超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

81 / 129
はい、皆さんこんばんわ!
今更ながら、今季の撮り溜めていたアニメを消化中。
とりあえず、ケイオスはゲームの方でネタばれが含まれてないかが不安です。
CM、思いっきりあの人出てますし……
いや、アニメのあの展開は面白いからいいんですけどね。
それでは、 1人のわけがない はじまります


1人のわけがない

 ――その光景は正に蹂躙劇であった。

 

「ひ、ひいいっ!? く、来るなあああ!?」

 

 尻餅をつきながら旧貴族派の男は震える手で銃弾を討ち続ける。

 だが、人間相手ならともかく、ただの銃弾がモンスターに通用するわけがない。

 銃弾を受けているにもかかわらず、ゆっくりと近づいてくるモンスターに男は恐怖で意識を失いそうになってしまう。

 

「はあ、もう少し頑張ってくれないかな? このままじゃ何のデータも取れないじゃないか。ほら、早く君のグリーンハート様への信仰を見せてくれたまえ」

 

「わ、悪かった!? 俺が悪かったから、もう許してくれ!?」

 

「……もう命乞いかい? 情けないなぁ」

 

 傍観していたシンが声をかけると、男は泣きながら助けてもらおうとした。

 既に男以外の旧貴族派の人員は気絶しており、逃げることも不可能だと判断したからである。

 そんな男の態度に、シンは呆れてしまう。

 

「せっかく“この子”の初お披露目だと言うのに、満足のいくデータが取れないなんてね。仕方ない、データの収集は次の機会に取っておくことにしよう――さて、君は助かりたいと願っている……間違いないかな?」

 

「は、はい!? どうか命だけはお助け下さい!?」

 

 ディスクから召喚したモンスターの腕を撫でながら愚痴をこぼし終えると、シンは口の端を吊り上げながら尻餅をついている男に目線を合わせるために屈んだ。

 恥も外聞もなく助かろうとする男は必死の様子でシンに頼み込む。

 すると、シンは立ち上がって男に背中を向ける。

 

「そうだね。特別に君のことだけは見逃してあげてもいいかもしれないね」

 

(チッ、何が見逃してあげてもいいだ!? リーンボックスの貴族である俺の方が貴様なんかに見下されたままでいられるか!?)

 

 尊大な態度のシンに、男は貴族のプライドを刺激された。

 特権階級にいたが故に、どこの馬の骨とも知らぬ者に見下されるのが我慢ならないのである。

 男はシンの背中に銃口を向けて撃ち殺そうとする。

 

(モンスターは殺せないが、貴様なら簡単に殺せるんだよ!! 不用意に背中を見せたことを後悔しながら死んでいけ!!)

 

 持っている銃ではこの惨劇を作り上げたモンスターはおろか、スライヌすら倒すことができない。

 しかし、人間であるシンなら簡単に撃ち殺せると、男は怒りのままに引き金を引こうとする。

 

「あっ、いいことを思いついたよ」

 

「っ、わあああああああ!?」

 

 ――だが、そう簡単に殺されるシンではなかった。

 男が引き金を引こうとした瞬間、ピンク色のブヨブヨした縄のような物が銃を叩き落としたのである。

 しかも、そのまま縄のような物は片足に纏わりつき、男を宙吊りにしてしまう。

 当然、シンもそんな男の様子が分かっているはずなのに、気にした様子も見せず満面の笑みで振り返る。

 

「“この子”、とても口が大きいと思わないかい? 例えば、人1人くらい丸のみできそうだよね」

 

「ま、まさか!?」

 

「ちょっと実験してみたいと思ってね。なに、君が消化されなかったら命だけは助けてあげるよ」

 

 シンの提案は事実上の処刑宣言だった。

 これから自分に起こるであろう悲劇を回避すべく、男は必死にもがく。

 しかし、足を縛る紐のような物は緩みもしない。

 徐々に近づくことで生温かい吐息と微かに鼻を刺激する臭いを嫌でも意識してしまう。

 

「や、やだ!? やめてくれ!? お、俺なんて食っても美味しくない!? 絶対に美味しくないから!?」

 

「それを決めるのは“この子”さ。さあ、遠慮せずガブッといってくれたまえ」

 

「やめろおおおおおおおお!?」

 

 最後の懇願とも言うべきか、男はモンスター相手に必死で食べないでくれと伝えようとした。

 だが、モンスターは男の言葉を理解していないらしく、大きな口を開けて待ち構えている。

 シンからの許可も下りたことで、モンスターは涎を垂らしながら男を口の中に放り込もうとする。

 しかし……

 

「っ、ベッ!!」

 

「――ガッ!?」

 

 体が口内に触れた途端、モンスターは捕食しようとしていた男を勢い良く吐き出したのであった。

 突然の事態に驚く暇もなく、男が感じたのは大木とぶつかった背中の痛みだけ。

 受け身も取れず地面に落ち、男は必死に呼吸を整えようとする。

 

「あっ……はあ……っ、ああ」

 

「どうやら君の味はお気に召さなかったようだね。なるほど、新しいデータが取れてよかったよ」

 

(たす……かった、のか……?)

 

 朦朧とする意識の中、シンの嬉しそうな声を聞いて男は自分が助かるかもしれないと言う希望を抱いた。

 しかし、男が込み上げてくる安堵に身を任せていると、悪魔のささやきが聞こえてくる。

 

「見事生き残った君には特別に俺の実験の協力者になってもらう権利をあげようじゃないか。いやあ、君は運がいいね」

 

「な……たすか……」

 

「ああ、大丈夫だよ。こう見えて、実験に協力してくれるモルモットは大事にするタイプだから。君が耐えられなくなるまでは特別待遇で世話をしてあげるよ」

 

 立ち上がることも言葉をまともに発することもできない男に、近づいてくるシンから逃げる術はなかった。

 三日月のように口の端を吊り上げるシンの姿は懐から何かを取り出そうとしながら、男に優しく語りかける。

 

「何も難しいことはしなくていい。ただ君は自分が1番幸せだと思うことを想像し続けてくれればいい――さあ、お休み。いい夢を」

 

「ああああああああああああ!?」

 

 ――目の前を覆う強烈な光だけが男の最後に見た光景であった。

 

 

*     *     *

 

 

 しばらくすると、林の中にいるのはシンとスライヌ、そしてディスクから召喚したモンスターだけになっていた。

 気絶して倒れていた男達の姿はどこにもない。

 

「ふぅ、大漁大漁。モルモットはいくらあっても困ることがないからね」

 

「ぬらぬら」

 

「分かってるよ。無駄遣いするつもりはないさ」

 

 ホクホク顔のシンを、足元にいるスライヌが諌める。

 普通に考えればおかしな光景であるが、シンはスライヌの言葉を理解しているかのように振舞っている。

 会話が成り立っているように見えるせいなのか、シンとスライヌのやり取りが自然に思えてしまう。

 

「しかし、実物はデータ以上に美しいね。正にパーフェクトじゃないか」

 

 ふと視線をディスクから召喚したモンスターに移すと、シンは嬉しそうに頬を緩めた。

 

「力と耐久力は平均を大きく越え、鈍重そうな見た目とは裏腹に俊敏な動き。さらに、中距離から遠距離に向けての攻撃手段も備えてる……これほど完成された存在が彼らの世界にいたのかと思うと、俺も異世界とやらに行ってみたくなるよ」

 

「……ぬーらら」

 

 興奮しながらモンスターのことを評価するシンを見て、スライヌは呆れてため息をついてしまう。

 やけに人間臭い仕草をするスライヌである。

 

「そう呆れないで欲しいなぁ。俺は素直に称賛しているだけさ。“この子”のモデルになった異世界のオリジナルをね」

 

 苦笑しながらシンはスライヌへと弁明する。

 そして、改めてモンスターの姿をうっとりと見つめ始める。

 

 ――体長は成人男性であるシンの倍以上。

 ――丸みを帯びた体は顔と合わさり、まるで雪だるま。

 ――背中には大きな円盤を背負っている。

 ――最大の特徴である長い舌はトカゲのような顔から今もべろんべろんと垂れて揺れている。

 

「今すぐ会ってみたいよ。そうすれば、もっと詳細なデータが手に入るんだけどなぁ」

 

 シンはモンスターのオリジナルを絶賛しているが、この場に夢人達がいれば微妙な顔で否定するだろう。

 何故なら、モンスターの姿は夢人達もよく知っている存在にそっくりなのだ。

 

 その名は――トリック・ザ・ハード。

 元犯罪組織所属の幼女を愛する変態なのだから。

 確かにシンの言う通り、トリックのスペックは高いだろう。

 だが、その趣向と欲望に忠実な本能が全てを台無しにしている。

 オリジナルのトリックを知らないことはシンにとって幸運なのかもしれない。

 

「さて、ぼやくのはここまでにしておいて、状況はどこまで変化しているかな?」

 

 トリックもどきから視線を外すと、シンは懐からディスクを1枚取り出す。

 すると、ディスクは光を放ち、1つ目の蝙蝠のモンスター……使い魔の姿に変わる。

 

「それじゃ、中継よろしく」

 

「キキィ!」

 

 シンが指示を出すと、使い魔の瞳から扇状に光が放射された。

 それはまるで立体映像のように、こことは別の場所を映し出している。

 

「おお、頑張って逃げてるねぇ。リーンボックスの女神を抱えてご苦労なことだよ」

 

 映し出された映像には、顔の上半分を隠した夢人がベールを横抱きにしてミモザ達から逃げている姿が映し出されている。

 捕まらないように必死な様子で走る夢人を見て、シンは面白そうに口元を歪めた。

 

「まさか彼がこんなことを仕出かすようには見えなかったんだけどなぁ。少し見誤って――ん?」

 

「ぬら?」

 

 夢人の評価を修正しながら楽しげに映像を眺めていたシンだが、ふと何か違和感を感じて目を細めた。

 変化したシンの雰囲気を察したのだろう、スライヌは不思議そうに声をかける。

 

「……これはちょっと面白くなってきたかな。ねえ、ちょっと頼まれてくれるかい?」

 

「ぬら? ぬらら!」

 

「ありがとう。ちょっとしたサプライズを……」

 

「――ュウ」

 

「うん?」

 

 力強く頷くスライヌに頼み事を伝えようとした瞬間、シンは聞き慣れない声を耳にした。

 不思議に思って声のした方へとシンが顔を向けると、そこには怪しく目を光らせているトリックもどきしかいない。

 

「まさかしゃべった? 言語機能のプログラムなんてインストールしてないはず……」

 

「――ヒンニュウウウウウゥゥゥ!!」

 

 シンが可能性を口にしている傍から、トリックもどきは1部の人達の機嫌を損ねる魔法の言葉を高らかに叫び出す。

 さらに、まるで導かれるかのようにトリックもどきはシンを置き去りにして何処かへと走り去ってしまう。

 予想外の事態についていけないシンとスライヌはポカンとトリックもどきの背中を見送ることしかできない。

 呆然としながらシンは呟く。

 

「……バグでも発生したのかな?」

 

 

*     *     *

 

 

『え、えっと、俺……御波夢人です。寝ていたみたいだから、メッセージだけ残しておきます』

 

 ミモザの屋敷、その1室でエコーのかかった夢人の声が響く。

 

『まずは、その……ごめん。俺、自分のことばっかり考えててネプギアの気持ちを何ひとつ理解しようとしていなかった……本当にごめん』

 

 声の発生源――無造作にベッドの上に置かれたNギアからは夢人の謝罪がこぼれている。

 謝罪を受けているネプギアはNギアの近くで黙って聞いている。

 顔を隠すように膝を抱えて丸くなっているため、ネプギアがどんな表情をしているのかは分からない。

 

『正直に今の気持ちを言うと、俺はネプギアに甘えて流されたままでいるのが怖かったんだ。情けないけど、こっちの世界に来た理由も分からないし、何をしたらいいのかも分からない……そんなことを考えてたら、俺がゲイムギョウ界にいる理由も分からなくなっちゃってさ。とりあえず、何かできることをしなくちゃって思ったら、急に目の前のことしか頭の中に入らなくなって……っと、ごめん。まだ自分でもよく分かってなくて、上手く伝えられないんだ』

 

 説明の途中でしどろもどろになり、夢人の声は申し訳なさそうだった。

 

『気持ちだけが進もうとしてて体がついていけないって言うか……多分、焦っていたんだと思う。何かしなきゃ、俺がゲイムギョウ界に――君の傍にいられなくなるんじゃないかって思ってた』

 

「っ」

 

 悔しげに自分の心境を吐露する夢人の言葉を聞いても、ネプギアは黙ったまま動かない。

 少しだけ膝を抱える腕に力が入っただけで、顔も上げようとしない。

 

『今ゲイムギョウ界にいられるのはフィーナのおかげで……俺なんかのためよりも、フィーナが消えなくてもいい方法があったんじゃないかって何度も思ったんだ。そう考える度に就職も何もできない自分が嫌になって、あの頃――勇者だった頃は悩まず進めてよかったって思う自分がもっと嫌いになって……君のことを好きでいていいのかも、好きって気持ちを受け取っていいのかも分からなくなったんだ』

 

「……そんなこと」

 

『信じられないかもしれないけど、君と再会した日の夜にフィーナの夢を見たんだ。しかも、君と同じで俺に戦わないでくれって言われてさ……今の俺って、そんなに頼りないのかよって思ったよ。まあ、実際ブレイブソードの重さに振り回されて無様を晒しただけだから何も言えないけど』

 

 ポツリとようやくネプギアが何かを言おうとしたのだが、録音されている音声は止まってくれない。

 ネプギアは仕方なく出かけた言葉を飲み込み、メッセージの続きを待つ。

 

『きっとブレイブソードは俺の中途半端な気持ちが分かっていたんだと思う。コレがあれば、俺は『再誕』の力を使わないで済む。ブレスレットに込められたフィーナの力を減らさずに済むって……見っとも無いけど、君の傍を離れなくて済むって心の奥で安心していたんだ。そんな目の前で困っている人よりも自分のことを優先している俺なんかが、ブレイブの魂を振るうことなんて出来るはずなかったんだよ』

 

 Nギアから漏れている夢人の後悔はネプギアにではなく、元の世界にいるブレイブに向けてのものだった。

 信念を懸けてぶつかり合った結果に分かりあえたからこそ、夢人は自分の不甲斐なさが悔しかったのである。

 

『今話したことは全部俺の問題だし、君には見苦しい言い訳にしかならないのは分かっている。でも、俺はもう君にだけは嘘も隠し事も、自分を偽ることもしたくないんだ。ただの自己満足に思えるかもしれないけど、最後にこれだけは聞いて欲しい』

 

 夢人が緊張している様子が録音されたメッセージからも伝わってくる。

 軽く深呼吸しているらしく、夢人が息を吐きだす音が聞こえたと思うと……

 

『――俺、御波夢人は君のことを愛しています』

 

「っ!?」

 

 突然の告白に、ネプギアはガバッと勢いよく顔を上げた。

 赤く泣き腫らした瞼で大きく目を見開き、間抜けな様子で口をポカンと開けている。

 

『初めてゲイムギョウ界に来た夜に君の優しさに触れてから、ずっと君の力になりたいと思っていた。そして、バーチャフォレストで君が『変身』して笑顔を見せた時に、初めて君のことが好きだって気付いたから、俺は最後まで勇者として頑張れたんだと思う』

 

「あっ、ああ、あああ……!」

 

『ラステイションでユニと一緒にいた時も君のことを考えない日は1日もなかったし、ルウィーでマジックに1人で戦いを挑もうとした君を支えられて嬉しかった。リーンボックスでは勘違いされて死にたくもなったけど、俺の怪我を心配してくれて包んでくれた君の手の優しさを忘れられない――君のことを好きになってからの思い出なら、いくらでも思い出せるし気持ち悪いくらい語れる自信がある』

 

 泣き腫らしていたはずのネプギアの瞳に再び涙が溢れだす。

 くしゃくしゃになった顔を流れる涙を両手の人差し指で拭いながら、ネプギアはNギアからの音声を聞き逃さないように集中する。

 

『ゲイムギョウ界に来てから何度も君に助けられて、どうしようもなく君のことが好きになって……君が傍にいてくれたから、俺は前に進もうって思えたんだ』

 

「わ、わた……ちが……」

 

『一昨日、君のことを信じ切れなかった俺が何を言っているのかって思っているかもしれない。もう俺のことなんて好きでもなくて愛想尽かしているかもしれない』

 

「っ、そんなこと……」

 

『でも、俺は君のことをずっと愛している。優柔不断で気持ち悪い変態男の俺だけど、これだけはずっと変わらない。俺の全部を賭けてもいい』

 

 録音されたメッセージだと分かっていても、ネプギアの口から夢人に伝えたい言葉が溢れ出てきた。

 自分を卑下しながらも、どこか誇らしく夢人はネプギアへの愛を囁いていた。

 

『あ、あはは、なんか凄くヤバい感じになっているけど、それだけ俺が本気だってことが伝わってくれればいいと思う……だから、俺はまた前に進もうと思う』

 

 困ったように笑う声から一変、夢人は真剣な口調になる。

 

『勇者だった頃ならとか魔法が使えたらとか過去を言い訳にして何も出来ない無気力を装うのはやめて、今の俺に出来る全力を振り絞って目の前の壁を壊してくるよ。今はマイナスだけど、ここからプラスに変えられるように……って、前に俺が言ったことを自分で成し遂げてくる』

 

 夢人の覚悟が伝わっているようで、ネプギアは時折鼻をすするだけで黙ったまま聞いている。

 頭の中に思い出しているのは、当然夢人が話していることの思い出――2度目のリーンボックスに行った時のことである。

 

『女神じゃないけど、君との思い出を言い訳にして何もしない俺から、君がいてくれるから全力でいられる俺に『変身』してくるよ。だから、待っててくれなんて言わない。必ず君の傍に辿りついてみせる』

 

「私の……傍……」

 

『明日の夜、『変身』して全力を出せる俺が必ず君に会いに行く。そして、もう1度俺の気持ちを……って、アレ? い、今更だけど、今の俺ってかなり変態っぽくないか? これって思いっきり変質者じゃないか!?』

 

 愛の告白が続くのかと思いきや、急に冷静になったらしい夢人の慌てた声がNギアが響き始める。

 そんな夢人の様子がおかしくて、ネプギアはクスリと笑みをこぼしてしまう。

 

『と、とにかく、そう言うことだから!? って、そうじゃなくて、後は直接会って伝えたいって言うか……ま、また明日!?』

 

「あっ、逃げた」

 

 恥ずかしさのあまり慌てて話を終わらせた夢人のメッセージを聞き終えると、ネプギアはNギアを拾い上げて両手で持つ。

 すると、慣れた手つきでNギアを操作し始める。

 

「もう、そんなことを言って私を見つけられなかったらどうするつもりだったんですか」

 

 不満を口にしながらも、ネプギアの顔には笑みが浮かべられていた。

 Nギアの画面には、いつの間にかメールの送信画面が映されている。

 

「夢人さん……」

 

 省エネモードにNギアを移行させると、ネプギアは窓の外を眺めながら夢人の名前を呟く。

 それは同じ青空の下で頑張っている夢人へのエールだったのかもしれない。

 

 

*     *     *

 

 

「いたぞ、こっちだ!!」

 

「絶対に逃がすな!!」

 

「グリーンハート様をお助けするんだ!!」

 

 同時刻、リーンボックスの街は大混乱に陥っていた。

 誰もが鬼のような形相で叫びながら走り続けている。

 

「ハァーッハッハッハ!! 捕まえられるものなら捕まえてみたまえ!!」

 

 人々が追いかけているのは顔の上半分をマスクで隠した怪しげな男――夢人と縄で縛られて横抱きにされているベールである。

 ……ノリノリで演じているように見えるが、夢人は既に自棄を起こしているだけだ。

 

(クソー!? このキャラ、凄く恥ずかしい上に痛々しいだろ!? もっとソフトな感じにできなかったのかよ!?)

 

 因みに、今の夢人が演じている役は見も心も魔王に捧げている神官という設定である。

 設定を考えたのは、アイエフとMAGES.の2人。

 お互いに設定を出し合った末に意気投合した2人を止められる者はいなかったのだ。

 終いには、牢屋の中に真っ赤なペンキで意味のない魔法陣まで描くと言うキャラの肉付けまで行っている。

 

「夢人さん、次はアッチです!!」

 

「分かった!!」

 

「頑張ってください!! ――あ、ああー、アッチに逃げたぞー!!」

 

 曲がり角に差し掛かった夢人に、先回りしていた鉄拳が道順を指示した。

 短く了承して走っていく夢人を見送ると、鉄拳は然も自分も追いかけていると言った様子で大声を出す。

 

 ……これも夢人達の計画の一部である。

 この茶番劇により多くの人達を巻き込もうとしているのだ。

 ルートを制作したのは、怪盗として悪事を働いていたおかげで裏道にも詳しかった兄弟である。

 だが、すべての道順を短時間で夢人の頭に叩き込むことは不可能であったため、今の鉄拳のようにアイエフ達が先回りして誘導している。

 このように大勢の人達を巻き込んでいるのは魔王派の脅威を知らしめる意味もあるが、それ以外の理由もある。

 

「あの、本当に大丈夫ですか?」

 

「何が?」

 

「いえ、その……本当にこんなことをしてしまってよかったのですか?」

 

 抱きかかえられているベールが不安そうな顔で夢人に問いかける。

 自分を走って抱えている夢人に話しかけるべきか悩んだが、ベールはどうしても聞きたかったのだ。

 

「あなた達とこの国は無関係のはずです。それなのに、どうしてあなたは自分の身を犠牲にしてまでわたくし達のために頑張るのですか?」

 

「うーん、別に自分が犠牲になるなんて考えてないからなあ……ただ、俺はネプギアと出会った日々を嘘にしたくないだけなんだ」

 

「ネプギア? 嘘ってどう言うことですの?」

 

 ベールを抱えて走っていても、夢人の受け答えはしっかりしていた。

 そのことを不思議に思いながらも、ベールは夢人の真意を尋ねようとする。

 

「ネプギアは俺の元いたゲイムギョウ界のプラネテューヌで女神候補生をしているネプテューヌの妹なんだ。出会った当初はちょっと事情があって、今のベールと同じで『変身』――あっと、女神化したくても出来なかったんだよ」

 

 話しながら夢人は初めてネプギアと会った時のことを思い出す。

 

「あの時のネプギアは俺のせいもあるけど、自分が頑張らなくちゃって気負ってたんだと思う。でも、自分なんかじゃって自信もなくて、1人で抱え込んで泣いている子だった。俺はそんな彼女を元気づけたくて色々頑張ってみたけど、何ひとつ上手くできなかったんだ」

 

 後ろから追いかけてくる人達の怒号を気にすることなく、夢人はベールに語り続ける。

 走るスピードは遅くなるどころか、むしろ早まっているような気もする。

 

「最終的にネプギアはまた女神化できるようになったんだけど、結局俺ができたことと言えば偉そうなことを言ってボコボコにされただけだったよ。でも、そんな俺にネプギアはありがとうって笑顔で言ってくれたんだ。その時、俺が体を張ったことも無駄じゃなかったんだって嬉しくなった――なあ、ベールは今、女神として自信あるか?」

 

「えっ、自信?」

 

「そう、上手く言えないんだけど、女神としてこの国をもっと立派にしてみせるって気持ちはちゃんと持っているか?」

 

 突然、話題を切り替えてきた夢人にベールは目をパチクリとさせてしまう。

 だが、すぐに悲しそうに目を伏せて口を開く。

 

「……今更、ですわ。あなた達を巻き込んだのも、今回のクーデターも、元をただせばわたくしの優柔不断さが招いた自業自得。わたくしがもっと女神として立派に責務を果たしていれば、こんなことは起こりませんでしたわ」

 

「本当にそうなのか?」

 

「そうに決まってますわ。自信なんてあるわけが……」

 

「だったら、ちょっと後ろを見てみろよ」

 

「えっ……」

 

 自分を卑下し続けるベールに、夢人は自分達を追いかけてくる人達が見えるように抱え方を調整した。

 言われている意味が分からなかったベールであったが、すぐに驚愕の表情へと変わる。

 

「グリーンハート様を解放しろ、この変態め!!」

 

「グリーンハート様、すぐお助けします!!」

 

「変態如きがそれ以上グリーンハート様に触れるなああああ!!」

 

 そこにいたのはクーデターに参加した者達だけじゃなかった。

 協会の職員もいたのである。

 夢人達が茶番劇を起こすまでは相容れることがないと思っていた両者が、ベールを救出しようと歩調を合わせていたのだ。

 

「凄いだろ? あの人達、皆ベールを助けようとしているんだぜ? これって、それだけ皆がベールのことを好きだってことだろ? 信じて信仰しているってことだろ?」

 

「こんなわたくしのことを……」

 

「ネプギアはこうも言っていたんだ――1人じゃないって分かったから立ち上がれた。支えてくれる人達や信じてくれている人達がいるから、また頑張ろうって思えたってさ」

 

 信じられなくて目を大きく見開かせていたベールに、夢人は今1番伝えたいことを口にする。

 

「ベールも1人じゃない。ミモザやイヴォワールさん……いいや、この国の人達は皆ベールのことが好きだから、今も助けようとしてくれているし支えようともしている。皆、ベールに自分達の女神でいて欲しいんだ」

 

「……本当に、わたくしで良いんでしょうか?」

 

「まだ自信が持てないなら、もっと見せてやるよ。もっともっと走って皆を巻き込んで、ベールがどれだけ愛されているのか分かるまで走り続けるさ」

 

 未だに自信が持てないベールのために、夢人はにかっと笑って宣言する。

 

 ――そう、夢人がわざと見つかるように走っているのはベールに自信を持たせるためである。

 女神化できない原因が自分に自信を持てないせいだと思った夢人が提案したのだ。

 弱々しく自嘲の笑みを見せたベールに出会った頃のネプギアが重なって見え、夢人は放っておけなかったのである。

 

(あの頃の俺に負けてたまるか!! ネプギア達との日々を絶対に嘘にはさせない!!)

 

 同時に、これは夢人が壁を乗り越えるためにも必要なことだった。

 ここで諦めてしまえば、ネプギアと出会ってからの日々を全てなかったことにしてしまう。

 フィーナがくれた奇跡も無駄にしてしまうと、夢人は無駄にしてしまうと分かっていたのだ。

 条件はあの頃と同じ――いや、ネプギア達と出会った今の自分なら、もっと頑張れるはずだと夢人は信じているのである。

 

 だから、夢人はベールを抱えたままリーンボックスの街を走り続ける。

 ベールが自信を取り戻して再び女神化できるようになるまで、国中を巻き込むつもりなのだ。

 

 ――だが、この時誰も気付かなかった。

 ベールを抱えたまま走っているにもかかわらず、夢人の息がまったく上がっていなかったことを。

 それどころか、走るスピードが徐々に早くなっていることを。

 右腕のブレスレットが淡く輝き、マスクから覗く瞳の瞳孔が赤い光で縁どられていることを……




と言う訳で、今回はここまで!
色々と端折った部分は本編後のアイエフ視点にて。
さて、ようやく長かったリーンボックス編の本編は次で終わりです。
それでは、 次回 「2人の思いが通じ合うわけが……」 をお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。