超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して 作:ホタチ丸
今回から新章ルウィー編が始まります。
それでは、 そのニート、レベルアップ はじまります
そのニート、レベルアップ
「――ぅん」
「あっ、起きちゃいましたか?」
眠りから覚めた夢人の視界には薄い桃色に近い紫色が広がっていた。
耳に心地よい声を聞きながら、それがいったい誰なのかを夢人は理解する。
「ねぷ、ぎあ……?」
「はい、おはようございます夢人さん」
瞼を擦り、ぼやけた視界が正常に戻った夢人が目にしたのはネプギアの顔だった。
しかし、意識がまだ完全に覚醒していないせいか、夢人の顔は非常に眠たげである。
そんな間抜けに見える夢人の顔を見て、ネプギアはクスリと笑う。
「ふふ、ごめんなさい。夢人さんの寝顔が可愛くて、つい悪戯しちゃいました」
わざとらしく唇を両手の指で隠すネプギア。
そんな仕草に触発され、夢人も自分の唇へと指を持っていく。
「……あれ?」
「ちょっと息苦しかったですかね。夢人さんがこうして隣で眠っているのが嬉しくてつい――でも、それに気付いて起きてくれたのは何だか嬉しいです」
「それ? ――うん?」
ここに来て、夢人の頭が働きだす。
頬を染めながらはにかむネプギアと少し湿っていた自分の唇。
結論に至った夢人の顔はカアッと赤く染まる。
「えっ、ちょっ、ネプギア!?」
「もう、そんなに照れなくてもいいじゃないですか。私達恋人同士なんですよ? ――それとも、もしかして迷惑でした?」
「い、いや、そうじゃなくてだな!?」
嬉しそうだった表情を急に曇らせるネプギアに、夢人は慌ててしまう。
だが、起きぬけの頭では何を言っていいのか分からず混乱するだけだった。
――夢人達がリーンボックスからプラネテューヌに戻って来てから既に2週間が過ぎていた。
当初の予定ではすぐにでもルウィーへと向かうはずであったが、問題が発生したのである。
渡航許可が下りないのだ。
リーンボックスに向かう前にアイエフが調べた国内での問題発生の他に、物理的にルウィーがプラネテューヌから遠ざかってしまったのである。
4つの大陸の距離は常に一定ではない。
衝突することは奇跡的にないが、離れてしまうことはよくある。
その度に引き寄せられるかのように近づくことで大陸間の移動をするのだ。
そんな不幸が重なり、足止めを食らってしまった夢人達はしばらくプラネテューヌで過ごすことを余儀なくされていた。
しかし、例外は存在する。
「嫌なわけないじゃないか!? ただ、その、ちょっと……慣れなくてだな」
この男――夢人は幸せな時間をかみしめていた。
正式に付き合うことになったネプギアと充実した生活を過ごしたとさえ思っている。
今もこうして一緒のベッドで横になっているのが何よりの証拠だ。
……因みに、2人は同じベッドで眠っていたが、未だにキス止まりである。
その証拠にお互いしっかりとパジャマを着ている。
「だ、だから、全然嫌とかじゃなくてだな……」
「――ふ、ふふふ、冗談ですってば。そんなに何度も言わなくても分かってますよ」
「そ、そうか。よかった」
肩を震わせながら笑いを堪えようとするネプギアを見て、夢人は胸を撫でおろす。
しかし、その目はついついネプギアの唇へと向いてしまう。
(キス、されてたんだよな? 全然覚えてないけど、何だか唇に柔らかい感触が残っているような気が……)
「――もう1度しますか?」
「えっ!?」
「だから、その……もう1度、キス、しませんか?」
チラチラと見過ぎたせいか、ネプギアは恥ずかしそうに夢人に提案した。
驚く夢人であったが、緊張ですぐに唾を飲み込んで喉を鳴らしてしまう。
上目遣いでそんなことを言うネプギアがとても可愛く見えたからだ。
「……目、閉じて」
「はい」
バクバクと跳ね上がる心臓のせいで言葉が片言になりかける夢人とは対照的に、ネプギアは自然体のまま嬉しそうに返事をして目を閉じる。
はしたなく見えない程度に唇を浮かせ、ネプギアは夢人を待つ。
そんなネプギアにドキドキしつつも、夢人も目を閉じながら顔を近づけ――触れるだけの柔らかいキスを交わす。
息をするのも忘れて唇を合わせること1秒、夢人はゆっくりと顔を離す。
名残惜しそうに眉根を下げているように見えるネプギアに、夢人は起きてから伝え忘れていたことを言う。
「おはよう、ネプギア」
「おはようございます、夢人さん」
――この数日間で似たようなことを何度も繰り返してきたが、2人はそれでも満ち足りた表情で幸せそうにほほ笑んでいた。
* * *
「ふっ!! ふっ!!」
ブレイブソードを上段から繰り返し振り下ろす。
最近は慣れたせいか、前みたいに重さに振り回されたりしない。
「――ねえ」
1振り1振りファルコムに指摘された点を注意しながら素振りを続ける。
息を吐くのと同時に振り下ろすことでリズムよくできていると思う。
振り下ろした直後の剣先のブレもほとんどなくなった。
「――ってば」
自分の上達を思うと、やはり人間は慣れる生き物なんだと実感できる。
前までは素振りの最中だろうと腕が痛くなったのに、今ではほとんどない。
むしろ、ブレイブソードが軽くなったんじゃないかって勘違いしてしまう程に、素振りによる疲労が軽くなった。
やはり、何事も基礎を大切にして反復練習を積み重ねることが大事なのだと身に染みて……
「ムシすんなー!!」
「へぶっ!?」
突然背中に強烈な痛みを覚え、俺は前のめりに倒れそうになる。
だが、今は素振りの最中。
ブレイブソードを手放して、万が一にでも後ろの子に怪我をさせるわけにはいかない。
そう判断した俺はブレイブソードをギリギリで地面に突き刺し、何とか膝をつくだけで済んだ。
「つまんない!! めーと、さっきからおなじことばっかりでつまんない!!」
「あ、あのな、面白いとかつまらないとかじゃなくて、これは素振りって言って……」
「つーまーんーなーいー!! ぴい、もうみているだけなのはあきたのー!!」
俺を蹴飛ばした下手人であるピーシェは不満を爆発させていた。
そこに俺を蹴飛ばした罪悪感は皆無である。
困り顔で宥めようとする俺の言葉など聞かず、ピーシェは体全体を使って気持ちを表現する。
「ダメだよ、ピーシェちゃん。今、ゆっちゃんは刃物を使ってて、すっごく危ないんだよ」
「いや、あの、そんな包丁みたいに言わないで欲しいんだけど」
「ほーら、遊ぶのはゆっちゃんの方が終わってから、ね?」
「……はーい」
「……おーい、もう遊ぶのは決定事項ですか、そうですか」
ぷりぷりと怒りながらプルルートはピーシェに注意した。
そして、何故か決まっていく俺の予定。
不服そうに唇を尖らせながらも了承するピーシェに、俺はため息をついて仕方ないかと諦める。
すると、ロムが用意しておいたタオルと飲み物を持って近づいてくる。
「はい、夢人お兄ちゃん(お疲れ様)」
「ああ、ありがとうな」
受け取ったタオルを首に巻き、俺は飲み物で喉を潤す。
思っていた以上に体は火照っていたらしく、口の中から広がっていく冷たさが心地よい。
噴き出す汗をタオルで拭いつつ、俺は大きく息を吐きだす。
「――ふぅ、悪いけどもう少しだけ待ってくれ。遊ぶのはそれからな」
「えぇ、ぴいもういっぱいまったよ?」
「大丈夫、すぐに終わるからさ」
俺は苦笑しながら、眉間にしわを寄せるピーシェの頭をちょっと強めに撫でた。
我がままを言うピーシェを見ていると、無性にアカリに会いたくなってくる。
だからなのだろう、俺のピーシェへの態度は甘くなっていると思う。
「んもー、っととと!?」
「おっと、ごめん。ちょっと強くしすぎたな」
撫でられるまま目を閉じていたピーシェだったが、急にバランスを崩して倒れそうになった。
慌てて支えながら、俺は強く撫で過ぎてしまったことを反省する。
「んんー。でも、ちょっといたかった」
「ごめんな。それじゃ、プルルートとロムと一緒に離れて待っててくれよ」
「うん、わかったー!! すこしだからねー!!」
にひひと笑いながら駆け出すピーシェの姿に、俺は自然と頬が緩む。
アカリもだけど、子どもは本当に素直で可愛いな。
今頃、アカリはどうしているんだろうな。
「ごめんね~、ぴーしぇちゃんが我がまま言っちゃってぇ」
「別にいいって。見てて退屈なのは事実だし、一緒に来たのに構ってあげられなかったんだからさ」
「でも~、それはあたし達が勝手に着いてきただけだしぃ~……」
「気にしないでいいって」
申し訳なさそうにするプルルートに、俺は問題ないと伝える。
むしろ、監督役として付き添ってくれているのがプルルート達で本当によかった。
ここにネプテューヌとREDがいたと思うと、素振りすら満足にできなかったと思うから。
* * *
――プラネテューヌに帰って来てから、俺は毎日体を鍛えている。
しかも、ネプギア公認でだ。
最初は難色を示すかと思っていたけど、意外とあっさり俺がブレイブソードを使って戦うことを許可してくれた。
どういう心境の変化があったのか分からないけど、これは俺にとっても好都合だし問題ない。
恋人関係になって改めて決意した。
時間とか才能とか力とか言い訳する暇があったら、今できることに全力を尽くすって。
そして、必ずネプギアを守れるように強くなってみせるといき込み……
【まずは私がお手本をみせますね。ちゃんと見ててくださいよ】
……ブレイブソードを振るう見本をネプギアに見せてもらいました。
自分でもなさけないと思うよ。
だって、俺が重さでヒイヒイ言っていたブレイブソードをネプギアはちゃんと扱えているんだから。
【夢人さんは剣を振るうってイメージにこだわり過ぎてるだけです。もっと剣か――剣先の方に集中してくてください】
ブレイブソードを受け取り、俺はネプギアの指示通りにイメージする。
剣先……集中するってことはこの部分がブレないようにすればいいんだな?
【その剣先から刀身を伝って柄、そして自分の体に血が流れているようにイメージしてみてください。剣を握っているんじゃなくて、それが自然な状態だって考えてください】
予想と違ったことに少しの恥ずかしさを感じつつも、俺は目を閉じて深くブレイブソードを意識する。
柄を強く握りしめ、俺はブレイブソードを自分の体の1部だと思い込もうとする。
すると、目を閉じたままでもブレイブソードの形をしっかりとイメージできるようになっていた。
と言うのも、不思議な感覚だけど、ネプギアの言う通り本当に血が流れているかのような熱を感じたのだ。
まるで剣先から自分の体に流れてくるような……上手く言えない何かの熱が全身に広がっていく。
【はい、そのまま素振りをしてみてください】
言われるまま、俺はブレイブソードを上段へと構える。
この時から既に重さはほとんど感じていなかった。
そして、振り下ろした瞬間――俺は剣先が空気を斬ると言う感覚を初めて知った。
ただ振るだけじゃ絶対に感じられない感覚だった。
抵抗があったわけでもないのに、確かに斬ったと言う感触だけが全身に広がる。
【そうです! いい感じですよ! ……あっ、でも、次からはちゃんと目を開けてからにしてくださいね】
何とも言えない感覚に痺れていた俺の耳に、ネプギアの声が聞こえてきた。
その時、初めて自分が目を閉じたままだと気付いた。
――だけど、確かに俺は白銀の一閃が煌めくのを見た気がした。
* * *
それから毎日、俺はバーチャフォレストであの時の感覚を思い起こしながら素振りを続けた。
でも、まだあの時のような綺麗な軌道を描けずにいる。
MAGES.曰く、あの1振りはプラシーボ効果のような物で俺の集中力が高まっていたからだろうとのこと。
だから、俺は無暗矢鱈に素振りをするのではなく、毎日決まった時間に決まった回数集中して行っている。
そのおかげで徐々に近づいている気はするけど、何かが足りないような感じもしてしまう。
俺の集中力が足りないせいかもしれない。
「ありがとうね~。それじゃ~、練習頑張ってねぇ」
「わたしも応援してるよ(ファイト)」
「おう」
プルルートとロムの声援を受け、俺は笑顔で頷き返した。
こう言う気遣いは本当に嬉しい。
前にネプテューヌとREDが一緒に来た時はピーシェのように退屈だと騒いだり、2人で関係ないことを言い合っているだけで全然集中できなかったものな。
……まあ、2人がアイエフがいなくなった寂しさを紛らわすために、わざと騒いでテンションを上げようとしているのは分かる。
だけど、それに集中しようとする俺を巻き込もうとするのは本当にやめてくれ。
「さて……ふぅ」
気持ちを切り替えるために、俺はブレイブソードを握りしめて深く息を吐きだす。
心を落ち着かせる。
体中を流れる血が俺とブレイブソードを繋いでいるような気がする。
「よし、やる――っ!?」
気合を入れ直して素振りを再開しようとした瞬間、俺は背後から悪寒を感じた。
バッと振り返り、その正体を確かめた時には既に俺の足は動いてくれていた。
* * *
「――危ない!!」
「ほえ?」
「えっ?」
「んっ?」
素振りを始めようとした夢人が急に叫びながら近づいてきているのを見て、プルルート達3人は呆けてしまう。
その忠告の意味が分からず、3人が振り返ると……
「キュキューイ!!」
兎のような顔をして跳びはねるモンスター……シャンプルの姿があった。
ぴょんぴょんと跳びはねる姿は可愛らしく見えるが、間違いなく人を襲うモンスターである。
シャンプルは一段と高く跳び上がり、3人――いや、ピーシェへと突撃しようとする。
「うさぎさん?」
怖く見えないせいでピーシェは襲われそうになっていると言う実感が湧かない。
それはシャンプルを初めて目撃したロムも同様であった。
唯一、すぐにシャンプルがピーシェへと襲い掛かるのが分かったプルルートは……
「ぴーしぇちゃん!! ロムちゃん!!」
普段の間延びしたしゃべり方からは想像がつかないほどの鋭い声を出してピーシェとロムを抱き寄せる。
手元にあったぬいぐるみで迎撃するのではなく、2人を守るために盾になることを選んだのだ。
……その選択に間違いはなかった。
「はああああっ!!」
力強く叫び声を上げたのは夢人だった。
ピーシェとロムを抱き寄せて縮こまったプルルートの行動を見てからの夢人の判断は速かった。
駆け出すことで奇しくも下段に構えられていたブレイブソードを思いっきり振り上げたのである。
――ヒュン、と鋭い音が響く。
先程まで繰り返し行われていた夢人の素振りの音をブンッと言う鈍い音で表すと、今の1振りは耳が痛くなるような鋭さを持っていた。
「……えっ」
声を漏らしたのは何故か音を発生させた夢人本人であった。
目を大きく見開かせ、シャンプルがいた空間を見つめる。
――そう、既にシャンプルは光となって消えてしまっていたのだ。
呆けた顔で構えを解き、夢人は不思議そうに自分の手へと目を落とす。
感触を確かめるかのように握っては開いてを繰り返すが、その表情は未だ驚きの色を残している。
「今、確かに斬った、よな?」
ポツリとこぼれ出したのは疑問だった。
ブレイブソードの斬り上げでシャンプルを倒した……はずなのに、夢人はあまりの手応えの無さに信じられずにいた。
「めーと!!」
「おぐっ!?」
そんな夢人の思考を中断させる一撃が腹部へと直撃した。
鳩尾に綺麗に嵌まった頭突きにより、夢人は堪え切れず尻餅をついてしまう。
「ぴ、ピーシェ……急にいったい何を……」
「いまのなに!? いまなにやったの!?」
痛みに耐えながらぶつかって来た黄色の弾丸――ピーシェへと目を向ける。
ピーシェはそんな夢人に構わず、瞳をキラキラと輝かせながら尋ねてくる。
「なにあの“ビュン”ってやつ!? ねえねえ、もういっかいみせて!?」
「お、落ち着け。とりあえず、離れてくれよ」
「もういっかい!! もういっかい!!」
落ち付かせようとする夢人であったが、興奮しているピーシェは抱きついて離れてくれない。
ピーシェは覆い被さって来たプルルートの体の隙間から、夢人がシャンプルを倒す瞬間を目撃していたのである。
だから、ピーシェは止まらない。
目に焼きついた一瞬に興奮してしまっているのだ。
「――実験は成功だね」
もう1度とせがむピーシェと戸惑う夢人、そんな2人を優しく見守るプルルートとロムを観察していた者――シンがいた。
シンは手に持っていたディスクをしまい、口角を吊り上げる。
すると、用事は終わったとばかりに夢人達に背を向けて歩きだす。
「それで、君は俺に何の用かな?」
夢人達の姿が確認できないほど遠ざかると、シンは不意に誰もいないはずの方向へと声をかけた。
だが、シンが瞬きをした間にその人物は姿を現す。
現れた人物は握っていた闇色の刀剣をシンが反応できない速度で添える。
何時でも首を落とせるぞ、と言う意味だろう。
「怖いなぁ、俺はただおしゃべりしようと思っただけなのに――ねえ、デルフィナスさん?」
命の危機に晒されていると言うのに、シンは薄く笑うだけだった。
その笑みは目の前の人物――デルフィナスを馬鹿にしているようにも見える。
「そんなに俺が彼にちょっかいをかけたのが気にくわないかい?」
〔黙れ〕
「わぁお、それについては謝るよ。だけど、俺の話も聞いてくれないかい?」
あくまで飄々とした態度を崩さないシン。
怒りを表すかのように瞳を赤く光らせるデルフィナス。
2人の間を不穏な風だけが通り過ぎていくのであった。
と言う訳で、今回はここまで!
まだ連続投稿は続けられそうです。
まずは軽めで、夢人君とネプギアのイチャイチャはまた後ほどに。
……当然、周りに影響はありますけどね。
それでは、 次回 「その少女、ミステリアス?」 をお楽しみに!