超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

80 / 129
はい、皆さんこんばんわ!
毎日暑くて大変ですよね。
クーラーつけててもパソコンに向かいあうと汗が噴き出てしまいます。
それでは、 僕に友達がいないわけがない はじまります


僕に友達がいないわけがない

「――では、行きますわよ」

 

『おおう!!』

 

 静かに始まりを告げるミモザの声を皮切りに、集められた人々は気合のこもった返事を木霊させた。

 クーデター当日、集合場所であるミモザの屋敷から続々と人々が列をなして出発していく。

 目的地はもちろん協会である。

 

 いつもなら賑やかなはずの町並みも嫌な静けさを漂わせている。

 乾いた風の音とクーデターに参加している人々の足音しか聞こえない。

 先頭に立ち、傍にジャッドを従わせながら歩くミモザの表情には鬼気迫るものがある。

 理由は自分が今1番大嫌いだと胸を張って言える男の不明瞭な行動である。

 

(……あのブ男、いったい何を考えてるのよ)

 

 昨日の女装した夢人が協会に乗り込んだ話は当然ミモザの耳にも入っていた。

 そのせいでミモザはわずかな懸念と夢人に対する怒りを募らせている。

 

(ブ男がいくら騒いだところでクーデターはもう止められない。これはリーンボックスがまた1歩、前に進むために必要不可欠なことなのよ。だから、何が起ころうとも絶対に止めるわけにはいかないわ!!)

 

 この状況で夢人にできることなど何もない――それがミモザの下した結論でもあり、自身への鼓舞であった。

 それは胸の奥に秘めていたわずかばかりの迷いを振り切るためだったのかもしれない。

 強くクーデターを成功させることを心に誓い、ミモザはイヴォワールから教えられた指導者としての姿勢を貫こうとしている。

 

「お嬢様、そろそろ……」

 

「分かっているわ――全員、止まれ!!」

 

 そろそろ協会に到着すると言ったところで、ジャッドはミモザへと合図を出した。

 軽く目を閉じてジャッドの言葉を遮ると、ミモザは後列の人々へと届くように声を張り上げる。

 すると、ミモザの後ろをついてきた人々はピタリと歩みを止める。

 

「これより、協会側に最後通告を行う。もし協院長及び職員がこれに従わなかった場合、我々はグリーンハート様を救出に向かう。覚悟はいいわね?」

 

『おおう!!』

 

 振り向いて問いかけてくるミモザに、集まった人々のボルテージは高まり続けていく。

 彼らはミモザとイヴォワールのシナリオを知らず、表向きの理由であるベールの救出のために集まってきたのだ。

 そのため、無益な争いを避けようとするミモザの姿勢に異を唱える者などいない。

 

(本当、皆が皆この人達のように単純に生きられたらよかったのにね)

 

 高まっていく士気とは裏腹に、ミモザの気持ちは複雑だった。

 クーデターの実態を知っているミモザからしてみれば、目の前にいる人々が滑稽に見えてしまう。

 これから圧し掛かってくるであろう指導者としての重圧、他国との交渉、リーンボックスをどのように発展していくかの責任が扇動者であるミモザにはある。

 自ら望んだこととはいえ、その重さを考えるだけでミモザは胸が苦しくなってしまう。

 

(……今はそんなことよりもクーデターを無事に成功させる方が先ね。あの人ができなかったことを実現させる。それがバトンを渡される私の義務よ)

 

 躊躇いそうになる気持ちをかき消すように、ミモザは自分に強く言い聞かせた。

 そして、凛とした面持ちでミモザは協会の中にも届くようにと声を上げる。

 

「リーンボックス協院長、及びその職員よ!! 我々はグリーンハート様の権威を笠に横暴な振る舞いを続ける貴様らをこれ以上許してはおけない!! 真にグリーンハート様への信仰を……」

 

「ハァーッハッハッハッハ!!」

 

「――って、誰よ!? 悪趣味な笑い声を上げてるのは!?」

 

 空気を読まない高笑いに、ミモザは思わず素でツッコミを入れてしまった。

 ミモザの反応から予定外の事態が発生したと理解した人々もガヤガヤと騒ぎながら声の出所を探そうとする。

 すると、1人の男性が大きく目を見開きながら大声を出す。

 

「あ、あそこだ!?」

 

「本当だ!? ――なっ、アレは!?」

 

「そんなっ!?」

 

 発見した男性が指を向けた方を見て、多くの人々が高笑いを発した張本人を目にできた。

 その人物はいつの間にか協会の屋根の上に現れ、ミモザ達を見下ろしていたのである。

 

 その人物は頭からすっぽりと黒いローブで体を覆っている怪しい姿をしていた。

 しかも、鼻から上を隠すように仮面をつけているため、その人物を特定することも難しい。

 

 ……だが、そんな怪しさ満載の人物よりも人々はその後ろに立って縄で縛られた人物の方に注目をしていた。

 

「ようやく来たか!! 待ちわびたぞ、諸君!!」

 

(なんで!? どうして!?)

 

 イヴォワールと自分で計画していたクーデターと違うことが起き、ミモザは混乱してしまっていた。

 大きく見開かれた目は不敵な笑みを浮かべている怪しい人物――ではなく、人々と同じでその後ろの人物へと注がれている。

 

「だが、諸君らはいささか遅すぎたようだな!! 既にリーンボックス協会は我らの手中にある!! その証拠が“彼女”だ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 怪しい仮面の人物が握っていた縄を引っ張ると、後ろに立っていた女性が短く悲鳴を上げてバランスを崩しかける。

 その姿にミモザを含めて集まった人々は息をのむ。

 何故なら、“彼女”を助けることこそがクーデターを成立させるための大義名分であり、ミモザ達にとって唯一無二の存在である……

 

「リーンボックス女神グリーンハートは我ら“魔王派”に屈した!! これより、リーンボックスは我らが主魔王様の支配下に置かれるのだ!! ハァーッハッハッハッハ!!」

 

 ――ベールなのだから。

 

 

*     *     *

 

 

「クーデターを成功させるための方法を一緒に考えて欲しい」

 

「……アンタ、何言っているの?」

 

 時は遡ること、前日の深夜。

 再びリーンボックスの協会に忍び込み、協力者の前で夢人が最初に発した言葉がコレであった。

 数時間前までと真逆のことを言い出した夢人の正気を疑うようにアイエフが目を細める。

 

「アンタも私と一緒でミモザと協院長の計画に反対していたはずでしょ? まさか、アンタもグリーンハート様みたいに諦めるつもりなんじゃ……」

 

「そうじゃないさ。そもそも、俺達はミモザがイヴォワールさんを切り捨てることが認められないだけで、クーデター自体はリーンボックスのためにも成功させた方がいいと思うんだ。間違っているか?」

 

「まあ、確かにそうだけど……」

 

「と言うよりも、そんな都合のいい結果が出せるのですか?」

 

 裏切られたのかと錯覚したアイエフだが、夢人の言葉に一応の納得を示した。

 すると、すかさずデンゲキコが夢人へと疑問を投げかける。

 

「第一、皆が皆ハッピーエンドを迎えるような展開が不可能だからグリーンハート様も協院長も苦悩していらっしゃったんじゃないですか。こんな土壇場になってそんな都合のいい方法が思いつくわけが……」

 

「――だから、皆の意見を聞きたいんだ。頼む、力を貸してくれ」

 

 難しい顔を崩すことなく苦言を呈するデンゲキコを遮り、夢人はこの場にいる全員に向けて頭を下げた。

 そんな夢人の態度に、デンゲキコはアイエフへと気まずそうに目線を送る。

 向けられている視線の意味に気付き、アイエフはため息をつきながら夢人に尋ねる。

 

「はあ、じゃあ最初にアンタの意見を聞かせなさいよ。少しは何か考えているんでしょ?」

 

「ああ、実はクーデターの悪役をイヴォワールさんから俺にすり替えられないかなって思っているんだ」

 

「……はい?」

 

 夢人の意見を聞き、アイエフは目をパチクリとさせて己の耳を疑ってしまう。

 信じられないと言った表情をしているのはアイエフだけでなく、夢人以外の全員が同じ気持ちだった。

 そんな空気を気にせず、夢人は自分の意見を続ける。

 

「ほら、今の俺ってクーデター側からすれば無実の罪で投獄された一般市民で、協会側からはリーンボックスに害をなそうとしている犯罪者とも認識されているだろ? しかも、クーデターの火種だし、そこを利用して……」

 

「ごめん、先に言わせてもらうわ――アンタ、馬鹿なの?」

 

「あ、あははは……やっぱり?」

 

 説明を続けようとする夢人であったが、割りこんできたアイエフに中断させられてしまった。

 睨むような目つきでアイエフに見つめられ、夢人は苦笑いしか浮かべられない。

 そんな態度が余計にアイエフの癪に障り、言葉に刺々しさが増す。

 

「軽々しく言っているみたいだけど、本当にアンタは本当に犯罪者なんて汚名を一生被り続けてもいいって思っているの? 1度貼られたレッテルはどれだけ努力しても剥がれてくれないのよ? アンタは本当にそこのところをちゃんと理解しているの?」

 

「まあ、その辺りは経験済みって言うか……でも、それだけだろ?」

 

「はあ? 何を言っているのよ?」

 

「だから、俺が犯罪者呼ばわりされるだけで全てが上手くいくかもしれない――そう考えたら、安い代償だと思わないか?」

 

「アンタねえ……」

 

 自身も一生付いて回るレッテルがあるため、アイエフは夢人を説得して考えを改めさせようとした。

 だが、口の端を吊り上げて何でもないことのように言う夢人に、アイエフは呆れて何も言えなくなってしまう。

 すると、夢人は顔を引き締めてアイエフを真っ直ぐ見つめながら口を開く。

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、俺が犯罪者の汚名を被るだけでミモザとイヴォワールさんを助けられるなら、名前も地位もいらない。心配してくれるアイエフや味方でいてくれるナナハがいれば、周りに何て騒がれても俺は大丈夫さ」

 

「なっ、べ、別にアンタのことを心配したわけじゃ……」

 

「それに俺もこの国と一緒なんだ。いつまでも後ろ向いてちゃ、今ここにいる理由も待っていてくれているネプギアにも追いつけないんだ」

 

 優しくほほ笑みながら恥ずかしいことを言う夢人に、アイエフは頬を赤く染めてしまった。

 慌てて誤魔化そうとするアイエフに構わず、夢人は右手首のブレスレットに目を向けて覚悟を口にする。

 そして、晴れやかな笑顔で告げる。

 

「――俺、このクーデターが終わったらネプギアに告白するんだ」

 

「おい、ちょっと待ちなさいよ!? アンタ、何口走っているのよ!?」

 

「何思いっきり死亡フラグを打ち立てているんですか!? ってか、そもそもクーデター関係ないですよね!?」

 

 突拍子もないことを口にする夢人に対して、アイエフとデンゲキコはツッコミをせずにはいられなかった。

 それまでの話の流れをぶった切る発言だったこともあり、2人の反応に何もおかしいことではない。

 だが、2人のツッコミも虚しく、夢人はただ照れたようにはにかむだけである。

 

「死亡フラグでも何でも、今の俺に必要なのは先に繋がる目標だったんだよ。漠然と何かをしようと思っても、何をしていいのか分からなくなるだけだった。でも、今の俺にはクーデターを成功させてネプギアに告白するって言う目標がある。それだけで俺は何でも出来そうな気がするんだ」

 

(……まるでニンジンを目の前に吊るされて走る馬のようですね)

 

「でも、俺1人の力だと何も解決できない。俺がさっき言ったような方法も、漠然としているだけで具体性に欠けているしさ――だから、皆に力を貸して欲しいんだ。俺のイメージを形にする力を貸してくれ」

 

 夢人の意図を聞きながら、デンゲキコが抱いた感想はある意味で的を射ていただろう。

 しかし、だからこそ夢人の表情はスッキリしているのかもしれない。

 再度頭を下げて頼み込んでくる夢人の姿からも真摯な思いが伝わってくる。

 

「――そうだな。まずは犯罪者として強烈な印象を与えることからだろう。何事にもインパクトと言う物は大事だからな」

 

「MAGES.、お前……」

 

「何をそう不思議そうな顔をしている? 誰も協力しないとは言っていないだろ?」

 

 最初に意見を述べたのは、今まで夢人達の話を黙って聞いていたMAGES.であった。

 

 ――そう、夢人達が今いる場所は協会の牢屋なのである。

 ベールに協力を取り付ける前に、夢人がMAGES.達に協力を仰げないものかと先に立ち寄っていたのだ。

 

「貴様は話に聞いていた以上に大馬鹿者だよ。だが、そうやって自分の欠点を認めて前に進もうとする姿勢は嫌いじゃない。よかろう、そこまで言うのならば私も力を貸してやろうではないか」

 

「もー、MAGES.さんも素直に協力するって言えばいいじゃないですか。夢人さん、わたしも微力ながらお手伝いさせてもらいますね」

 

「ガウ」

 

 MAGES.に続き、鉄拳やこちらの話を理解しているのか分からないがクマまでもが夢人の方を向いて力強く頷いてみせた。

 

「この国を――ひいてはグリーンハート様の巨乳を守るためならば、我ら兄弟も協力は惜しまんよ。なあ、弟よ?」

 

「聞かなくても分かっているでしょ。あの素晴らしき巨乳を涙で曇らせないことこそが、僕らの戦争なんだから」

 

 相変わらず胸の話題を絡めて入るが、兄弟も夢人への協力の意思を表している。

 自分から頼み込んだとはいえ、こうも上手くことが運ぶと思っていなかった夢人は軽く驚いて固まってしまう。

 そんな夢人の肩に優しく手を置きながら、ナナハは口元を緩めて言う。

 

「やっぱり、夢人は何もできないわけじゃなかったんだよ。夢人が皆に協力を頼んだから、皆も一緒に前に進もうとしてくれているんだよ」

 

「っ、ああ! これもナナハが気付かせてくれたおかげだ! ありがとう!」

 

「……違うよ。これは私じゃなくて、夢人が自分の手で切り開いた未来なんだから」

 

 ハッとして満面の笑みを見せる夢人に、ナナハは苦笑してしまう。

 そこに少しだけ寂しさの色が見え隠れしていたのだが、希望が見えて興奮している夢人は気付かない。

 

「本当、馬鹿よ。もしも失敗したら、どうするつもりよ?」

 

「俺が失敗してもクーデター的には成功するから問題なしだ。ミモザとイヴォワールさんは和解して、リーンボックスも変わっていける。後はベールやこの国の人達次第だろ?」

 

「そう言うことじゃなくて……あーもう、分かったわよ。私も手伝ってあげるから、アンタはしっかり悪役をやり遂げなさいよ?」

 

「おう!」

 

 アイエフはそんな夢人を心配して声をかけたが、笑顔で返されてしまった。

 仕方なくと言った雰囲気を出しつつも、アイエフは頬を緩ませて協力することを決める。

 

 ……しかし、全員が夢人の案を実現させようと一丸になりつつある中、1人頭を抱える人物がいた。

 

(待ってください待ってください待ってくださいよ!? 御波さんが犯罪者としてデビューするってことは、一緒に捕まった私も犯罪者確定ってことじゃないですか!? そんなの嫌ですってば!? 私は清い体でいたいんです!?)

 

 その人物はクーデターなど気にせずプラネテューヌに帰りたがっていたデンゲキコである。

 必死に己の保身について考えを巡らせ、どうにかして夢人達を止める方法を見出そうとする。

 すると、この場でもう1人何も発言していない人物を目の端に捉えることができた。

 

(そうです!! ルウィーの宣教師であるコンベルサシオンさんなら、私と同じようにこんなことに首を突っ込みたくないはず!! こうなれば、即席の友情パワーで御波さん達の計画をジャンクに……)

 

「ふむ、ならば私から1つ提案があるのだが、少し聞いてくれないだろうか?」

 

(何立場を忘れて首を突っ込もうとしているんですか、このオバサンは!?)

 

 しかし、デンゲキコの淡い希望はコンベルサシオン本人によって打ち砕かれてしまう。

 心の中で暴言を吐くデンゲキコを置いて、コンベルサシオンは夢人達へと自分の意見を告げる。

 

「私がルウィーから異教徒の脅威を伝えるためにリーンボックスに来たことはもう話したな? 実はあの狸――ごほん、協院長にまだ伝えてはいなかったが、ルウィーではその異教徒がとある存在を崇拝していることが判明している。今回の件、ルウィーの宣教師としてはその脅威を目に見える形で伝えるための絶好の機会だと考えているのだが、どうだろうか?」

 

「つまり、大々的に名前を広めることでその集団の抑止も兼ねようと言うわけか?」

 

「その通りだ。事はルウィー1国で解決できる問題ではないからな」

 

 MAGES.はコンベルサシオンからの提案を受け入れるべきかを思案していた。

 演じる悪役としては申し分ないだろう。

 例え疑う人物がいたとしても、その集団を知っているコンベルサシオンが説明すれば信憑性も増す。

 だが、同時に夢人にかかる負担も増すことは事実である。

 

「じゃあ、コンベルサシオンさんの言う犯罪者を名乗るとして、次に決めなきゃいけないことは……」

 

「おい、夢人。本当にそれでいいのか?」

 

「え、別に問題ないと思うけど」

 

 せっかく人が身を案じていると言うのにすんなりとコンベルサシオンの意見を受け入れようとしている夢人に対して、MAGES.はムッとして眉をひそめた。

 だが、睨まれている夢人はきょとんとしている。

 

「俺がその犯罪者の名前を名乗って広めれば、そいつらも悪事がし辛くなるんだろ? だったら、良いことじゃないか」

 

「確かにそうだが、同時に貴様もその集団の1人として認識されるのだぞ」

 

「でも、わざわざルウィーがリーンボックスに協力を要請するぐらい放ってはおけない犯罪集団に先手を取れるなら、むしろここで釘を打っておいた方がいいさ」

 

「それはそうだが……」

 

「それに、ずっとこっちのゲイムギョウ界にいるわけじゃないんだ。だったら、悪名の1つや2つ増えた所で問題ないって」

 

 開き直ったかのような夢人の発言に、MAGES.は間抜けな顔でポカンと口を開けてしまう。

 しばらくすると、顔を俯かせて声を押し殺しながら笑い始める。

 

「クックック、そうだったな。貴様にとって今更悪名の1つ2つ増えた所で対して問題ではなかったのだな」

 

「まあ、自慢じゃないけど色々と悪目立ちしていたからな」

 

「はいはい、話が決まったのなら、さっさと次に移るわよ。クーデターまでもう時間がないんだからね」

 

 コンベルサシオンの案を受け入れることで両者の意見がまとまったことを察し、アイエフが話を進めようとする。

 時間がもうあまり残されていないことは夢人達も分かっているため、無言で頷いてアイエフの指示に従う。

 その時、夢人はふと気になったことがあり、コンベルサシオンへと問いかける。

 

「そう言えば、その犯罪集団ってどんな名前なんですか?」

 

「正式な名称までは分かっていないが、彼らが崇拝する存在から便宜的に付けられている名前がある。酷く単純な話だが、女神様達が聖なる存在ならば、その存在は魔なる存在だと彼らは言っているらしい」

 

 夢人の疑問に、コンベルサシオンは暗い顔を作りながら答える。

 しかし、その内心は真逆であり……

 

「――“魔王派”、それが彼らの名前だ」

 

 

*     *     *

 

 

「おい、これはいったいどうなっているんだ!?」

 

 時は戻り、突然のイレギュラーが入って動揺していたのはミモザ達だけではなかった。

 近くはないが協会を確認できる距離にある林の中、そこに数人の男性の姿があった。

 

「“奴”の話では、こんなシナリオは存在していないぞ!? いったいどうなっている!?」

 

「俺に聞くな!? 分かるわけがないだろ!?」

 

 互いに口論しながら、今現在協会の前で起こっている事態にうろたえていた。

 すると、そこに乾いた拍手の音が響き始める。

 誰もが音の発生源を探そうとするが、手を叩きながらやって来た人物や隠れることもせずに男達の前に現れる。

 

「いやはや、まさかこんなことになるなんて思わなかったよ。少し面白くなってきたな」

 

「誰だ貴様!? まさかイヴォワールの差し金か!?」

 

「当たらずとも遠からず、ってところかな。君達の邪魔をしに来たことは間違いないからね――ねえ、旧貴族派の皆さん?」

 

 やって来た人物は、ミモザの屋敷で軟禁中だったはずのシンだった。

 シンは楽しそうに口元を緩めながら、ここにいる男達――旧貴族派へと答える。

 

「我らの邪魔だと? ――ふざけるな!! リーンボックスは我らが守って来たのだ!! それをイヴォワールとその小娘に壊させはしない!!」

 

「そうだ!! リーンボックスはグリーンハート様のご意思をこれからも尊重し、他国の侵略を許すわけにはいかんのだ!!」

 

「……まったく頭が固いねえ。守って来たのは君達じゃなくて、君達の祖先だろ? 君達はただ特権階級に貪りついていたいだけさ」

 

 声高に自分達の正当性を叫ぶ男達に、シンは思わず額を押さえてしまう。

 旧貴族派の彼らが集まっている理由がクーデターの妨害であることは明白だった。

 

「やれやれ、状況的に彼らの味方をしてしまってるね。僕は正義の味方って柄じゃないって言うのに……」

 

「ごちゃごちゃとうるさいぞ!! 邪魔をするのならば、容赦はせんぞ!!」

 

 本来であれば無関係であるシンだが、旧貴族派の思惑を許すわけにはいかない理由があった。

 愚痴をこぼしてはいるが、シンが自分達の邪魔をしようとしていることが分かると、旧貴族派の1人が懐から拳銃を取り出す。

 

「わぁお、それでいったい何をするつもりだい?」

 

「決まっているだろ。今ここで貴様を殺すだけだ」

 

「この騒ぎだ。人が1人いなくなった所で誰も分かるまい」

 

「それに貴様は他国の人間だな? ならば、我らに躊躇う理由はない!!」

 

 拳銃を向けられているのに余裕を崩さないシンを見て、旧貴族派の男達は苛立ちを覚える。

 口々に自分達が本気であることを示し、シンに許しを請わせようとする。

 だが、シンはにやにやするだけで動こうともしない。

 

「何を笑っている、貴様!! 本当に撃つぞ!!」

 

「三流悪党のセリフをどうもありがとう。それで僕を殺せるものならば、いくらでも撃ってごらんよ。さあ、僕の心臓はここだよ」

 

「馬鹿にして……っ! 死ねっ!!」

 

 わざとらしく左胸の辺りを指でなぞり、シンは男達は挑発する。

 クーデターのイレギュラーと合わさり、心の余裕がなかった男は我慢の限界を迎え、怒りのままに引き金を引いてシンを撃ち殺そうとする。

 だが……

 

「ぬらっ!!」

 

 ――突如として、青い物体が草むらから跳び出し、シンの心臓を貫くはずだった弾丸を受け止めてしまう。

 青い物体はぽよんと地面に着地すると、ペッと弾丸を吐きだす。

 

「ぬら、ぬらら、ぬーら」

 

「そんなに怒らないでくれよ。君が必ず助けてくれるって信じていただけさ」

 

「ぬ、ぬららっ!? ぬらっ!?」

 

「はいはい、分かってる分かってる」

 

 青い物体は人語を話せないらしいが、シンはまるで会話が成立しているかのように振舞っていた。

 照れたようにそっぽを向く青い物体に苦笑しながらシンが視線を戻すと、そこには驚愕の表情を浮かべた男達の姿があった。

 

「な、なんでモンスターがこんな所に!?」

 

「モンスター? ――いいや、違うね。この子は俺の“友達”さ」

 

 一人称を変え、シンは誇らしげに青い物体――スライヌを男達に紹介した。

 だが、男達はシンの言葉も目の前のスライヌと一緒にいる姿も信じられなかった。

 彼らの常識では人間とモンスターは意思疎通はおろか、共存などできるわけがなかったのである。

 

「さて、せっかくだから新作の実験に協力してくれたまえ――それが君達にできる最後の信仰だよ」

 

 シンはへらへらと笑いながら、懐からディスクを取り出して男達に告げるのであった。




と言う訳で、今回は以上!
また長引いてしまったリーンボックス編もそろそろ終わりです。
7月中に終わらせられたらいいのですが……あれ、これ先月も言っていたような?
それでは、 次回 「1人のわけがない」 をお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。