超次次元ゲイムネプテューヌ Re;夢のヒーローを目指して   作:ホタチ丸

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はい、皆さんこんばんわ!
今回でようやく誤解の部分が明らかに。
ちなみに、今回からとあるタグを追加しました。
必要になるのは今話だけかもしれないですけどね。
それでは、 ニートと女神の事情 はじまります


ニートと女神の事情

「入るよ、ネプギ……ア?」

 

 ノックもせずに入室したナナハであったが、部屋の様子を見て目をパチクリとさせてしまう。

 机や可愛らしいクッション、犯罪組織との戦いが終わった後に全員で撮った写真など、ナナハも知っている通りのネプギアの部屋であったのだが、1か所だけ違和感を発している場所があったのである。

 

 最初に教会に入った時にネプテューヌとイストワ―ルからネプギアは自室にいると聞いていた。

 何でも普段は一緒に食べている朝食も、今日は1人で食べたらしい。

 そのことを心配したイストワ―ルからも、ネプギアの様子を見てきて欲しいと、先に歩いていってしまったナナハを除いたコンパとリンダは頼まれていたのである。

 ……因みに、ネプテューヌもナナハ達について来ようとしたのであるが、イストワ―ルに引っ張られて女神の仕事に向かっているのであった。

 朝食の入っていたであろう食器が机の上にあることから、ネプギアがこの部屋の中に居ることは明らかである。

 仮に部屋から外に出ていたのなら、生真面目なネプギアは必ず食器を食堂に戻すであろう。

 

 しかし、そんな性格や行動から分析することなく、ナナハにはネプギアが部屋の中に居ることがひと目でわかっていた。

 何故なら机の上ではなく、ベッドの上こそがナナハが感じた違和感の正体だったのだから。

 

(何やってるんだろう?)

 

 部屋に入る前の気勢を完全に挫かれてしまったナナハは、ベッドの上にいるであろうネプギアの行動を疑問に思う。

 これがもし、普通に寝ているだけなら何の疑問も挟まなかっただろう。

 仰向け、うつ伏せ、横向きなど、個人によって寝やすい姿勢があるのだから。

 だが、ベッドの上にいると思われるネプギアの様子は明らかにおかしかった。

 

 ……まるで体を小さく丸めた上に、すっぽりと毛布を被さっている状態なのだから。

 

 そのためナナハから見たら、ベッドの上が変にこんもりした何かが存在しているようにしか見えない。

 ナナハはもう1度部屋を見渡すのだが、ネプギアの姿を見つけられない。

 つまり、必然的にベッドの上に丸まっているのはネプギアと言うことになる。

 だが、ナナハにはネプギアが何故体を隠すように毛布に包まっているのかがわからない。

 

 固まっていたナナハであったが、このままではいつまで経っても夢人と何があったのかを聞くことができないと思い、意を決してネプギアが隠れているであろうベッドへと近づいていく。

 ベッドの傍に立つと、ナナハは無言のままゆっくりとベッドの上に鎮座している毛布の塊を見下ろす。

 よく観察してみると、その塊は小刻みに震えていた。

 明らかに誰かが……この場合ネプギアしかないのだが、隠れているのは明らかである。

 初め、ナナハは毛布を引っぺがしてネプギアを引きずりだそうと思っていたのだが、目の前で怖がっているように震えている塊にいざやろうとすると気後れしてしまう。

 だから、ナナハはまず控えめに塊を突いてみることにした。

 ツンツンと、ナナハの指が触れると塊はビクッと大きく跳ね上がる。

 それに驚いて若干体を仰け反らせたナナハであったが、諦めずにコンタクトを取ろうと今度は声をかける。

 

「ネプギア、だよね? ナナハだけど……何してるの、それ?」

 

 ナナハはできるだけ明るい声で呼びかけたのだが、何の反応も返ってこない。

 それどころか、中にいるネプギアが内側から毛布を引き寄せたらしく、1段と小さく丸くなってしまう。

 

「じゃあ、そのままでいいから聞きたいことがあるんだけど、夢人といったい何が……」

 

「っ!?」

 

 顔を出すつもりがないことを察したナナハはそのままの状態でも夢人と何があったのかを聞きだそうとしたのだが、最後まで言葉を続けることができなかった。

 夢人の名前を口に出した途端、毛布の塊がナナハから逃げるようにベッドの上を移動したのである。

 その動作を見て、ナナハは確実にネプギアが何か夢人に対して負い目を感じているのだとわかった。

 以前、ユニと決闘をした後に家出した時とそっくりな反応をしたネプギアをナナハは知っている。

 あの時のネプギアは夢人の話題が出ると、ビクついて怖がりだし泣きだしてしまった。

 だからこそ、ナナハには毛布で隠れていてもネプギアが泣いているように見えてしまう。

 同時にネプギアをこのまま放置していても何の解決にもならないとわかるからこそ、ナナハは強硬手段に出る。

 

「えいっ!」

 

「っ、うぐぷっ!?」

 

 ベッドの中央から移動したことをこれ幸いと見て、ナナハはネプギアを思いっきり押しだしたのである。

 丸まっていた体は面白いように転がり落ち、ネプギアは背中から床へと落下してしまう。

 その際、包まっていた毛布がネプギアの顔を覆っていたため、くぐもった声を上げながら打ちつけた背中の痛みに悶えることしかできなかった。

 ゆったりとした歩調でベッドを回り込んだナナハは、ネプギアの顔を覆っていた毛布をそっとめくる。

 

 ネプギアの表情はナナハの予想通り、涙でぐしゃぐしゃになっていたのである。

 

「ナナハちゃん……私……私……っ」

 

「大丈夫、大丈夫だよ。私はネプギアの味方だから」

 

「っ……うん」

 

 泣き顔を見られたくないらしく、ネプギアは両手で顔を覆い隠そうとするのだが、ナナハはその腕の間に自分の手を割り込ませる。

 そのままネプギアが流している涙を指ですくいながら、ナナハは安心させるように笑みを浮かべる。

 目元に触れられた時に怯えた表情を見せたネプギアだったが、続けられたナナハの言葉を聞くと身を任せるように目を閉じた。

 

「聞かせてくれるかな? 夢人といったい何があったの?」

 

「うん、実は……」

 

 優しく問いかけてくるナナハに、ネプギアは夢人に告白された時のことを思い出しながら語るのであった。

 

 

*     *     *

 

 

「だから、俺と恋人に……これからもずっと一緒にいて欲しい」

 

 あの日の夜、バーチャフォレストの奥地で突然聞かされた告白に、私は頭の中が真っ白になってしまった。

 

 ……俺、ネプギアのことが好きなんだ。

 その言葉だけが、何度も頭の中で繰り返されていく。

 夢人さんの気持ちはパープルディスクで覗いた記憶の中で知っていたはずなのに、こうして直接伝えられると何をしたらいいのかわからなくなってしまった。

 

 私も……私も、夢人さんことが大好きです。

 初めてゲイムギョウ界で出会ったあなたは、私にとって女神が守るべき人間の1人としか思えませんでした。

 伝説のシェアクリスタル……女神の卵によって召喚された勇者さまだとしても、剣も魔法も使えないあなたが私を守ろうとしてくれる姿を見るのがとても辛かったです。

 私は女神なのに、お姉ちゃんの妹なのに……夢人さんやアイエフさん、コンパさんの後ろで何もできなかった。

 ううん、しようとしなかったんだ。

 それなのに、その日の夜に私は醜い言い訳を夢人さんにぶつけてしまった。

 お姉ちゃん達を残して1人助かってしまった後悔、夢人さんを勝手にゲイムギョウ界に召喚してしまった罪悪感、そして何より女神として戦う力を失ってしまった私自身への怒りを込めて。

 

 ゲイムギョウ界とは何の関係もなく、特別な力もない、ただ勇者と言う肩書があるだけの人間。

 それなのにも関わらず、夢人さんは私を助けるために苦手なはずの犬に似たモンスターであるビッグスライヌに立ち向かった。

 正直、私はその姿に胸を高鳴らせてしまった。

 勇者と言う存在に期待を込めて、私は何もせずに甘えてしまいそうになっていた。

 その反動で出た言葉が、夢人さんへの暴言だった。

 助けてもらったのにお礼すら言わず、夢人さんのことを否定することばかり口にしていた。

 ……本当はお礼を言って、もう戦おうとしないでいいって伝えようと思っていたのに。

 私は夢人さんから……ううん、何もしようとせずにただ泣くことしかできない自分から逃げてしまったんだ。

 

 そんな私がまた戦えるようになったのは、ここバーチャフォレストの奥地だった。

 あの時、リンダさんからプラネテューヌのゲイムキャラを守るための戦いで、私は力の差を見せつけられてしまい、早々に諦めてしまっていた。

 もう誰も女神に期待なんかしていないのなら、私も戦う必要なんて……

 今更私1人が立ちあがったところで何もできやしないと、弱気になって自分のことを否定することしかできなかった。

 ……でも、夢人さんが私の目を覚まさせてくれたんです。

 役立たずな私なんて消えてしまいたいと言った時、夢人さんに笑って額を指で弾かれました。

 私は夢人さんに酷いことしかしていなかったのに、ずっと感謝していたなんて言われ、ボロボロの状態で立ち上がってプラネテューヌのゲイムキャラを守るためにリンダさんに立ち向かっていきました。

 その姿と送られた言葉に、私はお姉ちゃんとの大切な思い出を、約束を思い出すことができたんです。

 女神の力は大切な人達を、大好きなゲイムギョウ界を守るための力。

 夢人さんはそれを私に気付かせてくれました。

 その時から、私の中で夢人さんは【勇者さま】じゃなくて【夢人さん】になっていました。

 伝説の通り女神と共にゲイムギョウ界を守る存在ではなく、私が傍にいて欲しいと願う人になったんです。

 夢人さんは私のことをプラネテューヌの女神候補生としてではなく、ただの女の子であるネプギアとして守ってくれる、そんな気がしたんです。

 いーすんさんやアイエフさん、コンパさんも私のことを少なからず女神として見ている。

 でも、女神と言う存在がいない別の世界から来た夢人さんは、私のことをただの“ネプギア”として見てくれる。

 お姉ちゃん以外で、初めてだった。

 女神と言う肩書越しではなく、素の私を見てくれると思える人と出会えたのは。

 だから、私は夢人さんをもう【勇者さま】と呼びたくなかった。

 もっと身近な人として……お姉ちゃんと同じくらい傍にいて欲しいと思える【夢人さん】に、私の中で変わっていたんです。

 

 ……その時の気持ちは、まだ恋じゃなかった。

 私は夢人さんにお姉ちゃんの代わりを求めていたんだと、アイエフさんに教えられました。

 事実として、私は夢人さんの努力も必死に勇者になろうとして1人で抱えていた不安や恐怖も知りませんでした。

 そのせいで、夢人さんともう2度と会えないかもしれなかった事態を巻き起こしてしまったんです。

 私から吸収したシェアエナジーが少なかったせいで、女神の卵が正常に機能しなかったおかげで夢人さんは死なずにすみましたけど、代わりに記憶をすべて失っていたんです。

 アカリちゃんのおかげで再会することができた夢人さんは、私のことをまったく覚えていませんでした。

 ……嫌でした。

 夢人さんが私のことを忘れているのに、平気な顔して笑っているのがとても辛かったです。

 せっかくまた会えたのに名前も呼べず、抱きしめてもくれなかった。

 夢人さんとの思い出が全て否定されているように感じられ、私は胸が抉られる思いをしました。

 

 でも、だからこそ私は夢人さんのことが好きだったんだと気付くことができたんです。

 もう2度と会えないと思っていた別離からの再会を経て、私は自分の心に特別な愛が芽生えていたことをようやく自覚できたんです。

 お姉ちゃんやユニちゃん達に向けるものとは違う特別な好き。

 1人の女の子として、1人の男性に向ける愛情。

 ずっと傍にいたくて、守ってもらいたいと甘えたくて、名前を呼ばれるだけで嬉しさが溢れてくる男の人。

 挙げればきりがなくなるほど、いつの間にか私は夢人さんからたくさんの思いを受け取っていました。

 楽しいことや悲しいことも全部、私の中で夢人さんとの愛しい思い出に変わっていました。

 見つけるのが遅れてしまい、何度も傷ついた心の花に紫色のライラックが咲き始めたんです。

 ……夢人さんへの愛の芽生え、私の初恋の始まりでした。

 

 その後、私と同じで夢人さんのことが好きなユニちゃんやナナハちゃんと衝突したりもしたけど、この恋心は消えることなく胸の中で息づいてます。

 不可抗力とは言え、夢人さんの記憶が記録されているパープルディスクを観た後は、日ごとに胸の高鳴りを隠せなくなってきていました。

 両思いだと気付いたあの日から、いつか夢人さんから直接私のことを好きだと言ってくれる日を夢見ていたんです。

 そして今、それが現実になっています。

 

 でも……いや、だからこそ私は夢人さんの顔をまともに見ることができずに俯いてしまった。

 夢人さんが何を言っているのかも耳に入らず、私はただ……

 

「ごめんなさーい!!」

 

 こう叫んで、夢人さんから離れることしかできなかった。

 脇目も振らずに全力で走ることしかできなかったんです。

 だって、だって……っ!

 

「こんな顔、絶対に見られたくないよ!?」

 

 頬の筋肉が働くことをやめてしまった締まりのないにやけた顔なんて、絶対に夢人さんに見られたくないよ!?

 好きだって言われた時から頬が緩み始め、必死に元の顔に戻そうとして頑張ったけど、一向に戻る気配がない。

 それどころか、時間が経つにつれて顔も熱くなってきて、嬉しくて涙も出てきた。

 真っ赤な顔で涙を流しながらにやついている顔に私はなってしまったのです。

 こんな変な顔を夢人さんに見られたくないと思っていた私には落ち着くための時間が必要だったんです。

 だから、私は夢人さんに“少し落ち着くための時間をください”という意味合いで【ごめんなさい】と謝って走り出したんです。

 頭の中が真っ白になって慌ててしまった私には、それだけしか言えなかったんです。

 途中早く表情筋が戻れと願いを込めて頬を叩きながら、頭を冷やすために全力でバーチャフォレストを駆け回りました。

 

 ……でも、それがいけなかったんです。

 幾分か頭の冷え、頬の筋肉もある程度コントロールできるようになった私が戻った時には、既に夢人さんの姿はどこにもありませんでした。

 その事実に先ほどまで感じていた熱い胸の鼓動は冷え切ってしまい、赤く染まっていた頬は青ざめてしまいました。

 必死に辺りを見渡しても、夢人さんの姿をどこにも見つけられない。

 もしかしなくても、私はとんでもないことをしてしまったんだと気付いた時には既に何もかも終わっていたんです。

 

 ……私、夢人さんの告白から逃げちゃいました。

 

 

*     *     *

 

 

「正座」

 

「え、私スカートなんだけど……」

 

「いいから正座。後、次に女のように話したら本気で撃つわよ」

 

「い、イエス、マム!?」

 

 リビートリゾートの一画、そこには4人の姿があった。

 1人は、怯えた表情で正座をするメイド服を着ている夢人。

 もう1人は、そんな夢人の前で腕を組みながら無表情で見下ろすユニ。

 残る2人であるブレイブとアヤは、夢人とユニの邪魔をしないように遠巻きに状況を観察していたのである。

 

「で、何でアンタはそんな恰好をしていたわけ?」

 

「え、あ、いや、こ、これには、深い理由が……」

 

「ふーん……で、その理由って何?」

 

 しどろもどろになって説明しようとする夢人に、ユニはさらなる威圧を込める。

 言い訳は許さないと、ユニから言外に示された夢人は息をのんでしまう。

 夢人は一瞬怯んでしまったが、すぐに表情を凛々しくさせてユニへと口を開く。

 

「この格好は、俺が就職をするために必要なんだ!」

 

「……はあ?」

 

 真面目な顔をして宣言された内容に、ユニは意味がわからないと目を大きく見開いてしまう。

 間抜けな感じで口をポカンと開けているユニに、説明するなら今だと判断した夢人は一気にまくし立てる。

 

「ユニも知ってる通り、俺はまだゲイムギョウ界で“御波夢人”として認められていない。未だ“御波夢人”と言えば、『それゆけ! ゆうしゃくん』の主人公、もしくは『勇者への道』に出場した“御波夢人(仮)”でしかないんだ。そのせいで俺はどこに行ってもまず書類で落とされ、アルバイトですら雇ってもらえない状況にいるんだよ」

 

「う、うん」

 

「だから、この現状を打破するために俺は男を捨てて、“御波ユメ子”としてゲイムギョウ界で生きていくしかないないんだよ!!」

 

「ううん? へ、それだけ?」

 

 ユニは思ったよりもシンプルな夢人の女装理由に首を傾げて目をパチクリとさせてしまう。

 

(要するに、いつまで経っても就職できないから自棄になったってことよね?)

 

 夢人の女装理由について、ユニはそう結論付けることにした。

 ユニだけでなく、夢人本人のことを知っている全員が何故就職できないのかを知っているからである。

 

 現在、ゲイムギョウ界で“御波夢人”と言えば、2人の人物が挙げられる。

 1人は、『それゆけ! ゆうしゃくん』の主人公である“勇者・御波夢人”。

 女神達が犯罪組織に囚われてしまった影響による、国民達の女神に対するシェアを低下させないために企画された番組におけるフィクションの人物である。

 そのため、元の夢人とは似ても似つかぬ存在として描かれている。

 この“勇者・御波夢人”がゲイムギョウ界に広まったせいで生まれたのが“御波夢人(仮)”である。

 ゲイムギョウ界の各所でフィクションの登場人物と同じ名前を名乗る変質者だと言う認識が一般的だ。

 元々、ゲイムギョウ界のあちこちで夢人が起こした事件が悪評として集まった影響で生まれた人物であり、噂の真偽を確かめるため『勇者への道』などと言う企画まで立ちあげられた。

 実際には“御波夢人”が実在する人物であることや、噂通りの変態でないことを証明するためのものであったのだが、第3試合後に天気が急変したため、最後まで行うことができなかった。

 そのせいもあり、“御波夢人(仮)”と言う存在も“勇者・御波夢人”と同じようにゲイムギョウ界で認知されてしまったのである。

 

「それだけだって!! 運よく面接にいけたとしても、毎回名前を名乗った途端に【それで、本当の名前は?】って聞き返される俺の気持ちがわかるのか!! どこに行っても偽名扱い、何度説明しても話は聞いてもらえないし、挙句の果てにはつまみ出されたこともあるんだぞ!! 俺が本物の“御波夢人”なのにっ!!」

 

「……だからって、そんな気色の悪い格好することないじゃないのよ」

 

 必死に血の涙を流す勢いで悔しさを訴える夢人に対して、ユニは頭が痛いとばかりに額を押さえて呆れていた。

 

 今現在、夢人本人の状況は“勇者・御波夢人”でも“御波夢人(仮)”でもない。

 とある理由により、夢人は『勇者への道』に出場した“御波夢人(仮)”であることすら証明することができないのだ。

 そのため今夢人本人の位置づけとしては、フィクションである“勇者・御波夢人”を名乗る“御波夢人(仮)”の真似をしようとしている人物なのである。

 

「もちろんそれだけじゃないさ!! これを読んでくれ!!」

 

「何よ、いったい……っ!?」

 

 納得しきれないユニに、夢人は1冊の本を手渡す。

 初めは眉をしかめていたユニであったが、目を通してくことで驚愕の表情を浮かべる。

 その内容とは……

 

 

*     *     *

 

 

 どこかの家のリビング、テーブルにテレビとくつろぐための空間の中でソファーの上だけが異様な雰囲気を発していた。

 

「ふふ、もう逃げられないよ」

 

「はあ、はあ……くっ、離しなさいよ」

 

 肩ぐらいの長さまで切りそろえられた金髪の少女が、黒髪の少女を組み敷いていたのである。

 金髪の少女は柔らかく笑みを浮かべながら黒髪の少女の手首をきつく押さえ、馬乗りになっている。

 対して、黒髪の少女は金髪の少女の拘束から抜け出そうと必死にもがくのだが、身を捩る程度しか動けない。

 普段は勝気な瞳が恐怖に震え、ツインテールにしていた髪の毛は片方のリボンが解けてしまっている。

 

「え、本当に離しちゃっていいの? ……本当にここで終わらせちゃってもいいの?」

 

「そ、それは……」

 

 恐怖を押し殺して睨むように見つめられた金髪の少女であったが、その余裕は崩れることがなかった。

 何もかも見透かしているようにほほ笑まれ、逆に黒髪の少女の方が気まずくなって視線をそらしてしまう。

 

「ふふ、本当は期待しているんだよね?」

 

「そ、そんなわけ……ひゃうっ!?」

 

 耳元でささやかれた言葉に反論しようとした黒髪の少女であったが、金髪の少女が起こした行動によって最後まで言い切ることができなかった。

 金髪の少女が黒髪の少女の耳の裏を舐めたのである。

 可愛らしく悲鳴を上げる黒髪の少女を見て、金髪の少女の笑みは深まるばかりだ。

 何度も同じやり取りをしていく中で、金髪の少女は黒髪の少女の弱いところを熟知しているのである。

 

「次はどこを舐めて欲しい? 逆の耳? それとも、この間気持ちよさそうにしていた脇の下なんてどうかな?」

 

「あっ、ぐっ……っ!?」

 

 金髪の少女の言葉に、黒髪の少女の頬は一気に羞恥に色に染まる。

 それは期待をしているのか、それとも辱めを受けている屈辱のせいなのか。

 せめてもの抵抗として、きつく目と唇を閉ざしている黒髪の少女の様子からはどちらが正しいのかは伺えない。

 

「へえー、何も言ってくれないんだ。だったら、私にも考えがあるよ……私は別に、あの子が帰ってくるまでここにいてもいいんだよ?」

 

「っ、駄目!? お願いだから、アイツが帰ってくる前には帰って!? アイツにだけは知られたくないの!?」

 

「ふふ、必死になっちゃって可愛いな」

 

 軽い調子で笑みを浮かべていた金髪の少女の目に冷たい光が宿り始める。

 瞳は笑っているのだが、金髪の少女の声には重い響きが感じられたため、黒髪の少女は慌て出した。

 このやり取りも既に何度も繰り返した恒例行事だ。

 しかし、毎回同じことを繰り返す黒髪の少女に金髪の少女は飽き飽きしていたのだ。

 だから、泣きそうになりながらも必死に頼み込んでくる黒髪の少女の頬を優しくなでながら、金髪の少女はいつもと違うことを口にする。

 

「でも、いつもそっちから私のことを呼んでくれるよね」

 

「だ、だって……」

 

「本当は毎回こうされることを望んでいるんでしょ。あの子がいるのに……ああ、違うか。あの子がいるから、私とこう言う関係でいたいんだよね。その方が興奮するから」

 

「う、うぅぅぅ……」

 

 金髪の少女の言葉に、黒髪の少女は何も答えようとしない。

 ただきつく目を閉じて黙ったままでいようとするのだが、羞恥によって真っ赤に染まった顔と漏れ出す声は堪えられていなかった。

 

「さあ、教えてよ。私に、どこを、舐めて欲しい?」

 

 随所を強調するように発しながら、金髪の少女は黒髪の少女へと尋ねる。

 やがて、黒髪の少女は薄目を開けてチラリと金髪の少女の顔を覗く。

 その顔が満面の笑みを浮かべていたため、黒髪の少女の瞳は潤みだしてしまう。

 

「………………おへそ、がいい」

 

 やがて観念したように、どこか期待する声色を含ませて黒髪の少女は金髪の少女へと答えていた。

 それを聞いた金髪の少女はにんまりと笑い、ゆっくりと小刻みに震えている黒髪の少女の露出しているおへそへと顔を近づけ、そして……

 

 

*     *     *

 

 

「なっ、なななななななな何なのよ、これ!?」

 

 本を読んでいたユニは顔を真っ赤に染めて吠えた。

 両端から引き裂かんばかりに強く本を握りしめて、ユニはキッと夢人を睨む。

 

「俺はこの本とレイヴィスの話を聞いて、とある1つの仮説を立てたんだ。女神は女の子同士でしか恋愛ができないんじゃないのか、と」

 

 ユニから睨まれていることも気にせず、夢人は真面目な顔で話だす。

 

 因みに、夢人がユニに渡した本はイワのコレクションの1つである。

 本誌では登場しないが、ネプギアとユニの性的な描写のない同人誌である。

 シリーズ物であり、主に女神候補生達が登場する作品としてそのギョウ界の中では有名である。

 作品の内容は、とある理由によってナナハと関係を持ってしまったユニがその日のことを忘れられず何度も求めてしまう所から始まる。

 ネプギアに秘密にしている罪悪感を感じながらも、ナナハからもたらされる感覚が捨てきれず、ユニは次第にその関係に溺れていく……と言うのが、この本のストーリである。

 性的な描写を含め、ネプギア達の裸すらも一切ない代わり、表情がリアルに表現されていることとトレンディドラマのような恋愛を主軸に置いたストーリーが人気の秘密になっている。

 また1冊ごとにメインとなるカップリングは異なるのだが、作者のこだわりによりシリーズ通して黒妹総受けとなっている。

 

「だから、俺が女になれば就職もできて、ネプギアともイチャイチャできるんだよ!! これぞまさに良いこと尽くめのWin-Winの関係に……」

 

「なるわけないでしょっ!! このアホッ!!」

 

「ブゴッ!?」

 

 鬼気迫るい恋で熱弁しようとする夢人を黙らせるため、ユニは腰の入った拳を振り抜く。

 その拳は見事に頬を打ちぬき、夢人は地面をゴロゴロと転がりながら再び仰向けに倒れてしまう。

 

「何が女神は女の子同士でしか恋愛できないよ!! アタシの好きな奴は普通に男よ!!」

 

「……えっ?」

 

「あっ……っ!?」

 

 夢人の立てた仮説を否定するために感情のまま叫んだことが災いした。

 頬をさすりながら上体を起こそうとして自分を見つめる夢人のきょとんとした視線を受け、ユニはようやく自分の失言に気付き顔を真っ赤に染め上げたのであった。




という訳で、今回は以上!
ようやく次回で第1章の本編はおしまいです。
そして、ようやく新しい舞台とあの子達を登場させられると思うと私も楽しみで仕方ありません!
それでは、 次回 「ゲーム・スタート」 をお楽しみに!
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