FE転生 レフカンディの侯子 作:レフカンディのエテ侯
アカネイア五大貴族の一つレフカンディ侯カルタスには自慢の孫がいる。
掌中の珠たる末の娘――その溺愛のほどは他家へ嫁に出さずに婿を取らせて実家に住まわせている事実から察して欲しい――が産んだ男子である。その時点で愛さずにはおられないのに、この孫ときたら眉目秀麗で頭脳明晰、音楽や詩文の方面でも光るものが見受けられる。なにより性状温和で少しく控えめな所があるが、そんなところもいじらしく思われるのだ。
この子はきっと王国の歴史に名前を刻む傑物になるに違いない。
そんなことを常々吹聴している。
聞かされる人間はたまったものじゃないだろう。なにせその未来の大偉人というのは、今年でようやく五歳になったばかりの幼児なのだから。
とんだ爺馬鹿である。
王家の次に尊い、五大貴族の当主が言う事を否定できる人間は多くない。侯爵がそう言うならば、侯子は神童、万能の天才なのだ。やることなすこと皆が褒め称える。
これは歪む。アカネイア貴族なんて人間のクズがデフォだが(偏見)、このまま育てばそんなクズの中でも飛びぬけた勘違いクズが産まれるところだった。
「仮に歪まず育ったとしても、ドルーア帝国に族滅されるんだけどね」
これが絶望の未来か。助けてマルス仮面さま!
くっそう。なんでよりにもよって王朝の命数が尽きた時期のアカネイア貴族なんかに生まれ変わってしまったんだ。それもお家騒動とかいうしょうもない理由で動けなかったレフカンディとかラング以下じゃん。
時にアカネイア歴595年。
ドルーアにて地竜メディウスが復活する二年前の事である。
三年が経過した。
つまりボクが前世の記憶を思い出してから三年経ったと言うことだが、今年ついにドルーア帝国が再興された。
どれほど原作知識なる物が全部自分の妄想であってくれれば良いのにと願ったことか。
記憶の中の年表通りになるならば、再来年、暗黒戦争が勃発する。そしてさらに二年後には――つまり598年現在から見て四年後の602年ということだが――アカネイア王国が滅亡する。
戦争の到来自体は薄々と誰もが察していたが、同時に誰もが甘い見通しで行動していた。
軍人たちは武功を得る好機と逸り、神官たちは化外の地の蛮族など神聖なる王軍の威光の前に鎧袖一触と勇ましいことを言っている。
貴族と豪商の間で目下評判となっているのは戦後切り取った土地でどう儲けるかという皮算用。百年前に一度負けたことをどう考えているのか問い質したくなるほどの楽観論が蔓延っている。
実際に矢面に立ち血を流すのは藩屏たるアリティアとグラの両騎士団だが、彼らが報いられることはないだろう。
そんなんだからグラの国王も裏切るんだ。
そんなこともないか。アリティア憎しで凝り固まったアレ、作中屈指の暗君だったっけ。
ともあれ、開戦からわずか二年で王国が滅びるとは誰も思っていなかった。
ボクも口にはしなかった。
臆病な子供が縁起でもないことを言っているだけだとしか思われなかっただろうし、詳しく語るならば、メニディ、ディール両侯の戦死やラングらの裏切りにまで踏み込まざるを得ない以上、彼らの不興を買うだけだろう。
なにより祖父からの信頼を失う恐れがある。お家騒動に揺れるレフカンディは何もできませんでした。言えるわけがない。
長年温めて来た計画を実行に移す前にそうなったらとても困る。
と言う訳で。
明くる599年。
九歳になったボクは、始まりの地、タリス王国を訪れていた。
今から更に追加で五年後のアカネイア歴604年。この島国タリスから英雄王マルスは兵を起こすことになる。
ボクの計画は単純だ。タリス王家とやがて亡命してくるマルス王子と親交を深め、彼が蜂起する際に資金や物資の援助をする。
つまりスポンサーだ。
顧みられることもない辺境ゆえに安全なタリス王国で(ガルダの海賊のことは考えないものとする)、暗黒戦争と英雄戦争の両戦役をやり過ごす。
完璧な計画だ。
タリスに居を移してから三年後。
アリティアから王族が亡命して来たという話を聞いたボクは、ついにこの時が来たのだなと感慨深く思いながら、タリス王宮に登城した。
物見高い廷臣や豪族たちの間を縫って、謁見の間まで歩を進める。
どうやら、ちょうど良い頃合いに間に合ったらしい。
玉座から立ち上がったタリス王モスティンが、友邦アリティアからはるばる落ち延びて来た貴人の手を取り、その身を襲った災難と長旅の労とを慰撫していた。
ここまでは良い。感動的な場面だ。
「噓でしょ」
目の前が真っ白になった。
問題なのは彼女が、そう彼女だ、明らかに女性である。彼女が王子ではなく王女だということだ。そして十四歳には見えない。もう三つか四つは上だろう。
悲報。マルス王子ではなく姉のエリス王女が落ち延びて来た。