抱え込むように抱きしめる。

 

「犯罪組織が――フィーナがいなくなった後からずっと考えていたんだ。平和になったゲイムギョウ界で俺はいったい何をすればいいのかってさ。片やどこに行っても偽物扱いのニートと、誰でも知っているプラネテューヌの女神候補生だ。それでも好きだから……離れたくないから必死に仕事を探して、御波夢人って男がちゃんとここにいるぞって証明したかった。でも、失敗ばかりで自信がなくなった俺は心の中できっと諦めていたんだよ。だから、レイヴィスから“神次元”――こっちの世界のことを聞いて、もしかしたら俺がまた皆と一緒にいられるようになるんじゃないかって期待もした。ネプギアに告白したきっかけもケジメなんかじゃない。俺は自分から巻き込まれようとして……」

 

「夢人っ!!」

 

「っ!?」

 

 バチンと大きな音が響く。

 どこまでもネガティブな発言を続けようとする夢人の頬を、ナナハが強く張ったのである。

 

「馬鹿!! どうしてそうやって本当の自分を隠そうとするの!! 理由とか目的とか、そんなどうでもいい嘘つかないでよ!!」

 

「嘘なんかじゃ……」

 

「嘘だよ!! 本当に夢人の言う理由とか目的とかが欲しかったのなら、私と向かい合う必要なんてなかったはずだもん!!」

 

 涙目になって怒号を飛ばすナナハを直視することができず、夢人は再び顔を俯かせてしまう。

 しかし、そんな夢人に構わず、ナナハは激情のまま叫ぶ。

 

「夢人は私が夢人のことを好きって気持ちを知ってたでしょ!! 本当に私達と一緒にいる理由とか目的が欲しかったのなら、私と恋人になればよかったんだよ!! そうしなかったのは、夢人が本当にネプギアのことを好きだからでしょ!! 愛しているから、今も必死になってネプギアと向かい合える自分を探しているんだよ!!」

 

「ナナハ……」

 

「だから、嘘をついて自分の気持ちを誤魔化そうとしないでよ……!」

 

 叫び終えたナナハは泣いた顔を見せないように俯く。

 そんなナナハを申し訳なさそうに見つめていた夢人であったが、1度深く目を閉じて顔を夜空へと向けた。

 

「……俺はネプギアが好きだ」

 

「うん」

 

「初めて『変身』した姿を見て一目惚れした日から、今日まで――いや、この先もずっと俺の気持ちは変わらない。記憶喪失とか微妙な違和感で変わるような軽い気持ちなんかじゃない。世界や次元、立場や境遇が変わっても、俺は誰よりもネプギアを愛しているって胸を張って言える」

 

「うん……!」

 

 夢人が目を開くと、そこにはキラリと輝く1つの星が見えた。

 わずかに頬を緩めながら、夢人はかすれた声で相槌を打っていたナナハへと語りかける。

 

「ありがとう、ナナハ。俺、もう少しで大事なことを見失いそうになってた」

 

「……そうだね。でも、夢人も酷いよね。2度も私のことを振るなんてさ」

 

「えっ? ――あっ、い、いい今のは別にそう言う意味で言ったんじゃないから!?」

 

「分かってるよ。夢人はネプギアに夢中で、私のことなんて眼中にないんだよね?」

 

「そうじゃないって!?」

 

 穏やかな顔から一変して弁明を慌ててする夢人を見て、ナナハはクスクスと笑い出してしまう。

 夕焼けを眺めていた頃の重々しい雰囲気は既にない。

 そこに広がっているのは、夢人が勇者と呼ばれていた頃のナナハとのやり取りに近いものだった。

 

「まあ、夢人がネプギアのことを好きだってことを再確認できたし、そろそろ本題に移ろうか?」

 

「っ、明日のクーデターのことか」

 

「違うよ。夢人がどうすればネプギアに告白できるかを考えるんだよ」

 

「そっち!?」

 

 冗談かどうかも分からないナナハの発言に、夢人は思わず叫んでしまった。

 しかし、ナナハは夢人のツッコミを無視して考えこむように眉間にしわを寄せる。

 

「今の夢人は約束って名前のリードでネプギアに引っ張られている犬と同じ状態だからね。まずはどうすれば首輪をはずせるかどうかを考えるべきなのかな?」

 

「……あの、真面目に考えてらっしゃる所恐縮ですが、その犬って表現はやめてもらえないでしょうか? リードとか首輪とか、俺思いっきりネプギアのペット扱いじゃないですか?」

 

「あっ、でも、夢人はネプギアと離れたくないんだよね。約束を守るはイコールで夢人が今のネプギアと感じている繋がりでもあるわけで、それを自分で断ち切れるわけがないか」

 

「あっ、また無視ですか」

 

 ムムムッと打開策を考えるナナハを前にして、夢人は疲れたように肩を落とした。

 自分の気持ちを再確認したことにより、ナナハの言葉があながち間違っていないことは自覚しているから否定もできない。

 仕方なく夢人はナナハから視線を外し、再び右手首のブレスレットへと目を落とす。

 

(『再誕』の力を使えないじゃなくて、使わないか……マジックにも分かってたんだな)

 

 ラステイションを去る間際にマジックに告げられた言葉を思い出し、夢人は苦笑した。

 

 ――残り8個。

 それは夢人が『再誕』の力を使える限度であり、ゲイムギョウ界に存在していられるタイムリミットである。

 『再誕』の力を使う度に、夢人はブレスレットの水晶を減らしていく。

 プラネテューヌでブレイブソードを“再現”した時のように……

 

(1個でも残れば平気だと思い込もうとしていたけど、やっぱり無理だったんだな。『再誕』の力を使う自分が全くイメージできないや)

 

「どうかしたの? また何かウジウジ考えてるの?」

 

「まあ、ウジウジはしているかもな」

 

 訝しむように目を細めて顔を覗き込んでくるナナハの問いかけを、夢人は困った顔で肯定した。

 事実、夢人が後ろ向きなことを考えていたことは間違っていない。

 だが、夢人の様子は先程までよりも随分と明るくなってきている。

 夢人は眉根を下げたまま口元を緩めてナナハへと話しだす。

 

「本当、最初に会った頃とは立場が逆転しちゃったなって思ってさ。俺もナナハも『特別』って奴を意識し過ぎて自分の本当の気持ちに嘘をつこうとしていた所とか、結構今と似ているな」

 

「確かにそうかもね。だったら、今度は私が夢人にあの時の言葉を送ってあげようか?」

 

 悪戯っぽくナナハは頬に笑窪を作り、得意げな顔で夢人へと言う。

 

「――運命なんてものは、いつだって自分の手で切り開けるんだよ」

 

 それはアンダーインヴァースで落下してきた岩の間に閉じ込められた時に夢人がナナハに言った言葉であった。

 絶対に無理だと思っていた岩の破壊を夢人が目の前で成功させた時のことをナナハは今でも鮮明に思い出せる。

 何故なら、その時の夢人の後ろ姿と言葉が今のナナハを始めるきっかけになったのだから。

 

「だから、夢人も自分を信じて。自分のことを――ネプギアとの繋がりが簡単に途切れやしないってことを……大丈夫、私も夢人とネプギアの強い絆を信じてるから」

 

「……ありがとう、ナナハ」

 

「もう、何でそこで泣きそうになってるの」

 

 夢人は感極まり目から涙が溢れそうになっていた。

 そんな夢人を前にして、ナナハは言葉と裏腹に優しく笑んでいる。

 

「私はいつだって夢人の味方だよ。夢人が1人で立ち上がれないなら、私がいつだって力を貸してあげる。だから、夢人も自分の気持ちに嘘をつかないで。どんなに無様でカッコ悪くても、私は――ううん、私達は夢人に傍にいて欲しいよ」

 

「……無様でカッコ悪くても、俺は皆の傍にいてよかったんだな」

 

「当たり前だよ――と言うよりも、夢人はそう言うことを1人で抱え込みすぎだよ。そういうことを言うって時点で私達のことを信じてなかったみたいだし、そんなんだから日本一やがすとに気持ち悪いって言われるんだよ」

 

「アイツらって、そんなに俺のことを気持ち悪いって言ってのかよ」

 

 関係のないことで心が傷ついたが、ナナハとの会話により大分夢人の気持ちは前向きに変化した。

 すると、夢人は晴れ晴れとした顔でナナハへと手を差し出す。

 

「ナナハ、早速なんだけど力を貸して欲しいんだ」

 

「うん、私の力で役に立てるなら、いくらでも貸してあげる」

 

 躊躇うことなく夢人の手をギュッと握り返したナナハの顔は柔らかくほほ笑んでいた。

 ナナハに励まされた夢人は頬を緩めたまま口を開く。

 

「俺、今からネプギアと話してくるよ。だから、ナナハはらんらんにもう1度協会に入れないかどうかを聞いて来てくれないか?」

 

「それはいいけど、協会に何をしに行くの? イヴォワールさんは今更止まってくれないだろうし、こっちの世界のベール姉さんも頼れないんじゃ……」

 

「いいや、やっぱりベールの協力は絶対に必要なんだ。それに、他にも頼りになりそうな人達に心当たりがあるしさ」

 

 言い切る夢人の顔を見て、ナナハは何か考えがあるのだろうと疑問を飲み込んだ。

 味方であり続けると決めたからでも、ただ信じているからでもない。

 今の夢人が勇者であった頃の輝きを取り戻しつつあると気付いたからこそ、ナナハは信じられるのである。

 

「後、アイエフとデンゲキコにも声を掛けといてくれ。頼むな」

 

「夢人も頑張ってね」

 

「おう!」

 

 親指を立てて清々しい笑顔で走りながら遠ざかっていく夢人を、ナナハは口元を緩めて見送った。

 しばらくして夢人の後ろ姿が見えなくなると、ナナハは徐に手のひらを顔の近くまで持ち上げる。

 

「……これで、いいんだよね。2人が幸せなら、私はもう――」

 

 寂しそうに響くナナハの独り言は静かに夜の闇に溶けて消えていくのであった。




と言う訳で、今回はここまで!
ベールとの会話を本編後の女神通信行きにして話を進めました。
さて、次回からようやく彼の活躍を始められそうです。
それでは、 次回 「僕に友達がいないわけがない」 をお楽しみに!
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