超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
昨日は時間が取れなくて番外編になってしまいましたが、今日は本編の続き行きますよ。
それでは、 その迷子、復讐者 はじまります


その迷子、復讐者

「アハハハハ、それでお前は本気でリーンボックスだと思っていたわけだ」

 

「……ああ」

 

 食堂に響くシアンの笑い声に返すのは、薄汚れたマントを身に纏った青年だった。

 目を閉じているその姿は怒っているようにも不貞腐れているようにも見える。

 

「だけど、ここは残念ながら正真正銘ラステイションだ。何なら、明日教会まで連れて行ってやるよ」

 

「……恩に着る」

 

 表情を変えることなく頭を下げる青年を見て、シアンは苦笑してしまう。

 堅苦しい態度が青年の性格を表しているように思えるのだ。

 少なくとも、シアンには青年が悪い人物に見えない。

 

「所で2人から聞いたんだが、お前さんはすご腕の剣士なんだろ? ちょっとばっかりその剣を見せてくれないか?」

 

「ちょっとシアン、さすがにそれは……」

 

「構わん」

 

 不躾なお願いをするシアンを見て、アイエフは諌めようとする。

 シアンが総合技術博覧会に向けて剣を造っているのはアイエフも当然知っている。

 だから、フェンリルを一瞬で斬り倒した青年の剣に興味を抱くのは無理ないだろう。

 しかし、見た目から冒険者のように思える青年が商売道具とも言える武器をやすやすと手放すとは思えなかったのだ。

 そんなアイエフの考えを裏切り、青年はあっさりと閉じていた目を開いてシアンに腰に携えていた剣を手渡す。

 

「おっ、サンキュー。どれどれ……えっ」

 

 嬉々として青年の剣を見ていたシアンだったが、その笑みは突然凍りついてしまう。

 

 ――何故なら、剣が刃毀れだらけだったからである。

 通常なら、使い物にならないレベルだ。

 こんな刃毀れだらけの剣ではフェンリルはおろか、スライヌすら両断できないだろう。

 

「本当にこれでフェンリルを斬ったのか?」

 

「ああ」

 

「本当の本当に?」

 

「事実だ」

 

 シアンはアイエフとリュータの話を疑っているわけじゃない。

 だが、信じられず何度も青年へと確認してしまう。

 それに対する青年の返答は簡潔で淀みない。

 何より、青年の目が嘘をついていないと雄弁に物語っていた。

 

「へぇ、お前さんは本当に凄い剣士だったんだな」

 

 ボロボロの刀身に触れながら、シアンは改めて目の前の青年の実力を思い知る。

 剣に歪みがないのだ。

 ここまで刃毀れをしている剣ならば鋭さが落ち、どうしても力任せに叩き斬る場合が多くなって刀身が歪んでしまう。

 しかし、青年の剣の芯は折れていなかった。

 それこそ、青年が剣の力を十全に引き出すことができる使い手だと言う証拠のようにシアンは思えた。

 

「でも、その剣を使い続けるのも結構辛くなってきているだろ? よかったら、わたしが造っている剣を使ってみないか? わたしもお前さんの意見が聞きたいしさ」

 

「……まずは見てからでもいいか?」

 

「もちろん。そうと決まれば、早速持ってくるよ。ちょっと待っててくれ」

 

 そう言い残すと、シアンは食堂を後にして工場へと急いで走って行った。

 残っているのは青年とアイエフ、そしてリュータの3人のみ。

 

(……な、何かしゃべりなさいよ)

 

 気まずい沈黙が訪れた中、最初に根を上げたのはアイエフであった。

 客人であるはずの青年は居眠りでもしているのではないかと思うくらい静かである。

 しかも、こう言う時に限っていつもうるさいリュータも黙ったままだ。

 仕方なく、アイエフは沈黙を破るため青年へと声をかける。

 

「そう言えば、リーンボックスの協会に用事があるって言ってたわよね? 何をしに行く気だったの?」

 

「ああ、気になる話を耳にはさんでな」

 

「よければ教えてくれないかしら? 私もつい最近までリーンボックスに滞在していたし、心当たりがあるかもしれないわよ」

 

「本当か? ならば、聞きたい――女神をさらった『魔王派』とはどんなものなんだ?」

 

「っ!?」

 

 青年が食いついてきたのはよかったが、その話題はアイエフにとって答え辛いものだった。

 実際に青年が聞いた話に出てくる『魔王派』は偽物だ。

 その名を利用した夢人がデンゲキコを通じて広めた話を青年も聞いたのだろう。

 

「……ごめんなさい。私もよく分からないわ」

 

 アイエフは青年から目を逸らして謝罪する。

 そんなアイエフを見て、青年も何か感じたのだろう。

 

「そうか」

 

 ――それだけ言って黙ってしまった。

 青年なりの気遣いだろうと、アイエフは判断した。

 今のアイエフにはそれがありがたく、先程よりも青年の雰囲気が柔らかく見えてしまう。

 

「なあなあ、兄貴」

 

「……お前に兄と呼ばれる筋合いはない」

 

「いーじゃん、呼びやすいんだし」

 

 アイエフと青年の会話が終わった途端、今度はリュータが口を開いた。

 マントの端をクイクイッと引っ張るリュータを鬱陶しく思っているのか、青年は眉をひそめる。

 そんな青年の変化に気付かず、リュータはニカッと笑みを浮かべる。

 

「それよりもさ、兄貴みたいに強くなるにはどうしたらいいんだ? オレ、兄貴みたいに強くなりたいんだ」

 

「強く、だと?」

 

「ああ! あのフェンリルを倒した技! アレ、全然見えなかったけど、なんかすごい技で倒したんだろ! 教えてくれよ、兄貴!」

 

 興奮した様子で顔を近づけてくるリュータに、青年は顎に手を添えて考え出す。

 そして、思い出したかのようにポンと握りこぶしを柔らかく広げた手のひらへとぶつける。

 古典的な仕草だが、青年には妙に似合っていた。

 

「フェンリル解体剣《あっ、今日の晩御飯はトンカツよ》のことか」

 

『……はぁ?』

 

 ――空気が凍りついた。

 有り得ない言葉を聞き、リュータだけでなくアイエフも呆然としてしまう。

 しかし、青年は真顔のまま再度言い放つ。

 

「――フェンリル解体剣《あっ、今日の晩御飯はトンカツよ》だ」

 

「2度も言うんじゃないわよ!?」

 

「むっ、聞き逃したのではなかったのか?」

 

「聞こえてたからよ!? 聞こえてたから、ああなってたのよ!?」

 

 青年の顔が整っているため、無駄に凛々しく見えてしまうのがアイエフには忌々しかった。

 顔と言葉のギャップが酷過ぎて笑うに笑えない。

 

「そもそも、何でそんな変な名前なのよ!? しかも、後半が献立になっているし!?」

 

「俺も最初はそう思ったが、母がそう言ってたからな」

 

「母親が? つまり、アンタの剣の師匠って……」

 

「ああ、俺は母から剣技を叩きこまれた。その1つがフェンリル解体……」

 

「――それはもう言わなくていい!?」

 

 3回目を口にするために、アイエフは青年を止めた。

 色々と台無しである。

 整っている容姿とすご腕の剣術……だが、それらを全てマイナスにしてしまうネーミングセンスの技。

 本人が真面目に言っているのが余計に質が悪い。

 

「で、どうしてそんな変な名前なのよ?」

 

「そうだな……あれは俺がまだ小さい頃の話だ。森の中でフェンリルに襲われた時があってな。その時、母が俺と妹を助けてくれた時に使った技なんだ」

 

(あれ? 何だかどこかで聞いたことがあるような……)

 

 青年の話にアイエフは何故か聞き覚えがあった。

 思いだそうとするも、青年の話は続いていく。

 

「母があの時フラッと俺達の前に現れたと思うと、いつの間にかフェンリルは消えていた。その帰り道で詳しく聞こうとしたが、ただ単に胴体から首と足と尻尾を斬り落としただけとしか教えられなくてな。当時の俺はそれが悔しくて堪らなかった」

 

(それは母親の方が規格外なだけじゃないの?)

 

「だから、せめて技の名前だけでも教えてくれと頼んだ。そうしたら、母は【あれはフェンリル解体剣……あっ、今日の晩御飯はトンカツよ】と教えてくれたんだ――何でも街で安く仕入れたらしくてな、初めてあんなに大きなトンカツを食べたのをよく覚えてる」

 

「だから、それは名前じゃない!? 後半が思いっきり違う話になっているのに気付きなさいよ!?」

 

 ――技名の由来もやはり残念だった。

 これは母親が続けた世間話が悪いのか、それとも素直に受け取ってしまった青年が悪いのか分からない。

 しかし、アイエフにとっては関係ない。

 先ほどから青年の印象が2転3転もしてしまって落ち付かないのである。

 

「だから、俺は母のネーミングセンスをリスペクトし、あの技を《牙折り》と呼んでいる。フェンリルのことを牙と例えて、それを圧し折るつもりで斬ると言うイメージだな」

 

「……それ、おかしくない? 圧し折るって、斬ってないじゃないの? そもそも、それって本当にリスペクトしているの?」

 

「あくまで例え話だ。他にも、ドルフィンの活け作り教室と言う技を……」

 

「もういい!? もういいから!?」

 

 色々な意味でアイエフはもう限界だった。

 寡黙な印象があった青年だが、話してみると普通に好青年であることは分かる。

 だが、その話す内容が致命的にアイエフの中の常識と喧嘩をしてしまっている。

 

「まあいい。それで話を戻すが、強くなりたいと言ったな?」

 

「お、おう! 教えてくれるのか!?」

 

 終始表情を変えない青年に圧倒されながらも、リュータは期待に胸を膨らませる。

 

「――無理だ。諦めろ」

 

 だが、それは脆くも崩れ去ってしまう。

 あまりにも簡潔すぎる否定に、リュータは言葉を失くしてしまった。

 

「そもそも強さとはなんだ? お前は剣の強さのことを言っているのか? それとも、技のことか? ――だったら、諦めろ。お前には無理だ」

 

「っ、な、何でだよ!? 何でそんなことを言えるんだよ!?」

 

 繰り返される青年の言葉に、リュータは強く反発する。

 そんなリュータの反応を見越してか、青年は淀みなく続きを話す。

 

「強さほど当てにできないものがないからだ。考えてもみろ――お前は首をはねられて生きていられるか?」

 

「……死ぬ」

 

「そうだ。極端な話だが、戦いにおいて個人の強さが優劣を分ける最大の要因になりはしない。どのような状況でも相手を殺せた方が勝者であり、それは例え弱くても状況次第ではどうとでもなる。強くなるとは、つまり相手を殺せる確率をあげると言うことだ。ここまでは分かるか?」

 

「な、何とか」

 

 既にいっぱいいっぱいの様子のリュータは返事にも力がなくなっていた。

 すると、青年は顎に指を添えて考える。

 

「そうだな。お前が剣を持っている相手に勝つためにはどんな方法を取ればいいのか分かるか?」

 

「え、えっと……相手よりも強い剣で戦う、とか?」

 

「違う。それと、相手よりも強くなるとかも違うぞ」

 

「うぐっ!?」

 

 考えていた答えを先読みされ、リュータは気まずそうに呻く。

 

「簡単だ――銃を使えばいい。要は近づかなければ斬られないのだからな」

 

 青年が提示した答えは理に適っていると、聞いていたアイエフは同意した。

 勝つために手段を選ばないと言えば、卑怯と考えられるかもしれない。

 しかし、生き残ることを考えるのならば、1番効率はいいだろう。

 

「他にも魔法と言う手段があるが、あれは一朝一夕で身につくものでもないからな。現実的に考えて、お前が誰かを倒すための力を得たいのならば銃を使うしかないだろう」

 

「……だったら、兄貴はどうなんだよ? 兄貴だったら、銃や魔法を使う奴に勝てるのかよ?」

 

 それはリュータの意地だったかもしれない。

 アイエフと違い、リュータは青年の助言を大人しく受け入れられない子どもだ。

 だから、苦し紛れでも厳しいことを言う青年に対する反発が口に出てしまったのである。

 

「問題ない。全て斬ればいいんだからな」

 

 ――しかし、青年は揺るがない。

 絶対の自信を持ってそう言ってのける。

 

「銃弾も魔法も斬れるからな。後は近づいて斬ればいい。それで全部解決だ」

 

 無茶苦茶な理論だと、さすがにリュータでも分かる。

 だが、それを言える実力が青年にはある。

 まさしく強者――強いからこそ言えるのだと、リュータには青年が眩しく見える。

 

「それに大事なことを忘れてはいけない。俺とお前には決定的な違いがある」

 

「それって、いったい……」

 

「――お前には“天使みーも”の加護がないからな」

 

「て、天使?」

 

 憧れを抱いたのも束の間、リュータは青年の口から飛び出した不可思議な存在の名前に戸惑ってしまった。

 アイエフに至ってはガツンと机に頭を打ち付けてしまったほどである。

 

「そうだ。まあ妹のことなのだが、みーもはゲイムギョウ界が生み出した天使だと俺は信じてる。だから、俺は今まで剣技を磨いてこれた」

 

「ちょっと待ちなさいよ!? もう色々と訳分からないわよ!?」

 

「むっ、お前には経験がないのか? 頭の中にその人物の顔を思い浮かべると、何故か体の奥底から力が湧いてくるような感覚だ――すまなかった、俺の配慮不足だったようだな」

 

「何? 何を察したって言うの? 凄く失礼なことを考えてない?」

 

 同意を求めるように語った青年だが、急にアイエフから視線を逸らしてしまう。

 そのあからさまに憐れんでいますと言わんばかりの態度に、アイエフは怒りを感じずにはいられない。

 

「いや、大丈夫だ。お前にもいつか俺にとっての天使の存在がちゃんと見つかる。だから、気を落とすな」

 

「遠まわしにアタシがボッチだって言いたいのか!? アタシだって……」

 

「強がりはよせ。虚しくなるだけだぞ」

 

「こ、コイツ……!」

 

 青年の言葉に憤りを感じるアイエフ。

 しかし、咄嗟に口から出そうになった言葉に気付いていないらしい。

 言おうとしたのは強がりか、それとも……

 

「話を戻すぞ。お前が強くなりたいのは分かった。だが、何をするための力なのかを自覚してから強くなれ。受け売りだが、心なき力はただの暴力でしかない。まずは力をつけて何をしたいのかを考えろ。話はそれからだ」

 

「……分かったよ、兄貴」

 

 青年の話を聞き、リュータは考えだす。

 難しい話はよく分からなかったが、リュータなりに青年の言葉を受け止めようとしているのだ。

 

「まあ、迷ったら迷いごと斬ればいいんだがな。斬ってから考えると言う方法もあると覚えておけ」

 

「――本当、台無しだよ!? 空気読んで!?」

 

 真面目に考えているのが馬鹿らしくなる発言をされ、リュータもさすがに声を荒げた。

 これも青年なりの気遣い……だとは思えず、アイエフから見てやはり本気で言っているとしか思えない。

 

「本当、変な奴……アイツみたい」

 

 ポツリとこぼした評価がアイエフから見た青年の全てだった。

 どこかズレているとしか思えないのである。

 ……奇しくも、アイエフがその評価をつけた人物は夢人に続いて青年が2人目だ。

 だからなのだろう、アイエフは青年と夢人の姿が重なって見えてしまう。

 

「ねえ、聞いてもいい?」

 

「散々質問をしておいて今更何を言っている」

 

「そこは流しなさいよ!? ――アンタは何のために強くなったの?」

 

 アイエフにはそれが気になった。

 リュータにした話から考えれば、青年には明確な強くなるための理由が存在するはずである。

 それが分かれば、アイエフも自分の中のモヤモヤが少し晴れるかもしれないと期待したのだ。

 

「とあるモンスターを追っていてな。『魔王派』について聞いたのは、そう言う組織ならそいつの情報があるかもしれないと思ったからだ」

 

 その時、青年の胸にはどす黒い感情が渦巻いていた。

 口にするだけでも怒気がこぼれ出してしまう。

 現に瞳を鋭く細め、アイエフを睨んでしまっている。

 

「俺はそいつを殺すためだけに剣を磨いてきた。そいつは父と母を、そしてみーもまで俺から奪っていった。弱く何もできなかった俺は黙ってそれを見ていることしかできなかった」

 

「それって……」

 

「だから、強さを欲した。奴を――片目に傷を負ったドラゴンを殺すためだけに」

 

 青年の話を聞き、アイエフはようやく思い出す。

 いや、確信したと言っていい。

 アイエフは最初から青年の正体に気付いていたのだ。

 

(コイツ、やっぱりミモザのお兄さんだったんだ)

 

 改めて観察してみれば、青年の顔立ちはミモザに似ている。

 明るい若草色のミモザの髪とは違い、暗い緑色の髪を後ろで引っ張るようにまとめている。

 

「つまり、家族の仇を討つために強くなったってこと? だったら……」

 

「勘違いをするな。俺は仇討ちなどするつもりはない――俺の目的は復讐だ。そう、今度は俺がドラゴンから全てを奪ってやるだけだ」

 

 アイエフは青年の雰囲気にのまれてしまった。

 ミモザが生きていることを伝えたかったが、それも口にできない。

 目の前の青年から発せられる強い憎悪の気配を敏感に察知してしまったからだ。

 

「悪い、遅くな――んっ、どうした? 何だか暗くないか?」

 

「つまらない話をしただけだ。それよりも、剣を見せてくれ」

 

「分かった」

 

 アイエフとリュータが青年の発言に息をのんで何も言えなくなっていると、シアンが試作中の剣を持って帰って来た。

 空気を変えてくれたことに、2人は安堵の息をつく。

 そんな2人の様子に構うことなく、青年はシアンから受け取った剣を確認する。

 

「……なるほど」

 

 シアンが持ってきた剣は、ブレイブソードをモデルにして試作したものだった。

 青年は剣の腹に指を滑らせたり、柄の感触を確かめるために握りしめる。

 最後にひっくり返して両面を交互に観察すると、青年は口を開き始める。

 

「いい剣だな。見ていて覇気が伝わってくるような……そう、力強さを感じられる剣だ。試し斬りなどする必要もないだろう」

 

「そうか! だったら……」

 

「――悪いが、断わらせてもらおう。俺はこの剣を使うつもりはない」

 

 試作中の剣の出来を褒められ喜ぶのも束の間、青年はシアンに告げた。

 どうしてなのかと、この場にいる全員が疑問に抱いてしまう。

 

「……よかったら理由を聞かせてくれないか?」

 

 疑問を投げかけたのは当然制作者であるシアンだ。

 この剣を完成に近づけるために、シアンは多くの時間と資材を費やしてきた。

 持てる技術の全てを駆使したと言っても過言ではない。

 だからこそ、青年がどうして自分の剣を否定するようなことを言ったのかが知りたかった。

 

「言った通り、この剣の出来はいい。俺が今まで使ってきた剣が玩具だと言われてもおかしくはない程の出来だ。振るえば、容易く何でも斬り裂けるだろう――だが、自己主張が強すぎる。これではただの観賞用の剣と何も変わらない」

 

「……どう言うことだ?」

 

「剣に込められている思いが強すぎると言うことだ。これでは人が剣を使うのではなく、剣が人を使うようなものだ」

 

「なるほどな」

 

 青年の言葉に、シアンは理解を示した。

 シアン自身、この剣を“夢人の”剣と言う前提で造っていたのである。

 青年はそれを見抜いたのだろう。

 使い手が既にいる剣を他人が何も感じずに扱えるわけがないのだから。

 

「うーん、それじゃ2、3日待っててくれないか? その間家に泊ってていいからさ」

 

「いいのか? 俺は別にそこまでしてもらわなくても……」

 

「いいっていいって。わたしがお前さんに剣を造ってやりたいって思っているだけなんだから」

 

「……世話になる」

 

 遠慮しようとする青年を説き伏せ、シアンは快活に笑う。

 ひと言でいえば、シアンは青年が自分の剣を振るう姿を見てみたいのだ。

 職人の血が騒いだとも言えるだろう。

 必ず青年が満足する剣を造ってみせると密かに燃えていたのだ。

 

「その代わり、色々と意見を聞かせてくれよ。今まではファルコム――ちょっと出かけてる剣士の感想しか聞いてなかったからさ。何でも言ってくれよ……って、そう言えば名前をまだ聞いていなかったな」

 

「ディックだ。じゃあ、早速で悪いが、1つ頼みたいことがある」

 

「おっ、何だなんだ?」

 

 アイエフ達とは別口で資材を集めに行ってもらっているポニーテールの女の子を思い浮かべながら、シアンは青年――ディックからの要望に胸を躍らせる。

 どんな注文をされるのかが楽しみなのだ。

 

「今日の晩御飯はトンカツにしてくれないか? 習慣的なもので、フェンリルを斬り倒した日の晩御飯は必ずトンカツにして……」

 

『もうそれはいいから!?』

 

 空気を読まないディックの発言に、1人話について来れないシアンを置き去りにして今まで黙っていたアイエフとリュータが揃ってツッコミを入れた。

 そして、アイエフとリュータは確信する。

 ディックはシスコンで母親似で――絶対に天然だと。




と言う訳で、今回はここまで!
前振りはここまでで、次回からは本格的にルウィーに入っていきますよ。
……2人ほど口調を確認しないといけない人がいますが。
それでは、 次回 「その女神、依頼する」 をお楽しみに!
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