超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今日、久しぶりにリバ3をプレイしようとしたら追加コンテンツが無効になりましたの文字が出てきました。
えっ!? と思って再起動したら無事にプレイすることができるようになりましたけど、あれはいったい何だったんだろう。
それでは、 2人の思いが通じ合うわけが…… はじまります


2人の思いが通じ合うわけが……

「どうやら順調に巻き込みつつあるようだな」

 

「そうね。でも、夢人をそろそろ休ませた方がいいんじゃないの? アイツ、ずっと走りっぱなしだし……」

 

「なんだ、最初から最後まで仕方なくと言い続けた割には随分と気にかけているではないか」

 

「茶化すんじゃないわよ。ここまできたら、絶対に成功させたいだけよ」

 

 ……いえ、私は今でも逃げたいと思っているんですけど。

 ぶっちゃけ、もうリーンボックスのことなんて忘れてプラネテューヌに帰りたいです。

 本当、どうしてこんなことにまで巻き込まれなくちゃいけないんですか。

 

「まあ、そうだな。しかし、意外と夢人の奴も頑張っているようだぞ。私の予想ではもう既に限界だと思っていたのだがな」

 

「それは私も驚いているのよね。アイツ、ラステイションで走り込みをしていたのは知っていたけど、まさかあんなに走れるなんて思わなかったわ」

 

 何やら御波さんのことを話しているMAGES.さんとアイエフさんを無視して、私はこの騒ぎに参加している人達をシャッターに収めていきます。

 それが唯一、私に割り当てられた仕事ですから。

 

 ――そう、私は何とか傍観者と言う立ち位置を死守できたんですよ!

 協院長にも頼まれたことですが、私のやることはこの騒ぎをゲイムギョウ界中に広めることだけ。

 犯罪者の汚名は全部御波さんに押し付けられますし、特ダネゲットで最初はスーパーハッピーだと思っていたのですが……

 

「ガウ?」

 

「……あ、いえ、何でもないですから気にしないでください」

 

 ――どうして私はナチュラルにクマと一緒に行動しているのでしょうか。

 いやまあ、この子が大人しいのは分かるんですよ?

 さっきもベストアングルを確保するために私の体を持ち上げてくれたりと、気遣いとかもちゃんとできる子なんですよ?

 今だって先回りするために騒ぎに参加している人達に見つからないように私達3人を背中に乗せて走ってくれているんですけど……

 

 でも、冷静に考えると、私は何でクマと戯れながらスクープを追いかけてるんだろうって思っちゃうんですよね。

 こんな状況で普通に会話出来ているMAGES.さん達の方が異常ですって。

 私はノーマルでこの場で唯一常識を持っている普通人だと自分に強く言い聞かせないと、何だか今まで築き上げてきた常識が崩れてしまいそうです。

 

「しかし、嬉しい誤算だな。私が聞いていた話では、夢人はスライヌにすら負ける程に貧弱だったらしいからな」

 

「……あんまりスライヌを舐めない方がいいわよ。この間、妙に洗練された動きをするスライヌがいたわ。正直、初見じゃ私も危ないと思ったわよ」

 

「ほう、興味深いな。いったいどんな動きをしたのだ?」

 

「急速降下に遠心力を利用したジャンプ、剣先の軌道が分かっているかのように余裕を持った回避運動……あんなスライヌ、見たことなかったわ」

 

 何やら話の話題が御波さんから妙なスライヌに移っているようですが、私にはあまり関係ありませんね。

 今の私の心は1つ。

 さっさとこの茶番劇を終わらせてくれとしか願ってませんから。

 

「っ、ガウ!?」

 

「うん? どうした、クマゴロウ?」

 

 急に止まって前方を威嚇し始めるクマに、MAGES.さんは怪訝そうな顔で尋ねた。

 

 と言うよりも、クマゴロウってもしかしてクマの名前ですか?

 正直、その名前だけはないです。

 

「ハア、ハア……ようやく見つけたわよ!! この騒ぎ、全部あなた達の仕業だったのね!!」

 

「ゲッ、何でアンタがここに居んのよ!?」

 

 進行方向にいたのは、酷く疲れた様子で息切れを起こしている若草色の髪の少女と執事服を着た男性だった。

 特に少女の方の形相は恐ろしく、ひと目で怒っているのが丸わかりです。

 私には誰か分かりませんでしたが、アイエフさんは知っていたようで驚いています。

 

「お嬢様の体力の無さを甘くみていたようですね。お嬢様があのデッドチェイスに参加できると思っていたのですか? 走り始めて1分もしないうちにダウンして私が背負うはめに……」

 

「あなたは黙ってなさい!! それよりも、どう言うつもりよ!! あのブ男もあなた達もどうしてこんなことをしたのよ!!」

 

 得意げな顔で少女のことを侮辱しているとしか思えない言葉を吐く執事に、私はどこか残念な印象を抱いた。

 そんな執事を叱責し、少女は私達に問いかける。

 

「ムッ、どうやらばれているようだな。どうする?」

 

「どうするって言われても……」

 

 この騒ぎが茶番だと言うことを理解しているらしい少女へ、どう答えたらいいのか分からないMAGES.さんとアイエフさんは困ったように顔を見合わせた。

 正直、ばれているならこの茶番を続ける意味はないのではないかと個人的に私は思う。

 この少女が何者なのか分からないが、選択肢としては認めてこの騒ぎを台無しにするか、白を切り通すために逃げるかの2択ではないのでしょうか。

 

「ちょっと待った!!」

 

「この場は僕達に任せてもらおう!!」

 

 2人が悩んでいると、どこからともなく兄弟達が現れて私達の間に割り込んできた。

 助けては欲しかったけど、この2人には来て欲しくなかった。

 

「お下がりください、お嬢様。この2人、出来る……!」

 

「なるほど、我らの目に狂いはなかったようだ。ひと目で我ら兄弟の実力を悟るとはな」

 

「君はいったい何者だい? まさかただの執事ですなんて言うつもりはないんだろう?」

 

 睨んでくる執事に、兄弟は余裕綽々と笑みを浮かべている。

 しかし、その問いかけがおかしいような気がする。

 何で出会った瞬間、バトル漫画的なノリで会話し始めてるんですか、この3人は。

 

「何を言っている? 私はただの……」

 

「嘘をつくのはやめたまえ。我らには分かるのだよ。貴様と我らが相容れることができない不倶戴天の敵だと言うことがな」

 

 ……何だかすごく嫌な予感がしてきました。

 私以外の皆さんもその気配を察しているようで誰も会話に口を挟もうとしません。

 

「さあ正体を現せ、邪念を抱く者よ!」

 

「僕らは君の悪意を否定する! そう、全ては……」

 

『我らが愛する巨乳のために!!』

 

 言った、言っちゃった、言っちゃいましたよ、この変態兄弟が!?

 もう無駄に声を張るものだから、向こうの少女もドン引きしちゃっていますよ!?

 すっごく気まずい空気が流れ始めちゃっているじゃないですか!?

 

「――るな」

 

「じゃ、ジャッド? いったいどうし……」

 

「ふざけるな!! 貧乳こそが至高だろうが!!」

 

 ……空気が凍る瞬間って、本当にあるんですね。

 執事風の変態――いえ、ジャッドさんの台詞に少女は比喩抜きで固まってますもの。

 いや、それは私達も一緒ですけどね。

 こんな空気の中で動いていられるのは変態だけですって。

 

「巨乳なんてただの脂肪の塊だ!! あんな垂れて無駄になる未来しか見えない余分な贅肉など、真に麗しい乙女には必要ない!!」

 

「ふっ、ようやく本性を現したかと思えば、随分と浅はかな考えだな。貴様は女性の胸に秘められている夢と希望を否定し、不毛な大地に何を見いだすつもりなのだ?」

 

「夢? 希望? ――そんなものはまやかしに過ぎない!! 起伏に乏しいからこそ、雪原のような儚い美しさを醸し出すのではないか!! そこにある現実に、私……いや、俺は限りない未来の可能性を感じているんだ!!」

 

「兄さん、彼は……」

 

「皆まで言うな、弟よ。彼もまた、我らと同じように己の信念を貫く求道者なのだ。それ以上の言葉は彼の思いを侮辱するだけだ」

 

 逃げたい!?

 もう全部どうでもいいから、この場から1秒でも早く逃げ出してしまいたい!?

 何3人で変態ワールドを展開しているんですか!?

 しかも、兄弟の方はシリアスに決めているつもりなんでしょうけど、思いっきりシリアルですから!?

 

「あ、あなたいったい何をカミングアウトしているのよ!?」

 

「すみません、お嬢様。俺、グリーンハート様よりもホワイトハート様派なんです」

 

「このタイミングで言うことじゃないわよ!?」

 

 向こうの少女には同情してしまいそうになる。

 まったくもって少女が正しいはずなのに、どうしてもおかしな雰囲気に飲み込まれてしまっている。

 

「クーデターが成功したら、求心力の落ちたグリーンハート様じゃなくてホワイトハート様にこの国を治めてもらえるのではないかって期待していたんです。そして、理想の貧乳統治者2人により、リーンボックスは新しく生まれ変わる。そう、俺は信じていたって言うのに……!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!? あなた、今私のことを貧乳呼ばわりしたわね!? 私はまだ成長期よ!?」

 

「貴様らが起こした騒ぎで、そんな俺のささやかな夢も砕け散ってしまった!! そんな絶望しか生みださない巨乳に夢や希望などあるはずもない!! 即ち、貧乳こそが正義なのだ!!」

 

「私の話を無視するんじゃないわよ!?」

 

 ジャッドさんの言い分だと、思いっきりグリーンハート様のことを否定しているような気がするのですが……

 まあ、この国の所属じゃない私には関係ないことですよね。

 ぶっちゃけ、関わり合いたくないし……

 

「否、持たざる者のどこに正義があると言うのだ!! 断言しよう、貧乳に得なしと!!」

 

「不毛な大地に美しい花は決して芽吹くことはない。豊穣なる温もりがあるからこそ、花は美しく……そして気高く凛と咲き誇るんだ!!」

 

 随所に散りばめられている言葉は立派なのですが、内容はくだらないとしか言えません。

 と言うよりも、これって兄弟側は思いっきりホワイトハート様をディスってますよね?

 しかも、向こうの少女も……って、よく見たらアイエフさんも青筋立ててらっしゃる!?

 

「美しさのうの字すら理解できない凡愚の分際で……! お嬢様、奴らを葬り去るための力をお貸しください!! あなたのためなら、俺はどこまでも強くなってみせましょう!!」

 

「誰が力を貸すか!? 死ね、この変態!?」

 

「っ、うおおおおおお!! 漲って来たああああああ!!」

 

 さっきまでの話を聞いてたら、少女が暴言を吐きたくなる理由も分かります。

 でも、それなのにどうしてジャッドさんは喜んでいるんですか!?

 

「ふ、ふふふ、お嬢様の声援のおかげで、今なら不可能も可能にできそうですよ。見ててください、お嬢様。俺が今、あなたに勝利の栄光を捧げてみせます!」

 

「そんなの要らないわよ!? ……もう、いやぁ。あなたの性癖なんて知りたくもなかったわよぉ」

 

 変態には自分の都合のいいように物事を解釈するフィルターが備わっているようです。

 ジャッドさんはカッコつけているようですけど、少女の方は今にも泣きそうですって。

 

 ……そう言えば、御波さんも似たようなことを言っていましたね。

 男の人って、頭のネジが外れた変態しかいないんでしょうか?

 

「さあ、どうする? 母なる貧乳に見守られている俺に、守るべき巨乳のいない貴様らが勝てると思っているのか!!」

 

「やれやれ、我らも随分と甘く見られたものだな。真に巨乳を愛している者ならば、その姿をいつどのような時にでも心の中に思い描くことができるのだよ」

 

「つまり、お守りが必要な君とはレベルが違うんだよ。さあ、兄さん!! 僕らの不滅の巨乳愛を今ここに!!」

 

「ああ、行く――んっ?」

 

 理屈も分からない精神論を引っ張りだしてきた兄弟がジャッドさんとくだらない争いを勃発させようとした時、異変が起こった。

 ドシン、ドシンと重たいものが近づいてきているような地響きが聞こえてきたのである。

 

「――ュウ」

 

「何、この音? それに声?」

 

「何て言っているのかはわからんが……凄まじく嫌な予感しかしないな」

 

 今まで私と同じで案山子のように変態達に関わらないようにしていたアイエフさんとMAGES.さんが表情を曇らせる。

 変態達も空気を読んだのか、お互いにぶつかり合うことはせずに周囲を警戒している。

 ……そんな配慮ができるなら、最初からしてくれと言いたいのは私の胸の中だけにとどめておこう。

 

「お嬢様、ここは危険です。一旦、どこか安全な所へ避難しましょう」

 

「寄るな、変態!? 自分のことぐらい自分で……」

 

「ヒンニュウウウウウゥゥゥゥ!!」

 

「――っ、きゃああああっ!?」

 

 今更真面目な顔に戻ったジャッドさんを信頼しきれず、少女は後ずさりながら反論しようとした。

 だが、次の瞬間には少女の体はピンク色の縄のような物で縛られ、宙に浮き上がってしまう。

 その下手人は今まで見たことのないトカゲのような顔のモンスターであり、少女を縛っているのはその舌だった。

 

「ちょっ、き、気持ち悪い!? は、離して!? 離しなさいよ!?」

 

「ヒイイィィィンニュウウゥゥゥ!!」

 

「――誰が貧乳よ!?」

 

 まるで勝ちどきを上げるかのようにモンスターが叫んだ単語に、少女は状況も忘れてツッコミを入れていた。

 まあ、さっきまで散々言われていたせいもあり、少女がモンスターにまで侮辱されたと感じて怒るのも無理はないと思う。

 だが、状況は最悪とも言える。

 

「お嬢様!? ――ええい、お嬢様を離せ、この変態め!!」

 

「ヌウウゥゥゥッ!!」

 

「ぐほっ!?」

 

 少女を助けようとモンスターに跳びかかったジャッドさんでしたが、腕の1振りで簡単にあしらわれてしまった。

 短い腕ながらモンスターの力は相当のようで、地面に転がったジャッドさんは苦しそうな表情で立ち上がれないでいる。

 でも、その目はきつくモンスターを睨み続け、少女を助けようとする意志だけは折れていない。

 

「くっ……お嬢様をお助けしなければ……」

 

「ふっ、ならば我らも力を貸そうではないか」

 

「さあ、早く立ちなよ」

 

「っ、き、貴様ら……」

 

 今にも地面に伏してしまいそうになっているジャッドさんに手を差し伸べたのは、意外にもお互いの主義主張をぶつけ合った兄弟だった。

 ジャッドさんも私と同じ思いらしく、信じられないと言った表情で兄弟を見上げている。

 

「勘違いするなよ。これは我らがあの少女がまだ巨乳に成長する可能性に賭けているだけであり、決して貧乳のために動くのではないとな」

 

「夢と希望がある限り、女性の胸は膨らみ続けるのさ。だから、例え今が貧乳でも僕達は全力で彼女の救出に手を貸してあげるよ」

 

「……ふん、後で吠え面をかいても知らないぞ。お嬢様の胸はここ数年、まったく成長していないのだからな」

 

 ガシッと繋いだ手だけ見ると、場違いな青春もののドラマを見ているようだと思ってしまう。

 だが、内容はあまりにもくだらな過ぎる。

 それと、いい雰囲気出している所申し訳ないですけど……

 

「あの、もうお嬢様連れてかれちゃってますけど?」

 

『なん……だと……!?』

 

 ――既に少女を舌で拘束したモンスターはどこかへ走り去ってしまってます。

 アイエフさんもMAGES.さんも変態ワールドの空気に当てられて固まってましたから私がツッコミを入れましたけど、本当に3人とも気付いてなかったんですね。

 それはそうと、そろそろ2人も正気に戻しませんと。

 

「おーい、大丈夫ですか? ちゃんと起きてますか?」

 

「――っ、すまない!? 私達も急ごう!?」

 

「え、ええ!? 急いでミモザを助けないと!?」

 

 ハッとして正気に戻ったMAGES.さんとアイエフさんは即座にモンスターに捕まった少女を助けるために、クマに走って追いかけるように指示しました。

 当然、クマに乗ったままだった私も一緒です。

 正直な話、厄介事が起こりそうな場所に行くのは遠慮したいのですが、今回に限っては別です。

 だって、変態3人と一緒の場所に置いていかれたくありませんからね。

 まあ、出来ることなら私達が追いつく頃にはモンスターも退治されて少女も救出されていることを祈っておきましょう。

 他力本願? あくまで私は傍観者で茶番劇の広報担当ですから。

 

 

*     *     *

 

 

 エムエス山岳。

 協会のある街と周辺の街を隔てている山脈地帯である。

 山脈地帯と言っても、街同士の流通を円滑にするために整備されており、誰もが安全に利用できる街道となっている。

 比較的大人しいモンスターしか生息していないこともあり、リーンボックス印の馬車が街道を往復していることも有名だ。

 

 そんなエムエス山脈まで、夢人はベールを抱えたまま走って逃げて来たのであった。

 

「よし、そろそろ着くぞ。ベールは大丈夫か?」

 

「その、まだ……」

 

「だったら、ちゃんとあの人達の言葉を聞いててくれ。大丈夫、ベールならきっとできるさ」

 

 芳しくない様子で返事を濁すベールを、夢人は励ますようにニカッと笑って見せた。

 根拠のない励ましであったが、ベールはそんな夢人に勇気づけられた。

 そして、今も尚人数を増して自分のことを助けようとしてくれている国民達の姿を見ても同じ気持ちが湧きあがってくる。

 

(こんなにもわたくしのために一生懸命になってくれている人達がいる……そんな人達のために、わたくしが今できることは……)

 

 胸の奥から温かい気持ちが溢れて来ているのをベールは感じていた。

 だが、肝心の女神化ができそうな予感がまったくしないのである。

 後1歩、きっかけがあれば……と、ベールはもどかしく思ってしまう。

 

「ここだ!」

 

 そんな風にベールが焦りにも似た思いを感じていると、夢人は茶番劇の最終地点に到着してしまった。

 退路の無い崖っぷち。

 足を踏み外せば、真っ逆さまに落ちていくであろう場所で夢人は追って来る人達を待ち構えているのだ。

 

 ――茶番劇の最終段階。

 それは女神の逆転勝利という結末を演出することだった。

 要は勧善懲悪で、悪役が捨て台詞を吐きながら崖の下に落ちていく展開を再現しようとしているのである。

 もちろん、落ちる夢人の安全を確保するために崖の下にはナナハが既にスタンバイを終えている。

 後は追ってきた人達の思いで女神化に成功したベールが夢人を成敗すれば、茶番劇は大団円を迎えると言う筋書きなのだ。

 

「ようやく追い詰めたぞ!!」

 

「さあ、大人しくグリーンハート様を返せ!!」

 

 ベールを取り戻そうと集まって来た人達は夢人の逃げ場をなくすように広がった。

 そんな人々の中央、夢人達の正面にはイヴォワールとコンベルサシオンの姿がある。

 

「ハア、やれやれ。まさかこんなことを仕出かすとは思っておらんかったぞ。だが、覚悟はよいな?」

 

「速やかにグリーンハート様を解放しなさい。あなたにもう逃げ場はありません」

 

 既に事情を察したのであろうイヴォワールは夢人を睨むだけで茶番に協力してくれるようである。

 隣にいるルウィーの宣教師であるコンベルサシオンと並んでいる姿は国の垣根を越えて女神のために協力しているように人々の目に映っている。

 そんな怖いくらい予定通りに進んでいることを嬉しく思いながら、夢人は最後の仕上げをするために声を張り上げる。

 

「ふっ、何を勘違いしているのかな? 貴様らの女神がまだ我の手に囚われている姿が目に入らないのか? つくづく愚かだな!!」

 

「何だと!!」

 

 煽る夢人の言葉に、集まって来た人達の一部が反応した。

 明らかに激怒していると分かる彼らを見て、夢人はにやりと笑って見せる。

 

「何故、彼女が大人しく我に捕まっているだけだと思う? どうして女神様ともあろうお方が貴様らの言う薄汚い犯罪者の手にとどまっているのだと思う? ――それは貴様らが真に彼女を信仰していない証拠ではないか!!」

 

「っ、そんなことあるものか!! 俺達は心の底からグリーンハート様のことを……」

 

「だったら、どうして彼女は我の手を払いのけない? 女神の力を使わないのだ? いや、使えないんだよ!! 誰でもない貴様達自身のせいでな!!」

 

 いくつかの言葉がブーメランのように胸を傷つけるが、そんなことに構わず夢人はリーンボックスの国民を罵倒した。

 恨みがましく視線をぶつけてくるだけで押し黙る人達を見て、夢人は改めて自覚する。

 この国の有り様は昨日までの自分と一緒だと。

 口先だけの言い訳で何も変えようとしなかった自分と……

 だからこそ、乗り越えなければならないと強く思う。

 

(さあ、早く言い返せ!! ミモザだったら、すぐに……って、あれ? どうしてミモザがここにいないんだ?)

 

 そこまで考えて、夢人はふとこの場にミモザがいないことに気付いた。

 ミモザなら、どれだけへばろうとも真っ先にベールを害しているように見える夢人に食いつくはずだと思っていたのである。

 だが、集まった人々の中にミモザの姿はない。

 実を言えば、この場の火付け役としてミモザに期待していたのである。

 代役としてイヴォワールに視線を向けるが、彼も渋い顔で周りを見ていた。

 

(これはちょっとマズイかも。イヴォワールさんもミモザがいないことに戸惑っているみたいだし……)

 

 ミモザに期待していたのは夢人だけでなく、イヴォワールも同様であった。

 今後、リーンボックスをベールと共に導いていくであろうミモザだからこそ、この場で率先して発言してもらいたいと思っているのだ。

 

(仕方ない。ミモザが来るまで、もうちょっと時間を稼がないと……)

 

「――あぁぁぁ」

 

「うん? おい、何だ、アレ?」

 

 このままの空気はマズイと判断した夢人が場を繋ぐために言葉を続けようとした時、誰かの悲鳴のような声が聞こえてきた。

 それに気づいた人達が振り返ると、土煙を上げながら何かが夢人達に近づいてきていることが分かった。

 

「いやああああああ!? 誰か助けてええええええ!?」

 

「ヒイイィィィンニュウウゥゥゥ!!」

 

「……はっ?」

 

 それはトリックもどきとミモザだった。

 トリックもどきの舌に絡め取られて身動きの取れないミモザは泣き喚きながら助けを求めている。

 だが、1部の女性が激怒する魔法の言葉を叫びながら暴走しているモンスターを止めようとするためにはかなりの勇気が必要になる。

 つまり、必然的に人々は呆然として立ち尽くしてしまい……

 

「うわあああああ!?」

 

「うおおおおおっ!?」

 

「きゃああああっ!?」

 

 ボーリングのピンの如く、トリックもどきに吹き飛ばされてしまうのであった。

 それはイヴォワールやコンベルサシオンも例外ではなく、地面に倒れてしまう。

 その際、コンベルサシオンの懐から緑色の光る球状の物体が転がり落ちる。

 

(な、なんでトリックが!? それにミモザも――って、ヤバッ!?)

 

「ニュウウゥゥゥ!!」

 

「っ、のわああああああ!?」

 

「きゃああああああ!?」

 

 トリックとそっくりな姿をしているモンスターと出会ったこともあるが、ミモザが捕まっていることにも衝撃を受けてしまい、夢人は真っ直ぐに突っ込んでくるトリックもどきの突撃を避けることができなかった。

 それでもベールを庇おうとし、夢人は背中にトリックもどきの体当たりを食らってしまう。

 衝撃は凄まじく、夢人は庇ったベールと一緒に崖へと押し出されてしまった。

 

「――っ、夢人!?」

 

 崖の下で隠れていたナナハはそんな緊急事態に慌てて飛び出した。

 既に女神化しており、白を基調として緑と金色で縁どられているプロセッサユニット《トゥインクル型》のウイングで急いで夢人達を助けようとする。

 

 ――だが、ここでナナハは迷ってしまった。

 

(上にはミモザが……! それに、私が2人を助けたら全部台無しになっちゃう!?)

 

 落ちているのは夢人達だけではない。

 夢人達を落とした元凶であるトリックもどきも、ミモザを巻き込んで空中にダイブしていたのである。

 ここでナナハはトリックもどきからミモザを救出すべきか、落ちていく夢人とベールを助けるかの判断を迷ってしまったのだ。

 茶番劇を成功させるためには迷わずミモザを助ければよかった。

 だが、ナナハは夢人のことを見捨てられなかった。

 

 ――その逡巡がナナハの選択肢を切り捨てる。

 夢人達を助けるには、距離が開きすぎてしまったのだ。

 

(ダメ!? 間に合わない!?)

 

 それでも諦めきれずに加速しようとするナナハの前を、トリックもどきが遮ってしまう。

 瞬間、ハッとしたナナハは自身の武器である薙刀《撫子》で、トリックもどきの舌を両断してミモザを救い出す。

 咄嗟の判断でそこまでできたことは充分誇れることだろう。

 だが、ナナハにとっては夢人達を見捨てることと同義であった。

 ミモザを横抱きで受け止めると、ナナハは表情を青ざめて夢人達が落ちた先を見つめる。

 

(くっ、このままじゃ……!)

 

 落ちていくスピードが加速していく中で、夢人は心の中で悪態をつく。

 まだ女神化できそうにないベールと同じで、夢人も現状を打開するための力がなかった。

 

「わたくしが下になりますから、夢人さんは……」

 

「そんなことできるわけないだろ!!」

 

 女神の体ならば落下しても多少の怪我だけで済むのではないかと考えたベールが提案するが、夢人は即座に却下する。

 ここまで来たのにベールに助けてもらったら、自分が何もできないままだと分かっているからだ。

 現状を乗り越えるために必死で頭を働かせる夢人は、ベールと共に助かる1つの方法を思いつく。

 だが、それはとても分の悪い賭けであった。

 

(まさか貰ってすぐに使う時が来るなんてな! でも、この状況を打開するためなら何でもいい! ちゃんと効果を発揮してくれよ!)

 

 夢人はポケットから黒い錠剤の入った小瓶を取り出す。

 それはMAGES.から譲ってもらった物であり、夢人にとっては忘れることもできないアイテム――B.H.C.である。

 Black History Candyの頭文字を取って名付けられた、がすと謹製の魔法を使用する際のイメージ伝達率を上昇させるためのドーピング剤。

 その副作用により、本人が強く思い出したくないと思っている記憶――所謂、黒歴史が表出してしまうのが欠点であるが、その効果は絶大である。

 夢人はその効果が『再誕』の力にも有効であるのではないかと賭けに出たのだ。

 

(使おうとしていないだけなら、無理やり引き出してやる!! 俺はこれからもネプギアと一緒にいるんだ!!)

 

 強くネプギアのことを思いながら、夢人はB.H.C.を1粒飲み込む。

 瓶の蓋を開けた時、何粒かこぼれてしまったことも気にしない。

 今の夢人は貪欲に助かるための力を求めていた。

 

 ――瞬間、夢人の頭の中で鎖が弾け飛ぶようなイメージがわき上がる。

 B.H.C.を使用する度に感じた頭の中で黒歴史が解放された時のイメージと同じものだった。

 

 ……しかし、瞬く間に鎖が修復されるイメージが夢人の頭の中によぎる。

 すると、まるでブレーカーが落ちたかのように夢人は意識を失ってしまう。

 

「っ、夢人さん!? しっかりしてください!?」

 

 急に動かなくなった夢人を心配して、慌ててベールは呼びかけた。

 だが、夢人からの返事はない。

 このままでは……と思っていると、ベールは視界の端にキラリと光る何かを目にした。

 

 ――それはコンベルサシオンが落とした緑色に光る球状の物体であった。

 まるで意思を持つかのように、緑色の物体は夢人達に向かって落下してくる。

 やがて、夢人に触れようとした時、緑色の物体は弾けて霧散してしまう。

 シャワーのように降り注ぐ緑色の光に包まれ、ベールは胸の中で燻っていた温かいものが急激に湧き上がってくることに気付いた。

 

(っ、これなら行けますわ!!)

 

 そう判断すると、ベールの体は瞬く間に光の柱に包まれる。

 この光の柱こそ、夢人達が待ち望んだものであり、ベールが必死に取り戻そうとしていた力であった。

 

 ――同時に、この緑色の光は夢人にも変化をもたらしていた。

 夢人の頭の中で修復されたはずの鎖が砕け散ってしまったのである。

 破砕した鎖は2度目の修復が開始されず、光の泡となって消えていく。

 

 ピシッと、夢人の右腕に巻かれたブレスレットから音を響かせながら……

 

 

*     *     *

 

 

「っ、ミモザ!? グリーンハート様!?」

 

 イヴォワールは血相を変えて崖の下を覗き込む。

 大事な孫と敬愛している女神の安否がかかっているのだ。

 慌てるのも無理はない。

 

 ――だが、その心配が杞憂であったことをすぐに理解する。

 

「っ、グリーンハート様……」

 

「グリーンハート様だ」

 

 理由は、崖の下から急上昇してきたベールの姿を見つけたからである。

 ベールの体は女神化を完了させており、金色だった髪は鮮やかな緑色に変化し、身に纏っているプロセッサユニット《グリーン》も健在である。

 つまり、その姿はベールが女神として完全に力を取り戻したことを意味している。

 

「色々と心配をかけてしまいましたわね」

 

「……まったくです。ですが、こうしてあなた様のご無事な姿を拝見できて嬉しくもあります」

 

 ベールはゆっくりと自分の姿に見惚れている人達の前へと降りて、困ったように笑ってイヴォワールへと話しかけた。

 苦笑するイヴォワールの返事は、傍から聞けばベールの無事を喜んでいるようにも聞こえるだろう。

 だが、夢人達の茶番劇がなければ、イヴォワールは2度とベールの女神化した姿を拝むことはできなかったのである。

 そんなイヴォワールの気持ちを察し、ベールは柔らかくほほ笑みながら目を閉じる。

 

「あ、あの、グリーンハート様? そろそろ私を下ろしてくださいませんか?」

 

 感慨にふけっているベールに、申し訳なさそうに声をかけたのはミモザだった。

 ミモザはベールに片手で腰を支えられて抱きあげられているのである。

 因みに、もう片方の腕にはぐったりとしている夢人も抱えられている。

 イヴォワール達の所に姿を現す前、ベールはナナハからミモザを受け取っていたのである。

 女神化したナナハの姿に驚いたベールであったが、その場で深く追求しなかったのは夢人達の気持ちを無駄にしないためだ。

 今は自分の疑問よりも先にしなければならないことがある。

 

「もう少しこのままでもよいではありませんか? ふふ、こうして顔を合わせるのも久しぶりなのですから」

 

「人の目を気にして欲しいと言っているのです!? 女神として1人の人間をエコひいきするような真似を公衆の面前でするのは……」

 

「エコひいきなどするつもりはありませんわ。だって、わたくしはこの国の皆さんが大好きなのですから」

 

 頬を赤らめて恥ずかしがるミモザに、ベールはにっこりと笑って返す。

 そして、自分のためにここまで走って来た人達を見回して口を開く。

 

「わたくしを信じて女神として認めてくださっている皆さんの気持ち、いつも嬉しく思っていますわ。ですから、今回のわたくしが未熟だったせいで皆さんに迷惑をかけてしまったこと、本当に申し訳なく思っていますわ」

 

「そんなことないです!!」

 

「俺達、迷惑だなんて思ってません!!」

 

「グリーンハート様がご無事で何よりです!!」

 

「皆さん……」

 

「――失礼ながら、グリーンハート様に1つ申し上げます」

 

 謝罪の言葉を口にするベールに、周りから温かい声が投げかけられる。

 クーデターに参加しようとしていた人達、協会の職員問わず、その言葉に嘘はなさそうだ。

 すると、ミモザがするりとベールの腕をすり抜けて畏まった様子で話しかける。

 

「グリーンハート様が私達に感謝しているように、私達も毎日グリーンハート様に感謝しているのです。ですから、迷惑をかけたなどと仰って謝らないでください」

 

「ですが……」

 

「それでも納得できないようでしたら、これからも私達を見守り導いてください。私達もあなた様を支えられるよう、変わらぬ信仰をここに誓います」

 

「分かりましたわ。その誓い、あなた達の女神として受け取らせて頂きます」

 

 誓いを立てるミモザと受け取るベールの姿は、正に模範的な信者と女神であっただろう。

 ミモザの言葉に口を挟む者など、この場には1人もいなかった。

 誰もがミモザと同じ気持ちであり、ベールを中心として人々の思いは1つになっていたのである。

 もうクーデターを起こす理由もイヴォワールが犠牲になる理由も存在していなかった。

 

「クックックッ……」

 

 ――だが、そんな大団円を迎えそうになっていた空気を壊すように、怪しげな忍び笑いが響く。

 それは気絶していたはずの夢人が発していたのだ。

 

「よくぞ我が呪いを打ち破ったな、緑の女神よ。だが、浮かれていられるのも今のうちだけだ」

 

 ゆらゆらと立ち上がる夢人は異様な雰囲気を醸し出していた。

 正体を知っているベール達でさえも別人ではないかと疑ってしまう程だ。

 

「既に我が計画は始まっているのだよ。もう誰にも止められん。いずれ、我自身が貴様ら女神に本当の絶望という物を教えてやろう」

 

(もしかして、まだ演技を続けているのでしょうか? だったら、わたくしも何か言わなければ……)

 

「その時まで、仮初の平穏を甘受しておくとよい。第2第3の我は貴様らのすぐ傍におるのだからな――フフフ、アーッハッハッハッ!!」

 

 夢人の様子がおかしいことに気付いたベールが演技をしているのではないかと推測した。

 その推測は当たらずとも遠からずである。

 今の夢人はかつて経験した厨2病時代の気持ちとアイエフとMAGES.が考えた“さいきょうのまおうさま”の設定を混ぜた黒歴史をB.H.C.で“再現”させられているのだ。

 悪の親玉らしい捨て台詞を言い終えると、夢人は高笑いをしながら腕を振り上げて青空を指さす。

 すると、今まで晴天だった空が急に黒雲で覆われだし、ゴロゴロと雷の音まで聞こえてくる。

 

「っ!?」

 

 そして、次の瞬間には雷が夢人に引き寄せられるように落ちた。

 その強烈な発光現象により、誰もが目を覆う。

 やがて、光が治まると、そこには既に夢人の姿はなかった。

 悪役としてはこれ以上ない退場演出である。

 茶番劇だと分かっている1部を除き、さすがにこれを演技だと思う人物はいないだろう。

 

(夢人さん、ありがとうございます)

 

 姿を消した――本当はナナハのいる崖の下に跳び降りただけの夢人に、ベールは心の中でお礼を言う。

 夢人達の茶番のおかげで、クーデターはリーンボックスにとって良い形で締めくくることができた。

 ミモザとイヴォワールの家族が争わずに済み、自身も女神としての力を取り戻すことができたのである。

 これから夢人達が茶番劇を使って脅威を知らせた魔王派のことはあるが、リーンボックスは新たな1歩をしっかりと踏み出すことができたのだ。

 それがかけがえのない始まりであることを、ベールは誰にも悟られることなく頬を緩めて確信するのであった。

 

 

*     *     *

 

 

 ――走る。

 昼間、アレだけ走ったと言うのに俺の足はまだ今日の仕事を全て終えていない。

 むしろ、俺にとってはこれからが本番なのだ。

 

「ハア、ハア……ここら辺で、いいんだよな?」

 

 リーンボックスの街から少し離れた草原。

 もう少し走ればマルバコ森林という森があるらしいが、今は関係ない。

 俺がここに来た理由は、ネプギアに呼び出されたからだ。

 Nギアに場所と【待っている】という言葉だけが書かれたメールを信じてここまで来たのである。

 

「ネプギアは――あっ」

 

 隠れる場所も何もない草原、俺はネプギアをすぐに見つけることができた。

 ネプギアは胸に手を当て、寂しげな表情で月を見上げている。

 風に揺れる長い髪も合わさり、俺は見とれてしまう。

 上手く言葉にできないけど、幻想的な美しさが目に焼き付いて離れない。

 

「夢人さん……」

 

「ネプギア……」

 

 ネプギアも俺が来たことに気付き、名前を呼んできた。

 だけど、お互いにそれ以上言葉を紡ぐことができなかった。

 見つめ合ったまま距離も縮められない。

 うるさいくらいに鳴り響く心臓の音だけが俺を急かしてくる。

 

「ネプギア、その……」

 

「――この場所、似ていると思いませんか?」

 

「えっ? 似ている?」

 

 意を決して話しかけようとした俺だが、ネプギアの問いかけに遮られてしまう。

 その意図が分からず首を傾げていると、ネプギアは困ったように頬を緩める。

 

「初めてリーンボックスに来た時に、夢人さんと指切りをして約束をした場所ですよ。あの時の約束、覚えてますか?」

 

「ああ、【俺はネプギア達と一緒にゲイムギョウ界を救うために戦うよ……俺、御波夢人としてさ】って、言ったよな」

 

 5pb.とユピテルのライブが終わった後、俺がネプギアを連れ出した時のことだ。

 本当はネプギアのことを守るってかっこいいことを言おうと思っていたんだけど、土壇場で恥ずかしくなったんだよな。

 

「実は私、あの時約束したのを後悔しているんです。あの約束があったから、夢人さんがギョウカイ墓場で消えちゃったんだって思って」

 

「そんなこと……」

 

「ううん、今日だって夢人さんすっごく無茶しましたよね? 今日だけじゃない。私が【戦わないで】なんて身勝手なことをお願いしてから、毎日辛そうにしていましたものね」

 

 前者は否定できるけど、後者は微妙に言い返せないかもしれない。

 俺が自分のできることに悩んでいたのは事実だし、その行動範囲がネプギアの約束を守れることが条件だったからな。

 でも、今日は前のように無茶したわけじゃないぞ?

 ちゃんと安全対策をして無茶をしたんだからな。

 

「だから、気付いたんです。私は夢人さんを困らせてばかりで、本当はいない方がよかったんじゃないかって……」

 

「――そんなことない!!」

 

 自信なさげに悲しいことを言うネプギアに我慢できず、俺は叫んでいた。

 動かなかった足は自然とネプギアへと近づいていく。

 

「形はどうあれ、俺はこの世界でもネプギアが傍にいてくれて嬉しかった!! 君がいるから、悩んでも答えを出せたんだよ!!」

 

「でも、私は……」

 

「今ここに、俺の前に君がいることが大事なんだ!! 俺は君と一緒にいたいからゲイムギョウ界に残ったんだ!!」

 

「あっ……」

 

 今まで言えなかった本当の理由。

 俺が生まれた世界と両親や友達と別れてまで、ゲイムギョウ界で生きていくことを決めた理由。

 アカリやフィーナって言う娘がいることは関係ない。

 ネプギアがいるから、俺は例えどんなことがあろうともゲイムギョウ界で生きていくことを決めたんだ。

 それを俺はネプギアの手を取り、包み隠さず伝える。

 

「――って、ごめん!?」

 

 勢いでネプギアの手を握ってしまったことに気付き、俺は慌てて離した。

 意識し過ぎているせいなのかもしれないが、気恥ずかしくてネプギアから顔を逸らしてしまう。

 

「え、えっとだな、その……とにかく、俺が言いたいことは、ネプギアは何も悪くないってことだ。悪いのはむしろ俺の方で……」

 

「そんなことありません!! 夢人さんは何も悪くありません!!」

 

 気まずくなった雰囲気を払拭するために自分を卑下して笑い飛ばそうとする俺を、ネプギアは強く否定した。

 驚いてネプギアの方を向くと、明らかに怒っていると分かるようにまなじりを吊り上げて俺を睨んでいる。

 

「いつもいつもいつも、夢人さんは自分を悪く言い過ぎです!! そうすれば、私が笑って許すと思っているんですか!! どうなんですか!!」

 

「いや、その、だって……」

 

「言い訳なんて聞きません!! この際ですから、はっきり言わせていただきます!!」

 

 何だか話が微妙に変わってしまっているような気がするけど、下手なことを言ってネプギアの怒りに油を注ぐわけにもいかない。

 その激しい剣幕に押されて俺がタジタジになっていると、ネプギアはひと際大きく息を吸い込む。

 

「――私、ずっと夢人さんは強い人だって思ってました」

 

 しかし、ネプギアの口から出た声は驚くほど静かだった。

 ただ真っ直ぐに俺の目を見つめ、ネプギアは言葉を続ける。

 

「何度傷ついても立ち上がって、いつも笑っている強い人だって思ってました。剣や魔法が使えなくても、私なんかよりもずっと、ずっと強い心を持っているって――でも、違ったんですね。メッセージを聞いて知りました。夢人さんも私と同じで……ずっと怖がっていたんですよね」

 

 徐々に瞳を潤ませ始めるネプギアに、俺は何も言えなかった。

 何故なら、ネプギアの言葉は間違っていないのだから。

 

「実は夢人さんに謝らなくちゃいけないことがあるんです。私、夢人さんの記憶を勝手に観ちゃっているんです」

 

「俺の記憶? えっ、それってどう言うこと?」

 

「プラネテューヌのゲイムキャラから貰ったパープルディスクのことを覚えてませんか? あの中に夢人さんの記憶が記録されていたんです」

 

 パープルディスク。

 確かにネプテューヌ達を助けた時にギョウカイ墓場でネプギアの体の中に入っていくのを見た。

 ユニも俺の記憶を夢で観たって言ってたし、同じことがネプギアに起こってもおかしくない。

 

「私が観た夢人さんの記憶は、初めてゲイムギョウ界に来た時からの記憶でした。それで……その、言い辛いんですけど……」

 

 言い淀むネプギアに、俺は嫌な予感を募らせる。

 ネプギアが俺の何を観たのかに心当たりがあり過ぎる。

 

「知ってたんです……夢人さんがその、私のことを好きだって」

 

 やっぱりかよ!?

 そりゃ、出会った頃からずっとネプギアのことが好きだって考えてたし思ってたよ!?

 だけど、こんな形で気持ちを知られ――って、もしかしてネプギアが俺との関係を恋人だと勘違いしたのはパープルディスクのせいか!?

 

「初めて知った時は、その……戸惑って、よく分からなかったけど……本当は嬉しくて……愛されてるって、凄く胸が締め付けられるのに嫌じゃなくて……」

 

 途切れ途切れになりながらも、ネプギアは懸命に言葉を紡いでいく。

 その1つ1つにネプギアの気持ちが込められているのが、俺にも伝わってくる。

 

「――でも、怖かった。この世界で再会してから夢人さんの気持ちが分からなくなって怖かったんです」

 

 震えるネプギアの頬に涙が伝う。

 くしゃりと顔を歪めるネプギアを見ているだけで俺の胸は痛み出す。

 

「夢人さん、本当は私のこと好きじゃないのかもって……避けられているような気がしたし……夢で観た夢人さんの気持ちも、私の妄想だったんじゃないかって……」

 

「それは……」

 

「だから、信じられなくて怖いんです……! 夢人さんの告白も嬉しかったはずなのに……! 信じたいのに信じられなくて……!」

 

 涙を両手で拭いながら悩んで傷ついているネプギアを、俺はこれ以上見たくなかった。

 だから、気が付けば体が自然と動いていた。

 俺は片手をネプギアの頬へと添えて名前を呼ぶ。

 

「ネプギア」

 

「なん――っ!?」

 

 驚いて目を見開いているネプギアの顔がすごく近くに見える。

 事実、俺の目には大きく開かれたネプギアの瞳しか映っていない。

 

 ――だって、俺は今ネプギアにキスしているんだから。

 唇に触れるだけの1秒にも満たないキス。

 本当はこんな風に無理やりするつもりはなかった。

 でも、今のネプギアに俺の気持ちを信じてもらうためにはこれしか思いつかなかった。

 

「まだ、信じてもらえないか? 俺のネプギアへの気持ちは本物だって」

 

「……夢、じゃないんですよね?」

 

「夢じゃないよ。らしくなくて、夢じゃないかって思う気持ちも分かるけどさ」

 

 自分でもこんな大胆な行動に出られるなんて思わなかった。

 ヘタレやら奥手やら言われてきたけど、俺もいざって時は動けるんだなって自分のことながら感心してしまう。

 すると、ネプギアの瞳から止めどなく涙が流れだす。

 

「あっ、あああ、ああああ……!」

 

「ね、ネプギア!? ごめん、泣くほど嫌だったのか!?」

 

「違う――違うんです。これは嬉しくて……!」

 

 無理やり唇を奪ったことでショックを受けたのかと慌てる俺に、ネプギアは顔を綻ばせてみせた。

 泣いているのに嬉しそうに笑うネプギアの顔を、俺はおかしいかもしれないけど綺麗だと思ってしまう。

 

「本当に……本当に私でいいんですか? 私のこと、好きなんですか?」

 

 確かめようとするネプギアに、俺の頬は自然と緩んでしまう。

 信じてもらえないなら、信じてもらえるまで何度でも言おう。

 不安なら、安心できるまで何度でも言おう。

 だって、ネプギアへの答えは最初から決まっているんだから。

 

「――好きだよ。俺は君のことが大好きだ」

 

 もう2度と擦れ違わないように、素直な気持ちを正直な言葉で伝えよう。

 ネプギアへの愛なら、何度だって誓えるんだから。

 

「……ダメです。まだ夢の中にいるのかもって、信じられそうにありません」

 

 首を横に振りながらも、ネプギアの顔は嬉しそうにはにかんでいた。

 

「だから、これが夢じゃないって私に気付かせてください。その、えっと……」

 

「ネプギア」

 

「は、はいっ!? ――あっ」

 

 段々と顔を赤く染めていくネプギアが何を言いたいのかを察した俺はさっきと同じように名前を呼んだ。

 真っ赤になった顔で慌てて返事をするネプギアの頬に手を添えて、俺は口を開く。

 

「キス、するぞ」

 

「……はい」

 

 緊張のせいで上手く笑えなかったと思う。

 言葉もガチガチで変な風になってしまった。

 それでもネプギアは目を閉じて、俺がキスをするのを待ってくれる。

 次第に血色の良い柔らかそうなネプギアの唇にしか意識が行かなくなり、俺は自然と体の力が抜けてしまう。

 眠るようにゆっくりと瞼を閉じながら、俺はネプギアに自分の唇を重ねる。

 

 3度目のキスは俺にも今が現実であることを実感させる。

 ネプギアの女の子らしい甘い香り、唇の柔らかさと微かに感じる吐息、胸の中を満たしていくずっと浸って居たくなるような幸せな気持ち。

 

 ……だからだろうか、息が苦しくなるまで重ねたはずなのに唇が離れるのが名残惜しく感じたのは。

 俺は気が付けば、ネプギアへと問いかけていた。

 

「もう1度、してもいいか?」

 

「はい、私も……」

 

 自分のことながら、図々しいお願いだと思った。

 しかし、ネプギアは拒むことなく、柔らかくほほ笑む。

 

「もっと夢人さんとキスしたいです」

 

 そう言ったネプギアの顔は、多分今まで見た中で1番綺麗な笑顔だったと思う。

 目を閉じて再び唇を軽く突き出して待つネプギアに、俺もまたキスをする。

 今度はネプギアの肩を抱き寄せながら……

 

 ――この日、俺とネプギアは本当の恋人になった。




と言う訳で、今回は以上!
これにて、リーンボックス編の本編は終了です。
いやぁ、また長くなってしまいましたね。
今回の話に限って言えば、いつもの倍近くですし。
それでは、 次回 「new女神通信(ベール編)」 をお楽しみに!
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